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ある日突然、愛犬(ぬいぐるみ)がヒトになりました。

  私は小さい頃から犬が好きで、ずっと大事にしているぬいぐるみが動いてくれたらと願ったりした。願った、願ったけどぉ!!彼氏も欲しいとも思ったけど!こんな形なんか望んでないっ!!

  「テアモ、ただいま!いい子にしてた〜?ってテアモはぬいぐるみだから動くわけないか」

  4月からアパートで一人暮らしを始めた私は一人が少し寂しく、実家から一匹のぬいぐるみを連れてきていた。テアモは銀色の狼のぬいぐるみで青い目をしているのが特徴だ。そしてとてもかわいいのが一番の自慢だ。ちなみに苦手なクレーンゲームで一回で我が家に迎えることができたのも自慢だ。

  「はぁ♡かわいいねぇ~」

  テアモの由来はスペイン語の「愛してる」。私は子供のころから犬を飼うのが夢で、どんな名前を付けるかを考えていたのだ。結局名づけられたのはぬいぐるみだけれど…。でも私の一番の[[rb:愛犬 > ぬいぐるみ]]はこの子だ。鼻をつつきながら幸せを感じてる。

  たまに、テアモが動いてくれたらなと思ったりはする。悲しいときとか、寂しいときとか。でもそんな思いはテアモを抱きしめればどこかに行く。それが私のささやかな幸せだった。

  今日までは。

  夕飯のための買い物から帰り、鍵を取り出そうと鞄を探ると、ドアの向こうから物音が聞こえた。最初は部屋を間違えたのかと思い確認したがそんなことはなく、ちゃんと私の部屋だった。嫌な予感が頭をよぎった。

  「まさか、泥棒…?」

  ドアに耳を当て中の様子をうかがおうとしたが、物音という物音は聞こえず、私の勘違いだったのだと納得した。少し安堵しながら鍵を開けて靴を脱ぐと、部屋の奥から誰かが走ってくる音が聞こえた。

  「嘘っ!?ホントに泥棒!?」

  慌てて逃げようとしたが、後ろから抱き着かれ引っ張られた。

  「なっ!?なな、なんなの!?誰?!離して!」

  逃げようと暴れたが相手の力の方が強くそのまま床に押し倒された。抵抗しようにもできず恐怖で目を瞑っていたが、相手が全く動いてこないことを不思議に思い恐る恐る目を開けると、

  ふわふわとした犬のような耳が目に入った。ついでに少し視線をさまよわせるとぶんぶんと揺れるしっぽが見えた。

  「は…?」

  間抜けにも声が出たが、でもこれは誰でもそうだろう。目の前にいるのがイケメンのケモミミ男子だと気が付いたんだから。

  「ご主人様!おかえりなさい!!俺ちゃんといい子で待ってたよ!」

  「え…?だ、誰?」

  知らないケモ耳男子にご主人様と呼ばれて、待っていた。なんて言われて戸惑わない人なんていないだろう。しかし、私が問うと目の前のケモ耳男子はあからさまにしょんぼりとした。ふわふわの耳はへたり、しっぽは床につきそうなほど下がっている。

  「ご主人様…?俺だよ?テアモだよ?わからない?」

  あ、私今夢見てるのか。そうだよね。じゃなきゃこんなこと起こるわけないわ。あはは〜。って待て私、現実逃避をするな。帰ってこい。

  「え?テアモ?テアなの?え…なんで?ぬいぐるみだったよね?」

  「うん!俺だよ!テアモだよ!ぬいぐるみだよ!」

  私が名前を呼んだことが嬉しかったのか、また嬉しそうにしっぽを振り始めた。

  「待って、本当に待って。なんで動いてるの?っていうかなんでヒトになってんの?」

  「わかんない!!でもね、ご主人様早く帰ってこないかなぁ~とか、俺が動いてご主人様と遊んでみたいな~とか、ご主人様のお願い事かなえてみたいな~とか、いろいろ考えてたらこうなった!!」

  元気よくそういう目の前のケモ耳男子…っていちいち長いな。まあいいや、多分、というか十中八九この目の前の男の子は本当にテアモだろう。確証というわけではないが、この銀色の毛色や青い目に見覚えがある。

  理屈は全くわからないけれど、テアモはヒトになった。それはテアモが願ったことと私の願った「テアモが動いてくれたらな」という思いが合わさり、きっとそれが叶ったのだろう。それならばもう受け入れるしかない。

  「ていうか、テアモ…あの、この体勢さすがに恥ずかしいから、そろそろどいて…」

  いつまでも上に覆いかぶさられていると恥ずかしい。少し残念そうな顔をしながら私から離れると衝撃の事実に気が付いた。

  「あ、あれ?テアモ、なんで服着てないの…?」

  私の目にはテアモの素肌が白く輝いて映った。

  朝、カーテンから差し込んでくる光がまぶしくて目が覚めた。

  「ご主人様~、おはよう!」

  「きゃあっ!?」

  突然誰かに飛びつかれて思わず悲鳴を上げてしまったが、飛びついてきた正体がモフモフしたケモ耳がついていることに気が付いた。

  「んあ…?テアモ?おはよう」

  私が挨拶を返したからか嬉しそうに顔を近づけて来て、

  ペロッと頬を舐められた。

  「ひえっ…!?」

  突然のことに驚き、変な声が出た。それにかまわずテアモは私の肩を抑えながら顔をぺろぺろとなめてくる。ご丁寧に唇まで。唇をなめられた時に、唇がチョンと触れた気がした。

  「て、てあ…?や、やめ…。んっ、ちょっと。も、ぅ…!」

  テアモに顔を舐めまわされること数分。(抵抗はしたけど重いし、力強いしで逃げれなかった。)ようやく満足したのか、腰を落としながらしっぽをぶんぶんとちぎれそうなほど振って、寝室から出て行った。ちなみに昨日の夜に私の服だけどないよりはまし、と私には少し大きかったパーカーを着せておいた。案外ちょうどいい感じでほっとした。

  いつかキス以上のことをされそうで少し焦りを感じたが、気にしないようにべたついた顔を洗いに行った。

  「はぁ…。なんでこんなことになったんだろう。ていうかテアモがあんなイケメンなんて聞いてないよ。それに男の子だなんて…。これじゃ一生彼氏できな_」

  「俺じゃダメなの?それ…。俺人間とちょっと違うけど、ご主人様のカレシ…?になれるよ!」

  「ぴゃっ!?」

  洗面所でぼやいていると、いきなり後ろから声をかけられ、肩がはねた。慌てて後ろを見ると、耳をぺたんと下げたテアモがいた。キャミソールの裾をずっと掴んで引っ張ってくる。いや、待て。かわいいなこいつ。思わず頭をなでた。モフモフとした手触りが気持ちいい。しばらく撫でまわしていると、テアモが無言になっていることに気が付いた。そっと顔を覗き込むと、顔を赤くしながら尻尾を振っていた。

  「テアモ…?大丈夫?熱があるの?」

  額をくっつけるとやや熱かったが、熱があるような雰囲気ではなかった。うーん、どうしたんだろう?心配をしていると、テアモがぎゅっと私の腰を抱くように抱きしめて来た。今まで私が抱きしめていたのに、抱きしめられる側になるなんて…。そんな事を思いながら今まで感じることがなかった体温に身を預けた。何に落ち込んで甘えてきているのかはわからないが、そっと背中をなでていると、じっと目を見つめられた。綺麗な顔を間近で見ることになって、恥ずかしくて目をそらすと、顎に手を添えられた。ぎゅっと目を瞑ると、湿った風が唇に当たった。なんだかむず痒くて身をよじったが腰を抱かれたまま、唇に柔らかい感触があった。そこで我に返った。

  「はひ…!?て、てあも…!無理やりやらないで!いきなりキスしたりするのは無し!だめ!」

  「キス?俺舐めたり食べたりしてるだけだよ?」

  「た、食べ…!?それでもだめ!かわいい顔で言っても駄目です!」

  イケメンの上目遣いの破壊力に負けそうになったが、何とか耐えちゃんとダメなものはダメということができた。偉いぞ、私!人差し指をピンとたてテアモの鼻に当てた。

  「いい?そういうことはお互いが好きなヒト同士じゃないとやっちゃダメなの」

  私がこういうものだよ、と教えるとテアモが泣きそうな顔をした。私がなにか言ってはいけないことを言ったのかと驚いた。

  「え…?俺、ご主人様のこと大好きだよ?でもそんなこと言うってことはご主人様は俺のこと、嫌い?」

  昨日の夜や今日の朝と同じように耳をぺたんと下げて甘えたような鳴き声を出した。私は間違ったことを言ったつもりはなかったが、ものすごい罪悪感に襲われた。

  「うっ…。そ、ういうわけじゃないんだけど」

  「じゃあ!俺のこと好き…?」

  イケメンの上目遣いに追加でうるんだ目で見つめられてしまったら、それを否定することができなかった。それにそもそも、今までずっと一緒にいたんだ。嫌いなわけがない。むしろ好きだ。けれど、私が言うのはそういう意味ではないから戸惑ってしまう。

  「す、好きだよ。で、でもね_」

  「やったー!!じゃあいいよね!」

  嬉しそうに顔を近づけ唇に噛みついて、一緒に舌で舐められた。尻尾を振っている気配がする。

  「は!?んぅ…!」

  急いで逃げようとしたが、力が強くてまた逃げられない。背中を叩いたが放してくれる気配がなかった。もう諦めよう…。

  諦めて力を抜き身を任せるとテアモは嬉しそうに更にきつく抱きしめられた。今日が休みでよかった。つくづくそう思うほかなかった。今日一日ずっとテアモから逃げることはできなさそうだ。

  (ピンポーン)

  そう思っていたが、誰かが来たようだ。さすがにいつまでもくっついていられないことを察したのか、おとなしく離れてくれた。そのことに安心したが、少し寂しさも感じた。

  「はーい、少し待っててくださーい」

  声をかけて少し慌てて玄関へと向かいドアスコープを除くと、高校時代からの友人_猫又朱音がいた。約束とかも何もしていなかったので、驚きつつドアを開けた。

  「あれ?朱音、久しぶりだけどいきなりどうしたの?」

  「久しぶりに会おうと思っ…て。どうしたのその恰好」

  朱音に言われて自分の恰好に意識を向けると、キャミソールの片ひもが少しずれ先ほどまで誰かといろいろやっていたような恰好をしている。顔が一瞬で熱くなったのがわかった。

  「にゃはぁ〜?お邪魔しちゃったかな~?」

  にんまりと楽しそうに猫のように笑う彼女を、赤面しつつ迎え入れた。

  「朱音ちゃんだ!久しぶり!すごーい!ちっちゃい!いつも俺が見上げてたのに~!」

  リビングに連れて行ったとき、私は最悪の失敗をしてしまった。説明が面倒なテアモに会わせてしまった。というかテアモから会いに来てしまった。私が一人青くなっていると、朱音が驚いたように目を丸くしていた。

  「へ…?あたしたち会ったことあるっけ?ていうか陽菜の彼氏?誰?でもその耳は…?」

  「あ、いやえっと、この人は_」

  「俺テアモ!昨日までぬいぐるみだったんだけど、気が付いたらこの姿になってたの!」

  すごいでしょ?と言わんばかりに尻尾を振っている。あぁ、この天然狼め。説明がもっと面倒になったじゃんか!!軽く額に手を当て、とりあえず座るように朱音に言った。思わずため息をついた。朱音はこういうストーリーは好きだけど現実となれば、話は違うだろう。

  「えぇ!?テアモって陽菜のぬいぐるみの?すご〜い!テアモ君ってぬいぐるみから可愛いもふもふ付きの男の子になれちゃうの〜!?すごいねぇ〜。おぉ、よしよし」

  と思っていた。朱音は何ともないようにテアモを褒め称え、頭をなでた。嬉しそうにテアモは鳴いた。

  「驚かないの?普通に」

  「う〜ん、最初はちょっとびっくりしたけど今はすごいなぁって思うだけだよ。こういう非現実的なこと好きだしね~」

  ねぇ~?とテアモに問いかけながら頭をなでる朱音にすごいなと、感心してしまう。ひとしきりテアモをなでると飽きてしまったらしく、手を離して前髪をいじり始めた。テアモも撫でられないことが分かったのか、私に近づいてくっついてきた。撫でてと言わんばかりに頭をこすりつけて、耳をピコピコと動かしたので反射的に頭をなでてみた。すると嬉しそうにもっと顔を摺り寄せてきて私もテアモにくっついてみた。

  あ、意外と気持ちいかも。もふもふした彼の耳や髪に顔をうずめて目を瞑ってみた。ふと目を開けてみると猫のような大きな瞳を細めた朱音と目が合った。そうだ朱音もいたんだ。一瞬のうちに忘れてしまったことを申し訳なく思いつつ、見られていたことに気がつき、恥ずかしくて慌てて離れた。

  「にゃ~ん♡ラブラブだね~、テアモ君は陽菜のことなんて呼んでるの?」

  「ご主人様!!」

  「そうなの?陽菜って呼んであげたらいいじゃん」

  テアモは朱音の言ったことを繰り返した。そしてそっと口を開いた。そこから少しとがった八重歯が見えた。

  「…陽菜」

  昨日からずっと聞いているはずのテアモの声が、低く甘い声に聞こえて頬が熱くなったのがわかった。テアモの目が熱で潤んでいるようにも見える。四つん這いで少しずつテアモが近づいてくる。朱音がいるのにも気にしないで、近づいてくる。少し怖くて後ろに下がってしまったが、一気に距離を詰めて来た。

  「てあ…んっ」

  軽く唇が触れ合った。朱音の前だというのにキスをされてしまった。恥ずかしくて顔を上げることができないでいたが、テアモが気にしないように再び唇を重ねてきた。逃げようと、助けを求めようと朱音がいた気がする場所を見たがそこには誰もおらず、玄関のドアの閉まる音が聞こえた。

  「…っな?!いつの間に?」

  朱音に助けを求めるはずがいなくなっていたので、助けてもらうことができなくなった。自力で逃げようと身をよじったが、すぐに押し倒され下腹部にに乗られた。

  え、嘘。逃げられない。顔をぐっと近づけられた。

  「ねぇ、俺から逃げられると思った?ご主人様?逃がしてあげないからね。今日はず~っと一緒だよ?ひ~な♡」

  「は、はひぃ…」

  私の平穏でささやかな幸せさえあればよかった日常は、一匹のぬいぐるみ、というか元ぬいぐるみのケモ耳男子によって簡単に壊された。この後私がどうなったかは、ご想像にお任せします…。

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