記憶と夢が混同する。
誰の記憶か、自分のものか、他人のものか、大きく白い門の前に人影があった。
ひどく朧ろげで今にも消えてしまいそうな泡のような存在が、霞のような声で言った。
「 きみはひとをあいせない ぼくとおなじように ぼくのまえのひとのように きみのあともきっと 」
呪いのような言葉だった。
泡と霞と消えゆく影は薄ら笑っているようにも見えた。
ソレは時折悪夢のように予言者のように現れる。
どこか懐かしい声と共に 顔を出したのは残りのふた首だった。
「 お前が体を持っていった 俺たちは死ぬしかない 天地の目をくれてやる その口で仕事を成せ 」
それは啓示だった。
そこから、人であり人でない生活が始まった。
10代の終わり、警察学校を卒業し、勤務地が決まった夜のことだった。
ずっと忘れていた
自分というものの成り立ちと真実を
思い出した
誰かを泣かせることで 酷い男だと気が付くことで
『 お前は俺たちの体を持っていった 』
夢枕に立つのは 宙に浮いたふたつの犬の頭だった
『 お前は人を欺く口だけを持ってここにいる 』
夢枕だと思っていた場所はいつのまにか白く大きな門の前だった
『 天へ逝く者だけを選ぶ我の目を左に 』
『 地へ逝く者だけを選ぶ我の目を右に 』
『 お前は天地の目を使い その口で仕事を成せ それが唯一お前の役目だ 』
各々の片目をくり抜いて それらは 移植を施した
俺の体には人ではないものが備わっている
「 そうだな、ひとつ頭のケルベロスは、そうやって継がれてきた 」
良き人生も 悪しき人生も
「 自分の成り立ちはわかったかい? 」
黒銀の龍が啼く
「 アンタ 最初から知ってたろ 」
死者と同業者以外は立ち寄れないこの場所に
番犬が守る冥界の門前に 最初から居たひと
冥門の前で 神 に会う
限りなく白に近く 限りなく黒に近い
「 君が小さい時からね 」
「 ずっと見てたって? ストーカーか 」
*
「 やだな、俺はずっとずっと、君の先代の前からずーっと友達だったんだ 」
人の中に生まれ 人ではなくなってしまったもの
異種が好まれるようになったのも 広く受け入れられるようになったのも最近のこと
いないものとして扱われ 居たとわかれば迫害される そんなずっと昔から
「 なるほど? 」
「 で? ってカオしてるな。 君がなんであれ、今も昔もその人個人が大切な友人さ 」
「 ……呪印のように人に仕事を押し付けやがって 」
「 君の前も、その前も、ずっとそうだった。 次代があるならば…君は優しく説いてやるといい 」
あ、めんどくさいってカオしたなぁ。
顔に出やすいっていうか、仕事以外に気概を感じない。
「 真実を伝えるか、は…君の心持ち次第だね 」
「 伝えてなんになる 」
それはごもっともだけど、言葉も心も伝えなければ理解されることはない
身内であれば何でもわかりあえる甘えた世界からは抜け出さなければ
人も異種も 『 理解 』 なくして互いの信頼など築けないのだから
「 また、そういうこと言う 」
「 お前が知っていてくれるんだろう 」
「 うん 」
「 だったらそれでいい。 理解者は多くない方が後腐れもない 」
また余計なことを言う
別れが怖いから人は牽制をするんだ
人ではなくなったけれど やっぱり君はヒトそのものだね
「 さみしいこと言うなぁ。 でも、よしくんのそういうのは珍しいからよしとしようか 」
あっ ギャグじゃなくて、ほんとに
ちょっと 嬉しかったんだ
信頼されてるんだなぁって
ちょっ、やめて、白い目で見ないで !!
「 でもまあ、これからもよろしくね 」
「 ああ、バリっとコキつかうから 」
「 えっ、まってまって? 俺、一応、 カミサマ!! 」
「 はいはい、じゃあ明日から俺しばらく夜いないから選別任せた 」
「 っえー? 」
と、天地の目も小賢しい口も持っていない 龍の神に無茶ぶりして今日も夜が明けていく。
とりあえず、冥界、三途の川行き門前のお仕事は朝になる少し前に閉店がらがらーん。