放課後

  晴天の冬空、放課後俺はいつも通り、屋上の段差に適当に座ってボーッと空を見上げている。こういう日は誰とも話したくない日だ。大小様々な雲が西から東へとゆっくり動いて行くの見て、冷たい風に鼻が擦られるのを感じては物思いにふけっている。こんな冬空の下考え事をするのは些か無謀な気がするが、俺にも一応ゴワゴワとした毛皮が生えている。寒くないのかと言えば嘘になるがそれなりの防寒にはなっているからこの時期になると獣の体というのは本当に便利なものであるなと改めて関心する。夏のことなんざは考えたくないが。

  ただ時間が無駄に過ぎて行くこの時間が俺は好きだ。何者にも縛られていない開放感がここにはある。普段屋上を使う者もいないたため此処は俺の独壇場とも言っても過言ではない。

  ダッ……ダッ……!ダッ……!!

  ……俺が此処にいることをアイツに知られていなければ。

  「はい、みっけー。僕知ってたかんね?いつもここにしかいないから見つけ出しやすくてマジでたすかる……わっ、寒っ」

  静寂の間に一匹、害虫が勢いよく扉を開く。バンッとその場に合わないつんざく音が空間を揺らし、包帯を巻いた俺の耳の奥で轟く。

  白藤望(しらふじのぞみ)。別に幼馴染でもなんでもない。この高校に入って初めて仲良くなった……と思いたくないがなんだかんだで付き合いは悪くないと思っている白い狼だ。が、付き纏いが激しいためクソウザい。だから可もなく不可もなくといったやつだ。

  というか、マジで最悪だ。リラックスしてる時になんでアイツは来るんだと、さっきまで空を見上げていた顔を無意識に下げて頭を抱える。

  「……いや、ここにいる時は来んなって言ってんだろうが。勝手に俺のナワバリにズカズカと入って来んじゃねぇよボケカス」

  「うわー、人がせっかく来ておいて歓迎もなしな上暴言とかサイテー。てか屋上だって一応みんなが使うとこだし。勝手に自分のナワバリって言い張る方もおかしいと思うんだけど?ウケるっ……」

  白い狼は眉を八の字にして腹を抱えて笑う。ふいに図星を突かれてこちらも言い返せなくなる。確かに俺がいつも来る時はたまたま誰もいないだけで他にも人がいる時はあるだろう。

  「てか今日は一緒帰ろーぜってホームルーム前に言ったのにシオン全然来なかったからさ。下駄箱で待ってても来なかったからふざけんな!って思いながら此処に来たら案の定、居んだもん。」

  「は?聞いてないが?」

  「言いました。バカですか。ニワトリですか。3歩歩けば忘れるんですか。返事もしたやんけ。忘れたとは言わせないが?」

  なんだ最初のその謎に語呂の良い罵倒は。というかいつもコイツのこと適当にあしらっているせいでそんなこと言っていたことも返事を返していたことさえも忘れていた。いや、知らなかった。適当にしすぎて俺も俺で無意識に許可を下していたんだろう。……いやそこは適当にするなよ俺。

  「包帯、強く耳に巻きすぎて聞こえてないんじゃないですか?僕が解いてあげようか」

  狼特有のフサフサの尻尾をゆらゆらと揺らしながらノゾミは俺の正面まで立ち、ピンク色の肉球が見える手を俺の耳へと近づけてくる。

  「……やめろ。包帯解くのはマジで。解いたら最後、お前にかなりキツめの灸を据えるハメになるぞ」

  手が耳に届く前にノゾミの腕を掴み静止させ、鋭い視線で睨みつける。

  耳は、駄目だ。俺の耳はボロボロだ。千切れてはないが痛々しい状態に変わりはない。あまり人に見せるものでもないし出来れば誰にも見せたくはない。ちょっとしたトラウマもあるせいで包帯は出来れば解きたくないのだ。

  「ちょちょっ……、こわぁ!?いや分かってるって!!そんなガチにならんでよ!!最近ちょっと扱いが雑すぎるからほんのちょっとだけ調子乗っただけじゃんか。そう怒らんでよ〜」

  一歩下がり股の下に尻尾を挟めプルプルとノゾミは震える。俺も冗談だと分かっていながらも少し本気になりすぎたかもしれない。

  「……すまん、ちょっとやりすぎたな」

  俺は段差から立ち上がり次は俺がノゾミの゙正面に立って頭を撫でる。怖がらせてしまったささやかな埋め合わせ、みたいなものだ。

  手の平に感じるサラサラな毛の感触がなんとも心地良い。俺の毛とは全く違う。毛の下から優しく逆立てる度にコイツの高めの体温が俺の肉球越しにも伝わってくる。

  俺がノゾミの頭を撫で続けているとふいに顔を俺の胸にぽふっと押し付ける。

  「……オイ。……なんか、クソ恥ずい」

  顔は押し付けられてて見えないが多分、照れてる。いや照れ隠しにもなっていないだろこの状況。

  コイツが来る前の静寂とした空気が巡る。一番最初に静寂を破ったのはコイツの方からだった。

  「てかアレだよ!僕はシオンを呼ぶ為に来たんだから一緒に早く出よう、約束したし。ほら早く荷物持って、ほら!」

  ぴょんぴょんと後ろに何歩か下がってキンキンと上ずった高い声を屋上内に響き渡らせる。荷物を持つように急かされて仕方なく持てば左手を掴まれて一気に階下まで駆け下りていく。あっという間に玄関についたものの手を掴みながら駆け下りた訳だから何度転びそうになったか。やっぱりコイツにはいつも振り回されっぱなしだ。

  「因みに今日呼んだのはねぇ、パン屋さんが新作のパン出してるらしいから気になってて売り切れる前に行きたかったんだ。だから早く行こ行こ」

  大きな溜息を漏らし「了解」と気怠げに返事を返し俺らは新作のパンを買って帰路へと着いた。