先代龍神の出会い

  

  これは、ウィルとウテナが会うずっと前。

  ウィルも産まれていなかった話である。

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  「おはようございます、龍神様。」

  扉が開いた先には1人の男が頭を垂れている。男はそう言って頭を上げ、扉の奥にいる主を見た。

  「本日はどちらへ飛翔なさいますか?」

  男の主は毎朝起きると窓から飛んでいく。毎日違う場所へ行ってはその地域をぐるりと回ってから部屋へと戻ってくるのだ。

  「…。」

  いつもはどこへ行くのかすぐに決めてさっさと飛び立っていく主が静かなのを訝しんだ男は声をかけた。

  「龍神様?」

  「…た。」

  「は?」

  「妻が来た…!」

  高くもなく、低くもない声を出した主はすぐさま起き出して部屋を飛び出し、そのまま駆け出した。

  「な、妻ですと?!」

  飛び出して行った主に男が声をかけても返事はない。しかし、妻、と聞いた男は声を張り上げた。

  「皆の者!龍神様の奥方が参られた!直ちに用意をせよ!」

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  龍神は自分の住まいの橋を渡って離れへと飛び込んだ。離れと言っても、そこには大きな部屋が1つあるだけ。

  全体がガラス張りで覆われ、中には色とりどりの花が咲いている。その中央のひらけた場所に、1人の少女。

  少女は白い髪を長く伸ばしていた。あどけなさがいっぱいに溢れいて、触れてしまうと消えてしまいそうな儚さが窺える。

  龍神はそぅと少女の顔を覗いた。彼女の目は開いていない。どんな色の目を持っているのか早く知りたかった。龍神の心臓は大きな音を出してその時を待っている。

  ふと、少女の瞼が動いて、それからゆっくりと目を開けた。そして顔を覗き込む龍神と目が合う。

  この時の龍神は言葉にできない喜びを噛み締めていた。少女の目が、その桃色の目が自分を見ている。驚いてその目はまんまるに開かれ、そのまま固まっている。

  しばらくの沈黙の後、少女はハッとしたように上体を起こして龍神に向かって頭を上げた。

  「お初にお目にかかります。私は人間界の者。龍神様のもとへ嫁ぎに参った者にございます。」

  その声のなんと可愛らしいことか。龍神は声が出せなくなってしまった。少女の声の余韻にいつまでも浸っていたかった。

  「あの、貴方様は…?」

  少女が不安になってこちらを見ている。その姿さえ愛しく感じてしまう。龍神は感動しながら答えた。

  「我こそが龍神である。人間界の娘よ、よくぞ参った。」

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  「奥方様、ようこそいらっしゃいました!!」

  龍神は答えるとさっそく少女を抱き上げて離れから住まいへと移動した。少女は自分で歩くと言ったが、龍神が聞く耳を持たずに歩き続けるので抵抗を諦めてしまった。そのまま大きな広間にやってくると、家臣一同が盛大に迎えたのだ。龍神は言葉を受けてからまっすぐ入って奥に座った。少女を抱えたまま。

  「あの、龍神様…。」

  「よい。ここにいてくれ。」

  少女は降りようとするが、龍神がそうはさせない。そのやりとりを見ていた男は微笑んだ。

  「この度、龍神様の番様をお迎えできたこと、我ら一同、お祝い申し上げます。」

  一斉に頭を下げられてしまった少女は驚く。その様子に龍神は声をかけた。

  「我の妻としてきたのなら、それは番と呼ばれる立場である。其方は今から番と呼ばれるのだ。我の愛しい番。待っていたぞ。」

  少女はさらに驚いて目を見開く。が、その目から涙が溢れた。一同は慌て始める。

  「どうした、何が悲しいのだ?」

  「番様が泣いてしまわれたぞ!」

  「料理を下げろ!見た目がいけないのかもしれん!」

  「いや、我々が見ているのではないか?」

  「それなら我々は席を立とう!」

  言うが早いか、彼らは料理を持ちながら全員出て行く。残されたのは少女と龍神だった。

  「番よ、どうか泣かないでくれ。其方が泣いてしまったら、我はどうしたらいいのかわからぬ。我の心が張り裂けそうだ。嫌なものは全て我が払ってやろう。其方の目に二度と見せぬように。番よ、どうか泣き止んでくれ。」

  背中をさする龍神の行動に落ち着いてきたのだろうか。少女はだんだんと泣き止んだ。まだしゃくり上げているが、少女は話し始める。

  「何も、っ、何も嫌では、ありません…っ。今まで、こんなふうに歓迎、されたことがなくてっ。あまりの嬉しさに、私…っ。」

  「歓迎されたことがない、だと…?」

  龍神は眉をひそめた。

  「我のもとに嫁ぐと言うことは歓迎されるべきものだ。其方は人間界で歓迎されなかったと言うのか?」

  少女はハッとするが、悲しい顔をしたまま何も言わなくなってしまった。龍神は深く聞きたかったが、番にこれ以上悲しんでほしくなかったので、話を変えた。

  「まぁ、よい。こちらでこれでもかというくらい歓迎しよう。我が番よ、本当によくきてくれた。」

  少女はこの時、ほっとしたように笑顔を見せた。これが、龍神が初めて見た彼女の笑顔だった。