フェロモン-ファウルカップから香る甘い香り-【ケモホモ】
1 大熊 大悟
「なぁ大熊」
「ん?」
「転校生、どんな奴が来るんだろうな」
右隣の席から体を向かせながら、目の前の狼はそう言葉を続けた。
俺の左隣、その机は空席となっている。
確かに、気にならないと言えば嘘になった。
「まぁ…騒がしくない奴だったら誰でもいい。…折角一人部屋だったんだがな…」
「あー、寮も同じ部屋になるんだっけ? 死活問題じゃん」
「…どうせ部活が終わって帰ってきたら寝るだけの部屋だ。静かだったらそれでいい」
それでいい、か。
本当に、何も期待していない言葉だなと思った。
「でもよぉ大熊…転校生がまさかの“運命の番い”だったらどうする?」
ニヤけた顔をして、大狼は身を乗り出してきた。
大きな尻尾がいやらしく揺れている。
初めて聞く言葉だった。
「運命の番い? なんだそれは」
「な、大熊知らねぇの!? 運命の赤い糸で繋がった、前世から決まっているという宿命の相手…今科学的にも証明されてるんだとよ。もう目が合った瞬間に分かるらしいぜ、“あ、これが運命の番いなんだな”って」
「…くだらん。そんなのある訳ないだろう」
「そういう訳でもねぇって!! 運命の番いだったら、お互いにしか分からない“フェロモン”で分かるんだとよ。すっげぇいい匂いがするらしい。しかも体の相性は抜群…もう気持ちよくてたまんねぇんだってよそれが」
よほどその情報を信じているのだろう。そう言う大狼の顔は、どこか本気めいたものをしていた。
俺だって男だ。
性欲もある。
でも恋愛は未だに何一つ興味がなかった。
ずっと野球一筋で生きてきた。今までもそうだったし、これからもそうだろう。今まで生きてきた中で、誰かを好きになったことなど一度もなかった。
俺も高校三年生だ。周りは“童貞を捨てた”とか、“恋人が出来た”とか、そんな色めいた話も珍しくはない。焦ってないと言えば嘘になる。でも好きにならないものは仕方がないのだ。
結局、俺も童貞のまま高校三年生を迎えてしまった。
きっとこのまま、何もないまま高校を卒業していくのだと思った。
「大熊、ついに童貞卒業できるんじゃね?」
「…うるさい。ただが転校生だ。そう浮かれずとも――」
そう、言葉を続けようとした。
その時だった。
甘い、蜂蜜のような匂い。それが、鼻先を微かにくすぶる。
嗅いだことがないほど、甘くて濃厚な香りだった。それが、微かにする。
俺は鼻をひくつかせながら、辺りを見渡した。
「どうした? 大熊」
「いや…」
気のせいか?
そう思った矢先、教室のドアがガラガラと開いていった。
担任の牛島が、いつものジャージ姿でその大きな角を揺らしながら教室へと入っていく。
去年高二の時に赴任してきた。大柄で気さくな体育会系の教師だ。そんな見慣れた光景の中で、何かが違う違和感が、俺を本能的に呼び覚ます。
さっきの香りが、一層強まった。
「はーい静かに!! もう知っていると思うが…今日から転校生が来ている。みんな、よろしくやってくれよ」
その声に引き寄せられるように、皆の視線が廊下へと集中する。
確かに、あの廊下の先から匂いがする。なぜか、俺は目を離せなかった。
興奮しているのか?
俺が?
心臓が、バクバクと高鳴っている。
俺は、固唾を飲んだ。
「じゃ、入ってきてくれ」
牛島先生のその声に呼ばれるように、廊下にいたそいつが教室の中へと入っていく。
大柄な俺と、大して背格好が変わらない位に大きい。黄色い毛並みをした、虎だった。
琥珀色の瞳が、真っ直ぐにこちらを見つめている。
胸が、高鳴った。
「虎城啓介(こじょう けいすけ)。訳あってこの高校に転校してきました。色々迷惑かけると思うけどよ…その、よろしくな」
ニカッと笑いながら、白い牙を見せる。
そんな無邪気な笑みに、俺は、心を奪われた。
まるで、時間が止まってしまったかのようだった。
気づけば、教室の中は虎城を歓迎する拍手の音で包まれていた。
タールを流し込んだように、喉の奥が張り付いて仕方ない。
俺は、なんとか平常心を保とうと必死になった。
「じゃ、虎城…席はあの馬鹿でかい熊…大熊の隣だから」
「うす」
虎城が、段々とこちらに近づいていく。
それにつれ、あの甘い匂いも強くなってきた。
なぜか、俺のモノが段々と勃起し始めている。
ふつふつと湧き上がってくる野獣のような性欲の塊に、俺は一体どうすればいいのか分からなかった。
「…よ。まぁ…色々よろしくな、大熊」
目の前に、大きな手のひらが差し出される。
一瞬何が起きたのか分からなかった。それでも散り散りになった理性をかき集め、今虎城から握手を求められているのだと気づく。
俺はテンパったまま、汗ばんだ手のひらを差し出した。
「あ、あぁ…よろしくな、虎城…」
手のひらの肉球と肉球が触れる。
力強く、指先が握りしめられる。その瞬間、まるで、背筋に電撃が走ったようだった。
真っ白に塗りつぶされた頭の中で、あの香りが、一層強く鼻の奥をくすぶる。
「…なぁ大熊。運命の番いだったか?」
目の前の狼が、からかったようにそう言葉を続ける。
でも俺は、もうそれどころじゃなかった。
ずっと、一人で生きていくと思っていた。誰も好きにならない。誰からも好かれない。誰とも体を重ねることもないまま、俺はこの高校を卒業するものだと思っていた。
なのに今、その常識が今大きな音を立てて崩れ去ろうとしている。
そうだ。
俺は、惚れてしまったんだ。
この、転校生に。まだ何一つ、会話も交わさないまま。
その事実を突きつけるように、制服のズボンの中で俺のモノがビクビクとその下着を濡らしていた。
『ともだち』
2 虎城 啓介
登校初日は、何の問題もなく終わった。
授業が終わった放課後。大熊と大狼が校内と寮の案内をしてくれている。
聞けば、今日部活は休みらしい。大熊は野球でキャッチャー、大狼は陸上で長距離をしていると聞いた。前の学校では帰宅部だった俺にとって、少しうらやましい情報だった。
問題と言えば、一つだけ。
この学校に来てから、ずっと“甘い匂い”がしていることだった。
特に大熊と一緒にいる時、嗅いだことのない匂いが鼻をくすぶる。そして、やけにムラムラする。この学校に来るまで、こんなことは一度もなかった。
寮の部屋は、大熊と同部屋だと聞いた。
そしたら、ずっとこの香りもするのだろうか?
今すぐ抜きたい。その衝動を何とか抑えながら、俺は今放課後までなんとか過ごしてきた。
しかし、この甘ったるい匂いは…なんだ?
「粗方案内も終わったな」
「おう。後はお前と虎城の部屋だけじゃねぇの?」
目の前の熊と狼が、そう言葉を続ける。
寮の廊下を歩きながら、俺は目の前の大きな背中について行った。
想像していたより立派な寮だ。作りもしっかりしている。
今にも勃起しそうな衝動をこらえながら、俺は一人固唾を飲んでいた。
「そういえば、この寮は2人部屋なのか?」
そう言えば、まだ詳しく聞いていなかった。
その言葉に、目の前の狼が振り向く。
「あぁ。ただ大熊はこの通り、体もデケぇからよ。生徒も今まで奇数だったし、ずっと一人だったんだよ」
「…まぁ、長らく贅沢をさせてもらったな」
「贅沢も贅沢だろ!! お前、いつでも好きな時にオナニーし放題なんだぞ!? これ以上の贅沢はあるか!!」
そう言って大狼は、大熊の背中をバシバシと叩いた。
やはり、男だったら気にするのはそこだろう。
俺だって、これから先どこで抜くのかまだ検討もつかなかった。
「…ここだ」
目の前の熊が、ふと、立ち止まる。
扉を開くと、2段ベットと勉強机が二つ、壁際に置かれていた。
あの甘い匂いが、鼻先をくすぶる。
やはり大熊の匂いで間違いなかった。
「へぇ…結構綺麗にしているじゃねぇか」
部屋を見渡しながら、俺は中へと入っていった。
鼻先をくすぶるあの甘い匂いに頭を真っ白に塗りつぶされそうになりながらも、どうにか冷静を装う。
俺は荷物を床に置くと、ベットへと目を向けた。
「まぁ…こいつこのナリで堅物の真面目さんだからよ。意外と部屋は綺麗にしているぜ。なぁ大熊」
「…だれが堅物の真面目さんだ。俺だって部屋くらい綺麗にしている。…ベットは、お前の好きな方を選んでくれていいぞ…虎城。今まで一人だった分、好きにさせてもらったからな」
「…いいのか?」
「…あぁ。気にするな」
丸い耳をひこひこさせながら、目の前の熊はそう言葉を続ける。
ぶっきらぼうだが、気さくで優しい。それが、大熊の第一印象だった。
なのに、なんでだ?
なんで、こんなにも惹かれている自分がいる?
「…で、どうすんだ大熊。これからは好き勝手にちんぽ扱けねぇぞ?」
隣にいた大狼が、そう言葉を続ける。
俺にとっても死活問題だった。
ニヤつきながら、目の前の狼は大熊を見上げる。
一瞬、あの甘い匂いが濃くなったような気がした。
「…おい、大狼。虎城の前だぞ…」
「だからだろ。まさかお前、高三にもなって抜かねぇ、ってことはないだろ? お前童貞なんだからその辺ちゃんと上手くやっとけよ?」
「大狼!!」
「じゃ…後はいい感じの二人きりにして、だな…またな、虎城」
「お、おう…」
「お、おい!! 大狼!!」
大熊の叫び声も空しく、大狼は行ってしまった。
部屋の中に、俺と大熊、二人だけが残される。
高鳴る胸の鼓動が、ただうるさかった。
「…童貞なのか? 大熊…」
俺の声に、ビクリと大きなその背中を震わせる。
どうやら図星だったようだ。
「…そういうお前は、ど…どうなんだよ…」
「どう、って…」
「その…お前は、もう…シたことが…あ、あるのか?」
ゴクリと、目の前の喉仏が上下する。
こんな話題、腐るほどしてきたはずなのに。こんなにも興奮するのは、初めてだった。
あの甘い匂いが、一層強くなる。
俺のモノが、ムクムクと鎌首を持ち上げ始めていた。
「…い、いや…シたこと…ねぇよ…俺も、童貞だ…」
「…そ、そうか…」
目の前の茶色い瞳が、妖しく濡れている。
この大きな体に、抱きついたら。どれだけ優しく包み込んでくれるのだろうか。
心が、張り裂けそうだ。
頭の中が、真っ白に塗りつぶされる。
俺は、一体どうなってしまったんだ?
「…そ、その!! さっき大狼が言っていたことなんだが…」
不意に、大熊が後ろを向く。
その瞬間、俺はやっと我に返った。
もう少しで、完全に勃起してしまう。その寸前の所まで、俺のモノは硬く膨らんでいた。
喉に絡みつく唾液が、やけに硬かった。
「…お、俺も男だ。抜くときは抜く。…虎城も、そうだろう…?」
「あ、あぁ…まぁな…」
「…それで、だな…互いに交代で風呂に入りに行ってる間に、その…こっそり部屋の中で抜いておく、ってのは…どうだ?」
かしゃがれたその声に、俺の股間が反応する。
小さな尻尾が、せわしなくひこひこと揺れていた。
もしかしてだが…
大熊も今、勃起しているのか…?
「い、いいんじゃねぇか…? まぁ…匂いが残るのはご愛敬、ってことにしといてよ…」
「…だな。他の部屋の奴らもそうしているらしいんだ。もし、お前がよかったらなんだが――」
そっと、後ろを向いている大熊の股間をのぞき込んでみる。
そこで俺は、目を見開いた。
心臓が、バクンと高鳴る。
チカチカと、目の奥で火花が散った。
「大熊――」
目の前の制服は、完全に勃起していた。
カリのくびれが分かる位に、はっきりと。
黒い布地を押し上げるそれが、ヒクヒクと脈動していた。
「ち、違うんだ虎城!! これは――」
大熊が、何かを言っている。
でも、俺には何も聞こえなかった。
あの甘い匂いが、一気に濃くなる。
――今すぐに、射精したい。
頭の中は、それしかなかった。
「虎城…お、お前――」
その声に、現実に戻される。
大熊の目線の先は、俺の股間だった。
もう、誤魔化しようのない。完全に勃起したそれが、制服の布地を押し上げ立派なテントを作り上げている。
顔が、真っ赤に染まっていくのを感じた。
「す、すまねぇ!! その、エロい話をしてたら…つい――」
慌てて、俺たちは互いに後ろを向く。
高鳴る鼓動が、ただ痛かった。一体何が起こっているのか、全く分からない。
散り散りになった理性が、帰ってきてくれなかった。
「…なぁ、虎城…」
「…な、なんだ?」
「その…甘い匂い、しないか…ずっと…」
その言葉に、俺は目を見開く。
思わず、俺は大熊の方を振り向いた。
「まさか…お前も、か…?」
俺の言葉に、大熊がこちらを振り返る。
目の前の瞳が、何かを悟っていた。
「虎城…もしかして、俺たちは――」
そう、言葉を続けようとしたその瞬間。
扉が、思いっきり開いた。
その音に、互いに肩をビクリと震わせる。
「よう二人とも!! 飯行くぞ飯!!」
大狼だった。
突如現れた狼に、緊張の糸が、プツリと切れる。
「ん? どうかしたのか二人とも。 …ん?」
怪訝そうに俺たちを見返す大狼に、俺も大熊も何も言えないままその場を誤魔化した。
気づけば、あの甘い匂いも薄らいでいる。
一体あれはなんだったのだろうかと思いながら、俺は大熊の背中を見つめていた。
胸の奥が、ギュッと締め付けられたように痛い。
もっと、側にいたい。そう思うこの感情は、何なのだろうか?
今はただ、大熊が言いかけたあの言葉の続きを待つしかなかった。
3 大熊 大悟
あれから、一日はあっという間に終わった。
飯を食って、着替えて、洗濯して、風呂に入って、自習の時間を終えた今、もう就寝の時間を迎えようとしている。あの甘い匂いも、今はしない。ただそれだけが、俺の心を救った。
虎城が風呂に入っている間。
抜くことは、出来なかった。
抜こうと思った。思ったが、頭に浮かぶのは今日出会ったばかりの虎城のことばかり。誰かを考えながら自分のモノを扱くなどしたことがなかったんだ。突然の変化に、俺は適応することができなかった。
今日抜けずに溜まったままの精液が、俺の金玉の中でうごめいているのを感じる。
不意に勃起しそうになる自分の反応が、ただ怖かった。
「…今日はありがとな、大熊」
ふと、ベットの下からそう声が聞こえてきた。
その穏やかな声に、さっきまで頭の中に浮かんでいた痴情がかき消されていく。
今はまだ自分は正常なんだと、そう言い聞かせていたかった。
「…何を言う、虎城。…当たり前のことをしたまでだ」
「そうは言ってもさ。お前で、良かったよ…大熊。…サンキュな」
甘く、かしゃがれた声だった。
その声が、ただ愛おしくて仕方ない。胸の奥が何故か切なく、そしてキュッと締め付けられるようだった。この感じたことのない感情に、俺はもう、答えを出そうとし始めている。
そんな訳ない。
ありえない。
そんな言葉ばかりが、頭の中に浮かんでは消えていく。
ただ一つ言えることは、あの“甘い匂い”は確かに虎城からしかしないということだけだった。
「…なぁ、大熊」
「なんだ?」
「…いや、何でもない。もう寝ようぜ、大熊」
「…あぁ」
虎城は何を言いかけたのか。俺は、その先を問えずにいた。
虎城も俺と同じことを考えているのだろうか。
…いや、まさか。そんな訳ない。転校して初日に出会ったクラスメイトに、そう簡単にやすやすと惚れるはずもない。
ましてや相手は男だ。堂々と告白出来るはずもない。そう考えたところで、俺は絶望した。
多分、この感情は本物だ。
俺は今、初めて誰かを好きになっている。それも、どうしようもなく惚れてしまっている。
それが嫌というほど分かっているからこそ、俺は一人頭を抱えた。
頭で否定したくても、体が反応してしまっている。虎城のことを考えるだけで、はしたなく勃起してしまっている自分がいる。その事実が、俺から逃げ場所を奪い去った。
きっと、この感情は本物だ。
だとしたら、この先どうする?
例え冗談でも、嘘だと言って欲しかった。
「運命の番い、か…」
誰にも聞こえない独り言が、俺のマズルからこぼれ落ちる。
もし、そうだとしたら。
虎城は、俺のことをどう思っているのだろうと思った。
4 虎城 啓介
それから、俺たちの学校生活は何事もなく過ぎていった。
ずっと、あの甘い匂いは健在だ。それでも何とか、理性を保ったまま今日まで迎えることができた。不意に勃起しそうな時が何回かあったが、トイレで抜けばあの衝動的な発作もいくらかは和らいだ。
確かに、あの匂いは大熊からする。
だけど俺は、それ以上先にある事実をまだ確かめられずにいた。
大熊は、いい奴だ。話も合う。面倒見もいい。仏頂面だが、そこに隠れた優しさがある。俺は、そんな大熊の不器用なところが好きだった。
きっと、この先に行ってはいけない。
いや、この先に行くのが怖かった。もう二度と、大熊に出会う前の自分に戻れないんじゃないかと、そう思えて仕方がなかった。
そうだ。
俺は、大熊に惚れている。
ただ、一目見ただけなのに。あの瞬間、俺はもうあの大きな熊に惚れていた。
この感情を、一体どうしたらいい? 教室でも、寮の部屋に戻っても、あの甘い匂いが鼻をくすぶる。どこに行っても、あの大きな熊の存在から離れられないのだ。募る想いに、胸が張り裂けそうだった。
きっと、人はこの感情を“恋”というのだろう。
だけどそれは、俺にとってあまりにも生々しすぎるものだった。
「あと10周ー!!」
放課後のグラウンドの外で、ふと、俺は野球場を見ていた。
いつもの制服とは違う。野球のユニホーム姿の大熊が、他の部員たちと一緒になって走り込みをしている。
その姿を見つめながら、俺は一人ため息をついていた。
今はもう外しているが、さっきまでバッターボックスに座っていた大熊はキャッチャーの防具を着けていた。
太い丸太のような太もも。硬くずっしりした尻。小さな尻尾に、筋肉質な腕と丸みを帯びた太鼓腹。
そして、座り込んでくっきりと形が浮き上がった股間の膨らみ。
それが今でも、脳裏に焼き付いている。
こんな自分が、俺は嫌だった。何もかもを性に結びつけて、大熊の体で性欲のはけ口にしようとしている。そんな変態のような自分が、受け入れられなかった。
自分の息子は、正直に反応している。
きっと、今日も大熊のユニホーム姿を想像して、俺は一人抜くのだろう。
その罪悪感が、ただ俺を苦しめた。
「…愛しい彼の姿はどこかなー? んー?」
後ろから降りかかってきたその声に、俺は思わずビクリと体を震わせた。
振り向けば、体操着姿の狼がいる。
大狼だった。
「お、大狼!! どうして――」
「――どうしてここにいるのかって? 休憩時間に見てみたら、虎城が大熊を愛おしそうな目で見つめてたからさぁ…つい」
大きな三角の耳を曲げながら、大狼は笑う。
愛おしいと言ったのか?
大熊が?
「…そ、そんなんじゃねぇって!! ただ、大熊がいたから…つい――」
「ふーん…」
ニヤニヤしながら、目の前の狼は俺を見つめる。
生きた心地がしなかった。
もし、バレたらどうする?
俺の学校生活は、どうなる?
「…そんな顔しなくても、誰にも言わねぇって。お前らが惚れ合ってるのを知ってるのは俺だけだからよ」
そう言って、大狼は手に平をひらひらさせる。
一体何を言ってるのか、分からない。そんな俺の反応を楽しむように、目の前の狼は目を細める。
言葉がでなかった。
「なぁ虎城」
「な、なんだよ…」
「…あいつの側から、甘い匂いするだろ」
その言葉に、俺は目を見開く。
図星だった。
「な、なんで――」
「やっぱなー!! 俺の読みは当たったぜ!! 大熊の反応見てたら絶対そうじゃねぇのかって思ってたんだよ!!」
興奮したように、大狼は声を上げた。
俺の方へとにじり寄りながら、大狼は俺に顔を近づける。
爛々と輝いた瞳が、真っ直ぐに俺を射貫いた。
「なぁ…虎城。“運命の番い”って…知っているか?」
きっと、この先に行ってはいけない。
いや、この先に行くのが怖かった。もう二度と、大熊に出会う前の自分に戻れないんじゃないかと、そう思えて仕方がなかった。
そう、思っていたのに。
今俺の目の前で、新しい扉が開かれようとしていた。
5 虎城 啓介
「な、なんだよ…“運命の番い”って…」
「今流行ってんだよ。前世から決まっていた運命の相手…その相手からは、甘いフェロモンのような匂いがするらしい。互いにな。その匂いを嗅いだだけで、相手のことしか考えられなくなるそうだ。発情したみたいにエッチすることしか考えられなくなるとよ。…しかも、興奮すると匂いも強くなるらしい。お前だって、心当たりあるだろ?」
どこか楽しそうに、大狼は言葉を続けた。
意味が、分からない。
そんな関係だとでもいいたいのか?
俺と、大熊が?
「そ、そんなの…あるわけ――」
「大熊も同じ反応をしたぜ。でもよぉ…明らかにお前ら、欲情してるだろ? 授業中も休み時間も、それこそずっとだ。あの堅物だった大熊も、お前だけには目の色を変えていやがるときた。…それにするんだろ? 例の“甘い匂い”って奴も」
ニヤリと、大狼は笑った。
「まぁ…確かめる方法はある。…これを使え」
そう言って、大狼は体操着の尻ポケットから何かを取り出した。
そしてそのまま、俺の手のひらへと握らせる。
分厚い、ゴムの硬い素材で出来た、逆三角形の形をした白いプロテクターのようなもの。
一気に、あの甘い匂いがした。
「こ、これって――」
「――大熊のファウルカップだ。さっきまでつけていたホカホカの奴だ」
頭の中が、急に真っ白に塗りつぶされる。
息が、出来なかった。
「お、お前!! どうして、これを!?」
「ん? さっきそこの部室からパクってきた。ランニング中は外すんだよ、あいつ。つけたまんま走ると痛いからな」
「そうじゃなくて!! もしバレたら――」
「大丈夫だって!! あいつ、ファウルカップは2個持ってんだよ。1個位なくなっても平気さ。…また俺が元の場所まで戻しといてやるからよ」
声を潜ませながら、大狼は笑った。
確かに、これは大熊のものなのだろう。あの甘い匂いが、いつもとは比じゃない位に強烈にする。つんと鼻をつくその甘い匂いに、早くも勃起し始めている自分がいた。
喉の奥が、乾いてへばりついている。
これを鼻先に押しつけて、思いっきり嗅いだら。
それだけで、俺は――
「こいつの匂いを嗅ぎながら抜いてみろ、虎城」
顔を近づけながら、大狼は俺の肩をつかんだ。
心臓が、高鳴る。
目の奥が、チカチカした。
「…素直になれ、虎城。…もし本当に運命の番いなら、こいつの匂いで頭がぶっ飛んじまう程気持ちいいはずだ。違うんならただのオナニーで終わる。…だろ?」
悪魔の囁きのようだった。
手にしたファウルカップは、ずっしりと、重い。それに、日本人用とは思えないほど、大きくてしっかりしたものだった。この大きさじゃないと、大熊の竿と玉は収まらない。その事実が、脳幹を揺さぶるように俺を興奮させた。
まだ、大熊のモノは見たことがない。風呂も今までずっと別々だった。
だから、抜くときはいつも妄想だった。
それが、今目の前に、それを包み込んでいたファウルカップが実物として存在している。
興奮しないはずがなかった。
「だ、だけどよ…」
「…否定しても、ちんぽはガチガチだぜ? 今すぐこのファウルカップに鼻を押しつけて、匂い嗅ぎながらちんぽ扱きたくて仕方ねぇんだろ…? …何、ちょっと借りるだけさ。使った後はちゃんと戻しておけばいい。…俺も共犯さ。誰にも言わねぇ…約束するからよ」
どこか得意げに、大狼は笑った。
もう、何も考えられない。
散り散りになった理性が、何度呼びかけても戻ってきてはくれなかった。
ゴクリと、俺は固唾を飲む。
汗ばんだ手が、少し震えていた。
「じゃ、またな…虎城。…楽しめよ」
そう言って、大狼はグラウンドへと姿を消す。
心臓が、痛いくらいにバクバクと高鳴っている。
一人残された俺は、ただ呆然と立ち尽くしたままだった。
6 虎城 啓介
その日の夜。
俺は、居ても立ってもいられなかった。
寮の部屋で、大熊がすぐ側にいる。あの甘い香りをさせる張本人が、すぐ目の前にいるのだ。意識するなと言う方が無理だった。
ファウルカップは、枕の下に隠した。手を伸ばせば、すぐ触れられる。その状況が、俺の情欲を興奮させた。
胸の鼓動が、痛い。
時間は、19時過ぎ。もうそろそろ、大熊が風呂に入りにいく時間だ。
チャンスは、そこしかない。
ゴクリと、俺は唾を飲み込んだ。
「じゃ、虎城…先に風呂貰うぞ」
勉強机から、大熊が立ち上がる。
バクンと、胸が高鳴った。
重い足を踏みしめるように、大熊が歩いてドアの方へと近づいていく。
息が、上手くできなかった。
「お、おう…ゆっくりな…」
何とか絞り出した声で、俺は大熊を見送る。
ドアが閉まった瞬間。
俺は、すかさず枕の下へと手を伸ばした。
ずっしりと重い、ファウルカップ。
それが、今俺の手のひらの中にある。
指先が、微かに震えていた。
喉の奥が、乾いたように張り付いて離れない。
あの甘い匂いが、鼻先をくすぶった。
「大熊…」
俺は、痛いくらいに勃起していた。
それが、ジャージの布地をこれでもかと押し上げている。
恐る恐る、俺はファウルカップへと鼻先を近づけていった。
段々と、あの甘い匂いが強くなる。
俺は思いっきり、鼻先をカップの内側へと押しつけた。
「―――――っ!!」
まるで、脳が焼かれたようだった。
鼻先に突き抜ける濃厚な甘い香りが、脳幹を揺さぶる。
濃縮したような、汗と尿の臭いがした。それと一緒に、あの大熊の甘い匂いがガツンと頭を揺さぶる。
もう、何も考えられなかった。
「はぁ…はぁ…はぁ…!!」
俺は急いでジャージとパンツを脱ぎ捨てると、机の中からコンドームの箱を取りだした。
抜くときは、ティッシュの中ではなくコンドームの中に出す。ゴミ出しを簡単にするよう、そして部屋に匂いがこもらないよう決められたこの寮のルールなのだと、大狼が言っていた。
震えた手先で、箱が上手く開かない。
やっとの思いで開けた箱から小さな袋を取り出すと、無我夢中になってそれを破って開けた。
薄いゴムの感触が、指先に触れる。
もう、我慢ができなかった。
「くそ…!!」
震えた指先で、俺は自分のモノにコンドームをあてがう。
痛いくらいに勃起したそれは、もう辛抱堪らんと我慢汁を滴らせていた。
薄いゴムの感触が亀頭に触れた瞬間、鈴口から溢れ出した我慢汁が吸い付くように張り付く。
俺は根元までそれを引き下げると、手にしたカップをもう一度鼻先へと押しつけた。
「大熊…大熊…」
目を閉じて、あの大きな熊を思い浮かべる。
このファウルカップに、大熊のちんぽと金玉が包まれていたんだ。それを思うだけで、もう今にも射精しそうだった。
俺のモノを握りしていた手のひらが、段々とそのスピードを増していく。
カリ首に指先が触れる度に、せり上がる射精感がドクドクと我慢汁となって溢れていく。
強すぎる快感が、背筋を駆け抜けた。
「っぁ!! っはぁ…っはっぁ…っく!!」
あの甘い匂いが、真っ白に頭の中を塗りつぶしていく。
俺は一心不乱になって、自分のモノを激しく扱きあげた。
荒れた呼吸が、ファウルカップの中で蒸れていく。
息を吸う度、あの甘い匂いが脳幹を刺激する。
大熊のちんぽは、どんな形をしているのだろうか。
あのもっこりした形だ。金玉もでかいのだろう。あの玉の中で作られた精液は、どれくらい濃くて量も多いのだろうか。
そのぶっといちんぽで、俺の――
「…っぁ!! い、イク!! イ…っぁ――」
まるで、全身に電撃が走ったようだった。
体を仰け反らせて、何度も俺は痙攣する。
射精が止まらなかった。
何度もしゃくりをあげながら、壊れたホースのように俺のモノからは白濁とした精液が吹き上がっていく。それを薄いコンドームの膜が受け止め、大きな水風船を作っていた。
真っ白に塗りつぶされた頭の中で、ふと、静寂が訪れる。
呼吸が、段々と落ち着いてきた。
その時だった。
「…虎城。風呂貰ったぞ。…開けてもいいか?」
微かなノックの音とともに、かしゃがれたその声が響き渡る。
大熊だ。
俺は、思わず飛び起きた。
「あ…ちょ、ちょっと待っててくれ!! すぐ終わる!! すぐ終わるから!!」
散り散りになった理性をかき集めて、俺はなんとかそう叫んだ。
コンドームを抜き取り、口を縛る。
そしてそれを、大熊のファウルカップと一緒にベットの掛け布団の中へと隠した。
丸出しだった下半身を押さえながら、急いでパンツとジャージのズボンを引き上げていく。
未だに堅さを失っていない俺のモノから染み出した精液が、ジットリと俺のパンツの布地を濡らしていくのを感じた。
「はぁ…はぁ…い、いいぞ!!」
冷静を装いながら、俺はベットのマットレスの縁へと座り込む。
匂いでバレないだろうか?
言われた通りコンドームは使った。大熊もそうだろう。俺が風呂から上がってきたときも、大熊からは精液の匂いはしなかった。
なら大丈夫か?
でも、まだ俺のモノには――
「…すまん、虎城…急かしてしまったか?」
バツが悪そうに、大熊は扉を開ける。
今俺が、オナニーをしていたことは悟ってしまっているのだろう。それが、ただ恥ずかしかった。
俺の背後で隠れている使用済みのコンドームと大熊のファウルカップが、布団の中で息を潜めている。
罪悪感が、胸を襲った。
「いや、まぁ…その、だな…」
上手く、言葉が出てきてくれない。
未だに萎えずにいる俺のモノが、ビクビクと脈打っている。
どうして、萎えてくれない?
どうして、未だに俺は興奮している?
「じゃあ…俺も風呂入ってくるからよ。…ゆっくりしていてくれ、大熊」
「あ、あぁ…」
着替えと風呂の道具で股間を隠しながら、逃げるようにして俺は部屋を出た。
心臓が、バクバクと高鳴っている。
未だに俺は、さっき感じた快感を忘れられずにいた。
「大熊…」
あの、脳幹を揺さぶるような甘く切ない匂い。
射精した瞬間の、今まで味わったことのない電撃のような快感。
もう、答え合わせができていた。いや、最初から分かっていた。分かっていたのに、認めようとしなかった。
大熊は、“運命の番い”だ。
ただその言葉だけが、俺の頭の中で巡り続けていた。
7 大熊 大悟
バタンと、寮の扉が閉ざされていく。
一人残された俺は、ただ呆然としていた。
恐らく、虎城は抜いていた。その事実が俺を興奮させると同時に、どこか申し訳なくも感じた。きっと虎城は、俺が虎城に欲情していることなど知るよしもない。だからこそ、酷い罪悪感が俺を襲った。
「虎城…」
あいつのベットに、俺は腰掛ける。
微かに、枕からはあの甘い匂いがした。それだけで、俺のモノは簡単に勃起し始める。
虎城と一緒の部屋になってから、ずっと抜いていなかった。もう、我慢の限界だろう。あの甘い匂いを嗅ぐだけで、射精しそうになる時が何度もあった。
虎城が、さっきまでここで抜いていた。
その事実が、俺を欲情させる。
もう俺のモノは、限界まで勃起していた。
「抜くか…」
そう思って、ジャージのズボンに手をかけようとした。
その時だった。
「ん?」
虎城のベットの掛け布団の下に、何かが出ているのが見える。
薄いピンク色をした、ゴムのような端くれだった。
頭の中が、真っ黒に塗りつぶされる。
ドクンと、胸が高鳴った。
「まさか――」
掛け布団を触る指先が、微かに震えていた。
これ以上は駄目だ。引き返せなくなる。そう頭の中で何度も自分に言い聞かせた。なのに、体が言うことを聞いてくれない。
興奮して頭がおかしくなってしまいそうだった。
俺のモノが、ビクビクと脈打っている。
俺は恐る恐る、掛け布団をめくった。
「…っ!!」
そこには、使用済みのコンドームがあった。
俺の、ファウルカップと一緒に。
一瞬意味が分からなかった。今日無くしたと思っていたカップが、今ここにある。
心臓の音が、鼓膜を破りそうな位に高鳴っていた。
「まさか…」
俺のファウルカップで、抜いたのか?
虎城が、さっきこの場所で。
コンドームの中にたっぷりと吐き出された精液は、今出されたばかりのように白濁としている。恐る恐る触れれば、まだ温かかった。指先を押すその確かな弾力が、その粘度の高さを物語っている。
頭の中で、何かがプツリと切れたような音がした。
「はぁ…はぁ…虎城…っぁ――」
水風船のように膨らんだそのゴムの先端を、そっと、口先に含ませる。
舌先で絡ませれば、それだけで虎城を感じることができた。これが、虎城のちんぽから射精されたんだ。ただその事実だけで、俺は今にも達してしまいそうだった。
荒れた手つきで、俺はジャージの中へと手を突っ込む。
完全に勃起したそれは、もう別の生き物のようだった。それを握りしめただけで、今にも射精してしまいそうな快感が背筋を駆け抜ける。
もう、堪える事などできなかった。
「た、確か――」
俺はバックに手を伸ばすと、中からコンドームの箱を取り出した。
ネットにしか売ってない。特大サイズのモノだ。それを一袋牙で食い破りながら、片手でジャージとパンツをずり下げる。
ブルンと、俺のモノがあらわになった。
亀頭の半分まで被った皮が、エラの張ったカリ首の輪郭をくっきりと浮かび上がらせている。少しつまんだだけで、いとも簡単にその柔らかな包皮は剥けた。パックリと割れた鈴口から、透明な我慢汁が溢れている。俺はそこにゴムをあてがうと、一気に根元まで被せていった。
「っ――!!」
せり上がる射精感に、思わず体が痙攣する。
たぷたぷと揺れるコンドームの白濁とした袋を眺めながら、俺は一心不乱に自分のモノを扱きあげた。
久々に感じる快感に、涎が出ているのを感じる。
それでも俺は、手を止めることができなかった。
「虎城…こじょう…っぁ――」
虎城が、俺のファウルカップを使って抜いた。
その事実だけで、俺は頭がどうにかなってしまいそうだった。
しかもこの精液の量だ。ゴムの端から、微かにあの甘い匂いがした。
今すぐ、あの匂いを嗅ぎたい。
鼻先に押しつけて、思う存分堪能したかった。あの香りを思い出しながら、俺は自分のモノを激しく扱きあげる。
コンドームの端から香る微かな香りに、俺はゴクンと生唾を飲み込んだ。
虎城の精液から、確かにあの匂いがする。
精液特有の青臭い生臭さの中で、あの甘ったるい蜂蜜のような匂いがした。
俺のモノを扱きあげる手のスピードが、段々早くなっていく。
俺は牙でゴムを食い破ると、一気に虎城の精液を飲み込んだ。
「んんんんんんん!!! っがぁ――」
あまりの快感に、俺は、目を見開く。
あの甘い匂いを、数百倍に濃縮したような香りだった。甘ったるくて、苦くて、そして生臭い。その青臭さが、鼻の奥を突き抜ける。
目尻から、涙がこぼれ落ちたのを感じた。
それでも、絡める舌先を止めることができない。
体を痙攣させながら、俺は自分のモノを扱いた。たぷたぷと、コンドームの先が大きな水風船を作って揺れている。
気づけば、俺ははしたなく精を吐き出していた。
それも、何度も。止まらない射精に、息が出来ない。
黄色い、凝り固まったような痰のような精液だった。それが、俺のモノからコンドームの中へと、重く垂れ下がってその水面を揺らしている。
流れ出る涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになりながら、俺は最後の一滴を搾り取るようにして飲み込んだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
体に、力が入らない。
俺は両手を後ろのマットレスにつくと、両肩を上下させながら息を弾ませた。
まだ萎えない俺のモノから、精液の水風船を作ったコンドームがたぷたぷと揺れている。
微かに聞こえてくる蛍光灯の音が、一気に俺の理性を呼び戻していくようだった。
「虎城…」
もう、後には戻れない。
その事実だけが、頭の奥で突きつけられる。
俺の手には、食い破られた虎城のコンドームが指先に絡まったままだった。
その生々しい感触が、俺の心を抉る。
すでに知ってしまった興奮と快感が、この身体に染みついてしまったのを感じた。
「俺は…どうすれば…」
頭を抱え、俺はうなだれる。
虎城も、同じ想いなのだろうか。それを確かめる術は、どこにもない。ただこのままではいけないことだけが、痛いくらいに分かっていた。
頭の中で、俺は覚悟を決める。
もしこれが、恋と言うのなら。
一人で耐えるには、あまりにも重すぎる痛みだった。
8 虎城 啓介
次の日の朝。
俺は、生きた心地がしなかった。
目が覚めた時、大熊は部屋にはいなかった。朝の食堂を見ても、姿が見当たらない。いつもは一緒のはずなのに、今日だけはその姿がなかった。
思い当たる節はある。
無いのだ。昨日抜いた後に隠した、使用済みのコンドームが。
あれから部屋に戻って、夜中にこっそり捨てようと思ったその時。ベットには、大熊のファウルカップしかなかった。
何度も探した。
部屋中、くまなく。それでも、どうしても見つからなかった。その事実が、俺の首を締め付ける。
まさか、バレたのか?
俺が、大熊のファウルカップで抜いたことが。
あいつが部屋に戻ってきた時、確かに俺が抜いていたことはバレていた。そう思えば思うほど、俺の頭の中は絶望で塗りつぶされていく。
もし、嫌われたらどうする?
もうこれ以上、大熊と一緒にいられなかったとしたら。それこそ、耐えられる訳ない。
惚れているんだ。どうしようもない位に。
その事実だけが、俺の頭の中でぐるぐると回り続けていた。
「大熊…」
朝の教室で、誰もいない隣の席を見る。
いつもは、ここの大熊がいる。あの甘くも切ない匂いが、いつも胸を締め付けた。
ただ今日一日、まだ会えていないだけ。ただ、それだけのはずなのに。
どうして、こんなにも苦しいんだ?
「…よ、虎城。おはようさん」
大狼が、手を上げながら声をかける。
そしてそのまま、大狼は大熊の席へと座った。
身を乗り出し、顔を近づける。
目が、爛々と光っていた。
「…で? どうだった? 昨日はよ…」
ズキリと、胸の奥に痛みが走った。
飲み込もうとした唾が、上手く流れてくれない。
吸い込んだ息が、酷く痛かった。
「…持ってきたか?」
「…あぁ。バックの中にある」
「…よし。じゃあ、今日にでも元の場所に戻しとくわ。…またあとでな」
そう言って目の前の狼は手のひらを俺の肩に乗せると、椅子から立ち上がっていった。
胸の鼓動が、バクバクと言っている。
また、あの匂いを嗅げたら。
そう思いそうになったところで、俺は頭を乱暴に横に振った。
もう、これ以上は駄目だ。
麻薬のように、抜け出せなくなる。
そう言いつつも反応している下半身が、ただ本能をむき出しにしていた。
「よ!! 大熊!! お前今朝どこ行ってたんだ!?」
大狼のその声に、俺はビクリと身体を震わせる。
見上げれば、あの大きな熊がそこにいた。
あの甘い匂いが、胸を締め付ける。
俺は、まだ状況をつかめずにいた。
「あ…大熊…」
自分でも思うほど、情けない声がこぼれ落ちた。
真っ直ぐに、大熊の顔を見ることができない。
きっと今俺は、捨てられた子犬のような目をしているのだろうと思った。
「…すまん、虎城…ちょっと、朝用事があってだな。…一緒に飯も食えなかった。…すまん」
かしゃがれたその声に、俺は涙が出そうになる。
大熊に、まだ嫌われていない。その事実だけが、俺を地獄から救った。
声を、出したいのに。
上手く、出てきてくれない。
胸が、締め付けられた。
「き、気にすんなって!! そ、その…気ぃ使わせて悪い…俺も、その…」
やっと出てきた言葉は、歯切れが悪かった。
そんな俺を見て、大熊は優しく微笑む。
目尻が、一気に熱くなった。
「…なぁ、虎城…」
「な、なんだ?」
「…放課後、部活が終わったら…二人きりで会えないか?」
その言葉に、俺は目を見開く。
胸が、高鳴った。
「そ、それって――」
「…大切なことを、伝えたい。もしお前が…俺を許してくれるなら…」
かしゃがれたその声が、耳を打つ。
教室の中でチャイムが鳴り響いたのは、それから少ししてからのことだった。
9 大熊 大悟
外は、雨が降り続いていた。
さっきまでは晴れだったのに、突然通り雨のように豪雨が降り出してきた。ちょうど、部活の片付けをしていた時だった。おかげで、俺は濡れずに寮までたどり着くことができた。
いつもなら、部室で着替えてから寮に入る。
でもこの雨だ。俺は、珍しくユニホーム姿のまま寮の中を歩いていた。
他の生徒も似たようなもので、部活姿のまま寮に入っている奴らばかりだった。降り出した雨は酷く、アスファルトに打ち付ける雨音が寮の中まで鳴り響いていた。
「いよいよか…」
漏れ出した独り言が、舌先に絡みついていく。
段々と、胸の鼓動が早くなっていく自分がいた。
覚悟は決めた。
腹を括ると、そう決めた。
なのに、どうして今になって足がすくむ?
ただ、怖かった。拒絶されたらどうしようかと、ずっと思い悩んだ。
それを振り切ろうと、朝からグラウンドを走り込んだのに。頭の中は、一向に振り切れてくれない。
それでも俺は、虎城に告白する道を選んだ。
「虎城…」
名前を口ずさんだだけで、胸の奥が締め付けられる。
姿を思い返すだけで、心が壊れそうになる。
あいつの全てが、ただ愛おしかった。報われなくてもいい。玉砕してもいい。ただ、この想いを伝えたかった。ただ、許されたかった。
廊下を歩いていた足を、俺は止める。
目の前に、俺と虎城の部屋があった。
見慣れたはずの扉が、今日は違って見える。
この部屋の中に、虎城がいる。そんな分かりきった事実が、俺の胸を締め付けた。
バックを握りしめていた手のひらに、汗が滲む。
俺は一気に息を吸い込むと、自分の部屋の扉を開いた。
「…虎城?」
誰も、いない。
そこにいるはずの虎城の姿が、どこにも見当たらなかった。
手にしていたバックが、重々しく床の上へと落ちていく。
心に沈んだのは、ただ罪の意識だけだった。
「大熊? どうしてお前ここにいるんだ?」
開いたままの扉から、ふと、大狼が姿を見せる。
その声に、俺は振り向いた。
「大狼…虎城を見かけなかったか?」
「見かけなかったって…虎城ならお前を探して部室まで行ったぞ? 会わなかったのか?」
キョトンとした目で、大狼は俺を見つめる。
部屋の外で雷が落ちたのは、その時だった。
「部室って…この雨の中をか!?」
「いや…虎城を見たときはまだ晴れてたけどよ。てっきり俺は、お前と一緒だと――」
そこまで聞いたところで、俺は部屋から駆け出した。
頭の中が、ぐちゃぐちゃになる。
今はただ、一刻も早く虎城に会いたかった。
「おい!! 大熊!! 傘は!?」
大狼の声が、背後で聞こえる。
それでも俺は、足を止めなかった。
轟々と、雨は降り続いている。
もし、許されるのなら。
この罪さえも、洗い流してくれと願った。
10 虎城 啓介
ずっと、雨が降り続いていた。
グラウンドの横にある部室の外で、ぽつりと、俺は雨宿りしたまま立ち尽くしている。
探していたあの大きな熊の姿は、ここにはなかった。
「やまねぇな…」
傘は、持ってきていない。さっきまで爛々と晴れ渡っていたんだ。傘など、持ち合わせる術もなかった。
大きな雨粒が、グラウンドの土を跳ね返し茶色い水たまりをつくっていく。
まるで、俺の心のようだと思った。
目を、閉じる。
思い浮かぶのは、大熊の姿ばかりだった。その姿を思い返すだけで、あの甘くも切ない匂いが胸を締め付ける。
誰を好きになることが、こんなにも苦しいことだったなんて。知らなかった。
ただ、触れたかった。
その手のひらを、握りしめたかった。その両腕に、抱きしめて貰いたかった。
ただ、それだけなのに。それを口にした瞬間、この友情は砂の城のように簡単に崩れ去っていくのだろう。
この打ち付ける、雨に流されていくように。きっとこの想いは、濁流の中へと飲み込まれていく。それが分からない程、俺も馬鹿じゃなかった。
「大熊…」
好きだ。
そう言葉にした瞬間、ストンと、それは心の奥に落ちていった。
どうしようもない位に、好きだ。
その事実だけが、一人きりの寂しさを浮き彫りにしていく。
ただ、苦しかった。
「…あれ? どうして泣いてるんだ? 俺…」
溢れ出た涙に、心が、壊れそうになる。
ただ、会いたかった。
その声で、自分の名前を呼んで欲しかった。
でもそれさえも、俺のはしたない欲情がぶち壊してしまう。
それがただ、悔しくて仕方が無かった。
「なんで…俺…」
ただ普通に、側にいたいだけだった。
なのに、身体が言うことを聞かない。いつだってあの甘い香りを嗅いでしまえば、俺の身体は無情にも反応してしまう。
こんなの、大熊が求めているはずがなかった。
打ち付ける雨の音だけが、辺りを包んでいる。
このまま、じっとしている訳にはいかない。それでも、まだ俺は帰りたくなかった。
帰れば、また自分のはしたない情欲と向き合うことになる。
そんなの、もう俺には耐えられなかった。
「虎城!!!」
馬鹿でかい、声が聞こえた。
かしゃがれた、低い声。それが、俺の鼓膜を響かせる。
思わず俺は、辺りを見渡した。
胸の鼓動が高鳴る。
雨の先に、あの大きな身体がこちらに走って生きているのが見えた。
「大熊!!」
野球のユニホーム姿のまま、大熊はびしょ濡れになって走ってきた。
部室の軒先にたどり着いた瞬間、肩を上下にさせながら大熊は息を荒げる。
ポタポタとしたたり落ちる雨のしずくが、灰色のコンクリートを色濃く染め上げていった。
「大熊…!! どうして――」
「…すまん。お前が、寮にいると思ったら…部室にいると大狼から聞いて…その、いてもたってもいられなくなってだな…」
息も絶え絶えに、大熊はそう言葉を続ける。
胸が、押しつぶされた。
「そ、そんな…」
「すまん…虎城…傘、忘れてきてしまった。急いできたから…つい…」
「いいんだ!! いいんだよ、そんなことは!! 俺は、ただ――」
お前に、会いたかった。
その言葉が、俺のマズルからこぼれ落ちないまま消えていく。
今にも、俺は泣いてしまいそうだった。
そんな俺を慰めるように、雨が、ただ淡々と降り続いている。
ここには、俺たち以外誰もいない。
その感覚が、なぜか俺を焦らした。
「…大熊」
「…なんだ?」
「今日、俺と話があるって…それって――」
絞り出した声が、震えていた。
目の前の茶色い瞳が、その色を変える。
あの甘い匂いが、急にその濃さを増した。
「…虎城。その…お前に、伝えたいことがある」
そこで、大熊は言葉を遮った。
高鳴る胸の鼓動に、雨の音が消える。
目の前の瞳は、怯えたように震えていた。
その水面に、微かに俺が映り込んでいる。
まるで時間が止まったかのような感覚が、俺を襲った。
「…好きだ。虎城…」
涙が、こぼれ落ちた。
上手く、息が出来ない。
あの甘い匂いが、急に強くなった。
「大熊…」
「…初めて会ったあの日から、ずっと…好きだった。だから――」
その瞬間。
その言葉の続きを聞かないまま、俺は目の前の身体に抱きついた。
雨に濡れた野球のユニホームが、俺の肌を冷たく濡らす。
言葉が出なかった。
「お、おい!! 虎城…!!」
戸惑ったような大熊の声が、鼓膜を震わせる。
それでも俺は、目の前の身体から抱きついて離さなかった。
あの甘い匂いが、俺を包み込んでいる。
もう、我慢できなかった。
「…俺も、だ…」
泣きながら、俺は言葉を続けた。
「お、俺も…お前の事が、す…好きだ…大熊――」
遮る嗚咽で、上手く言葉が出ない。
そんな俺を優しく包み込むように、大熊は俺を抱き返してくれた。
冷たい雨で濡れた布地の中に、確かに、今鼓動する大熊の温もりを感じる。
今まで必死になって保とうとしていた何かが、一気に、大きな音を立てて崩れ去ったような気がした。
「お、おおくま…」
「…泣くな、虎城。酷い顔だぞ?」
「だって!!! …だってよ!!」
「…分かった。分かったから…もう、泣かないでくれ、虎城…」
太い丸太のような腕が、俺の身体を抱きしめる。
激しい嗚咽の中で、あの甘い匂いが、ずっと俺を包み込んでいた。
雨に濡れたユニホームの布地に、俺は顔を押しつける。
大きな手のひらが、優しく俺の頭を撫でるように包み込んだ。
「虎城…」
雄々しいその指先が、俺の頬を撫でる。
目の前の茶色をした瞳は、微かに揺れていた。
そっと、俺の顎先を指先が触れる。
吹きかかる吐息が、ただ、熱かった。
「大熊…」
もう、それ以上の言葉はいらなかったのだろう。
吸い寄せられるように、俺たちは互いの唇を重ね合わせた。
「んん!! んっ…」
甘い、蜜の味がする。
絡め合わせた舌先が、火傷するように熱かった。
求め合う唇が、段々と激しく、その舌先を絡め合わせ始める。もう、何もいらなかった。ただずっと、このままでいたい。ただ大熊を、ずっと感じていたかった。
大きな手のひらが、ゆっくりと、俺の腰を撫でる。
そのまま、大熊は俺の下腹部へと手を這わせた。
突き抜ける快感に、俺は思わず息を止める。
離れていった互いの唇に、銀色の糸が切なげに切れていった。
「…勃っているぞ。虎城…」
いやらしく、目の前の熊は笑った。
あの甘い匂いが、一気に強くなる。
あの大熊が、今発情しているのを知った。
「…お前もだろ?」
そう言って、俺は大熊のユニホームのズボンに手を伸ばす。
パンパンに張り詰めたそのユニホームの中で、確かに大熊のモノが、はち切れんばかりに勃起していた。それを優しく包み込むように手のひらで撫でれば、確かに脈動する熱が、雨で濡れたユニホームの布地越しに伝わる。
頭の中で、プツリと、何かが音を立てて切れたような気がした。
「…お前が、欲しい…大熊…」
ピクリと、大熊の耳が反応する。
目の前の瞳の色が、変わった。
「虎城…」
「…もう、我慢できねぇよ…大熊…ずっと、お前のことばかり考えてた。お前と、ヤりたいって…だから――」
もうそれ以上の言葉を言う必要はなかったのだろう。
大熊は、俺の身体をもう一度抱きしめた。強く、求めるように。太い丸太のようなその両腕が、俺を包み込む。
言葉が、出なかった。
「…俺もだ。虎城…」
声が、震えていた。
その興奮したような吐息に、胸が、締め付けられる。
「…中に入るぞ、虎城。…ついてこい」
大きな手のひらが、俺の手を握りしめる。
降り続く雨の音だけが、ずっと響き渡っていた。
11 虎城 啓介
部室の中は、この雨で少し冷え込んでいた。
嗅ぎ慣れない、汗と土埃を濃縮させたような匂いがする。壁際にずらりと並べられたロッカーの中央に、背もたれのない横長のソファーが置いてある。目を向ければ、バットやキャッチャーの防具といった備品が壁には立てかけられていた。その普段目にしない光景に、緊張してしまっている自分がいる。
「虎城…」
大熊が、俺の身体を抱き寄せる。
首筋にその丸いマズルを埋めながら、鼻息を立てて大きく息を吸い込んでいるようだった。身体をなで回す大きな手のひらが、俺の呼吸を荒くさせる。
あの甘ったるくも切ない香りが、胸を締め付けた。
「…すまん、虎城…こういうことをするのは、その…俺も初めてなんだ。だから…」
荒れた息のまま、そう目の前の熊は言葉を続けた。
興奮しているのだろうか。
マズルが、微かに震えていた。
「…大丈夫だ。俺も、は…初めてだからよ…」
「…そうか。上手く出来なかったら…すまん。できる限り、その…善処する…」
大きな胸板が、そのかしゃがれた声を震わせる。
もう辛抱堪らないのだろう。その大きな瞳は、確かな欲情で濡れていた。
白いユニホームのズボンの中で、大熊のものがビクリと脈動する。
喉が、急に渇いた。
「…で、でもよ…その、ゴムもローションもねぇし…本番は、流石に…」
「…いや、待て。無いことは…ない」
そう言って、大熊は自分のロッカーであろう場所の扉を開くと、中から何かビニール袋を取り出した。
見れば、透明な液体が入ったボトルと、店にはなかなか売っていないであろう特大サイズのコンドームの箱だった。
「それって――」
「…大狼が今日持ってきた。必要だろうって。寮に持って行くわけにはいかなかったから、ここに置きっぱなしにしていたんだが…」
どこか困惑したように、目の前の熊はそう言葉を続けた。
大熊の手のひらの大きさから、ゴムとローションのボトルがどこか小さく見える。
これから行うであろう行為を目の前に、俺たちはもう興奮を隠せずにいた。
「お、大熊!! っぁ――」
大熊の丸太のような腕が、俺の身体を抱き寄せる。
そのまま俺の首筋にマズルを埋めながら、大熊は俺の股ぐらを制服越しにいやらしくもみほぐしていった。
初めて触られる快感に、腰が砕けそうになる。
俺も大熊の身体に抱きつきながら、テントを張っている雨に濡れたユニホームのズボンを撫で回していた。
「…お前のモノが見たい。虎城…」
荒れた息のまま、大熊はそう俺に告げた。
目の色が違う。
獲物を見るようなその眼差しに、胸が弾んだ。
「大熊…」
「…いいか?」
無言のまま、俺はコクコクと頷く。
太い指先が、俺のズボンのベルトを外す。ゆっくりと、ファスナーが下りていった。その瞬間走る微弱な快感に、俺は唾を飲み込む。
パサリと、制服のズボンが足下に落ちていった。
ボクサーパンツを押し上げるのは、俺の勃起しきったモノだ。それが、今大熊の目の前に露わになる。
「いくぞ…」
大熊の指先が、微かに震えていた。
その指先が、俺のパンツのゴムを摘まむ。
大熊は俺のモノの先端が当たらないようパンツのゴムを伸ばしながら、ゆっくりとそれを下ろしていった。
「…お、大熊…そうマジマジと見られると、俺も…恥ずかしいというか、その…」
振り絞った言葉は、どうやら大熊には届いていなかったようだ。
息を荒くさせながら、大熊は露わになった俺のモノを食い入るように見ている。心なしか、鼻息が荒かった。その丸みを帯びたマズルを俺のモノへと近づけながら、ヒクヒクとその鼻先を震わせている。
生きた心地がしなかった。
「…触っても、いいか?」
しゃがんだまま、大熊は俺の顔を見上げる。
俺の鈴口から、タラリと我慢汁がしたたり落ちた。
「あ、あぁ…」
喉の奥が、へばりついたように離れない。
大熊の太い指先が、壊れ物を触るかのように俺のモノへと触れる。
待ち望んでいた快感が、背筋を駆け抜けた。
「っぁ――」
ゆっくりと、根元から扱きあげていくような動きだった。
カリのくびれに溜まった蜜が、大熊の親指と人差し指をいやらしく濡らしていく。弾力のある肉球が、包み込むように俺のモノを押し返した。
せり上がる射精感に、息が出来ない。
立っている両膝が、今にも崩れ落ちそうだった。
「気持ちいいか? 虎城…」
大熊が立ち上がり、俺の耳元で囁く。
ガクガクになった俺を支えるように、大熊は片腕を俺の腰へと回してくれた。
「虎城…」
「…な、なんだ?」
「俺のも、その…触ってくれないか?」
その言葉に、胸がドクンと高鳴る。
上手く、息が出来なかった。
「…い、いいのか?」
「…あぁ。た、頼む…」
大熊も、興奮しているのだろうか。
その声は、少し震えていた。
不意に、大熊の下腹部に目を向ける。真っ白な野球のユニホームに包まれたその場所は、別の生き物が潜んでいるかのように大きな膨らみを脈動させていた。丸太のような太ももに、ぴっちりと張り付いたように締め上げられた野球特有のソックス。その全てが、卑猥に見えてならない。
俺は、恐る恐るベルトを外そうと指をかける。でもなかなか、思うように外れない。
そんな俺を気遣ってか、大熊は自分でユニホームのベルトを外してくれた。そしてそのまま、ユニホームのズボンのファスナーを下ろしていく。
あの甘ったるくも切ない匂いが、鼻の先をつんと刺した。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
指先が、微かに震えていた。
ズボンに手をかければ、雨でぐっしょりと濡れている。その重みのある感覚が、微かな抵抗として抗っているようだった。それを無視するように、俺はズボンを一気に下ろしていく。
真っ白な、スライディングパンツが目の前の露わになった。
あまりにも大きすぎる肉棒が、横向きに脈動している。その先端は、染み出た粘液で濡れているのだろう。微かに透けた布地から、パックリ割れた鈴口が見て取れた。その大熊のモノに引っ張られるように、アボカドのような双球がくっきりとその輪郭を浮き彫りにしている。見れば、股間の部分にはファウルカップを入れるであろうポケットがついていた。それを目の当たりにした途端、昨日味わったばかりの興奮が脳裏に蘇る。
雨の匂いの中で、確かにあの甘い匂いがした。
それが、大熊の股間から色濃く漂っている。俺は唾を飲み込むと、大熊のパンツに手をかけた。
「すげえ…」
露わになったのは、あまりにもデカすぎるモノだった。
柔らかな包皮がカリの所で止まり、その括れの凹凸をくっきりと浮かび上がらせている。パックリと割れた鈴口から、透明な蜜が溢れ出ていた。それが銀色の糸を作りながら、床の上へと滴り落ちていく。
たわわに実った果実のようにずっしりと重く垂れ下がる双球が、大熊の身体の動きに合わせてゆっくりと揺れていた。
あの甘い匂いが、つんと鼻先をくすぶる。
俺は震えた手で、大熊のモノを握りしめた。
「っぁ…ぅっ…虎城…いいぞ…」
熱い体温が、直に肌を伝わる。
肉々しい弾力が、肉球を押し返した。その生々しすぎる硬さに、喉が急に渇き始める。
少し下に指先を動かせば、簡単に亀頭の包皮はズルリと剥けていった。
ドプリと、鈴口から我慢汁が溢れ出る。それを指先に絡め合わせながら、大熊の亀頭のカリ首を扱いていった。それだけで、あの甘い匂いが色濃く漂ってくる。
「んんんん!!! っぁ――」
互いのモノを扱き合いながら、大熊は俺の唇を奪った。
絡め合う舌先の感覚と、我慢汁で滑りを帯びた手のひらの感触が、電撃のような快感を走らせる。大きな手のひらが、ただ温かかった。押し返す肉球の弾力が、俺の雁首に絡みつく。野球で鍛えられたゴツゴツとした指先が俺のモノを上下に扱きあげる度に、俺は生娘のような声を上げた。
もう何もかも、差し出してもいい。
この甘い香りに包まれながら、ただ快感に溺れていたい。部室に漂う汗と砂埃の匂いと、大熊の濡れたユニホームから漂う雨の匂いが、俺を興奮させた。
大熊の手の平が、ゆっくりと、俺の身体をソファーの上へと押し倒していく。
背もたれのない、座るだけのそれは、少し堅かった。その非日常的な冷たい感触が、今俺たちがいけないことをしているような錯覚を覚えさせる。
見上げた目の前の瞳は、違う色で濡れていた。
俺の頬を、そっと大熊が指先で触れる。
震えた白い牙が、確かな興奮で光っていた。
「虎城・・・」
大きな手の平が、俺の太ももの内側を撫でる。
限界まで勃起した俺のモノが、辛抱たまらんと透明な蜜を垂らしながらヒクヒクと脈動していた。
ゆっくりと、大熊のマズルが俺のモノに近づく。
先端の匂いを嗅ぐように、鼻先をヒクヒクさせながら、大熊は俺のモノをじっとりと見つめていた。
「虎城・・・いいか?」
一瞬だけ、大熊と目が合う。
コクリと、俺が頷いた瞬間。
大熊は、俺のモノを一気にそのマズルの中へと咥え込んでいった。
「がぁああああああ!! っぁ――」
まるで、火傷しそうな熱だった。
それが、柔らかくとろけるように、絡みついて離さない。
あまりの快感に、俺は身体を弓なりにして仰け反らせた。指先を立てた堅いソファーの感触だけが、暴れそうになる俺の身体を押さえてくれる。見上げた見慣れない天井の端で、ゆっくりと大熊の顔が上下に動いていくのが見えた。その吸い取るような吸い付く快感に、涙が、こぼれ落ちる。
ふと、ガサガサと、大熊の方から音が聞こえた。
見れば、大熊はビニール袋からコンドームの箱を取り出すと、器用に封を開けていく。そして小さな小袋から一つゴムを取り出すと、限界まで勃起した大熊のモノに装着していった。そしてそのまま、大熊は自分のモノを扱きながら俺のモノを激しくしゃぶっていく。大熊が自分のモノを扱くその小刻みな動きが太ももに伝わって、俺は人知れず興奮していた。
大熊の上下するマズルの動きが、段々速くなっていく。
濡れた唾液の音と、泡立つような我慢汁の音が、誰もいない部室の中に響き渡っていった。
上手く、息が出来ない。
もう限界が、すぐそこまで来ていた。
「お、大熊!! もう・・・駄目だ・・・は、離せ――」
その声に、大熊の耳がピクリと反応する。
その瞬間、絡みつく舌先の動きが激しくなった。
このままイケと、そう搾り取るように。
自分の玉が、グッと持ち上がるのを感じた。
「だ、駄目だ大熊!! い、イク!! イッちまうから!! がぁあああああ!!! っぁ!!」
太い丸太のような大熊の両腕が、俺の身体をぐっと押さえる。
しがみついた俺の手の平が、大熊の毛皮に食い込んでいくのを感じた。
「い、イク!! イぐぅ!!! がああああああああ!! っぁ――」
「んぐぅ!! んんんんん・・・ごくっ・・・んぐ・・・ぁ・・・」
まるで、電撃が走ったかのような快感だった。
壊れたホースのように、大量の精液が大熊の腔内に吐き出されていく。それを、大熊は喉仏を上下させながら飲んでいた。低いうめき声をくぐもらせながら、ねっとりと俺のモノを舌先で絡ませていく。その獲物を捕食するような動きに、心を奪われている自分がいた。
大熊の右手が、小刻みに揺れている。
俺のモノをしゃぶりながら、自分のモノを扱いていたのだろう。そのコンドームに包まれた先端が、大きな薄黄色の水風船でたぷたぷと揺れている。
その量に、俺は目を見開いた。
「・・・沢山出たな、虎城」
俺のモノを離しながら、大熊は笑う。
大きな手の平でそのマズルを拭うと、大熊は自分のモノに垂れ下がった、コンドームで出来た精液だまりの水風船を取り外していた。
口を結ぶその瞬間、あの甘ったるい匂いがつんと鼻の先に刺す。
急に、喉の奥が乾いたような気がした。
「それって・・・」
「まぁ・・・結構、出た・・・な。すまん、虎城・・・本当はお前の中でイキたかったんだが・・・もう、我慢できなかった」
そう言葉を続けながら、大熊は俺の頬を撫でる。
未だに堅さを失わない俺のモノが、ビクンと脈動したのを感じた。
見れば、大熊のモノも完全に勃起したまま、萎えずにその鈴口から精液を滴らせている。
急に、喉の奥が乾いた気がした。
「なぁ、大熊・・・」
「・・・なんだ?」
「お、俺も・・・大熊の、しゃぶりたい・・・」
自分の顔が、真っ赤に染まっていくのを感じた。
それでも、口の中に溢れる唾液を押さえることができない。
俺はソファーから身体を起こすと、そのまま手をついて腰を掛けた。
目の前に、仁王立ちした大熊のちんぽがヒクヒクと脈動している。
嗅ぎ慣れた精液のあの匂いと、濃厚なあの甘い匂いが、確かに俺の鼻先を燻っていた。
「・・・い、いいのか?」
「・・・あぁ」
鼻先を、大熊のちんぽに近づける。
あの甘ったるい匂いが、つんと鼻先を突き刺した。胸が締め付けられるその匂いに、鼓動が速くなっていく。
俺は大熊のモノを手で支えると、一気にそれを口の中へと頬張った。
「んんんん!!! んぁ――」
「っぁ!! 虎城ぉっ・・・!! っが!!」
ビクリと、大熊の巨体が震えたのを感じた。
舌先を、絡め合わせた瞬間。鼻孔の奥まで、さっき吐き出した精液の生臭さと、あの甘ったるい蜂蜜のような匂いが突き刺していく。まるで、頭の中をぐちゃぐちゃに犯されているようだった。その暴力的な臭いに、大熊のモノをしゃぶりながら俺も自分のモノを片手で扱き始める。
口いっぱいに頬張っても、大熊のモノは入りきれなかった。
その圧迫感で、自分の唾液が部室のコンクリートの床にしたたり落ちていくのを感じる。ゆっくりマズルをすぼめていけば、それだけで大熊の腰は砕けたように震えた。
自分の鼻息が、段々荒くなっていくのを感じる。
自分のモノを扱きあげるスピードが、段々と速くなっていくのを感じた。せり上がっていく射精感に、もうすぐそこまで限界が来ていることを感じる。
舌先を、大熊の亀頭に絡みつかせて吸い付いた。その時だった。
「・・・っぁ!! だ、駄目だ虎城・・・もう、イッてしまう・・・」
あともう少しのところだったのに、大熊はそこで俺の動きを止めた。
ゆっくりと、俺のマズルから大熊は自分のモノを抜き取っていく。
俺の唾液でぐちょぐちょに濡れたそれは、もう別の生き物のようだった。
「大熊・・・」
「・・・すまん。折角なら・・・お前の中でイキたくてだな・・・」
大きな手の平が、俺の頭を撫でる。
その温もりに、心の奥がギュッと締め付けられるのを感じた。
大熊はその目を細めながら、もう一度俺の唇を重ね合わせていく。
ゆっくりとマットレスの上に俺の身体を押し倒しながら、大熊は俺の太ももの間へと身体を滑り込ませた。
未だにユニホームのズボンを膝までしか下ろしていないそれは、カチャカチャとベルトの音を立てる。
今から行うことが何か想像するだけで、俺は興奮で息が出来なかった。
「虎城・・・いいか?」
大熊が、俺の尻をさする。
これから、俺の秘部を解すのだろう。生まれて初めて体験するその行為に、俺は一人緊張していた。
無言のまま、俺はコクコクと首を縦に振る。
大熊はローションのボトルの蓋を開けると、その指先にねっとりとした粘液を絡め合わせていった。
「・・・っぁ!! っ・・・」
「・・・すまん。冷たいか?」
俺の秘部に、大熊の指先が触れる。
まだ柔らかく閉ざしたそこは、ゴツゴツとした大熊の指先の侵入を拒んでいた。
柔らかな肉壁の割れ目に、大熊はローションを馴染ませていく。
胸が、締め付けられた。
「いくぞ・・・」
大熊のその声と共に、大熊の指先がゆっくりと俺の中へと入っていく。
予想以上に何の抵抗もなく入っていくその感覚に、俺は思わず背中を弓なりにした。
そくぞくと、背筋を何かが駆け抜けていく。
いとも簡単に、俺の秘部は大熊の指を根元まで飲み込んでいった。
「っぁあ・・・!! っく・・・」
「大丈夫か?」
「あ、あぁ・・・続けてくれ・・・っぁ――」
生まれて初めての感覚だった。
自分以外の何かが、柔らかなその場所を抉っていく。内壁を押し広げていくその動きに、自然と声が漏れ出た。見れば、虎模様をした俺の長い尻尾を大熊の腕へと巻き付かせている。大熊が俺の秘部から指を出し入れする度に、俺は震えたマズルから声を漏らしてしまっていた。
指が一本、一本と増えていく。
あの甘い匂いのおかげなのだろうか。俺の秘部は、何の抵抗もなく大熊の指を受け入れていった。指の本数が増える度に、駆け抜ける快感も増えていく。ローションと俺の腸液でドロドロになったそこは、大熊のゴツゴツとした指先をテラテラと濡らしていった。
「っぁ!!」
大熊の指が、俺の秘部から一気に引き抜かれる。
その瞬間こみ上げた快感に、俺は背筋を震わせた。
見れば、もう辛抱たまらないのだろう。大熊は、興奮した目でマズルを震わせながら息を荒立てていた。限界まで勃起した大熊のモノからは、葛きりのような我慢汁がぱっくり割れた鈴口から滴り落ちている。
「虎城・・・いいか?」
俺の太ももを押し広げながら、大熊はそう俺に尋ねる。
真っ直ぐに向けられたその瞳が、血走ったように爛々と輝いている。
ずっと待ちわびていたその瞬間が、もうすぐそこまで来ていた。
「あぁ・・・頼む、挿れてくれ・・・大熊・・・」
喉の奥が、乾いてへばりついたようだった。上手く出ない声に、俺は固唾を飲み込む。
大熊も一緒だったのだろう。
目の前の喉仏が、一気に上下したのが分かった。緊張しているのだろうか。丸い耳が、ヒコヒコと揺れている。
「虎城・・・」
大熊が、コンドームの袋を開ける。
中から取りだした薄いゴムを、大熊は完全に勃起した自分のモノへと被せていった。
先端から、根元までが薄いゴムの膜で包まれていく。そしてそのまま大熊はローションを指先に馴染ませると、ぬちゃぬちゃと音を立てながら自分のモノを扱き始めた。
俺の秘部に、俺の先端が押しつけられる。
クチュリと音を立てながら吸い付くそこは、大熊の侵入を心待ちにしているようだった。
「・・・いくぞ」
ぐっと、大熊が体重をかける。
柔らかく解されたその場所が、ニュルリと何の抵抗もなく大熊のモノを受け入れ始めた。
「っぁ!! っく!!」
「ふーっ!! ふーっ!! ふーっ!! ・・・っが!! こ、虎城・・・だ、大丈夫、か?」
火傷しそうな熱が、俺の中に入っていく。
快感がすさまじいのだろう。大熊は息を荒げながら、顔をしかめてグッと射精しそうになるのを堪えているようだった。何度も俺の中で脈動するその動きが、せり上がるその射精感を物語っている。
ゆっくりと、ゆっくりと、大熊は俺の中に挿入していった。
強い圧迫感で、息ができない。気づけば、俺の目尻からは涙が零れていた。それを拭うように、大熊の親指がそっと俺の頬に触れる。
「だ、大丈夫・・・か?」
「あ、あぁ・・・痛くは、ない・・・続けてくれ・・・」
不思議と、痛みはなかった。
あの甘い香りのお陰だろうか。それよりも、背筋を駆け抜けるゾクゾクとした快感が怖かった。まだ半分ほどしか入っていないのに、この快感だ。すべてが入った後に抜き差しされたら、俺はどうなってしまうのだろうか。そんな怖さが、頭をよぎる。
腰に体重をかけながら、大熊は俺のモノを握りしめるとゆっくりとそれを扱きあげた。
ぬちゃぬちゃと、ローションを蓄えたそれが、白い泡を作りながら我慢汁と混ざっていく。未だに萎えない俺のモノは、完全に勃起したままだった。俺の秘部と、俺のモノからせり上がる快感に、腰が砕け始める。
「・・・気持ちいいか?」
顔をゆがめながら、大熊はニヤリと笑った。
俺の秘部が緩んだのだろうか。
大熊のモノが、さらに奥まで入っていったような気がする。
「お、大熊・・・っぁ――!!」
「はぁ・・・はぁ・・・もう、もう少しだ・・・もう少しの、辛抱だから、な・・・」
大きな手の平が、俺の頬を撫でる。
大熊はコンドームの袋を一つ手に取ると、それを俺のモノへと被せていった。
根元までしっかり装着したそれに、再びローションをこれでもかと馴染ませていく。
ぬちゃぬちゃと音を立てながら扱きあげていくその音に合わせて、大熊は更に腰を深く落としていった。
「っぁ・・・お、おおくま・・・!! っがぁ――」
後もう少しで、根本まで入る。
その時だった。
大熊は俺の両足を持ち上げて、ズンと最奥まで腰を打ち付ける。
最後まで入りきったその瞬間こみ上げてきた快感に、俺は一瞬白目を剥いてしまっていた。
トクトクと、大熊のモノが脈動しているのを感じる。
今やっと一つになれたのだと、そう実感した。
「ふぅ・・・ふぅ・・・ぜ、全部入ったぞ・・・こじょう・・・」
大粒の汗を滴らせながら、大熊は笑う。
快感がすさまじいのだろう。少しでも秘部を締め付ければ、それだけで大熊の顔は苦悩に耐えるように激しく歪んだ。
大熊が、俺の指先を絡め合わせるように握りしめる。
固く繋がれた手と手が、今はただ心をときめかせた。
「いくぞ・・・」
その声を共に、ゆっくりと大熊の腰が引き抜かれていく。
ゾクゾクとした快感が、背筋を駆け抜けた。
俺の内壁に、大熊のモノが絡みついていくのを感じる。
そのなめらかな腰つきに、心が奪われた。
「お、大熊・・・っぁ――」
「こ、こじょう・・・っく!!」
先端の、ギリギリまで腰を引いた瞬間。
ゆっくりと、大熊はまた腰を深く沈ませていく。
ローションで滑りを帯びた快感が、俺の最奥を抉った。
息が、出来ない。
ただ大熊と一つになれた喜びだけが、心を熱く溶かし始めていた。
「ふぅ・・・ふぅ・・・っぁ!! あぐっ!!」
「・・・っぁ!! っぁ・・・お、おおくま・・・」
ゆるやかに、大熊は腰をくねらせていく。
大きく円を描くように、雁の括れを内壁に絡め合わせるような動きだった。
大熊の顔が、快感で歪んでいる。ギュッと握りしめた両手が、白く骨を浮き立たせている。
ただ全ての動きが、気持ちよかった。
「んんんん!! っぁ!! っぁあ!!」
大熊が、俺の唇を塞ぐ。
そのまま舌を絡め合わせると、段々と腰つきを速くしていった。
くぐもった俺のあえぎ声が、部室の中を木霊する。大熊のベルトのバックルの音が、カチャカチャとその腰の動きに合わせて小刻みに鳴らしていた。俺の秘部からあふれ出たローションが、ソファーに滴り落ちていくのを感じる。鼻先から抜ける荒い息に、胸の鼓動が激しくなっていくのを感じた。
「気持ちいいか、虎城・・・」
腰を振りながら、大熊はそう俺に尋ねた。
「気持ち、いいか・・・?」
段々と、腰つきが荒く、力強くなっていく。
もう限界が近いのだろうか。大熊のモノは、もうこれ以上にない位にまで固く勃起していた。
涙と涎で、俺の顔がぐしゃぐしゃになる。
大熊は繋いでいた俺の手から手の平を離すと、一気に俺のモノを扱きあげ始めた。
何度も、何度も。
根元から、先端まで。まるで、精液を搾り取るように。
激しい快感が、背筋を駆け抜けた。
「がぁあああああ!! 大熊!! だ、駄目だ!! っぁああ!! がぁああ!!」
「ふぅ、ふぅ、っぁ!! ・・・っく!!」
「おおくま!! い、イク!! イッちまうから!! や、やめ・・・がぁああああああ!!」
泡立ったローションが、俺のモノに被せられたコンドームに絡みついていく。
大熊の固くそそり立ったモノに突き上げられる快感と、抜き差しされるゾクゾクとした快感が、俺のモノを扱きあげる快感と一緒になって射精感をせり上がらせていく。
大熊は腰を上げると、パンパンと打ち付けるように激しく腰を振り始めた。
アボカドのような大熊の双球が、たぷたぷと太ももに当たる。
もう、何も考えられなかった。
「い、イク!! イくぅう!! がぁああああああ!! っぁ――」
その瞬間。
まるで、頭の中が真っ白に塗りつぶされたようだった。
壊れたホースのように、俺のモノからは精液が噴き出していく。それを薄いコンドームの膜が受け止め、大きな水風船を作っていった。
俺の秘部が、これでもかという位に締め付けられる。
大熊の顔が、ギュッと歪んだ。その時だった。
「お、俺も・・・!! い、イク!! がぁあああ!! がぁあ!!」
最後の最奥まで、力強く打ち付けるような腰つきだった。
大熊の巨体が、電撃が走ったように何度も痙攣する。何度もしゃくりをあげながら、大熊は射精しているのだろう。その脈動に合わせて、大熊は何度も腰を小刻みに突き上げていた。
熱いマグマのような熱が、俺の中に広がる。
俺は放心したまま、ただ大熊の手を握りしめることしかできなかった。
「っぁ・・・っく・・・」
ドサリと、大熊の巨体が俺の身体の上にのしかかる。
荒れた呼吸の音が、肩で息をするように木霊していた。大熊の体温と、雨で濡れてじっとりとしたユニホームの感触が、全身を包む。今俺たちは、童貞と処女を捧げたのだと悟った。
窓の外から、雨の音だけが鳴り響いている。
互いの呼吸が、段々落ち着いていくのを感じた。
「はぁ・・・はぁ・・・大丈夫か? 城虎・・・」
大熊の瞳が、優しく俺を捉える。
あの甘い香りが、柔らかく俺を包んでいた。
「あぁ・・・大丈夫だ、大熊・・・ちと、激しかったがな・・・」
息を荒げながら、俺は笑う。
未だに堅さを失わない大熊のモノが、俺の中でピクピクと脈動していた。それを締め付ければ、また大熊の顔が快感で歪む。その反応が、少し面白かった。
「抜くぞ・・・」
その声と共に、ゆっくりと大熊は腰を引いていく。
あの内臓を全て引き抜かれていくような快感が、ゾクゾクと背筋を駆け抜けた。
「っぁ!!」
大熊のモノが抜け落ちた瞬間。にゅぽりと、大きなコンドームの水風船が俺の秘部から抜け落ちていく。
黄色い痰の塊のようなそれは、ぷらぷらとその重い重心を揺らめかせていた。
「出たな・・・」
「あぁ・・・さすがに出過ぎだろ・・・」
俺の言葉に笑いながら、大熊はコンドームの端を結んでいく。
そのまま大熊は俺のモノに被せられたコンドームを引き抜くと、同じようにその端を結んでいった。
二つ並んだ水風船の塊が、タプタプと揺れている。
なぜかその光景が、興奮を呼び覚ました。
「城虎・・・」
大熊のマズルが、そっと近づく。
心なしか、あの甘い匂いも強くなったような気がした。もう欲情しているのだろうか。その回復の早さに、胸が躍る。
未だに萎えない二人のモノが、ビクビクと脈打っていた。
「大熊・・・」
あともう少しで、二人のマズルが重なる。
その時だった。
「あ、あのー・・・流石に時間ないんで、二発目は寮に戻ってからにして貰っていいですかねぇ・・・」
軽口を叩くような、困った声。
驚いてその声の方を見れば、開いた窓の向こう側に傘をさして立っている狼がいる。
大狼だった。
「お、大狼!! い、いつからそこに――」
「いつからって・・・お前らがチューし始めた所位から? ったく・・・人様が傘を届けに迎えに来てやってたら、こんなとこでイチャつきやがって・・・」
大熊のその驚いた声に、大狼はそう迷惑そうに答える。
俺達は冷や水をかけられたように、慌ててズボンを引き上げた。
未だに勃起したままのそれを、なんとか無理矢理中へとねじ込む。
胸の鼓動が、別の意味で鳴り響いていた。
「大狼・・・その、これは・・・」
「・・・心配すんな虎城。誰にも言わねぇよ。大熊の馬鹿が飛び出しちまったから、牛島の野郎が心配して探そうとしている。・・・俺が適当に誤魔化しといたから、話がヤバくなる前に帰るぞ・・・二人とも。・・・続きは寮の部屋ん中でこっそり、な」
そう言葉を続けながら、目の前の狼はウインクをする。
開いた窓から身を乗り出すと、大狼はそのまま部室の中へと入っていた。
手には、俺と大熊の分の傘が握りしめられている。
外で降り続く雨の音が、急に増したようなきがした。
「ん」
俺と大熊に、大狼は傘を差し出す。
校内で持ち主が不明になっているであろうそれは、今の俺達にはぴったりの物だった。
受け取る手が、微かに震えている。
何もかも見透かされていたこの状況が、ただ恥ずかしくて仕方がなかった。
「・・・お前は後で説教な、大熊」
大狼の軽口が、部室の中に木霊する。
そのまま大熊の背中をバンバン叩くと、大狼は部室の扉を開けた。
大粒の雨が降り注ぐ音が、一気に部室の中へと流れ込む。
ただ大狼の小さな背中だけが、その雨を遮ってくれているかのようだった。
「な、なぁ!! 大狼!!」
上手く、声が出てきてくれなかった。
へばりついたように、喉の奥がカラカラになっている。
目の前の狼は振り向くと、こちらを見上げた。
「ん? 何だ?」
握りしめた傘が、微かに軋む。
俺は一気に息を吸い込むと、それを吐き出した。
「その・・・ありがと、な・・・何から、何まで・・・」
伝えたかったはずの言葉は、上手く言葉に出来なかった。
その瞬間、大狼の目が一瞬だけ丸くなる。それもつかの間、大狼は手を上げて笑った。
「・・・いいってことよ。俺達・・・“ともだち”、だろ?」
その小さな声が、雨の中へと消えていく。
なぜかその瞬間の大狼の表情を、ここからは見ることが出来なかった。
「さ、二人とも帰るぞ・・・これ以上は、牛島の野郎も痺れを切らしちまう」
大狼のその声に、俺達は足を踏み出す。
傘を開いた瞬間。大粒の雨が、全身を包み込んだ。その周りを遮断するような音の熱量に、心が、居場所を探し始める。
ふと、見上げたその瞬間。大熊と、目が合った。
交わる目線に、ふと、笑みが零れ落ちる。
ただあの甘い香りが、優しく俺達を包み込んでいた。
12 大狼 聡
傘の向こうで、見慣れた二つの背中が並んでいる。
ずっと、憧れていた。恋い焦がれていた。そんな、大きな背中だった。
燦々と降り続く雨の中で、流れもしない涙が頬を伝っていく音が聞こえる。
きっと、俺の心はもう随分と昔に壊れてしまったんだろうと思った。
俺が大熊に惚れているんだと気づいたのは、この学校に入学してすぐのことだった。
多分、一目惚れだったんだろう。まだ何の穢れもない純粋だったあの頃の俺は、何も考えずに目の前の恋愛感情に溺れることができた。同性愛とか、同級生とか、そんなのどうだっていい。ただ側にいられて、笑っていられて、それであいつが俺の目の前からいなくならないのであれば、それでよかった。
あの、事実を知るまでは。
俺は、そんな可憐な片思いを寄せるだけで良かった。
“あの匂い”を初めて嗅いだのは、高二の春だった。
巷では、運命の番いとか、そんなありもしない下らない話で盛り上がっていた。そうは言っても、当時まだ高二だ。なんだかんだ言って、そんなジンクスみたいなものを頭のどこかでは俺は信じていた。大熊と運命の番いだったらどうしよう、とか、大熊からその甘い香りが漂ってきたらどうしよう、とか、そんなあられもしない妄想をしては恋を焦がらせた。
でも実際は、あの香りが大熊から漂ってくることは一度もなかった。
大熊は、運命の番いじゃない。それは、俺にとって失恋を突きつけられたのと同義だった。精々“ともだち”、親友ポジションでしか側にいられない。その現実を突きつけるように、教室では“甘い匂いがした”とか、“あいつと運命の番いだった”とか、そんな浮いた話が浮かんでは消えていく。ジンクスにしては、妙に現実味を帯びていた。
きっと、この恋は叶わない。
そう悟った時、俺は一人泣いた。
この想いは、報われない。きっと、大熊にも運命の番ができる。その時、俺は一体どうしたらいい? 今まで通り笑っていられるのだろうか? ただ側にいたい、それだけなら良かったのに。心の奥底では、自分が大熊を独り占めしたい、ただ愛されたいと願ってしまっている。そんなどす黒くて生々しい自分を目の前に、俺は笑っていられるのだろうか? 愛されないならいっその事、壊してしまえばいい。そんな破滅的な自分さえもいた。そんな衝動を必死に隠しながら、友達面をして側にいようとしている。そんな俺は、一体何なのだろうと思った。
あの匂いを、嗅いでしまうまでは。
俺はまだ、後戻りできると思っていた。
「こらお前ら!! やっと帰ってきたな!!」
寮の玄関先で、牛島が傘を手に声を張り上げる。
いつものジャージ姿。いつものガタイのいい身体。
そして、いつものあの甘い香りがした。
その事実に、俺はそっと目を逸らす。
否定しようとも、否定できない。誰も知らない、俺たちだけの秘密だった。
「すみません・・・牛島先生・・・」
「あぁーあ、大熊もびしょ濡れじゃねぇか・・・二人とも、先に風呂入ってこい。このままじゃ風邪を引いちまう」
頭を下げる大熊を宥めるように、牛島はそう声をかける。
その声に、虎城も「すんません」と頭を下げると、二人は寮の中へと入っていった。
傘を畳む音が、辺りに響き渡る。
弾かれて外に振るい出された雨粒は、まるで俺のようだと思った。
「・・・上手く行ったか?」
誰にも聞こえない声で、牛島が俺に声をかける。
見上げれば、穏やかな眼差しが俺を射貫いていた。
何もかも見通しているようなその目に、俺は視線を逸らす。
今だけは、強がっていたかった。
「・・・あぁ。無事くっついたよ。・・・もう心配する必要もねぇよ」
心配する必要はない、か。
自分で言って、自分でも悲しかった。
「・・・そうか。・・・大丈夫か?」
大人びたその声に、俺は固唾を飲む。
雨の音が、急にその激しさを増したような気がした。
「・・・今の俺には、あんたがいる。・・・そうだろう?」
そう言って、目の前の牛の顔を見上げる。
急に、あの甘い香りが強くなったような気がした。
きっと、発情しているのだろう。
もうこの関係にも、俺は慣れてしまっていた。
「・・・そうか。夜、宿直室に来い。・・・たっぷり慰めてやるからな」
甘くかしゃがれたその声を響かせながら、牛島は俺の尻をいやらしく触る。
このふざけたノリも、こいつなりの優しさなのだろう。それが分からないほど、俺も馬鹿じゃなかった。
「・・・そっか。俺・・・失恋したんだな」
こぼれ落ちたその言葉が、ストンと、心の奥底に落ちていく。
結ばれる相手が、違う相手だった。ただ、それだけなのに。
どうして、こんなにも心は苦しい?
燦々と降り注ぐ雨の中、牛島の手がそっと、俺の肩を抱き寄せる。
冷えた肌を突き刺す温もりと、鼻先を燻るあの甘い香りに、心が壊れそうになる。
俺が嗚咽を出しながら泣き始めたのは、それから少し経ってからのことだった。
雨が、降り続いている。
ただ側にいたのは、あの甘い香りだけだった。