迷宮にて淫魔に

  「くそ、逸れてしまったか……!」

  そう悪態をついたのは、冒険者になったばかりの少年、ケントだった。身に着けている防具は革製のものであり、銀札の冒険者のように金属製の胸当てみたいなものは持ち合わせていない。とはいえ、余程の事がなければ冒険者になったばかりはそういった安価な防具を身に着ける事が大半であり、ケントのような冒険者も少なくない。

  彼の装備は兎も角、彼の状況はあまり良い状況ではなかった。彼が今いるのは迷宮と呼ばれる場所であり、そこに五人組で彼は突入した筈だった。しかしながら、その迷宮の罠にかかってしまったのか、気が付けば周囲に仲間の姿が見えないという状況であった。冒険者になったばかりのケントは銅札であり、残る四人も銅札。つまり、銅札の冒険者だけの組み合わせであった。出発前に、「せめて銀札に引率してもらえ」と揶揄うように助言してきた酒場の主人の言葉を彼は思い出し、言う事を聞いておけばと悔いていた。

  ――悔いていても状況は良くならない、逸れてしまった以上はどうにかして合流しなければ。

  焦りそうな心を落ち着かせながら、あたりを見渡す。迷宮に入ってからずっと見ていた模様の壁や床が広がっており、少なくとも迷宮の中で別の場所に飛ばされたのではないかと彼は考える。また、少なくともこれまで見て来た光景とはやや異なる事から、同じ迷宮内のまだ足を踏み入れていない場所だと彼はあたりをつける。

  今彼がいる場所は一本道、前後に道があるものの、そのどちらがこの迷宮の奥に向かう道なのかが彼にはわからない。歩いてきてここにたどり着いたのなら、引き返せば元の場所に帰れる。しかしながら、今回は罠らしいものに引っ掛かった結果、気がついたらここにいるという状況。どちらが正解なのか、ケントには一切心当たりがなかった。

  「とりあえず、前に行ってみよう」

  足を止めるよりも、まずは行動しなければ。そう言を決して、ケントは前へと歩を進める。

  ――これが、彼の失策になるとは今の彼には一切わからなかった。

  あたりを見渡しながらケントは進んでゆく。見た所一本道ではあったものの、薄暗いせいで遠くがどうなっているかを彼には知る術がない。逸れてしまった仲間の中には暗闇の中でも昼間のように目の見える種族、エルフと称される横に長い耳を持つ仲間がいた事もあって、暗闇への対策はその仲間頼りにしていたのを今になって彼は悔いていた。せめて自分以外の四人はまとまって行動できていますように、とささやかな願いをしつつもその歩みを止めない。

  気が付けば、彼の眼前には目が痛くなるような桃色の扉があった。ケントはまだ一五歳にもなっていない幼い冒険者という事もあり、夜の街というものへの耐性が皆無と言っても過言ではなかった。少年である以上、そういったものに対する興味はあれど、なんとなく“これはもっと大人になってから”と遠ざけていた。しかしながら、今は迷宮の探索中。迷宮の中に夜の街のような光景が広がっている筈などない、とケントは意を決して扉のノブに手をかける。

  ギイ、と音をたてながら扉が開いた瞬間、ケントは目を疑った。

  「いらっしゃい」

  そこには、ケントが今まで見た事もない恵まれた女性の身体があった。腰ほどまで伸ばした桃色の髪の毛に、大きな果物よりも更に大きく見える双丘が胸元にはあり、腹部は程よく鍛えられて僅かに筋が見えている。そんな女性の金色の瞳が、狼狽えている少年――ケントの姿を映しているようにケントには感じていた。

  「は、え……?」

  扉のノブを手にしたまま、その場で彼は硬直した。眼前にいた女性があまりにも色気のある体型というのもそうだが、それ以上にその肌色面積も彼の目には毒だった。かろうじて、双丘の先端や下半身の大事な部分こそ桃色の衣服で隠されてはいるものの、肌色の上に桃色となると、目が滑って全裸のように彼の目には一瞬映ってしまう。眼を閉じて頭を振りながら、「お、お邪魔しました……」と口にして外に出ようとする。

  「あら、本当にいいの?」

  その場から退散しようとしたケントはその言葉に目を開き、頭を上げて女性を見る。金色の瞳が再び、彼を捉えている。不思議と、ケントはその瞳から視線を逸らす事ができず、後ずさりしようとした身体がその場で硬直していた。うふふ、という笑みを浮かべている女性を前に、ただ顔を赤らめるのが背一杯だった。「さあ、こっちよ」と誘いの言葉をかけられれば、彼は何も考えられずにそのまま女性によってされるがまま、奥へと連れられて行く。

  そうしてたどり着いたのは、ベッドルームだった。二人で寝転がっても余る位に大きなベッドと全身を映せる大きな姿見がそこにはあった。まだ駆け出しで贅沢を知らない少年にとって、そのどちらともが自身にとっては知らない代物であった。頭の中が妙にぼんやりする、という印象を抱きつつも見知らぬ物を見て純粋に驚き目を丸くしていた。そんな年相応で、幼い様子のケントを眺めながら、女性は妖艶な笑みを浮かべながら彼の耳元で囁く。

  ――さぁ、脱いで。

  その言葉はすっとケントの頭の中に入り込んでくる。どうして脱ぐのか、そもそも眼前の女性は何者なのかという疑問よりも、服を脱ぐという行為が彼の中で最優先事項となっていた。意識する事なく、革製の防具を一つずつ外していき、シャツやズボンなどもその場に脱ぎ捨てていく。最後には、下半身の肌着も脱ぎ、ケントの男性としての象徴が露わになる。

  決して大きいという訳でもなく、小さいという訳でもない、年相応なそれ。だがケントの眼前にいるこれまで見た事もない色気を持つ女性のせいか、あるいは初めての大きなベッドという空間のせいか、それは上へと向いていた。充血し、普段のそれよりも太く大きくなっていた。その事に彼が気づき、顔を赤らめる。幼いと言えど、下半身にあるそれがそのような状態になっている事の意味位、ケントには理解している。思考が鈍っている状態であれど、その羞恥心は健在だった。

  そして、そのような様子すらも女性は満足気な笑みを浮かべて「それでいいのよ」と囁いてケントの手を引いてベッドの上へと運んでゆく。不思議なくらいに彼の身体は女性によってされるがままだった。それなりに身体は鍛えており、同年代の少年少女と比べれば十分に鍛え上げられた身体は、引き締まってこそいるものの決して運動に向いている身体ではない女性相手にされるがままというのはあまりにも違和感があった。――しかし、その事にすら彼は気づかない。いや、気づけない。

  女性の身体に魅了され、思考を奪われている間にケントの身体はベッドの上で横になっていた。そして、その上に女性が跨っている。その女性の表情が、獲物を捕食しようとする獣のような笑みに変わった瞬間、咄嗟にケントの身体は動いた。上半身を起き上がらせて、頭を女性へとぶつけようとした瞬間、彼の目は光り輝く女性の金色の瞳を視界に入れる。すると、彼の身体は彼の意に反して上半身をベッドに降ろしていく。

  「えっ……?」

  「だめよ、そんな乱暴な事したら」

  ぱちりと片目を閉じてウィンクする女性を見て、ケントの頭の中は空っぽになっていた。気が付けば、ケントの下半身にあるモノを女性が口に咥えていた。自身の下半身にあるモノを女性に加えられているという現実と、そこから出してしまうという感覚とが同時に襲いかかり、彼の頭では処理しきれないでいた。混乱の中で、ケントのそれから白く濁った液体が噴き出す。それを恍惚な表情を浮かべながら、一滴もこぼさぬように飲みこんでゆく女性。あまりにも異様な光景を目にしながらも、出した快感に浸っている彼は異様な光景に違和感を覚える事はない。

  今までに感じた事のない快楽が、ケントから異変に気付かせるだけの洞察力を完全に奪っていた。少しずつ自身の身体が小さくなっている事にも、下半身にあるそれが徐々に縮んでいる事にも気が付かない。それでいて、そこから噴き出している白濁液の勢いは止まらない。そうやって長い間されるがままに出し続け、快楽に浸り続けていた彼の下半身には、男性の象徴たるそれは完全に消失し、割れ目が形成されていた。そこまでくると、そこから白く濁ったものは出なくなり、出す快楽に浸っていたケントはその快楽が失われた事で意識を取り戻す。そして、自身の身体に起きていた異変に漸く気が付く。

  「え、えっ……?」

  僅かに胸元には小さな双丘が形成され、短く切りそろえていた筈の髪が背中に届く位長くなっている。下半身にあった筈のものがなくなり、先程まで自身よりも少しだけ大きく見えた女性は明らかにもっと大きく見えている。何より、ベッドの大きさに比べて自身の身体が小さくなっている事から自身の身体が小さくなっている事に気が付く。

  「随分と可愛くなったわねぇ」

  恍惚の表情を浮かべる女性――だが、その姿もよく見てみれば普通でない事に漸くケントは気がついた。背中には蝙蝠のような羽があり、長細い尻尾の先端が口のように開いているのを見て。「ひぃ」と声を漏らす。声変わりをしたばかりだった筈のケントの声は、少女の漏らす悲鳴になっていた。自身から漏れ出た声が、自身の思うものとは異なる事にケントは困惑を隠せない。そんな困惑するケントの肩を女性は掴み、起き上がらせると「ほら、鏡を見て」と声をかける。その声を耳にした途端、再びケントの頭の中は靄がかかったかのように思考が途切れ、ベッドから降りてすぐ傍にあった姿見の前に立つ。

  そこにいたのは、元のケントよりも幼い一○歳から一二歳くらいの少女だった。名残りと言えるのは、背中まで伸びている髪の毛の色が元々のケントと同じ茶色だった事くらいだろうか。若いながら鍛えていた筈の筋肉は失われて、見るからに無力な少女――それが、今のケントだった。頭の中にかかった靄が晴れた途端、彼の心には恐怖が芽生えていた。このような状態で、明らかに人でない存在の近くにいて助かる可能性はあるのだろうか、とケントは考える。だが、何も思いつかない。

  先程、扉を開いてからの事を思い出す。警戒しながら扉を開けたにも関わらず、女性の言葉を耳にした途端、身体がそれに従ってしまうというのをこれまで幾度となく繰り返していた。ここまできて、“まだなんとかなる”と思えるような楽観はケントにはできなかった。恐怖から足が震え始め、ぺたん、と崩れ落ちた。「あ……ぁ……っ」と意味のない声を漏らすのみで、恐怖のあまり暖かいものが下半身から漏れ出していた。その事にも気が付かずに、ケントは泣き始めた。ケントの心は完全に折れて、そこにいたのは壊れた少女でしかない。その様を満足気に眺めていた女性は、ケントを後ろから抱きしめながら耳元で囁く。

  「もう大丈夫よ。お姉ちゃんが助けてあげる」

  その言葉は、ケントの頭の中にすっと入ってくる。「お姉ちゃん……?」と振り向きながらケントはそう尋ねる。その顔は、助けて欲しい、と懇願するような顔だった。彼がこうなってしまった元凶こそがこの女性だというのに、壊れてしまった心ではそれを理解する事も叶わない。ただ、自身を助けてくれるかもしれない存在を見て、その存在に頼り縋りたいという気持ちに支配されていた。そんなケントの口元に、女性は尻尾の先端を差し込んだ。突然の出来事に目を白黒させるケントだったが、「大丈夫、そのままでいれば大丈夫よ」と女性が声をかければ、その状態をそのまま受け入れた。女性の尻尾の先端にある口からは、何やら黒く濁った液体が湧き出ていて、それをケントは飲みこむ。ごくり、とその液体が確りとケントの体内へと取り込まれたのを見て女性はケントの口元から尻尾を引き抜いた。「あっ……」とケントが残念そうな顔を見せた瞬間、ケントの身体に更なる異変が起き始めた。

  ケントは自分で自身を抱きしめてその場に倒れると、ケントの背中では何かが胎動していた。その胎動に合わせて、ケントは快感を覚えてその顔を快楽に染めていた。姿見には快楽に酔った幼い少女の顔が映っている。そして、背中の胎動が収まったかに思えた瞬間、女性の背にあるような羽が勢いよく生えて来たと同時に、顔を更に赤らめて恍惚の表情を浮かべていた。この快楽をもっと欲しい、という感情に駆られ、息を乱してゆく。そんなケントの要望に応えるかのように、尾てい骨からも勢いよく長細い尻尾が生えてくると、これまでで最上級の快楽がケントを襲い、ケントの意識はそこで途絶えた。

  唐突に、ケントは目覚めた。何やら不思議な夢を見ていた気がする――等と考えながら横たわっていた身体を起き上がらせると、眼前には姿見が一つ。そこには自身の身体――見慣れた少年の姿が映ると思っていたケントだったが、見慣れていた筈の身体はそこにはなかった。

  「なっ……!」

  小柄で幼い少女。背中には蝙蝠のような羽に、長細い尻尾。それは、夢で見た姿見に映っていた自身の姿そのものだった。つまり、不思議な夢と処理していた出来事が、実際に起きていた事だったとケントは察した。そして、いつの間にか胸元と下半身はケントをこのような目に遭わせた張本人――例の女性が身に着けていたような桃色の肌着が着せられていた。幼い身体では胸元があまり似合わない――等と現実逃避をしながらも、やや冷静さを取り戻したケントは周囲を見渡す。

  だが、ケントが今いる場所には、ベッドと姿見があるだけで、他には何もなかった。窓や扉も一切ない。四方を壁に塞がれていて、天井もしっかりとある。そもそも、このような姿で外に出ようものなら、今の身体では魔物として対処されるのが明らかだった。蝙蝠のような羽に長細い尻尾。そして、肌面積の多い格好。ここまで情報が揃えば、彼にも思い当たる節があった。

  淫魔やサキュバスと称される魔物。直接的な戦闘力は高くないと評されながらも、その容姿や人々を魅了する特殊な技能によって多くの人々の命を奪ってきた、と彼の見た書物には記載されていた。様々な衝撃的な出来事が済んだ後、平静さを取り戻したケントの頭でなれば、これまでケントに襲い掛かったものを理解できた。扉を開けた瞬間、女性と目があった瞬間に全ては決していた。その出来事に、「くそっ」と悪態をつく。姿見に視線をやったまま声を発した為、幼い少女の声で悪態をついた所で微笑ましく見えるだけだと気づいてケントは諦観のため息を一つ。そんなケントの様子を見ていたのか、姿見の横の壁が扉のように開いてそこから先程の女性――サキュバスが「よく眠れたかしら?」と声をかけながら入ってくる。

  「……何が目的だ?」

  ケントのその言葉に、サキュバスは不思議そうに首を傾げる。そして、「あぁ」と何かを納得したかのように声を漏らしながら、ケントへと近づく。それを見て、ケントは距離をとろうとして「待って」とサキュバスに声をかけられた途端にその身体は硬直した。

  「あなたの名前は?」

  答えるつもりなどなかったケントだが、眼前にサキュバスの金色の瞳が映った瞬間にその意思は崩れ落ち、「ケント」と口に出してしまう。改めて、サキュバスが持つ人を操る力の脅威をその身に感じたケントは身体を恐怖で振るわせる。そんな様子を微笑みながらサキュバスは問いかける。

  「ねぇ、お腹すいでいるでしょう?」

  その言葉を耳にした途端、ケントは唐突にお腹が空いてきたように感じた。確かに、身体がこのように変じるよりも前、迷宮を長時間探索していて食事の時間すらもなかった。緊張感から空腹を覚えないでいたのが、あまりの空腹に耐えきれなくなって、ぐぅ、と腹が鳴っていた。

  「ちょっと持ってくるから待ってね」

  そう言って、サキュバスが先程扉のように空いた所から出て、壁が元通りになる。再び一人きりになったケントだが、その内心は穏やかでない。どうにかして脱出できたとしても、どこから見てもケントの身体は既にサキュバスと化している以上、討伐対象になるのは目に見えている。だからと言って、サキュバスとして生きていくというのもケントとしては考えたくない事だった。ケントは元々少年であり大多数の男と同様、そういった行為の相手は異性である女性とする事を自然と考えている。しかしながら、サキュバスは女の身体であり、書物によればサキュバスの食物は、男性の下半身から出る白く濁った液であるとされている。その事実は、ケントにとっては受け入れがたいものだった。

  自身の身体が例のサキュバスによって変じたのならば、サキュバスを倒す事で元に戻らないだろうかと考えはするものの、元々敵わなかった上に、同じ種族になっている以上は自身より体格に恵まれている例のサキュバスの方が有利なのは間違いない。何か方法はないだろうか、と考えを巡らせても案すら思いつかない――そんな時だった。

  「お待たせ」

  再び、壁が扉のように開くと、そこには例のサキュバスが一人の少年を抱えていた。それは、ケントと共に迷宮を探索していた仲間の一人であった。身に着けていた筈の防具は、既に脱がされていて、下半身にある男性の象徴が大きく膨張しているのがケントの目には見えた。「おいやめろ、離せ!」と必死に抵抗するケントの仲間を見て、普段ならばケントはサキュバスに何らかの抵抗の意志を見せた筈だった。しかしながら、ケントは仲間よりもその下半身にある男性の象徴へと意識が向いていた。

  「ジョニー君。約束通りあなたのお友達の所に連れて来たわよ」

  「サキュバスなんか友達にいねぇ!」

  「――でも、ケント君ってあなたのお友達なんでしょう? ずっと迷宮での様子を見てたからわかるわよ?」

  「は、ケントは俺と同じ位の背丈の男だぜ。そんな小さいサキュバスなんかとは――」

  ジョニーと呼ばれたケントの仲間の言葉が、そこで途切れる。ジョニーの視線はケントの胸元――首から下げている冒険者の身分を示す札があった。銅色の札で、そこにはケントの名前が確りと刻まれている。「おい、そんな事ないよな」と不安げな声をジョニーが漏らし始める。だが、そのようなよ様子すらもケントの意識にはなかった。ただ、ジョニーの下半身で膨張しているそれにしか、意識が向いていない。

  「さて、あとは二人でごゆっくり」

  サキュバスがそう言いながらジョニーをその場に降ろすと、扉から外に出ていった。残されたのはジョニーとケントのみ。

  「なあ、ケントなら返事をしてくれよ」

  その言葉は、ケントには届かない。顔を赤らめながら蕩けた笑みをジョニーに向けるだけ。あまりにも姿が一致しないというのに、ケントが身に着けていた銅札を見た瞬間に、ジョニーは眼前にいるサキュバスをケントと認識していた。だが、既にケントという冒険者はそこにはおらず、ケントだったサキュバスがいるのみである。「あはっ……」と笑みを浮かべながら、困惑して硬直しているジョニーの上にケントは跨った。

  「やめろ、やめてくれ……!」

  懇願するジョニーの顔を見て、ケントは一瞬だけ躊躇う。しかしながら、それは本当に一瞬だけ。直後には舌なめずりをしながら、露わになっているジョニーの下半身にあるそれを口に咥えた。それはサキュバスという身体の持つ本能なのか、巧みにそれを口で刺激する事で、そこから白く濁った液体を吹き出させていた。それをケントは本当に満足そうに飲んでいく。

  いつしか、ジョニーは懇願する声すらも上げられずに、ただ下半身から濁った液体を吹き出すだけのものに成り果てていた。そうして、最後の一滴まで飲み干したケントが目にしたのは、干からびたかつての仲間の姿だった。それを見て、一筋の涙が流れてもそれが何を意味するのか今のケントには理解できなかった。ただ、お腹がいっぱいになるまで食事をして、大きく膨らんだお腹をさすって満足気な笑みを浮かべるのみ。

  髪の色も、茶色だった筈なのが、例のサキュバスと同じ桃色に変じていた。瞳の色も同様に金色となっており、例のサキュバスの妹と称しても違和感のない姿が、ケントの眼前にある姿見には映っていた。その変化に対しても、ケントは何も違和感を覚える事ができずにいた。ただ、今のケントにあるのは満腹感だけだった。

  「食べ終わったわね」

  ケントが“完食”するのを見計らっていたのか、そう言いながらサキュバスはケントと食べかすだけの空間へと入ってくる。入って来たサキュバスを目にしたケントは、ぱぁ、と先程までとは違う笑みを浮かべながら「お姉さま!」と言ってサキュバスに抱き着いた。桃色の髪に金の瞳。蝙蝠のような羽と長細い尻尾。違うのはその体型だけ。サキュバスの姉妹が抱き合っているという図でしかなかった。

  「これをあげるわね」

  そう言ってサキュバスが手渡したのは首飾り。同じものがケントの眼前にいるサキュバスの首元にもあるのを見て、わぁ、と歓喜の声をあげるも首元のものに気が付いて「あっ」と声を漏らしながら自身の首元にあるものへ手をかける。それは、ケントをケントと証明できる最後のアイテム、冒険者の銅札だった。だが、今のケントにとってその札は何の価値も持たない金属の板に成り果てていた。からん、とその場に札を落としてサキュバスの手にある首飾りを自身の首元につけた。

  「よく似合っているわ、“ケイト”」

  ケントだったサキュバスは、“ケイト”と呼ばれて目を輝かせる。まるで、それが初めから自身の名前であったかのように、そう呼ばれた事を自然に受け取っていた。喜々として、小さなサキュバスであるケイトは姉のように見えるサキュバスへと抱き着いた。

  「お姉さまぁ!」

  それは、姉のサキュバスを慕う妹のサキュバスでしかなかった。

  こうして、一般的な冒険者ケントとその仲間一名の冒険は終わった。