雄々しき巨象の激臭は、誇り高き狼貴族をこんな変態に育て上げてしまったようです。

  ――ここは、アラムリア王国。魔性と人類との全面戦争、その衝突の最中に生まれた小国家が、我が国の興りである。勇者と共に旅立った4人の仲間たち、その一族たちが身を寄せ合って生まれた我が国家は、魔王討伐の後には勇者を国王として中心に据え、彼の仲間の一族たちを『4大貴族』として各々の領土を治めてきた。決戦が終結したのは、もはや数百年前のことである。

  「申し訳ありません、先生……私は貴方が思うよりも、ずっと、ずっと――――」

  私の冠するレヴィンという名、そして純血の狼の相貌が示すのは、私がかつての勇者の4人の仲間、その末裔であるということだ。

  4つの頃から数えて、もうじき14年。貴族として、英雄の末裔として……私は一日たりとて休むことなく武芸と学問とを学んできた。この身に流れる血を誇りに思うからこそ、毎日の鍛錬に喜んで身を捧げられたはずなのだ。

  「ハァ……グランド…………あなたは…………どうして、こんなにも……」

  ……そのはず、なのに。

  両親、ひいては国民たちの期待に応えんとする高潔な魂を持って、私は襟を正して己を律してきたはずなのに。

  父上や『彼』に対して、隠し事などあっていいはずがないというのに。だというのに、どうして、私は…………

  「スゥゥゥッ…………ん゛ぉ゛へぇ゛ッ゛♡♡♡く゛っせ゛♡♡♡く゛っせ゛ェ………………ッ゛♡♡♡♡♡」

  古ぼけて埃を被った物置で、くすねた汚れ靴下なんぞを嗅ぎ漁っているのだろうか。

  「ぁがッ゛♡♡♡も、無理ィ゛ッ…………!!好きッ、好きだ、グランドぉ…………ッ♡♡♡イクッ♡♡♡イクイク゛…………ん゛うぅぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛〜〜〜〜〜ッ゛!!!♡♡♡♡♡♡」

  レヴィン=ウル=フルフィン。亡き母上に頂いた名前を、何故こうも恥に晒し続けているのだろうか――――

  [newpage]

  ==========

  消灯と定められた時間から、既に2時間が経っていた。ひっそりと物音を立てないように抜け出した私は、自分の種がたっぷりとこべりついたハンカチーフを水で洗い、何事もなかったかのように洗濯待ちの衣類の籠へと捩じ込む。人の気配が無いことに、いちいち胸を撫で下ろして。

  「……なんという淫売なのだ、私は…………」

  こうして自己嫌悪に陥るのも無理はない。私は初めから分かっていたのだ、自分のしていることが極めて不純であることなど。

  私の名前が刺繍された、母上より賜ったハンカチーフ。肌身離さず持ち歩く、最も洗い物に出して不自然でないそれは、いつしか精液の塊を拭うためのボロ切れと化してしまった。早くに亡くなった母の形見を、こんな使い方をして……全くの人でなしだと、自分で自分が醜くて仕方がない。

  「……早く、落ちてくれ…………」

  シルクに染み込んだ精の香りの、なんと穢らわしいことか。無駄に濃厚にブリブリと布地に絡む精虫の塊をゴシゴシと洗い落として、今日も私は自分の遺伝子を無駄にするのだ。それがしてはいけないことだと、『先生』にあんなにも口酸っぱく教えられたというのに。

  「ハァ……我ながら面の皮の厚いことだ。こんなことをした明朝に、なぜ彼の目をまっすぐに見られるのか……」

  剣の師であり、教養の祖……我が家の使用人である『彼』は、私が精通した1週間ほど後に我が家に迎え入れられた。おそらくは10歳の頃に私が精通することを見越して、父上が私のお目付役として雇ったのだろう。あるいは公務で家にいられないことを偲びなく思い、親代わりの人物を私の側に置いておきたかったのかもしれないが。

  ともかく。その日から始まった性教育には、誇り高き狼族の一員としての責務も含まれていたのだ。多感な時期を迎える私を牽制するかの如く、彼の口から直に授かった教えが3つ……事あるごとに繰り返されたその言葉は、今でも私の胸を締め付けていた。

  一つ。貴方の子種は、家のみならず国の宝です。運命の番いと見初めた者以外には、決して種を渡してはなりません。

  二つ。自慰に耽ってはなりません。正しき血族の遺伝子は、必ず番いの体内に収めること。

  三つ。もしこれを破るようなことがあれば、私が貴方を罰し、私は自分の首を切るでしょう。私に隠し事などされませんよう、正直に全てを打ち明けること――

  簡潔でわかりやすく、規律の中に身を置くだけで実に遵守しやすいこの三文は……彼に教わったことの内、私が唯一自らの手で破棄し続けた三文である。

  『人のものをくすねてはいけない』などとは、一度も教わることはなかった。そんなもの、教える必要もないと信頼されていたのだろう。

  けれど私はこうして彼の靴下を盗みだし、人の目につかない所で自慰行為に及んでいる。守るべき当然の常識を一つ、賜った教えを三つ……私は知りながらにして無碍にしているのだ、彼が私に掛ける信頼と責任感の強さを。これが彼への裏切りでなくて、一体なんだというのだ?

  「今日こそ、置いて帰らなくては…………」

  だからこそ、こんなことはもう終わりにしなければならないのだ。

  今私が立っているのは、我が家の誇る大浴場の脱衣所だ。王都中央部を護る兵士、それから我がレヴィン家の任された領地内の各家庭に対してこの浴場は開放されている。

  棚に置かれた木製の籠には名前が刻まれており、所属する兵団、居を構える地域名、そしてごく一部の特定個人の氏名が木札に記されて括り付けられている。

  我が父上、亡き母上、そして私の名前の入ったカゴに…………彼。『グランド』と記された、他とは違って麻布の被されたその籠には、たった一日とは思えぬほどのかさが詰め込まれているようだ。

  象獣人である彼は、名実ともに国一番の圧倒的な体格を有している。それ故に特大サイズなその籠は、一般の列に並べるには都合が悪く、半ば特別扱いのような形で柱一つを隔てて床に直に置かれていた。

  「…………ッ゛!!ぅ゛え゛ッ゛…………!!♡♡♡」

  もっとも、わざわざ離して置かれているのは、何も大きさのせいだけではない。

  …………臭いのだ。それも、尋常ではなく。通気口のすぐ下にでも置いておかなければ、浴場が瞬く間に貸切仕様になってしまうほどに。

  麻布の分厚い覆いすらも平然と貫いてプンプンと香りを立てるほどに、圧倒的に強烈なオスのニオイ。そんな紛れもない悪臭が、私の顎を跳ね上げて…………

  「くっっっっっさぁ………………ッ♡♡♡♡♡」

  性懲りも無く、私は両目を蕩けさせるのだ。

  レヴィン家の使用人、象獣人のグランド。齢にして58、とうに現役を退いておかしくないはずの年齢の男の身体は、今なお活発に血液を循環させているのだろう。国中の誰よりも逞しい肉体は、今でも私や父上すらも太刀打ちできないほどの膂力に満ち溢れて……それ以上に、異常なまでに強烈な体臭に満ち溢れていた。

  遠方よりこの地に辿り着いたとあって、彼の体臭はアラムリア人のものとは一線を画して独特だ。豆を腐らせたような粘つく雄の悪臭は、他では味わえないほどに強烈で……他のニオイでは、まるで代用できやしないのだ。今では私が絶頂に至るには必要不可欠となったニオイは、グランドだけが放っている。

  『壮年の巨漢が汗をかいたのだから仕方がない』とすら許容できないほどの体臭を、朝一番に纏う彼。その常軌を逸した雄々しさが……何度嗅いでも、堪らないのだ。

  ある日を境としたフルフィンの日課はこうだ。昨日の靴下を隠していた革袋に、入れ変えるように今日の新鮮な靴下をくすねる。そうして1人物置に忍び込んで、その日の強烈な香りをアテに、止めどなく訪れるオーガズムを愉しみ……それを我慢出来なかったことに、毎晩のようにひどく落ち込むのだ。

  「お゛……はへ……ッ♡♡♡くつしたっ、かえす……かえ…………ん゛ぉぉ…………ッ゛♡♡♡臭ッ♡♡♡う゛ぇッ…………はぁぁぁぁぁ…………ッ♡♡♡」

  初めの頃は、借りた30分後には元通りに返していたのだ。けれども日に日に楽しむ時間は増えて、吐精の回数も一度や二度では収まらなくなり、ついには我慢できずに寝室に持ち帰るほどに悪化してしまった。フルフィンによるグランドのニオイへの執着は、もはや妄執と言って差し支えないほどに肥大化してしまっていたのだ。

  自分のしていることがいかに変態的で、それ以前に犯罪であることなど理解できていない筈がない。だからこそ苦しいのだ。やめたいのにやめたくない。やめなければいけないのにやめられない。けれど、今日は……今日こそは――

  「あぁッ……スンスンッ……う゛ぇぇッ……♡♡♡この、くっさいあしぃ…………♡♡♡グランドッ、グランドぉ…………誰よりも逞しく、誰よりも雄々しい貴方を愛しています……だから、もうこんなことは…………」

  どれもこれも、彼があまりにも臭すぎるせいだ――

  フルフィンはそう責任転嫁しながらも、この悪癖をどうにか辞めようとしているのだった。

  決意に身を固め直して、臭いが飛散しないようにとかけられた麻布をどかし……フルフィンは、グランドの下着たちと直に対面した。

  ――ぶっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ッ!!!!

  「……ふぐぅッ!?♡♡♡あ゛ッ゛、あ゛へ゛ぇ゛…………ッ゛♡♡♡ダメダメダメ…………イっちゃだめぇ…………ッ♡♡♡こ、こんなふしだらなこういぃ、きょうでおわりに………………ひぐぅッ!!!♡♡♡」

  首周りが黄変し、胸元と脇の下がずぶ濡れのシャツ。尿染みと粘ついた汗がこびりつく、前袋の伸びた巨大なパンツ。いくらか乾燥した靴下は自分が先程すり替えた一日前の着用物だが……今乾いた獣のニオイを放つそれは、脱ぎたてとはまた違った堪らないニオイだ。

  (……ああ、ダメだ。こんなの、素敵すぎて……勝てない…………♡♡♡)

  腰砕けになり、とうとう経っていられなくなったフルフィン。腰が立たないのだから仕方ない……そう見え透いた言い訳を虚空に呟いて、グランドの籠を抱えるようにして彼の衣類をじっくりと味わった。

  「ふぐゥッ゛♡♡♡お゛ひッ…………♡ほ、ほんとうに……いつ蓋を開けても、素敵だ………………♡」

  装いになどまるで頓着しないのだろう。グランドは毎日同じ無地の衣類を纏っており、この洗い場の籠をめくればいつだってこの酷く汚れた『顔なじみ』が姿を現すのだ。

  ……なに、我が家の家政婦は優秀だ。幼い私が食べこぼして作った酷い汚れなど、あっという間に無かったことにしてしまったのだから。グランドのこの汚れも、明日の昼前までには真っ新に洗い落とされているだろう。

  つまるところ、この強烈な染みとニオイの数々は、彼がたった一日で布地に刻み込んでいるということだ。毎日、毎日、欠かす事なく汗をかき、布地をこんなにグズグズにして……私を絶えず誘惑しているのだ。加齢に伴い日に日に濃くなりながら、私の不純を、ずっと……

  「ぉ゛、くっさ…………ッ♡♡♡ハァッ、ハァッ……も、もうひとつ、持って帰っても…………♡♡♡」

  毎日同じ服を着る彼が、靴下が一日遅れで入れ替わっていることに気がつくことはない。そのトリックに私が気がついてしまった時、私は私を律することができなかった。

  少し借りるだけでは我慢できなくなったその日、彼の靴下は一度だけ紛失したのだ。その代わり、我が自室には常に彼の写し身が居座るようになった。毎日毎日、新鮮なものと入れ替わるように。

  「ぁ…………ちがッ…………♡♡♡ダメ、ダメッ…………♡♡♡くつしたぁ、返さなきゃ………………ッ♡♡♡♡♡」

  『イケナイこと』である以前に、人としてやってはいけない事……それを犯した背徳は、今では自己嫌悪として私に重くのしかかっている。

  だからこそ、それを今日こそ持ち主に返さなければ。

  何度も何度も決意を固め直して、ようやく革袋開くことに成功するけれど……

  ――ぶっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………♡♡♡

  そんな決意を蹂躙するかのように、密閉されていた高濃度の極悪足臭はたちどころに飛散した。

  先程たっぷりと堪能したはずの新鮮な足臭は、他の衣類の悪臭と混ざり合い、今再び容赦無く脳細胞を蕩かして……結末はご覧の通りだ。

  「――お゛ごほぉ゛ッ!?!?♡♡♡ん゛ぅ゛ぅ゛〜〜〜ッ゛ッ゛ッ゛♡♡♡お゛ッ♡♡お゛ほ゛ッ゛♡♡♡お゛へェ゛…………ッ゛♡♡♡」

  壮絶な発酵臭に、瞬く間に脱衣所は汚染される。その中心部、ニオイの根源の真上で臭気に直撃した彼が、無事で済むはずがないのだ。

  酢よりも動物的な獣臭の混じった強烈な酸味が脊髄に突き刺さり、強烈なアッパーを食らったかのようにフルフィンの顎は跳ね上げられる。けれどもいつまでも香る強烈な臭気は、ボディブローのようにカラダに響き続けて…………彼は射精を伴う事なく、壮絶な快楽の渦に取り込まれていった。

  「ん゛ぅ…………ッ♡♡お゛ッ゛……駄目だ、駄目…………あぁッ、もう我慢できないぃ…………ッ!!!♡♡♡」

  筋肉にも脂肪にも恵まれた汗かきで、その上象獣人の中でも一際濃い体毛の生い茂る彼は、朝一番ですら強い体臭を纏っているのが常である。それが一日分、彼が入浴する夜更けまで肌に吸い付いていたとくれば、その汗臭は下級の魔族であれば雲散霧消させてもなんら不思議ではないほどの力強さを誇っているのだ。……要するに、まともな獣人<ヒト>であれば気絶は免れないほどに臭い。本当に、本当に、凄まじく……臭い……ッ♡♡♡

  「スゥゥゥゥゥッ…………ゲホッ、ゲホッ!!!ぅ゛ッ、あ…………!!パンツ、すげ…………♡くっっっさ…………ッ♡♡♡」

  格別に酷い足臭のみならず、パンツやシャツに至るまでのすべての衣類が最高に存在感を放っている。それぞれに独特な臭みをベースに、野生を思わせる強烈な発酵臭がブレンドされた彼独特の体臭が、たまらない…………♡

  通常であれば、体臭などというものはどこかぼやけたような感覚で感じるものだろう?いかに体臭が強いヒトでも、『きっとあの人のニオイだな』となんとなく輪郭が掴める程度が関の山だろう。

  だが彼のニオイはどうだ。こんなにも鮮明な発酵臭がヒトの身体から発されることなど起こり得るのか?確実に、疑う余地もなくそれがグランドのニオイなのだと理解できてしまうほど……濃い。あまりにも濃すぎる。今もこうして私を腰砕けにする、グランドだけに許されたその臭い。初めて嗅いだ時には既に、私は彼の虜であった。

  「はッ、はッ……靴下ッ、欲しい、ほしい…………ッ♡♡♡」

  決意も虚しく今日もこうして教えを裏切ってしまうけれど、これはもはや自分の意思でどうにかできるものではないのだ。勝手にニオイを嗅ぎ漁る鼻は、欲望を止められない。先程自ら返上したはずの、『お気に入り』のニオイの塊を……

  「――――ほぉ゛ッ゛!!♡♡♡あ゛ッ、あしッ、あしぃ…………♡♡♡お゛、お゛、お゛ほッ゛♡♡♡くさッ、くさッ、くさ、すぎる…………ぅッ!!♡♡♡」

  私以外の人々は、このニオイに興奮を覚えることは無いようだ。ただただ不快な悪臭を放つ彼には殆どの人は近寄りたがらず、私たちの鍛錬は常に2人きりだ。彼が雇われた途端、私が身を置く別邸からはグランド以外の使用人が居なくなり、彼と私以外には、父上を除く誰一人として寄り付かなくなってしまったのだから。ああ、こんなにも饐えた強烈な雄のニオイだというのに、なんと勿体ないことか。

  けれども、私にとっては好都合だ。彼の良さを知るのが自分だけだという特別感は、私の拙い妄想の世界に幅を持たせてくれるから。

  「ん゛ひッ♡♡♡くさッ、くっさ…………ッ♡♡♡わッ、わたひも……私も好きだッ、グランドぉ…………♡♡♡」

  

  人々が拒絶する一方で、言うまでもなく私は彼のニオイにゾッコンだ。年相応の加齢臭に、ワキからぼたぼたと垂れる新鮮な汗の刺激臭、でっぷりとした脂肪から漏れ出る脂のニオイに、胸当てや革手袋にじっくりと染み込んだ積年の酸っぱいマーキング……ありとあらゆる場所から香る強烈な雄のニオイは、共に時間を過ごしている間のいつだって鼻腔をくすぐってくる。もはや安心感すら覚えるほどの極悪臭に、私は常に勃起を余儀なくされているのだ。それが例え、彼との真剣勝負中であっても。

  訓練中は常に身につける甲冑のお陰で、きっとその事はグランドにはバレては居ないだろう。命のやり取りの最中、集中力を鍛えるにはこれ以上にない練習だが……父上がそんなつもりで彼を私の師につけたはずはないので、彼との出会い、彼のニオイとの出会いは、ほんの奇跡でしかないのだろうな。

  「あ゛ッ……♡そう、そうだ……私のことなど、羽虫のように踏み潰してくれ…………♡♡♡」

  目を閉じれば、サディスティックな笑みを浮かべるグランドが私のマズルを踏みつけてくれる。強烈すぎる発酵臭で私を蹂躙し、貴族に対する態度と思えぬ罵倒で私を詰りながら、彼は惨めな私を見下して自慰に耽るのだ。私のものとは比べ物にならないほど立派な男根を扱き上げ、最後には私のマズル目掛けて、唸るように愛を口にしながら――

  「ハァッ、ハァッ♡♡♡わッ、私もぉ………………イ゛くッ!♡♡♡」

  ……そんなことは起こり得ないって?分かっているさ。けれど辞められないのだ。私はもう、彼のニオイばかりではなく、彼そのものにゾッコンなのだから。

  「ああ、グランド……愛しい貴方…………♡貴方のお陰で、私はこんなにも淫らに育ってしまいました…………♡♡♡」

  靴下を握りしめたままへたり込み、湿気を抱え込んだままのくたびれた布筒にそっとマズルを近づける。

  鼻が曲がる、とは良く言ったものだ。確かにこんなニオイなら、欲しすぎるがあまりに靴下のある方へと鼻が勝手に向いてしまうのも頷ける。

  なんて……なんて臭いんだ。あまりにも刺激が強すぎて、瞼は開けられやしないけれど……暗闇の中、確かに見えたグランドのシルエットが霧のように広がって、私の全身を熱く激しく包み込んだ。

  ……幸せだ。貴方のそばにいられて、貴方のニオイを感じられて。どれもこれも、この鋭敏な鼻を授けてくれたご先祖様と、この素敵なニオイを放つグランド、そして男のニオイの素晴らしさを教えてくれた、『彼ら』のお陰だな……

  「ここに来ると、否が応でもあの時を思い出してしまうな…………♡」

  実のところ、私が他人のニオイに酷く劣情を催したのは、彼が最初ではない。彼との出会いは0を1にするものではなく……1を10000に跳ね上げさせる、私の末路を決定づけるかのように強烈な出会いであったのだ。

  初恋でないとはいえ、それがグランドへの愛情を薄れさせるなどということはない。けれども0が1になった瞬間というのも、中々に鮮烈に脳裏に刻まれているものだ。グランドへの恋慕が実るはずがないと理解できてしまっているからこそ、余計にその時のことを容易に思い出せてしまう。

  「は……ふふ…………グランドは、私を尻軽と詰ってくれるだろうか…………♡」

  散々悦んだはずの股間にまたも思わず手が伸びてしまう。そうして感度の落ちた肉竿を弄びながら、フルフィンはあの淫らな記憶に想いを馳せる。彼と出会う前、私のどうしようもない性的嗜好の開花は、ちょうどここ……この脱衣所で居合わせた、訓練を終えた兵士の一団に対してのことだった――

  [newpage]

  ==========

  先に述べた通り、私が彼に師事したのは10を迎えた頃のこと。それ以前、より幼い頃の私は、兵士たちの輪に交わる様に剣を学んでいたのだ。日によって混じる兵団は変わり、それ故に新たな学びや繋がりが生まれて……それはある種、私という跡取りの存在を周知することも兼ねてのことだったのだろう。誰もが私の一振りを見守り、世辞を交えて話しかけてくれたものだ。煽てられる言葉の一つ一つを真に受けて得意げになっていたことは、今では実に恥ずかしい思い出だ。

  毎日変わる顔ぶれ、だが私は確かに皆に愛されていた。それは貴族に向けたお為ごかしなどではなく、ただ幼い私を可愛がってくれていたのだと今でも胸を張って言える。……その日、その瞬間が訪れたのは、私をただの一貴族として扱っていなかったことの逆説的な証明なのだから。

  訓練の後、私は彼らと共に入浴するのが日課となっていた。普段から頻繁に大浴場を利用する彼らの体臭は、軽装で木の剣を振るうだけの私とはまるで違う……分厚い金属の甲冑の内側で酷く蒸れに蒸らされたオトコの臭いは、それはそれは汗臭いことこの上なかった。

  そんなむさ苦しさは決して心地よいものではなかったが、それでも私は入浴を共にした。彼らの逞しい肉体は、私にとっての目標であり憧れだったからだ。いつか国を背負う時、彼らのように逞しくありたい。それが幼い私が抱いた最初の理想像であった。

  ……そう。それは確かに、混じり気のない憧れだったはずなのに。けれどその日、私の覚悟は唐突に姿を変えたのだった。

  いつも通り、初めての顔ぶれとの訓練で汗を流した私。慣習通りに大浴場を訪れて、私は衣服を脱いでいた。

  『レヴィン家の跡取りサマと一緒に入浴できるたぁ光栄な事だねぇ……ちょいと失礼、俺の籠がそこにあるんでな。』

  だが……その日は何かがおかしかった。周りの環境ではなく、紛れもない私自身の身体が。1人の兵士が私に近づき、私の頭上に覆い被さった時……

  ――むわぁ……ッ♡

  私は、勃起したのだ。

  自分でも何故か分からないほどに、酷く硬く反り上がって。

  性教育を受けていたとはいえ、初めて我が身にそれが訪れた私には何が何だか分からなくなってしまって。そうして慌てふためいているうちに、声をかけてきたその兵士……今だに貌も容も忘れられぬ壮年の牛獣人が、私の体の『異常』に気がついて……

  私に、こう囁いたのだった。

  『……お。へへっ、すんませんねぇ坊ちゃん。我々のフェロモンが、少しばかり強すぎるようでさぁ……♡』

  これが……?この、鼻を覆いたくなるほどの、酷く饐えた汗の臭いが…………フェロモン?

  幼い私は当惑した。学びによれば、フェロモンとは異性の発する心地の良い香りであり、互いにその臭いに惹かれ合うもの同士が結ばれるに相応しい、とあったはずだ。私たちは同性であるし、ましてや私はこれを心地良いなどとは思っていない。しかし、陰茎は酷く屹立して…………?

  余計に混乱する私に、牛獣人の兵士は尚も続けた。

  『そうそう、これが強ぇ雄のフェロモンってヤツです。俺たち、立派な雄クセェ身体してるでしょう?こういうデケェ身体の雄のニオイってのはですね、誰彼構わず発情させちまうモンなんでさぁ。……ほれ、ご覧くだせぇ♡』

  そうして彼が指差したのは……上向きに反り上がる、彼自身の長大な陰茎であった。

  それを見せつけられた時、私は嫌悪感など抱きはせず、むしろ……とても、安心したのだ。

  性の目覚めに直面する私にとって、『コレが普通なんだ』と自己を認められる例が目の前に提示されたのだから、それを忌み嫌うことなどできはしなかったのだ。

  互いに勃起を見せつけ合う、少年の貴族と壮年の兵士……雄に溢れたニオイの中、寄り目でその肉槍を見つめる私。

  そんな私の姿を見て、彼は私をどうしてやろうと考えたのだろうか。揶揄うため?それとも手解きをしてやるつもりで?今となっては判別のつけようもないことだ。

  ともかく確実なことは、牛はニヤリといやらしく笑い、私を横目で見つめ続けながら、実に白々しく……彼の仲間たちに聞こえるように、驚きの声をあげたということだ。

  『おやおや!?レヴィン家の跡取りサマが、何故ボッキなどしておられるので?ここには貴方を誘う見目麗しい女子など、誰一人おらんのですがなぁ……♡』

  昼間の脱衣所には、殆ど人が訪れることはない。それもそのはず、昼間には兵士の大群が浴場を占拠していることを、地域の誰もが知っていたのだから。半ば昼夜で客層が変わることは不文律となっていたこともあり、その日その場所には、私と兵団以外には誰もおらず……

  だからこそ、あんな狂宴が繰り広げられたのだ。

  ザワザワ……ガヤガヤ…………

  『なんだなんだ、随分と立派におっ勃ててやがんじゃねぇか♡こんなに小せぇナリで、もう俺らのお仲間とはなぁ……♡』

  『グヒヒッ……♡ご領主様の一人息子が、俺らみてぇなムサくて臭ぇ男に欲情するたぁねぇ……♡こりゃあ一人の雄として、手厚く歓迎してやらねぇとなぁ?』

  声を上げた牛獣人の背後に群がる様に集まって、何やら顔を見合わせてくすくすと笑い合いながら、兵士たちはニヤニヤとコチラを眺めていた。……ああ、まともな感性に生まれついていれば、きっとそのことを気分悪く思ったことだろう。けれど私は、えも言われぬ興奮に苛まれながら、ただただ流れに身を任せるのみだった。

  『へへっ、そう緊張しなさんなって。悪いようにはしねぇ……いや、寧ろ忘れらんねぇくらいにイイ思い出になるはずでさぁ♡』

  再三だが、その日が彼らとは初めての訓練であったし、浴場に居合わせたのも初めてのことだった。だからこのような色狂い兵団があることを知ったのは、当然この時が初めてで……誰も彼もが巨根を屹立させた脱衣所の姿など、この日を最後に一度たりとも拝むことはなかった。

  だからこそ、私はより一層この日の事を忘れられはしないのだ。こくりと頷く私の内には、この時既に紛れもない高揚感が渦巻いていた。

  『さあさ坊ちゃん、俺の上に座ってくだせぇ。それと、この籠もお忘れなく……♡』

  彼ら、そして私は、皆が全裸になりながらも誰1人として浴場へ向かわず、ここを訪れた本来の目的など忘れて、脱衣所の床に座り込んでいた。そんな我々の様子は、側から見れば実に奇妙な集会だっただろう。皆が脱衣所で円を描くようにしゃがみ込み、あぐらをかいた太ももの上には各々の脱衣籠を置いていて……牛獣人の上に座っていた私も、酷く匂い立つ彼の衣類の入った籠を持っており、期待と不安に心躍らせて鼻を鳴らしていたものだ。

  『そんじゃお前ら、いつも通りに時計回しだ。』

  しかしながら、牛獣人の号令によって籠は隣へと受け渡されてしまう。初めて勃起させられたニオイ、いわば鼻の貞操を捧げたその下着……それを手放すとあって、初めて性に触れたその瞬間の私には、少しばかり寂しさにも襲われたような記憶もある。

  『……ふん。如何にレヴィン家の跡取りといえども、俺のニオイには耐えらんねぇだろうよ。』

  だが、そんなものは杞憂に過ぎなかった。ドサっと衣擦れの音を立てながら、すぐに次なる籠が手渡されたのだ。そこには隣に座ったサイ獣人の男の、牛男のものとはまた違った強烈な香りが満ちていて……斜め上から見下ろす細い瞳には、勝ち誇った大人の雄のニヒルな笑みが浮かんでいた。

  今思い返してみれば、侮辱的な発言には貴族として制裁を加えなければならなかったのだが。言うまでもなく、当時の私の頭の中にそんな余裕は無かったのだ。

  はっ、はっ、はっ………………♡

  ――未知の快楽への期待、『いけないこと』以上の不純をするのだという不安と劣情に、私は息を切らしていた。

  そうして小さな身体には余りある、多量の雄フェロモンと倒錯的な体験に身を焼く最中……頭上から降り注いだ声によって、私の性の歯車はとうとう完璧に狂わされる時が訪れた。

  『坊ちゃん。貴方が一番臭ぇと思う布を取り出して、何も気にせずにチンポをシコってくだせぇ♡きちんとカゴに鼻を突っ込んで、ニオイを嗅ぎ回って……一番チンポに響いたモンが、一番臭ぇ布地でさぁ。』

  初めて耳にする、『チンポ』という粗野な言葉……その響きに、胸がひどく高鳴ったのを今でも覚えている。

  思えば不思議なことだ。その言葉の指すモノが、自分の股間で腫れ上がるソレであるのだと理解するまでに、何の迷いも生じなかっただなんて。なればこそ、この経験もその後の凋落も、私にとっての運命だったのだろう。言われた通りに籠にマズルをねじ込むことにも、なんの躊躇も覚えなかったのだから……

  一枚、二枚……と掘り進むほどに濃度を増す体臭の波に、一度は顔を引き抜きかけた。けれど私は、私のアタマに反してひどく悦ぶ陰茎……チンポに従うようにして、一対の汚れた黒い靴下を口に咥えて引き抜いたのだった。

  『坊ちゃん……中々に、情趣というものをご理解なさっているようで……♡♡♡』

  皆がそれぞれに、汚れ下着を手に握りしめていた。私が私の忌避感の無さに気がつくと同時に、輪になった男たちからは大爆笑が湧き上がり、私は羞恥に顔を赤らめて俯くことしかできなかった。

  饐えた靴下を口に咥える私を見て、兵士たちは思い思いに卑猥な言葉を投げかけた。俯く寸前、視界の端では淫売を見る視線の数々が突き刺さり、目を伏して尚私は酷くなじられて……気がつけば、私のチンポは露を零していたのだ。

  今なお続く、『自らを圧倒的に上回る体格の雄に罵倒されたい』という欲望。あれ以来一度も満たされぬままの根深い倒錯は、私の身体を包む牛獣人の男には、それが芽吹く瞬間が手に取るように容易く気取られていたのだろう。

  『……そんじゃ、どうしようもねぇエロガキのために……乾杯♡』

  明らかに故意に敬意を捨て、私を侮辱しながらの号令。けれどもその罵倒と許しを得て、私は見よう見まねでチンポを扱き上げたのだ。

  360度、見渡す限りの淫行の壁……誰も彼もが目を虚にして汚れた下着を嗅ぎ回り、私の握る剣の柄など及ぶべくもないほど太い巨根を、一心不乱にシゴいていた。

  グチュグチュと響く淫らな粘ついた音、鼻先のメインディッシュを貫くほどに濃くなる雄の空気……気がつけば、私も彼らと遜色ない乱れっぷりであった。

  顔を覆い尽くすほどに大きい黒靴下を必死に嗅ぎ回ると、とある箇所で強烈に頭を仰け反らされてしまった。私は本能的に、そこが『イイところ』なのだと理解して……そこへ辿り着いた後、私が初めて吐精するまでに1分も必要とはしなかった。

  『おめでとうごぜぇやす、坊ちゃん♡このことは、内密にしておきやすからね…………』

  気づけば、皆が私を見ていた。

  彼らはどこか一番臭いがキツいかなど、手に取るようにわかっていて……それが絶頂までの時間を短くさせ、そして私の手淫を眺める時間を彼らに与えていたのだ。

  褒められているのか?貶されているのか?どちらかわからない言葉の数々を投げかけられながら、私の一度目の手淫は十余人の男に眺められ、罵倒され、強烈な雄臭を嗅ぎ漁りながらの吐精に終わった。

  そう、その日一度目の手淫は。

  『……その代わり、今日はとことん付き合ってもらいやす。ささ、坊ちゃん。次の籠を受け取ってくだせえ。自分の籠が戻ってくるまで、萎えさせちゃいけやせんぜ?♡』

  そうして私の精通は……今となっては夢のようなその時間は、兵士たちの靴下、シャツ、パンツとタオル、それから手袋を山ほど嗅ぎ漁って……浴場が領民たちで溢れかえる数分前に、ようやくお終いとなったのだった。

  

  ==========

  (……彼らは今、何処で何をしているのだろうか。私をこれほどに捻じ曲げておきながら、二度と姿を見せることもないとは……)

  ドMで、壮年の巨漢の雄が好きで、極度の雄臭フェチ……彼の性癖を自覚させるにあまりにも十分な出来事は、まさにこの場所で。

  けれども、今現在彼が想いを寄せるのは、その牛獣人の兵士でもなく、ましてやサイ獣人でもない。あの萌芽の日のすぐ後に、運命に出逢ってしまったのだから。

  「ああ、グランド…………けれどあなたは、いつでもここに居てくれるんだね…………」

  ……いつ彼の魅力に気がついたのか、だって?そんなもの、握手を交わした瞬間に決まっているだろう。

  父上が『貴族の召使いらしく』と特注した漆黒の礼服を身に纏い、体毛などを香油で恭しくまとめて、実に清潔感を気にしたのだろうグランドだったが……そんな準備も虚しく、服の袖から尋常でないニオイが溢れ出していた。……強い、強いオスのフェロモンだった。

  家政婦たちは顔を顰め、父上も苦笑していたけれど……幼い私は、未熟ながらに感じたのだ。『この人は、私の運命の相手だ』と――

  「私はね、グランド……貴方に、一嗅ぎで惚れてしまったのだ……♡だからこそ、貴方はこんなにも根深くて、手放さずにはいられないのです……」

  すぐに父上に頼み込んださ。彼を私の専属教師にしてくれないかと、必死に足元に縋りついて。

  それが彼との出会いで、彼との師弟関係の始まり。私が願って始めたのだから、これは一瞬の気の迷いなどではないのだ。……グランドに抱かれてしまいたいと、何年も願い続けたのだから。

  私が夜更かしなどするようになり始めた14の頃、それまでは入浴間際にひっそりと兵士たちの汗臭い下着を盗み嗅ぎして、思い出しながら自慰に耽るのが精々だったというのに……深夜にここを訪れて、とうとう私は出会ってしまったのだ。いつも夕方に別れる彼が、遅い時間に一人で入浴したその残骸に。

  その時の私の胸の高鳴りが、一体誰にわかるだろうか。私の理性の最後の砦は、あの瞬間に崩壊した。だから今更……この握りしめた布地の行方を、元通りになんて……

  「すみません………………すみません………………ああ、グランド………………私を、許してくれ…………♡♡♡」

  毎夜の如く行われる葛藤は、今日も今日とて欲望の勝ち。

  取り出された中身は、未だ湿り気の残る革袋に元通りしまわれる。絶頂と罪の意識とに震える手で、彼は口紐をぎゅっとキツく結んだのだった。

  [newpage]

  ==========

  「いい風が通るな……こんなに清々しい日なら、確かにここに教室を開くのも悪くない……」

  明朝、内庭にて。今日は実に天気が良いので、グランドに頼んで青空教室を開講してもらったのだ。清々しい新緑の香りが風に乗って吹き抜けて、心地良さに朝の気怠さなどまるで気にもならない。

  勉学に集中して励むには最高のシチュエーション、なのだが……

  (ハァ……♡貴方は今日も素敵だね、グランド…………♡♡♡)

  私の集中力の8割は、私の愛する彼に吸い込まれてしまうのだ。

  鋭い眼光、傷だらけの大きな耳、朽ちたようにひび割れた牙が歴戦を物語る。ゴツゴツとした分厚い皮膚と相まって、重ねた年月の重厚さが一目で感じられるコワモテ親父……野盗の首領と紹介されてもなんの違和感も無い風貌の象獣人は、けれど私の、私だけの使用人だ。

  極めて質素なベージュのシャツを身に纏い、丁寧にシワの伸ばされた長丈の革のパンツとブーツに足を通したいつも通りの格好。足元に近づくにつれて生地が分厚くなるのは……もう理由を説明するまでもないだろう。

  脇の下や腰にはレザーのベルトが張り巡らされ、装着されたいくつかのポシェットには種々様々な小道具が仕込まれている。日用品から小型の武器、クラフト道具に謎の素材……以前に話を聞いた時、彼は己の身一つ動かせばそこが新たな住処となると言っていたっけ。己の知恵と道具への信頼のどちらもを感じさせるビッグマウスは、けれど彼にとってはただ淡々と事実を述べたに過ぎないのだ。実に頼もしくてカッコいいだろう?

  「さあ、それでは今日の授業を始めよう。」

  そんな秘密道具箱からメガネを取り出し、極太の逞しい鼻の付け根にちょこんと乗せるグランド。講義の際にだけ掛けるのだが、この黒縁が中々に愛らしい。何せあまりにも肉体派な見た目にはまるで似合っていないのだ、そのチグハグさが私にはかえって愛おしく思えてしまう。

  ――『創造せよ、我が教壇』

  「わぁ…………」

  けれど、知的さの象徴である眼鏡は、その実グランドには実に相応しい小道具だ。超一流の魔力量と魔術知識を誇る彼は、本来はこんな街外れでただ1人だけに教えを授けている場合ではないのだから。

  古代語による2小節の詠唱により、机と椅子、黒板とチョークが生成される。青白い光の幕を帯びた即席教室は、普段講義を受ける一室をそのまま切り取ったかと錯覚するほどに精巧だ。そんな高度な創造魔術を、グランドはこともなげに披露してみせた。

  「さ、席につきなさい。」

  「何度見ても流石です、先生。重さも、質感も……何もかもそっくりで……」

  「なに、目的と対象を指定するだけの単純な魔術だ。以前に君も成功しただろう?」

  『成功』とは言ってくれるものの、私などあのチョーク一本生み出すのにどれだけの苦労をしたことか。形状、材質、重さ……対象への深い理解がなければ、あんなシンプルな円柱一つまともに形を保たせられやしないのだ。本質を見抜く審美眼、そこに至るまでの集中力、それを思い出す記憶力、そして何より、たかがチョーク一本に向けるには大きすぎるほどの愛着……それら全てがなければ、こんな『本物』を生み出すことなど出来ないのだ。

  得物は剣、されど魔術も超一流。最高学府を統べられるほどに優秀な人物には、こんな小規模の召喚程度は朝飯前。青白いオーラが次第に薄れた教室は、既に本物と見分けることは不可能になっていた。

  「さて、本日は魔道具について学ぼうか。魔術の体系的な理解には、それを簡素化した魔道具を解明するのが最も手っ取り早い近道だからな。まずは原初の魔道具、魔力放出による攻撃魔道具の極めてシンプルな構造から――――」

  何事でもないかのように講義を始めるグランド。人の話を聞く時は、ちゃんと顔を見るのは当然のことだけれど……ついチラチラと視線を目から外してしまうのは、またもや彼のカラダのせいだ。

  全身を覆う剛毛は、図鑑に載った『象獣人』の図説とはまるで異なるほどに濃い。それはさながら、古代に絶滅した像の近縁種にそっくりだ。立派な鬣のような髪は太く丈夫な毛質に沿って自然とモヒカンのように立ち上がり、後頭部から背中にかけての剛毛はまるで熊の毛皮でも被っているかのよう。顎髭はラウンド状に逞しく、もみあげまで連なった毛束はブラシのように長く生えそろっている。軽装のシャツの胸元からは一際濃い焦茶色の剛毛の束がワイルドに飛び出して、巨木のような剛腕も、時折シャツが捲れ上がってちらりと覗く太鼓腹も、未だ色褪せぬ色素の濃い焦茶色に溢れていた。

  象獣人とは毛皮を持たない種族であると、そう学んだはずなのだが……これまで共に過ごした年月が、彼がそんな枠組みには嵌まる漢ではないと証明していた。

  彼を構成する要素の全てが逐一男らしく、それ以上に雄臭い……それは見た目にも、勿論嗅覚にもだ。

  (し、しかし…………お゛ぉッ゛…………♡♡♡こ、こんなにも気持ちの良い午前だというのに……なんという強烈な臭いなのだ、グランド♡♡♡)

  ふわりと吹き抜ける心地よい風は、グランドの風下ではあっという間にサウナスチームに早変わりだ。剣術指南ものちに控えていると言うのに、寝汗だけとは思えない程に強烈な体臭は既に完成されていた。

  それは常人が身につけた衣服を数週の間放置した後のような、なんとも形容し難い体臭独特のニオイだ。シャツの首筋を黄ばませる、原生生物のような獣臭にヒト特有の雄々しいフェロモンが混じった芳香は、他のどこでも味わえやしないオンリーワンの雄臭さ。

  まだ『新鮮さ』の片鱗が見え隠れする湿度の高い臭波が、彼が身振り手振りで私に指導するたびにプンプンと漂ってくるのだ。

  まだギリギリ汗のニオイだと判別できるこの芳香は、昼食後の強い日差しの元、長命な象種にあるまじき生き急ぐような超速発酵で、強烈に酸っぱい香りに変わっていく。

  その常人にとっては吐き気を催すほどのニオイは、人々には“腐敗”臭と形容されるだろうが……フルフィンにとっては、好きで好きでたまらない、いつまでだって味わいたい“発酵”臭なのであった。

  「――であるからして、空間転移魔術の実現には数万人規模の魔力が必要となるんだ。魔道具の発明に至っていないのも頷けるだろう。」

  私はどうにか集中力を保ち、彼との貴重な講義の時間をなんとか有意義なものにできた。もしもこの講義が常々剣術訓練の後に開かれていたのなら、きっと私は遥かに愚かな男に育っていただろうな。

  (彼と過ごして、もうじき8年か……今となっては父上よりも遥かに顔を見合わせているというのに、未だに彼の知識には底が見えないな。)

  いつか彼から学べる事が無くなってしまうとしても、いつまでもこうして共に語らっていられたら……なんて。それはきっと、家族以上のナニカになれたら手に入れられる未来なのだろう。使用人との禁断の恋は、現実でも成り立つのだろうか…………

  「こら、尾が揺れているぞフルフィン君。貴族らしく、立ち居振る舞いには気をつけろと言ったはずだぞ。」

  「……あ!すみません、先生。以後気をつけます。」

  フルフィン君、先生……ふふっ♡こんな関係性に憧れたのは、8つの頃に読んだ文学作品がきっかけだったかな。普段は素行の悪い少年だけれど、実は大魔術師の弟子で……人知れず街の人々を助けてはひっそりと鼻を高くする、そんなお話。

  その子は、先生にだけ心を開いていて……そして先生に恋心を抱いていた。それはグランドと違って女性の魔術師先生だったけれど、その関係性は今の私たちにそっくりなんだ。

  本の中では、成長した生徒と魔術師は幸せに結ばれたけれど……勇気あるその少年とは違い、私など手癖の悪い変態でしかないのだ。グランドが同性愛者だという片鱗も見えていなければ、ましてやこんな不埒な私を好きになる理由などありはしないだろう。だからそれは、いつまで経っても空想のお話なのだろうな…………

  「あぁ、移動といえば……フルフィン君、君もいつしか外交の場に立つことになるだろう?周辺国家に訪れたことはあるかね?」

  「……そのつもり、ですが。私は未だ、城砦の外へ足を踏み出したことはありません。精々が領地内の森で父上と狩猟を嗜んだ程度です。」

  「ふむ……世界の歩き方を知らぬというのは放っておけんな。……よし、授業変更だ。今日は君に野営知識を学んでもらうことにしようか。」

  「はい、先生。……ですが、なぜ野営を?」

  グランドに教わる内容は実に多岐にわたる。政治や都市計画など、領主として学ぶべきものから始まり、一指揮官として学ぶべき兵法、果ては冒険者として学ぶべき薬草学や地質学など、極めて実践的な内容が多くを占めている。一体どこから仕入れてきたのだと言いたくなるほどの知識量だが……答えは単純。彼は勤勉なのだ。

  「未だ外の世界を知らぬ君には想像もつかないだろうが、国と国の間には未だに大自然が広がっているんだ。時には国家間の往来の際に、数日間は宿にありつけないこともあるだろう。身を守り、寝床を守り、食糧を守る……そのための野営知識だ。」

  世界を渡り歩く冒険者の傍らで、彼は世界各地の都市を訪れては知識を蓄えていったのだとか。それは本から、はたまた人から、あるいは己の経験から……そうした経験に裏打ちされた知識は実に身につきやすく、優秀な学者だった以前の教師と比べても、座学に要する時間はおよそ3分の2で済むようになったのだから驚きだ。

  生きた知識はわかりやすく、何よりもっと吸収したいという気持ちが強くなる。それが自分の将来の為の土台となるのであれば、尚更のこと。

  「獣除けや魔除けは、その基本にして最も重要なサバイバル術であり、手を抜けば無駄な被害を被ることになる。現代では魔族の趨勢が落ち着いたとはいえ、辺境の地に赴いた一国の王子が道中で命を落としたことも歴史上一度や二度では無いんだ。初歩だからといって、決して疎かにするんじゃないぞ。」

  「はい、心得ました。……ですが先生、魔物除けには聖印を、獣避けには炎を、というのは私も学んだことがあります。」

  「そうだ。それらを用いた防衛はもはや常識ではあるが……聖印に込められた祈りは長続きはしないし、何より高価で希少だ。長旅では、軽くなった財布と次第に薄れゆく加護を感じながら歩み続けることになるだろう。」

  「確かに。これまでに実物を見たことはありませんでした。ですが……炎は?火おこし程度であれば、多少の燃料さえあれば可能ではないでしょうか。」

  「それも違うな。温暖で湿潤な地域では火を起こすことは難しく、近くで寝るには暑すぎる。そして最大の欠点は、炎を糧とする魔族を却って呼び寄せてしまうことだ。」

  「……炎を、糧に?そんな魔物がいるだなんて…………」

  「ああ、いたとも。俺が討伐した。迂闊に火を起こしたパーティーがヤツに襲われ、骨も残らず全滅した後だったがな…………」

  グランドの優秀さはよく知っている。何せ父上が彼にゾッコンなのだ。彼が歩んだ旅路の中で高めた名声の殆どは、父上の口から聞かされて育ってきた。ぶっきらぼうなグランドは、あまり自慢をしたがらないけれど……いつだって、私は彼に師事できることを誇りに思っている。

  「う…………だから無闇に扱ってはいけないというわけですね。」

  「そうだ。これはあくまで極端な、極めて不運な事案だが……そんな不測の事態を避けるためにも、必要なのは『携行性』と『普遍性』だ。いつでも持ち歩けて、どこでも安全に使える……自然の中で最も優れているのは、そんな万能性なんだ。その上魔族と原生生物のどちらにも有効な手段が存在するなら、使わない手はないだろう?」

  「へぇ……!それは一体何なのでしょうか?」

  私が問答に持ち出す知識は、全て書物から得た情報……言うなれば、教科書通りの真面目な回答だ。だからこそ、穴をつくようなグランドの生きた知識は目から鱗で、それ以上に刺激的なのだ。

  「――『ニオイ』だ。獣と魔、どちらにも効くニオイを用意する。それが最も実用的な対策になるだろう。」

  「ニオイ……?あぁ!香草などのニオイですね。」

  ……今回の授業は、特に。

  「いいや、違う。植物には、魔を退かせるほどの活力が足りていない。強烈なフェロモン臭は原生生物を怖気付かせ、溢れる生命エネルギーは魔族の領域を奪い取る。そのどちらも併せ持つのは……私たちの、足のニオイだ。」

  「あ、足の、ニオイ………………」

  少なくとも、自分は魔族でも野生動物でもないらしい。ヤツらが嫌がるニオイに、自分から好き好んで鼻先を埋めているのだから。

  「要するに、人体の持つ生命力が籠ったフェロモン臭でなければ、魔族に対する防衛策とはなり得ないということだ。実際はどの部位でも構わないのだが……臭ければ臭いほど強力になるんだ、最も強烈な足裏のフェロモンを用いるべきなのは言うまでもないからな。」

  きっとグランドも、あのニオイを利用しながら旅をしてきたのだろう。毎晩毎晩、歩き通した足裏を空気にさらして、周囲にあの強烈な発酵臭をばら撒いて……

  そんなの……そんなの………………

  (共に旅をしたのなら、どうなってしまうんだろう…………♡♡♡)

  「……嗅いでみるか?」

  「へっ…………!?あ、いや………………♡♡♡」

  「ふっ、冗談だ冗談。まだまだ教えることはあるんだ、君に気を失われては困る。君も知っての通り、俺のニオイは少々キツいからな…………」

  グランドは、自分が臭いことを理解している。だから普段は極力私にニオイがうつらないよう気をつけているし、こうして自虐めいた冗談も交わしてくるのだ。……もっとも、そんな優しさなど遥かに凌駕するニオイの前では、グランドの気遣いなどまるで無意味なのだが。何しろこうしてただ座っているだけでも、強烈な汗臭がプンプンと臭いが漂ってくるのだから。

  (ふふ……♡先生は気がついていないのですね。貴方のニオイは、『少々キツい』などという程度ではないのですよ……♡)

  指摘などするはずがない。グランドと過ごす時間は、あらゆる瞬間がボーナスタイムなのだ。だからこそ、これ以上など望むべくもない。『嗅ぎたいです』と喉まで出かけた生足のニオイへの欲情も、この幸福を脅かす可能性を感じて押し込めた。

  「とにかく大切なことは、『獣には強い腕力を、魔族には強い精力を』、という考え方だな。動物には物質的干渉が、魔族には魔素的干渉が有効であることは知っているだろう?ニオイの強烈さと、生命力の強さ……それと同じことだ。」

  「な、なるほど。ですが先生、その……私のようにニオイの薄い者は、効力も弱まってしまうのでは……?」

  「ああ、その点は心配いらない。長旅ともなれば、自然とフェロモンは靴の中に溜まっていくからな。それを無闇に発散させたりしなければ、問題なく機能するはずだ。」

  多少の冗談は交えつつも、彼の授業はいつだって真剣だ。私が困らないように、私の役に立つように……そんな優しい想いに逐一発情する私の方が異常なのだ。だから、平静を……努めて平静を装わないと。

  「もっとも、その役割を担うのは護衛の兵士たちだろうがな。彼らがとびきり臭い靴下を枕元に吊るし始めても、君の為だと思ってちゃんと我慢するんだぞ。もしも彼らがこの方法を知らないのなら……君がきちんと頭を下げることだな。」

  「ニオイのために、頭を…………♡は、はいっ!心得ました、先生。」

  「ああ。更に言えば、君が自ら選ぶべきだな。兵士たちの足を嗅ぎ比べて、誰が1番臭いのかを責任持って決めてやるんだ。それが自分や護衛たちの身を守ることに繋がるのだから……出来る限りは、な。」

  「はぅ…………♡♡♡」

  つくづく私には人の上に立つ器が無いように思えるのは、きっと気のせいでは無いのだろう。

  我ながら情けない返事だ。たった2文字の返事すらろくに発声できなくなってしまった。人に隷属したくて仕方のないマゾヒストには国を治める才覚はないと、そんなことはとっくに理解してはいるのだけれどな……

  「さ、座学はこの程度にしておくか。昼食を摂ったら、すぐに鎧を身につけるように。今日は実戦形式だ、食事中から十分に集中しておくように。」

  ……実に学びのある講義だ。いや、やましい意味ばかりではないとも。本当に、ためになる内容だった。だからこそ、余計に彼を神格化してしまうのだ。

  (格好いいなぁ…………♡私の先生、私の師匠…………♡♡♡)

  ここまでは、先生と生徒の関係。ここからの私たちは、師匠と弟子……そんなロールプレイをわざわざ求めるのは、自分が常に彼の下でなければ我慢ならないからだ。実に為政者に向いていないだろう?自分でも呆れてしまうくらいだ。

  彼を使用人だなどと侮りたくないという気持ち以上に、彼の尻に敷かれてシゴかれたい ……ひっそりと抱え続けたそんな気持ちが、良くも悪くも私の鍛錬を支えていた。

  (よし、今日こそは…………)

  彼の力量をまざまざと見せつけられる、剣術訓練の時間。鍛えに鍛えた筋力を、今日も今日とて片手で捻り潰されるとしよう。

  ==========

  ――――キィンキィン、カキィン!!

  重たい金属同士のぶつかる、甲高くけたたましい音。鳥たちはとっくに飛び去って、辺りに満ちるのは剣戟音と息遣い、そして……

  「姿勢が高い。」

  ……それを受け止めるグランドの、氷のように冷たい指摘の呟きだけだ。

  「ハァ、ハァッ……ならば、コレで!!」

  「……大振りすぎだ。確実に急所を狙えば、そんなストロークは必要ない。」

  棒立ちのグランドに、一太刀を入れて見せること。それが私の訓練の……じきに8年目になる目標だ。

  かつては木刀で行っていた勝負は、私が鉄剣を持ち上げられるようになった頃に真剣勝負へと姿を変えた。私を傷つけまいとするグランドは、兼ねてから私に向けて剣を振ることは無いのだが……それでも私は、毎日のように『敗北』を重ねているのだ。引き分けでも、無効試合でもない、紛れもない敗北を。

  ――むっわぁぁぁぁぁぁぁ…………ッ♡♡♡

  (くッ…………くっっっっさ………………ッ♡♡♡あぁっ……いけない、いけない…………タイムリミットが、近いッ♡♡♡)

  南高した陽射しに、フルフィンの纏う鎧は蒸し風呂のように蒸し上がる。体力は奪われ、剣は鈍り、視界に汗が滴って……けれど長年の訓練で、そんな苦しさには慣れっこだ。問題なのは、フルフィンよりも遥かに軽装なはずのグランドが、滝のような汗をかいていることだった。

  ふわりと大好きな雄臭が風に乗って漂う午前とは違い、今のグランドから漂うニオイは暴力的の一言だ。むわりと周囲にモヤをかけるのは今流したばかりの汗と思えぬ強烈な酸っぱさを孕んだ熱気、それが剣を受け止めるたびに胸から腋からブワッと飛散してくるとあれば、フルフィンの膝はガクガクと歓喜に震えて立っているのがやっとなほど。

  凝縮に凝縮を重ねたフェロモンの塊に毎秒顔を殴打される、そんな感覚……ただ棒立ちで剣を受け止めているように見えても、フルフィンは常にグランドからの攻撃を受けているに等しいのだ。

  「……どうした、攻め手を緩めるんじゃない。俺はまだ終了を宣言していないぞ。」

  「ハァッ、ハァッ……♡あぁッ、わかっているとも…………!」

  ――屈したい。この強い雄に、何もかも負かされて…………♡

  内奥に潜むメスの自我は、自ら膝を折ってしまえと身体に重力をかけてくるけれど……

  「ぐッ……これなら!!」

  あらゆる魔術や学問に精通する彼にとって、剣技など彼の持つ価値の一部でしかない。それすら手も足も出ないとなれば、それは彼が私に向ける期待への裏切りに他ならないではないか。

  もう取り返しのつかない自分だからこそ、せめて彼には立派だと思っていて欲しいのだ。メッキで塗り固めた彫像であろうとも、建てる価値のない男と見捨てられるより遥かにマシなのだから。

  (――今だっ!!)

  逆手で受けたブロードソードの、関節の回せない背中側を狙う。動作は最小限、胸元に腕を引いて……一突きを!

  「……呼吸が素直すぎるな。」

  「なっ…………!?」

  けれども、まだ届かない。軽く上体を捻っただけで、剣先は空を切る。この巨体が、どうしてこうも一瞬のうちに視界から消えてしまうのか……そのことに気が付けるまで、まだまだ時間はかかりそうだ。

  「……そこまでだ、フルフィン。剣筋に濁りが見えるぞ。」

  「――ッ!!ハァッ、ハッ……すまない、グランド。少し集中力を欠いてしまった。」

  凡そ数時間に渡る攻防、その力量差は圧倒的だった。全身汗だくで膝をつくフルフィンに対して、グランドは最初から一歩たりとも動いていない。額を伝い鼻先から溢れる汗は、ただ太陽の日差しが流させた塩水だ。彼の足元にできた真円の汗溜まりが、彼の余裕をありありと見せつけていた。

  「焦りや怒りの籠った一振りは、いつか自分に返ってくる……それを忘れるんじゃない。」

  (貴方は剣から感情まで読み取れるというのか……本当に、凄い人だ。私など、何年掛かっても――)

  座学とは打って変わって、グランドの剣術指南は極めて口数が少ない。ただ剣の一振りごとに、淡々と反省点を突きつけるだけ。自分の無力さ、敵の強大さを突きつけて、膝を折ってしまわぬようにと心の中で祈りながら。

  極めて冷徹で突き放すような指導方針だが、これが最適だとグランドは考えているのだ。自分の身は自分で守る、それ以上を求めようなど、それこそ英雄にでもなりたがらなければ必要ないのだから。

  「剣技はこれでお終いだ。最後にいつものトレーニングをして締めとしよう。」

  「あぁ、了解だ。…………ふぅ。」

  何千回と剣を振ってくたびれた身体は、『終わり』の言葉と同時に筋肉痛を自覚する。彼が事前に掛けてくれた『自然治癒力強化』の魔術がなければ、膝をつくことすらできていなかっただろうな。

  何もかもグランドに支えられている。そんな不甲斐なさを払拭できるのは、一体いつになるだろうか……

  「ふぅ……あちぃな…………」

  そんな私を尻目に、背中に背負った鞘に大剣を収め、木陰に整えられた切り株にどかっと腰を下ろすグランド。暑い暑いと言いながらも、剣を交えた数時間がまるでなんでもなかったかのような涼しげな表情だ。とっくに役立たずなタオルは胸当ての内側へとしまいこんで、膝上に肘を突きながら次のメニューを指示する。

  見下ろされて、指示<めいれい>されて……そんなことにゾクゾクと背筋を震わせている限り、いつまでも彼に太刀打ちできやしないだろうな。

  「腕立て、腹筋、背筋を100ずつ、その後プランクを5分。ま、今日もいつも通りだ。手を抜くんじゃねぇぞ。」

  もはやルーティンと化した整理運動<クールダウン>は、年々回数が増していったこともあって今では3桁の大台だ。けれどもこれも慣れたもの、フルフィンはただ彼の言葉に耳を傾けるための時間として活用していた。

  「……体躯も随分と立派になったもんだ。鉄剣を持ち上げることすらできなかった日々が懐かしい。」

  鎧を脱ぎ、下に着込んだキルトも脱ぎ捨てれば、顕になったフルフィンの肌着姿はまさに彫刻のようだった。見事な逆三角形を描く背筋、エラの張った大腿四頭筋、腕立てのたびに地面に押し付けられる、たわわな大胸筋……どこをどう切り取っても超一流の肉体美は、過去の狼族の誰と比べても見劣りすることはないだろう。グランドが育て上げた、最高峰の雄のカラダ……完成された弟子の肉体に、グランドは思わず賞賛の声をこぼした。

  「よしてくれグランド。あのことを忘れたいからこそ、私は身体を鍛えてきたのだぞ?」

  「ああ、知ってるっての。お前のメニューを8年間も組んでやってんだ、お前の肉体の成長なんざ身体を見なくたって解っちまう。……そろそろ強度を上げてもいい頃だってことも、な。」

  身についた筋肉は、すべて彼の適切なトレーニングプランと治癒魔術によるものだ。自分でも実に立派に育ったと思う。

  それ故に、そのことに関しては本当に感謝してもしきれないことなのだが……けれども、私に不満がないわけではないのだ。

  「なっ……!?本当に手厳しいな、君は……!君が最小単位かのように容易く指示する『プランク5分』がどれだけ苦しいものか、明日からでも一緒にやってみてくれないかな!?」

  何を隠そう、グランドは身体を鍛えたことなど無いと言うのだ。この巨体が、分厚い脂肪を突き抜くほどに盛り上がる上腕二頭筋が、第二の肩のように聳える僧帽筋が……真なる意味で、全くのナチュラルなのだと宣うのだ。

  こんな不平等なことがあるだろうか?……まあ、私はむしろその不平等で随分とイイ思い<ニオイ>を満喫しているのだが……それとこれとはまた違う。なにせ男のプライドが粉微塵にされているのだから。

  「バカ言うな。ただでさえ臭ぇ俺がトレーニングなんかすれば、浴場が大変なことになっちまうだろう。お前は知らないだろうが、俺が服を脱いだ直後は脱衣所がとてつもない臭いになるんだぞ。換気が終わるまで、今でも大体1時間はかかっちまうんだからな。」

  「うっ……♡そ、そうかい……私は別に、君を臭いだなんて思ってはいないけれど……?」

  その言葉は本心半分、邪心半分だ。だって、ほら……浴場が少しばかり犠牲になるだけで、その日の彼の熱気が大変なことになってくれるというわけだろう?これ以上の本望などない。

  もしもそんな日が訪れたなら、その日は未来永劫祝日だ。いつも以上に汗だくのグランドとこうして肩を並べた後、共に夕食を作って食卓を囲い、居残りで補習など頼んで……

  (そして最後には、2人きりの貸し切り大浴場…………♡こんな素敵な1日が、少しグランドが身体を動かすだけで手に入るだなんて…………♡♡♡)

  グランドはきっと、5分のプランクなど朝飯前だろうが……棒立ちでこんなにも汗をかくのだ、代謝の良すぎる彼はきっと滝のように汗をかいてくれるだろう。

  あぁ、もう不満などどうでもいい。ただグランドの隣で有酸素運動がしたい。グランドの熱気に燻されたい。ああ、なんて心踊るんだ。これは少しばかり、強めに押したくなってしまうな…………♡

  「……随分と余裕そうな表情だなぁ?今なら俺が背中に乗っても耐えられるとでも言いたげじゃねえか、ええ?」

  「なあっ!!??♡♡♡い、いや、待ってくれグランド!君は自分の体重が分かった上で言っているのかい!?」

  「あぁ、800キロだ。……最後に計測したのは10年前だがな。」

  それが誇張でないことなど、彼を一目見ればわかることだ。先年に2メートルの大台を越した私が遥かに見上げるほどの巨躯に、別邸の扉を潜ることすらギリギリな脂肪と筋肉の塊……見かけ以上に内奥に占める筋肉の割合の多い彼は、その重みも半端ではない。凡人なら、彼の太もも一つで命を奪われかねないほどに。

  「……冗談だ。だが、俺の言いつけを守ってプランクを止めなかったのは評価に値するな。頑健な男に育ちたいという覚悟が感じられる。」

  「あっ……!♡いやっ、その……あぁ、もちろんそのつもりだとも!私はいつか、君の身体すら持ち上げてみせるさ。」

  「ふっ……そうか。期待して待っておく。」

  師弟であり、主従であり、けれどそれ以上に友人でありたい。そんな願いを胸に抱く私にとって、この時間は切ないほどに愛おしい。

  けれど、悲しいかな。この腹筋が、この背筋が……このプランクが5分を数え終えた時、それが別れの合図となる。それが8年続く、私たちの日常だから。

  「――そこまで。今日もご苦労だった。」

  「ハッ、ハッ…………ああ、ありがとうグランド。君もしっかりと身体を休めてくれ。……もっとも、今日もあまり君を疲れさせられてはいないようだけれど。」

  「……剣は嫌いか?」

  「いや?とても充実しているよ。私はただ、君が退屈していなければ良いなと思っているだけさ。」

  「……そうか、ならいい。」

  きっと誰も知らないだろう。グランドが、見た目よりもずっと繊細な気遣いのできる男だと。

  「それでは……また明日、グランド。」

  「ああ。しっかりと身体を休めるよう、くれぐれも夜更かしなどするんじゃないぞ。」

  ……フルフィンは、フルフィンこそは知らない。グランドの本性が、いかに野生的なのかを。

  [newpage]

  ==========

  深夜0時、大浴場。今日の修練を思い出ししばしの瞑想に時間を割いたのち、結局いつものように主張し始めた鼠蹊部のテントに従って、昨日と今日のすり替えショーを披露しに来たところなのだが……

  「なっ……!?あ、その…………!!」

  私の頭3つ分は大きな背格好、酒樽のように巨大な腹……

  見慣れた男の、見慣れない姿がそこにあった。

  「……おぉ?こんな夜更けに外出とは、遊び心が芽生えてくる年頃ってな訳だな?」

  「あぁ、す、すまない……少々寝つきが悪くてね、散歩がてら顔を洗いにきたのだ。」

  どうにかして平静を装う私。けれども、無断での深夜外出は彼との約束に反しているし、その上彼の汚臭靴下を込めた革袋を握りしめているのだ。ツツ……と伝う冷や汗に、様々な恐れや後悔が籠っていた。

  (な……何故!?彼の入浴時間はいつも、10時からのはずなのに……)

  よりによって、このタイミングで……これから自慰に耽ろうという最も発情したタイミングでの邂逅は、単なる無断外出以上にピンチ中のピンチだ。ただ叱責されるだけならまだしも、より最悪なのは……

  「……ま、今日のお目付けは終わってるんだ。今の俺は使用人じゃねぇ、ただの冒険者崩れってことにしといてやるよ。」

  「あ、あぁ!!恩に切るよ、グランド…………」

  直面する問題は二つ。跡取りとしての一つの問題は、彼の寛容さによって振り払うことができたけれど……残りの一つ、ちょっぴり歪んだ年頃の青年としての問題は、より深刻な状況となっていた。他でもない、彼の『雄大さ』によって。

  「……ごくり。」

  彼は今、浴場に湯浴みに来ているのだ。私はちょうど、彼が脱衣所から浴室へ向かう瞬間に立ち会っていて……となれば当然、彼は一糸纏わぬ生まれたままの姿だった。

  ……念願だった。何しろ私は彼の裸を拝んだことがなかったのだから。

  「んん……?どうした、顔を洗いに来たんじゃなかったのか?」

  彼のニオイが強烈すぎることは、彼自身も薄々勘付いていたのだろう。彼がレヴィン家の使用人として就いたその日、彼は自らの入浴時間を貸し切りにすることを求めたのだ。優秀なグランドにすっかり心を許していた父上は二つ返事でそれを承認し、彼の入浴は誰も立ち会うことがなくなったのだ。その事実を薄らと認識した時、私がどれだけがっかりしたのかは言うまでもないだろう。

  「えぇと……その…………」

  長年妄想し続けた。グランドの股間にぶら下がるソレが、どれほど長大なのかを。衣類を内側から球状に押し上げてやまないその睾丸が、どれほどの精を蓄えているのかを。その答えは、今、目の前に…………

  「……珍しいだろう。ここいらじゃ、俺の同族には会ったことがねぇからな。」

  気まずそうに、しかし興味津々に言葉を搾り出そうとする私の歯切れの悪い言い出しに、グランド自らその『話題』に触れてくれた。恐らくは、自分のソレに対して私がどう思うのか、ある程度の予測がついていたのだろう。何しろそこには、私の知らないモノがぶら下がっていたのだから。

  「ぁッ、!ああ、確かに、とても珍しいね……その、すごく…………私のものとは比べようもない程に立派だから…………♡」

  私の思考は、2つの言葉に支配されていた。

  まず一つ目は、『巨大』という一単語だ。

  (なんと、逞しい…………私のモノなど、まるで幼児ではないか…………♡♡♡)

  ぶら下がる陰嚢は、睾丸を支えて垂れ下がる皮膚をギリギリと引き伸ばすほどに重量感たっぷりだ。全身毛深い彼らしく、生え揃う陰毛も森のように生い茂っていて、あちらこちらに飛び出た縮れ毛はソレが性器なのだと改めて念押しするかのようだ。

  ゴツゴツとした堅牢な皮膚は、眉間より一層深いシワを年輪のように刻み込んでいて……けれど双丘の膨らみにつれて次第にブラックオパールのように輝くのは、もともと彼の遺伝子が持つ素養以上に睾丸が肥大化している証だろうか。旅の中で水筒代わりに使う水袋のように中身の詰まった巨大な双球、その大きさを上回れる生き物など竜種ぐらいのもの。この世界の『ヒト』の中で、彼よりも立派なモノをぶら下げている者などいないのだと、一目でわからされてしまう。

  (私などより遥かに雄々しいとは思っていたが……ああ、私の想像力のいかに乏しいことか。彼のことなど、私には何一つわかっていなかったのだな……♡)

  ……触れたい。その砲弾を持ち上げて、質量と熱量、それからニオイも味も知って、上も下も満たされたい……積年の欲情の中で思い描いていたグランド像を何もかも上回る姿を見せつけられて、フルフィンはすっかり蕩け顔になってしまった。

  理性が弛み、もはや視線を逸らすことなどできない彼は、気まずさを晴らすかのように……しかしそれ以上に好奇心を惹かれるようにして、とある疑問を口にした。

  「そ、『ソレ』は、その……一体どういう仕組みなんだ?」

  『ソレ』と呼称したのは、グランドのチンポだ。

  抱いた感想の二つ目は……『無い』、だった。

  こんなにも巨大な睾丸であればさぞかし長大な陰茎と思われるだろうが、実際のイチモツはまるで異なっていた。その竿は、まるで根本から断ち切られたかのように、そこに『存在していない』のだ。

  巨大な砲口のような凹みが睾丸の上に抉られていて、そこから平らなナニカがまっすぐにこちらを見つめている。そんな構造の性器は、生まれてこの方見た事がない。興奮以上に好奇心が刺激されたのも当然のことであった。

  「中にしまわれているんだ。その他は君と大して変わらん。……どうやら俺は野生の血がとびきり濃いようでな。種族の中でも俺と同じチンポしてんのはごく少数、殆どはとっくに死んじまったんだとよ。」

  陰茎を格納する『鞘』のような分厚い肉の入れ物をクリクリと指でいじれば、それはまるで豚の耳のようにペラりと捲れて内側を晒した。

  茶色混じりの濃い灰色の裏側は赤黒く、実に肉肉しいその色は内臓を思わせるほどに濃い色彩だ。竿と鞘、その隙間を見せつけるように指を滑り込ませれば、ずりゅっと少し頭を出した肉柱がくっきりと視認できて、確かにその中心にしまわれているモノが陰茎なのだと理解できた。

  「ッ…………♡な、るほど…………つまりはソレが、包皮のような役割を果たしているのだね。」

  年長者特有の、性に対する余裕を感じさせる大胆な指先の動きは、まだまだ青い若狼を赤く染め上がらせるには十分だ。くちゅりと水音を立てる内側は、粘液に塗れてぬめっていて……やはりそこが内臓であり、自分で言うところの包皮の内側なのだということがありありと理解できた。巨大で肉肉しい象の性器は、あの鞘の内側で、一日中…………♡

  「ッ…………♡♡♡♡♡」

  「……フルフィン?」

  (あぁ、いけない、コレはいけないぞ、フルフィン…………♡こ、これ以上ここにいては、理性を失ってしまう………………♡♡♡)

  『目の前に、湯浴み前のグランドの裸体がある』――今の自分は、そんな夢にまで見た状況に置かれている。劣情を上書きできる好奇心を失ってしまえば、現実はこれ以上でもこれ以下でもないのだ。

  愛しい人の肌、脂肪、筋肉、体毛、性器、そして……ニオイ。汗に塗れて妖しく光る肉体は、その存在全てがフルフィンにとっての媚薬なのだ。

  毎日のように嗅ぎ漁る足、日常のうちに香るワキ、今新たに見せつけられた、鞘にしまわれて蒸れた雄竿……そのどれもへの空想が、現実<ニオイ>を伴ってフルフィンを絆そうと襲いかかる。

  性に溺れてはならないと教わった自分が、その恩師の前で発情を見せるなどあってはならないことだ。取り返しがつかなくなる前に、いち早く……

  「あ…………ありがとう、君のことを教えてくれて。では、私はコレで失礼するよ……♡♡♡」

  そんな強固な意思を抱きなんとか踵を返したフルフィンだが、ニオイに後ろ髪を引かれる心残りはその足取りから消し去ることは出来なくて……

  「……!!おいおい、大丈夫か。」

  震える足取りでふらつきながら後にするその背中は、グランドにはとても見過ごせたものではない。ただ、心配だったのだ。そんな彼の持ち前の優しさは、彼の身体を容易に動かしてフルフィンの体を支えさせてしまった。

  ――ぶわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!

  「――――――――ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!!!!????♡♡♡♡♡」

  頭よりも先に体が動く。かつて冒険者であった頃の習慣と、立場を顧みない純粋な彼の優しさ。そうして触れ合う体が、グランドに現実を突きつける。……汗に塗れ、強烈な雄臭さに塗れた自分の素肌が今、名家のご子息が纏う衣服に濃厚なマーキングを刻み込んでいるのだと。

  「……!!すっ、すまんっ!!酷い臭いだろう、すぐに代わりの寝巻きを用意して――」

  「…………………………くっさ♡♡♡」

  「…………ん?」

  自らの犯した過ちは、すぐに罰として降り注ぐ。グランドにとって、最も大切にしたいモノ……手塩にかけて育てた少年の、見るに堪えない崩壊。自らの手で背中を押してしまった彼は、その痴態をまざまざと見せつけられることとなる。

  「――――く゛っっっっさぁぁぁッ゛ッ゛ッ゛!!!♡♡♡♡♡あ゛ひッ゛、ん゛へぇ…………ッ゛♡♡♡スンスン、スンスンスンスン…………ぉ゛…………ごぉ゛ッ゛…………♡♡♡くさっ、くっさ!!♡♡♡臭すぎるぞぉ、グランドぉ………………ッ♡♡♡♡♡」

  アルコールに酩酊するかのようにぐらりと揺らぐ視界は、彼の纏う雄臭の蒸気故か、それとも歓喜に揺れる瞳孔のせいか。

  深夜、それも湯浴み前のグランドのカラダは、脱ぎ捨てた衣類などとはまるでレベルの違う濃厚な臭気に包まれていた。

  全身を包み込む強烈な酸味は、まるで醸造酒の樽に頭から突っ込んだかのような芳醇さ。その濃密な臭気全てが彼の雄々しさに満ち溢れていて、嗅覚細胞の一つ一つは彼色に染め上げられてしまう。

  毎日、毎日毎日恋焦がれ続けた“ナマ”のニオイ……叩きつけられるような刺激を受けた狼の脳は、瞬く間に理性を崩壊させてしまった。

  「お゛ひッ♡♡♡すんすんッ♡♡♡スンスンスンスン…………ふぐッ、くぅん…………ッ!!♡♡♡一体ッ、どれだけわたひを誘惑すれば気が済むのだぁっ♡♡♡貴方のせいで、わたひは、わらひはぁっ…………こんな淫売に、成り果ててしまった!!♡♡♡」

  「……………………」

  グランドは、快とも不快とも取れぬ微妙な表情をしている。だが何故だろう、不思議とその面持ちには『訳もわからぬ』といった様子は感じ取れない。自分のニオイを嗅げばフルフィンがどうなってしまうのか、グランドは初めから知っていたかのようで……

  「……いいや、違う。君はただ発情期を迎えているだけだ。他の雄のニオイを感じて、本能が焚き付けられているだけ……そうだろう?フルフィン。」

  彼は理解している。自分の口から出た言葉が、真っ赤な嘘であることを。フルフィンが、『自分のニオイに』発情して止まないのだということを。……自分には、そういうチカラがあるのだということを。

  「ちがッ、わらひはぁ、ずっと貴方のことがぁ…………あへぇ゛…………ッ゛!♡♡♡お゛ほッ♡お゛ぇ゛ぇ゛ッ♡♡♡くさっ、くさッ、くっさ………………ッ゛!♡♡♡」

  ……こんな姿を晒させるつもりはなかった。グランドがフルフィンに手を伸ばしたのは、ただ純粋な善意からだったのだから当然だ。自分の体臭にどんな効力があるのかを、数年間の『ブランク』が忘れさせてしまっていたのだ。自分のニオイを直に嗅がされた雄たちがどんな『末路』を辿ったか、それだけは嫌でも忘れずにいられないというのに…………

  「……君に自慰をさせるわけにはいかん。戒律を犯すよりは、せめて俺の手で射精した方がマシだろう。そうすれば、このことは全て俺の責任にできる。」

  その尻拭いは、せめて自分の手で。

  あぐらをかいたグランドは、流れるようにフルフィンのカラダも抱き込んで腿の上に座らせる。この場所、この格好、このニオイ……こんなの、まるで…………!

  「はぇ……ッ!?グランド、まさか…………あぅッ!!??♡♡♡」

  何かを口にしようとしたフルフィンの言葉を遮るように、躊躇なく手に取ったのは狼の生殖器……ウブな教え子のペニスに、思考の隙も許さぬ手練手管を叩き込むのだ。これ以上、フルフィンの失言を誘わない為に。快感を、叩き込む……!

  ニュプ……グチュグチュッ……シュコッ、シュコッ……♡♡♡

  (グランドが、私のチンポを…………!♡♡♡この熱、このニオイ、この心地良さ……まるで、あの時と同じ…………♡♡♡)

  グランドの狙い通り、フルフィンの脳は思考するのに精一杯だった。

  フルフィンの頭に過るのは、あの日のこと……思い出の中、求めて止まないあの瞬間の再演が、こんなにも恋焦がれた通りに行われるなんて。あぁ、けれどこれはただの繰り返しなんかじゃないんだ。グランドの雄々しい身体は、あの兵士よりもずっと匂い立って…………♡♡♡

  「これは、俺が無理矢理お前を襲っただけ。お前は、何も悪くない。……さっさと済ませちまうぞ。」

  言い聞かせるように呟く言い訳は、一体誰に向けた言葉だろうか。ため息混じりに漏れ出た言葉が許しの合図であったかのように、イチモツを握るグランドの皮膚の分厚い大きな手は、じっとりと染みた汗を潤滑油代わりに手加減なしの手淫を始める。

  ゴリゴリとした圧迫感と肌に吸い付く柔らかな人肌の感触を、揉み込むようにフルフィンのペニスに教え込み、ピクピクと手中でもがく肉竿を封じ込めるように揉みしだいた。

  「あぅぅぅんんんんッ!!??♡♡♡がふッ、ぐぁあッ!!!♡♡♡あああああああああッッッ!!♡♡♡」

  グリグリグリ…………ニュルンッ!♡♡♡

  研磨するような亀頭責めは、ニオイに当てられて敏感になった狼の粘膜にはあまりにも苛烈すぎる刺激だ。絶叫にも似た嬌声をあげながら腰をくねらすフルフィンに、グランドが責め手を止めることはない。もしもその手を緩めてしまったなら、それはただの愛撫に成り果ててしまうから。

  これはあくまでも、ただの性処理でなければならない……

  夢見心地で快感を貪るフルフィンに対して、忙しなく手のひらを回転させるグランドは極めて事務的だ。まるで自らの感情を押し殺すかのように、『ご子息とお目付け役』の型に自らをはめ込む。

  「……立派に育ったもんだ。肉体も、ココも…………」

  その眼差しは、まるで子を見る親のよう。成人してすぐに子を儲けることが常な獣人にとっては、二人の年齢差は親子どころか祖父と孫ほども開いているのだから当然だ。

  最も『性』の成長著しい期間、一度も性器を見ることなくフルフィンを庇護してきたグランドにとって、教え子の立派な剛直の姿はとても喜ばしいものだ。平均以上の立派なサイズは上反りで、ズル剥けで、右曲がりで…………

  「ん……?」

  重ねた年月、積んだ経験、フルフィンの歩んできた『性活』が、その大人びた生殖器のグロテスクな見た目からひしひしと感じ取れた。シワの刻み込まれた包皮、ヒクヒクとつゆをこぼして刺激をねだる肉竿は、明らかに……

  「……初めてじゃねぇな、こりゃあ。」

  敏感なはずの亀頭を掌で擦れば甘く蕩けた声が漏れて、裏筋に指を添えてやるだけで肉竿はピクンと快楽への期待に跳ねる。

  久しく他人の素肌を見ていなかったグランドには懐かしい、自分には無い包皮という存在。明らかに浅黒く伸びた包皮を摘めば、手淫の悦びをすでに知っているのだと手に取るようにわかってしまう。

  「……たっぷり汁を垂らしやがって。シゴかれ方もバッチリ身体で理解してるじゃねぇか。えぇ?」

  フルフィンは間違いなく教えに背いている。その事実はグランドを酷く落胆させる……はずだというのに、彼がフルフィンを詰る言葉はやけに言葉尻が跳ねていて。彼は一体、何に喜んでいるのだろうか。

  グチュッ♡グチュグチュッ♡♡♡グリンッ、グリンッ…………ムギュゥゥゥッ…………♡♡♡

  「ん゛ぅッ♡♡♡あ、はひッ♡♡♡それっ、それっ、もっと…………お゛ぉッ゛!♡♡♡もっと、そこをいじめてくれッ♡♡♡」

  象の大きな手で一方的に蹂躙される手淫は、自分で行うマスターベーションとはまるで違う。その肉厚さ、その暖かさ、しとど濡れた皮膚の厚さには握られただけで喜びが全身を駆け巡り、年季の入ったグランドの責めも相まってレベルの違う快感をフルフィンにもたらしていた。

  「すまない゛ッ♡♡♡すまない゛グランドぉ゛ッ゛♡♡♡お゛ッ゛、お゛ほッ゛…………スゥゥゥゥゥゥッ♡♡♡♡見ないでくれっ、見ないでくれぇッ……♡♡♡ふしだらな私を……もっと見てくれぇッ!♡♡♡♡♡」

  「ああ……たっぷり見て、忘れてやるよ。お前を穢す悪いモン、全部ここで吐き出しちまえ。」

  いつもより濃いニオイ、いつもより敏感な亀頭、いつもより、遥かにいやらしい指遣い……その時は、あっという間だった。

  「イ゛ッ゛ッ゛…………ク゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!!!!!!♡♡♡♡♡♡♡」

  びゅるッ♡♡♡びゅるるるぅ〜〜〜〜ッッ♡♡♡パタタッ……ヒクヒクッ♡♡♡ブビュッ♡♡♡

  「お゛ッ……ほぉ…………ッ゛!!♡♡♡ガふッ♡♡♡ん゛ぉ゛ッ゛、お゛ぉ〜〜〜…………♡♡♡」

  ぶりゅりゅとスライムを押し出すような強烈な摩擦の射精に、思わず腰が持っていかれてしまう。胴体に回されたグランドの太腕が抑えてくれていなければ、今頃フルフィンの身体は海老反りになっていたことだろう。脳がショートしそうなほどに絶大な快感を前にして、初めての吐精を迎えた子供のように無防備に目を白黒させることしかできやしなかった。

  「……ふん、今更ウブなフリしやがって。発育に問題が無さそうで良かった、とでも言っておいてやろうか?んん?」

  ……ともすれば、本当にこれが初めての不純なのかも知れない。これに比べれば、今までの自慰など児戯にも等しいのだから。

  ニオイの濃さもそうだが、何よりも逸楽だったのはグランドの分厚い手のひらの感触だった。自分の意思に関わらず無理矢理に搾り取られるという感覚は、自分の中のイケないナニカをくすぐられるような心地で…………

  「ハァッ……ハァッ……♡はふ……ん、ふぅーー…………♡」

  いや、これ以上考えるのはよそう。自分がこれ以上澱みに身を任せれば、グランドの気遣いを無碍にするも同然なのだから。けれど……この、感覚は…………

  (……しばらくは、忘れられそうもないな…………♡)

  ほぅっ……と吐息を一つ。吐精後の気怠さに助けられながら、フルフィンはどうにか落ち着きを取り戻すことができたようだ。背中に感じる莫大な熱に、純粋な心地よさを覚える。

  「……落ち着いたか?」

  頭上から降り注ぐ重低音は、染み入るように優しくて。その振動が、自分が背を預けている相手がただの椅子などではないことを思い出させるのだ。自分が一体どんな姿をこのヒトに見せてしまったのかを、改めて。

  「すまない……グランド、本当に…………申し訳ない………………」

  「いいんだ。これは君のせいじゃない。俺のフェロモンはな、昔から『勘違い』させちまい易いんだ。あてられやすい発情期に俺のニオイを浴びちまうと、こうやってカラダが『間違い』を起こしちまう。だから、これは俺のせいだ。……そうだろう、フルフィン。」

  「ぅ…………そう、なのかも………………」

  違う。断じて違う。これは、勘違いでも間違いでもないのだ。私はグランドが好きだ。私はグランドに対して劣情を抱いている。何をどう曲解しようとて、それだけは疑いようもない私の本心なのだ。

  「……はは。発情期というのは、こんなにも胸が苦しいのだね…………」

  けれど、私にそんなことを口にする権利はない。グランドの優しさを踏み躙るような権利は、彼を裏切った私に持ちうるはずはないのだから。溢れかけた『愛している』を口にする権利など、私には……

  「そうだとも。……ほら、寝巻きをよこしな。俺のニオイなんざ部屋に持ち込んだら、二度とニオイが取れなくなっちまうからな。」

  ああ、グランド……どうして貴方は、そんなに残酷なことを告げるんだい。貴方がそんなに気を利かせるから、『鼻が慣れてしまってうっかり』だなんて言い訳すら使えなくなってしまったじゃないか。私は貴方に、いつまでだって抱かれていたいのに。

  「……分かった。迷惑をかけてすまなかったよ。」

  グランドに促されるまま、彼の汗がたっぷりと染み込んだ寝巻きを手渡して下着姿になる。こんなにニオイの強い服は一般の列には並べて置けないということを、グランドも十分に理解している。

  「……ん。こいつは俺が責任持って洗っておく。……なぁに、俺は毎日自分で服を洗ってるんだ、お前の服もいつも以上に着心地よくしておいてやるさ。」

  「いや、心配してなどいないさ。それでは、また明日……いや、『またいつか』、と言うべきですね。」

  「ああ。それじゃ、良い朝を……どこかの貴族様。」

  このことは、お互いに忘れよう。そんな約束を言外に交わして、二人は別々の方を向く。これは泡沫の夢なのだ。明日の朝にはきっと、いつもの二人に戻っているさ。そんな日常を願って、フルフィンは革袋を握りしめながら浴場を後にした。

  「…………マズルに足のニオイなんぞ付けやがって、アイツ……♡」

  ――フルフィンは知らない。自分の拙い悪事が、優しさの奥に潜む怪物を起こしてしまったことを…………

  [newpage]

  ==========

  明朝。気怠さに優しく喝を入れるように、鳥たちのさえずりが窓から降り注ぐ。寝ぼけ眼を擦るフルフィンは、随分と疲れが残っているようだ。

  「……どこまでも不出来な男だ。彼と面と向かって誓っても、結局何も変えられやしないじゃないか。」

  元気溌剌と朝勃ちするペニスに筋肉痛のようにジクジクと鈍痛が走るのは、彼が昨晩ケダモノのように激しい自慰を行ったからだ。

  あんな鮮烈な出来事、当然忘れられるはずがないだろう。その後のフルフィンがどうしたか、彼のカラダがどうなるのか……そんなことは、あの時浴場を後にした彼自身にも分かっていたのだ。首元にはグランドの残滓、手にはいつもの激臭靴下。悶々とすることすら許さないほどの劣情が、彼のペニスに灼熱の血潮を迸らせた。

  思い出すだけで1発、首元を指で擦って2発。我慢できずに手を伸ばしたいつもの乾いた足臭に、5発…………肉厚な彼の手に想いを馳せて、物足りなさを回数で埋めるように、何度も何度も射精した。

  そうして結局いつも以上に抑えられず、こうして寝不足を抱えたままに朝を迎えてしまったのだった。

  「顔を洗わなければな……今日はきっと、いつも以上に酷くこびりついているだろうから……」

  毎朝の洗顔に隠蔽の意味が生まれてから、随分と沢山の夜を過ごしてきた。心地良いはずの水の感触に焦りと寂しさを覚える貴族など、この世のどこを探したとて私以外には居ないだろう。毎朝、毎朝、彼は私を迎えにきてくれる。それまでに身支度を済ませることが、私の規律正しい生活リズムの基盤である。

  「……ふぅ。これだけ洗えば十分だろう。石鹸が随分と小さくなったな……」

  ニオイを確かめてくれと誰かに頼みたいところだが、それにうってつけの従者こそが秘密にしたい相手では致し方ない。過剰なまでに石鹸を擦り付け、水をふんだんに使用して、どうにか綺麗になっていてくれることを願うばかりの毎日だ。

  コンコン……

  「おはようございます、フルフィン卿。」

  ウワサをすればなんとやら、いつも通りの時間に彼のバリトンボイスが館に響く。心地よいはずの彼の声色にピクリと震える自分が情けなくて仕方がない。

  「っあ、ああ……入ってくれ。」

  声で入室を促せば、すぐに扉を潜ったグランドと目が合う。昨日の今日だ、フルフィンにとっては目を合わせることも小っ恥ずかしくて、まるで恥ずかしがり屋な幼子のように半身を扉に隠して彼を出迎えた。

  「よう、おはよう。……なんだか冴えない顔じゃないか。昨日は寝つきが悪かったのか?」

  彼が玄関を潜ったら、そこは既に私たちだけの世界だ。堅苦しい敬語抜きの砕けた言葉遣いが、彼と私以外の目が届かぬことを意味している。

  「ぁ……い、いや…………少し、ね……」

  寝室は正面玄関から入って右の通路、3つ目の部屋。少し離れたこんな場所からの出迎えは、これまでの付き合いで一度もしたことのない行いだ。当然ながらこんな接し方はいかに彼が使用人であろうとも失礼極まりないもので、『師』という役回りのグランドであれば当然叱責するべきことだ。

  「……食材、置いておくぞ。いつも通り、先に掃除から済ませようか。」

  「……!!あぁ、ありがとう……そうしようか。」

  けれども、彼は何も言わない。グランドはいつも通りの仏頂面を携えて、あくまでも『いつも通り』を貫き通しながらも、こちらの気持ちも汲んで目を瞑ってくれているのだろう。

  (……すごいな、グランドは。私はあんなにも恥ずべき夜を過ごしたというのに、彼は本当に綺麗さっぱり忘れ去っているみたいだ。)

  自分の幼さ以上に、グランドの身の振り方の上手さをまざまざと見せつけられた気分だ。あんな刺激的な夜、一体どんな経験を経れば些事と切り捨てられるようになるのだろう。

  (……いや、待てよ。ひょっとして、グランドにとっては本当に大した出来事ではなかったのではないか?結局のところ、刺激的な体験をしたのは私だけなのだから……)

  ともすれば、グランドにとってはただの『雑務』ですらあったのかもしれない。たかが不出来な教え子の尻拭いに、感傷に浸る所以などあるはずがないのだから。

  (本当に、あの事は早く忘れよう。私はいずれ国を背負って立つのだ、自分の醜い欲に負けているようでは、そんな重責を背負う資格などあるはずが無いのだ。何より、これ以上彼を失望させたくはない……)

  どれだけ悶々としようとも、再びあの悦びにありつく事はないのだ。煩悶している暇は無い、レヴィンとグランドの名に報いる為、自らに必要なのは厳しい鍛錬と学習だけなのだから。

  「ふぅーー……よし。やるぞ……」

  深呼吸で息を整え、気持ちを切り替える。何も意気込む必要はない、これから行うのはただのいつも通りの生活だ。自室の清掃、家財の手入れ、応接室のソファのシワを伸ばして……ほら、たったこれだけのこと。体に染みついた動きを繰り返すだけの朝の清掃活動は、3部屋と廊下をものの1時間で片付け終わる。

  自分の担当である別邸の右翼を清掃し終えて中央部へ戻ってくると、いつも通りに手早く左翼の手入れを終えていたグランドとしばらくぶりの再会だ。

  「ん……体調に問題は無さそうだな。」

  「えっ……?あ、あぁ、お気遣い感謝するよ。」

  ふぅ……緊張は抜けきらないが、グランドの気遣いのおかげもあってなんとかやっていけそうだ。ただ、いつも通り……いつも通りに過ごすだけ……

  「さ、メシにするぞ。」

  「ああ、そうしよう。今日の食材はなんだい?いつにも増して、随分と大きな荷物だったけれど――――」

  水回りのある左翼方向へ歩みを進め、グランドと肩を並べる。……あぁ、やっぱりとてもイイニオイがするなぁ……♡いつも以上に香ばしい……チーズの焦げたイイ匂いが…………?

  「食材?……メシならもう出来てるぞ。疲れが溜まっているんだろう、調理ぐらい休んだってバチは当たらんさ。」

  アラムリアの民の食事は基本的に一日二食だ。朝にガッツリと腹を満たして、日の高くに軽食を摂る。なればこそ、朝食の調理には

  時間がかかるものだが……

  「〜ッ♡あ、ありがとう……お言葉に甘えさせてもらうよ。」

  ……いまさら純真ぶる気は無いけれど、私は本当にグランドのことが好きなのだろうな。彼の優しさ、手際の良さ、そんな頼れる男らしさにどうにも惹かれてしまうのは、きっと私のどうしようもないニオイフェチのせいなどでは無いはずなのだ。

  グランドがダイニングのドアを開けば、食卓には私の好物がふんだんに盛り込まれた料理の数々が並んでいた。

  「いいチーズが手に入ったんだ。前から個人的に仕込んでいた燻製肉もいい頃合いで、1人で摘むくらいならお前と一緒が良いと思ってな。」

  家庭的で、温かくて、愛情の詰まったご飯。そんな彼の優しさが、こんなにも嬉しくて。

  「……すまない、グランド。私は、君に甘えてばかりだな。」

  「当然だろう。当たり前すぎて忘れてるかもしれねぇが、俺はお前の召使いなんだぞ。お前のためになることなら、なんだってやってやるさ。」

  「そう、だったね……ふふ。ありがとう、グランド。」

  しばしの沈黙に身を委ねる。見つめ合う2人の間に流れる時間は、差し込む陽射しのように暖かで、柔らかく……

  「いただきます。」

  幸せだった。……私は、これで幸せだったのだ。ああ、私は愚か者だ。もっと早くに気がついていたのなら、私はどんなに…………

  「ん……沢山食えよ。」

  彼のことを、苦しめずに済んでいたことだろう。

  [newpage]

  ==========

  「さて、これで授業は終わりだ。今日の鍛錬を始めたい所だが……その前に一つ、君に聞いておかなければならないことがある。」

  午前の授業は、何も……何も起こらなかった。

  実に喜ばしいことだ。彼が教え、私が学ぶ。そこに邪な気持ちは無い。教師と生徒のあるべき姿が、初めて完璧に演じきられたのだった。

  「……?なんでしょう、先生。」

  「君も直に18の歳を迎えるな。逞しく成長してくれたことを、師として誇りに思う。」

  「いえ、そんな……!先生が私を導いてくださったお陰です。」

  「……ふん、世辞など教えた覚えは無いんだがな。」

  自嘲気味に目を細めるグランドの姿に心が軋む。私が私を誇れていれば、彼も彼自身を誇れていたはずなのに。でも、私は決めたのだ。彼を貶めてしまった罪と向き合って、師の名の重さに恥じない生涯を全うするのだと。

  「君は晴れて成人を迎える訳だが……アラムリア国内における成人の権利のうち、最も代表的なものはなんだと思う?」

  「――!それは…………!」

  彼の繰り出した『問題』は、そんな決意を見透かしたようだった。なんの変哲もない、アラムリア国の法令に対する知識を問う質問だが……グランドの言葉に緊張が走ったのには訳がある。

  アラムリアの民の生業は、大きく分けて4つだ。

  日用品や公共物に始まり、道路や城塞の外壁などの製作・管理維持を行う『手芸者』。

  他国との貿易流通を管理し、国内に物資とカネを循環させる『商人』。

  魔道の発展に寄与し、生活の豊かさと民の安全を保証する『学者』。

  そして――世界中の未踏の地から遺物を持ち帰ることで、行き止まった文明に光をもたらす、『冒険者』…………

  これらの4つそれぞれがギルドを作り、そこに登録することが就職であり……そしてそれは、成人を迎えて初めて認められる職業選択の自由なのだ。

  「……『君は』、どれが重要だと思う。」

  つまるところ……『君は何者になりたいのか』と、そう問われているのだ。

  グランドの目線は私の目から外れない。それは私も彼をまっすぐに見つめ返しているからだ。とっくに決まりきっていた答えを、口を開いて真っ直ぐに伝えた。

  「『新成人は冒険者ギルドへの参加が許可され、国内外への自由な出入りを許される』……その一文が、私にとっての答えです。」

  迷いなどなかった。それは決して、ただグランドと同じになりたいなどという幼い憧れの為ではない。

  ……この目で見てみたいのだ。本の中に広がっていた青空は、もっと天高く見えたから。グランドの語る夜空は、もっと輝いてみえたから。荒野に落ちる流星を、極北の地に輝く光の帯を、見て、感じて、伝えたい。願わくば、グランドと共に…………

  「ですが私は、レヴィン家の一人息子なのです。為政者を目指すべきは必然かと……」

  だが。貴族という肩書きは、何も贅沢の許可証ではないのだ。壮健であれと鍛えられるのは、民の上に立つため。聡明であれと教えられるのは、国を率いるため。だからこそ、フルフィンは悩む。

  これまでの歴史上、レヴィン家はおろか4大貴族の血族のうちで冒険者という肩書きを得た者は誰1人としていなかったのだ。

  自分が国を飛び出せば、それは史上初のイレギュラー……自分のわがままを貫くことが、こんな凡庸な自分に許されるのだろうか……?

  「……それは君自身の責任感か?それともお父上の不興を買いたくないからか?」

  「う…………それは、その…………」

  ご機嫌取りがしたいわけではない。私はただ、父上を不安にさせたくないだけなのだ。

  私は早くに母を亡くした。それはつまり、父上にとっては最愛の人を亡くした事に他ならないのだ。一人息子の私が自ら危険に飛び込みたがっていると知れば、父上はきっと私を諭して国へ留めさせようとするだろう。その時に、私に断る勇気とわがままさがあるかと言えば……

  「君はいつも通りに自分を磨いていればいいんだ。君が自分を誇れるようになれば、公爵殿も不安に思わないだろうよ。」

  私が何を恐れているのか、彼はつくづくお見通しのようだ。その上で、彼は私の背中を押してくれている……邪推と詰られても仕方のない事だけれど、きっとグランドも私を応援してくれているのだろう。それだけで、私は胸を張れるのだ。

  「……グランド。私が迷った時は、側にいてくれるかい?」

  「なんだ、プロポーズか?」

  「なッ…………!?そうではなくって!自分のことぐらい、私が自分で責任を持って父上に話すべきなのは百も承知だけれど……少しだけ、甘えさせてくれないかな……」

  「ふん。当然だ、俺はお前の従者だぞ?お前の為になるんなら、国だろうが相手取ってやれる。いつまでだって、側にいてやるとも。」

  私はずるい男だ。彼が嫌だと突き返すはずがないと知りながら、小賢しく立場を利用して……それでも、やっぱり嬉しかった。だから私は、いつまで経ってもお子様なのだろうな……

  「さあ、そうと決まれば鍛錬だ。父上を安心させるんだろう?だったら今日は、いつも以上にシゴいてやらねぇとな…………?」

  「っあ、ああ!!今日も、よろしく頼むよ。」

  今日もまた、私は笑顔で彼に師事する。

  『いつまでだって側にいる』

  その言葉がどんなに誠実な言葉なのか、甘く見積り過ぎていたとも知らずに――――

  [newpage]

  ==========

  「はッ、はッ、はッ………………」

  いつも以上、だなんて言っていたけど。今日のトレーニングは、そんな次元じゃ――――

  「ぐっ……グランドッ…………♡♡♡ハァッ、ハァッ…………どうしてっ、急に…………♡♡♡」

  「ふぅーーーッ…………どうしたフルフィン、お前のお望み通りだろう?俺に側にいてくれと願ったのは、お前自身じゃねぇか…………」

  (いつもより、くっっさいぃ…………ッ!!♡♡♡)

  ボタ、ボタボタ…………むっっわぁぁぁぁぁ………………ッ♡♡♡

  今日は剣術訓練は行っていない。それはかねてからのスケジュール通りで、今日が基礎体力訓練の日なのは百も承知だ。

  けれど、まさかグランドが私と共にトレーニングを始めるなんて!!確かに昨日、私は軽口を叩いたけれども…………!

  「はっ、はっ…………んぐっ…………ふ、ん゛っ…………ぉ゛…………ッ♡♡♡」

  (臭いッ…………♡♡♡すっごく、汗くっさいぃ…………ッ♡♡♡♡♡)

  滴る大量の汗は、砂地を泥に変えてしまうほど。ぼたぼた垂れる水滴の音が聞こえるほどの至近距離で、グランドは生まれて初めての鍛錬に取り組んでいるのだった。

  「それに……昨日のお前の言葉が、どうにも心残りでな……ふぅーーッ…………お前の気持ちに、ちゃんと寄り添えているのかと……少しッ、不安になったんだ。」

  800キロ、あるいは1トンの巨体を支える丸太のような四肢。自重トレーニングと呼ぶにはあまりにも高負荷な腕立て伏せは、けれどフルフィンを圧倒的に凌駕するペースで行われていた。

  「随分とイイ汗をかいたもんだ……運動を目的に走るなんざ生まれてこの方初めてだったが、中々悪くない気分だな。これからは、俺もお前と共に走るとするか…………」

  「こッ……これからも、かい…………!?♡♡♡あぁッ、いや、いや…………すごく嬉しいよ、グランド…………♡♡♡」

  肘を曲げるたびにモリッと浮き上がる筋肉の塊は、刹那の間にグランドの肉体を彫刻のような美しさに変貌させる。脂肪とのはっきりとした境界、滴る汗の光沢……そして漂う強烈な熱気と臭気は、剣術指南の代わりに行われたランニングの成果物だ。まるで熱された鉄を冷やしたように立ち昇る蒸気は、走り始めて僅か3秒後……それから走り終わった2時間後まで、ただひたすらにフルフィンの五感を釘付けにした。

  「ふぅッ……しかし、まだまだ汗が止まらねぇな……このままじゃお前に俺のニオイが染み込んじまいそうだ。やっぱりやめておくべきか?」

  彼のシャツは、既に衣服とは呼べなくなっていた。川にでも飛び込んだのかと見紛うほどのずぶ濡れは、100%純粋な彼の汗。もはや取り返しがつかないほどのフェロモン臭が、共に育ってきた訓練場を埋め尽くしていた。

  「……ッ♡い、いや、気にしなくていいとも。昨日も言ったけれど、私は君を臭いだなんて思っていないから…………♡♡♡」

  「ほぅ……なら、遠慮なく身体を動かさせてもらうとするかな。ちょうど試してみたかった運動があるんだ……」

  ほんの少し、ほんの少しだけ滲んでしまった欲望は、ものの見事にグランドに掬い上げられてしまった。忘れきれない劣情に喜ぶ暇も、固めたはずの決意を省みる暇もなく……

  「スクワットってのは、随分たっぷり汗をかいちまうらしいからなぁ…………」

  「わ……!?♡♡♡」

  ――ドユンッ♡♡♡グググ…………ドユンッ♡♡♡

  「ぁ…………ぅ、わ、……………………♡♡♡」

  「……ほら、お前も腕立ては終わっただろう?次は腹筋だ、休憩は認めてねぇからな。」

  グランドは、立ち上がった場所から離れたりしなかった。フルフィンの監督を名目としている以上、わざわざ距離を取る必要はないからだ。腕立てをしていたその場所、つまりフルフィンのすぐ隣で、スクワットは行われている……その意味がわかるだろうか?

  「俺ぐらい、腹がデケェとな…………フゥーッ…………腰の筋肉が、重さで悲鳴をあげちまうんだ。」

  仰向けになったフルフィンは、まともに空を眺めることすら許されない。彼の視界は、何もかもグランドの影響下にあった。

  グランドが身体を起こす度、天気が急変したかのように視界に濃い影が落ち、腰をドスンと落としたのなら、視界に覆い被さるように太鼓腹が踊り狂う。炎天下よりも遥かに熱い熱風が、身体を起こして立ち上がる度にマズルの先から足先へ向けて駆け抜けていった。

  「はっ、はっ、はっ………………♡♡♡」

  ……絶景。それしか言葉が浮かばなかった。

  汗に濡れ、こんなにも透けたシャツが、何度も何度も迫り来て……その度に、凄まじく酸っぱい汗の芳香がブワッと駆け抜けて行くのだ。こんなにも代謝が良い身体だというのに、どうしたらこんなにも不健康そうな饐えた香りが立つというのだろう……♡♡♡

  「ふんッ…………ん、お゛ぉ…………中々、太ももにも効くなぁ。毎日繰り返せば、ワイバーンぐらいは蹴りで仕留められそうだ…………」

  深く腰を落とす度にもりゅっと浮き上がるのは、逞しい腿の筋肉だけではない。

  ……巨大な、あまりにも巨大な膨らみ。はっきりと球形の視認できる“重み”が、滝汗に濡れてラテックスのように光り輝く革のパンツを押し上げる。異物を飲み込んだかのような巨大な球体が、眼前にエサをぶら下げるように見せつけられているのだ。

  「……どうした、休むなと言っただろう。」

  「ぁ…………ッ!!もうひわけ…………♡」

  一度ナマで見たからと言って耐性がつくと思うのならば大間違いだ。なまじ中身を知っているからこそ、余計に目線が奪われてしまう……性欲とは、往々にしてそういう物だ。一度知ってしまった味は、2度目が欲しくて堪らなくなってしまう。

  あんな忘れられない夜の味を教えてしまったのは、グランドらしからぬ大きなミスだ。自制心の効く彼にはきっと、その感覚が理解できないのだろうけれど…………

  「ぅわ、でッ………………♡♡♡」

  上体を起こすタイミングを測り損ねた私は、運が良いのか悪いのか、彼が腰を落とすタイミングにズバリ合わさってしまう。

  ブワッと鼻腔を灼熱に追い込んだ汗臭、大大大迫力の太鼓腹、ボルンと窮屈に揺れ動く、雄々しすぎる巨玉…………そんな絶景が鼻先を掠めて後頭部に走り抜ければ、思わず漏れ出る声を我慢することなんてできやしなかった。

  「あぁ……?なんだ、デブとでも言おうとしたのか?んん?」

  「いやッ、違…………!きっ、君も身体が痛んだりするのだね…………♡♡♡」

  「ま、物心ついた頃にはこんな体格だったからなぁ。ロクに鍛えもせずに治癒魔術でその場凌ぎしてきたんだ、そのツケが回ってきたんだろう。」

  (そ……そんなふうに弱みを見せられたって、共感なんてできるものか……ッ♡)

  ――くっっっさいッ♡♡♡とにかく、臭すぎるッ♡♡♡こうして顔に足元が近づくと、大好きなあの香りまでぷんぷんと漂ってきてしまうんだ♡わざわざつけた手甲だって、染み込んだ脂の酸化した酷い香りを漂わせているし…………

  (こんなの、こんなの…………レイプと何が違うのだ…………ッ♡♡♡)

  臭いによる蹂躙。自分もそれを望んでいたのだ、これは和姦でしかない。合意のない和姦、その上肉体の触れ合いはないという、なんとも不思議な時間を過ごす2人は、ただ、黙々と……互いに違うモノに息を切らしながら、粛々と訓練を続けていった。

  「……300。」

  グランドがボソリと呟く。500キロを悠に超える上半身の上下運動を300回も繰り返しても、彼はなんの達成感も覚えてはいないようだ。ただ弟子を鍛えるついでの、『お試し』の運動が終わっただけ。そんな冷ややかな息を吐くグランドは、フルフィンの現状をどう見るのだろう。

  「――ひぐッ♡♡♡んん゛ッ、ふぅーッ♡♡♡ふぅーーーッ♡♡♡」

  腹筋が……毎日繰り返す運動が、終わらない……お腹に、力が、はいらない………………♡♡♡

  「……フルフィン君。今日はもう少しだけ教えることがある。居残りに付き合いなさい。」

  「ハァ、ハァ…………♡♡♡も、申し訳ありませんッ、先生…………♡♡♡すぐに、おわらせまひゅからぁ………………♡♡♡」

  「いや、もういい。そこで終わりで構わない。」

  「……!?わ、わかりました…………」

  あの鬼教官なグランドが、リタイアを認めるなんて……

  これが優しさではないことを、フルフィンは肌で感じ取っていた。

  「それで、その…………一体何を学ぶのでしょうか。」

  そもそも補講など初めてのこと。昨日心の中で思い描いた妄想が、まさか実現するなんて……♡

  そうしてフルフィンはひっそりと頬を緩めるのだ。そんな浅ましい考えに耽る自分の愚かさは、すぐに諌められるとも知らずに。

  「――復習だ。大切な学びを、もう一度思い出してもらう必要があるからな。」

  「ッ゛……!!そ、れは………………」

  ……やはり昨日のことを見て見ぬふりは出来なかったのだろう。それでもあくまで復習の体裁をとってくれたのは、優しいグランドのくれた最後のチャンスといったところだろうか。

  私のせいでグランドは幻滅し、それ以上に苦悩させてしまったのだろう。彼が目を合わせてくれないなんて、初めての事なのだから。

  「……さ、部屋へ向かおうか。子作りの手ほどきに、青空は爽やか過ぎるからな…………」

  「こッ…………!?」

  私の不純へのバツは、実に過酷な試練となるのだった。

  [newpage]

  ==========

  「せ……先生……その、居残りは構わないのですが……何故私の部屋なのでしょう?」

  授業と聞いて、私はいつもの教室へ向かおうとした。けれど、グランドが指し示したのは私の寝室だったのだ。

  あんなに『ニオイが取れなくなる』と気遣ってくれたグランドは、鍛錬後の汗だくなままで…………

  (く…………くっっっっさ…………ッ♡♡♡こんなの、本当に二度とニオイが取れなくなるっ♡♡♡私の部屋が……私が、グランドで染まってしまう…………♡♡♡)

  いつものグランドなら、たとえ気まぐれでもここを選んだりはしなかっただろう。私への配慮が深いことは、この8年が証明してくれているのだから。

  今席についている枕元の小さな卓は、あくまで本を読むための場所なのだ。勉学に励むにしては些か窮屈に思えるが……

  「なぁに、簡単な話だ。オトナ向けの性教育をするんだぞ……ベッドがなけりゃ始まらないだろう。」

  「――――ッ゛!!!??♡♡♡」

  グランドが求めた『励む』場所は、ここにしかないのだ。

  彼の講義は、実践に富む……自分でそのように総評した言葉が間違いでないのなら、今から行われることは――――

  「実際に子を作るとなれば、あんな教材のつまらない知識だけでは恥をかくこともあるからな。リードにムード作り、相手の悦ばせ方……そういった『実践』で必要な性知識を、俺が手ずから君に教えよう。」

  「じっ……!?ぁ、♡はっ、はい、先生…………♡♡♡」

  グランドの意図はわからない。これが私への赦しなのか、はたまたすっぱり諦めさせるための再教育なのか……いずれにせよ、今この瞬間に、私の人生は如何様にか変わっていくことだろう。

  「それでは……まずは相手の誘い方から学んで行こうか。」

  フルフィンの心を浮き足立たせたまま、グランドはいつも通りの仏頂面を貫く。

  さあ、秘密講義の幕開けだ。

  「例えば君に好意を持つ雌が居るとしよう。けれど、君と彼女は立場のある者同士であり、公然と好意を伝えることは難しい……そんな時、彼女はとある方法で君に好意を伝えてみせた。それは一体どのような方法だと考える?」

  仮定を用いた問答は、グランドが良く行う形式の講義だ。世界は私の知らない『もしも』に満ちていて、グランドはその長い旅路の中でそれを経験してきている。その生きた知識に、思考能力だけでどこまで近づけるのか……それを鍛えることにより、如何なる事態にも即興で対応する柔軟な思考を育むのが彼のスタイルなのだ。

  「ええと……文通、ですか?予め想いを込めておけば、顔を見合わせて言葉を伝えずとも、想いは十分に伝わるかと……」

  回答は10秒以内……どんなにお粗末な思考でも必ず口に出せと鍛えられてきたからか、今では私の瞬発力も中々のものだと胸を張って言える。さあ、今回の評定は……

  「ほぉ、流石だフルフィン君。百点満点の回答だな……お堅い名家の跡取りとしては。」

  「お、お堅い……?しかし、先生。人の目と耳のある中で、慎ましく想いを伝えるには、それが最も確実ではないでしょうか……?」

  なによりも、私はそう教わってきたのだ。他ならぬ、グランドの口から。

  名家の跡継ぎ探しには、遊び心に心を躍らせる必要などない。ただただ美しい文字を認め、袖の内に滑り込ませよ――と、そのように。

  「それだ。その、『確実』という考えがいけない。そこに貴族としての傲慢さが滲んでいるのだ。相手は魔道具などではなく、1人の人間なのだ。楽しませる、悦ばせる、そんな奉仕精神無くして、真に永遠を誓えるはずがないんだ。」

  「う……た、確かに……では、先生。最も相手を喜ばせる為に、彼女はどのような手を打ったのでしょうか?」

  先生の指摘はいつだって的を射ている。その度に私は感服し、新たな解釈を求めて教えを乞うのだが……

  「……ニオイだ。彼女は、そのスラリと伸びたマズルから、君のニオイを漂わせた。」

  「にッ、ニオイ、ですか……それは一体、どのような……」

  ビクリ。思い当たる節のありすぎるシチュエーションに、私は思わず深掘りしてしまったのだ。口をつぐんでしまえば、恐らく彼が抱いているであろう疑念にかえって拍車をかけてしまうと、そう咄嗟に考えたからだ。

  けれどそんな私の浅知恵など、とっくに用無しになっていて……

  「そうだな……例えば、足のニオイなどどうだろう?」

  「ッ…………!!」

  グランドは気がついてしまったんだ。あの時の私の、マズルにこびりつかせた足のニオイに。

  心臓がバクンと爆発しそうになる。まるでミステリ小説の犯人が、自分の罪を探偵に暴かれているかのような気分だ。

  「自らのフェロモンのうち最も強烈な足裏のニオイで、その美しい毛並みを雄臭に塗れさせていたのなら……君はどう感じる?」

  「かっ、彼女は私に惚れていると、そう考えるかもしれません……」

  「そうだろうな。自らのカラダで最も清潔であるべき顔に、君のカラダで最も汚らわしいニオイを喜んで擦り付けているとくれば、君はその事にひどく劣情を催すはずだ……俺と、同じようにな。」

  「先生と、同じように…………♡」

  「あぁ、そうだ。もしもそんなメスが居たのなら、例えどこの誰だろうと……釣り合わない身分だろうとも、俺は決して逃しはしないだろうな。必ず巣まで持ち帰って、お望み通りに子を孕むまで精を注いでやる。もう入らないと弱音を吐こうと、何度も何度もな……」

  グランドは顔色一つ変えない。口調も、声色も、いつもの講義と一緒なのに。なのにどうして、こんなにも艶めかしく感じてしまうのだ。

  「はっ、はっ…………♡」

  むわっ…………♡

  ずいっとグランドが身体を寄せれば、ポンと肩に添えられた手から、籠手に蒸された酸味たっぷりの脂臭がぶわっと漂った。体表をなぞる無骨な指は今なお汗に塗れていて、そんな身体が酷く臭うことはグランドも十分に理解しているはずだろう。それをわざわざ、香水をつけるのに適するような首元に擦り付けたのだ。それが恣意的であることなど、いくらニオイで頭がいっぱいのフルフィンであろうと簡単に理解できた。

  「……なぁに、もしもの話だ。俺の足臭なんざ、臭すぎて誰もマズルに塗りたくれやしないだろう。何よりも、そんな強烈なニオイは誰でも気がついてしまうからなぁ…………?」

  「あ……ぅ♡そ、それっ、は…………確かに、そうかもしれませんね…………」

  ……思い当たる節がありすぎる。焦らすように核心をなぞるグランドの意図が分からなくて、何を祈れば、どんな結末を迎えれば最善なのかも分からないが……少なくとも、グランドは私の顔についた彼の足臭に気がついてしまったんだ。それが今なのか、昨日なのか、あるいはもっと前なのか……それは分からないけれど。それを知りながら、グランドは知らないフリをする。

  「……さ、続きを論じよう。君は元気な子を産まなければいけないんだからな……」

  グランドは生殺しにするつもりなのだ。フルフィンが自分のニオイの虜であると気がついておきながら、ただひたすらに雄臭を嗅がせ続けて……彼の股間に張るテントに、この慧眼の勇士が気がついていないはずがないのに。

  蒸した体温が頬をなぞり、脊髄を伝って腰に広がる。背中に身体で触れたまま、肩に手を回したまま……そんなアブナイ雰囲気のまま、グランドは叙情的に“彼女”とやらとの逢瀬を吟じていった。

  「そうして君は彼女の好意を感じ取ることができたわけだ。勇気ある彼女の告白を受けた君は、雄らしく堂々と彼女を家に招くことができた。そうして家長と挨拶を交わし、晩に祝いの食卓を囲んだ後、普段は甲斐甲斐しい従者たちも今夜だけは世話を焼こうとはしないだろう。……君たちがどんな夜を過ごすのか、聞き耳だけは立てているだろうがな。」

  語り部のように滑らかな口調で言葉を紡げば、それはまるでおとぎ話のよう。けれどもこれは『男』が『雄』になるための性教育。その晩に交わされた肉体のやり取りにこそ、フルフィンが学ぶべき知識が散りばめられているのだ。だから、この続きは……とても幼子に読み聞かせられない生々しい肉体の交わりは、三角耳のすぐそばで紡がれなければならないのだ。

  「さあ、いよいよ迎えた初夜だ。貴族として、それ以上に雄として、不甲斐ない格好は見せてはいけないぞ。かつて君に授けた知識では、ただペニスを秘部に突き入れれば良いと教えたはずだが……実のところ、現実はそうもいかないんだ。」

  そして、生きた知識を『実践』によって授けられるのがグランド流とくれば、それは今この瞬間も例外ではない。……なに、さしたる問題はないはずだ。2人は雄同士であり、高潔な血筋の箱入り息子が雄臭い身体に劣情を催すはずはなく……

  「――今から君に、メスの快楽を教えよう。『仮に』君をメスだとした時、腰砕けになるような性感帯の弄り方をな。」

  「……へっ?」

  ……刺激を知らないはずの突起に触れられて、甲高い嬌声をあげるはずがないのだから。

  「さぁ、まずは乳首だ。上手く刺激してやれば、淡い快感を全身に迸らせてくれるだろう。本来ならば潤滑剤が必要なんだが……これだけ汗ばんだ君の肌ならば、直接触れても傷つけずに済みそうだな。」

  汗ばんでいるのは自分の方なのに……グランドは、明らかに自分の現状に見て見ぬふりをしていた。

  クラクラと茹る脳では、焦らすような緩慢なグランドの腕の動きにすら追いつけやしない。それほどに、彼の体臭は濃厚すぎた。

  「あっ、グランドッ!まっ、ダメだ、そこは――――」

  背もたれの両側から脇の下へと差し込まれた指先は、汗に濡れて吸いつく肌着をぴらりとめくり上げ……とっくに『秘部』に育っていたフルフィンの突起を、容赦なく摘み上げた。

  「あぅぅッ!?♡♡♡わぅっ、ぅ゛んんッ!!♡♡♡」

  「……おぉ?妙だな……狼族ってのは、生まれつきこんなに乳首が大きいんだったか?お陰で摘みやすくて、実演するのにピッタリだ。どうだフルフィン君、ゴツゴツしている指の割に、実に繊細に撫で上げられているだろう?」

  散々自分でいじめ倒してきた乳首は、今ではすっかりメスの象徴として花開いている。

  ある日疼き出して以来、何年も弄り続けたメスの萌芽。弄ってほしいと恋焦がれながら身を捩っていた桃色は、重ねに重ねた妄想のその張本人に弄られているのだ。

  図鑑よりも硬い皮膚が、想像よりも繊細に、妄想よりもねちっこく……蒸れに蒸れた雄臭を纏い、鍛え上げた身体の数少ない弱点を陥落せしめんと、実にねちっこく、いやらしく指を弾けさせる。

  「誇り高き狼族の末裔たる君は、まさか乳首で感じるはずもないだろうが……こうして辛抱強く愛撫すれば、ねちっこい指先にメスは今頃愛液を溢れさせているだろうな。」

  くりくりっ♡♡♡ぐりんっ、ぐりんっ…………ピンッ!!♡♡♡

  「――ぁぐぅぅぅッ♡♡♡♡ふぎっ、んぃ゛ぃ……ッ!!♡♡♡はぅッ♡♡♡くぅん…………ッ♡♡♡」

  熟達した指捌きの前では、もはや『感じていない』と体裁を取り繕うことすらできやしない。それ以上に、むしろフルフィンは自分の痴態を見てほしいのだ。自分がどれだけ貴方に喰われたがっているのか、どれだけ出来上がっているのかを、想い人に分かって貰いたくて。

  「……効くだろう、俺のフェロモンは。未開発な『ハズ』の君の乳首も、瞬く間にコリコリの肉柱に変わってしまったからなぁ。」

  それが功を奏してか、たった今グランドの化けの皮は一枚剥がれ落ちた。自分が意図的に体臭を嗅がせているのだと、そう宣言したのだ。

  そんなことはフルフィンにだってとっくに分かっていた。けれど彼自身の口から出たその言葉は、フルフィンにとっての赦しに他ならないのだ。

  「ん゛ひッ♡♡♡あっ、それっ、ダメぇッ……♡♡♡グランドッ、ぐらんどぉ……お゛ッ、臭ッさ♡♡♡くさっ、くさっ…………ん゛ぅぅ〜〜〜〜ッ゛!!!♡♡♡」

  『お前は俺のニオイに狂ってみせて良いのだ』――

  甘い甘い赦しの蜜に誘われて、フルフィンはとうとうグランド本人の前で臭いアクメをキメてしまう。

  『流れ冒険者と発情期の狼獣人』、そんな偽りの役柄で言い訳することなど、今この時にはできやしないというのに。

  「さあ、メスから甘い声が漏れたら次のステップへの合図だ。弄る箇所は変わらず、弄る方法を変えるんだ。より刺激が強まるように……例えば、こんな風にな。」

  目を見開いたフルフィンの鼻先に、グランドの野太い鼻がうねうねと揺れる。そうしてそのまま、グランドが前傾するのに合わせるように、鼻先は首元を撫でながら下って行き……

  「――――あ゛ぐぅッ゛!?♡♡♡」

  チュポッ……ヂュゥゥゥゥッ゛!!♡♡♡

  「あ゛ぁッ゛!?♡♡♡せ、せんせッ、私には、そんな鼻はありませんッ…………!!だからっ、吸って見せられたところでへぇっ!?♡♡♡」

  ぷっくりと毛並みの中で主張する桃色の突起は、シワの深い肉筒に目をつけられて瞬く間に丸呑みだ。片側は肉厚の舌で舐め上げられて、もう片方は鼻に吸われて……艶かしい肉のボリュームに押しつぶされるようにして、突起はあっという間にぬらぬらとした粘液に塗れていった。

  「だが、俺は持っている……つまりだな、他の雄たちは君に持ち得ない武器を持っていることもあるということだ。それを超える魅力を身につけるためには、身に染みて理解する必要があるだろう?そうは思わないかね、フルフィン君……」

  それが詭弁であることなど、火を見るよりも明らかだった。

  けれど、フルフィンは逆らえない。部屋を一瞬で厩舎のような芳しさに包んだ芳香が、背後から、首元から、胸元からもこんなにもプンプンと漂ってくるのだ。乳首の蕩けるような快楽以上に抗いがたい、強烈すぎる雄フェロモンの誘惑……そんな強引な発情薬に、フルフィンの意識は瞬く間にニオイに占領されてしまう。

  (あ゛ッ、へぇ゛ッ゛…………♡♡♡くっっっさ………………ッ♡♡♡くさすぎっ♡♡♡臭すぎるぞグランドぉ…………ッ♡♡♡これ、以上はぁ……わらひが、こわれてしまうぅ…………♡♡♡♡♡)

  背中をググッと押しつぶす、ビチョビチョに濡れた胸元の感触。腰を弾き飛ばすような、筋肉と脂肪で弾力たっぷりな太鼓腹。超重量の鎧に蒸された、強烈に酸っぱい体臭……そんな雄々しさの暴力にあらゆる感覚を完封されて、自分の手では味わえなかったホンモノ快楽を教え込まれて。フルフィンは、それに『NO』を突き返せるほど良い子には育てなかったのだ。

  「あひッ……♡♡♡は、へ…………♡♡♡わかり、まひた…………♡私のカラダに、みっちり教えてくらはい…………♡」

  この講義はもはや、初夜に恥をかかないための性教育などではない。焦らす雄と食われたい雌、2人によるただの情欲の煽りあいだ。

  けれどもグランドの圧倒的優位はもはや揺るぎなかった。『問題』と称したグランドの責めは、彼の思うがままなのだから。

  「……いいだろう。みっちりと、骨の髄まで染み込むように、時間をたっぷりかけてやる。」

  学習意欲に満ちた生徒には、適切なカリキュラムを与えてやらなくては。それが多少、いや多大に刺激の強い内容であろうとも、彼がそれを求めていて、自分にそれを教えてやれるだけの能力があるのだから…………

  「さあ、第二問だ。ここからは、もっと刺激的だぞ?」

  指を振り、指揮するように……机に置かれた一枚の紙に、遠隔で青白い文字が刻まれていった。それが空想と仮定の終わりを告げる合図だったとは、フルフィンは知る由もなかった。

  「――――ッ゛ッ゛ッ゛!!??!!?♡♡♡」

  『雄同士でのセックスでは、メスのマンコの代替となる別の穴でチンポをシゴきあげる。それはどの穴か、実際に示して見せよ。』

  「せっ、先生……こ、これは…………」

  『子を作るため』の性教育……そんな大義名分すら、たったの一問でかなぐり捨てられていた。

  「……俺たちは雄なんだ、交尾の仕方を教えてやるならこうするしかあるまい。」

  ホモセックスの手解きなど、名家の1人息子には到底必要のないはずの知識だ。それをこんな下品な言葉遣いで問うなど、明らかに……

  「不正解なら今日はそこまで、正解なら『補足講義』だ。……その意味が分かるか?」

  「は……はい、先生………………♡♡♡」

  狙われている。グランドに、私の秘部が…………♡

  『男』が『雄』になるための性教育だと、そう考えていた。今もギチギチとテントを張る、私のペニスの使い方を教わるのだと。

  ……けれど、そうではなかったのだ。グランドが教えてくれたのは、『自分のとった行動が、いかにグランドという雄を余裕のないケダモノに変えてしまうのか』……身体以上に器の大きなグランドを、いかに煽って切羽詰まらせたのか。その罪状であった。

  「……尾を揺らすなと何度言ったら分かるんだ?一体何がそんなに嬉しいのか、俺にはとんと見当もつかねぇなぁ……?」

  グランドはとぼける。これまで受けた挑発の意趣返しをするように。そうして焦らされる感覚は、身を捩らずにはいられない程にもどかしく……これが授業であることなど、すっかり忘れてしまっていた。

  「さあ、もう何十秒と過ぎているぞ。回答を急がないのなら、『解説』はお預けにしてしまうからな……?」

  もしも間違っていたのなら、などと思ってもいない言い訳を自分に向けて言い聞かせた。けれど自分の淫らな本性は、『それでもグランドに見てほしい』だなどと宣うんだ。ずっと勃ち上がりっぱなしのチンポも、こんなにも期待に震えているけれど…………

  「あっ…………!!ぅ……いや、でも………………ッ゛!!♡♡♡」

  「……もし間違っていたとしても、じっくり考慮してやるとも。だから、ほうら……恥ずかしがらずに答えてみるんだ…………」

  「はぅ………………♡」

  ぐい、と更に抱き寄せられて、むっちりと密着するグランドの身体。背中から漂う熱気は、唇を温めるほどに蒸しあがっていて。そんな強烈な後押しに、僅かに残った羞恥心は粉々に打ち砕かれた。

  「こっ……ここ、です…………ッ♡♡♡強い雄に屈服した弱い雄は、尻穴がひどく疼いてしまう……そう、耳にしたことがあります……♡♡♡」

  もっともっととせがむ身体を無理矢理に前傾させると、上半身を机に預けて……ショートパンツをずり下ろし、焦る指先で下着を脱いで、差し出すように、見せつけるように……両手で尻を割り開いた。

  数えるのも億劫なほどに身をもって感じたメスの疼きを、聞き齧ったと嘯いて。

  「……正解だ。強い雄のフェロモンに負かされた雄は、ケツマンコでメス穴の代わりをするのが野生の世界だ。使われたくてしょうがねぇメスは、自分で自分のケツを開いて雄におねだりするのが最低限の礼儀……教えた覚えは無いんだが、いったいどこで学んで来たんだろうな?」

  バチンッ……ぐいっ、ぐいっ…………♡

  無骨なグランド手のひらが、ついでのようにフルフィンの双丘を叩き上げる。そうして狼の両手を追いやると、象の太指は瑞々しい若狼の尻肉を躊躇なく揉みしだいた。まるで職人が出来の良い完成品を可愛がるような、荒々しくも愛のこもった指捌き。決して優しくない力で手を置かれ、突然の痛みに縮み上がっていた尻肉は、そのいやらしい手つきの前に蕩けるように弛緩した。

  「あひッ゛……♡♡♡あッ、すみ、ま…………んぅぅッ!♡♡♡」

  「責めているんじゃない、『実にうまそうだ』と褒めているんだ……君も、君の尻穴も。」

  「はっ、はっ……♡♡♡ぅあ、ありがとう、ございます…………♡♡♡」

  パンッと尻を叩かれて、秘部を淫乱だと褒められて……それで喉から飛び出すのが嬌声なのでは、もう挽回のしようもないだろう。けれどもグランドは、あくまでも『教師と生徒』の授業の体を貫くようだ。時間外では呼ばない君付けの呼び名が、あくまでその最後の一線を引いていることを主張しているようだが……

  明らかにそういうプレイではないか、などと口にするのは野暮というモノだ。淫らな講義は、まだまだ序章に過ぎないのだから。

  「……実に下品な穴だ。拳大にぽっかりと解れて、スライムのような潤滑液を垂らして……いつでも巨大な雄を受け入れられるように、よく拡げられていやがる。講義の予定を伝えた覚えは無いが、予習はバッチリ済ませていたようだな。まさか常日頃からこんなに拡がっているなど、そんなハズはないだろうからなぁ……?」

  頭隠して尻隠さずのこんな恥ずかしい格好では、自分の淫売さを言葉にされてカァっと頬を紅潮させても、それをグランドに見られることはない。だが、それに何の意味があるというのか。自分が尻穴を弄くり回すメス犬であること、その1番の証拠が今も破り開かれているのというのに。

  「まったく……実に、いやらしい穴だ…………少し強引に捻じ込めば、俺のブツすら咥え込めそうじゃないか。……あぁ、すまん。君には関係のない話だったな。俺の勝手な妄想だ、気にするな。」

  「あ……ぅ…………♡そ、そう、なんですね…………♡」

  フルフィンがこれほどまでに尻穴を蕩けさせているのは、当然ながら生まれついてのモノなどではない。彼は手製の張り型を何年も前から使用しているのだ。狼族は手先が器用で工芸に長ける……そんな連綿と受け継がれてきた血筋の才能を、彼は自分の尻穴を虐めるために発揮していたのだ。

  数年前に最初の一本を作り上げ、それから次第に太く、長く、何度も段階を重ねて、遂には自身の拳大ほどのディルドにすら手を出して、当然のように咥え込んでいた。今はまだ、勇気が出ずに眠らせているけれど……枕元のキャビネットの奥には、『目標』がひっそりとしまい込まれている。グランドのパンツに刻まれていた、一等色の濃い円形のシミとそっくりなサイズの、手製の特大ディルドが。

  (あ……ああッ…………グランドに、すべて知られてしまった…………♡♡♡)

  フルフィンに拡張趣味があるわけではない。彼はただ、グランドを想う気持ちのままに偽物に跨り続けたのだ。彼はきっと、こんなモノより遥かに雄々しく、硬い……そんな心躍る妄想に、何日も腰を振り続けて。

  なんという師<おや>不孝で、なんという雄<おや>孝行だろう。その結果得られた肉穴は、完全に性器として花開いていた。教え子の淫らな穴に、次なる指示を出すグランドは僅かに目元を緩ませる。

  「……さ、座りなさい。椅子を横に向けて、片膝を座面に乗せるんだ。私によく見えるように、しっかりと突き出しなさい。」

  「ぁッ……♡はい、先生…………♡♡♡」

  お誂え向きに供された肉壺の、とろり蕩けた淫らな香り。こんなに雄臭い自分のそばでもふわりと主張するメスの香りは、野生の本能に刻まれた繁殖欲に裸で抱きつくようなもの。こうして見せかけだけでも理性的に振る舞えるグランドの、いかに器量の大きいことか。

  むくりとズボンを押し上げ始めた円形のナニカが、ひっそりと本能をむき出しにしていた。

  「ふぅーッ…………それで良い。さあ、次の問題だ。先日授けたばかりの知識だ、万が一にも間違えてはいけないぞ。」

  設問、もとい初期設定は終わりだ。

  こんな体勢で出される問いが、真っ当な知識を問う問題のはずがない……フルフィンはそれを理解しながら、いや理解しているからこそ、次の文字列が待ち遠しくて仕方がなかった。

  グランドが右手人差し指を宙に浮かべて虚空をなぞると、フルフィンの前に置かれた『問題用紙』に新たな問いが浮かび上がる。

  それはフルフィンがあわよくばと願っていた、何よりも淫らな設問だった。

  『人体のうち、最も獣除けに最適なニオイはどの部位か。正しい部位に口付けせよ。』

  「ぁ――――――――♡♡♡」

  達筆な自筆と遜色なく、芸術的な美しさをもって浮かび上がったその文字列は、しかし幾許かインクのにじみを生じさせていた。それはさながら、グランドの内奥をジュクジュクとかき混ぜる獣欲の滾りに煽られるように。

  「口、付け………………♡♡♡」

  「……ああ。回答が決まったら、俺の身体にキスをするんだ。自分が正解だと思う、獣どもすら嫌がるニオイにな……」

  ……確かにこれは、野営知識を教わる中でいの一番に授かった知識だ。けれどこれは、この知識は……決して性教育などではないはずだ。

  もしもコレが……彼の最も臭い立つ部位に口付けする事が、性教育の一環ならば。彼の情欲をかき立てたことの、反省になるのなら。それは、つまり。

  (グランド……君は、私に、嗅がれたがって――――――♡♡♡)

  [newpage]

  ――ドガァッッ!!

  「はッ………………!?♡♡♡」

  「さて、どこが1番クセェんだったかなぁ?実に初歩的な問題だ、誤答は厳禁だぞ。」

  轟音を立てた机に、フルフィンの頭より大きな塊が2つ……

  ベッドをひしゃげさせた特大の尻を持ち上げて両脚を投げ出すと、グランドの両腿は前傾するフルフィンの両肩の上を跨いで、首元をガッチリと押さえつけたのだった。

  「ぅ、ぁ……重……ッ♡♡♡」

  ただ両脚の体重をかけられただけで、こんなにも組み伏せられてしまうなんて……♡

  1匹の雄として抱くべき無力感や屈辱感など、今のフルフィンにあるはずがない。生物としての造りの違い、雄としての格の違い……覆しようのない才能に踏み潰されるこの時が、どんな祝い事よりもずっと嬉しくてたまらないのだ。

  (私という存在の全てより、彼の脚の方がずっと……重く、貴いではないか…………♡)

  机に顎を押し付けられて、まっすぐ伸ばされた首の先には視界を遮る巨影が2つ。見上げるソレが愛してやまないアレなのだと、嗅覚だけで分かってしまう。

  ――口付けしたい。そんな思いが込み上げたのは、ただ彼の性的嗜好が故であり、出された問いのことなどとっくに頭から抜け落ちていた。だって、頭がいっぱいなのだ。ベルトの締められた革のブーツからわずかに漏れ出るニオイだけで、世界からグランド以外の全てが消え去ってしまうほどに。

  愛を伝えたい。ただその一心で、彼は重たい両脚を背負いながら這いずって……

  「ん…………ッ♡♡♡」

  足の甲へのキッスは、自ら屈服を示すものだ。いくら武術と学術の師であれ、市井からすればグランドはただの使用人でしかないというのに、そんな男の使い込まれたブーツに口付けする姿など名家の跡取りが見せて良いはずがない。

  だというのに、駆け巡るのは圧倒的な充足感……もちろん足フェチなニオイフェチとしての欲が満たされる快感もある。

  けれど、ああ……何より満たされるのは、長年抱いてきた好意を包み隠さず伝えられているという事実だ。耳を跳ねさせ、尻尾を振って、この瞬間が幸福なのだと行為で伝えられることが、何よりも……

  「先生……んちゅっ……これが、わらひの答えれす…………♡♡♡」

  双眸を蕩けさせ、振り返りざまに流し目でグランドを見つめて。拙いリップ音を立てながら、大切に育てられた新芽は踏み躙られるのを心待ちにしていた。師に倣い、先生と生徒の虚構を崩さず……いじらしく、行動で伝えるのだ。

  『どうか私に興奮してくれないか』――伝わってくれと密かに込めた想いは、けれど無惨に掃き捨てられてしまうとも知らずに。

  「ほぉ。つまり、君の答えは『靴の甲』ということか?……もしも『足裏』と答えたいのなら、少なくともブーツぐらいは脱がして答えるべきだと俺は思うが…………どうなんだ?」

  「――――ッ゛ッ゛ッ゛!!??♡♡♡」

  ……あぁ、グランド。やめてくれ、そんな返しをされてしまっては、私の恥じらいなどなんの意味も為さないではないか…………♡♡♡

  「さあ、もう一度だ。君は、どこにキスするべきかな?」

  つくづく年長者は敬うべきだ。その経験も、老獪さも、何もかも……こんな青臭い自分など、遥かに上回る雄臭さなのだから…………♡♡♡

  「はっ、はっ、はっ………………ッ!!!」

  明確なお誘いの言葉は、もはや問題としての体裁すら取り繕う必要もないらしい。フルフィンは、歓喜に震える両手を、愛してやまないグランドの足元へと伸ばし………………

  「――――――――――――ぉ゛♡♡♡♡♡」

  きつく締められたベルトを外し、重厚な皮のブーツを一思いにはぎ取った。

  ――――ぶっっっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!

  「――――お゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!??♡♡♡がッ、あは、ぁひぇ゛ッ゛♡♡♡ん゛ぉ゛ごッ♡♡♡ぐざッ゛♡♡♡ぐっっっっっざぁ゛ッ゛♡♡♡」

  フルフィンの寝室は、その瞬間に家畜小屋以下の廃屋と化した。

  超高温の体温に蒸され、発酵したような強烈なブーツ内の臭気は爆発的に部屋を蒸し風呂に変えてしまう。極悪な発酵蒸気に視界をぐらりと揺らされれば、激臭フェチの狼の全身に悍ましいほどの幸福感が駆け抜けた。

  (なんなのだ、これは……コソ泥で得た乾いた靴下など、まるで比較にもならないではないか…………♡♡♡)

  思考は止まり、身体の自由はニオイによって縫い留められる。不随意的に動く身体機能だけが働いて、フルフィンは自分自身の生存本能に臭い責めを強要されていた。自分勝手に動く鼻腔は一体何を目当てに気体を取り込んでいるのだろう?それすらもわからないけれど、確かなことがたった一つ。

  (――すき♡すきっ、すきっ、すきすきすき………………♡♡♡もっと、もっと嗅がせてくれ♡♡♡どうか、どうか……どこにもいかないでくれ…………♡♡♡)

  この時間が、いつまでも続いたらいいのに――

  グランドへの恋慕でいっぱいの頭は、自分が絶頂していることすら気づけない程に使い物にならなくなっていた。

  「お゛ぉッ……!相変わらず酷ぇニオイだ。確かにこんなクセェ足なら、原生生物も寄りつかねぇかもしれねぇが……しかし、残念だなぁ。いくら優秀な教え子とはいえ、こーんな激臭にキスなんて出来るはずがねぇか。」

  答えなど、グランドが一番よく分かっているはずなのに。白々しく、まるで共に答えに悩むようなそぶりを見せながら、今度は画期的な提案かのようにキスを要求してみせるのだ。自分が今からしようとしていることがどれだけ変態的なのか、執拗に突きつけるかのように。

  「もし、仮に出来るとすりゃあ……そいつぁ紛れもなく、発情しきったメス犬なんだからよ。」

  「あ゛ぎぃッ゛………………!?♡♡♡ぉ゛ッ゛、へぇ゛ッ゛…………!!♡♡♡わたひは…………わらひ、はぁ………………♡♡♡」

  そんな据え膳を拵えられてしまっては、蕩けた脳が首を向けるのはただ一点だけ……机の上に投げ出された、グランドの両足裏の間だ。

  モゾモゾと動いて挑発する両の足指は、その量の親指の間に狼のマズルがちょうど収まるだけの隙間を開けていた。それはさながら、誰かこの隙間を埋めてくれないかと、わざとらしく誘うように…………

  ……ヌヂィィィッ…………♡♡♡

  「ん…………んちゅッ♡♡♡がぁッ゛、あ゛、へぇ゛ッ゛…………♡♡♡くさっ゛♡くっっっっさぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ…………♡♡♡くさいぃ…………ッ゛♡♡♡いちばんくっさくてぇ、けものすらかてないのはぁ、このっ、このぉ……くっさいあしのニオイれすぅ…………ッ♡♡♡」

  涙が、鼻水が止まらない。だって、あまりにも粘っこくて、あまりにも発酵してて、あまりにも、臭すぎる…………ッ♡♡♡♡♡

  「んぅッ゛♡♡♡……んちゅッ♡♡ムチュッ♡♡♡スゥゥゥゥゥッ…………お゛ほぉ゛ッ゛!!?!♡♡♡あ゛、へぁッ゛、わぅッ♡♡♡くぅぅぅん…………♡♡♡」

  冒険者に相応しい装備とは、即ちひたすらに丈夫な装備だ。つまるところ、防臭性などという余計な機能は皆無であり、分厚く頑丈な生地では吸湿性も最悪だ。それがこんな野獣の、その中でも最も品位の低い足裏を覆っていたとあれば、当然このような大惨事にもなろう。

  「すんすんッ♡♡♡スンスンスンスンッ♡♡♡♡スゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ………………お゛ッ゛………………………………!!!♡♡♡♡♡」

  どんな魔獣の、どんな分泌液よりも強烈。脳天を貫く強烈な発酵臭を前に、フルフィンは全ての知性を手放して鼻を嗅ぎ鳴らした。嬌声をあげることすら無駄と排してしまうほどに、ひたすらに鼻だけを動かして。

  本能的に遠ざかろうとするマズルを強固な意思で擦り付ければ、薄く引き伸ばされた布地からは、ジワァッ…………♡と足汗が滲み出る。それは浴場の湯よりも熱く、石鹸水よりも粘ついて、夕暮れに駆け込む雄達の誰よりも強烈で……獣人<ヒト>であれば拒まなければならない激臭は、生まれの品格の全てを投げ捨てたフルフィンだけが嗅ぎ漁れる専用のムスクだ。くんくん、すんすん、すりすりとニオイにマズルを染め上げて、揺れる尻尾は先生からのお褒めの言葉を待ち侘びた。

  「……正解だ。前にも教えた通り、どこが1番クセェかなんざ人によるとしか言えねぇ。……そして、そのクッセぇニオイを前にして、どうしたいと思うのかもな。」

  夕暮れを過ぎた外の世界が、窓を鏡に変えていた。涙が滲む目にぼんやりと映ったグランドは、いつも以上に鼻をゆらゆらと揺らしている。

  「ど……どう、したぃ………………?♡♡♡」

  「悪臭を撒き散らしたつもりでも、逆にそれに寄りつく獣もいるってこった……こんな具合にな。」

  グググ…………ッ♡♡♡

  フルフィンの視界が開けたのは、グランドが足指を開いたからに他ならない。鼻先を覆っていた悪臭の源泉、その中でも更に純度の高い足指の間は、当然のように鼻先を摘み上げて…………!

  ――ぶっっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ッ!!!!♡♡♡

  視界が爆ぜる直前、蕩けた自分のだらしない表情が見えた。

  「ッ゛ッ゛――――!!!!!あ゛ぁ゛ッ゛!!??♡♡♡ぐっ゛っ゛っ゛さ゛ぁ゛ッ゛ッ゛………………!!♡♡♡♡♡あ゛へッ゛、お゛ッ゛…………ほぉ゛ッ゛♡♡♡ダメ、ダメダメダメェ…………ッ゛♡♡♡ゆび、はひゃむのぉ、らめ…………ぇッ゛!!♡♡♡♡」

  気軽に繰り出されたニオイ責めは、人生崩壊級の一撃だ。他の何の不純物も加えずただただ倍増された足臭は、粘つく足汗にニオイを込めてぬりぬりと鼻腔へとマーキングされてしまった。いくら鼻先数ミリとはいえ、先ほどまでは漂う臭気を嗅いでいただけであんな痴態を晒していたのに……それが自分の内側へと入り込んでしまうとくれば、逃げ場も休息も永遠に与えられることのない激臭責めの開幕だ。

  「お゛ぉ゛ッ゛♡♡♡く゛さッ゛♡♡♡くっっっさぁ゛………………ッ゛!!♡♡♡は、ぁ゛へェッ゛♡♡♡こりぇっ、こりぇしゅごいぃ…………ッ♡♡♡あたま、おかひくなりゅぅッ♡♡♡」

  脱ぎ捨てられた残骸ですら一嗅ぎで理性を飛ばす駄犬には、許容量数億倍の臭いの奔流は耐え難い。育ちの良さなど瞬く間にかなぐり捨てて、思わず飛び出た舌をメチャクチャに動かしては、顔中を汚らしい体液でぐちゃぐちゃに染め上げたのは言うまでもないだろう。酒や薬に狂う姿など、これに比べれば全くもってお上品なものだ。

  「こら、がっつくなこの『バカ犬』め……俺はキスしろとしか言ってねぇぞ?嗅ぐ程度は見逃してやったが、舐め回すのは捨ておけねぇなぁ。そんなことはペットの犬でもやりゃあしねぇぞ。」

  貴族であれば看過できないはずの罵倒は、しかしフルフィンには言い返す権利もなければその気もない。前代未聞の淫売犬は、そんな罵倒にすら下腹部をキュンキュンと疼かせてしまっているのだから。

  (嬉しいッ♡♡♡嬉しいッ♡♡♡グランドのぉ、あしのニオイぃ………………♡♡♡すまないっ、すまないぃ……わたしはもう、嗅ぐのを止めるだなんて…………♡♡♡)

  大好きな足のニオイを嗅いで、大好きなグランドにねちっこく罵倒されて……トドメとばかりに突き立てられた言葉の槍は、とっくにご褒美でしかないのだ。

  臭いのが欲しい。バカにされたい。情けないところを見られたい。すまない、すまないと心の中で詫びるたびに、背徳感が尾の付け根をジクジクと熱してしまうんだ。沸々と湧き上がる欲求を抑え込むには、『彼に失望されたくない』などという路傍の石の重りでは足りやしなかった。

  「世界広しといえども、俺の足臭にだけはどんな獣も寄りつきはしなかった。だというのに、お前はなぜ喜んでいるんだ?俺が鍛えたはずの『レヴィン=ウル=フルフィン』は、もっと品性に満ちていたはずなんだがなぁ……?」

  言葉に生え始めた棘に、変わった呼び名……先生と生徒の模倣はついに終わりを告げる。何しろふしだらな若狼は、もはや貴族の跡取りとは扱いようもないのだ。肩書きを与えてやるとすれば、ふさわしいのは――

  「――お前は、雄臭狂いのド変態だ。その証拠が、ここに隠されてんだろ……?」

  もう後戻りはできない。貴族と使用人、先生と生徒、師匠と弟子、歳の離れた友人……そんな関係性は、2度と帰ってはこないのだ。

  それを壊したのは、他ならぬ自分自身の行いなのだから。

  「ぁ゛ッ゛!?ま、まっへくれグランド、そこ、はぁ…………ッ゛!!♡♡♡」

  ランプの置かれた枕元のキャビネット、その引き出しの奥。見覚えのあり過ぎる革袋が、グランドの手によって口を開かれた。

  「拙い隠し場所だな。こんなにコイツのニオイを部屋にこびりつかせておいて、バレないハズがねぇだろう。こんな鼻が曲がりそうなニオイにすら違和感を覚えなくなってるたぁ、1ヶ月や2ヶ月の話じゃねぇだろう、ええ?」

  もう言い訳はできない。こんなとんでもない発酵臭の布地、生み出せるのは世界でただ1人だけなのだから。

  「あぅ…………♡♡♡」

  「部屋に入った瞬間からプンプン臭ってきやがった、このくたびれたクッセェ靴下……一体誰の物か答えてみろ。」

  「そっ、それ、は…………先生のぉ…………グランドの、靴下です…………♡」

  「スンスン……う゛ッ……!!正解、だな。こんなに足の臭ぇ大男、世界中どこを探したって俺以外にはいねぇ。そして、こんな臭ぇ足のニオイを自分から手元に置きたがる、どうしようもねぇニオイ狂いのド変態ワンコロもな。」

  スン、と鼻を伸ばしてその手の布を一嗅ぎすれば、グランドは顔を顰めて悪臭を検めた。そうして出された結論は、もちろん自分の物という判定だ。あんな昨日の今日の出来事の後では、何故それがこの部屋にあるのかも当然グランドには筒抜けで……這いつくばるフルフィンを見下ろす眼差しは、ひどく侮蔑的なものだった。

  「……いつ頃からか、靴下だけが1日遅れでカゴに帰ってくるようになった。一体どこのメス野郎が盗ってんだか、初めは見つけ出してやろうと思ったんだがなぁ。実害がねぇってんで、寛大に見逃してやってたんだよ。」

  「きッ……気がついていたんですか…………?」

  「バカ言うな。俺が気付かないと思ったのか?何十年も散々踏み潰して、破れる度に縫い合わせて使い続けて……毎日毎日、少ねぇ服を丁寧に洗って着回してきたんだぞ。ぱっと見は同じだろうとな、俺からすればどれを履いてるかなんて一目瞭然なんだよ。」

  まさかグランドに裁縫の才能もあったなんて……つくづく逞しいと思う傍ら、自分の敷いた完全犯罪のレールがいかにちゃちなものだったのかと実に情けなく思ってしまう。そもそも彼自身が洗濯を行なっていたことすら把握できていなかったのだ。こんな激臭のシャツを家政婦たちが手に取るはずがないことなど、少し考えれば分かるだろうに……

  自分が世話をさせている男が、自分の3倍以上の歳月を、自分の及ぶべくもない多彩な経験で充実させた豪傑であるということを、これまでの人生で最もわからさられた瞬間だった。

  「な、何十年も……!?はは、は…………凄く大切にされていたんだな………………なんて、うらやましい………………♡♡♡」

  けれど。このどうしようもなく淫売な足臭嗅ぎにとっては、何より重要だったのはその靴下がウン十年ものの超逸品であったということだ。それで今更ニオイを濃く感じられるというわけではないが、大切なのは今まで思い描いていた以上に汚れているというその事実。ニオイ好きで汚れ好き、熟年雄好きで巨漢好きな上破滅願望持ちのマゾ狼にとっては、この剛毛巨漢の熟年象に踏み潰され続けた布地は、羨望の対象にすら昇華されたのだから。

  「羨ましい……?バカ言え。こんな道具に比べりゃあな、お前の方がよっぽど大事に育ててきてやったんだぞ?だってのにオメェは、こんな惨めな姿で俺の教えを無駄にしやがって……!」

  これだけのいやらしいプレイを重ねておきながら、グランドはあくまで教育者として振る舞うつもりのようだ。自分が悪いことをしたのだと忘れさせない為、という目的もあるにはあるのだろうが……

  「この裏切り者が。もっと厳しく躾けておくべきだったか?……こんな風に、よぉッ!!!」

  ――バチィンッ!!

  これまでに一度も行ったことのない、尻叩きの折檻……それは明らかに、教育以上の意味を持って行われていた。

  「あッ゛……………………ガァッ゛ッ゛!!??」

  振り上げられた右手が打つのは、グランドに向けておっ広げられたフルフィンのデカい尻だ。尻えくぼができるほどにむっちりと筋肉を蓄えて、未だにに尻尾を上げ続けたままの天性の淫乱狼には、さしものグランドも情欲を我慢できなかったのだ。折檻という体の良い名目をあてにした殴打は、成人間近の狼貴族に多大な恥辱を与えた。

  ベチッ!!バチンッ!!パァンッ!!!

  「ぁい゛ッ……!!がッ、ん゛ぁぁ゛ッ゛!!!」

  「分かるかッ、俺の心の痛みが!!お前が尻を打たれて感じるモンが、そのまま俺の気持ちだ……!!」

  右、左、両手で……グランドの剛腕に四方八方を滅多打ちにされるのは、いくら逞しいフルフィンであっても相当な痛みが伴うだろう。何よりも、文字通りに質量が桁違いなのだ。日々の鍛錬で筋肉をつけ、前線の兵士に引けを取らないほどに引き締まった狼の尻も、大振りなハンマーの一撃の前ではガラスのように砕け散る。

  骨が砕けずに済んでいるのは、グランドの手加減の賜物だ。折檻として正しく機能するように、確実に痛みを伴うように……そんな絶妙な力加減がフルフィンにもたらすのは。

  「お゛ッ……!!!んお゛ほッ♡♡♡がッ、ぁ……ッ゛!!♡♡♡ん゛ひッ、ひぁッ、ぁッ、あん゛ッ♡♡♡」

  ……快感。自分だって感じたくない。抱いた申し訳なさは、確かに本物だったのだから。

  けれどね、グランド……私の身体はもう、とっくに貴方じゃなきゃダメなんだ。貴方に触れられること、貴方に恥ずかしいところを見られること。貴方に痛めつけられること……その全てが、私、は………………♡

  「ひぎッ♡♡♡ぎぼぢ、い゛………………ッ゛!!!♡♡♡」

  貴方のニオイを嗅ぐだけで、全身が性感帯になってしまう。だからもう、私は……とっくに取り返しのつかない出来損ないなんだ♡

  「――――こんの……バカ犬がぁッ!!!」

  ――――パァンッ!!!!!

  「ッガァ゛ッ゛…………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!♡♡♡」

  びゅるるるるるぅぅ〜〜〜〜ッ♡♡♡♡ドクドクッ、ボタタ…………♡♡♡

  手製の張り型に跨って尻穴の奥を抉るとき、逞しい腰肉が打ち付けられる感覚をいつだって夢想していた。振って、揺すって、冷たい床に打ち付けて……そうしているうちに、いつしか『出来上がって』しまったのだ。逞しい双丘は、痛みを快感に変えるマゾヒストの性器として目覚めていた。

  「……一体どこの貴族が尻を叩かれて射精するんだ?なぁ、フルフィン。俺の知っているお前は、何もかも嘘だったのか?」

  「ぁ、うぅ…………ッ♡すまないぃ、私はどうしようもない淫売なんだ…………♡だから、だからぁっ♡♡♡もっと私を、罰してくれぇッ!!!♡♡♡」

  言葉の槍が刺さるほどに、フルフィンのペニスはひくひくと立派に勃ち上がり、毛並みの奥の尻肉に痛みが走るほどに、ぴゅるりと無様につゆをこぼす。説教はただのプレイの一環に成り下がり、道徳心を痛めつけられるような言葉責めにすらこの馬鹿犬は雄茎をヒクつかせているのだ。躾けられたペットのように腰を突き出して尻尾をふりふり、折檻という名の愛撫にもたらされる背徳感を、歯茎を剥き出しにした笑顔で噛み締める。その格好、その表情、どこをとっても実に恥ずかしい姿だ。

  「……ふん。よくも『為政者を志すべき血筋だ』なんて言えたもんだ。こんな冒険者崩れの汚ねぇ親父に頭を下げて、クセェの嗅がせてイジメてくれって……お前みたいなメス犬、一体誰の上に立てるってんだ?こんな卑猥な格好、薄汚ぇスラムの野郎どもにもオモチャにされちまうってのによ。」

  ヒクヒクと何かをねだる尻穴を見せつけるように開脚し、盛りのついた野犬のように虚空に腰を振るフルフィン。手淫は好き放題、乳首はモロ感、尻穴はガバガバ……尻たぶすらも生殖器に成り下がったお貴族様など、一体どこの誰にお見せできるというのか?

  堰を切ったように溢れる罵倒すらも弾切れになって尚、フルフィンの発情は治まる様子も見せない。どうにでもなれと開き直ったのか、あるいはもう理性が壊れてしまったのか……どちらにせよ、根負けしたのはグランドの方だった。

  「……本当に、コレが好きなんだな?」

  コソ泥された布地をフルフィンの鼻っ面に押しつけるグランドの所作は、恐る恐るというよりも『最終確認』のように見える。臆病でなく、あくまで用心深く。刹那的でなくて、あくまで将来を見据えて。そして自分のためでなく、手塩にかけて育てたフルフィンのために……そんな慎重さが垣間見えた確認には、明らかに不安が入り混じっていた。

  こんな課外授業の皮を被ったただの淫行、今更後戻りなど出来るはずもないというのに。それでもグランドが伺う理由は、やはりフルフィンを思ってのことなのだろうが……何にせよ、フルフィンにとってこのニオイはご馳走でしかないのだ。

  ――ぶっっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…………!!♡♡♡

  「あぐぅぅぅッ゛!!??♡♡♡がッ、お゛へッ゛♡♡♡お゛ぇ゛ぇ゛ッ゛♡♡♡♡すきっ、すき゛ぃッ゛♡♡♡♡ニオイもぉ、グランドもぉ♡♡♡わたひは、わらひはぁ…………ッ♡♡♡」

  グランドがなんとも言えない表情を浮かべる一方で、考えなしの足奴隷は与えられるご馳走を嗅ぎ漁って、ただただ嗚咽と好意を喚き散らすばかり。

  間髪入れずに鼻先を覆った熟成モノに満ちるのは、『生』の湿り気たっぷりな発酵臭とはまた違う、カピカピに乾いて凶悪さを増した刺激臭だ。脱ぎたての熱々な蒸気とは種類は違えど、どちらも最高最悪の足臭であることに違いはない。それを本人にお望み通り嗅がされたのだ、例え説教の最中であっても破顔は免れようがないだろう。

  「何がそんなに嬉しいんだ?これは立派な窃盗だ。

  ……幻滅したぞフルフィン。俺の教えが染み付いていねぇどころか、社会常識すら身に付いていねぇとはなぁ……」

  ハァ、とため息をつくグランド。若人にはそのくらいの純粋さが相応しいとはいえ、やはり貴族の一人息子としては失格も失格の大恥晒しだ。国と家よりも愛しているのが剛毛巨漢汗臭親父の靴下では、まともな家長に育つどころか子に恵まれることすら夢のまた夢なのだから。

  「仕置きが必要だなぁ……?悪ぃのは、野良犬みてぇに節操なく嗅ぎ回るこのマズルか?」

  ギリリ…………ッ!!

  フルフィンの身体はグランドによって抱き抱えられ、うつ伏せのままベッドに押し付けられてしまった。

  優しいグランドだからと甘えた罰は、重くのしかかることとなる。

  「がッ…………!?ぁ゛、ご、ごえんな……ひゃ――――」

  自分勝手に嗅ぎ回ったフルフィンのマズル、ひいてはその首元を、グランドの逞しい鼻がぐるりと締め上げた。

  その締め付けには手心など感じ取れない。気管、頸動脈、脊髄のすべては容赦無く締め付けられてしまい、圧倒的な力量差の前にフルフィンはなす術もなく意識を追いやられるばかりだ。

  必死にもがこうとびくともしない。指を捩じ込む隙間もない。それもそのはず、象の長い鼻の殆どは筋肉の塊なのだ。

  鍛えるまでもなく鍛わる長鼻のナチュラルマッスルは、長い長い旅路の中であらゆる活用をされ続けてきた。グランドの辿った旅路の険しさ、それを乗り越えた逞しさは、この鼻にこそ詰まっている……そう言っても過言ではない。そんな歴史の前に、ただ鍛錬のみを経た肉体では太刀打ちできようもないのだ。

  (し゛――――死゛ぬッ…………!!グランドに、しめ、られ…………あ………………♡♡♡)

  ギリリリィ…………ッ!!!

  このままこの強さで締め続けられたら、確実に命を落としてしまう。だというのに、フルフィンのマズルには苦悶の表情など浮かんではいなかった。

  汚らしく涎を垂らし、アホ面で黒目を蕩して、鼻など垂らして脱力する様はとても気持ちよさそうで……やれやれと呆れたように鼻を緩められても、フルフィンは時折ぴくりと痙攣するだけ。ガチガチになった彼のペニスは情けなく白濁を溢してしまっていた。

  「かはッ…………!♡♡♡はぐッ、ぉえッ゛…………♡♡♡」

  「……ふん、情けねぇな。自分の身が守れねぇどころかハナから守る気がねぇんじゃ、何のためにお前を育ててきたのかまるでわかりゃしねぇじゃねぇか。」

  フルフィンは、グランドには一生勝てない。腕力や技量の問題ではない、カラダの相性が致命的なまでに『良すぎる』のだ。

  鍛えた身体、学んだ知識、そのどれもがなんの役にも立ちやしない。いくら凛々しく育とうが、8年前のあの日からずっと彼はグランドに屈服してしまっているのだから……

  「俺のフェロモンが発情させちまったんだと、あんなにむりくりお前を信じてやったってのに。自分で擦りつけなきゃ着くはずのねぇ足の臭い、あんなにマズルにこびりつかせやがって……そんなに俺のニオイが好きか?この俺の、野生動物すら気絶させる最悪のニオイがよ。」

  フルフィンを詰る言葉の傍ら、グランドの罵倒には彼自身を卑下するような言い回しも感じ取れる。フルフィンは誤解していたが、自分の体臭がどんなに凶悪なのかはグランド自身も理解していたのだ。だからこんなにも喜んで嗅ぎ回るメス犬の姿など、さしものグランドにとっても極めて珍しいモノで……

  「す……好きッ♡♡♡大好きだ♡♡♡もう、これ無しでは生きられないんだ、わたしは♡♡♡お、お願いだ……おねがいします、先生ッ♡♡♡どうか、わらひに罰を……ご褒美を、くらひゃい…………♡♡」

  「ッ……この、バカ犬が…………」

  僅かに上擦った声が示すのは、隠しきれない興奮だ。ようやく興が乗ったと喜び勇み、バクバクと高鳴る心臓は、自分の激臭を嗅ぎ漁るフルフィンの姿に更なる欲望を膨らませる。ひょっとすれば、本当に……自分のモノに出来てしまうのではないかと、忘れたはずの野心がバチバチと火の手をあげ始めていた。

  「フゥーーーーッ…………。仕方がないな。補講は終わりだ、ここからは試験としよう。俺に押しつぶされたこの絶望的な状況を、どうにか打破してみせろ。もしも出来なけりゃあ、このまま全力で押し潰してやるよ。」

  グランドの興奮は、あらゆる手段でフルフィンにも伝わっていることだろう。互いが互いに秘密にしていた、支配したい・されたいの後ろ暗い欲望は、もはや互いの知るところとなった。

  もはや何も躊躇うことはない。築き上げてきた信頼も、期待と尊敬も全部、もう戻らない過去に変えてしまおう。

  「……気張れよ、フルフィン。俺のカラダは、お前が思ってる5倍は重てぇぞ…………?」

  グランドはベッドについた両の手のひらを折りたたみ、フルフィンの枕元へと両肘をついた。蒸し焼きにされるが如き体温の檻、吹き付けられるように駆け巡る臭気の熱波。炎天下など生温いほどの熱気が全身を包み込み、揮発した汗は空気を澱ませて視界にモヤをかけるほど。そんなニオイの首輪と巨体の手枷に囚われたフルフィンに、抗う術は見つけ出せるだろうか?

  「んぎぃぃぃ゛ぃ゛…………ッ!!!♡♡♡ひぉ゛ッ゛、あ゛ッ゛…………へぇ゛ッ゛………………♡♡♡」

  ……当然の結果か。フルフィンの脳内を占めるのは、あまりに雄々しいグランドの蒸れた体臭と、それにまるで抗えもしない自分の情けなさへの興奮だけ。ギリギリとのしかかる重さはは決して戯れではないというのに、彼にこうして痛めつけられることすら嬉しくてたまらないのだ。散々剣を打ち合ってきて、グランドの身体の重みもよく知っている。それに押しつぶされたなら、自分の体がどうなってしまうのかも。

  「……ふん。いいだろう、そんなに蹂躙されてぇんなら、お望み通りに何もかも自由を奪ってやる。ここから一体何秒保つのか、じっくりと見せて貰うとするか……」

  ズシィィィ………………ッ!!♡♡♡

  むっちりと肌に吸い付きながら、グランドの豊満な胸が純白の背中を制圧する。逞しく、野生味たっぷりに濡れそぼった太い胸毛が、縮れ癖がついた毛質を存分に活かしてフルフィンの背毛に絡みつく。

  汗の一滴も残さず塗り込み、毛の一本ですらも逃さない。格の違いを細胞単位で教え込むように、ゆっくりと、いやらしく乳肉が着弾した。

  「このまま続けちまえば、お前の毛皮は2度と俺のニオイが取れなくなっちまうだろうなぁ。狼族の誇りを穢されるってのは、一体どんな気持ちだ?先祖の魂を侮辱されて、さぞかし腹立たしいだろうなぁ。」

  「お゛げッ゛♡♡♡くさッ、くっっさぁ゛ッ゛…………!!♡♡♡はひっ、あ、はぁッ♡♡♡スゥゥゥゥゥン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!!♡♡♡…………んへぇッ♡♡♡こりぇ、こりぇしゅきぃ…………ッ♡♡♡うれじすぎてぇ、あたまこわれりゅぅッ♡♡♡」

  鼻を破壊する激臭を喜んで嗅ぎ漁り、潰れた肺が助けを求めた呼吸すらも絶頂で上塗りして。もはや生物が持つべき正しい本能など捨てて、フルフィンはただただ無抵抗で処刑の時を待つばかりだ。

  このまま死んでしまってもいい……フルフィンの頭に浮かぶ破滅的な思想は、決していっときの気の迷いでは無くなってしまっていた。英雄の末裔としての誇りなど、カケラも持てるはずがない。

  「情けねぇな……俺が肺活量を鍛えてやったのはな、荒野を駆け、険峻な山を踏破し、魔物蔓延る迷宮を暴く為なんだぞ。気管を絞められ肺を潰され、それでも平然としてるなんざ、真っ当な生き方をしてりゃあ随分と誇らしい事だろうに……それをお前はなんだ、俺のニオイを嗅ぐためにしか使わねぇってのか?んん?」

  「お゛ン゛ッ♡♡♡おへ゛ッ゛、お゛ぇぇ゛ッ…………♡♡♡も、もうひわけ…………ひぐぅッ♡♡♡れもっ、でもぉッ♡♡♡ち、ちからがっ、はいらなぃぃ…………♡♡♡」

  とっくにニオイに狂った脳で譫言のように歓喜を喚いて重みを堪能する姿は、手塩にかけて育て上げた弟子の末路にしては失敗もいいところだろう。だが、丁度いい。これは訓練なのだ。仕置き、体罰、折檻、教育……言い訳なら、いくらでも塗り固められるだろう。他でもない、自分自身への言い訳を。

  「こんなに腕も太く育って、背中の逞しい男になったのにか?首だって、俺の本気の鼻絞めすらも耐えていやがるってのに……。なぁフルフィン、お前は今、何に息を切らしているんだ?俺の重さか?ニオイか?それとも……」

  彩度の低いグランドの肌に、幾年ぶりに朱が滲む。久方ぶりな緊張感に、一線を越える背徳感に、そして何より――

  [newpage]

  「『コイツ』に犯してもらえると、期待しているのか?」

  ――極上のメスを意のままにする、この上ない優越感に。

  「ぁ……………………………………!!!♡♡♡♡♡」

  ベチンッ………………

  鈍い痛みが腰に響いた。しなだれかかるような重み、肌に吸い付く湿っぽさ、灼けつくほどの、熱…………

  視覚など必要ない。それが長年想い続けた男の性器なのだと、カラダが理解していた。

  (ち……ちんぽ♡♡♡チンポッ♡♡♡グランドの、なまチンポ…………♡♡♡あ、あ、ほしいっ、ほしいほしいほしいほしいほしいっ!!!♡♡♡♡♡まけていいっ、死んでもいいッ♡♡♡お願いだ、グランド…………わたしを犯してくれぇ♡♡♡♡♡)

  腰が、勝手に上がってしまう…………♡

  真っ先に取り戻すべき上半身の自由をかなぐり捨てて、持ち上げられた腰は甘美な敗北を味わおうと左右に揺すられる始末。

  元々ありもしない闘志の牙は、のしかかる肉柱の重みに潰されて2度と生えてこないだろう。鍛え上げた逞しい筋肉は、ただ食いごたえのある肉でしかなくなっていた。

  「フゥーッ…………何をしてるんだ、フルフィン。お前はチンポの重さにすら勝てないってのか?こんなモン、精々5キロ程度のもんだろう。」

  「いッ、いやッ………………あぁっ、でも、こんな………………♡♡♡」

  ドクンッ、ドクンッ、ドックンッ…………!!

  犯される。犯してもらえる。フルフィンの胸は期待でいっぱいだ。

  夢にまで見たグランドのペニスは、夢見たよりもずっと重く、熱く……一体、何が『精々』だというのか。竿一本で5キログラムだなんて、それこそ股間に赤子をぶら下げているようなものではないか。赤子の腕に例えた比喩では力不足。ともすれば、馬並みという言葉でさえ……?この巨象を説明できる言葉など、世界中のどこを探しても見つかりはしないだろう。

  そんな逸物を擦り付けられては、期待しない方が愚かというもの。だけれど忘れてはいけない。特別授業の最後、今行われているのが試験なのだということを。

  「いいかフルフィン……これが最後のチャンスだ、もう一度言うぞ。俺は、お前を押し潰す……俺は今、お前の『敵』なんだ。これは、比喩なんかじゃない。」

  「……?それは一体、どういう…………」

  体重をかけ、体を密着させたまま、フルフィンの耳元で囁くグランド。熱っぽい吐息には、氷のように固い意志が混じっていた。

  「お前はきっと、俺との交尾を夢想しているんだろう。……そうだと信じている。だが……俺のカラダは、お前には大きすぎる。俺のニオイは、お前には強すぎる。お前はきっと……俺と交われば、壊れてしまう。」

  今から行われることは、これまで共に過ごした8年間の集大成だ。健やかな肉体、聡明な頭脳、そして何より崇高な精神がしっかりと身についているのかの、恩師からの卒業試験であり……

  「――だから。今から、お前を素股で犯す。クセェ汗でビチャビチャの胸毛をたっぷり嗅がせて、でっぷり肥えたこの腹で押し潰してやりながらな。お前はただ、耐え続けろ。俺がイっちまうまでな。」

  『弟子と師匠』が、『妻と夫』になるための、最初で最後の試練だなのだ。

  「あッ…………♡♡♡ゎ、わかった。」

  この瞬間は、とっくに前戯に等しいのだ。これまでのグランドが如何に手加減をしていたのか、いかに我慢していたのかを、フルフィンはまざまざと見せつけられることとなる。

  「もしも……もしもお前が俺のニオイと愛撫に呑まれ、理性を失ったのなら……俺はお前を、ケダモノのように犯し尽くしてやる。気を失い、尻が裂け、腹が破裂しようとも……俺の気が済むまで、何度も何度もな…………」

  巨象の暴力的な言葉は、マゾヒストの急所を深く深く抉り取る。こんな言葉通りの終わりを迎えてはいけないとわかっているのに、目は見開かれ、呼吸は浅く……フルフィンは、その破滅的な結末にすら惹かれてしまう。けれど、フルフィンは歓喜の声をあげなかった。そんな惨たらしいおしまいを、グランドが望んでいるはずがないと分かっていたから。

  「犯して、穢して、輝かしいお前の未来を奪って……そして俺は、自分で自分の首を刎ねてやる。お前の純潔を穢した罰を、自ら下すためにな。」

  「なっ…………」

  文句を言ってやりたかった。けれど、そんな猶予すら得られなかったのだ。続く彼の言葉が、フルフィンの息を詰まらせたから。

  「――フルフィン。俺がどれだけお前を愛しているのか、お前はまるで解っちゃいない。」

  静止する声。その表情。一度も耳にしたことのない、彼の口から出る『愛』の言葉……そのどれもが物語っていたのだ、彼の覚悟が本物であることを。彼がフルフィンに預けた年月が、いかに愛情に満ちていたのかを。

  「俺がどれだけお前を抱きたかったか、何度犯してやろうと思ったか……その度にどれだけ苦しんだのか、お前にはわからんだろう。」

  苦しんでいたのはフルフィンだけではなかったのだ。なまじ交尾の味を知っている分、好き放題に自慰をしていた狼より、純粋な愛情と野蛮な性欲の狭間で悶え続けたグランドの方が遥かに辛かったことだろう。抱けば堕ちると分かっていながら、自分を抑え続けたのだから。

  「俺はお前が思うより、ずっと悪人で……お前が思うよりずっと、お前を大事に思ってるんだ。俺なんかの側にいるより、相応しい場所がお前にはあるはずなんだ。だから――――」

  ……だから。言葉の代わり、私は彼の腕を抱き寄せたのだ。どんな試練だろうとも、貴方のためなら乗り越えられると信じていたから。私たちは心で繋がれるはずだと、そう信じていたから。

  「……そうか。だったら、俺に証明してくれ。お前の頬が緩むのは、いっときの気の迷いなどでは無いんだと。お前の運命のツガイは、俺なんだと。……お前は、決して壊れないんだと。」

  再び虚空をなぞる指。汗ばんだ毛むくじゃらの指先が、躍るように逸っては文字を刻んでいった。

  『一度も絶頂してしまうことなく、俺を射精させてみろ。』

  「ッ…………!!」

  愛情、地位……そして体格差。グランドを阻み続けた障害は、フルフィン以外の誰にも取り払うことはできないのだ。

  グランドは、ただフルフィンの高潔さを守ってやりたかった。自分が犯せば何もかもが壊れてしまうと手を出さなかった男の矜持に、次はフルフィンが答える番だ。

  『私は貴方の重みに耐えられる』――と、そう示すのだ。彼に教わったように、実践で。

  「まずはご対面といこうか。今から自分がナニにブチ犯されるのか、じっくりと観察してもらおう……」

  相変わらずの、教育らしからぬ直接的な言葉……けれどそんな下品な言葉遣いにこそ、歪んだ自分を肯定する『赦し』を見出せるんだ。王都の人々に侮蔑されて当然のこんなどうしようもない自分を、グランドになら受け入れて貰える。そう、思えるのだ。だからこそ、絶対に……

  (絶対に……失敗できない…………!)

  「……コレが、俺の本性だ。フルフィン、どうか受け止めてくれよ…………?」

  自身の閉じた両脚を跨ぐ、巨木のようなグランドの両腿。身体を起こしたグランドが、ベッドの上で膝立ちになり……

  ズズ…………

  「ぁ――――――――――――――」

  そうして、フルフィンは初めて眼にするのだ。野生の血を色濃く映した、鈍器のような全長を。

  ――――ズロロロロォォォォォ………………ッッッ!!!!

  「√﹀\_︿╱﹀╲/╲︿_/︺╲▁︹_/﹀\_︿ーーー〜〜〜ッ゛ッ゛ッ゛!!!♡♡♡」

  自分と同じ器官だとはまるで思えない、年季の違う肉の塔。

  愛液に塗れた長物が肉肉しい窄みの中から飛び出して、その雄々しすぎる本性を露わにしていた。

  「す、ご…………………………♡♡♡」

  自分のソレと形状はまるで違うのに、それが紛れもなく男根なのだと一目で理解できてしまう。そんなあまりにグロテスクな肉肉しさに、背筋に悪寒と期待混じりの電流が駆け抜けた。

  節くれだった黒光りは、まさしく野生動物を思わせるほどに荒々しい肉の槍だ。亀頭のない先端はすりこぎを思わせるようななだらかな形状で、その真ん中では鈴口がぽっかりと口を開いて露を垂らしている。コチラを見つめるかのようにしなだれているのは、その長大すぎる性器のあまりの重さのせいだ。太さは悠に10センチ、長さは……目測では見当もつかない。少なくとも、自分の前腕以上は……♡

  「どうだ、俺のチンポは。世界のどこを探したって、これ以上に立派なオスの性器は見つからんだろうよ。」

  「はっ、はっ、ぁ、ハァッ………………♡♡♡」

  バックン、バックン、バックン……!

  息が詰まる。身体が固まる。あんなに嗅ぎたくて仕方がなかった雄臭すら、あまりの衝撃に楽しめやしない。それほどに、このチンポは……この雄は、あまりにも格上すぎたのだ。自分如きがツガイを夢見たことすらも、不遜だったと感じてしまうほどに。

  「……どうしたフルフィン。手に取って、じっくりと敵を観察するんだ。それができないなら、俺はただただこの館を去り……もしも欲望に負けたんなら、俺は夜明けに自害する。だから、ほら……両手で握るんだ。俺の太さも、熱さも、重さも……汚れもニオイも醜さも、全部乗りこなしてみせろ。」

  蛇のように走る極太の血管は鞘の内側の分泌液に塗れてぬらりと光り、流れる血潮の力強さをドクドクと誇示していた。亀頭に相当する先端は、種牡馬の性器に似ているようで、それよりも更に質量任せなシンプルな半球状をしている。メスに対する気遣いなどまるでない、ひたすらに性感帯をすり潰すためだけの蹂躙器官だ。

  先端から少しのところに浮き出たリングのような結節点は、自分たちには備わっている包皮の名残り……いや、こちらが祖先だろうか。だとしたら、自分たちでいうところのカリ首までで軽く10センチは越している。それがこの雄竿の、5分の1に過ぎないのだから――――

  「……ごくり。」

  貴族として、雄として……それ以前に生物として、こんな巨大で野生的すぎるペニスには、一目惚れなんてしてはいけないのに。これをカラダにねじ込んで何度も叩きつけてほしいだなんて、破滅願望そのものなのに。

  (ほっ…………ほしい…………ッ♡♡♡)

  目が離せない。欲しくて欲しくてたまらない。愛と劣情の前では、イキモノとしての正しさなんてゴミ同然だった。恋焦がれ続けた雄の性器は、あまりにも…………極上すぎた。

  「ぉ、重ッ♡♡♡すっご…………♡♡♡」

  躊躇なく、けれど慎重に、ゆっくりと水を掬うように両手で支えて、どうにか水平まで持ち上げた。

  ずっしりとのしかかる肉竿の重みは、まるで石材のような重厚さ。けれども肌にぬぢりと吸い付く感触は、それが生の肉の器官なのだと念押しするようだった。

  (これが、グランドのチンポ…………♡)

  彼と愛を育むなら、これをカラダに収めなければならないのだ。両手でも握りきれない極太の竿、これを彼の思うがままに叩き込まれる衝撃に、この身一つで耐えられなければ彼と添い遂げることはできない。

  ……圧倒。圧倒的な雄の力強さに、ただただ圧倒される。生唾を飲んだのも、自分自身では知覚できないほどに。

  「……ぉ゛♡くっさ………………ッ♡♡♡」

  どうしても口付けが我慢出来なかった。そうしてマズルを近づけた途端に思い出したかのようにブワッと漂う淫臭は、彼の複雑な体臭よりは遥かに単純な性の香りだ。ストレートに鼻腔を殴りつける、洗われていないチンポのニオイ。こそこそと嗅ぎ漁り続けたパンツと同じあの悪臭が、より濃厚で、いやらしく……

  巨砲の根本からドロリとベッドにこぼれ落ちた愛液が、この強烈に生臭いニオイの元凶だった。今なおリアルタイムで分泌される蜜は、竿の根元と、先端……そのどちらからもドクドクと溢れ、真白なシーツを薄灰色に汚している。

  「おぉ、いけねぇいけねぇ……昨日の晩、うっかりチンポを洗うのを忘れちまった。悪りぃなぁ、センズリ扱くのに忙しかったんだよ……どこかの誰かのせいでな。」

  「ぁ、あらってない………………♡♡♡」

  まるで剣を背負うように、フルフィンはグランドの肉竿を肩に載せた。肉穴から零れ落ちる半透明の粘液がどうしても勿体なく思えて、思わず根元に舌を伸ばしてしまったからだ。

  震える舌が、肉と肉棒の隙間を目指して伸びていったその時……

  「あ………………♡♡♡こ…………これ、って……………………ぉ゛ッ゛!!??♡♡♡」

  その時、見つけてしまったのだ。あまりにも汁だくな鞘の中、ドロドロとした愛液すらも跳ね除けて凝縮された恥垢の塊が、竿の根本と内鞘の境界に顔を覗かせているのを…………♡

  「……キレイに出来たら、お前の股に腰を振ってやろう。それまでは、俺は絶対にイってやらねぇ。」

  「――――――ッ゛!!!!!♡♡♡」

  これは、なんとも手厳しい要求だ…………♡

  何せこの塊をこそげとる間、私は一度もイってはならないのだから。

  「ぅ…………あ、ひッ………………くっっっっさ………………ッ♡♡♡♡♡」

  あぁ、トんでしまう…………♡今自分の置かれた状況を忘れないように頭を働かせなければ、立ち所にこの黄ばんだカスが私の脳を犯し尽くすだろう。

  (キレイに、しなくては…………♡忘れるな、レヴィン=ウル=フルフィン………………これは、グランドのための奉仕なのだぞ…………♡)

  包皮を剥くように、だぷんと柔らかな肉鞘をムキッと捲る。たったそれだけで気絶しそうなほどのチーズ臭が駆け巡るそこを、一度もイかず、気をやらず……チーズが大好物のフルフィンには、些か酷な試練だ。

  「いっ……いただき、まひゅ………………♡♡♡」

  けれど、失敗は許されない。自分が気を緩めれば、彼との永遠の離別が訪れてしまうのだから。

  一瞬で大好きになった、くっさいくっさいチンカスチーズ……こんなに美味しいけれど、自分のために舐め取ってはいけないのだ。

  奉仕する。グランドのために。彼と共に居られないのなら、この人生に意味などないのだから…………

  「はぐ……♡♡♡ぐ、ん゛ぅッ゛……じゅるるッ、べろぉ…………ッ♡♡♡う゛ぇッ、がふっ♡♡♡お゛ぇ゛ぇ………………くっっっさ………………♡♡♡」

  こんなにも心を尽くして舌を動かしているのに、まるで恩を仇で返されているかのような気分だ。臭い。臭すぎる。臭すぎて……美味しすぎる…………♡♡♡イくなと言っておいて、こんな最低なチンカス臭をプンプンさせるだなんて。そんなの、卑怯だ…………♡♡♡

  「……ふん。いくら好きな相手だろうとな、チンカスなんざ普通は口に含もうとは思わねえんだぞ……この便所犬め。」

  脂のくどさを見せつけるように、ギトギトと水気たっぷりにこびりつく白いカス。罵倒にぶるりと身を震わせて、惨めったらしく舌でペロリと舐めとれば、尿のニオイなど微塵も香らない純粋なチンポ臭が喉奥から湧き上がる。

  (あ゛ぅ、ほぉ゛ッ゛…………♡♡♡チンポがっ、チンポが鼻に入ってくるぅッ♡♡♡あたまも、カラダも……恥垢に負けてしまうぅッ♡♡♡)

  チンポ特有の性臭、グランド特有の体臭、年齢相応の酸味が三位一体となり強烈に香る激臭に、鼻の穴をこじ開けられるような錯覚すら覚えてしまう。決して鼻が痛んだりはせず、ただただクドさが胸に溜まって行くのは、さながらバターを直に舐めているような感覚だ。胸焼けのような違和感は、けれどじわじわと身体を悦びで埋め尽くす。それがグランドに奉仕する快感なのか、ただ臭くて汚いカスが好きな変態だからなのか、自分でも判断できやしなかったけれど……

  「……ウメェか?」

  「ふぅ゛ッ゛♡♡♡ん゛んッ、ん゛ぁ…………♡♡♡」

  おいしくて、たまらない…………♡♡♡

  コクコクとしきりに頷いて、ギットリとこびりついた汚れを舌に掬い取る様子をしかと見せつける。自分はこれがたまらなく好きで、それ以上にこれを食べさせてくれる貴方が大好きなのだと、奉仕を通して彼に分かって欲しいから。それが堕ちかけのフルフィンに出来る唯一の抵抗だった。

  「……おい。何をクンクン嗅ぎ回ってんだ?舌を動かせ。奉仕しろ。でなけりゃ、お前なんかすぐにイっちまうだろうが。」

  舐めるな、嗅げと足裏には言っておいて、次は嗅ぐな、舐めろだなんて……そんな難しい命令、私のようなバカ犬が遂行できるはずないのに…………♡♡♡

  「んごッ゛、ごぇんなひゃ…………すんすんッ♡♡♡ん゛ぉ……むりッ♡♡♡嗅がないの、むりぃッ…………♡♡♡からだが、勝手にぃ…………♡♡♡」

  嗅いではいけないと分かっていても、カラダが言うことを聞かないのだ。せめてフルフィンにできることは、嗅ぐのもやめず、舐めるのもやめず、ひたすら進み続けることだけだ。そうしてぐるりと直径10センチを半周する頃には、クラクラと茹る脳は快楽物質を過剰に分泌。フルフィンはとうとう笑みを抑えることが出来なくなってしまっていた。

  (うれしいッ♡♡♡うれしぃッ♡♡♡くさいの、すきぃ…………ッ♡♡♡グランドッ、グランドぉ…………ッ♡♡♡)

  ペロリ、ペロリ……むわぁぁぁぁぁぁッ…………♡♡♡

  視界が爆ぜるほど濃厚なフェロモンの凝縮体が、唾液に混じって喉を滑り落ちてゆく…………

  「お前はそうやってクセェクセェと喜んでいるみたいがな、俺がどれだけ苦労してきたか分かっているのか?こんな山盛りのチンカス、1日何もせず寝そべってるだけで勝手に溜まっちまうんだぞ。他の部位だってな、ただ生きるだけでどれだけ気を遣わなきゃならないと思ってるんだ。」

  「ご…………ごえんなひゃ…………♡♡♡ん゛ぉ゛ぉ…………ッ♡♡♡でも、でもぉ、わらひのまえではぁ……もう2度と、気などつかわなくていいんれすよぉ………………♡♡♡」

  フルフィンの呼気に住処を移した発酵臭。フルフィンの猫撫で声に乗った自分自身の濃厚なニオイは、グランドの理性の鎖を急速に溶かす。

  極上のメスが、内側から自分のニオイに染まっている……その事実は、いかに理知的な男であっても抗いがたい愉悦だった。

  「ッ…………!あぁ、そうだな……毎日お前に掃除させれば、俺が悩む必要もねぇ。だがなぁ、それはお前が今日を耐え切った後の話だ。俺の汚れもニオイも、お前が欲しいと思う以上に溜め込んでやるよ…………!」

  火照ったカラダ、それ以上に煮えたぎる蹂躙欲……この理性の奪い合い勝負は、相手にダメージを与えるほどに自分にも返ってくるのだ。肉竿の根元がつるりと光り輝く今、次はフルフィンが喰らわれる番だ。

  「ごッ……ごひそうさまれひた…………♡♡♡」

  なんとか、本当になんとか綺麗にできた。口を開くたびに湧き上がる濃厚なチーズ臭を、何とか乗りこなすことができたのだ。ガチガチに屹立した狼チンポは、シーツに酷いシミを作っているけれど……まだ、イっていない。試験は続行だ。

  「……寝ろ。そして股を開け。……そうだ、それでいい。」

  優しさのかけらもない命令に、フルフィンは喜んで股を開く。

  ただそこにいるだけで、見下ろされるだけで……逆立ちしても敵わないのだと、心の底から理解らされてしまう。そんな無力さが、彼の溢れる雄々しさが、気持ち良くってたまらない…………♡

  理性と本能のせめぎ合いは、常に本能が優勢だ。今こうして言葉を理解していられるのが、奇跡にも近しいほどに。

  「コイツが欲しいか?」

  ベチンッ、ベチンッ……♡

  ムチのようにしなるグランドのチンポは、フルフィンの腹筋を赤く腫らせて挑発する。1発1発の殴打の重みは、ソレに犯される充足感をフルフィンに否が応でもイメージさせた。

  「はぐッ、う゛ぇッ…………♡い、いらないッ……♡♡♡」

  欲しくて仕方がないそれを、我慢できるとアピールする。『待て』ができるイイ子だと、彼に褒めて欲しいから。

  「……なら、コイツはどうだ。」

  だが、まだまだ序の口だ。

  次にグランドが手に取ったのは、彼の履いていた革のブーツだった。

  とっくの昔に脱がせたはずの数十センチの深淵から、黄ばんだ蒸気がいつまでも立ち昇っていた。そんな誘惑に、フルフィンは……

  「…………ッ゛!!!♡♡♡いらないッ…………!!」

  ピクンと跳ねたカラダは、あまりに強烈な視覚情報だけであっという間に絶頂に近づいてしまったけれど。それに自分勝手に手を伸ばすことはしないのだと、手を胸元に添えた服従の姿勢で意思を表明した。

  「……犯して欲しいか?ん?本当は太ってぇチンポで腹の奥グチャグチャにされてぇんだろ?今が気持ち良ければ、お前はそれで満足なんだろう……?」

  「ぃ……いらないッ!!!♡♡♡ わたしは、貴方との未来がほしい…………!だからっ、そんなの、そんなの…………♡♡♡」

  「だったらなんだ、このケツのヒクつきは?擦り付けるたびに物欲しそうに開いてんぞ。本当は滅茶苦茶にされたいんだろ、ええ?」

  「そっ……それ、はぁ…………ッ!?♡♡♡あっ、な゛に、こりぇっ♡♡♡」

  ズリュッ♡♡♡グインッ、グインッ♡♡♡ぐぐぐぐ………………

  腹筋を押し潰していた肉柱は、気がつけば太腿の内を這いずり回ってまさぐっていた。グランドが腰を動かさずとも、まるでそれ自体が意思を持っているかのように……

  「俺のチンポはな、お前と何もかも違うんだ。例えば、こんな風に……完璧に密着したまま、サオだけを自由自在に動かせちまう。」

  「あ、あ゛――――――――むぐぅッ!!??♡♡♡♡♡」

  グランドが尻穴を嬲るのに、ピストンすらも必要ない。ただその豊満すぎる肉体でメスを抱きしめれば、それが蹂躙の合図だ。思うがままに動く肉竿が、フルフィンの鼠蹊部を滅茶苦茶に擦り上げる。

  ググ…………むっぎゅうううううぅぅぅ……………………ッ♡♡♡ズシィッ、ミヂミヂィッ…………♡♡♡むっわぁぁぁぁぁぁぁぁッ♡♡♡

  (ぉッ…………重いぃぃぃ…………ッ♡♡♡こりぇ、すご………………くっっっさいぃぃぃ…………♡♡♡)

  今日何度目かの密封、けれど今回は実に手強い。尻穴を陥落せしめんとする莫大な雄の質量が、メスの本能に屈服を強いて止んでくれないのだ。上に下に、右に左に、時には半球で割開く素振りすら見せてくる子作り棒。強すぎる雄の性器を前に、フルフィンの抵抗は更に綻んでゆく。

  (う……うっかり、挿入ってしまったら………………ぁ、違ッ……!でもっ、でもぉ…………こんなの、いつまでも続いてしまったら………………ッ!!♡♡♡)

  せめてもの誇りある死か、汚辱に塗れた自分のせいで愛すべき者を失った余生か……この重みを跳ね除けるのに十分な筋力を手に入れられなかった罰は、こんなにも酷な2択を迫るのだった。

  「……さあ、そろそろ動くぞ。お前が弱音を吐かないことを祈って、本気で腰を振ってやるよ。」

  「ほッ……本気で……ッ!?あぁ、そんなの……そんなの――――」

  「……黙って、チンポを締めつけろ。俺のツガイになるんなら、交尾の間に無駄口叩く余裕はねぇぞ。」

  「はッ――♡♡♡はひッ、はいぃッ♡♡♡♡」

  「……よし。犯すぞ。」

  あっという間に説き伏せられて、心の底から屈服させられてしまった。そうして動き出したピストンは、緩慢で、大振りで……まるで山のようにどっしりとした、力強い腰振りだった。

  パンッ…………パンッ………………ズパンッ…………!!

  1発ずつ……1発ずつ……全力で腰を打ち込む。自分が犯されているのだと、はっきり自覚できるように。……その1発1発に、『いつか孕ませてやる』と思いを乗せて。

  「ぁぐッ♡♡♡ふン゛ッ゛♡♡♡ん゛ぉッ、ほッ゛…………♡♡♡」

  これが素股だなんて、信じられるはずがない。だって、だって……私は、こんなにも…………

  (は…………孕むッ♡♡♡グランドの、子をぉ…………孕んでしまうぅ…………ッ♡♡♡)

  もう、とっくに限界<イきそう>なのに…………♡♡♡

  ズリュンッ、ズリュンッ、ズリュンッ!!!!♡♡♡

  太腿から突き抜けた特大が、当然のように胸元にまで届いては特濃のマーキングを残していくのだ。思わず寄り目になって見つめてしまうのを、一体誰が我慢できる?上半身を押しつぶす太鼓腹、その隙間をずずいと突き抜ける極太……ナカは微塵も抉られていないというのに、紛れもなく『犯されている』

  そんな自覚が、フルフィンのマズルを強制的に吊り上げさせてしまうのだ。

  「ふッ、ふッ、ふぅッ…………!!!」

  「あ゛ッ゛♡♡♡グランドッ、ダメッ、ダメェ…………ッ♡♡♡イ゛ってしまうッ♡♡♡イ゛ってしまうからぁッ゛♡♡♡」

  叩きつけられる腰肉の重さ、覆い被さる巨体からとめどなく零れ落ちる球汗……自分という存在のあらゆる要素がフルフィンを責め立てていると知りながら、言葉なく、ただひたすらに腰を振る。

  思うがままに動かせるペニスは、交尾に腰振りを必要としないというのに。彼がわざわざ動くのは、もっと沢山の汗をかくため…………汗に塗れ、撒き散らし、興が乗ったら合図も無しに思い切り抱きしめて、巨乳と太鼓腹で塗りたくるため。ただフルフィンを絶頂という絶望の淵に追いやるため、ただそれだけのために。だって、そうでもしなければ――

  (耐えてくれよ、フルフィン……俺の本気の交尾は、こんな優しかねぇぞ…………?)

  運命の相手だなんて、口が裂けても言えないのだから。

  ぐにゅんッ♡♡♡ズリュンッ♡♡♡ビチャビチャッ…………むっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………ッ♡♡♡♡♡

  グランドに早くイってほしいといくら願おうとも、遅漏の巨根をイかせるには素股ではあまりに先が長いのだ。必死にグランドにしがみついて太ももを絞めてみるけれど、そうして摩擦が増せば増すほど絶頂に近づいてしまうのはフルフィンの方で…………

  (イってしまう!!イってしまう!!!嫌だ。嫌だ。嫌だ!!!!イきたくない。イきたくない!!イってしまったら、私は……彼は!!!やめろ、やめてくれ、イきたいなんて、思わないで………………!)

  ズリュッ♡♡♡ズリュッ♡♡♡ズロロロロロォ…………ッ♡♡♡

  腿、ペニス、腹筋、谷間…………棍棒のような肉竿が辿った後に、狂おしいほどの熱と快感が残される。

  イってしまえ。イってしまえ。このひと時の快楽のために、全てを棒に振ってしまえ――――そんな悪魔の囁きは、グランドの腰振りによって告げられている。だからこそフルフィンは、その甘すぎる誘惑から逃れることはできない。彼を自分より先に絶頂させるためには、ただ必死に耐える他に道は残されていないのだ。

  「ぐ、ランど――――――――――!!いやだ、いやだ………………!!!」

  「ふぅッ……!なんだっ、フルフィン…………ギブアップは受け付けてねぇぞ…………!」

  乳肉がマズルを叩く間隙に、必死に彼の名前を呼ぶ。

  それは何か明確な目的を持ってのことではなかった。

  ただ、頭がグランドで一杯で……何かしなくてはいけないと、そう必死にもがいた精一杯が彼の名を呼ぶだけの抵抗だったのだ。全くの無意識の、なんの飾り気もない言葉。幼子が駄々をこねるような、男らしくない負け惜しみ……だからこそ、それに続けた言葉もまた――――

  「一緒じゃなきゃ、いやだよ………………」

  心からの、幼い彼の本心だったのだ。

  「――ッ!!フルフィンッ、フルフィン…………!!!」

  どんな愛撫も、どんな締まりの良い穴も、こんなにも情欲を掻き立てられることはなかったのに。ただの囁きが……フルフィンの零した一雫が、こんなにも胸を熱くさせるなんて。

  初めて跪いたあの日に交わした握手。振る舞った朝食を美味しそうに食べるお前の笑顔。肩に乗せ、共に眺めた夕焼けは、あんなに綺麗だった……

  失くしたくない。一つだって忘れたくない。まだ、お前と紡ぎたい――

  「俺もだッ……俺も、お前が良い…………!こんな汚れた俺を、好きだと言ってくれるお前が……ずっと、ずっと――――!!」

  焦らして焦らして、押し潰して……結末は、絶頂か気絶のどちらかにしてやろうと考えていた。けれども、ああ……計画は失敗だ。

  止まらないんだ。瑞々しい肉に擦り付ける腰遣いが。抱きしめたいという気持ちが。……お前を思う、愛が。

  「――――――ッ!!!――――――――!!!!♡♡♡」

  マズルに鼻を捩じ込む。肺を押しつぶすくらいに抱きしめる。俺とお前の間に、隙間なんて欲しくないから。

  犯す。犯す。お前の為に。お前といつまでも共に生きていく為に。

  ああ……。だとしたら、コレは……俺の知らない、この胸の暖かさは…………

  「――――ッガァァァァァァァッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!!!♡♡♡♡♡」

  お前が運命の相手なんだと、魂が叫んでいるんだな――――

  [newpage]

  ――――ボビュルルルルルウウウウウッッッッ!!!!!♡♡♡ビュルルルッッ!!!ドビュルルルルル!♡♡♡ドクンッ、ドックンッ、ドックンッ……ドルルンッ♡♡♡ブリュリュッ……ブピッ……♡♡♡ぼたた…………

  「お゛ぉぅ゛ッ゛!!!!♡♡♡ん゛ぉ゛ッ、お゛ぉおお゛お゛お゛ォ……ッ゛!!!!!フルフィンッ、フルフィンッ…………グゥゥッ、まだッ、出るゥ…………ッ!!!」

  極太の竿が大きく膨らみ、どてんと垂れ下がっていた睾丸はググッと持ち上がる。加速し続けた腰振りが途端にブレーキをかけて……滝のような射精は、愛する者を濃厚な所有物の証で染め上げた。

  「ハァーーッ…………ハァッ、ハフッ…………」

  精力に満ち溢れた野獣の射精は、バケツ2杯でも収まらない。フルフィンの胸とマズルは当然のように精液浸し、ヘッドボードも大惨事。ドバドバと木材にぶつかった精液は好き放題に部屋中に飛散して、フルフィンが愛用してきたあらゆる家財はグランドの白濁に染め上げられてしまっていた。

  「……すげぇ量が出たもんだ。昨日あんなに抜き散らかしたってのによ。これ全部が、お前に孕ませたくて作られたザーメンなんだぞ。分かるかフルフィン、俺がお前を思う気持ちが…………」

  「ァッ゛…………!!♡♡♡ン゛ヒッ♡♡♡ぉ゛、ヘェ゛ッ……………………♡♡♡」

  ピク、ピク…………

  「ふん、結局気絶しちまったか。後継ぎにあるまじきひでぇ顔だなぁ。俺ぁお前のケツも乳首も、チンポも責めちゃいねぇってのによ……」

  怒涛の白濁流に飲まれて気をやってしまったフルフィンは、到底人には見せられない顔で破顔したまま痙攣していた。ニオイと摩擦、『グランドに犯されている』という実感だけで、彼は意識を手放すほどの壮絶な絶頂を味わっているのだ……律儀にグランドの命令を守り、開脚したままで。

  ぴゅッ♡♡♡ぴゅるるぅ〜ッ♡♡♡

  「……気持ちよさそうにしゃくり上げやがって。こんな射精、とっくに慣れっこだってか?」

  どんな淫売だろうと、フルフィンが優秀であることに変わりないのだ。狼の血筋は忠義に厚く、それ以上に愛に熱く……グランドへの敬愛を、フルフィンは必死に守ろうとした。

  「……ありがとう、フルフィン。お前のお陰で、俺はようやくヒトを愛せるんだ……」

  異常なまでの性欲、強烈すぎるフェロモンによって故郷を追われた彼は、帰る家なき旅路を、自分を受け容れられる相手を探す旅と言い換えた。

  魔物討伐の報酬に頑健な若い雄を求め、自分の運命の相手を求め続けた彼は、『伴侶探し』の性行為で、抱いた雄<メス>が理性を失う瞬間を何度も見た。

  ただ前戯に乗り出しただけで、ただ服を脱いだだけで……強すぎるフェロモンは、ただ愛し合いたいだけの男のお見合いを一方的な蹂躙に変えてしまう。世界の中心たるこの国でも、彼を受け入れられる者は誰1人として見つからなかったのだ。8年前、グランドはこの国で全てを諦めてしまった。

  「俺に愛を知る権利なんかねぇと、とっくに諦めたはずなのによ。なぁ、フルフィン……俺がどんなにお前を愛していたか、いくら語っても足りねぇぞ…………」

  失意の中、彼はレヴィン家に拾われた。彼が旅路の中で築き上げた名誉が公爵の耳に届いたのだ。どうせつまらない余生だと自暴自棄になっていた彼は、その誘いを受け入れて……そうして出逢った跡取りは、宝石のように輝いていた。

  ……愛おしかった。見上げるその丸い瞳が、美しい毛並みが、背伸びして本を覗き込む、小さな横顔が。

  ……守ってやりたかった。抱きたいだとか、自分のモノにしたいだとか、そんな自己中心的な感情ではない。ただ、健やかに育ってほしかった。逞しく、病を知らず、幸せに生きてほしい。それがグランドの人生の、最後の望みのはずだった。

  「本当に、ウマそうに育ちやがって…………♡」

  その未来を守るためにも、自分が手を出すことなど許されないと知っていた。どんなに自分好みのオスに育とうとも、決して手出ししてはいけないと何度も自分を戒めた。何人たりとも逆らえないフェロモンを携えながら、それを使ってはいけないと、何年も、何年も。

  今なら分かる。その苦しみこそが、その狂おしいほどの葛藤が、探し求めた愛の証だったのだと。

  「さあ、目を覚ますんだ。お前の運命のツガイが、お前を愛してやりたいとこんなにも疼いているぞ…………」

  けれど、もう何も我慢する必要はない。フルフィンは耐え抜いたのだから。あんなにも犯されたがっていた快楽の信奉者は、けれどグランドを思う気持ち一つで気絶するまで耐え抜いてみせた。尻の下に敷いたフルフィンは、十分に頑丈であると証明してくれたのだ。

  気絶してもなお、スラリと伸びたマズルは美しく、逞しく……その肉体は、好きなように愛して良いのだ。自分の持ちうる愛情表現の全てを、惜しげもなくぶつけて良いのだ。

  「……褒美だ、フルフィン。好きなだけイけよ。」

  ――だから。最も清くあるべき顔を、最も汚れた足で踏み抜き、最も臭い足汗をこれでもかと擦り付けてやろう。それが自分の知っている、最大にして最高の喜びを与える術だから。

  なんとも歪な愛のカタチだが、コレで良いんだ。

  「…………ククッ♡」

  旦那<オレ>も嫁<オマエ>も、どうしようもない変態なんだから。

  ――ぶっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ッ゛ッ゛ッ゛!!!!♡♡♡

  「――――ッ゛ホォ゛ォ゛ッ゛!!??♡♡♡あ゛ッ゛、くさ゛ッ゛♡♡♡くっ゛っ゛っ゛っ゛さ゛ぁ゛ッ………………゛!!♡♡♡♡」

  逃げ場などない。この腐敗した豆のような凶悪なニオイは、狼のマズルを首元まですっぽりと覆える程に大きな布地に染み込んでいるのだ。反射的に首を捻ろうと、あまりの臭気に息を整えたくとも、どこまで逃げても鼻先は布地に覆われたまま。何しろマズルに擦り付けられる布地は、ツガイを絶頂せしめんと悪辣に責め立てているのだから……

  ギトッ……グリグリッ、ジワァ…………ぶっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ッ゛!!!!

  「はぎぃッ゛!?!?♡♡♡く゛さ゛ッ゛♡♡♡くっっさ゛ぁ゛ッ゛!!♡♡♡♡♡ぁッ、ダメッ、ダメダメダメ…………イ゛くッ、イ゛っちゃうぅッ゛!!!♡♡♡イってしまったらわたひは、わたひは…………ぁぇ?♡♡♡」

  「……いいんだぞ、フルフィン。お前はもう好きなだけイっていいんだ。何しろ……『俺が』、こんなにもイかせてやりてぇんだからなぁッ!!」

  ――むっぎゅううううううううう…………ッッッッッ!!♡♡♡ズリュッ、ズリュンッ!!♡♡♡グリグリッ、ゴシゴシッ♡♡♡ぶっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ゛ッ゛ッ゛!!!♡♡♡♡♡

  どれだけ彼が必死だったのか、どれだけ辛い思いをしたのか……ツガイを見極めるために強いた苦しみを許して貰う手段など、グランドはこれ以外には持ち合わせていなかった。

  ――お前が許してくれるまで、何時間でも嗅がせてやる。イかせて、イかせて、イかせてイかせてイかせまくって……そんなトラウマなど2度と思い出せないくらいに、限りない愛情を注いでやろう。

  「あ゛へッ…………!!♡♡♡は、はッ♡♡♡グランドッ、グランドぉ…………ッ♡♡♡好きッ、好きッ、好きぃ………………♡♡♡」

  けれども二人は運命のツガイ。そんな不要な思い出など、もう一嗅ぎであっという間に雲散霧消してしまった。

  たった数十分ぶりの足のニオイは、まるで故郷を思い出すかのような懐かしさすら覚えてしまう。いつもは怯えながらに嗅ぎ漁っていたニオイは、赦しを得た今ならば幾らでも堪能出来る……意識を取り戻した刹那に感じた愛しいニオイは、そんなメッセージすら伝えてくれていた。

  「おはよう、フルフィン。どうやら意識はしっかり保てているようだな。」

  「グランドぉ…………♡わらひはぁ、耐えられたのか…………?♡ずっと、限界でぇ……スンスンッ…………ぉ゛ッ゛…………♡♡♡何がどうなったのか、私にはさっぱりなんだ…………」

  「……さあな。何しろご覧の有様だ、お前がイっててもわかりゃしねぇよ。」

  フルフィンがわずかに腕を上げようとすれば、ドロリと重たい粘液がそれを拒んで離さない。顔も、胸も、股間も……辺り一面、自分では出せない黄ばみを孕んだ白濁に侵され尽くしていた。

  「なっ……!!私はイってしまったのか!?ねぇ、グランド……!はっきりしてくれないか…………」

  「……わからねぇと言ってるだろう。それを感じ取れるだけの余裕も無かった上に、わざわざ感じる気にもなりゃしなかったんだからな。」

  「そ……それじゃあ………………♡」

  ぶっきらぼうな言い方で、バツがわるそうに顔を背けて……けれどフルフィンは見逃さなかった。仏頂面のむくれた顔に、確かに朱が滲んでいるのを。

  「……もう2度と、お前に優しくしてやらねぇぞ。俺のやりたいようにハメて、俺が満足いくまで嗅がせてやる。『こんなに激しいと思わなかった』なんて、泣き言言っても離してやらねぇからな。」

  「あ…………♡はひ…………♡♡♡」

  それが彼なりのプロポーズだと、刹那の内に理解できた。だから、きっと……私たちは、お似合いの夫婦だと思うんだ…………♡

  「――嗅げ。お前の大好きな旦那様の、クッセぇクッセぇ足の臭いだ。」

  グランドからの……ううん、ご主人様からのはじめての命令だ。

  そんなご褒美のような命令、私は言われなくたって…………♡

  「あへッ゛♡♡♡は、ん゛ぉ、ひッ゛…………♡♡♡スゥゥゥゥゥッ…………ぁ゛ッ゛、ゲェッ゛!!♡♡♡お゛ぇッ゛、ひぐッ…………♡♡♡ん゛ぅぅぅぅぅッ゛♡♡♡♡♡」

  初めてだ。こんなにも清々しい気持ちで彼の足臭を堪能できるのも、こんな大音量の嬌声を抑えずに撒き散らせるのも。

  (臭ッ゛さ♡♡♡くさすぎ…………ッ♡♡♡♡♡あぁっ、グランド……♡♡♡どうして貴方の足裏はこんなにも蒸しているんだい?♡♡♡ブーツなんて、遥か昔に脱いだはずなのに…………♡♡♡)

  相変わらずの、あまりにも強烈な発酵臭。通気性最悪のブーツで蒸らされ、脂汗の熟成された強烈な足のニオイは、今も生産され続ける新鮮な足汗と混じり合い、これ以上ないほどに濃厚だ。

  何度嗅いでも、やっぱり好きで好きでたまらないニオイだった。けれど、なんだかいつもより大好きだ。

  染み込んだ生地の奥の奥までを完膚なきまでに鼻腔へと捩じ込まれ、どんなに鼻が痛くなろうとも、押し込んだ布地からじわりと滲み出た足汗が、どんなに目に染みようとも……開いた目も嗅ぎ漁る鼻も、二度と閉じたくないと思うほどに愛おしい。

  吸い込んだ臭気の粒一つ一つが、腹の奥で至上の快感を爆発させていた。

  「トびそうなくらいクセェだろう。だが、それがたまらねぇんだよなぁ……?たっぷり嗅いで、味わって……二度と俺が消えなくなるまで、徹底的に塗り込んでやるからな。」

  そんな明け透けな好意の表明が愛の連鎖を育むのだ。

  未だ自分でも顔を顰める強烈な足の発酵臭を、世界中でただ一人だけ愛してくれる人がいる。その事実がどれほど彼を興奮させるのか、どれほど彼を救うのか……フルフィンはきっと、それをグランドから告げられることはないだろう。愛し合う二人には、暗い過去など必要ないのだから……

  「――脱がせてみろ。きっとお前なら気に入るさ。俺の逞しい足裏は、さぞかし舐めごたえたっぷりだろうよ…………」

  「脱がッ…………!!♡♡♡はっ、はひっ…………♡♡♡貴方様の、仰せのままに…………♡♡♡」

  すっかりグランドに屈服したフルフィンは、既に彼の言いなりだ。今の蕩けた頭なら、グランドの命令一つあればきっと国すら裏切ってしまえるだろう。けれど……ああ、なんて幸せな駄犬か。彼に下される命令は、変態犬にお似合いの下品なものばかりなのだから。

  「おぉ……?お前、そこまで…………」

  だったらせめて、期待を超えて差し上げなければ。

  そんな奉仕精神が導き出した答えは、手を使わずに脱がせること……あんな激臭の布地をぱくりと口に含んで、右に左に揺すりながら奥へ奥へと咥え込む。そうしてガサついた灰色を全てあらわにする頃には、布地は丸ごとマズルの中…………♡♡♡

  「ふーーッ♡♡♡ふーーーッ♡♡♡」

  足汗まみれの鼻先に、ツツ……と垂れる鼻水。三角耳はぴょこぴょこ揺れて、双眸はうっとりと蕩けて――パタパタと布地を叩く音が、尻の下から聞こえてきた。

  「こんの、バカ犬が………………♡♡♡」

  なにも不思議なことはない。天性のオスにふさわしいのは、天性のメスだけなのだ。だからこそ、この極上のメスを喜ばせる言葉は賛辞ではなく罵倒が相応しいというもの。見下して、バカにして、品位をこれでもかと貶めて…………

  「……気に入った。お前の挑発に、俺も全力で応えてやる。後悔するんじゃねぇぞ…………」

  お望み通り、目も当てられない姿に蹂躙してやろう……♡

  「ケツをこっちに向けろ。お前が汗を全部舐め終わるまで、ひたすらイジめてやるよ。」

  グランドはそう要求しながらも、自らの手でフルフィンの身体をぐいっと回した。そんな焦ったような手つきを見せるのは、出会って以来初めてだ。

  そうして強いられたのは、シックスナインのような体勢……体格差で足りない分は、当然のようにフルフィンが足元に押し込まれて補った。

  「はッ、はッ…………!!!♡♡♡ぐぅ、ぁはッ…………♡くっっっっさ………………ッ♡♡♡」

  尻を突き出し、シーツに顎を擦り付けた、実に情けない格好。だが、そんなことに一々恥じらいを覚える余裕はない。目の前に聳える黒と灰色の巨塔が、凄まじいニオイを放っているのだから……♡

  「ほら、さっきの芸を見せてみろ。上手にできたらご褒美だ。」

  「は……はひッ♡♡♡」

  辛抱堪らずもう片足も脱がせればあら不思議、大好きな足臭の発生源は4つに増えてしまったではないか。顎下に一つを敷いて、もう一つはマズルに載せて、あとの、2つは………………♡♡♡

  ――むっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ…………!!♡♡♡

  膝を曲げたグランドは、サービス精神たっぷりに足裏をフルフィンのマズルに向けて、挟み込むように見せつける。モゾモゾと動く足指の動きは、足裏狂いの変態にとっては挑発そのものだ。そんないやらしい光景、もう、我慢できない…………♡♡♡

  「い……いただきまひゅ…………♡♡♡」

  刃を受けた鎧のように深くシワの刻まれた足裏は、艶かしくゆらめく足汗をたっぷりと蓄えていた。

  ヌヂヌヂと粘っこい音を立てて互いに擦り合う太指に、まずは、ご挨拶を…………♡

  ――むちゅッ♡♡♡んぢゅっ、ずちゅぅぅ……ッ♡♡♡

  「ひぐッ♡♡♡ん……ぶちゅッ♡♡♡はぐッ……れろッ、じゅるる…………ッ♡♡♡」

  あぁ、なんてくっさい…………ッ♡♡♡グランドの足臭が、グランドの体温を纏って鼻にまとわりついてくる。強烈に饐えた足裏は、舐めても舐めても和らいではくれなくって。シワの深い足裏の段差、毛深い足の甲の蒸れ、立ち昇る蒸気の黄ばみっぷりも、決して錯覚ではないのだ。野生の力強さが溢れんばかりの足臭に、心から、カラダが屈服してしまう…………♡♡♡

  「フゥーーーッ…………。」

  深く深く息を吐き、目を瞑るグランド。それが滾る情欲を我慢する雄の所作なのだということは、もはやいう必要もないだろう。

  まだ、食い散らかすには早い……何せ8年も我慢したのだ、おいしく食べるための少しの手間は、今更惜しむ必要もない。

  「……少し腹が冷えるぞ、我慢してくれ。」

  「ふぇ……?♡」

  一方的な警告を告げると、グランドはボソリと何かを呟く。そうして浮かび上がったのは、青白い光を放つ水の球……円を描くように両手を回せば飴玉サイズに圧縮されて、グランドの指先によってフルフィンの尻穴にねじ込まれた。

  「ぁッ……!!なにを、う゛んんッ゛!?♡♡♡」

  「中を綺麗にしてやる。俺はお前の全てを愛してやれる自信があるが……この後に口付けするのは、俺好みの汚し方じゃないんでな。」

  たぷたぷと水いっぱいに膨らむ腹が、1人でにかき回される。決して不快ではないけれど、違和感のある不思議な感覚……それが魔術によるものだと、フルフィンはようやく理解した。

  一体いつからこんな魔術が使えるようになったのだろう?そんな疑問を浮かべられる程度には、フルフィンもグランドのフェロモンを乗りこなすことができるようだ。

  「……こら、舌が止まってるぞ。コイツが欲しいんだろう?勤勉に働いてみせろ。」

  戯れに腹をグリグリとねじる極太のいやらしさたるや。第3の腕が鼻ならば、この雄竿は第4の腕。水の冷たさを外側から温めるように、ずりずり、グリグリと擦り付けて、職務を忘れた駄犬に立場を思い出させてやるのだ。

  「……ッ゛!!♡♡♡はぐッ、んじゅッ…………♡♡♡」

  急かすような、諭すようなマッサージ。ボコボコと浮き出た美しい腹筋を内から外からこねくりまわされ、自分の身体は既に自分のものではないのだと改めて教え込まれるような気分だ。

  ――嬉しい。そのことが、とってもうれしい。グランドのモノになれたことが、グランドを主人と仰げることが、何年も夢見た空想が、現実になったことが、なによりもうれしい…………♡♡♡

  「……イイ子だ。」

  ぐるぐるとかき混ぜられていたお腹の中が、不意にスッキリと空っぽになった。あんなに高難易度だと教えた転移魔術が披露されているのだと、フルフィンが気がつくことはなかった。

  「あ…………♡」

  代わりに、彼は学んでいた。もたらされる変化の一つ一つが、ご褒美の予兆なのだと。グランドを喜ばせるほどに、その返礼は、たっぷりと…………♡♡♡

  「……腰を抜かすなよ。」

  んあ……と小さく声を漏らしたグランド。象のひし形の口から、肉肉しい筋肉器官が這いずり出る。目標は、いうまでもなく……

  「――――お゛ッ゛♡♡♡」

  ずちッ…………ヌブブブブ…………ッ♡♡♡じゅぼっ、じゅぼっ、ぐりんぐりんッ♡♡♡

  「あ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛!!!♡♡♡ふとッ、すご、いぃ…………ッ♡♡♡」

  初めての、肉の侵入…………

  硬い木製の張り型しか知らなかったフルフィンは、暖かく、柔らかく、しなやかな肉の味を知る。窄めて奥に入り込み、時には丸めて太く……初めて受け入れた他人は、とっくに自分の弱点など知り尽くしていた。

  「あ゛んッ♡♡♡そこっ、そこ…………ぉ゛ほぉ゛ッ゛!?♡♡♡にゃんでぇ、ぜんぶ知って…………ん゛ぅぅぅぅぅッ♡♡♡♡」

  グランドが一体何百何千の若い雄を食ってきたのか、カラダで理解する良い機会だろう。前立腺などあっという間に潰されて、結腸も好き勝手にほじくられて……けれどこの蹂躙は、グランドにとってはただのサービスでしかない。この太ましい肉の抽迭は、本番の予行演習に過ぎないのだから。

  「あ゛ぁッ゛♡♡♡臭ッ♡♡♡……んぢゅッ♡♡♡はぐッ、レロぉ…………」

  ご奉仕がしたい。けれど、カラダがうまく動かない……♡

  腰を抜かすな、だなんて……こんなにいやらしくイジメておいて、そんなのあまりに酷じゃないか。

  (あ…………あたま、とけ、て………………♡♡♡)

  ついにシーツに預けられてしまった顎。マズルの先、艶めく鼻先だけがヒクヒクと絶えず動き続けていた。

  ……じゅぽんッ♡

  「ふぅーッ…………もういい、フルフィン。舐めるのをやめろ。」

  そんな情けないツガイの姿を、グランドが見過ごすはずもなく。

  「あっ……!?も、申し訳ありません!!!私は、貴方に与えられるばかりで、奉仕するのを忘れて――――」

  [newpage]

  「……もう、我慢できねぇ。お前を、孕ませてやる…………♡」

  自分の一挙一動に全身で快感を表現するメスの姿など、交尾が生き甲斐のアルファが嫌うはずもないのだ。ツガイへの最上級の賛美は、無自覚なメスにそっくりそのままお返ししてやらなければ。

  「全身可愛がってやる。俺が刻まれてない場所なんざ、ものの数分で無くしてやらぁ…………」

  「ぁ――――――――――!!!!♡♡♡」

  強引で、自分勝手で……自分の知らないグランドがそこにいることの、なんと喜ばしいことか。背面座位の体位に無理矢理抱き上げられたフルフィンは、しとど濡れた肌と剛毛の暖かさを思い出す。マズルに載せた靴下がずり落ちてしまっても、寂しさなんてこれっぽっちもなかった。

  「フルフィン……」

  「グランド……♡」

  久方ぶりにまみえたマズルは、強烈に臭い足汗に塗れて酷い有様だ。美しい毛並みに染み込む、卑しい自分の臭い汗……それに喜び頬を緩めるお前が、愛おしくて…………

  「ん……♡むちゅッ……はぁっ、はぐ…………んんっ…………♡♡♡」

  どちらからともなく触れ合う唇。まっすぐに射抜く凛々しい眼差しは、うっとりと目尻を下げていて。

  ああ、なんて愛おしい。その目が、その耳が、そのマズルが、愛おしくってたまらない。欲しくて欲しくてたまらなかったのだ、こんなふうに愛し合える、たった一人のツガイが。

  ちゅぽ…………

  「……ふぅ。ったく、いつの間にこんな淫乱に育ちやがったんだ?何べんも食ってやりてぇとは思ったが、こうも俺好みだと却って気味が悪りぃ……まさか、俺を追放するための演技じゃねぇだろうな?」

  「ちっ、違います♡♡♡私は、貴方だけのメス犬です♡」

  「……そうだ、それでいい。お前は俺にカラダで奉仕し、俺はお前を死ぬまで可愛がってやる……それが俺たちの愛の形だ。オメェには想像もできねぇような汚し方、来る日も来る日も叩き込んでやる。」

  暴力的な愛の言葉が、グランドからの最後通牒だった。

  世界最強の雄による本気の蹂躙劇が、今、始まる。

  「……挿入れるぞ。」

  頭上から降り注ぐ、深く腹の底に響く命令文。

  興奮、期待、恐怖心……色々な感情は、ギュッと抱きしめる腕が丸ごと安心に変えてしまった。

  「ぐッ…………ん゛ぅぅぅぅぅ………………ッ゛」

  彼が入り込む感覚。彼を受け入れる感覚。破瓜の痛みすら愛おしい、初めての、セックス…………♡

  「痛むか?」

  「う゛ッ……ううん、全然、平気だ…………」

  「……そうか。なら、進めるぞ。」

  つくづく優しいヒトだ。グランドには、私の強がりなどお見通しだったろうに。彼もきっと、私と同じ気持ちなのだろうな――――

  …………ミヂッ。

  「う゛ッ………………!!」

  ………………メ゙リ゙メ゙リ゙メ゙リ゙メ゙リ゙ィ゙ッ゙!!!

  「かッ、ハ…………………………!!!」

  熱鉄が私の胎を焼き尽くす。爆ぜそうなほどの圧迫感が肺を押しつぶすほどに意識が飛びそうになり、限界の近い菊紋の痛みすら霞みゆく。

  「どうか、やめないで……もっと、奥まで………………!」

  カラダは悲鳴をあげている。けれど、それがなんだというのだ。埋没していく1センチが、押し拡げる1キロが、お腹いっぱいに満たしてくれる1リットルが、8年間も欲しかったのだ。

  お互いに、欲しくて仕方がなかった。だから、この初めては……

  ――ぐぽッ♡♡♡

  「お゛ひッ゛……………………!!??♡♡♡」

  奥の奥まで、貴方で埋め尽くして欲しかったんだ。

  「…………よく頑張ったな。」

  「は、ぁは………………♡♡♡」

  うっとりと自分のお腹をさするフルフィン。鍛え上げた腹筋は、内側から押し上げる極太によって影も形もなく消し去られていた。

  ヘソ上でぐにゃりとヘアピンカーブを描くその痕跡は、結腸を雄竿がぶち抜いたことの証明だ。フルフィンの腸<ナカ>のカタチを展示するかのように、グランドのペニスがどこまで届いてしまったのかをフルフィンに見せつけていた。

  「はっ、はっ…………すご…………♡まるで、妊娠してしまったみたいだ…………♡♡♡」

  まだ全長を収め切れてはいないけれど……自分がグランドの所有物なのだと永久に刻み込まれるのに、この深々と突き刺さった質量は十分に意味を成すだろう。こんな奥深く、グランド以外の誰にも犯せやしないのだから。

  「……ふっ、大蛇の子でもあるまいし。お前が孕むのは、雄臭い象の子供だろう……?」

  鼓膜を揺らすバリトンボイス、熱の籠った吐息が首筋を吹き抜けて。楔を打たれた雄膣は、なおもヒクヒクとねだってしまう。結腸を抜けた瞬間の、えもいわれぬ充実感を、もう一度…………

  「はやく、はやく……私を、犯してくれ…………♡♡♡」

  「バカ、今動いたら破れるぞ。しばらく我慢しろ。」

  だが、忘れてはいけない。

  どれだけ快楽の触手が胸を撫でようとも、剛槍が腹腔を貫こうとも、肉肉しい生の感触が雄竿に吸い付こうとも……そのどれもが、ただの脇役でしかないのだと。いつだってフルフィンの黒目を隅に追いやるのは、グランドの濃すぎる体臭なのだ。

  「コイツをくれてやる。俺が旅した40年分が全部染み込んだブーツだ。今回だけは、もし気絶しちまっても見逃してやるよ…………♡」

  臭い。臭い。どこを向こうと、臭い……♡臭すぎる汗の臭いが、蒸した皮脂の薫りが、どれだけ嗅いだって色褪せない、濃すぎる雄のフェロモンが…………

  ――ぶっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ゛ッ゛ッ゛!!!!♡♡♡

  「――お゛ぇぇ゛ッ゛!!??♡♡お゛へぇ゛ッ♡♡♡くさ゛ッ゛♡♡くっっさ゛ぁッ゛!!!♡♡♡臭すぎるぅ…………ッ゛!!♡♡♡」

  一瞬で、有象無象になってしまった……♡♡♡

  「そのブーツの内側はな、これまで一度も洗ったことがねぇんだ……さぞかしひっでぇニオイがしてんだろうなぁ?想像するだけで身震いしちまう。」

  絶頂から降りることは、マズルに嵌められたブーツの極悪な足臭が許さない。

  毛羽だった靴底に染み込んだ脂汗の発酵臭に、なめし革の古ぼけた薬剤の香りが混ざり合った複雑な香りが鼻を突き抜けた。使い込まれた年月分の使用感や生活感、湿気にカビた咳き込みたくなるニオイも遅れて突き刺さり、さながら熟成された酒樽のようなスモーキーさすら覚えてしまう。

  なんと芳醇な香りだろう……こんなクッサい足のニオイ、自分だけが独占して良いだなんて…………♡

  「〜〜〜〜〜ッ゛ッ゛ッ゛!!!♡♡♡♡あ゛、お゛へぇ゛ッ゛♡♡♡♡すきッ、好きぃ…………ッ♡♡♡こりぇ、しゅご、ぉ゛ほッ………………♡♡♡♡♡」

  いつまでもジクジクとこびりつくようにねちっこい発酵臭は、フルフィンが吸い込む呼気の全てをグランド色に染め上げる。逃げ場などない、休憩もない。叩き込まれる快楽の全てを何百倍にも倍増させる雄臭は、これから先のフルフィンの人生の全ての絶頂を彩り続けるだろう。

  「……可愛いやつめ、好きなだけ喘いでくれよ。俺ぁな、臭ぇ臭ぇと嗚咽されるのが堪らねぇんだ。昔に掘ってやったメスどもは、口を開く前に皆気をやっちまったからな…………」

  常人ならば反抗すらできないフェロモン臭に、フルフィンは沢山の『好き』と『クサイ』を喚いて反抗する。……そう、反抗なのだ。凡庸な雄たちは、逆らう間もなく脳を捻じ曲げられてしまったのだから。それに言葉を発せるだけで、グランドにとっては堪らない生意気っぷりだった。

  「よぉし、だいぶ奥も広がったな…………そろそろ動くぞ。」

  だから……そんな生意気なガキ、わからせない訳にもいかないだろう?♡

  「…………はぇ?♡」

  ぐぐ、グググッ…………

  フルフィンの両腿を抱き抱え、胸に背中を預けさせる。されるがままに持ち上げられるフルフィンは、まるで雄竿を彩るアクセサリーのようだった。

  「張り型の味なんぞ知りやがって……材木に嫉妬するなんざ初めての経験だ。こりゃあ、俺でなきゃ抉れねぇトコ、しつこいぐれぇにイジメてやらねぇとなぁ…………?」

  「ぉ゛ごッ゛♡♡ごえんなひゃ…………ひぎぃぃぃ゛ッ゛!!??♡♡♡」

  尻穴狂いに落ちぶれていたフルフィンですら知らない性感帯は、初めて自分を掘り込むはずのグランドだけが知っている。結腸の奥のみならず、その手前の輸精管も前立腺も、グランドにしかできない抉り方などいくらでも用意があるのだ。無骨な竿で押し潰し、いやらしくグリグリと円を描いて……初めての角度で押し潰された雄のGスポットは、たまらず精液を押し出した。

  「お゛ほぉ゛ッ゛……………………♡♡♡♡♡」

  「おーおー、あっという間にイきやがって。堪え性のない奴だ……本当に、堪らねぇなぁ…………♡」

  鈴口をヒダが撫でる感触にぶるりと背筋を震わせて、愛する者の全てを征服する感覚に、グランドは人知れず舌をべろりと舐め上げた。

  ――もっと奥まで刻み込みたい。そんな独占欲が膨らんだのも、至極当然のことだった。

  「お゛ッ゛!!!??♡♡♡♡♡」

  最奥……そう思っていた場所を、グランドの極太が通り抜けていく。ミヂミヂ、ギチギチと、生存本能に穴をブチ開けるような侵入は、ただフルフィンを絶頂させることだけを目的としていた。

  「お゛ほッ゛!!??♡♡♡な゛ッ、あ゛ひッ゛!?♡♡♡ダメッ、ダメダメダメぇ…………ッ!!!♡♡そんにゃとこぉほッ♡♡♡入っちゃ…………ん゛ぅぅぅぅぅッ゛!!??♡♡♡」

  ミヂミヂミヂィ…………ッ!!♡♡♡

  S字結腸のヘアピンカーブをグイグイと押し広げながら突き進み、狼の腹腔は象の野生的なイチモツに我が物顔で占有されてしまう。

  蛇腹のように折れ曲がる肉竿と聞けば、一般的なペニスと比べれば柔らかく思えるかもしれないが……実際は真逆だ。折れ曲がった分、圧迫された血流が海綿体を押し広げることで、ドス黒い肉槍は奥へ奥へと曲がりくねるほどにどんどんと硬さを増して行くのだ。

  「忘れたのか?俺のチンポは自由に動かせるんだ……お前の膣内<ナカ>ピッタリに曲げてやれば、触手生物でもなきゃ抉れねぇトコまで簡単にイジめてやれる。俺の交尾にゃピストンなんざ必要ねぇってこと、たっぷり教えてやるよ……」

  グボンッ♡♡♡グポッ、グポッ♡ゴツンッ、ゴツンッ、ぐりぐりぐり…………むぢゅぅぅぅッ♡♡♡

  「ほッ゛…………♡♡♡お゛ごッ゛!!??♡♡♡はぇッ゛……?♡♡♡ん、ぎひッ゛…………???♡♡♡」

  腹の奥に我が物顔で居座る大蛇は、曲がりくねって寄り添う風を装いながらも自分勝手に壁をミヂミヂと拡げていった。

  ……苦しい、はずなのに。奥まで極太を捩じ込まれても、この一瞬一瞬を『耐え凌ぐ』なんて感覚はまるでしなかったんだ。

  「ぁ、は………………♡♡♡」

  ――快感。泣きたいくらいにいっぱいで、吐きそうなくらい満杯で。なのに、なのに……気絶しそうなくらい、気持ちイイ…………♡♡♡

  「ふん、すっかりキマっちまいやがって……俺への奉仕はどうしたんだ?んん?中をグチャグチャにかき混ぜてもらったら、せめて感謝ぐらいは示すべきじゃねぇのか?」

  「あ゛ぇッ♡♡♡あぃがとぉ、ごりゃいまひゅうっ♡♡♡うえ゛ッ゛♡♡ほげッ゛♡♡♡」

  腹側を抉り、背中側を押し込み、右に左に波打って、果ては前後に伸縮してのピストン……頭の中をハテナだらけにされながら、フルフィンはだらしなく涎を垂らして快感を享受する。その言葉遣いも、洪水のような鼠蹊部も、品性などかけらも感じられやしなかった。

  こんな一方的な蹂躙が、一切体を動かすことなく自在に行えてしまうのだ。グランドには体位など関係無い。いついかなる体勢だろうと、フルフィンには壮絶な中イキの嵐が襲いかかる。

  「……ほら、どうした?鼻呼吸が止まってるぞ。せっかくの初夜に口呼吸なんざ、一生許してやらねぇぞ……?」

  それがもたらす恩恵は、単に体力が温存できるというだけに留まらない。愛撫に意識を割けること、無理な体勢でも犯せること、それらは体格差の大きい2人にとってはとてつもないアドバンテージなのだ。腹の奥を犯しながら、その胸に抱いてやれる……それがどんなに愛を深め、どんなに逃げ場を奪うのか、数多の若雄を壊したグランドにはそれが良く分かっていた。戯れに鷲掴みにしたブーツが、どれほど極悪な責めになるのかも。

  「お゛ッ……ひ゛ぃッ♡♡♡あ、あ゛、あ゛!!!濃いッ、濃いッ……グランドが、いっぱいぃ…………♡♡♡」

  昼下がりのカップルの穏やかなハグのようにも見える背面座位。けれど誰もが気がつくだろう、近付くほどに濃くなる体臭に。近付くほどに大きくなる水音に。近付くほどに鮮明になる、ボコボコと変形する狼の腹筋に。

  聞こえる音はグランドのもの、触れる体温はグランドのもの。滴る汗はグランドのもので、腹を満たすのもグランドの雄竿。鼻腔を焼き尽くす発酵臭が脳にジクジクと染み込んで、視界のないフルフィンにもその姿が見えてしまう……元より大きな背格好が何倍にも膨れ上がった、逆立ちしたって勝てやしないほど強大な雄のシルエットが。

  「おいおい……せっかくチンポ捩じ込んでんのに、ニオイだけでイきやがったな……かわいいぜ、フルフィン。もっとグシャグシャになった姿、俺だけに見せてくれよ……」

  腕力も、知力も、魔力も何もかも……グランドにとってはただのおまけに過ぎないのだ。彼の本質は、ただただ強すぎる雄らしさ。そのニオイでメスを組み伏せ、有り余る精力を叩き込む性のケダモノ。極寒の極北の地で命を繋いだ遺伝子は、野生の薄れた現代にはあまりにも強すぎるのだ。遍く雄を排斥せしめんほどの雄臭さは、幸か不幸か……いや、紛れもない幸福を、ただ1匹のメスへと注ぎ込んでいる。

  「そうだ、もっと俺を感じろ。お前のナカが俺のカタチに変わっていくのを感じるんだ。お前が俺を締め付ける度に、俺もお前を抉ってやるからな…………」

  彼の交尾は、その有り余る性欲に反してあまりにもねちっこすぎる。互いにちょうど良く、即ち同時に精巣を空にするつもりならば、フルフィンが1度射精する毎に10倍は放精していなければならないというのに……実際の比率は100:0だ。そうとくれば、彼がこれまでの交尾で不完全燃焼だったのも頷けるだろう。

  「――――――ッ゛!!!!♡♡♡――――――――√﹀\_︿╱﹀╲/╲︿_/︺╲▁︹_/﹀\_︿╱▔︺\/\︹▁╱﹀▔╲︿_/︺▔╲▁︹_/﹀▔\⁄﹀\╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿_/︺▔╲▁︿/\︿╱\︿︹︿╱﹀╲/╲︿_/︺╲▁︹_/﹀\_︿ッ゛ッ゛ッ゛!!!!♡♡♡」

  ガクガクッ♡♡♡ビクビクビクビクゥッ♡♡♡♡♡

  「おぉ、メスイキできたじゃないか。奥でイかされるのはどうだ?頭の中が空っぽになるだろう。脳が空いた分だけ、俺のニオイを捩じ込んでやるからな……」

  彼はひたすらにイかせ好きである。カラダがうずうずと吐精の時を待ち侘びようとも、彼の心は抱いた相手をイかせることでしか満たされてくれないのだ。

  極悪な足臭は過剰に嗅がされ続けて、たった一滴で存在そのものをグランド色に染め上げる汗は何時間もかけてじっくりと獲物の肌へマーキングされるのが当たり前。今でも世界の各地には、彼の残り香を追い求めて狂ってしまった雄の残滓が残っていることだろう。

  だが、フルフィンがその列に加わることはない。だからこそ、彼が運命の相手なのであって……だからこそ、こんなねちっこい交尾を楽しめるというわけだ。

  「惜しむらくは、お前を俺好みに育てる楽しみが終わっちまってたことか。……エロガキめ。こんなモロ感のデカ乳首、一体何年かけて育てたんだ?んん?」

  臆さず乳首に手を伸ばせるのは、フルフィンの見せた頑丈さの賜物だ。尻とマズルの蹂躙に加えて乳首まで責め立ててしまえば、これまでの犠牲者たちはあっという間に再起不能に陥っていたのだから。

  ああ、なんて楽しいのだろう……イかせても、イかせても、まだまだ深く沈めてやれるというのは…………♡♡♡

  「√﹀\_︿╱﹀╲/╲︿_/︺╲▁︹_/﹀\_︿╱▔︺\/\︹▁╱﹀▔╲︿_/︺▔╲▁︹_/﹀▔\⁄﹀\╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿〜ッ゛ッ゛ッ!!!???――――――――――!!????!????♡♡♡♡♡」

  「大事な大事な成長期を、こんなメス肉育てるために費やしちまったとはなぁ…………ったく、なんつぅお手柄だよ、えぇ?♡初夜からこーんな下品なアクメ声が聞けちまうなんてなぁ…………♡」

  言葉すら出ない。だって、カラダの主導権がないのだ。いつまでも、何回も、どんどん深い絶頂<メスイキ>から、降りられない…………♡♡♡

  ウネウネと曲がりくねりながら、ズボズボと奥を抉る触手のような極太。冷めない熱を携えたまま、気絶級の激臭溜め込む履き潰されたブーツ。そんな極悪なコンビネーションに乳首責めまで加わっては、暗闇の中のフルフィンの黒目が弾け飛んでしまうのも仕方があるまい。いじって欲しいといやらしく育て上げたのは自分自身なのだ、念願叶ってしまった今、自業自得のアクメ地獄を心ゆくまで堪能しなければ…………♡♡♡

  くりくりっ♡♡♡ぐりゅっ、ぐりゅっ……ピンッ♡♡ピンッ♡♡♡

  「下品な乳しやがって……育ててやった甲斐があるってもんだ。こうして俺に揉まれてぇから、こーんなに大きくなったんだもんなぁ?」

  背後から抱きしめて、胸の前で両腕は交差。右手は左を、左手は右の淫肉を責め立てて、ギチギチと抱き締める両肩は身を捩ることすら許さない。

  摘んで、弾いて、5本指の先端でさわさわと優しく連続撫で上げ、親指の腹でつぷっと押し潰して……ぐりぐりッ♡♡♡多種多様な乳首責めは、感度が落ちることを微塵も許しはしなかった。

  「腹の奥がバクハツしそうだろう?それがメスイキだ。お前の命が尽きるまでに、後何百万回味わえるだろうなぁ…………?♡」

  ブンブンと縦に振られた首は、肯定を意味していたのだろうか?ひどく痙攣する雄膣が、メスイキの波がフルフィンを捉えて逃さないことを如実に表していた。

  (ひゅごッ…………ごりぇ、だめぇッ♡♡♡メスになるッ♡♡♡メスになりゅうッ♡♡♡)

  どこか心の奥、ひっそりと息を潜めた“男らしさ”の矜持が警鐘を鳴らしていた。跡取りを残したいだとか、そんな律儀な気持ちは当然のように捨ててしまっているけれど……鍛えに鍛えた肉体も、鍛えられない雄の象徴も、グランドの雄々しさの前では何もかも子供のようで。そんなの、情けなくて恥ずかしいじゃないか。

  そうしてヒクヒクと必死に威張って、俺を無視するなと憤慨する狼チンポは……グランドの目には、おんぶをせがむ幼子のように映っていた。

  「おぉ、悪い悪い。チンポも弄ってやらねぇと、男のプライドが傷ついちまうよなぁ。……丁度いい、暫く鼻が手持ち無沙汰だったんだよ。ケツ慣らしがてら、交尾ごっこでもしてみるか?ククッ……♡」

  ぐぷッ…………ぬぷぷぷぷ………………ッ♡♡♡

  「あ゛ッ…………はぁッ…………♡♡♡」

  ……あ。これは、ダメだ♡

  新たに手を出されたペニスの快楽など、一瞬のうちにおまけの一つに落ちぶれてしまった。乳首が気持ち良すぎる。お尻が気持ち良すぎる♡グランドの足が、臭すぎる…………♡♡♡

  グランドにされるがまな事実を実感するためだけの器官として、無駄に立派な雄の性器はオモチャのように弄ばれる定めなのだ。何故ならば、アルファがそうするつもりだから。それ以上の理由などない。

  「ほら、腰を振ってみろ。男らしいとこ見せてくれよ、レヴィン家の次期当主サマ?」

  「ひッ゛、ぁ゛…………はひぃッ♡♡♡」

  リードするだなんて夢のまた夢だ。楔を打たれた狼は、ふるふると歓喜に震える腰をヘコヘコと情けなく振ることしかできない。犯しているとは到底言えそうもない、たった数センチだけのピストン……肉と肉がミチミチ擦れるやけに大きな淫音は、どこか別のトコロの話だ。

  ぬちゅッ、ぐぷッ、にゅぷぷぷッ…………

  「いっち、に、いっち、に…………ククッ♡上手じゃねぇか。“どっち“に腰を振ってんのかはわからねぇがなぁ……?」

  「おげッ♡♡♡んひッ、ぐぇッ♡♡♡ん゛ぉッ、ひもぢ、い゛いぃぃ…………♡♡♡」

  あぁ、気持ちイイ…………チンポが、グランドのチンポが気持ちイイ♡♡♡そんなの、聞くまでもないじゃないか♡♡♡ミチミチに詰まった肉チンポが、おなかいっぱい、きもちいい…………♡♡♡

  咥え込む度に全部すり潰されて、引き抜くたびに全部が捲れあがって……これが、本物の雄チンポ♡私の粗末なモノなんて、女陰を姦通する資格はないんだ。だから、これが……こうしてメスに落ちぶれるのが、相応しくってぇ…………気持ちイイ………………♡♡♡

  「……手伝ってやろう。お前はもう、チンポなんかじゃイけやしねぇだろうしなぁ。」

  「あ、あ、あ、あ゛――――――!!!!♡♡♡♡♡」

  あぁ、とうとう腰振りすらも奪われてしまった。

  じゅぽじゅぽと吸いつかれて、牛の乳のように搾り取られて……やっぱり私はメスなのだ。私が溢す白濁は、ただグランドに飲まれるだけの嗜好品。子を孕ませる機能など、一生使い道はないのだな…………♡♡♡

  じゅぽッ♡♡じゅぽッ♡♡くりくりくりくりッ♡♡♡ごりゅんッ、ごりゅんッ♡♡♡…………ぶっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!♡♡♡♡

  顔にはブーツ、尻には爆根、メスの乳首は指遣いに負けて、不要なペニスはオナホ代わりの鼻に情けをかけられて……

  雁字搦めとはまさにこのことを言うのだろう。何もできない。何もさせてもらえない。ただただイく。イかされる……♡♡♡きもちいいが、いっぱい、あたまにはいってきて………………

  「お゛ッ゛――――――――――――!!!!!♡♡♡♡♡」

  ……ぴゅるるッ♡♡♡びゅるるるるぅ〜…………ッ♡♡♡

  「おぉ、めでてぇなぁ。一人息子の童貞卒業だ、これでレヴィン家も安泰だな?……ククッ♡」

  純血の遺伝子は、必ず番いの体内に収めよ……実にくだらない戒律だが、ついでに守ってやったのだ。これで文句を言われる筋合いもない。後は、好きなように味わうだけ……♡

  「……そろそろ、孕ませてやらねぇとなぁ?いつまでも挿れっぱなしじゃ、あっという間にガバガバになっちまう。」

  フルフィンのもてなしに気を良くしたグランドもまた、若狼に子を孕ませる妄想を止められないようだ。大きすぎる肉竿の負担は大きいからと母体<フルフィン>の身を案じる風を装って、恩着せがましく欲望を叩きつけてやろう。何せ亭主関白なタチなのだ、少しの照れ隠しぐらい、伴侶は受け入れてくれていいだろう?

  ――ズル………………ズリュリュリュリュリュゥッ!!!!♡♡♡

  「なっ……ぁッ♡ぐ、グラン…………ん゛ぉ゛ほお゛お゛お゛めぐれりゅぅ゛ぅ゛ぅッ゛!!??♡♡♡」

  竿を無造作に引き抜いて、仰向けにして押し潰す。不意の動きにマズルに嵌めたブーツが外れてしまったが、もう2度と臭いが取れることはないのだから気にする必要はない。撒き散らかしたままの精液に背中をドシャリと浸らせて、視界を灰色と黒だけで埋め尽くすように覆い被さってやる。“試験”の最中、擦り付けて屈服させた時と同じように、けれど今度は我慢せず……

  [newpage]

  ズブブブブブ………………♡♡♡

  「お゛ぉ…………」

  甘美なる征服の口どけを、ただひたすらに愉しむのだ。

  抱き潰されるメスのことなど知ったことではない。孕み袋として生涯を終え、己が遺伝子を産み落とさせる。……同性?それがどうした。俺が愛すると決めたのだ、そんなつまらない障害など、生涯をかけ、万難を排して乗り越えてみせるとも。それが強き雄の本能であり、強き雄の責務なのだ。

  ただ、心の叫ぶままに……愛する者を、抱き潰す。たかがこの世の摂理など、俺に壊せないはずはないのだから……

  「ぐぇ゛ッ゛………………ぉ゛、へぇ゛ッ゛………………??♡♡♡」

  潰れたカエルのような情けない声を上げ、なす術なく肺を潰されたフルフィン。彼の身体は、既に彼のものではないのだ。弄るも弄らぬもグランド次第、イくもイかせぬもグランド次第……とうに逆転した主従関係は、それに異を唱えることすら許さない。押し倒されたオオカミのマズルは、濃すぎるフェロモンの発生源たる胸元に容赦なく密閉されていた。

  「忘れたとは言わせねぇ。マズルから足のニオイなんぞ漂わせてやがるメスを、俺がどうしてやると言ったのか……優秀なお前なら、確実に覚えているだろう?」

  壊したいほどに犯したいと願っていた性獣は、生意気なメスの挑発にお望み通り乗ってやっただけなのだ。最後の枷を壊したのがフルフィン自身であるならば、穴という穴、性感帯という性感帯は、須くグランド蹂躙されなければなるまい。

  ぐりぐりッ♡♡♡グリュンッ、グリュンッ…………ぶっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ…………!!♡♡♡♡♡

  「お゛ぇ゛ぇ゛ッ………………!!♡♡♡く゛さッ゛♡♡♡ぁ゛、へぁッ♡♡♡グランドッ♡♡♡グランドぉ…………ッ♡♡♡」

  強烈に酸っぱい加齢臭に、激烈にしょっぱい汗の濃度、ぐらりと脳を揺さぶるのは、野生のフェロモン臭……熟成発酵したヤギチーズよりも遥かにくどくクセの強すぎる味わいに、世界でフルフィンただ1人だけが虜になれる素質を持っていた。

  これが運命でなくてなんだというのだ?指先一つ動かせなくても、鼻だけは勝手に動いてしまう。何年も恋焦がれ、何年もイかされてきたこの強烈な汗臭は、もはや心臓の鼓動と何も変わりやしないのだ。それがなければ生きられない、止めることなど出来やしない。腹腔をぶち抜く極太に息が詰まろうとも、肺が破裂する程に息を吸い込むことをやめられやしなかった。

  「スゥゥゥゥゥッ…………お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛〜〜〜〜ッ゛…………♡♡♡ぐさぁッ゛♡♡♡く゛っさ…………ん゛ごほッ゛♡♡♡こりぇッ、こりぇしゅきぃッ♡♡♡グラッ♡♡♡ンドォホッ゛♡♡♡もっど……ぉ゛ッ゛♡♡♡もっど、もっとぉッ!♡♡♡」

  孕む、孕んじゃう……ないはずの子宮が、疼いて疼いて………………♡♡♡

  太竿を歓待する雄膣は、いつの間にやらキツさを感じさせなくなっていた。むっちゅりと肉に吸い付いて、ヒクヒクと痙攣して締め付けて……もう2度と、グランド以外ではイけないカラダになってしまった…………♡

  「……ククッ♡おい、キチンと息は吐き出すんだぞ。自分で出来ねぇってんなら、俺が手伝ってやるよ…………」

  胸元に吐息を感じられない……それは嬉しくもあり心配でもある。こんな非道なプレスをしておきながら、グランドは確かにフルフィンの息災を祈っているのだから。

  ……仕方のないやつ。自分ではどうにも出来ないのなら、外から肺を押し潰してやればいいだけのことだろう?ツガイとして、伴侶は守ってやらないとなぁ……?♡

  ギュゥッ…………ギチギチギチギチギチィ…………ッ!!!!♡♡♡

  「がふッ……!?あ゛、ぁ゛ぁ゛ッ゛…………!!♡♡♡」

  ベッドごとフルフィンを抱きしめて、土台ごとギュウっと抱き潰してやる。ド級の体重がもたらす重力に加えて腕力までこもったプレスは、いくら柔らかなグランドの巨乳といえどもフルフィンの胸をペシャンコにするには十分すぎる圧力だ。フルフィンへの信頼があるからこそのパワープレーに、谷間に感じる熱い吐息が返事を返してくれた。

  「フゥゥゥッ…………そうだ、そうして吐き出して…………吸えッ、吸うんだ!!好きなだけ吸えッ、俺を嗅いでくれッ!8年も我慢したんだ、俺はまだまだ嗅がせ足りねぇぞ……!」

  愛する者を胸に抱きしめ、たっぷり溜め込んだ汗臭に溺れさせてやりながらの、全体重を乗せた肉弾プレス。容易く気絶に追いやる超重量による責め苦が、本気の性欲を携えてフルフィンに牙を剥く。

  「さあ、本気で犯すぞ……お前が俺を覚えたように、俺もお前のナカを覚えたからな。どこで曲がってやれば腸をぶち抜かずに済むのか、全部確かめ終わったからよぉ……」

  ――ゴヂュッ♡

  「ぁ――――――――――――」

  「……吹き飛ぶんじゃねぇぞ?♡」

  ――――ドゴォッ!!!ボゴッ、メギョッ!!!ゴリュゴリュッ♡♡♡ゴリゴリゴリィッ!!♡♡♡

  グランドの膂力をフルに叩き込む暴力的なピストンと、曲がりくねる象のペニスによる的確な弱点責め……それらを同時に行う種付けプレスこそが、グランドが運命のツガイのみに行うと決めていた本気のセックスだった。

  「ッ゛ッ゛ッ゛√﹀\_︿╱﹀╲/╲︿_/︺╲▁︹_/﹀\_︿╱▔︺\/\︹▁╱﹀▔╲︿_/︺▔╲▁︹_/﹀▔\⁄﹀\╱﹀▔︺\︹▁︿╱\╱﹀▔╲︿_/︺▔╲▁︿/\︿╱\︿︹︿╱﹀╲/╲︿_/︺╲▁︹_/﹀\_︿╱▔︺\/\︹▁_/▔﹀\_︿╱▔︺\︹╱﹀▔!!!!!♡♡♡♡♡」

  肉ヒダの本数まで覚えて、腸壁をガイドのように用いて、右に左に、回すようにゴリゴリグリグリ抉り取り、奥へ、奥へ、まだまだ奥へ…………そうして腰肉が打ち据えられれば、名残惜しさを感じる間もなくズルズルと引き抜かれていく。その繰り返しが、何度も、何度も……人生を捧げる雄の味を、確実に刻み込むように…………

  「ふん゛ッ……ふん゛ッ!!!どうだッ、俺の……ピストンはッ!!聞くまでもねぇかぁ?お前のマンコは、こんなに喜んでいやがるんだからなぁッ!♡♡♡」

  雄膣のカーブをいくつもいくつもゴリゴリと削り取りながら、無骨な肉の塊は我が物顔で行脚する。爆ぜそうなほどの満腹感と、排泄を思わせるほどの圧倒的な開放感のシャトルランを味わわされれば、生物として抗いがたい快感が全身を駆け抜けた。パワフルなピストンに息が詰まりっぱなしのフルフィンは、痙攣以外では応えることができない。鼻に口に内側からこびりついたグランドの特濃のフェロモンは、既に呼吸すら必要としていなかった。

  (ぎ…………ぼ、ぢ……ぃ………………ッ♡♡♡)

  一突きに全力を込めたピストンは、決して勢い任せではない。挿入は一瞬でも、後ろ髪を引かれるようにゆっくりと、味わうように引き抜いて……

  だからこそ、嫌でも感じられるのだ。自分の胎内の隅々までが、この雄竿の肉にミチミチと押し拡げられていることが。立ち去ろうとするその熱が、どれだけ愛おしいのか………………♡

  「フルフィンッ、フルフィンッ…………」

  振り子のようにぶつかる巨玉が、その振り幅を小さくしてゆく。ギュルギュルと唸りをあげて、陰嚢を縮こまらせて……それが何を意味するのかは万人の知っていることだ。

  愛しいツガイを抱き寄せる筋肉が、これまで以上のパンプを見せ始める。

  ゴチュッ、ゴチュッ、ドゴヂュンッ……!!♡♡♡

  巨尻にエクボが浮かぶほどに、芯から力の籠った腰振り。腰だけをいやらしく振りかぶり、巨腹の下敷きになって握れない手の代わりに、しとど濡れた毛束同士を絡めるように擦り合わせた。

  「お前を一生、孕ませ続けてやる…………お前は、俺のモンだ…………!!」

  肉の詰まった巨体は、水が滴るほどに瑞々しく……立ち昇る蒸気は、室内を結露させるほどに熱く濃厚に臭い立つ。フルフィンという男の歩んだ軌跡を、すべて雄色に塗りつぶすように。

  さあ、仕上げだ。容赦ないガン掘りを叩き込み、ずぶ濡れの毛皮を抱きしめて、その内側に、誓いの一撃を――――

  「俺の子を、孕んでくれぇッ!!!」

  ズパンッ゛………………

  ぶぷッ♡

  「ぉ゛……♡」

  ――ボビュルルルルルウウウウウッッッッッ!!!!!♡♡♡♡

  「お゛ぉ゛ッ!!!ふッ、グゥッ…………!!!孕めッ、孕めッ、孕めぇぇぇぇ…………ッ!!!」

  輸精のウェーブが肉を伝う。至福の時を迎えた雄は、狼の肉体を持ち上げるほどに、何度も何度もしゃくり上げた。

  ドクッ……ドクッ……ドクッ…………

  2度目の射精、それがどうした。孕ませるための本気の子種汁は、40年も前からずっと日の目を浴びていなかったのだ。まだだ、まだ、孕ませ足りない。一度の射精に出す量も、射精をする回数も、こんなものでは、愛し足りないのだ。

  ドルルンッ♡♡♡ドルルンッ♡♡♡ドブッ、ドブッ、ドボボボッ…………♡♡♡

  「ふぅーーーッ゛、フゥーーーーッ!!!まだッ、まだ出るッ…………!!」

  こんなの、非道<うれし>すぎる………………♡

  だって、だって……こんなの、一撃で孕んでしまうに決まってるじゃないか。勝てるわけがない。強い、強すぎる。射精が、遺伝子が、雄として、強すぎる…………♡♡♡

  「がふッ…………!?ごぶッ…………ごぼぉッ♡♡♡」

  あぁ、とうとう逆流してしまった。私の身体程度では、彼の全てを受け止めるなんて烏滸がましいにも程があったのだ。たった一度の射精が、私の何よりも逞しい。そんな雄に愛されて、私は、私は――――

  「…………………………♡」

  あぁ、どこまでも飛んでゆく……いや、沈んでいるのかな…………私の意識が、暖かな泥の中で微睡んで…………

  ぽわん。

  「――言ったはずだぞ、フルフィン。気絶なんざ、絶対に許さねえってな。」

  「ふぇ…………?」

  気がつけば、彼と目が合っていた。噴出した精液は跡形もなく消え去って、膨満した腹の苦しさも感じなくなっていた。

  「これまでの鍛錬、お前にかけるドーピングを最小限に留めたのは、お前が1人で生きていけるだけの肉体を手に入れさせるためだ……だが、もうその必要もねぇ。強大な敵がお前を襲うのなら、俺が守ってやれば良いだけの話だ。」

  「ぐ、グランド…………?それは一体、何かな…………?」

  それが彼の仕業なのだと、中空に浮かぶ青白い光を見るまでもなく直感的に理解した。魔法陣に刻まれるのは、未だかつて見たこともないほどに複雑な紋様だ。

  「……今日という日を迎える為、俺の人生を捧げて編み出した秘法だ。なぁに、心配することはない。お前はただ、俺に喰われていればいいんだからな…………♡」

  物質転移、身体強化、感覚強化、時間停止……

  複雑に折り重なった印の層は、到底フルフィンに理解できる領域ではなかったけれど……それでも、理解できることがただ一つ。

  「あ……はは、は………………どうぞ、お手柔らかに………………♡」

  遠雷のように轟いた、絶叫にも似た嬌声。2人だけの世界は、時間さえも置き去りにした――――

  [newpage]

  ==========

  私はレヴィン=ウル=フルフィン。冒険者ギルド所属の18歳で……

  「本当に、お前はこれで良かったのか?」

  「どうしてだい?あなたと一緒なら、私はなんだって幸せだ。」

  ――かの高名なる巨象の冒険者、レヴィン=モンド=グランドの伴侶である。......ふふっ♡伴侶、伴侶だって......♡それとも『お嫁さん』の方が彼を引き立てられるだろうか?♡

  「きちんと理解しているのか?俺にレヴィンの名など与えれば、一族の血はここで途絶えるんだぞ。……いかにお前が愛らしい顔だろうと、俺たちは雄同士なんだからな。」

  4大貴族に再婚は認められない……それがアラムリアの掟だ。名を分け与えたというのは、広く結婚を周知させる取り返しのつかない行いなのだ。母上を亡くし、子が自分1人しかいない今……レヴィン家の終わりは確実となってしまうというのに。

  「……ふふ♡グランド、どうやら私も立派に育ったようだ。あなたよりも柔軟な思考を手に入れたみたいだからね……♡」

  「……?何が言いたいんだ。」

  けれどフルフィンに後ろめたさはない。得意げな顔で人差し指を立てて、気分はグランドの教師だ。

  「グランド君、君は常識に囚われているようだね。……雄同士では子を作れないなどという、実につまらない常識に…………♡」

  「な……!?お前、そんな方法を見つけたってのか!?どっ、どうすればいい?何が必要だ!?」

  「……えへへ♡それはね………………私にもわからない!」

  「はぁ…………?」

  絵に描いたように口をぽかんと開けるグランド。ツガイとなって以来のグランドは、こんなコミカルな表情を見せることも多くなったのだ。仏頂面の雄々しい顔も嫌いではなかったけれど、私にしか見せない顔は実に愛おしいものだね……♡

  「あっはっは!!いや、すまないグランド。実はね、父上とお話しした際に、一つだけ条件を出されたのだ。」

  成人前夜、私は父上に想いを伝えた。

  グランドに甘えることはできたけれど……1人で、面と向かって話したかったのだ。自分が同性愛者であること、召使いであるグランドとそんな関係になったこと……ありのまま伝えることは、怖くないはずはなかったけれど。

  「『世界の秘境、とある極北の地に、愛し合う2人を祝福する奇跡が残されている――』その言い伝えが真実かどうかを2人で確かめて、必ず無事で帰ってくること。……可愛い可愛い、象と狼の孫を連れて、ね。」

  呆気に取られる私をよそに、父上は……嬉しそうに、そんな話をしてくれたのだった。

  不思議だった。自分の息子が男好きであることを、そんなに簡単に受け入れることができるのかと。そんな私の様子を見て、父上はこう言ったのだ。

  『あんなに彼のニオイを顔にこびりつかせておいて、誰でも気がつくに決まっているだろう』って。

  「応援してくれる父上のためにも、元気な子を産まなくては……ね?♡」

  極北。それはグランドの……世にも珍しき、巨象たちの生まれ故郷である。何千年、はたまた何万年もの間、自然との共生を続けるかの地には、薄れたはずの神秘が今も眠っている……世間ではそう語られている。

  妻を亡くし、奇跡に縋った日もあったのだろう。やり直し、蘇生、代償……そんな外法も調べ尽くしたことは想像に難くない。そんな時、グランドという象の冒険者の名が耳に入ったのなら……

  「極北の地…………公爵、アンタはつくづく食えねぇ男だったな。まさか最後に、こんなサプライズを残していたとは…………」

  初めはきっと、自分自身のためだったのかもしれない。けれど公爵は、最後の希望を息子に譲ったのだ。顔を真っ赤にして俯く息子に『末長く幸せになって欲しい』と言葉を掛け、瞳を潤ませながら、ロケットを優しく撫でて――――

  (もしもお前を受け入れられるツガイを見つけられたら、か――――)

  40年前、自らを追放した族長の言葉を思い出す。

  当時の自分は、それを無理難題を突きつけられたのだと感じ、『追放』なのだと解釈した。けれども、もしかしたら…………

  「秘法を見つけ出し、私たちの子が産まれたなら……いつかまた、2人でこの跳ね橋を渡ろう。それが私たちの、輝かしい終着点だ。」

  「……ふん、そうならそうと最初から言え。余計な期待なんざしねぇ方が、お宝は手に入りやすいんだからよ。」

  ……実際に行って確かめてみれば良いだけだ。なんにせよ、見つけたのだから。自分を受け入れてくれる、世界で1番愛おしいツガイを。今更特に思い入れなどありはしないが……奴らに見せつけてやるとしよう。フルフィンが、いかに愛らしいのかを。

  「へぇ、そうなのかい……!しかしお宝を見つけた事があるだなんて、私に話してくれた事はあったかな?いつ、どうやって見つけたんだい?旅の心構えにしたいから、是非私にも聞かせておくれ。」

  ゴゴゴゴ…………

  ついさっきまで踏みしめていた橋が、壁のように反り立った。歯車と鎖の擦れる音は、旅立ちの歌には少々不協和音だけれど……

  「そりゃあ、オメェ……この国で、8年前にな…………」

  その音に紛れるように、グランドはぼそりと呟いた。

  「……………………えっ!?♡♡♡」

  頬に感じる体温が、少し熱を帯びた気がした。

  身を寄せ合って歩いていたから、轟音の中でも聞き逃さずに済んだんだ。これからはいつだって、こうして2人で…………♡

  「……ん゛ん゛ッ゛!!何でもねぇ、何でもねぇから離れてくれ。まだ門兵たちに見られてんだぞ?だってのにオメェ、自分がメスになったのを見せびらかすようなことをして……仮にもお前は4大貴族、国の有名人なんだぞ?恥ずかしくねぇのか?」

  「あぅっ……♡♡♡だってだって、結婚式は貴方が恥ずかしがったから延期したのだよ?せめて少しくらい、領民たちに私たちが愛し合っていることを見せつけてやらなくては♡♡♡それに……そういう貴方こそ、こんなところで言葉責めだなんて…………あぁっ、もう我慢できないっ!!♡♡♡」

  「あっ、おいッ!お前ッ、ほんっとどうしようもねぇマゾ狼だな……!!か、嗅ぐなッ!…………そういうのは、あの森に入ってからにしろ…………!!!」

  相変わらず、脳がクラクラするほどに濃い、グランドの酸っぱいニオイ……まだ歩き出したばかりだというのに、なんて素敵なニオイなんだろう♡

  ツガイになってから知ったのだが、どうもグランドは本気で自分の体臭を気にしてはいるらしい。……まあ、私には関係のないことだ!そもそもこのニオイが私を堕としたのだから、旦那様として責任を取ってもらわなくてはいけないからね♡

  「ね、ねぇ、グランド…………すぅぅっ…………♡♡♡次に風呂にありつくのは、何日後になりそうかな…………?♡♡♡」

  「……あのなぁ。そういうのは普通、逆の意味で聞くもんだぞ?…………次の街までは1週間だ。その間は、まあ……水辺なら幾らでもあるが……」

  「……ふへへ♡1週間、グランドの水浴びを禁ずる♡これはレヴィン家長男としての命令、そしてお嫁さんとしてのお願いだ♡」

  「ハァ……。ま、そうなるよな。1週間モノなんざ、今のお前にはまだ臭すぎて気絶しちまうだろうが……どうせ先は長ぇんだ、試すだけ試させてやるよ。こんなド変態な跡取りサマ、早めに1発お灸を据えとくのが丁度いいかもしれねぇしな……?」

  世界を知る喜び、グランドが居る幸せ……どちらが大きいかなんて、比べるのはヤボというものだ。

  だからこそ、私はただ噛み締めよう。この広大な空の下、グランドの熱い胸に抱かれる日々を、いつまでも……

  「……靴下の替えは、一足たりとも持ってきちゃいねぇ。今のうちに新鮮な空気を味わっておけよ。」

  「なっ…………!?♡♡♡あ、ハハ…………それは、本当に楽しみだ………………♡♡♡」

  英雄の血を引く狼と、太古の血を引く巨象。2人の間に子が産まれたのなら、レヴィン家の血脈は更なる繁栄を遂げるだろう。

  この先に、どんな苦難が待ち受けていようとも。共に過ごした日々が、彼らをきっと守り抜くから…………

  「さあ行こう、私の旦那様…………貴方の足を蒸れさせるため!!♡♡♡」

  「ばッ……!違ぇだろ、この足狂いめ。――10人だ。10人、子を孕ませてやる。そうすりゃあ、1人くらいは狼の子も産まれてくれるだろうよ…………♡」

  長い、長い、旅路の果て。吉報と共に彼らが王都へ舞い戻るのは、まだまだ先のお話。