白銀の過去 第一話

  荒野の世界のある日。

  テオはいつも軽装に武器を携えて歩く姿とは違う純白のドレスに名前も知らない花を持つヘルガの姿を見かけた。いつもと違う彼女の姿を見て不審に思い、彼女に話しかけようと駆け寄ろうとすると陰から白い大きな手に進行を阻まれた。驚いて声を出そうとするテオの口を塞ぎ込み裏路地に姿を隠させた。嗅ぎなれた匂いと共に「シッー!」と一本指を突き立てる姿があった。匂いの正体はシロだった。

  「何するんですか!シロさん!」

  「うるせぇ!バレるだろ!」

  「なんでですか!別に不都合はないでしょう!」

  2人は声を抑えながら言い争う。

  「あんな余所行きな格好したヘルガなんて見た事ねぇ。ありゃ男でもできたんだよ。それを聞くのは野暮ってもんだろ。」

  「そんなことないですよ。別に他の人の匂いとか前々からあんまりしなかったですし。」

  「見失っちまう。尾行するぞ!」

  制止を振り切り、できる限りコソコソと彼女を尾行していくシロについて行くテオだが、尾行しているうちに里外れの山道に歩みを進めていた。頂上に近づくにつれ夏であるのに涼しげな風が頬を伝う。そんなことを考えてるうちに彼女は1本の木とその周りに広がる花畑に進んで行った。木の前に立ち止まったヘルガはふっとため息をつき

  「シロ、テオ。全く...下手な尾行だねぇ。」

  そう言って2人が隠れる木に視線を向けた。

  「クッソ!なんでバレんだよ。」

  悔しそうに木の影から顔を出しふてぶてとヘルガに吐き捨てた。

  「バレバレだよ。町からずっーとね」

  「チッ...ほんとに最初からじゃねぇか」

  「やぁテオ。気になるかい?この格好。」

  そう言うとヘルガは持っていた一輪の花を木のそばに置く。

  「ここはなんなんですか?」

  「お墓だよ」

  「えぇ!!」

  驚いた様子のテオを見てヘルガはクスリと笑いそれと同時に頭に?を浮かべるテオ。

  「誰のお墓なんですか?それとも聞いちゃいけないですかね...」

  「お気遣いありがとう。でも大丈夫だよ。ここは私の愛する人のお墓なのよ。」

  「愛する人ぉ?ヘルガにか?」

  シロも同様に驚いた様子でヘルガに尋ねる。

  「私も1人の雌さ。色恋の1つあるものだよ。」

  少し寂しげな表情でヘルガはそう呟いた。

  「来ていたのだな。」

  来ていた道から太く低い声が聞こえた。

  声のする方には花束を持つロルフとアルベルトの姿があった。

  「ロルフさんにアルベルトさん!どうしてここに?」

  「こっちのセリフだ。テオ、シロ。イヴとは何も関わりはないだろう。」

  「...イブ?」

  初めて聞く名にさらに?が頭に浮かぶ。

  「辛気臭いこと言うんじゃないよロルフ。私が連れてきたんだよ。」

  「...そうか。」

  そう言ってロルフは木の麓に花束を置いた。

  「イブって誰なんですか?アルベルトさん。」

  「ヘルガから聞いてないのか?イヴはロルフの兄でヘルガの婚約相手で私の戦友だよ」

  「兄がいたのか?ロルフ。言ってなかったよな。」

  「言ってないからな。随分前の話だ。」

  「全くよぉ。女といい兄といいお前はなぁ。」

  「知ったことか。白虎」

  言い争う2人の声を遮るようにまた新たな声が聞こえた。

  声の主はネヴィアとマグノスだった。

  「今日は少し賑やかですね。」

  そう言いながらまた1輪木の麓に花が添えられる。

  「随分と大所帯だな。」

  「なんでマグノスまで?」

  テオは同じ獅子族である‎マグノスがなぜ狼族の墓に顔を出すのかと疑問に思い尋ねた。

  「昔、彼に世話になってな。今となってはただ開いた傷を治してもらっただけだがな。それでも恩は恩だ。つくづく運命とは凄いものだと感じるよ。この面々を見てるとな。」

  「昔話はこれくらいにして、せっかくだから一緒にご飯でも食べに行きましょう。イヴのことはそこで話してあげるさ。」

  そうヘルガは言い、一同お墓のお参りを済ませた後酒場に向かった。

  「何飲む?」

  「いつも飲んでるジュースでお願いします。」

  酒場の席に着いたのち、割と直ぐに先程のイヴの話へと話題が進んだ。

  「で結局イヴってのは誰でどうゆう奴だったんだ?写真とかねぇのか?」

  シロは単刀直入に切り込む。

  ヘルガは一息にグラスに注がれたワインを飲み干すとどこからともなく写真を取りだしテーブルに置いた。

  「真っ白なロルフさんだ...」

  「瓜二つとは行かねぇが兄弟と言うだけはあるな。あいつはこうは笑わないけど」

  その写真は白い毛並みのロルフによく似た狼の青年がこちらを向いて笑っていた。

  画面の隅にはこの写真を撮ったであろうヘルガの少し鋭い爪が写りこんでいた。

  「彼とは幼なじみでねその頃から一緒に遊んだり訓練したりしたもんだよ」

  彼女はそこから淡々と彼との過去のことを話し始めた。

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  ヘルガは父は王族の側近の騎士団、母は女流武道の師範代の間に生まれた。幼少の頃から厳しく育てられ、毎日が修行の連続で子供の本懐である外で違う子たちと遊んだり、他愛もない話をすることが出来なかった。

  齢14になった頃、稽古中に父の知り合いかつ友であるツァーン卿が1人の青年を連れてナーゼ家の道場に訪ねてきた。彼いわくその子は雄でありながら背丈があまり高くなく、それでいて筋肉の付き方が同世代の子に比べ劣っているとのこと。だが体の柔軟性は優れているようで女流武道の道場で彼の教鞭を執って欲しいらしい。

  代々ツァーン卿の一族は筋骨隆々、大剣ひとつを携え戦場に赴き敵地に突撃すると言ういかにも脳筋な考え方であった。

  だが跡取りにと産まれた長男はどうやら踊り子であったツァーン卿の妻によく似たようで柔肌にはそのような戦い方は向かないと彼は判断し、ナーゼ家に転がりこませた。頑固な印象を受けるような風体と戦術でありながら案外頭は柔軟なのだなと家族一同顔を見合せ考えたことを今でも覚えている。

  「よいのですか?大事な跡取りではなくて?」

  ヘルガの母は一応の確認としてツァーン卿に投げかける。

  「雄であり一族の子である以上、戦場に赴くことは確実。そうなった時戦果を挙げられない方が代々の教えに背くことよりよっぽど一族の顔に泥を塗る。それにもう1人息子がいる。ロルフの方は教えに対して応えてくれるようだ。だから彼に託す。」

  そう言ってその子を母に押付け、妻が辛そうだからと足早に家を後にした。

  「名前はなんて言うの?」

  ヘルガは内心歳、背丈、毛並みまで同じ彼に親近感と今まで出来なかった友としての期待で胸がいっぱいだった。

  「...イヴ」

  不安もあってか小さい声ではあったがイヌ科の聴覚では聞き逃すことはない。

  「よろしくね!」

  気さくに話しかけてくるヘルガに少し安心したのかイヴの顔の曇りが少し晴れた気がした。

  「教鞭を執ってくれと頼まれたからには明日からうちの訓練をしっかり叩き込むからね」

  そう言ってどうやら今日の稽古は突然の訪問者と任された子の対応に戸惑っているようで昼のうちに終えることとなった。

  その夜家族共々イヴに聞きたいことが多くあったようでいつもは静かな夕食が賑わっていた。

  父はツァーン家の訓練のこと。母は踊り子である彼の母のことを聞いていた。そういえば祖母も祖父も師範代だったり騎士だったりしたなと、きっと父も母も幼少の頃は娯楽とは無縁な日々を送っていたのだなと質問の内容は彼自身のことではなく彼の身の回りの事柄についてのものばかりだった。

  ヘルガも聞きたい事ばかりだったが、話す時間はこれからいっぱいあるととりあえず好きな食べ物や得意なこととかを聞いてその日の夕食は終わった。いつもより夕食は楽しかったし、心無しか少し豪勢だったような気もする。

  翌日、稽古はいつも通り朝早くから始まった。

  はっきりいって舐めていた。 母はきっと覚えが悪いからとかそういう理由でうちに押し付けたのだと、父は柔肌で筋肉の付きが悪いからと考えていたが、実態は筋骨隆々とは行かずとも雄の筋力に雌の柔軟性、踊り子の身のこなしとここまでに叩き込まれてきたであろうツァーン家の教えが身についており、蹴りは空を切り、その拳は父が稽古の為にと持っていた竹刀をへし折るというセンスの持ち主だった。

  とんだ玉石を押し付けられた父と母は彼を中心に稽古をつけるようになった。正直嫉妬した。稽古のレベルは上がったし、修行の一環で行っていた瓦割りの枚数も彼に合わせて増やされた。彼基準になった稽古についていこうと頑張ってはいたが無理が祟ったのか、稽古の途中で目の前が真っ暗になり床に倒れ込んでしまった。

  倒れる寸前、初めて母が焦っている表情を浮かべているのを見てほんの少しだけ安心した。

  「ヘルガ!ヘルガ!」

  暗闇の中で私の名前を母と父が呼んでいる。

  目が覚め、突然自分の目の前が真っ暗になったことといつの間にか違う天井の部屋にいることに驚き、飛び起きた。一番最初に目に入った人は自分が寝ていたベッドに座ったまま突っ伏しているイヴの姿だった。横をむくと母と父が飛び起きた自分に驚いたような心配そうな表情していた。その奥には医者であろう白衣を着た老いた狼がいた。

  「あまり無理はさせないようにね。」

  と父と母に医者は告げると部屋から出ていった。

  どうやら過労と脱水症状の併発だったようで命に別状は無いが少しの間、休養を摂るようにと言われたようだ。

  悔しかった。イヴが瓦を7枚8枚と叩き割るのを横目に私は6枚を割れるか割れないかと苦戦していた。

  厳しいながらも母は優しかったし雄と雌だからと力量不足には訳をつけて話してくれてはいた。だが同じ背丈で同じ歳なのに雌雄でこんなに優劣がつくものかとやりきれない思いを胸に熟睡しているイヴを見る。万歳の形で寝ている彼の手を見るとぐるぐる巻きに包帯が巻かれていた。

  彼は彼なりに努力していたのだ。父の教えには応えられなかったこと、母は女の子が産まれたら一緒に踊りをしたいと私に度々話しかけ着たくもないドレスを身にまとい踊りを教えられていたこと。踊り自体は嫌いではなかったが女の子が欲しかった彼女にあまり悲しい思いはさせまいと稽古の後家に帰ったあと踊りに付き合っていた。その後は寝る間も惜しんで森に籠り、自分で修行をしていた。そのおかげで手は豆だらけ、足の裏には踊りのステップと森の悪路を踏み抜いてきた証が刻まれていた。

  それをヘルガは父と母からツァーン卿から告げられたと聞いて同情の気持ちと自身の無能感に苛まれ、その夜は寝ることが出来なかった。

  夜も深くなり、月明かりが病室を照らし始めたころ今まで寝ていたイヴが目を覚ました。

  「起きたの。」

  「起きてた。ヘルガのお母さんが部屋から出てから」

  「ついさっきじゃない。」

  「わ。なにこれぐるぐる巻き。いてて」

  イヴは自分の手と足に巻かれた包帯を見て驚いていた。

  「え?なんで驚くの?訳わかんない」

  「実はヘルガが倒れたあと俺も緊張の糸が切れたのかすっごい脱力感に襲われて。気絶こそしなかったけど。二人してヘルガのお父さんに抱えられて病院に。その後は覚えてない。そこから寝てた。」

  「バカみたい。アハハ」

  抱えられて運ばれる自分と彼を想像して笑いがこぼれる。

  「ごめん。無理させてた。」

  「謝らないでよ。弱いみたいじゃん。」

  「...うん」

  「...」

  「ねぇ」

  「なに?」

  「抜け出さない?」

  「疲れた。遊びたいのに遊べないし。一日くらいサボってみたい。その後はこっぴどく怒られるかもしれないけど」

  その時イヴが手を両手でグッと握ってきた。

  「行こう」

  その夜、2人で窓から飛び出し少し街から離れた小川の流れる花畑で夜を明かした。

  木の下で今まで聞きたかったこと、聞いて欲しかった心の内など色んなことを話した。当然イヴからも聞いた。家にあった本の話、あんな強面のツァーン卿は実は甘党だったり小さい頃初めて目の前で母が踊っている時母が足を滑らせてステージから転げ落ちた話。どれを聞いても面白かった。ドレスを着せられて踊らされている話も聞いた。さっき聞いたけれど実は嫌いなドレスの中でもお気に入りはあるとのこと。小川に足を入れいつも踊っているダンスを見せてもらった。踊り子の子だけある。流麗で妖艶なダンスに見蕩れ、見よう見まねで踊って見せたが、ぎくしゃくした動きに思いっきり笑われたがお返しに水をぶっかけてやった。お互い笑い疲れて木の下で空を見上げて寝た。木の葉が遮って真上の星は見えなかったけれど眩しいくらいだった。

  朝になり朝露で濡れた草原の上で目を覚ます。水を掛け合い濡れたまま寝たからか少し寒気も感じたが寄り添って寝てくれた彼のおかげで寝ている間も少し暖かったのを覚えている。少し遅れて彼が起きてきた。

  「いてて。おはよう。」

  地面の上で寝たからか背中を伸ばしながら起き上がる。

  「おはよう。」

  「怒られるかな。」

  「今思ったけど、休養が必要って言ってたし稽古は当分やらないんじゃないかな。」

  「そっか。よかった」

  「病院戻る?」

  「まだ。」

  そう言ってまだ早朝で白む空を見上げるように仰向けで寝る。

  「またここに来ようね」

  「うん」

  そう言って彼の肩に頭を寄せる。いつの間にか私は彼の包帯でぐるぐる巻きの手を握っていた。少し濡れていて彼の顔を見ると恥ずかしいのか私の肉球が豆に当たって痛いのか少し顔を赤らめ耳は飛行機耳になっていた。

  そのまま二度寝をして目を覚ますと匂いを辿ってきたのか母が安堵の顔でこちらを見下ろしていた。

  「何してるの」

  「ごめんなさい」

  「水で遊んだのね。道理で少し匂いが分かりずらかったわ。」

  「こちらからも謝らないとね。無理させてたしヘルガ、貴女のことちゃんと見てなかったわ。」

  まだ寝ているイヴと繋がっている手を見て母は少し不機嫌になったようだが直ぐにほっとした表情になり

  「変なことしてないようね」

  といじったらしく言ってきた。

  「うるさいよ」とそっぽを向くが手を離す気にはなれなかった。

  ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

  「めっちゃロマンチックじゃん」

  そう言ってシロは頬杖の位置を直し呟いた。

  「でしょ?脚色はつけてないわよ」

  「もしかしてお気に入りのドレスって着てるこれですか?」

  そう言ってテオはヘルガが着ている白いドレスを指差す。

  「違うよ。これは自前さ。14の頃だもの、もう着れない。それに色は黒だったわ」

  「あれ兄のだったのか。母上のものかと」

  スっと話にロルフが入ってきた。

  「いや、お母さんのよ。お下がり。」

  「人の昔話も聞いてみるものだな。」

  そう言ってアルベルト、マグノス、ネヴィアが話に入ってきた。先程まで犬族と獅子族のこれからについて話し合っていたようだが話半分で聞いていたらしい。

  「そういやネヴィアはなんの縁なんだ?シレッと着いてきてはいたが。」

  「ダメでしょうか?」

  「そんなことは言ってねえだろ」

  「泥棒猫よ泥棒猫」

  ヘルガはシロに耳打ちする。

  「はぁ!?」

  「突然大きな声を出すんじゃないよ」

  「そんな言い方しないでくださいヘルガさん。誤解を招きます。」

  「浮気者ってことか?サイテーだな」

  「少しの間、2人で過ごしたことがあるだけです。それ以上は無いですし、浮気と考えるようなこともしてません。」

  「じゃあ不倫か?」

  シロはニヤつきながらヘルガをチラ見する。直後脇腹に鈍痛が走りシロはうずくまってしまった。

  「あーあー。ダメだこりゃ」

  アルベルトは笑いながらシロを介抱する。

  「ゆくゆく私とネヴィアで説明するわ。テオ。まだ聞きたい?」

  「はい!聞かせてください!」

  それを聞いたヘルガは微笑みながら今度はグラスにワインを注ぎ、テーブルに置いてある肴のチーズをつまみながら話し始めた。

  ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

  お互い17になった頃、成人である18に向け色々準備をしたいと母が息巻いていた。イヴはもはやナーゼ家の一員同然だった。一日の大半は道場で過ごし、あの一件があってからはナーゼ家に泊まり度々抜け出してあの花畑で夜を過ごし父にどやされたが若気の至りを強く叱れないようで程々にしろよと諭された。

  2人は競うように稽古をし、現役の騎士にすら負けず劣らずの実力を持つようになっていた。持つ武器も板につきヘルガは棒術をイヴは刀を持ち居合術を扱う。イヴに関してはもはや父を打ち負かす程の実力となり、父にナーゼ家とツァーン家の誇りになるなと期待をされていた。ヘルガも母に先代含め過去一番の仕上がりと私を称し、齢17にして師範代を賜る形となった。当然王族の騎士である父から騎士団の団長にも伝わるわけで18になったら精鋭として期待するとのこと。

  女性の騎士団入りは今までにもあったようだが未だ稀有な例なので尚更期待されているようだった。

  「聞いた?私たち騎士団入りだって」

  いつものように木の下で幹に腰掛け話す。

  「嬉しいような不安なような気持ちだな」

  「どうして?誇りよ誇り。」

  「精鋭隊っていわゆる遠征部隊だろ?俺たち別にされちゃう可能性あるじゃん。」

  「寂しいの?それにコンビで期待されてるのよ2人で何とかできるようになるし出来なくても交渉しよ?」

  そう言ってイヴの正面に座り両手を包み込むように握る。

  「...あぁ」

  恥ずかしそうな表情と肉球にじんわり湿気がこもる。

  「なぁ」

  「なに?」

  ヘルガが包み込むように握った手を解き逆に同じように握り返す。

  「18になったら結婚しよう。もし遠い場所に離れ離れになっても繋がっていれるように指輪も買おう。それから」

  「待って。」

  「え?」

  驚いた様子で私に目を合わせる。その瞬間私はイヴにキスをした。

  「...」

  呆気にとられたようなイヴの顔をしっかり見て言う。

  「しっかり目を見て言って」

  今まで握った手を見るように俯いていたイヴだったが今度はしっかりヘルガの目を見て口を開く。

  「結婚してください。」

  「喜んで」

  頬に涙が伝う。

  ヘルガはイヴに抱き着き、本当は自分も一抹の不安があったことを伝え2人で泣きながら夜を過ごした。

  18になり正式に騎士として迎えられ新兵の歓迎式の日となった。

  式の数週間前、イヴはツァーン家に帰り成人の支度をしに帰りヘルガ自身も騎士団から送られてきた新しい装備に誇らしさと嬉しさで胸がいっぱいになっていた。

  装備は白と銀を基調としたシンプルなデザインで機能美と王族騎士の名に恥じないような装飾があしらわれたもので背中のマントには氷の結晶を彷彿とさせる六花の紋章が小さく刻まれていた。だがヘルガは少し疑問を浮かべていた。

  「お父さんが着てる騎士団の服と違くない?デザインも紋章も。それにこんな紋章の部隊見たことないし」

  「言ってなかったかしら。新部隊が出来たのよ。精鋭から精鋭を選りすぐって結成された白銀隊だって。そこに配属されたのよ。」

  「イヴは?」

  「同じはずよ?」

  「良かった...」

  「さぁさっさと着て。行くわよ。」

  式の付き添いとして来ていた母が急かす。

  「えぇ」

  装備を整え、控え室に来るまでイヴの姿が見えないのを不安に感じながら晴れ舞台に出る。右手に新調した棍、左手に兜を持ち、待機令が出された場所に立つ。

  するとコツっと隣から刀の鞘で小突かれる。

  鞘当とは無礼なと少し不機嫌になりながら隣を見ると被った兜を持ち上げニッと笑うイヴがいた。

  「どうして顔出さないのよ。不安になったじゃない。」

  「こっちのセリフだよ。花畑で待ってたのに。」

  「え...ご、ごめん。」

  「でも良かった。同じ部隊で」

  そうね。と言おうとしたその瞬間後ろからシッー!と別の隊員からハンドサインを送られてしまった。

  ごめんとハンドサインを送り、とりあえず挨拶だけ済ませ式典が始まった。

  歓迎の言葉や王国の現状、王直々のお言葉と長々しい式典の最中、各々の配属された部隊の説明がされたのだが、説明の最後に私たちが属する新部隊【白銀隊】の説明に移った。

  「新隊・白銀隊についての説明に移ります。

  まず白銀隊の主な任務地についてですが北の氷雪地帯です。そこでは今雪豹族が幅を利かせ友好関係にあった鷲族及び鳥族と鯨族の連絡経路を断たれている状況にあります。遠回りするルートもあるにはあるのですが、山岳地帯故物資の運搬に支障をきたしている上に度々起こる吹雪によって安全が確保出来ていないのです。そこで白銀隊は雪豹族を退け新たな貿易ルートを確保してきて欲しいのです。」

  「要は雪豹族に喧嘩ふっかけて近道作りたいってことだろ?」

  後ろからコソコソと話し声が聞こえる。

  「北の氷雪地帯って元々公地だったよな。なんで雪豹族がいるんだ?」

  「聞こえてますよ。戸惑う気持ちも分かりますし実際そうでした。ですが猫族は勢力拡大を目的に雪豹族を使って無理やり氷雪地帯を我がものとした訳です。あそこは本来であれば生物は愚か植物すら育たないような僻地でしたが、猫族にしては珍しく寒冷地に耐性のある彼らを利用したわけですね。そこは好きにしていいから誰も通らせるなと。お陰で我々の貿易は滞りますし、一石二鳥と言った感じですか。」

  「説明ありがとうございます。」

  「いえいえ問題提起をありがとう。」

  「というわけで過酷な環境下ではありますが本任務を白銀隊に任命致します。」

  「「はい!」」

  式も終わりそれぞれの隊長とミーティングを終えた後、2人は帰路に着くことにした。

  「中々過酷な場所に配属になっちゃったな。」

  「そうね。当分の間ここには帰って来れないかも。」

  城の門をくぐった辺りで後ろから駆け寄るような音が聞こえた。振り返ると式の直前2人にハンドサインを送ってきた新兵だった。

  「そそくさと帰りやがって。せっかくの同期なんだから親睦深める云々あるだろ。」

  「ごめんなさい。じゃあ一緒にご飯でも食べに行くかしら。」

  「いいぜ。そのつもりだったし。」

  「そういえば名前聞いてないな。俺はイヴ。」

  「イブな」

  「イヴね」

  「細けえよ。そっちは?」

  「私はヘルガ。」

  「俺はカルナ。よろしくな。」

  適当な自己紹介を済ませたあと、最寄りの酒場で生い立ちとかを3人で話し合った。カルナは豪傑という言葉が似合うような体格で聞くところによると戦い方も体術のみらしい。まぁそうだろうなとも思いつつ拳ひとつで戦地に身を置くのは類を見ない上にそれでいて精鋭揃いの白銀隊に入れたのだから大したものである。

  「何か武器を持つっていう判断にはならなかったの?」

  棒術も比較的マイナーではあるが疑問に思ったヘルガが質問する。

  「性にあわねぇだけだよ。俺は相手を殺すってより負かすってのを念頭に置いてるからな。」

  カルナほどの豪傑に殴られたら普通に頭蓋などお釈迦だろうと内心思いながら酌を進める。

  「今度手合わせしてみるか?期待の星らしいじゃねぇか」

  「稽古の一環なら付き合うよ」

  そう言ってイヴは引きつった笑顔を浮かべその日は幕を閉じた。

  ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

  「新しいのが出てきたな。」

  話している内にシロも復活したようだが未だに脇腹が痛むのか空いた手でさすっていた。

  「カルナとは今も連絡は取り合ってるよ。犬猫戦争が終わって兵士もやりたかったことをやるようになって彼もそのうちの1人ってわけさ。」

  「騎士の一員ではあったんだな。てっきりクラウスとかと同じような暗殺とかを生業としてたと思ってた。」

  「過去も過去だしそうなるのも無理は無いよ。」

  真剣に聞いていたテオではあったが少し日も暮れて眠くなってきたようで今日はキリもいいのでお開きということになった。

  「また聞かせてください!」

  別れ際テオは言ってきた。

  「あぁ。稽古の時にでも聞かせてあげるよ。」

  そう言ってその日は幕を閉じた。