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§6-2 背を守り合う花と王

  グレンside

  王子の戦いを見て、今まで見てきた誰よりも綺麗な剣捌きだと思った。

  基本を大事にしつつ、舞を踊るように敵の間をすり抜けていく。そしてあっという間に切っている。素早さも一級品。

  それでいて下半身はとても安定していて、まるで大樹が地に根を張っているようだ。これは一朝一夕で身につくものでないことは確か。

  力比べでは自分が勝てるかもしれないが、勝負したら負ける可能性もあるだろう。

  そして味方の動きもよく見ている。押されている隊への援護が的確だ。

  また、俺の間合いも少し見ただけで把握できたようで、並んで戦っていてもうっかり互いの邪魔になることなく、何かあればすぐに助けに入れる距離を取っている。勘も優れているようだ。

  戦いの最中、ライゼル王子のそばに呼ばれ援護を頼まれた時、得も言われぬ欣喜が胸の奥を覆った。

  「……アヴィエント・グーぺ〈凍土の棘〉」

  ものの10秒ほどで放たれた広範囲魔法。敵の足元から氷の棘が出現し、動きを止めている。

  これほどまでに洗練された広範囲魔法はなかなかお目にかかれるものではない。

  彼の体から放たれた魔力の奔流を、肌で感じる。その圧倒的な才能と実力に、俺はますます惹かれていく。

  振り向きざまに見た詠唱するライゼル王子の姿は、まるで夜空に煌めく一番星のように俺の目に焼き付いた。

  戦場に咲く、など陳腐な異名だと思っていた。だが今、この瞬間、俺はそれを心から肯定できる。

  彼の瞳に映るのは、「民を守る」という揺るぎない覚悟。その美しさと強さに、俺はただ息を呑む。

  そして、魔法を発動し、安堵した彼の無防備な横顔を見て衝動を感じる。

  これが運命というものならば、掴みたい。

  自分の心臓が、力強く、熱く鼓動しているのが分かる。戦場で死と隣り合わせの瞬間に、俺の心がこれほどまでに強く甘く揺さぶられたのは、後にも先にもこの時だけだろう。

  まるで、凍える冬の大地に咲く一輪の花。

  その美しさと、凛とした強さに、俺は心を奪われていた。

  そしてその花を、生涯かけて守り抜きたいと、心の底から願ってしまったのだ。

  

  国の危機を救うとはいえ、彼がいなくなっても相応の代わりなどいないのではないか。

  頭の中ではすでにこの戦いを終わらせた後のスフェーン王国との未来へ向けた要談に思考が傾いている。自分で望んだこととはいえ、これほどの人物を差し出せというのは酷ではないのか。それとも彼の兄王子達は彼以上の能力を持っているのだろうか。

  「ゼフィロス王、ありがとうございます」

  ライゼル王子が安堵した表情を見せる。あれだけの魔法を使っても魔力にはまだ余裕がありそうだ。

  しかし……上気した頬と破顔が相まって、艶やかな雰囲気が出てしまっている。

  「礼には及ばぬ。しかし……少々減らしすぎではないか?」

  邪な気持ちが悟られぬよう、努めて冷静に返した。ライゼル王子は目をくるっと丸くして、唇を結んだ。

  「敵将の首はお任せしたいと思ったのですが、それでご勘弁いただけませんか」

  「よいのか?」

  「えぇもちろん。ですが最後まで私をお側に置いてくださいね」

  この……ッ!!思わず一喝、喉から出かける。

  「……そういうのは、自分から伝えたいタチなのだが……」

  「どうされました?」

  「いや、なんでもない」

  伴侶を持つなど、ほんの数日前まで拒絶していたくせに何を言おうというのか。そんな俺が今、戦場で心乱され、そしてその相手に必死になっている。自分自身を詰り、王子の指定した敵将を見据える。

  

  ???side

  目の前の相手は昨日の面影など薄らも無く、猛々しく自軍の兵達を薙ぎ払っていく。

  一体何が起こっているのか。

  天幕の周辺は兵達が右往左往し、我の名をしつこく呼んでくる者もいる。五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い!!

  ――――――花守の騎士。

  それが今、戦場で暴れ回っている男の異名だ。

  災害に見舞われ兵力を砦に回せない状況で、我が国ノグタムの侵攻を食い止めている原因。

  

  王子という身分でありながら騎士団に混ざって戦場で剣を振るう愚か者。

  幾度となく侵攻を阻止され、何人もの指揮官が軍での立ち位置を追われた。

  巫山戯た異名は、剣筋の美しさから戦場に咲く花のようだと何処ぞの者が言い出したことから始まり、豊かな土地を持つスフェーン王国を守る騎士としての働きが讃えられ、今ではノグタムで知らぬ者がいないほどになった。

  それだけに飽き足らず今度はゼフィロス王国からの援軍だと?

  巫山戯るのも大概にしろと部下に対して罵声を浴びせたのはついさっきのこと。

  だがしかし脅威は目前に迫ってきていた。

  部下からの報告によると、ゼフィロスの援軍を率いているのはとてつもなく強い武人らしい。

  ゼフィロス王国の情報は少ない。国交を閉ざしているだけでなく、我が国とは険悪で人や物の行き来はほとんどない。数年前に代替わりがあったという情報は入っているが、王の名前と雑な特徴しか分からない。

  グレン・フローライト。

  実力と功績で王が選ばれるゼフィロス王国、現国王。

  並外れた戦闘能力を持つ狼獣人だと聞いた。

  視界の奥の方にいたはずの敵陣は、今や目を細めずともよく見えるところまで迫ってきていた。

  

  花守の騎士、そしてその隣で彼奴の身を守る獣人の戦士。特徴だけでいえば、ゼフィロス国王と同じような特徴を持っている。

  しかしそんなはずはない。国交を閉ざしていた国が援軍を出したことだけでも驚きであるのに王自ら出陣などありえない。

  そんな指揮官の考量は見事に外れることになる。

  ノグタム王国は大敗し、全軍撤退を余儀無くされる。

  スフェーン王国第三王子ライゼルと、ゼフィロス王国国王グレン率いる連合軍の勝利であった。

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