元気な証拠

  朝日が昇る中を龍が飛んでいる。それも4頭。彼らは太陽とは反対の方角へ向かっている。その先には海しか見られない。彼らは海まで来ても速度を緩めることなく、海の上空を飛んでいく。目的地は海ではないようだ。ならばどこへ向かっているのか。海の向こうはまだまだ見えない。

  「うぅ…。」

  布団の中で小さな体が動く。目がうっすらと開いて瞳の色が見えた。桃色の柔らかな色。その目が顔ごと上に上がると、大きな体が隣で横になっていた。こっちの目はまだ開く気配はない。桃色の目が細められ、布団の中からこれまた小さな手が出てくる。ほっそりとしたその手は目の前の顔を撫でた。端正な顔立ちだが骨格がはっきりしている。女性のような顔だが、実際は男性なのだと言う証拠に喉に出っ張りが。頭から伸びる髪は白い。その白さは顔に触れている手の持ち主も同じだ。朝日の光を浴びてキラキラと輝いている2人の髪。と、片方の髪が動いた。顔を撫でられてくすぐったかったのか、大きな体が少し動いて、再び寝息をたてる。桃色の目が愛しいものを見るようにきらめいている。

  「…ぅ、」

  小さな呻き声と共に桃色の瞳が閉じられ、そのままぎゅっとなる。小さな手がお腹に回る。俯いた顔は何かに耐えているようだ。すると、小さな手の上に大きな手が重ねられた。俯いていた顔が上がる。

  「大丈夫か?」

  「ウィル…。」

  心配そうに覗き込む顔は整っている。何よりも注意を引くのが目。金色の美しい目だ。その目は愛する番の姿しか映さない。

  番の存在がいるのは龍である証拠。ウィルはウテナが住んでいた人間界で崇拝される龍神そのものだ。龍の人質として強制的に龍の世界へ送られたウテナはそこでウィルに愛された。

  「随分活発に動く腹の子だな。」

  ウィルはそう言いながらウテナの背中を優しくさする。ウテナは苦笑いした。

  「元気なのがわかって、いいんじゃない、かな…っ」

  ウテナのお腹は痩せ細った体とは反対に大きく膨らんでいる。この中に、ウィルとの子供がいるのだ。

  妊娠した当初は、人間と龍という種族の違う2人の間の子どもへの不安があったウテナだったが、ウィル自身が先代の龍神と番の人間から生まれてきたと知って安堵したのが半年以上前のこと。番への執着や過保護が強いと言われる龍は妊娠した妻を壊れもののように丁寧に、丁寧に触れる日々だ。

  ウテナの腹の中でポコポコと蹴り続ける子どもは少々ウィルを悩ませるものであった。元気であることがわかる証拠としては嬉しいのだが、ウテナがこの痛みで苦しんでいるとなると悩みものなのだ。元気なのは嬉しいのだが。

  「あまり母上を困らせてくれるな。何かあるならば早く出てきて父上を蹴れば良い。」

  ウィルはウテナの腹に顔を寄せてそう話しかけた。すると、声が聞こえたのか、はたとお腹の動きが止まった。

  「え…?ウィル、お話ができるの?」

  「いや、そのはずはないと思うが…。」

  しばらく2人で見つめ合う。が、同時に吹き出した。

  朝食を済ませた2人はゆっくりしていた。ウィルの膝の上にウテナが座って休んでいるだけの、いつもと変わらない状態だ。窓は大きく開けられ、外には色とりどりの花が風に吹かれている。

  心地よい空気にウトウトしていたウテナは、ウィルが顔を上げたことに気づいて彼の顔を見た。外の一点を見ている。

  「ウィル…?」

  「ウテナ、嫌だと思ったらすぐに言え。」

  なおも空を見たままウィルが言った。何が嫌なのか、と考えながらウテナは同じように空を見た。と、遠くから黒いものがこちらに飛んでくる。

  「ウィル…?」

  今度は少し震えた声。ウテナの片手は自分の腹に、もう片方の手はウィルの服を掴む。

  「大丈夫だ、ウテナ。しかし、いささか騒がしくなりそうだ。」

  ウィルがそう言ったのと同時に、屋敷のすぐ近くまで来ていた影は4つになっていた。その4つがぐにゃりと変形して気づけば人の形になって綺麗に降り立った。ウテナはあっと呟く。4人はウィルたちの前に片膝をついて頭を下げた。

  「我らが龍神様、番様にご挨拶申し上げます。」