【R-18】トップは僕/俺だ!【カイリュー♂×ガブリアス♂(リバ)】
[chapter:プロローグ]
「逃げるんじゃないかと思ってたよ」
「バカ、誰が逃げるかっつの」
テーブルシティ、夜明け前の学園都市に、二匹のポケモンが現れる。一匹は、背に立派な翼を生やした黄土色のポケモン。少し丸みのあるフォルムと顔つきで、普段ならば親しみやすさを覚える顔つきであるが、今だけは素早さが下がってしまいそうな恐ろしい顔をしていた。もう一匹は、ジェット機のようなヒレを持つ群青色のポケモン。スラっとしておりクールに見えるが、彼もまたしかめっ面を浮かべており、小さなポケモンたちが尻尾を巻いて逃げ出しそうな雰囲気を醸し出す。その二匹のポケモンは露骨に敵意を表していた。
「じゃあ……」
「おう、付き合ってやるよ」
神妙な面持ち。まだ冬であると主張するかのような冷たい風が肌を突き刺す。周りの者を威圧させる一触即発の空気、戦いの火ぶたが今まさに切って落とされようとしていることを実感させられる。彼らは互いに目を合わせて、高らかに勝負の始まりを宣言した。
「「デートバトルを!」」
そう、これから始まるのは、二匹のドラゴンタイプによる、プライドをかけたデートバトルである。
***
きっかけは、今日の昼頃。その日も変わらず、パルデアでは嵐が起こっていた。今最もバトルが盛んに行われているこの地方にて、例の彼らはあいも変わらずメラメラと闘志を燃やしていた。
「僕が最強なんだ! 君よりも遥かにここで結果を残してるんだから、当然でしょ!」
「いーや、長らくいろんな地域でトップレベルの活躍をしてる俺の方が最強だね」
そう、天候は古代の鼓動が暴れそうなほどの快晴で、穏やかなポケモン用カフェの一角。その雰囲気をぶち壊しかねないような言論の嵐を彼らは巻き起こしている。他の客のことなど知ったことかと、二匹は言葉の鍔迫り合いをしていた。
「ラファルはいつも過去のことばっか! 大事なのは今、そしてこの先なのにさ!」
「はーん、確かにそれはそうだな。なら、尚更ヴェンより俺が強くなっちまうな? ほら、テラスタルが使えない別地域のルールで戦うってなったら、また俺の方が活躍するのは目に見えてるぜ?」
「それ、今は結果で勝ててないことの言い訳だよね~? それこそテラスタルほどじゃないかもだけど、次の地方も僕が結構活躍できるルールかもしれないよね?」
「希望的観測だろ。テラスタルが無いとこおりタイプ技大変だぞ?」
「君だってこおり苦手じゃん!」
「俺は速いし固いからいいんだよ!」
「僕だってとくせい《マルチスケイル》だし! 絶対一回は耐えるし!」
いや、どんぐりの背比べと表現した方が適切か。彼らは、それぞれカイリューのヴェンと、ガブリアスのラファル。グルグルとドラゴンらしい唸り声をあげており、その騒音は嵐そのもの。しかし、あまりに稚拙な上、いつもここで喧嘩しているから、近くにいるポケモンはまたやってるよと止めようともしない。どんな間抜けな犬ポケモンだろうと、食ってかかろうとはしないだろう。
「アンタら、いつまでうるさく喚いてるんだい」
とは言え、店員は対応しなくてはならず、毎度その白羽の矢が立つのがこのチルタリスだ。疎ましそうな表情をする彼女を見るや否や、彼らは自身の正当性を主張し始めた。
「アマネさん! だってラファルが僕より結果残してないのに、自分が最強だって言い張るんだよ! 身の程知らずにも程があるでしょ!」
「うるせぇな、俺は今まで結果残してたからいいの! 絶対テラスタルがなかったら俺の方が強いしな!」
「あ、つまりそれってさ今のルールだったら僕の方が強い、ってことでしょ? 素直じゃないんだからさ〜」
「はぁ〜? そんなわけないだろ、最強のポケモンと言えば俺なんだからな」
「それは僕!」
「いいや、俺!」
「はいはい、分かったから」
彼らの鳴き声を聞き流し、はぁ、とため息をつくアマネと呼ばれたポケモン。彼女もコレに何度も何度も付き合わされており、呆れを態度に出さないようにすることは無理難題。だが、それゆえに簡単な対処法も学習していた。
「じゃあ、いつも通りバトルコート貸したげるから。そこでちゃちゃっとケリつけてきなさい」
その言葉をかけると、まるで全部忘れたかのように二匹はパァッと表情を変える。さながら水を得た魚のごとく、イキイキとした表情を浮かべるのだ。
「えぇっ、いいの! ありがと、アマネさん!」
「恩に着るぜ、アマネさん! ヴェン、今日は俺が完膚なきまでに叩き潰してやる!」
「いいや、僕が勝つもん! ラファルなんて、ちょちょいのちょいだもん!」
「なんだとぉ!」
「喋ってないで早く行く! もうバトルコート貸したげないよ!」
「……はい」
「……おう」
ピシャリ、と《ハイパーボイス》の如く鋭い声をぶつけられ、荒くれ者達は首を垂れる。バトルには誰よりも秀でているはずの彼らなのに、ここでの力関係は彼女の方が上なのだ。さっきまで元気だった二匹は黙りこくり、すごすごとバトルコートへと向かった。
とぼとぼとした足取りでバトルコートに入る二匹だったが、バトルポジションに着くと途端に空気が変わる。どこかぼんやりとしていたはずの顔つきが急に鋭くなり、軽く準備運動をしている様子にすら圧があった。
「始めるよ」
「言われなくとも」
静かに言葉を交わした二匹は、真っ先に《つるぎのまい》と《りゅうのまい》を発動する。低次元の口喧嘩からは想像もできない、熾烈な睨み合いからバトルは始まる。相手の動き出しを窺い、一手間違えたら一瞬で刈り取られそうな、そんな緊張感が張りつめる。その中で、カイリューはゆっくりと笑みを浮かべた。
「ねぇ、ラファル。ホントは君のことカッコいいと思ってるんだよ」
唐突に、バトル中に相手を褒め称えるヴェン。怪訝そうな表情で牙は剥き出しているが、声色には少し喜びの色が混じっていた。
「なんだよ、やっと俺のカッコよさ分かったかよ?」
「だからさ、もっとその舞、見せてほしいな♡」
「……っ!」
そんなわざとらしい甘えた言葉と同時に、拍手のように手をたたく。急いで目を逸らそうとしたが、もう間に合わない。あえなく《アンコール》を受けてしまった。
「アハハ、カッコいい、カッコいいよ! もっと無様に踊り狂って、よ……⁉」
言おうとした言葉を止めて、いや止めさせられて、ヴェンは目を見開く。その場で《つるぎのまい》を続けているはずの相手が、気付かぬうちに爪を自分の喉に突きつけ、目の前に立っていたのだ。したり顔を浮かべて、ガブリアスはその爪を下ろした。
「よし、今回は俺の勝ちだな」
「メ、《メンタルハーブ》……!」
いつもの持ち物と違う、戦法を一点読みした対策。ヴェンの戦略によっては全く役に立たないことだってあり得る、まさに今回勝つためだけの戦法。それに、ヴェンは目くじらを立てた。
「そ、そんな持ち物、絶対実戦じゃ使わないじゃん!」
「ヴェン、俺たちがやってるのはタイマンだぞ。一回の読み合いで決着がつくんだ。だったら一度だけでも虚をつくことがどれだけ強いか分かるだろ?」
「そうだけど、そうじゃないって言うか……」
卑劣、とするには真っ当。更には強いとは絶対に言えない戦法に虚をつかれて負けて、恥ずかしさと悔しさが混ざった様子で、地団駄を踏んでいた。そんな彼をみて、ラファルはフッと笑った。
「それほど、俺はお前とのバトルにいつも本気なんだけど」
思わずヴェンは目を見開く。少し嬉しそうに笑いながら顔を上げると、彼の笑みが目に入る。だがそれは、想像していた笑みとは違ったようだ。
「……その顔絶対おちょくってる時のやつじゃんか!」
どうやらその態度はヴェンの《げきりん》に触れてしまったようだ。喜んでいたその顔は怒りの表情に一変し、思わず思いっきりパンチが飛び出す。油断していたラファルは《ノーガード》。防御することもできず、効果抜群の一撃が急所に当たったようだ。
「うぐっ⁉」
「あっ……やっ、ちゃった」
ふらり、と倒れていく勝者と、ひきつった顔で立っている敗者。まるで逆転した状況に、大慌てでラファルを背負って彼のトレーナーの下へと向かった。
「全く、力加減へたくそかよ」
トレーナーから《げんきのかたまり》をもらい、《ひんし》状態から目覚めたラファルは、身体を揺らして汚れを払い、悪態をつく。流れでラファルたちのピクニックにお邪魔しているヴェンは反論も思い浮かばず、口をへの字にしながら、どうも虫の居どころが悪そうにしていた。
「あー、えぇーっと、その……」
「なんだ、照れてないで早く言えよ」
「照れてない!」
照れてるのは間違いないだろ、と追撃を仕掛け、ヴェンは一層不貞腐れる。そのままぷい、とそっぽを向いてしまった。
「むー、もういい!」
「もういいって何が」
もういいったらもういいの、とぐずるヴェン。先ほどまで機嫌良く煽っていたが、実際に拗ねられると困るもので、偉そうにため息をついていた。かくいうラファルもすぐに癇癪を起こし、ヴェンやトレーナーに迷惑をかけることも少なくないはずだが、賢い人間でも都合の悪いことは忘れやすいものだ。ましてやこのポケモンが覚えているはずがあろうか。とにかく、自業自得な振る舞いのツケを払う時が来たようだ。
「はいはい、俺が悪かった俺が悪かった。また今度改めて勝負しような」
顔は不機嫌そうにしているが、言葉だけはそう言ってなだめようとするラファル。しかしそれだけで、ヴェンの視線は少し戻ってくる。いつも彼らは喧嘩をしていたが、次の勝負の約束をすると、途端に機嫌を取り戻すことも常だった。また次の瞬間にはわいのわいのと煽り合いを始めることも少なくない。それが彼らのお約束だったのだ。
「じゃ、さ」
ゆっくりと話し始めるヴェン。ラファルは安心した様子で次のお約束を待っていた。
「その、デート、しようよ」
「はいはい、のぞむところ……へ?」
そんなお約束に頷いたつもりだったラファルは、目を丸くした。珍しく彼らの間に流れる静寂。気まずさまで覚えるそれに、ヴェンは慌てて手をブンブンと横に振った。
「いっ、いや、君とデートしたい訳じゃないよ? あくまでデート勝負だよ、デート勝負。ラファルは絶対経験少なそうだから、勝てそうだなーって」
「バカにしてるだろお前!」
「うん! そりゃもちろん!」
ニコッと笑いながら憎まれ口を叩かれ、ぐうの音も出ないラファル。今よりも成績を残していた時からそういう色事を絶ってバトルに明け暮れていたのだ、そんな経験は一切合切ありはしなかった。こんな風に馬鹿にされるぐらいなら一度くらいデートに付き合っておけば良かった、と悪態をつくが、それすら嘲笑われることしかできなかった。
「てかお前さ、さっきは実戦では役立たないだのどうのとか言っといて、絶対役立たない勝負を提案すんなよ!」
「それはそれ! とにかく、勝負しないの、するの!」
なんだ怒っているのか、と聞くと怒ってない、とまた怒声を浴びせられる。やけに顔を赤くしているヴェンに少し首を傾げながらも、どうも結論は出なかったようだ。呆れた様子でありながらも、首を縦に振っていた。
「まぁ、変わったルールでも勝って全部俺の方が上手ってこと、証明してやるか」
「……えへへ、よし! 明日は僕、明後日は君の番。せっかくだから朝早くからやろう。場所は、テーブルシティの長い階段前集合で!」
取り敢えず、いつも通り勝負の申し出を受け、その予定を取り付ける。現時点ではまだ、彼にとっていつもと少し違う日常にしかなり得ないだろうとしか感じていないのだ。それ故に、口を震わせている大きな小心者に、ついぞ気づくことがなかった。
[newpage]
[chapter:カイリューのこうげき!]
「じゃあ、今日は僕の番だね」
そして日が変わり、テーブルシティ。朝焼けが照らす街並みの中、彼らはジリジリと見つめ合う。しかしこれはいつもの勝負ではない。ヴェンは手を出して、ニコリと微笑んだ。
「ね、ラファル。いこっ?」
「……キッツ」
精神攻撃か、とラファルはうんざりする。いつもと比べて三音分トーンが高いヴェンの声に耳を塞ぐ仕草をした。確かに口調や笑顔に可愛らしさはあるが、普段の振る舞いを見ている者なら間違いなく悍ましさが先に頭をよぎってしまうだろう。それでも彼はそのままその喋り方を続けた。
「あはは、もうラファルって照れ屋さんだね〜」
「腕を掴む力がバカなんだけど。そんな握力で握ってきたらどう頑張っても腹黒いやつにしか思えないんだけど」
「あれ、ごめん! すっごく楽しみでさ、少し力が入りすぎちゃった……エヘヘ」
「今日はあくまでこの調子なのか? 新手の罰ゲームか?」
「いいじゃんいいじゃん。とにかく早く、デートに行こっ、ラファル」
嫌そうに目を線のように細めるラファルに対して、さらに上機嫌な笑顔を見せる。意外と華奢なラファルの腕を握り、そのまま駆け出していく。その手を一瞬は振り払おうとしたが、まぁいいかとボソリ呟く。普段はカイリューらしくない荒くれ者の彼に、カイリューらしい柔らかい手で引っ張られていた。
***
「だぁーっ! このっ、木の実持ってくなーっ!」
彼らがまず向かったのは、キタカミの里だ。パルデア地方からそう近くはないのだが、彼らは《しんそく》の使い手と《マッハポケモン》だ。日が変わらぬうちにあっという間に辿り着き、鬼退治フェスに参加していた。
「ラファル、赤いきのみと青いきのみ拾ってきた!」
「すまんっ、それ入れたらもう少し黒いの取ってきてくれっ」
「うんっ!」
ウキウキでオニバルーンを割っていき、きのみを拾い集めるヴェン。彼が拾ってきたのを納めるきのみ台をラファルは見張っているが、いかんせんきのみを狙う野生ポケモンが多く、あえなくいくつも奪われてしまっていた。
ぴーっと笛を鳴らされ、早くも終わりの合図。オモテ祭りの会場へ戻り、そのまま二匹はヴェンが器用に割り箸を使い、焼きそばを頬張っていた。
「ハイスコアまであと十点だったんだって! 惜しかったなー」
「……そうだな」
結局、ラファルは最後まで野生ポケモンを追い払いきることができず、得点はうまく稼げず。大会記録を一歩手前で抜くことができなかった。
「ほら、あーん」
だけど、ヴェンはニコニコと笑って、ラファルに焼きそばを食べさせているだけだった。こういうときにコイツに詰られないなんてな、と肩透かしを受けた顔はしつつも、慣れてきたのか嫌悪感を表情に出すことが無くなってきた。
「捨ててくるね」
「おう」
空のパックを手に取って、ヴェンはふわりと飛び立つ。それを見送ったラファルはゆっくり空に向けて顔を上げる。雲一つない快晴で、燦々と煌めく光球が一つ浮かんでいる。それはこのキタカミの里を目一杯照らし、暖かな空気を作り上げていた。
「ね、見てよラファル」
戻ってきたのか、と声の出どころに顔を向けると、この地域で信仰されている青のともっこさまのお面を身につけた巨大な龍がいた。ラファルは破顔してしまい、また目を細めていた。
「くっ……お前さぁ……ぷくく」
「えへへ。いいでしょお面」
「あぁ。最高だよ」
朝に軽蔑した目を送っていた彼はどこへやら、なんだか力が抜けた様子で、穏やかに談笑する。遠くで演奏されている祭囃子は賑やかな背景曲となり、二匹の会話がより楽しそうに聞こえる。
「よーっし、次の場所に行こう!」
バサ、と大きな翼をはためかせ、ラファルに笑顔を向ける。それにラファルは微笑み返し、二匹は元気よく飛び立った。
***
キタカミの里からパルデア地方に帰ってきた彼らは、湖の辺りへと降り立つ。寿司のようなものが地面に散見され、それを啄もうとした鳥ポケモンが、湖から飛び出た大鯰に寿司もろとも喰らわれる。見た目だけは優雅な湖に見えるが、野生ポケモンによる過酷な生存競争が繰り広げられる場所でもある。
「ここは、オージャの湖か」
「うん! たまに特訓のために行くけど、観光目的で行くことは中々ね。ラファルもそうじゃない?」
「そうだな、俺も後輩と一緒に特訓する時だけだ」
そんな湖畔で賑やかに話す二匹。一切声を潜めることなく話す彼らに、野生ポケモンたちは進んで道を譲っていたそれに気づいてか否かは分からないが、ヴェンは相変わらず陽気に話していた。
「ね、ちょっと泳いじゃおうよ」
水面を指差し、そのまま湖に駆け出していく。仕方ないな、とラファルは遅れて走る。二匹のドラゴンが水しぶきを立てながら飛び込むと、周りのポケモンは慌てて逃げ出した。
水タイプの泳ぐ速さに勝るとも劣らない速度を維持したまま、ノンストップで泳ぎ続ける二匹。たとえミガルーサであっても、これを追いかけるのには難儀するだろう。
「遊びで泳ぐってのも久々だな」
「そうだね。大体トレーナー乗せたりとか、トレーニングの一環だとかだもんね」
「あぁ。いざ遊ぶってなるとどう泳いだものかな」
「じゃあ、こういうのはどうかな」
水中に潜り、ターンを決めて空へと羽ばたく。跳ねる飛沫、空に飛び立つ彼の姿勢、宙返りをして着水。それはまさしく海竜と呼ぶに相応しい、美しき姿であった。
「おお」
ドポン、と見事な着水と共に小さく感嘆の声を漏らす。手を叩くように、爪を軽く鳴らした。
「泳ぎの綺麗さでは勝ち目ねぇな」
そう言って首を横に振ると、ヴェンは自慢げに笑う。
「でしょ? だって僕だもん」
「お、やっといつもらしいとこ見せたな」
あっ、と情けない声と赤くなる頬。一転してケタケタと笑い始めるラファル。ぷく、と少し頬を膨らませながら控えめに抗議の声を上げる。
「今はいいでしょ。デートしてるんだもん僕ら」
「そうだな、今みたいに素直なぐらいが可愛げがあっていい」
「……うるさい。続けるからね」
ゴホン、と咳払いを一つ。へいへい、とそれ以上は無粋な真似をすることはなかった。また二匹は飛沫を大げさに立てながら泳ぐ。競争をしているわけではないが、彼らは自然とそんな風に泳いでしまうのだ。ほぼ同時に岸に到達したことを見やると、不敵に笑ってまた同時に泳ぎ始める。そうしていつしか夕暮れ時を迎えるのだった。
もうすぐ帰る時間か、と太陽を気にしていると、ヴェンはいつの間にか空を飛んでおり、手招きをする。つられるままについていくと、ヴェンは高さのある崖をいくつか飛び越え、オージャの滝前の小さな桟橋に、滝に背を向けて腰掛けた。不思議そうな顔をしながらその隣に座ると、ラファルはおぉ、と小さく感嘆の声を漏らした。
「綺麗でしょ」
「そうだな」
ラファルの眼前にある湖面は、夕焼けと同じオレンジ色に彩られ、小さなポケモンが飛び跳ねて波紋が広がる。ゆらり、移り変わる模様、激しく響く滝音。湖の水がどれだけ揺れ動こうと、恒久的にその形を変えることはない。そんな湖面を、静かに二匹は眺めていた。
「実は、ずっとラファルとここに来たかったんだ」
先に静寂を破ったのは、ヴェンだった。足をゆらゆらと動かしながら夕焼け空を見上げ、しみじみとした声音で語る。ラファルはそれに返答はしなかったが、僅かに目線をヴェンに向けていた。
「ずっとね、思ってたんだよ。トレーナーさんと優勝したら、ラファルと二匹でここに来ようって」
「あぁ、確かにお前ら最近パルデアの大会で優勝してたな。しかし、それがどうしたんだ?」
「だって、『オージャの湖』だし! カロス一位の君とパルデア一位の僕。ピッタリでしょ、ここを見下ろすのに」
一瞬、面食らった顔をするラファル。だけど、一度思考を巡らせるとすぐに、吹き出すように笑い始める。
「……くく、くっだらねぇ。けどいいじゃねぇか」
楽しげに笑うラファルに、ヴェンは微笑み返す。そのまましばらく、二匹は黄昏時の湖を眺め続けていた。
***
太陽が水平線に沈んでいくのを見届け、湖から離れた彼らはチャンプルタウンへ着く。するとそこには、すでにヴェンのトレーナーが待っていた。
「あれ、何でお前のトレーナーいるの」
「お店の予約取ってもらったからね! ラファルに舌鼓打たせちゃうから」
「え? そう、なのか」
戸惑うラファルを知ってか知らずか、そのまま腕を引いてトレーナーと一緒にお店へ行く。強情な彼の引っ張る力は朝と同じ強さで、グイグイと引っ張られていく。
「ほら、ここだよ!」
腕を広げて紹介された店を見て、ラファルはヒッ、と声を漏らす。普段はここまで狼狽するところを見せないラファルが、分かりやすくビビる様子を見せていた。
「お前、ここはっ……!」
「うん。《ガストロノミー・ファミリア》だよ。ここチャンプルタウンのお店が特に有名でね、あんまり人気だから近くに二店舗もあるんだよ」
ふんす、としたり顔をして答えるヴェン。ガブリアス特有の青い体色故か、ラファルの顔が青くなっていることは見逃されてしまったようだ。首を横に振りながら、いつになく弱気に反論した。
「いや、俺テーブルマナーとか知らないし……!」
「気にしなくていいの、それに前の大会のファイトマネー、結構もらえたから安心してよ!」
そういう問題じゃ、と言えどもそれに効果は無いようだ。彼にとってラファルの抗議は《じだんだ》に等しいよう。あえなくそのまま、店の前へと連行される。
ヴェンのトレーナーが先に店の中に入り、少し話し声が聞こえたかと思うと、すぐにこちらに帰ってきた。ヴェンに何かしら声をかけたかと思うと、店の中を指差した。
「ありがと、トレーナーさん!」
元気よくそう言って、じゃあ入るよと隣に伝える。観念したかのように短い返事をして、ラファルは付き従った。
「ヴェン様、ラファル様お待ちしておりました」
深々とお辞儀をするは、ポケモンたちに向けてウェイターを務めるエルレイド。タキシードのような風貌の衣服に身を包み、綺麗な響きのテノールボイスにもてなされる。
「本日はいかがなさいますか?」
「こちらのフルコースで、ドリンクは……何が良い?」
「え、じゃあ……コレ」
「じゃあ僕もそれにしよ。《季節のきのみジュース》二つでお願いします」
どこか手慣れた様子のヴェンと、強張った顔のラファル。メニューの文字をじっと見つめていても、冷静さを取り戻せないようだった。
「緊張してる?」
「当たり前だろ。何よりお前や人間みたいに器用じゃないっつーか、そもそも物持てねぇし。なんて思われるかわかったもんじゃねぇ」
「あはは、ここなら大丈夫だよ」
ジュースを注がれたことを確認してウェイターに目配せをすると、ウェイターは一礼した後に少し席を外し、すぐに小さな長方形の籠を持って帰ってきた。こちらをお使いください、と籠の中からラファルの手元に並べる。それは、ガブリアスの爪にはめて使えるように手を加えられたカトラリーだった。生半可な材質では作られていない金属器、そのデザインを崩さぬように細やかな意匠が施された補助具がつけられていた。
「ここはポケモントレーナーに向けた格式高いお店。そんなお店だからこそ、お客様であるポケモンたちならどんなポケモンでもそんな振る舞いができるよう、手伝ってくれるんだよ」
席を立ち、紙エプロンをラファルの首につけるヴェン。照れくさそうに頬を染めたラファルに、ニコリと微笑みを返した。席に戻って自身の紙エプロンも身につけると、丁度ウェイターが料理を持ってきた。
「アミューズをお持ちしました」
大きく洒落た皿からは想像できない軽い音を立てて、目の前に置かれる、アミューズと呼ばれたもの。ケーキのような見た目のものに、ほうれん草やベーコンが混ぜ込まれている。そんなケーキ型のそれはオリーブオイル、ブドウで周りを飾られていた。
「これは……」
「こちらは《マミーのキッシュ》です」
当店自慢の一品なのですよ、と補足して説明するウェイター。香ばしさと甘さが同居した匂いが鼻腔をくすぐり、食欲が掻き立てられる。ラファルは鼻を少し鳴らしながら、マジマジとそれを見つめていた。
「……いただきます」
思わずそう呟いて、まずはフォークを持つ。ゆっくりと端っこを取って一口。次いで二口、三口。最初の注意深さはすぐさま忘れてしまったようで、勢いよく食べていた。そんなものだから、皿の上から料理はすぐになくなっていく。
「……うまいっ」
食べ終わったラファルは目をキラキラとさせていた。その様子にヴェンは満足そうに笑い、自分のものも小さくナイフで切って食べていった。
それから届く料理も、ラファルはペロリと平らげる。前菜、スープ、魚料理、ソルベ、肉料理。ラファルが到底味わったことのない料理ばかりで、だがどれも美味しいのか、一口食べるたびに小さく上機嫌な声を漏らしていた。
「お待たせしました、デザートの《フィスのコンポート》でございます」
いつしかフルコースは終わりを迎え、最後のデザート。中央にカットされたリンゴの果実が鎮座し、その周りをジャムソースが彩る。まさに一級品といった見た目だ。それを一瞥すると、ラファルはじっとヴェンを見つめた。
「カジッチュの絵柄とりんご、か」
「うん、何よりこれを食べてもらいたかったんだ。可愛いでしょ?」
「……あぁ、そうか」
ヴェンは笑顔を崩さないどころか、さらに和やかに笑っているように見えた。だが、ラファルが力無い返事をしていたことには、全く気に留めていない様子だった。
「甘くて、酸っぱい」
デザートフォークを手に取らぬまま皿をじっと見つめて、ラファルはそう口にしていた。
豪華絢爛なお店を後にし、夜の街並みに戻りながら、ラファルは伸びをする。
「はぁ〜、一生分のエネルギー使った気がした」
「えー? 美味しかったでしょ」
「バカ。高級店は逆に気が張るんだよ」
ふーん、と物言いたげな目をするヴェン。それに目を合わせないように反対側を見ていると、彼はその目のまま覗き込んでくる。頬をかきながら、小さくため息をついて答えた。
「……まぁ、でも。うま、かった」
「ふふ、でしょー?」
その言葉を待ってました、と言わんばかりに笑顔を浮かべる。そうして、チャンプルタウンの街を歩いていると、段々と彼らの身体の距離が近くなった。
「……ねぇ、ラファル」
珍しく小さめな声で言いながら、ぎゅっと腕を掴むヴェン。こんな夜なのにまだ行きたいところがあるのか、と純粋に疑問に思う様子で問いかけると、それに躊躇いがちに、頬を赤らめて、顔を逸らした。何を言いたいんだ、と首を傾げていると、周りの光景がふと目に入る。思わずラファルは驚きで飛び跳ねた。
「ダメ、かなぁ」
辿り着いたのは、所謂ホテル街。それも、ただのホテル街ではない。「休憩」として用いることができるホテルだ。最近はポケモンたちのためのそれもできてきて、すぐ眼前にはチカチカとした街灯を輝かせて来訪を待っていた。物欲しそうにするヴェンに対して、ラファルは目を見据えて、はっきりと答えた。
「それはダメだ」
「え……?」
「それだけは、絶対にダメだ」
強く、強く否定する。嘘だと思わせる余地もない、真剣な眼差し。それに、ヴェンはたじろいでいた。
「どうしても、ダメなの?」
「あぁ」
「……そっかぁ」
しゅん、と俯くヴェン。見るからに切なそうで、ラファルも流石に居た堪れない気持ちになった。あのな、と何か声をかけようとしたとき、ヴェンはばっと顔を上げる。
「じゃあ、じゃあさ! 本番しないなら、いいよね!」
「……は?」
信じられない言葉が聞こえ、ポカンとする。何か言おうと口をパクパクとさせているが、言葉を発することができない様子だ。だが、一つ言えることとしては。
「ねっ、お願い!」
そんな無茶なお願いをすぐに断れず、既に迷いを見せてしまっている彼は、おそらくこのヴェンの懇願に押し切られてしまうだろう、ということだ。
***
「はぁ……」
先に湯浴みを済ませ、今日一番のため息をつくラファル。ベッドの上で静かに待たされて、しかめっ面をしている。
「ふぅ、洗ったよ」
遅れてシャワー室から出てきたヴェン。ちょうど人間のヌードモデルがやりそうなポーズをとって、ウインクをしてみせる。
「ね、水も滴るいい男ってやつだよ。ときめかない?」
「……うるせ」
[[rb:交渉術 > ドアインザフェイス]]をまんまと通され、惨めに待たされていたラファルは不機嫌を顔に描きながら、全くヴェンに目を合わせようとしない。むしろ、睨むような目つきをしていた。
「それじゃ、やるよ」
「早く、済ませろよ」
そんな跳ね除けるような態度を取られても、ヴェンは一歩一歩近づく。一向に視線を合わされることはなくとも構わぬ様子で。目の前で跪き、そのまま、ラファルの股に口付けをした。
「ふっ……⁉」
目を瞑り、ビクッと身体が跳ねる。あのカイリューの手よりも柔らかい、肉厚な舌。それが、ラファルの敏感な部分をちろりと掠める。
「くっ、ぐうっ……」
その刺激に、容赦なくラファルの身体は生殖を始めんと反応し始める。嫌がっていても身体は震え、そして舐められている縦筋が、ゆっくりと大きく開いていく。
「ま、まず、勃つ……!」
もう、顔を逸らしている余裕などないようだ。目をぎゅっと瞑り、自然と正面を向いてしまう。身体は丸まり、堪えるように全身が力む。
「ふあっ……ああっ!」
されど、その我慢の効果は無いようだ。ずるっ、と縦割れから長い長い分身が顔を出す。ピンクみのある赤が、威圧感を覚えさせるトゲトゲしたドラゴンの身体を彩る。ポケモンによっては、グロテスクだとか、さらに怖さが増したとか、そう言った感想を抱きかねない風貌だった。
「良かった。ラファル、気持ち良さそうで」
しかし、ヴェンはそれを見て逆に喜び、逸物を躊躇いなく舐める。恐怖なぞ全く覚えていない、彼から見えるのは親愛の感情ばかりだ。
「えへへ、嬉しいな。僕のフェラで、感じてくれるの」
「あ、あぁ……」
にへ、と心底嬉しそうな笑み。ラファルが感じていることを揶揄うわけでもなく、ただ喜んだ様子の表情。そんな彼を見て、拒絶していたはずのラファルが頷かされている。
「ね。もっと、君を味合わせて」
声は真面目なトーンではあるものの、性欲に蕩けた表情と合わさると妖艶に聞こえてしまう。そんな彼にあてられてか、心配そうな表情を浮かべつつもまた頷いてしまう。ありがと、と一言告げて、そのままラファルの竿をパクリと飲み込んだ。
「あっ、ああっ」
口の中に消えていく逸物。珍しく高い声で鳴くラファル。生暖かい、ねっとりとした刺激が襲いかかる。
「が、ヴェン、それ……っ!」
涙目になりながら、背を丸くする。器用に舌を動かして、敏感な裏筋を刺激しているのだ。口全体を使って圧をかける動きと、舌で優しく撫でるような動き。この二つの動きで、ラファルはまた一段と大きくさせる。
「くそ、うますぎるっ……うっ!」
大きく身体が跳ね、ヴェンは一瞬動きを止める。こもった音だが、微かに液体が跳ねる音がする。コク、と小さな嚥下音を立てると、うっとりとした表情で舌舐めずりをした。
「えへ、いっぱい先走り出た」
「わ、悪いな……不味くなかったか?」
「いや、美味しいよ。ラファルのなら、なんでも美味しい」
「そう、か」
何でもないかのように淡々と言われてしまい、ラファルは口を閉ざす。ふふ、と穏やかに笑って、ヴェンは見上げる。
「じゃあ、次は白いの、ちょうだいね?」
その言葉を否定することができず、彼の奉仕を待つように、彼のフェラを期待するように、じっと見つめてしまう。無言の承認を得たヴェンは、妖艶な顔を浮かべて、またその逸物を咥えた。
吐息と唾液の擦れる音が、また部屋を埋め尽くす。だが、ラファルが浮かべているのは先ほどまでの嫌そうな顔ではない。大きな呼吸で胸を萎ませ、膨らませ、そして時折、小さく湿っぽい声を上げている。まるで甘味を食べたかのような満足げな顔を浮かべる一匹も含め、今はここには互いを求める雄しか居なかった。
「そろそろ、いく、ぞっ……!」
その声に笑顔を返し、僅かに聞こえる、ちゅるっと吸い上げる音。その音とともに、ラファルは腰を小さく上げた。
「くっ、はぁっ、はぁぁっ……!」
ん、とくぐもった声が静かに聞こえ、コクコクと飲み下していく。水筒を一気に飲み干してるかのように、グビグビと躊躇なく飲み込む。ラファルの放出が終わるまでに一分が経った頃、漸く口を離された逸物は、中に残った僅かな白濁を飛ばしながら、バネのように揺れて上を向いた。
「はぁ、はぁ……すっげ……すげー量出しちまった」
「もう、ほんと。息詰まるかと思ったよ」
美味しかったけどね、と舌舐めずりして言われ、複雑な顔を浮かべる。本当は口の中に出すつもりはなかったのに、と小声で言いながら、頬を赤らめていた。
「しかし、お前もあくまでただの勝負なのにさ。ここまでしなくて良いだろ」
おかげでスッキリしたけどよ、と言ってみるが、ヴェンはそのまま立ち尽くしていた。どこかボーッとした様子で、ラファルをずっと見ていた。
「……おい。どうしたんだ、俺の顔じっと見て。もう帰るぞ」
そう声をかけてみても、反応がない。不審に思いつつも、ヴェンのいない方から立ちあがろうと、身体を回したその時。突如後ろから押され、バランスを保てずにベッドに倒れ込む。何事か、と身動きを取ろうにも身体全体を押さえ込まれて、ピクリと動かすことができない。こんな二匹きりの状況で、しかも筋肉隆々の大雄竜(おおおとこ)を無理やり押し倒すなんて、誰が可能なのか。自明であるが故に、ラファルは酷く、酷く動揺した。
「お、おいっ! 何しやがる⁉」
「ごめん、ラファル。本当は、君がダメって言ったから、我慢しなきゃなんだけど……」
言葉とは裏腹に、少し萎びたラファルのそれに、熱いモノが掠める。会陰部が擦られ、香る雄の芳香。もがき、それを拒もうと声にするが、無情にも身体は動かない。先端がそこを捉えた瞬間、ヴェンはこう、口にした。
「僕、君が、欲しい」
その言葉に、ラファルは一瞬射止められてしまい、身体を硬直させてしまう。それは、致命的な隙だった。
「んぐっ……⁉」
ぬち、ぬちと大きな大きなヴェンの逸物が、ラファルの中へ入っていく。いくらか引っ掛かるように何度か腰が止まるが、初めてにしては滑らかな入り方だった。
「おいっ、ヴェン! 待て、それだけはっ……んうっ!」
今になって必死に言葉で拒むが、身体は少し動くだけ。
目を顰め、快感に悶えながら、本来出口であるはずの秘所がヴェンを簡単に迎え入れてしまう。巨大な逸物が全て入り、顔を歪ませている。だが、息つく間もなく、逸物が抜かれ、また差し込まれる。彼らの『交尾』が、始まったのだ。
「ラファルっ、ラファルぅっ!」
「ひっ、ああっ!」
《さめはだ》で傷つくことなど微塵も気にしてないように、力強く抱きしめて腰を打ちつける。乱暴な攻め、というより暴走しているかのような攻め。それにラファルは、甲高い鳴き声、まるで雌のような悦びの声を漏らしてしまっていた。
「やめ、ろ……いあっ、くあっ!」
制止の声が聞こえなかったのか、無我夢中に、ラファルのナカを掻き混ぜる。パンッ、パンッと響く乾いた音。我慢しようと、歯を食いしばり、ベッドシーツに爪を突き立てる。
「ラファル、すきっ、すきっ!」
「うあ、ヴェン……っ、俺、はぁ……!」
しかしどんなに我慢しようと無駄だった。ラファルのモノは主張を強くするばかり。快楽を自覚してるにも関わらず、そのように我慢しても竿を大きくさせる結果しか産まない。段々と身体で隠せないような大きさになっていき、さらにはシーツと擦れるようになってしまい、直接的な刺激まで感じてしまう。
「ああっ、うっ、はあっ!」
首を横に振りながら、より深くベッドに爪を突き立てる。だけども、全く嬌声は収まってくれず、寧ろどんどん大きくなる。雄でありながら、善がり狂って、啼き喚く。強く叩くようなピストン運動を歓迎するように、艶かしく腰を動かしてしまう。まるで、最初からソレを求めていたかのように。
「まずっ、いく、いっちまう……!」
「イって、僕のちんちんで、イって!」
二匹は息を荒くしながら、情事に励む。一匹は苦しそうにしつつも、快楽の証を震わせている。もう一匹は、その身を震わせ、鮫肌で身体が痛むのすら忘れ、果てへ導こうと腰を動かす。必死に、必死に。そして、それは結実を迎えた。
「んっ、ぐああっ……!」
ぽた、ぽたた、と股座から液が漏れる音がする。激しい音ではないが、長く長くそれは続く。ピストンに押し出されるように、何度も何度も白濁が漏れ出ていく。あまりキレイな音は鳴っていなかったが、それでもヴェンは顔を綻ばせた。
「ラファル、僕も、出すよっ!」
栓をするように大きくなるヴェンの逸物に、ラファルは白濁を漏らしながら掠れ声で喘ぐ。ぱん、ぱん、ぱんと鳴らされる破裂音はどんどん激しくなる。何度目かわからぬ抽送の最中、ヴェンの身体がビクッと震え、ラファルにギュウと抱きつき、腰をグリ、と密着させた。
「うっ、ううっ!」
「ああっ、あっちぃ……!」
ぐちゅ、ぐちゅと中に注がれていく。溢れ出す白濁、快感。孕ませるかのような射精に、ラファルはまた精液を漏らす。絡むヴェンの腕を見ながら、一滴、二滴と涙をこぼした。
荒れた息遣いも止み、嫌に静かになった部屋の中。ヴェンはラファルの上から降りつつ、バツが悪そうな顔をしていた。
「ら、ラファル。その、さ……」
ずる、と繋がりが解けながら、躊躇いがちにラファルに声をかける。しかし、ラファルはよろめきながら起き上がり、振り返ることなく声を発する。
「流石に、冗談が過ぎるぞ」
それは、底冷えした声。それに一瞬たじろぐも、ヴェンは歯を食いしばり、反論を唱える。
「じょ、冗談なんかじゃないよ! そりゃ、今日のは勝負って言ったけどさ……」
「あぁ。所詮、勝負のための『コレ』だろ」
ジロ、と睨みながら言われたそれに、続きの言葉は発されない。バトルの時以上に強い、絶対に有無を言わせない圧に、ヴェンですら楯突くことができない。それは、とだけ言って惑う様子に、ラファルは舌打ちをした。
「この勝負は、忘れてやる。俺のターンもいらねぇ。二度とこんなことするな」
「ラファル⁉ ま、待ってよ、ラファル!」
外に飛び出すように出て、ドアを乱暴に閉める。ヴェンの声はドアに阻まれ、広々とした部屋で一匹、取り残される。やってしまったと呟き、俯いた。
[newpage]
[chapter:ガブリアスのこうげき!]
テーブルシティの街中。フワリと一匹のポケモンが着陸し、小さな歩幅で街を歩き始めた。腕で涙を拭いながら、夜の街を練り歩くそのポケモン。どうやら当てもないようで、ただただ彷徨い歩いていた。
酷く沈鬱な顔をして、歩幅も小さい。何かを見つめるように下を向いているが、その目は何もとらえていない。そんな風に歩いていたため、案の定看板に頭をぶつける。
「……はは、何やってんだか」
そのポケモン、ラファルは自嘲的に笑う。いつもの自信たっぷりな表情とは打って変わった力無い笑い。ただただ暗い表情であった。いつもの彼と同じポケモンだなんておそらく誰が見ても信じられないだろう。
《おいうち》をかけるかのように、ザーッと強い雨が降り注ぐ。急いで立ち去ろうともう一度顔を上げた時、その看板を見て何か気づいたかのような顔をした。逡巡しながらも、その看板をかけたお店のドアに爪をかける。
ベルがカラカラと音を鳴らす。それにすかさず反応して現れたのは、白いコットンが身体に纏っているかのような、ふわふわしたポケモン。チルタリスのアマネだった。
「すみません、もう閉店で……って、あれ? ラファルじゃない。今日は一匹?」
「……悪いかよ」
「いや、いつもよりは丁重なもてなしが必要そうな気がして」
「そんなのこのお店にあったのか、それならいつもして欲しいんだけどな」
「無理、アナタたちうるさいもん。早く帰ってもらわないと」
ああそうかい、とわざとらしく荒く近くの椅子に腰掛ける。いつもなら何か小言が飛んでくるところだが、彼女はすぐに客が来たことを店主に伝え、こちらに戻ってきた。メニューが手渡され、ラファルはそれを一瞥する。その内容は昼とは違い、酒やそのつまみになるものがラインナップとなっている。
「酒、あるか?」
「あるけど、いつもバトルに影響出るから飲まないって言ってたじゃない。大丈夫なの?」
「大丈夫じゃない、トレーナーが一滴でも飲んだら本当は良くないって言ってたからな。けど、今日は飲ませてくれ。今あるものなら何でもいい」
はいはい、と言ってコットンの羽をはためかせ、少しの間店の中に戻っていく。ラファルは酒を飲めない年齢でも禁止されてもいないが、その言葉を信じていつもは守っている。そのため、酒を飲むのは珍しいことなのだ。見た目に反して真面目よね、とアマネは零していた。
注文が通るのを待つ間、少し気だるそうに肘をついて、はぁとため息をつく。考え込む仕草をしたのちに、またも大きなため息。また考え込んで、三度ため息。それをずっと繰り返していた。そんなラファルの目の前に、透明な液体と三個の小さな氷が入ったグラスが置かれた。
「……なんだこれ、水か?」
「ホウエン地方の地酒ね。きっと口に合うわ」
怪訝に思いつつも、両爪を器用に使って持ち上げ、クイと一口。口をつけた瞬間は辛そうに目を顰めていたが、すぐに思い切りグラスを傾け、ぐびぐびと飲む。感嘆の声をあげ、グラスを机に置いた。
「今日は美味いもの尽くしだ」
そうは言いつつも、表情はまだ暗いまま。もう一杯頼む、と言うと、すぐに瓶を持ってきてコトコトと注ぐ。氷が揺れ、パキンと割れる音が響いた。
「それで。ヴェンとなんかあったんでしょ」
「……なんで分かるんだよ」
「なんででしょうね?」
うふふ、とふわふわの羽で嘴を覆い、笑うだけ笑ってはぐらかす。頭を掻く仕草をしつつも、ラファルはそれを追及することはなかった。
「それで、何があったか聞いてもいいかしら」
反対に、アマネがそう問いかけると、暫しの静寂。目線が彼方此方に飛んだ後、一度深呼吸する。そこでようやく、ラファルは口を開いた。
「……今日、アイツに襲われた」
「へぇ……ええっ⁉ 嘘でしょ、アレが⁉ お赤飯炊かなきゃ!」
「おせきはん……?」
慌てふためく彼女に首を傾げるラファル。なんのことやらピンと来ていない様子の彼に、コホンと一つ咳払いして、平静を取り戻す。
「……でも、アナタのその顔見る限り、嬉しくはなかったのね」
「まぁ、最悪だった」
ラファルは窓越しに外の夜空を見ながら、呟くようにそう言った。ガラスには無数の水滴が付着しており、彼には暗く澱んだ空にしか見えなかった。
「最初は、別に良いと思ってた。デートバトルなんて持ちかけられて、ふざけてるなと思ったけど。まぁ遊びに付き合うくらいならそれで良い。嘘みたいな甘い言葉も、考えようによっては悪くないかなと思ってた」
グラスの中の氷が、カラリと崩れる。視線が酒の方へ行くと、まだ半分以上残っていることに気がついたのか、も一度それを口元に持っていく。
「けど、一線を超えるのはそんなんじゃ嫌だ。俺の気持ちを、バカにしないで欲しいって」
ぐび、ぐびと勢いよく酒を飲み干す。ガタン、と地面に少し強く置きながら、憔悴したかのように俯いていた。
「ガキみてぇだよな」
吐き捨てるように、ラファルはそう口にする。その口元は少し震えており、頬に水滴が伝う。それが地面に落ちる前に、アマネは柔らかい翼で拭き取った。
「いいや。それはラファルが大事にすべき想いだよ。何も、間違っちゃいない」
フッと微笑みかける顔はとてもとても優しく、まるで親やトレーナーのよう。ふわふわの羽毛の翼で器用に瓶を持ち、ラファルのグラスにそれを傾ける。
「けどこのままじゃ、アナタたちがお互い傷ついたまんまだ。それこそ本当にもう元には戻れなくなるだろうね」
「じゃあどうすれば」
コトコトとおかわりを注いでくれる彼女にそう問いかけると、簡単さ、と言ってニコリと笑みを浮かべた。
「ラファルもやればいいんだよ」
「やればいいって、何を?」
「いつもヴェンにしてるでしょ、仕返し」
「仕返し……?」
まだアマネの言葉の意味にピンときていないのか目を顰めるラファル。その頭を、アマネはそっと頭を撫でた。
「そのまま、意趣返ししてあげたらいい。いつも喧嘩してるみたいに、お返ししてあげな。そしたらきっといつもみたいに戻れるさ」
「それ、いつも俺がアイツと同じことやってるだけって言いたいのか」
「え? 違ったの?」
あっけからんとそう言われては、反論も全く思い浮かばず、ただ不満そうに目を細める。その様子を少し笑いつつも、今度はきちんと励ますようにこう言った。
「大丈夫よ、アナタたち似た者同士だもん。やってみたらお互い分かるって」
「……そうだな」
ラファルは酒を手に取ってぐびっと飲む。さっきより甘くないか、と聞くと、さてどうだろう、とだけアマネは答えた。漸く酔いが回ってきたのか、顔に温もりを感じていると、頬に月明かりが差し込む。ふと、窓の方を見ると、暗闇だけだった空に月が浮かんでいた。窓に付着した水滴がその光を拾い、キラキラと輝く。それはまるで、星のようだった。
「今日の夜空、こんなにも綺麗だったのか」
漸く笑みを浮かべたラファルを、アマネは優しく見守っていた。
***
朝日が昇る前、まだ暗闇が覆う夜空の下。ヴェンは階段に座り込み、空を見上げていた。
「来ない、よね」
約束した時間は、刻一刻と近づいていく。空に、白がかかっていく。されど、彼といつも一緒にいるもう一匹の姿は見えない。
「そりゃそうか、まだ朝早いもん。アハハ」
笑いながら、だが、どこか言い聞かせるように呟くヴェン。目は、どこか不安そうに揺らいでいる。街中にある時計の針は、二日前に設定した時間が刻々と迫ってきていた。
「もしかして、約束破られたの、初めてなんじゃないかな」
彼は、あぁ見えて極めて真面目なポケモンだった。いじっぱりではあるのだが、かわした約束を違えることはほとんどないし、あったとしても今回のように何も言わずに来ないなんてことはない。じゃあどうして来ないのか。その理由はヴェンの中で簡単に結びつく。膝を抱えながら、少しずつ少しずつ俯いていく。まだ人通りもない、静かな街の中、学校から朝のチャイムが聞こえてきた。
「……ごめんね」
そう、口にした時。ビュンッ、と大きな風音が。首を傾げながら顔を上げると、そこには見慣れた紺色の影があった。
「お、いたいた。遅れてすまん、酒飲んで寝過ぎたわ」
「ラファル……⁉」
彼が見間違えるはずもない、現れたのはラファルだった。頭をボリボリと掻きながら、欠伸をしている。まるで昨日は何事も無かったかのような態度の彼に、ヴェンは目を疑っていた。
「なんで、なんでここに?」
「なんだよ、俺が来ちゃ悪いかよ」
いつもと変わらない、不満げな態度でそう言うと、悪くはないけど、と細々と言う。それに満足したのか、フンと鼻を鳴らしてすぐにもう一度飛び立つ準備を始めた。
「ほら、行くぞ」
「行くって、どこに……」
「決まってんだろ」
そう言いながら、笑って振り返る。厳つい顔の彼の笑みは、とても柔らかい笑みだったように見えた。
「俺とデートに、さ」
***
「えと」
戸惑う様子を見せながら、前を飛ぶラファルについてきたヴェン。飛行高度が低くなるたび、戸惑いが強くなっているのか、より怪訝そうにひたいに皺を寄せる。
「ラファル、ここって……」
「あぁ、南五番エリアだな」
「いや、そうじゃなくてさ」
先にラファルが着陸し、ヴェンはそれに続く。テーブルシティの近郊で、ヴェンも何度か来たことがある。そのビーチは、『ひそやかビーチ』。パルデア十景と称されてからその名に反した賑やかさを得てしまい、他のビーチと比べて秀でているとも見做されることもなく、再度人気がなくなってまたひそやかさを取り戻してしまったビーチだ。そして、何よりヴェンが気にしているのは。
「ここって、いつも君たちが特訓してるところじゃん!」
そう、この付近はラファルたちがいつもトレーニングしている場所。仮にもパルデア十景に選ばれた場所、地味ではあるものの綺麗な砂浜で悪くない場所ではあるが、そこでデートの気分になろうなんて、無理がある。ラファルは、のんきな声で答える。
「あぁ、その辺は大丈夫。今日はウチのチーム、休みの日だからな。まぁトレーナーは戦術考察してるだろうけど」
クソ真面目だよなーと言いながら、バッグから特訓機材を取り出し、ぶっきらぼうに練習道具を投げ渡す。慌ててそれをキャッチし、釈然としない表情を見せていたヴェンに、ラファルは目を細めていた。
「なんだ、不満かよ? 俺と二匹きりで特訓するのが」
それとも、と二マリと笑う。
「俺の特訓について行けるか、ビビってんのか?」
プチ、と何かが切れる音がしそうな、そんな表情をヴェンは浮かべる。みるみる内に顔が真っ赤になっていき、まるで炎タイプのような顔色になっていた。
「……ビビってるわけないでしょ! 早くやろう!」
戸惑っていたのは何処やら、鬼の如く怒り狂うヴェンを、ラファルはケタケタと笑っていた。
「はあ、はあっ、はあっ……!」
ずし、ずしと重厚な足音が止む。ヴェンの両手両足には、大層大きい重りがついており、その足音の発生源は容易に想像がついた。だが、その状態で走る様子は想像できない。そんなものをつけて激しく走っていたのだから、その息は荒く、ひどく疲れているようだった。その横を颯爽と走り抜ける鮫龍。大きな重りをつけて走り抜けており、まだ余裕そうにしていた。
「もうギブか? まだ準備運動だぞ」
「え、ええっ⁉ なんで準備運動で重りつけて二十本も砂浜ダッシュするんだよ! こっちは普通のコートで半分程度しかしないよ!」
「弱音吐いてんじゃねぇよ、どうせお前ならついてこられるだろ」
次は水泳だぜ、とケロッとした顔で言う彼に、ヴェンは唖然とする。だけど、この自分勝手の権化が待つわけなんてなく、早くしろよ、と催促までされる。半ばヤケクソ気味に立ち上がり、ヴェンはラファルを追いかけた。キツイとは言うものの、ヴェンも一選手。必死な表情をしつつ、素早く身体をうねらせながら泳いで着いていく。泳ぎは彼よりも得意なため速度自体にはついていけるが、如何せん体力が問題。一本、二本、三本、四本。数が増していくに連れて苦悶の表情を浮かべるが、まだ本数は折り返してすらいない。だが、心が折れそうになっても、ラファルの姿が視界に入ると止めることを頭から投げ出してしまうのだ。
何とか所定の本数を終えて、水の中からずぶ濡れで上がってくるヴェン。くたびれているからか、瞼を開けることがままならない。しかし、ラファルはまだまだピンピンしており、立ち上がるのに難儀しているヴェンを助け起こす。ありがとう、という間もなく、信じられない発言を耳にする。
「よっし、じゃあ最後に往復飛行練習だな」
「えっ」
「ほら、五十本いくぞー」
パルデア最上位の実力者で、怖いもの知らずであるはずのヴェンが、この雄(おとこ)に恐怖を覚えさせられたのであった。
「はぁぁ……あぅ……」
「ほら、出来ただろ?」
「うん……でも、もう限界……」
ラファルに言われたメニューを一通り終えたヴェンは、ぐたり、と倒れ込んでしまう。体力が極めて劣っているわけではないが、こればっかりは種族としての特徴と、練習メニューへの慣れの差が出てしまう。しょうがないな、とラファルは隣に座り、倒れ込んだヴェンを見守る。ヴェンはお腹を大きく上下させて呼吸していた。
「ねぇ」
「なんだ?」
「いつも、こんな練習なの?」
「ま、そうだな」
なんでもないように、海を見ながらそう言う彼。ようやく息が整ったヴェンは、重たそうに身体を起こした。
「……すごいね」
「そりゃどうも」
すんなりとそう返事する彼を、ヴェンはじっと見つめている。それに気づいたラファルは、目を逸らして居心地が悪そうにしていた。
「なんだよ、なんか変かよ」
「いや、いつもなら意気揚々と煽ってきそうだなって」
「煽って欲しかったのか?」
そんなわけないじゃん、とヴェンが口をへの字にして拗ねる。ふーん、と懐疑的な目をしていたラファルは、火に油を注ぐ気満々の表情だった。
「てか、そっちこそいつもなら褒めないだろ。俺に負けたらいっつもぴーぴー泣いてんじゃねぇか」
「さ、最近は泣いてないもん!」
「そうだな、最近はきーきーと喚いてるもんな」
「む〜!」
罵り合いの末、反論が出なくなったヴェンはポコポコと鮫肌を気にすることなく叩く。いてぇよバカ、と言うラファルは、穏やかな笑みを浮かべていた。
怒りが落ち着いたのか、はたまた完全に拗ねているのか。叩くのをやめ、また寝転ぶヴェン。それをちらと見たかと思うと、空を向いて話し始めた。
「ま、そりゃあ俺だって必死こいて練習するさ。かわいくねー後輩がメキメキ育って今や最有力な優勝候補になりやがった。負けたくねぇ……いや、勝ちてぇって思って当然だろ」
ぴく、と触覚を少し動かし、半分だけ顔をその声の主に向ける。それに気づくと、にっといつもの不敵な笑みで迎えた。
「このまま落ちてくわけにゃいかねぇしな。ありがたいことにまだソイツにライバル視されてるし、なぁ?」
「ラファル……」
今度は逆に、完全に顔を逸らす。しかし、頬はどこか赤く染まったように見え、ラファルは少し大きめな声で笑った。
「また顔赤くなってんぞ。大丈夫か?」
「べ、別に……」
返答することができず、なら良かった、と言いながら立ち上がり、爪をヴェンに伸ばす。
「ほら、休憩できたろ? そろそろ次行くぞ」
その爪は大きくはないが、それが何よりも頼りになることを知っているヴェンは、ニコリと笑ってそれを掴む。簡単にラファルよりも大きな巨体を軽々と起こしてしまう、その爪を。そして二匹は次の練習へと戻っていった。
「次は『リンゴの葉切り』だ」
砂浜のど真ん中にぽつりとりんごが置かれ、その先端に小さな葉っぱが息づいている。ヴェンは砂浜と草むらの境目に立たされながら、練習メニューの説明を聞いていた。
「こっから飛んで、あのリンゴに素早く近づきながら葉を切り落とすんだ。ただし、本体は切ったらダメだからな」
分かった、と言ってその場で飛び立ち、そのまま低空飛行。助走もつけずにぐんぐんとスピードを上げて飛行し、りんごに向けて急接近。身体一つ分の距離まで近づいた時、《エアスラッシュ》を葉に向けて放つ。風の刃が地面を抉る音で、葉が切れた音など全く聞こえなかった。ラファルがリンゴを確認すると、切り落としはできていないものの、葉の上側に僅かながら傷が入っている。リンゴも全くの無傷なのを見て、ラファルはへぇ、と感心していた。
「初回からいい線いくじゃねえか、流石だな」
「成功はしなかったけどね。ちょっと狙いが上に逸れちゃった」
「高速飛行中にここまでコントロールできりゃ十分だろ」
それ以上は普通実戦に必要ねぇしな、と言いつつスタート位置に向かうラファル。大きく腕を回して身体をじっくりと解し、ゆったりと構えをとった。
「じゃ、俺見て学んでもらおうかな!」
三歩、助走をつけて飛び出すと、風がうねる音。ヴェンはあっ、と声を出す。凄まじい加速で、すぐさま最高速へ。その速度を保ったまま飛行し、リンゴの横を通り抜けると、ふわぁっと葉が浮遊する。足で砂浜に二つの直線を描きながら急停止し、ひらひらと舞う葉を手に取ると、それは無傷。付け根だけに翼を掠めさせ、葉を綺麗な状態で切り落とすことに成功させていた。
「どうだよ、綺麗だろ?」
字のままのようなドヤ顔。だけど、この飛行を見せられた後では勇ましさばかりを覚えさせられる。頭をかきながらも、すごいよ、とヴェンが言うと、ラファルは鼻を鳴らした。
「どこを切るかじゃなくて、どこを通れば上手く切れるかをイメージしろ。目的じゃなくて過程を考えるんだ。そしたら意外とすんなり行くぜ」
なるほど、と呟いて数秒考えたのち、何か思いついたかのように元の立ち位置へと駆け出していく。片目を閉じて、も一度置き直されたリンゴをじっと見据え、しゃがんで手で高さを合わせる。そして、満を持して、勢いよく飛び立つ。加速、加速、もう一度羽ばたいて加速。そのスピードはまさしく神速と言うのに相応しい。ビュン、と横を通る時に空気の刃が水平に放たれ、無限遠へと霧散していく。葉は綺麗に消え去っており、まるで最初から無かったかのような出立ちだった。気づけばその葉はひらひらと空から落ちてきて、戻ってきたヴェンが嬉しそうに拾っていた。
「へっ、飲み込み早すぎるだろ」
「ふふん、ラファルにできて僕にできないことは無いよ」
「言うじゃねぇか」
肘で肩を突き、あと三セットやるぞ、とリンゴを取り替えて歩き出す。うん、と満面の笑みでヴェンは頷いた。
***
「よっし、練習終わり。お疲れさん」
「ん、ありがと。水筒まで用意してるなんて、準備いいね」
「まぁな」
先に座っているヴェンに水筒を手渡すと、ラファルはどさっと横になる。終わってみると、ヴェンも爽やかな顔をしている。元々ポケモンバトルが好きなのだ、こう言った練習は辛くとも嫌いではないようだ。
波音が、さざめく。夕陽と合わせて、地味な見た目の砂浜が、まるでデートスポットかのような雰囲気を醸し出す。さながら二匹だけのプライベートビーチだ。ヴェンは微笑みを浮かべ、昨日と同じように夕陽を見ていた。ここの夕陽は何度も見ているはずだが、ラファルもずっとそこから目を離せなくなっていた。
「ホントはさ、お前みたいに凝ったデートプラン用意してやりたかったけどさ、どうも俺には思いつかなくてな。結局こういう無骨なのに落ち着いちまった」
すまんな、と言うラファルは珍しくバツの悪そうな顔をしていた。それがおかしかったのか、ヴェンはクスクスと笑った。
「おい、何がおかしいんだよ」
「いやぁ、そりゃ大変だったけどさ。そんな不安にならなくても、ちゃんと楽しかったよ」
「……ははっ、そうだな。オレと練習するなんて、楽しいに決まってるよな」
「うんうん、ラファルはそうじゃなきゃ」
申し訳なさそうにしていた彼はどこへやら、さも当然だと言いたげに笑うラファルに、ヴェンは小さく頷く。野生の
ポケモンの鳴き声もほとんど聞こえず、変わらず鳴る波音がやけにうるさいように聞こえる。しばらく、彼らは何をするでもなく、ただその空気を堪能していた。
夕日が水平線に沈むのを見送り、小さな星々が迎えに来た頃。ヴェンは少し名残惜しそうにしながら、ラファルに声をかけた。
「日も暮れたし、そろそろ帰る?」
「いーや。最後はお決まりのやつだ」
「お決まりのやつ?」
とぼけた声で聞くヴェンに、ちっち、と舌を鳴らした。
「特訓の後って言ったら、そりゃあアレだよな」
ほら、とヴェンの後ろを指差す。指差した先には、綺麗なチェック柄のクロスがかかったテーブル。それはまさしく、ピクニックに使うためのテーブルがそこにあり、ヴェンは口をポカンと開いていた。
「……準備いいね」
「まぁな」
ふん、と鼻を鳴らして自慢気な顔。机の上に置かれた篭を器用に開いて、バケットを取り出した。
「折角だし、サンドイッチ作ろうぜ」
「え? できるの?」
「いや、ほとんどやったことない。けどま、こういうのは初めてやる方が絶対面白い」
「食べ物の無駄遣い……」
「落ちたのも全部食うからいいんだよ」
目を細めるヴェンを尻目に、バットにたくさんの具材を並べていく。好奇心の赴くままに、好きな素材をドカドカと投げ、全く普通のサンドイッチでは見ないような組み合わせの具材だった。だが、雑に沢山置かれているはずの具材にも拘わらず、最初は呆れていたはずのヴェンはラファルの手元をじっと見ていた。
「すっごく具材あるじゃん、僕も作ろうかな」
「いいじゃん。どっちが上手いか勝負だな」
「乗った! 絶対負けないもんね」
ウキウキで負けじと作り始めるヴェン。相変わらずだな、と呟きながら、ラファルもひょいひょいと具材を乗せていく。それは韋駄天の如く素早い盛り付けだ。その手つきだけを見ると、美しい出来のサンドイッチを期待できるほど、素早い手さばきであった。
「すっごい不恰好」
「うっせ」
だがそんな期待通りのものができるはずもなく。出来上がったサンドイッチは少し、いや、大層崩れており、ほとんどの具材がパンの淵からはみ出している。これをサンドイッチと呼んでいいのか疑問を持つような、賞賛の言葉などお世辞にも言えないようなクオリティだ。そんなサンドイッチを作ったラファルは、ヴェンの作ったサンドイッチを見てフンと鼻で笑っていた。
「お前だって下手っぴじゃねぇか」
ヴェンの横に鎮座するは、一か所に無理やり重ねられていて、ピックで何とか接続を保っているようなサンドイッチ。これまた食べづらいことこの上ない様子で、ラファルからの反論も真っ当であった。ただ、それはヴェンが反論することに対しても言えることで。
「ラファルよりマシだよ」
「いーや、オレの方が上手いね」
また言い争いを始める二匹。相変わらず根拠なんて一切ない言い争いになり、額をぐりぐりと押し付け合いながら睨みあう。いつもならここからノンストップで喧嘩を始めるが、今回に限っては、お互いそれぞれ作ったサンドイッチを半分にし、交換を始めた。
「ま、見栄えよりもまずは味だよな」
「だね、勝負はそこだ」
お互い具材が溢れていることや飛び出しているのは一旦見て見ぬフリをして、相手が作ったサンドイッチに大きな口を開いてかぶりついた。ゆっくりと咀嚼していると、段々となんとも形容しがたい、絶妙な表情に変わっていく。口直しのつもりなのか、慌てて自身が作ったサンドイッチを食べると、苦悶の表情を浮かべ、そしてお互い、お腹を抱えて笑い始めた。
「どっちも微妙だね」
「あはは、そうだな」
どうやら珍しく、互いに引き分けということに異論が無いようだ。だが、それなのに両者共に楽しげで、どちらも勝負に勝ったかのような表情だった。
何とか微妙なサンドイッチを平らげ、ヴェンは少し膨れたお腹をさすっていると、ふとラファルはまた立ち上がり、バスケットをゴソゴソと漁り始める。
「あれ、も一個作るの?」
ヴェンの質問に、ラファルは静かに頷いた。ただ黙々と、強張った面持ちで、バナナ、パイン、リンゴ、そしてキウイを乗せていく。案外整ったトッピングになっていき、先のサンドイッチと比べるとどうしても練習していたのかと口にしてしまいそうな出来栄えだった。
「……なぁ」
最後にパンで挟んで仕上げというところで、急にラファルから声を掛けられ、なに、とヴェンはおそるおそる聞き直す。
「昨日の。本心からやったってので、いいんだよな?」
「……どう言うこと?」
ヴェンが首をかしげると、少し大きな呼吸音が聞こえる。声も幾分か、かすれているようにも聞こえる。先ほどから強張っていた表情は、どうやら緊張故のものであった。
「俺は、こっからやることは、勝負だって言う理由でやりたくない。お前が嫌なら、したくないんだ」
慎重に、慎重に言葉を選びながら話す。少し辿々しく、わずかに視線があちこちにブレている。だが、それでも彼は目を見据えて確かに伝える。
「分かるだろ? これは、夜の誘いって奴だ。お前が、いいと思うなら、これを食え。そうじゃないなら、今日はここで解散だ」
ヴェンの目を[[rb:敢然 > かんぜん]]とした顔つきで見つめ、出来上がったサンドイッチを突き出す。甘い香りを漂わせるそれは、完璧な出来とは言えない。だが、それを丁寧に作ったということだけは、よく分かる見た目だった。そんなサンドイッチを手に、ラファルはヴェンに問いかける。
「どうす……」
しかし、その問いかけを言い切る前に、ヴェンはラファルの口元を覆い隠す。僅かに鳴る、花が開くような小さな音。驚いているうちに、サンドイッチを半分に割って、これは美味しいよ、と言ってもぐもぐと食べ始めた。
「……お前なぁ」
「いいじゃん、後でラファルもしてくれるんでしょ?」
少し悪戯っぽく笑いながら、ヴェンは口元についたクリームを舐めとる。それはそれは、無防備に。ラファルはその隙を見逃さなかった。
「……っ⁉」
襲いかかるように飛びつくラファル。ヴェンがよろめくと、片腕を頭の後ろに回しながらもう片腕で更に体重をかけ、地面にお尻をつかせる。そのままゆっくりと寝かせ、そして完全にヴェンに覆いかぶさった。
「後でになんて、取っておけねぇよ」
有無を言わさず、ラファルは唇を奪う。ピトリと接合する、二人の口。最初こそヴェンも驚いていたが、すぐにその身を委ねるように、目を閉じる。それに合わせて、ラファルは舌で口元をつつく。口を開き、その舌を中に迎え、自分から絡ませる。立入の承認を得た龍は、自分の唾液で塗り替えるかのように、口や舌の隅々まで舐める。長く長く、そのキスは続き、終える頃に二匹は肩で息をしていた。
「もう、がっつきすぎでしょ」
「先に仕掛けたのは誰だったかな?」
さぁね、と惚けるヴェン。おいおい、と軽く窘めながらラファルは抱きしめる力を強くする。ざらざらしていない、柔らかく滑らかな身体。傷つけないよう、慎重に頬ずりして、笑みをこぼす。ヴェンは少しこそばゆそうに身を捩らせた。
「さて、と。まずは、昨日の仕返しをしなきゃだよな」
「あー、えーっと……優しくしてね?」
「今更生娘ぶっても遅いぞ」
身体の上下を逆転させ、顔の正面にヴェンの股を見据える。爪で優しく横割れを開き、そこをちろりと舐める。すると、すぐさまとろけた甘い声が、ヴェンから漏れた。
「んっ、あぁ……」
「どうした? いつもツンケンしてるのに、ここ舐めたらやけに素直じゃねぇか」
返事こそされなかったが、やけに静かになる。それに勢いづいたのか、悪戯っぽく笑みを浮かべ、舌をそこに入れる。中身の筋張ったところを舐めとった時、ヴェンは身体を震えさせる。
「あっ、そこっ……!」
「へへ、欲しがりさんだな」
少し舐められるだけでその我慢は崩れるどころか、むしろ欲しがってしまうヴェン。その中にあるモノが、今にも外に放出されようとしていた。
「これからもっと気持ち良くなるぞ」
そう言って、もう一度スリットに口づけをしようとした、その時。
「……んおっ、おいっ、ヴェン!」
突如、ラファルの声が、裏返る。背後を振り向いた顔は、怒りと恥ずかしさが混じった顔をしていた。
「えへへ、もっと気持ち良くしてくれるんじゃないの?」
下で寝ている悪戯っ子が、挑発するようにそう言ってくる。その表情はやけにしたり顔だった。少し怒ったように、頬を染め、ぎりりと歯ぎしりをしている。
「誰が俺のを舐めていいと……!」
「でもさ、ラファル、僕の舐めて興奮してるし。ここも気持ちよくしたげないと、可哀想だよね」
にこーっと笑って指摘されると、ラファルは顔がりんご飴のようになる。見やると、ラファルの股はその砲身を力強く主張させていた。まだ、何にも触れられていなかったのに。それに相当恥ずかしさを覚えている様子だったが、すぐにその場でごほん、と咳払いし、平静を取り戻したかのような表情を繕う。
「よし。勝負だ。先に相手をイかせた方が勝ちにしよう」
「さっきは引き分けだったもんね。まぁ、こんな様子じゃ余裕で勝っちゃいそうだけど」
「ふん、言ってろ」
売り言葉には買い言葉と、お互いバチバチに煽り合う。言葉面をそのまま受け取ると、どちらも勝負を受けて仕方なく口淫を始めようとしているかのように見える。その割には、二匹ともやけに口元が緩んでいた。
先に咥えたのは、ヴェンだった。一気に口全体で飲み込み、飴玉のように舌の上で転がす。負けじとラファルもヴェンのスリットの中身を舌で引き出し、すぐさま先端を捉え、口の中へと導いていく。しょっぱ、と顔を顰めながらも、奉仕を始める。じゅぽ、じゅぽと顔全体を大きく動かして奉仕する。ひょっとこのような口元になってもお構いなく、ラファルは激しく攻め立てる。一瞬ヴェンの足が震え、動きが止まる。これがいいのか、とラファルは動きを激しくしようとしたとき、逆にビクッと腰を浮かしてしまう。ヴェンに先端をこねるように舐められ、あっ、と甘い声を漏らす。笑い声が足元から聞こえ、また仕返しと奥まで飲み込む。
風音、波音、そして奉仕音。時折くぐもった声が漏れ、二匹とも気持ちよさそうにしていた。一度小休止と口を離すと、二匹の口周りは唾液と我慢汁でいっぱいになっていた。
「へ、状況は五分ってところか……」
「まだまだ折り返し地点だもんね。こっから僕の本気見せたげるよ」
「ほーん、俺がもう本気だと思ってたのか? もっと気持ち良くしてやる」
互いに熱っぽい目つきになりながらも、煽り合うのをやめない。その股には快楽の証が聳え立っているにも関わらず、余裕を繕い、さも自分が優勢かのように見せかける。非常に滑稽であるが、それでも彼らはそれをやめられなかった。
再度咥え直す二匹。もう遠慮なしに、ガチガチに固まりつつあるソレをしゃぶる。目線は相手の竿に釘付けで、珍宝を舐めるのに夢中であるかのよう。それでもやはり、彼らはやめられない。どんな風に見えるか、知ったことではない。ただ相手を自分より気持ち良くさせることだけ考えていた。
緩めることを知らない奉仕は長らく続いていたが、終わりは突然迎えられた。呻き声と共に口元の動きはぴたりと止み、代わりに下半身を中心に身体が微振動を起こす。
「んうっ! ぐむっ、ぬうっ……」
「〜〜っ! むうっ、んっ!」
寸刻の違いもなく、同時に目を顰める。口元から白濁をこぼしながら、悦びの声を漏らす。ポタリと草むらに落ちる音と、ゴクゴクと飲む音。両者は相手の竿を見ながら、やけに恍惚とした表情をしていた。
「ぶはぁっ、はぁっ、はぁっ……。どっちが、勝った……?」
「はぁ、はぁ……。全然、分かんね……」
二匹は漸く口を離し、どろっと口から液を垂らし、肩で息をする。もう、勝負の結果を競うなんて考えられず、快楽で頭がいっぱいいっぱいなようだ。だが、今の彼らには結果など僅かなフレーバーに過ぎず、ただその勝負をすること自体が目的なのだ。だからか二匹は決着を無理につけることなく、とても楽しそうに、後腐れない表情で笑っていた。
「えへへ、気持ちよかった」
「……ん、そうだな」
ラファルは元の位置に戻り、二匹はまた口を重ねる。自分の精液がついていても、躊躇いなく。ぴちゃ、ぴちゃと音が立ち、尻尾が絡む。二重らせんを描くかのように絡まり、身体がギュッと密着した。キスを終えると二匹は見つめ合い、その余韻に浸る。その様子から彼らを番ではないと捉えるのは難しいことだった。
「なぁ、ヴェン」
伴侶に問いかける声は、穏やかで、優しくて、そして些か照れが混じった様子で。少し震えた声に、なぁに、と答えた。
「俺の、受けてみてくれるか?」
そう言ったラファルの顔は異常なほどに紅潮していて、ヴェンも釣られて頬を赤くしてしまう。それでも彼は、はにかみながら返答した。
「ここまで来て、それ無しってのはどうなのさ」
「へへ、そうかい」
余裕ぶった口調の割に、ラファルの声色はやけに嬉しそうだった。
「けどお前、流石にこっちは初めてだろ。上手くいくかわかんねぇけど、慣らしてみるぞ」
爪を軽く舐めて濡らし、ヴェンの穴を軽く撫でる。手つきに迷いがなく、しかしながら力遣いは丁寧。鋭い爪で力加減は難しいはずだが、サンドイッチの時と違い不慣れな様子を感じられない。そんなえらく手慣れた様子に、ヴェンは戸惑っていた。
「ね、ねぇ、なんか、手慣れてない……?」
「ま、自分の慣らしたことあるからな」
「へ?」
「ヴェンのデカいのに付き合うならある程度解しとかねぇと無理だろ? ただそれだけだ」
使う機会が来るとは思ってなかったけどな、とぼやきつつ、慎重に爪で入り口をくりくりと解す。しばらくは呆然としていたが、ハッとした様子でヴェンはこう言った。
「変態」
「うっせ」
ラファルは露骨に不機嫌を表しつつも、なおも加減をしながら秘部を解す。慎重に、慎重に。じっくりと、微弱な力を加え続けた入り口は、徐々に徐々に広げられつつあった。
「ん……」
「お、いい感じなってきたか?」
そのおかげか、ヴェンからも悩ましい声が漏れる。お尻の刺激によって快楽を感じ始めた証拠だ。それなら、と言ってラファルはその中に舌を入れた。
「んあぁ……⁉ そこ、舐めるのは、ばっちぃ……」
「いいんだよ、お前のそこならいくらだって舐めてやれる」
まぁでもいい味はしねぇな、と言いながらアグレッシブに舐める。蛇のように中で蠢かせ、湿り気を与える。
「ひう、ひゅう……! な、なんか、変になっちゃいそ……!」
「いいぜ、変になっても。俺は全部まとめて愛してやる」
「も、もうっ! 調子がいいことばっか言って、なんか、なんか……」
そこまで言って、手で顔を覆い隠すヴェン。ラファルは、そんな彼を問い詰めた。
「なんか、どうしたんだ?」
「う、うるさいっ! とにかく、責任、とってよ……」
「責任って、どう取ればいい?」
質問攻めにされて困っているところをニタニタと見守るラファル。全く顔を合わせることができないような状態で、珍しく初々しさが目立つ様子に、相当ご機嫌なようだ。暫くもじもじとしていたヴェンだったが、その次にラファルを見つめた視線は、覚悟を決めた目つきだった。
「きっ、君のを、ここに、ください……」
上目遣いで懇願するヴェンは、甚く扇情的。思わずごく、とラファルは固唾を飲んでしまう。暫く何も言えないまま硬直した後に、ラファルはため息をついた。
「……はぁ、なんか言わせたのに、負けた気分だな」
「なっ、なんかいった……?」
「何も言ってねぇよ」
ぶっきらぼうに言いながら、グイっと身体を密着させる。二つのオスの証が僅かに擦れ、目元が気持ちよさげに歪む。ふとヴェンを見やると、じれったそうに身体を捩らせ、もう我慢するのが難しそうに見えた。そして、それはラファルも同じ様子だった。
「そんじゃ、お前を変にした責任取らなきゃだな。いくぞ?」
一度果てたにも拘わらず、そして触られていないにも拘わらず硬度が保たれたそれをあてがうと、ヴェンはただ頷く。ふぅ、と息を吐きながらゆっくりと腰を沈めると、つぷ、と鳴らしながらヴェンの中へ入っていく。漏れる吐息は日が暮れた寒空の下で白い霧となり、断続的に口から洩れる。先端がヴェンの中へと消えたときに、ヴェンは頬をぴくっとさせる。ラファルは息をつきながら優しく問いかけた。
「どうだ。気持ちいいか?」
「まだ、ちょっと分かんない……」
「そんじゃ、今は危ないな。もうちょい慣らしてやらないと」
ゆっくり奥にいれてくからな、と言っても不安そうに見えない結合部を見ようとするヴェン。それを見て、ラファルは半挿しのまま動かすのを止め、声を掛ける。
「なぁ。お前、俺の好きなとことかあるのか?」
「えっ、いや……その……」
「急に聞かれたら思いつかないか」
「なっ、ないわけじゃないよ! その……」
躊躇う様子のヴェンに、早く言えよと急かすラファル。うるさいな、と口を尖らせながら、ゆっくりと口を開いた。
「カッコいい、ところ」
ぱちぱち、と瞬きをするラファル。どうも信じられないといった様子に、怪訝そうな反応を示していた。
「何だよ。何か悪い?」
「……いや、意外だなって」
「いいじゃんか別に、僕がラファルのことをかっこいいって思ったって」
ぷくー、と頬を膨らませる様子に、悪かったよとラファルは言う。心がこもっているようには見えないが、それでもヴェンは気を取り直して続きを話し始める。
「ラファルがバトルしてるとこ、ホントにカッコよくて尊敬するし。今日の特訓だって、今でも敵わないことまだまだあって、改めてすごいなぁって」
「へーぇ、尊敬してるって言いながらこの当たり方かよ?」
「それはバトル中のラファル。普段はほんっとに子供っぽいもん。いつも僕のこと子ども扱いする癖に、どの口が、って思っちゃうよ」
「なっ、お前だって……」
「ほら、すぐに躍起になって反論しようとするじゃん。そういうとこ子供っぽい」
「……うるせ」
図星だ、とヴェンはケタケタ笑う。今度はラファルが口をとがらせ、まるで立場が入れ替わったかのようになっていた。だけど、そこで追い打ちするのではなく、ヴェンはラファルを抱きしめる力を少し強くした。
「でも、だからこそかな。ラファルに近づけば近づくほど、僕に負けない、絶対に勝ってやるって思いが、ヒシヒシと伝わってさ。じゃあ、もっと頑張って、そして君にも勝って、いつかは勝ち越して。認めさせてやろうって思ったんだ」
とても楽しそうに、尊敬の眼差しを向けてそう語りながら、ヴェンは笑みを浮かべた。
「トップは、僕だって。そしたら、今よりもっと僕を意識してくれるでしょ?」
歯を出して、挑発するような口調。ラファルはふっと笑いながら、意気揚々と挑発に乗った。
「……バーカ。トップは俺だ。いつだって、俺はお前が憧れる、一番強いポケモンだ。お前にだって、簡単に譲ってやんねーよ」
「あはは、それは嬉しいな」
バチバチに好戦的に言い合う二匹。バトルロイヤルのようなマイクパフォーマンスのようにも見えるが、その声色には親愛の感情を隠しきれていない。そんな風に話した後、少し肉棒が奥まで飲み込まれているのが見えて、軽く頭を撫でながら問いかける。
「緊張も解けてきたな。そろそろ動かすぞ?」
「うんっ」
承認と同時にぐい、と奥へ動かすと、滑らかに腰が動いていく。幾分か、ヴェンが楽そうにしているようにも見えるが、とん、と身体が軽くぶつかると、ヴェンは唸り声をあげた。
「あ、う……」
「これで、全部入った。痛くないか? 痛かったら、すぐに言えよ」
「だい、じょうぶ……あったかくて、むしろ、ほんの少し、安心する……」
「そっか」
少し息苦しそうではあるが、幾分か柔らかい表情。落ち着いた様子が見えると、ラファルは安心したように、少し丸いお腹をゆっくりと撫でる。
「ゆっくり息吸って、吐いて。リラックス、大丈夫だからな」
優しく、優しく声をかけるラファル。深い呼吸を繰り返すことで、じっくりと息が整っていく。そこでようやく一突き、小さく腰を動かすと、ヴェンは小さく声を漏らしていた。
「んっ、んぅ……」
「どうだ、いけるか?」
「えと、いけるって、言うか……」
煮え切らない答えに首をかしげると、ラファルのお腹に触れる温かいモノ。ラファルは大層機嫌をよくして、爪でそっとそれを撫でる。嬉しそうに、愛おしそうに。なぞるようにそれを撫でていた。
「へへ、お前の、俺の腹に当たってる。俺で、興奮してくれてるんだよな?」
「あたり、まえだよ……!」
少し拗ねた様子で答えるヴェン。興奮していることを至極当然とするかの様子に、ラファルは感極まったような表情をしていた。
「じゃあ、そろそろ……俺も、遠慮しなくていいよなっ」
「んっ……! すごっ、深いっ!」
突き刺すように、腰をグイっとねじ込む。まだ腰の動きは早くないが、自身の存在を強調するように、これがお前の中にあるんだと示すかのように、グイと押し込む。その最中に、ラファルがとある場所をついたとき、ヴェンは一際艶やかな声をあげた。
「ひゃ、そこっ! きもち、きもちいっ!」
「だろ、きもちいだろ! 俺も、さいっこうにきもちいい!」
ヴェンがようやく感じ始めたのをきっかけに、ラファルは腰の動きを強く、速くした。
「いいぜ、もっと、もっと! お前を、感じさせてくれっ!」
勢いをつけて、腰を動かす。自分自身も気持ちよくなれるように、先端が締められるように大きなストロークで動かす。そのたびにヴェンの快楽の証から液が零れ、ラファルへ好色と愛慕が綯い交ぜになった目つきをしていた。
「ラファル……! だい、すきっ……!」
「あぁっ! 俺もっ、お前のことがっ、大好きだっ!」
二匹は、互いをギュッと抱きしめる。身体がぶつかるたび、熱っぽい息が漏れる。繰り返せば繰り返すほど、二匹はそこを膨張させる。露呈されたそれは、隠していた愛情のようであった。
「くっ、がぁぁあああっ!」
「んああああっ!」
二匹は目をギュッとつぶり、大きな唸り声と共に果てる。ラファルの腹部は白く染められ、結合部からとめどなく白濁が漏れ出る。粘着質な匂いの強い精液にまみれながらも、二匹は穏やかに笑った。
「あったけぇな」
「うん」
優しく抱き合った状態をやめようとせず、二匹はしばらくその余韻に浸る。冷たい風が鱗を突き刺そうとも、二匹は互いの温もりで暖かそうにしていた。
しばらくして、近くの浜辺でそれぞれの身体についた汚れを落としていた時。ヴェンはラファルに背中を洗われながら、どこか気まずそうにしていた。
「あのさ、ラファル」
なんだ、と少し間の抜けた声を出すラファル。言い出しづらい様子で頬を掻いていたが、ヴェンは頭を下げる。
「その、昨日は、ごめん」
何の前触れもなく言われたその言葉に一瞬はピンと来てなかった様子だが、あぁ、とラファルは頷いた。
「なんだ、昨日の演技のしすぎで素直になったか?」
「……別に。ただ、流石に昨日のは謝らないと、って思って」
「はは、謝れて偉いぞ」
「茶化さないでよ」
せっかく謝ったのにと言いながら、拗ねるヴェン。そんなことはお構いなしと、ラファルはへっへと笑う。
「ま、いいんだよ。俺もあの時素直になるべきだった」
身体を洗い終えたのか、ゆったりとヴェンの隣に座る。星空を見上げながら、穏やかな声で続きを話した。
「本当は、お前としたかった。誘ってくれて嬉しかった。ただ、勝負という名目で、お前との一線を超えることに抵抗があっただけなんだ」
「そう、だったんだ」
その言葉を聞くと、ポツポツと眼から水がこぼれ落ちる。ヴェンは細切れになりつつも、一つ一つ言葉を紡ぐ。
「ごめ、ラファル、僕のこと嫌いになったかもって、怖くて。でも、今日はそんなことないって、好きだって聞けて、嬉しくて」
目を擦り、涙を拭って笑いを浮かべる。そんな彼を、ラファルは翼で軽く叩きながら、豪快に笑っていた。
「ヴェンは話を聞かないからなぁ」
「そ、そっちが何も言わないからでしょ」
「言おうとはしたぜ」
「じゃあ言ってないじゃん!」
「言わせなかったのはそっちだろ!」
「でも大事なことなんだから言わないといけないでしょ!」
「知るか、強引に押し通したお前が悪い!」
「いーや、ラファルが悪い!」
「お前が!」
「ラファルが!」
先ほどまでのしんみりとした空気はどこへやら、なんだかんだいつものように、ああだこうだと水掛け論が始まる。だけど、苦悶で歪んだ顔をしているヴェンはもういなく、二匹は大笑いしながら喧嘩している。今日の空も、綺麗な星々が浮かんでいた。
[newpage]
[chapter:エピローグ]
「よっ、と」
朝焼けが差し込むタクシーから南五番エリアに降りる、一人、壮年の見た目をしたトレーナー。年季の入ったジャケットを整えながら、キョロキョロと辺りを見渡すと、一つ、草原と砂浜の境目にポツンと置かれたピクニックテーブルがあり、そこに座っていた者が慌てて立ち上がり、来客を出迎える。
「あっ、おはようございます」
「あぁ、おはよう。またヴェンが世話になってたみたいだな」
「別にそれぐらい、お安いご用ですよ」
それにそれはお互い様ですし、と朗らかに笑う若者のトレーナー。その傍には、二匹のドラゴンポケモンたちが眠っていた。ベテラントレーナーはその片割れのカイリューを起こさぬように慎重に撫でた。
「今日もアイツらの面倒見てくれてありがとな。 オレは我慢できなくて茶化しちまうから、助かるぜ」
向き合うようにピクニックテーブルに座り、ガハハと笑うベテラン。そんな大したことは、と若者が謙遜すると、それを思いっきり否定するかのようにぐいっと身を乗り出した。
「いいや、すっごいでっかいことしてるぜ。今日だけじゃない、君はオレがバトルに復帰するきっかけになってくれたんだからな。もしあの頃子供だったヴェンが君のラファルに憧れなかったら、オレは復帰していないだろうからな」
あの頃?と怪訝そうな表情を浮かべていたが、すぐに思い当たったのか、若者は驚く様子を見せていた。
「って、まだボクもトレーナーなりたてでしたよ。どちらかというとボクは貴方に色々教えてもらった側です」
「それもヴェンがバトルに参加したがらなければ、オレはトレーナーとして復帰するつもりもなかったし、君の特訓相手なんて引き受けようとも思わなかった。君たちが頑張った結果、その恩恵を得られただけだよ」
「お世辞はいいですから、今でも貴方はボクの憧れであり目指すべきトレーナーなんですよ」
「お世辞なもんか。ほら見てくれ、まだあの頃の写真大切にしてるぜ」
そう言ってロトムフォンをパッと開き、画面を若者に向ける。その画面には、二人のトレーナーと二匹の小さなポケモンが写っていた。
「ヴェンはミニリュウで、ラファルはガバイトだった頃だ。全く、一番可愛い時期だよな」
「……今でも一番可愛い相棒ですよ」
「はははっ、確かにな」
その写真のミニリュウは、カメラの方向なんてそっちのけでキラキラした目でガバイトを見つめており、ガバイトは照れくさそうに笑みを浮かべていた。
「でもバトルとなると君のラファルが一番可愛げねぇんだわ」
「それこそお互い様でしょう、貴方たちの戦略に対応するの相当大変なんですから」
トレーナーたちは隣に眠るポケモンたちが起きるのを待ちながら、賑やかに談笑を続ける。そんなことなぞ露知らず、彼らは身を寄せ合い、尻尾を絡ませ、すやすやと寝息を立てていた。
***
「次のお店は……こっちね」
やわらかい翼で羽ばたきながら、複数の店を渡り歩くアマネ。いくつかの食材が入ったカバンを背負い、人ごみを避けてゆっくりとマイペースに羽ばたいていた。
「ラファルー!」
そんなアマネの前に、凄まじい勢いで低空飛行するヴェンが通り過ぎる。相変わらず道行く人に当たるんじゃないかと思うような危なっかしい飛び方だが、一応は風圧で吹き飛ばないように速度を調整してるらしく、近くの人たちも特に気にしていない様子だった。アマネはその飛び方に目を細めながらも、その行き先を見やると安心したように笑った。
「おはよっ、ラファル!」
「あぁ、おはよう」
そこには、穏やかな笑みを携えたラファルが待っていた。普段と全く変わらぬ光景だが、両者の声や表情からはどこかいつも以上に上機嫌な様子に見えた。
「ねーえ、今日も勝負するよ! 今日は負けないからね!」
しょうがねぇな、と言うラファルだが、何かが気になったのか顎に爪を当てて、考える仕草をする。そしてその疑問をヴェンに投げかけた。
「てか、こないだのあのバトル。どっちの勝ちなんだ?」
「……えっ?」
「勝利条件をあまり決めてなかったし、しかもジャッジ役がいない。どっちも自分の負けを認めなきゃただ引き分けで終わるけど、どうするんだ?」
元々彼は負けず嫌い。いくら自身が否定した勝負であれど、勝ち負け自体は気になっていたようだ。ラファルのその疑問に答えは返されず、ただヴェンは目線をキョロキョロとさせていた。その様子を揶揄う好機だと踏んだのか、ニタリとラファルは嫌らしく口角を上げた。
「まさか、その辺全く決めずに勝負しようって言ったわけじゃないよな?」
憎たらしい笑みで嬉々として煽られ、頬を膨らませて唸るヴェン。しかし、数秒思案していても何も思い浮かばなかったのか、観念したかのようにか細い声でこう言った。
「だって、君と、デート、したくてさ……」
しかしそれは急所への一撃。ラファルは、目を見開く。攻撃を仕掛けていたために、綺麗に決まった《ふいうち》の一手。みるみるうちにヴェンよりも顔が真っ赤になり、照れ隠しをするためか、足で小突くように数回ヴェンを蹴る。
「いたっ! なんで蹴るんだよ!」
「うるせ、この……バカっ!」
「はぁ、何それ?! もう怒ったもんね、バトルでぎゃふんと言わせてやる!」
ガミガミと互いに罵声を浴びせながら、二匹で仲良さげにバトルコートに向かう。まるで変わらない二匹の喧騒に、アマネはやれやれと首を横に振った。
「今日もうるさくなりそうね」
ゆったりとまた飛び立ち、お使いの道のりへと戻る。羽をはためかせる風には、少し春の陽気が混じっているように感じた。
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