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社長と秘書の攻防戦

  (玄関のチャイム)

  (玄関を開ける)

  秘書:おはようございます、奥様。

  社長は起きていらっしゃいますか?

  (溜息)はぁ…。

  やっぱり、ですか…。

  そうだろうなぁとは思ってたんですが…。

  いや……今日はちょっとめんどくさい案件がありまして…。

  大丈夫です。

  奥様のお手を[[rb:煩 > わずら]]わせるわけにはいきません。

  ここは私[[rb:自 > みずか]]ら、社長を叩き起こします。

  寝室までご案内していただいても、よろしいですか?

  (2人で寝室まで向かう)

  (ノックをして寝室に入る)

  秘書:おはようございます、社長。

  朝です。

  起きてください。

  社長:ん゛ん゛…ヤダ…。

  まだ眠い…から…寝る…。

  秘書:二度寝なんか許しませんよ。

  時間が[[rb:迫 > せま]]ってるんですから、早くしてください。

  社長:ん…うるさいなぁ…。

  今、何時…?

  秘書:『今何時…?』じゃないです!

  さっさと起きてください!

  起きないなら、奥様は私がいただきますよ?

  社長:はぁ!?

  ふざけんなよっ!

  秘書:やっと起きましたか…。

  おはようございます、社長。

  今のは冗談です。

  社長:冗談が冗談に聞こえねーって…。

  で、なんでここにいんの?

  秘書:「明日の朝、迎えに行く」と昨日ご自宅にお送りした時に申し上げました。

  社長:そうだっけ?

  秘書:お忘れになられたのですか?

  社長:忘れたわけじゃねーし。

  覚えてねーだけ。

  秘書:堂々と白状するとは…。

  覚えてないとか、忘れるよりもタチ悪いですよ…。

  社長:ほんとのことだから、仕方なくね?

  秘書:[[rb:御託 > ごたく]]はもういいので、さっさと着替えてください。

  社長:うぅ……頭痛い…。

  お腹も…。

  今日は仕事無理だわ…。

  1日休めば治るから、大人しく寝てる。

  悪いけど、今日の予定は全部キャンセルで…。

  秘書:子供じみた仮病なんか使わないでください。

  見え[[rb:透 > す]]いた嘘だってバレバレです。

  (嫁に向かって)奥様だって、そう思いますよね?

  (社長、秘書の後ろにいる嫁に気付く)

  社長:(嫁に向かって)…いつから、そこにいたの?

  もしかして、今までの俺たちの会話聞いてた…?

  (溜息)はぁ…。

  …マジか。

  ずっと隠してたのに…。

  違うんだよ?

  さっきみたいな話し方はコイツが相手だから。

  いつもはこんなんじゃないって知ってるでしょ?

  それに、今日はほんとに頭もお腹も痛いんだって。

  信じてよ…。

  秘書:あーぁ…社長…。

  奥様信じちゃってますよ?

  奥様を[[rb:騙 > だま]]したことに[[rb:良心 > りょうしん]]が痛まないんですか?

  社長:……痛まねーわけねーじゃん。

  でも、今日はどうしても行きたくねーんだよ。

  あいたたたた…。

  秘書:奥様、落ち着いてください。

  これは仮病です。

  社長のこと、よく見てください。

  頭痛や腹痛で苦しんでいる人があんなに顔色がいいわけありません。

  それに、仮病を使うのもいつものことです。

  特に、めんどくさい案件のある日は…。

  社長っ!

  社長もいつまでもダダ[[rb:捏 > こ]]ねないでください。

  社長:ヤダ!

  行きたくねー!

  秘書:本音、ダダ漏れてますよ…。

  いつまでもかっこ悪い姿、奥様に見られてていいんですか?

  社長:それもヤダ…。

  でも、マジで仕事に行きたくねーんだもん…。

  秘書:奥様からもひと言、言ってあげてもらっていいですか?

  じゃないと、たぶんこのままテコでも動かないと思うんで…。

  (社長、嫁から励まされる)

  社長:仕事してる俺、かっこいい?

  ほんとに?

  じゃぁ、チューして?

  チューしてくれたら、超がんばって仕事してくる。

  してくれなきゃ、今日はこのまま部屋に引きこもる。

  仕事なんか知らない。

  あとで、[[rb:菓子折 > かしお]]り持って謝りに行くでしょ。

  コイツが。

  だから……ね?

  仕事がんばってくるために、チューして?

  コイツのことは空気だと思えばいいよ。

  気にする必要ないって。

  どうしても気になるの?

  (秘書に向かって)おい、後ろ向いてろ。

  チラッとでも、こっち見たらクビ。

  いいな?

  秘書:はい、はい。

  これでいいですか?

  社長:(嫁に向かって)ほら。

  これでいいでしょ?

  チュー、して?

  (嫁と触れるだけのキス)

  社長:よしっ!

  やる気出た!

  (秘書に向かって)下で待ってろ。

  10分で[[rb:支度 > したく]]する。

  (嫁に向かって)ねぇ、ねぇ。

  もう1個お願いしてもいい?

  あのね、仕事がんばってくるから、今夜ご褒美ちょうだい?

  今のチュー?

  それはやる気を出すためのチュー。

  ちゃんと仕事がんばったご褒美はまた別でしょ?

  違うの?

  えぇー!?

  ご褒美、欲しいな?

  ご褒美あったら、もっともーっとがんばれるんだけどな?

  うん。

  ありがと。

  仕事、マッハで終わらせて帰ってくるね。

  (着替え始める社長)

  (寝室に社長を残し、寝室をあとにする2人)

  秘書:いつもあれくらいやる気を出してくれればいいんですけどね…。

  社長が社長をやってるの、初めてご覧になられたんですか!?

  …意外でした…。

  まぁ、いつもあんな感じですね。

  子供の頃からの付き合いなので、気にしてませんよ。

  それよりも、私からも社長へのご褒美をお願いします。

  今日の社長はいつになくやる気なので…。

  そうですね……おかえりなさいのキス、とかいかがでしょうか?

  今日は特にめんどくさい案件なので、かなりお疲れになられるかと思います。

  帰宅直後はクタクタかと…。

  そこへ、おかえりなさいのキスです。

  きっとすぐ元気になると思いますよ。

  いろんな意味で、ですけど…。

  …すみません。

  でしゃばりました。

  今の言葉は忘れてください。

  では、私はこれで。

  社長が下りてこられましたら、私は車内で待機しているとお伝えください。

  では、朝から騒がしくしてしまい、申し訳ございませんでした。

  失礼いたします。

  (秘書、玄関から出ていく)

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