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添い寝する2人

  ある日のお風呂上がりのこと。

  夜も遅くなってしまったし風呂から出たらすぐ寝てしまおうと寝室に入ると、犬が布団で寝転がっていた。普段であればその布団は虎が使っているものであるし、犬自身も本来ならば自分の布団があるはずだ。なのだが、どうやら視界には犬の布団は見当たらない。

  「どうしたんだ?俺の布団に横たわるなんて」

  「へへ……なんだか添い寝したい気分になっちゃって。隣、いい?」

  「……おう」

  照れ笑いしている犬。そうやって笑うのズルだろ、犬のこともっと好きになるだろ、と心内で呟くのも束の間、虎の脳内は急激に回り出す。え、今なんて言った、添い寝?

  「ほら、こっち来て」

  犬は自身のそばへと虎を呼んでいる。犬の突然の提案に、心臓がうるさいぐらいに鳴り始める。添い寝なんて恥ずかしいしこの音も悟られたくないし今すぐにでも犬の布団を敷いてやりたいが、適当に「おう」とか答えてしまった手前もう逃げられない。ましてや犬自身から誘ってくれたのだから、自分から引き下がるなんてできない。

  ———落ち着け落ち着け俺、今までも添い寝なんて何回かやったことあるだろ!今更緊張すること無い、冷静に、冷静に……

  決意し寝転がると、頬に手が降りてきた。

  頬を撫でる手は少しだけくすぐったいけど、肉球の程よい弾力が心地良い。しばらく布団に包まっていたせいか、いつもよりほんの少し、犬の温もりが暖かい気がする。身体の距離も近いから、時折犬の毛並みが虎に触れる。もふもふでさらさらな毛並み。視界には犬の顔。虎をじっと見つめて離さない瞳。

  「……どうかな?気持ちいい?」

  「……すごく、きもちいい…………あったかい……」

  「良かった。僕も虎に触れてて、虎の癒やされてる顔見れて、嬉しい。……もっと、近づいても良い?」

  有無を言わせず犬が虎の身体を抱きしめる。ちょうど虎の顔が犬の胸の辺りに押し付けられて、犬の匂いも犬の体の感触も、より直に伝わってくる。虎が呼吸する度に匂いを吸い込んで、犬が呼吸する度に体の形を覚えさせられて。脳内が全部、犬のことで満たされていく。

  ———心地いいのに恥ずかしくて、耳の先まで沸騰してしまいそうだ……。

  「やっぱ、虎のこと抱きしめてると落ち着く……。あったかいなぁ」

  「おふろあがりだから……じゃないのか……?」

  「それもある、けど。この温もりは、虎の、虎自身の温もりだよ。虎が暖かいから、僕も暖かくなれるんだ」

  「…………そう、か……」

  虎は胸の高鳴りを聞き取られまいと必死だった。自分が何を答えているのかわからないほど、平静を保つだけでも精一杯だった。

  ———こんな近くにいて、しかも抱きしめられて、耳元で甘ったるい言葉まで言われて……。緊張しない方が無理だっての!

  犬が一つ呼吸する度に肺が動く。肺が動く度に、虎に犬の体が押し当てられる。ひたすらに脳内が犬で上書きされていく。緊張を抑えようともここまで犬のことを感じさせられては、意識するなという方が難しかった。

  だが、緊張とは裏腹に、安心感で満たされてきているのも事実であった。犬に触れているが故の幸福感が虎の眠気を誘う。瞼は今にも閉じそうだ。どこかで「ハグはストレスの緩和に繋がる」とか「幸福感がある」とか書いてあった気がする。それってこういうことだったんだな、と虎は思考の片隅で考えた。

  「もう眠そうだね。寝ちゃってもいいんだよ?虎が寝るまで、こうやって撫でてあげる」

  犬の声と撫でる感触がぼんやりと体に入ってくる。更なる幸福感とともに、自然と眠気が深まっていく感覚がした。

  「……ありがとう……おや……すみ……」

  「……おやすみ」

  ………………………………。

  …………………………………………。

  寝た…………かな。

  月光に淡く照らされている虎の顔。犬の胸に半分ほど埋もれている。

  ———頬擦りしてるみたいに寝るの癖なんだろうな。本人は無自覚らしいし、絶対言わないけど。

  犬には全部分かっていた。添い寝する前緊張してたこと。添い寝中の心臓の音を落ち着かせようとしていたこと。その中でもちゃんと癒されてたこと。いつもの虎の様子と比べたら一目瞭然だったが、虎の名誉のために黙っていた。

  ———……ぶっきらぼうに見えるけど、人に優しいとこ。美味しそうに料理を頬張ってるところ。真剣な時の表情がカッコいいところ。興味が湧いたものにはついつい目が引かれちゃうところ。どんな感情であっても笑顔が可愛いところ。今みたいに、無防備に寝てるところ。本当はめちゃくちゃ緊張してたところ。どんな虎の姿も、思い出すだけで愛おしい。

  そんな虎の全部が全部、僕は、僕は……っ

  「……大好き、だよ……っ」

  面と向かって言うのは、こそばゆくてできないけど。言うことはできずとも、せめてでも少しでも、虎を幸せにできるなら、今日みたいに添い寝だってするし、虎のやりたいこと、癒しになることは全部やる。それが、犬の信条であった。人から見たら重いかもしれないけれど、「虎が好きだから」の一言で何だってできるのだから。

  「おやすみ、虎」

  窓からは、柔らかな月明かりが降り注いでいた。

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