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水面に浮かぶ月に誘われて

  ん、なんだ?人の子か。

  いいだろう。今宵は気分が良い。

  同席を許そう。

  座っていいぞ。

  (聞き手が近くに座る)

  お前はここの学校の生徒か?

  (聞き手が頷く)

  そうか。

  勝手にお邪魔しているぞ。

  俺がどうしてここにいるのか?

  (読み手が空を見上げる)

  上を見よ。

  満月が綺麗だろ?

  こんな日はお酒が合う。

  お月見というわけだ。

  どうしてお前はここにいる?

  この俺の場を汚したのだ。

  それなりの意味はあろう。

  本来なら目があった時点で殺す。

  話してみよ。

  ……だいたい想像はつくがな。

  ちなみに俺はここの学校とは全く関係ない。

  人間の知り合いもいない。

  俺とお前、二人だけだ。

  ……人に言いふらすことはない。

  ゆっくりでいいぞ。

  (聞き手が虐めのことを話す)

  なるほど。

  虐めか。

  何年たとうが人の世は変わらんな。

  これ以上生きるのが嫌になって

  勇気を出して屋上に来たが俺がいた、と。

  すまんな。

  お前の齢(よわい)で自殺を決心するか。

  いいだろう。

  お前。

  本当に死にたいか?

  (聞き手が迷いなく頷く)

  わかった。

  認めてやろう。

  だが、ここから飛び降りは許さん。

  せっかくの血がもったいない。

  俺が自らお前を食ってやる。

  俺は怪異の王。

  夜を統べる吸血鬼。

  お前の人生を終わらせてやる。

  人生の幕引きとして極上だろう。

  お前の死に意味をくれてやる。

  (読み手が聞き手にかぶりつく)

  おい、大丈夫か?

  (読み手が聞き手に膝枕をしている)

  まだ立つな。

  一応、歩けるくらいの血は残した。

  もう少し休むがいい。

  なんでまだ生きてるのか、不思議であろう?

  存外、お前の血が美味だったのでな。

  ここまで甘美な血は珍しい。

  渡すものがある。

  立て。

  (聞き手がゆっくり立つ)

  (読み手が酒を注ぎ、聞き手にグラスをわたす)

  この俺が注いだ酒だ。

  断る道理はあるまい?

  未成年だと?

  ふん……!

  (読み手が失笑する)

  グラスの中を見よ。

  何が見える?

  月が綺麗であろう?

  (何かに気づく聞き手)

  気づいたか。

  お前は俺の眷属になり、吸血鬼となった。

  そうだ、吸血鬼は鏡に映らない。

  さて、本題だ。

  選べ。

  もし、俺の眷属になることを選ぶならば

  その酒を飲み干せ。

  ……眷属にならぬなら、俺が喰らいつくす。

  当初の望み通り、死をくれてやろう。

  (聞き手が覚悟を決めたように酒を飲み干す)

  大義である。

  (読み手が酒を自分と聞き手のグラスに注ぐ)

  これからは俺の為に生きよ。

  宜しくな、我が眷属よ。

  (グラスをぶつける音)

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