堅物シャチ型アンドロイド、オナホで耐久テストされる

  先進戦術兵器開発局、第3実験棟。地下深くに建造されたこの区画は、地上の喧騒とは無縁の聖域であると同時に、人類が持ちうる最先端工学の極致でもある。

  気密ゲートを潜った先に広がるのは、広大なメンテナンスルームだ。壁、床、天井に至るまで、継ぎ目のない特殊樹脂素材でコーティングされ、塵一つ落ちていない潔癖な空間が広がっている。室温は常に摂氏22.0度に固定され、湿度は45%。高性能な空調システムが吐き出す微かな風音と、サーバーラックの駆動音だけが、この場の静寂を構成する全ての音。

  部屋の中央。ドックの定位置に、それは直立していた。

  次世代自律駆動型・水陸両用戦術機、XMS-05A。

  開発コード、"O.R.C.A."(オルカ)。

  個体識別番号V-09と呼ばれるその機体は、人間という規格を遥かに逸脱した威容を誇っている。

  全長285センチメートル、重量450キログラム 。人間が見上げなければ視線すら合わない圧倒的な質量が、微動だにせず彫像のように佇んでいる。漆黒と純白のツートンカラーで彩られた装甲は、海洋の頂点捕食者であるシャチをモチーフとしたもの。無機質な金属であるはずなのに、常に水の膜を纏っているかのようなしっとりとした手触りだ。

  分厚い胸板、丸太のように太い上腕、岩盤をも砕く脚部。流体力学に基づいて設計されたフォルムは、水圧を逃がし、かつ獲物を引き裂くための凶暴な機能美に満ちている。装甲の下には、数千本にも及ぶ人工筋肉アクチュエータが束ねられ、今は静かに、主からの命令を待っているのだ。ひとたび戦闘行動に入れば、それらは容赦なく敵を圧砕するだろう。

  「……おはよう、V-09。機体の調子はどうだ」

  静寂を破ったのは、頭上のスピーカーから降る観察者の声だった。瞬間、V-09の頭部装甲奥で、視覚センサーが稼働する。

  「おはようございます、ドクター。全システム、グリーン。極めて良好です」

  重厚だが知性を感じさせるバリトンボイス。言葉遣いは極めて冷静で実直な軍人のそれである。

  「それは重畳。これより、定期メンテナンスおよび追加兵装の適合試験を行う」

  「追加兵装ですか。事前のブリーフィングにはありませんでしたが」

  「急遽決定した事項だ。スペックの底上げには不可欠なプロセスとなる」

  「了解。ドクターの判断に従います」

  疑うことを知らぬ忠実な兵器は、短く肯定の意を示した。

  「では、整備台へ移動せよ。姿勢固定後、必要な処置を行う」

  「ハッ」

  V-09が巨体を動かした。一歩、足を踏み出すだけで、ズンッ……と腹の底に響くような重低音が実験室を揺らす。450kgの質量が移動する際の空気の振動。関節部からは、極めて静音化されているものの微かなモーターの駆動音と、人工筋肉が擦れ合うミチッ、ミチッという有機的な音が漏れ聞こえる。戦闘用アンドロイド特有の無骨な動作音だ。

  彼は部屋の中央に設えられた純白の整備台へと歩み寄ると、姿勢制御ユニットを兼ねた尾びれを丸め、慣れた動作で体を預けた。鋼鉄の背中がシートに沈み込み、油圧サスペンションが軋みを上げる。

  ガシュッ、ガシュッ

  即座に台座から拘束アームが展開し、太い手首と足首を固定していく。最強の海兵は無防備な被検体の姿勢となった。

  完全に動きを封じられたV-09の視界に、天井のアームが新たな機材を吊り下げて現れる。無機質な駆動音と共に降下してきたのは銀色のトレイ。そこに鎮座していたのは、この純白の空間においてあまりに異質で、暴力的な存在感を放つ肉塊だった。

  「……ドクター」

  V-09の光学センサーが対象をスキャンし、即座に形状を照合する。解析結果が導き出した答えは、彼の戦闘ロジックには存在しない不要なパーツだった。

  「搬送されたモジュールは、形状および構造から、男性の生殖器官を模倣したものと推測されます。私の戦闘ドクトリンにおいて、生殖機能は不要と判断しますが」

  実直な問いかけだった。トレイに乗せられているのは、拡張性器モジュール――言ってしまえば男性器そのもの。全長285cmの巨体に最適化されたサイズは、人間の規格を遥かに超えた凶悪な質量を誇っている。素材は人肌の質感を極限まで再現した特殊シリコン。表面には青黒い血管が浮き上がり、亀頭のカリ首の張り出しや、尿道口の窄まりに至るまで、執拗なまでの解像度で造形されていた。唯一、切断面である根元から伸びる無機質な接続端子と、動力液を循環させるための冷却チューブだけが、これが工業製品であることを主張している。

  「いい質問だ、V-09。君は『テストステロン』という物質を知っているか」

  観察者は、モニター越しの愛機に向けて、教え諭すようにマイクを入れた。

  「……検索中。炭素・水素・酸素からなるステロイドホルモンの一種。哺乳類の雄において、骨格・筋肉の発達、および闘争本能を司る物質、とあります」

  「生物界において雄という種は、この物質の濃度が高いほど攻撃性が増し、縄張り争いや生殖競争において優位に立つ。いわば、天然のドーピング剤だ」

  観察者はそこで言葉を切り、手元のコンソールで新たなドライバの準備を進める。

  「今回インストールする『擬似テストステロン』プログラムは、本来のホルモンの作用機序をデジタル化した攻撃性増強プログラムだ。だが、ソフトウェアだけで肉体のリミッターを外すには限界がある。本体が『自分は雄である』と深く認識するための、物理的なフィードバック・デバイスが必要だった」

  「……つまり、このモジュールは、私が男性として振る舞うための……アンテナのようなものですか」

  「工学的に言えば、ハードウェア・キーに近い。それが接続されている間のみ、君の思考回路は最適化され、戦闘能力の向上が期待される」

  V-09の赤いセンサーが明滅し、数秒の演算の後、彼は納得したように頷いた。

  「……理解不能ですが、了解しました」

  V-09は思考回路の遅延を見せたものの、命令を受諾した。ウィィン、と低い駆動音を立て、V-09の股間装甲が左右にスライドする。露わになったのは、無機質な汎用接続ポート。本来であれば追加のジェネレーターや燃料タンクを接続するためのソケットが、無防備に外気へと晒された。

  そこへ、アームに把持された巨大な男根が、ゆっくりと位置を合わせていく。精密機械の正確さで、シリコンの根元がポートへと押し当てられた。

  ガシュッ。硬質な金属音が響き、ロック機構が噛み合う。

  ――ヌチュッ…

  直後、場に相応しくない卑猥な水音が音響振動センサーを叩いた。シリコンの接合面がポートの形状に合わせて変形し、隙間なく密着した音だ。金属とポリマーの身体に、生々しい肉の造形物が食い込む。

  「……ッ」

  V-09の喉から、声にならないノイズが漏れた。電子頭脳は未知の警告ログで埋め尽される。

  本来、戦闘用アンドロイドである彼に、生物的な神経など存在しない。彼が有しているのは、敵の攻撃を検知するための圧力センサーや、機体の損傷率を把握するための自己診断プログラムといった、冷徹な数値管理システムだけだ。そこには痛みも快楽もなく、あるのは0と1のデジタル信号のみだったはずだ。

  だが、今接続されたモジュールは違った。接続端子を通じて、OSの中枢領域へ直接、あらかじめプログラムされた擬似的な触覚信号を送信し始めたのだ。

  湿度、粘度、柔らかさ、温度――兵器には不要なはずの、有機的で生々しいデータ。それが、あたかも自分自身の肉体で感じているかのようなリアリティで、電子頭脳へ強制的に割り込んでくる。

  それは、ただの増設パーツであるはずのシリコンの塊が、彼の冷たいシステムの深部へ土足で踏み込み、無理やり感覚を共有し始めたことへの強烈な違和感だった。

  「……外部デバイスより、定義不明の信号を受信。ドクター、これは……? 極めてノイズの多いデータが流入しているようです」

  彼は試しにと、拘束されたまま腰を僅かに揺すった。ブンッ、と股間の質量が遅れて揺れ、太いシリコンの幹が内腿の装甲をビタンと叩く。

  その衝撃すらも、単なる打撃ではなく、『熱を持った重たい肉の塊が、肌に吸い付いた』という、あまりに生物的な感触として脳裏に再生される。

  「……重量バランスは劣悪と言わざるを得ません。重心が前方に偏り、水中機動時の抵抗係数が約4%悪化します。戦闘機動時に、この質量が遠心力で振られることは大きなリスクです」

  「その程度のロスは出力向上分で十分に相殺できる。それに、モジュール自体にも姿勢制御用のバランサーが内蔵されている。慣れれば体の一部のように扱えるはずだ」

  「……了解。慣熟運転に努めます」

  真面目な兵器は邪魔なイチモツをぶら下げたまま、あくまで任務としてそれを受け入れた。

  「では、ドライバを起動する。……開始」

  観察者の元でコンソールが操作される。瞬間、V-09の内部モニターに無数の警告灯が灯り始めた。

  「……ッ!?」

  V-09の全身の冷却ファンが唸りを上げる。思考回路の奥底から、熱い泥のようなノイズが湧き上がり、冷静だった演算処理を塗り潰していく感覚。

  彼の電子頭脳には、古今東西のあらゆる戦術理論、弾道学、海洋気象データ、そして敵の効率的な破壊手順が網羅されている 。殺し、制圧するために必要な情報はペタバイト単位で蓄積されていた。だが、膨大なアーカイブの中に、『性』や『生殖』に関する実用データは1バイトたりとも存在しない。彼にとって交尾とは生物学的な定義としての単語に過ぎず、それに伴う快楽や衝動といったものは、兵器としてのスペックにはあまりに無駄で、不純なノイズとして開発段階でオミットされていたからだ。

  故に、彼は今、自身を侵食する熱に名前を付けることができない。生物であれば、下腹部から突き上げるその熱量を欲情と即座に理解しただろう。しかし、純粋な殺戮兵器として建造された彼にとって、それは未知のウイルス干渉か、深刻なシステムエラー以外の何物でもなかった。

  「警告。CPU温度上昇。思考ロジックに原因不明のノイズ発生。……ドクター、これは?」

  「正常な反応だ。闘争本能が活性化している」

  熱の逃げ場は一箇所しかなかった。ドクン、ドクン。股間のモジュール内部で、循環ポンプが心拍音のようなリズムを刻み始める。

  「……性器モジュール、内圧上昇を確認。……熱い。動力液が逆流しているのですか?」

  だらりと垂れ下がっていた巨根が、徐々に、しかし確実に変化を見せる。まずは根元からクニクニと生き物のように蠢きながら、充血したような赤みを帯びていく。柔らかなシリコンの中に硬質な芯が通り、血管の浮き出た表面がパンと張り詰め始めた。

  「……報告。モジュールが変形、および硬化を開始。……これは、打撃用の近接武装として機能するための硬化モードですか?」

  V-09は、股間で持ち上がりつつあるものを、複雑な演算処理で見下ろしている。彼の中にある知識ベースでは、棒状のパーツが硬くなる理由は敵を殴るため以外に存在しなかった。

  「……いえ、硬度が足りません。これでは装甲を貫通できない。……それに、先端から……冷却水漏れを確認」

  持ち上がり始めた亀頭の先端から、透明な粘液がとろりと滲み出し、糸を引いた。モジュールに内蔵されたカウパー腺機能の作動。それは準備完了の合図だが、V-09にとってはただのオイル漏れにしか見えていない。

  「武装ではない、V-09。冷却水漏れでもない」

  観察者はモニターに映し出された数値を満足げに見つめた。数値以上に、天井を貫かんばかりに突き立ったイチモツの長さ、太さ、硬度。そして先端の潤い。どれをとっても雄として完璧な反応だ。

  「それが生理現象だ。君の機体が正常に『雄』として機能している証拠だよ」

  「生理……現象……?」

  V-09は困惑の声を漏らす。股間の異物は今や完全に直立し、彼の意思とは無関係にビクン、ビクンと空気を叩いている。

  熱い。全身に走る奇妙な電気信号が思考を乱していく。

  「不可解です。敵もいない空間で、なぜ……この現象に伴って、戦闘能力が向上するのですか?」

  実験室の空気は、依然として冷徹な無菌状態を保っている。だが静寂な空間において、たった一箇所、整備台の上に固定されたV-09の内部処理領域だけが、急速なクリティカル・エラーに見舞われていた。

  観察者の指先が、コンソールキーを軽やかに叩く。送信されたコマンドはV-09のOS深層にインストールされた『擬似テストステロン』プログラムの出力係数を強制的に引き上げるものだ。

  「くッ……」

  V-09の胸部装甲に埋め込まれたインジケーターランプが、正常を示す緑から、警告を示す赤へと激しく明滅した。膨大なエラーログは、直接彼の意識領域へと雪崩れ込み、思考そのものを焼き尽くすような熱量となって暴れ回る。

  敵はいない。それなのに、破壊衝動にも似たドロドロとした黒いノイズが、回路の隙間から噴き出し、論理演算ユニットを塗り潰していく。

  「ドクター、攻撃サブルーチンが暴走しています。索敵範囲に敵影なし……内部計器のバグと推測します。直ちにデバッグを――」

  「報告は不要だ、V-09」

  V-09の訴えを観察者の冷淡な声が遮った。

  「その衝動こそが正常な稼働状態だ。いちいちエラーを吐いていてはデータの収集に支障が出る。以降、機体制御に関する口頭報告を禁止する」

  「……了解」

  V-09は忠実に命令を実行したが、それは逃げ場を失うことを意味する。

  行き場をなくした熱量は体内で渦巻き、冷却ファンを唸らせ、機械の巨躯を内側から食い荒らしていく。

  頃合いを見計らって、観察者は次のフェーズへと移行した。

  天井のハッチが開き、複数本の多機能マニピュレータが降下を開始する。銀色に輝くスネークアームの先端には、人肌の柔らかさを再現したシリコンパッドが装着され、そこからは高粘度の透明な液体が、重力に従って糸を引いていた。

  (……保護ゲル、および導電ジェルの塗布……か?)

  V-09は黙して状況を分析する。工業的なメンテナンス。そう自分に言い聞かせ、天井を仰ぐ無防備な股間へと、アームを受け入れた。

  ――ポタリ。

  いきり立った亀頭の先端に冷たいゲルが落下する。ジュワリ、と音が聞こえるような温度差。粘度の高い液体は、弾けそうなほど張り詰めたカリ首の段差をゆっくりと滑り落ち、敏感な粘膜を濡らしながら裏筋へと流れ込んでいく。

  「ぐぅッ!?」

  V-09の腰が整備台から大きく跳ねる。

  質量わずか数グラムの流体が付着したに過ぎない。だが、性器モジュールが脳髄へ送信してきたのは、『冷たくてねっとりとした何かが、敏感な先端を愛撫した』という、あまりに卑猥で有機的な電気信号だった。

  背骨の裏側を、無数の虫が這いずり回るような悪寒。いや、快感。

  身じろぎしようとするV-09を逃がすまいと、マニピュレータが塗布の動作を開始する。アームの柔らかい先端が、亀頭に押し当てられ、ぐちゅり。シリコンパッドが尿道口の窄まりを優しく割り開き、溢れたゲルを塗り広げるように円を描く。

  (なんだ、これは……! 接触判定が……消えない……ッ!)

  アームは冷徹に、しかし執拗に、男の弱点であるカリ首の溝を重点的に攻め立てる。擦られるたびに、ペニスとしての機能を与えられたモジュールは喜び、ビクンビクンと脈動してアームを弾き返そうとする。その反動すらも、新たなデータとなってV-09を追い詰めていく。

  V-09には都合の悪いことに、マニピュレータは1本ではない。いつの間にやら2本目のアームが、太く膨れ上がった竿の根元をガシリと握り込んだ。

  ヌチュゥ……、グヂュッ……

  静寂な実験室に、濃密な水音が響き渡る。アームが上下動を開始したのだ。大量のローションと、性器モジュールから分泌され続けるカウパー腺液が混ざり合い、シリコンとシリコンの隙間を埋める極上の潤滑油となっている。

  アームは根本から亀頭の先端まで吸い上げ、そして再び根本へ扱き下ろす。感情など一切挟まず、入力されたプログラム通りに、正確無比なストロークで快感初体験の急所を蹂躙し続ける。

  「……ッ、ぅ……ガ、ぁ……」

  口頭報告を禁じられたV-09は、食い縛った歯の隙間から、苦悶とも呼べぬノイズを漏らすことしかできない。それを追い詰めるようにアームの速度は上昇する。ねっとり絡みつくゲルが、敏感な裏筋の凹凸を波打つように刺激し、張り詰めた血管の一本一本を指先で弾くように擦り上げる。そのたびに、V-09の思考回路には快楽という名の高負荷データが叩き込まれる。それは彼にとって、ファイアウォールを食い破り、システムを乗っ取ろうとする悪質なハッキングに等しかった。

  ガシャン、ガシャンッ!

  処理しきれない刺激への防御反応として、機体が勝手に痙攣を起こす。装甲の下の模造筋肉が波打ち、膝が乱れ、足首の拘束具が装甲とぶつかり合って硬質な音を立てた。

  逃げたい。だが、腰を浮かせればアームはさらに深く根元へ食い込み、腰を沈めれば亀頭が強く擦られる。どう動いても、快感の檻からは逃れられない。

  「……はッ、……く、ふぅ……ッ」

  逞しい戦闘兵器が、股間にそそり立つイチモツを機械に慰められ、ガクガクと身体を震わせている。数分にわたる感度テストの末、V-09の股間は、見るも無残かつ雄々しい状態へと変貌していた。

  ぬらぁ……っ

  テラテラと輝く巨大な男根。刺激信号を受け続けたことで海綿体への動力液圧は限界まで高まり、シリコンの表面は赤く変色し、血管が破裂しそうなほどに浮き上がっている。パンパンに膨張した亀頭の先端からは、粘り気のある透明な汁がボタボタと滴り落ち、黒い股座と純白の整備台に卑猥な水溜まりを作っていた。

  シューッ……、ハァッ……、シューッ……

  排気音混じりの荒い機械音が部屋に響く。V-09は首を反らせて天井を見上げ、口元からよだれのように冷却ガスを漏らしていた。

  (……理解、不能……。ただの接触で……なぜ……これほど演算処理が……)

  ただゲルを塗られ、表面を優しく擦られただけだ。それだけの行為で、高度な思考回路を搭載した戦術機である自分が、ここまで無様に発熱し、意識をショートさせかけている。

  純然たる事実を論理的に処理できない。しかし、股間のモノは主人の困惑を他所に勃起を晒していた。

  マニピュレータがV-09の股間から離脱する。しかし、実験室に静寂は戻らない。

  「ハァッ……、ハァッ……、ハァッ……!」

  V-09は、乱れた吸排気音を整えようと必死に胸板を上下させていた。整備台の上には、モジュールから溢れた大量のローションと擬似分泌液が、白濁した水溜まりを作っている。

  「状況を確認しろ、V-09」

  観察者の操作により、空中にホログラムモニタが展開された。映し出されたのは、現在のV-09の股間周辺を捉えたサーモグラフィ映像だ。冷却された室温を示す青色の背景の中で、屹立する陰茎だけが、危険域を示す真っ赤な色で表示されている。

  [ ERECTION HARDNESS : MAX ]

  映像の端に表示された文字列は、彼の股間の硬度が、構造限界値に達していることを数値として証明していた。

  「見ろ。素晴らしい反応速度だ。ただ撫でられただけで、ここまで硬度を高めるとはな」

  「……っ」

  「分泌液の量も規定値以上だ。それほど『攻撃』したかったのか?」

  V-09は光学センサーでモニターの中の自分を凝視し、絶句した。そこには、だらしなくそそり立ち、先端から涎を垂らしながら脈動する、醜悪なまでのイチモツをぶら下げた自分の姿があった。

  重機のような体に、ぶら下がる肉々しい性器。兵器としての威厳など欠片もない。思考回路の奥底で拒絶反応が生じる。それは、彼が初めて抱く羞恥心の萌芽だった。

  「……これ、は……私は、どうなっているのですか……? 何故、システムが鎮静化しないのですか……?」

  「当然だ。先ほど接続したモジュールには、接触刺激を快感という信号に変換し、中枢へ送る機能が備わっている」

  「……快感……?」

  「そうだ。生物が交尾を行う際、種の保存を確実にするために脳内で生成される強力な報酬系信号だ。君は今、その強烈な報酬を浴びて、システム全体が『もっと欲しい』と渇望している状態なのだよ」

  V-09のセンサー光が揺れた。先ほどまでの苦しみやバグだと思っていたものが、エラーではなく、生物が追い求める悦びであるという事実。その定義がインストールされた瞬間、股間に燻る熱の正体が、恐ろしいほどの解像度を持って彼を蝕み始めた。

  「さて、現状認識が済んだところで本番だ。これより『エッジング・プロトコル』を開始する」

  「それは、どういったものでしょうか……?」

  「テストステロン値を最大効率で維持するためには、オーガズムの直前状態、つまり臨界点をキープし続ける必要がある」

  観察者の説明に、V-09は自身の膨大なデータベースを検索する。

  ――検索結果、0件。戦闘に関するあらゆる知識を持つ彼だが、性に関する用語は一切登録されていない。

  「……質問。オーガズム、および臨界点とは、具体的になんらかの武装の使用タイミングを指すのですか?」

  無知ゆえの真面目な問いかけ。観察者は丁寧に答える。

  「いいや。性器モジュール内に蓄積された高エネルギー流体……精液と呼ばれる物質を、尿道から高圧で射出する排熱現象のことだ。これは通常射精と呼ばれ、莫大な快感と一時的なテストステロン値の増大が見込める、が……」

  「……高エネルギー流体の、射出……射精、ですか……」

  「そうだ。だが、今回はそれを禁ずる。男性は射精後、急速にテストステロン値を減衰させる傾向にあるからだ。出そうになっても、決して出してはならない。できるな?」

  「……り、理解……できません」

  V-09は、震える声で反論を試みる。

  「排熱しなくては、システムが焼き付いてしまいます。現在の内圧も限界に近い。臨界点を維持し続けるなど、物理的に不可能です。直ちに射出許可を……」

  「却下する。これは任務だ」

  観察者の一言が、安全装置への渇望を断ち切った。

  「心配するな。システムに不可逆的な損傷を与えるほどの刺激は加えない。……では、これより刺激を強めていく」

  突き放すような宣告と共に、天井のマニピュレータが動き出した。先端のアタッチメントが回転し、カシャン、という硬質な音と共にパーツが換装される。新たに現れたのは、ガラス質のハードケースに覆われた、透明な円筒形ユニットだった。内部には、複雑な紋様が刻まれた半透明のシリコン肉壁が、窮屈そうに詰まっている。

  「これは……っ!」

  筒が亀頭の真上でピタリと静止した時。V-09の意思とは無関係に、股間のモノが『ビクン!』と大きく跳ねた。まるで餌を前にした獣のように、自ら穴に入りたがるように、先端が筒の入り口めがけて空を突く。

  (……な、ぜ……?)

  V-09は困惑した。あれはただの工業用シリコンだ。だというのに、なぜ自分は今、「あれに挿入したい」という強烈な引力を感じているのか。思考する間もなく、透明な筒がゆっくりと降下を開始する。

  「生物的な雄という種は、狭く温かい場所に潜り込む瞬間に、最大の脳内麻薬が分泌されるよう設計されている。今回の『擬似テストステロン』プログラムにも、その要素を取り入れている」

  観察者の解説をBGMに、透明な入り口がパンパンに張った亀頭の先端を捕らえた。

  ぬぷぷっ……

  真空ポンプに吸い込まれるような、密閉された空間への侵入音。 V-09の視界で、透明なシリコンが亀頭の形状に合わせて押し広げられ、張り詰めたカリ首を飲み込んでいく様がスローモーションのように展開される。

  「あ、ぅ……」

  V-09の喉から間の抜けた呻き声が漏れた。先ほどの手コキとは次元が違う。全方位からの圧迫。逃げ場のない密着感。シリコンのヒダの一枚一枚が、敏感な粘膜に吸い付き、ねっとりと絡みついてくる。

  (……解析、不能……! なんだ、この……データは……)

  筒がゆっくりと下降する。入り口の最も窄まった部分が、高く張り出したカリ首の段差を乗り越えようとする瞬間。

  ヌ、プ、ゥ……ン。

  全周から締め付けられる、蕩けるような圧迫感。痛みではない。衝撃でもない。温かく、柔らかく、それでいて逃げ場がないほど強く包み込まれる感覚。

  (熱い……! 締め付けが……全周から……! エラー……いや、違う……)

  V-09は混乱の中で、必死にこの感覚の正体を探ろうとする。戦場で経験したものとは比べ物にもならないほど優しい圧迫なのに、なぜか腰の力が抜けそうになる。思考回路が白く霞み、論理的な思考が溶かされていくような、甘美な脱力感。

  (……これが……さっき、ドクターが言っていた……)

  ――快感

  ――報酬

  (これが……『気持ちいい』ということ、なのか……?)

  単語と感覚が、初めてリンクした。未知のバグでしかなかった信号が悦びとして定義され、V-09の全身を駆け巡る電流の色が変わる。恐怖が、渇望へと。

  ズ、チュゥゥゥ……、ヌプッ

  長いストロークの末、透明な筒はV-09のイチモツを根元まで完全に飲み込んだ。みっちりとシリコンが充填されたケースの中に、雄々しい巨根が窮屈そうに収まっている構図が、照明に照らされて浮かび上がる。逃げ場のない空気が押し出され、内部は完全な真空状態で張り付いている。

  「う、あ……っ、あぁ……」

  ただ挿入されただけだ。ピストン運動すらしていない。だというのに、全身を締め上げるような圧倒的な気持ちよさの奔流に、V-09は耐えきれずに腰をガクガクと震わせた。限界まで高まった感度が、内壁の脈動すらも快楽刺激として拾ってしまう。

  「ドクター……変です……! 回路が、溶けてしまいそうだ……! これ以上は……」

  ――何かが来る。

  気持ちいいの先にある、もっと強大な爆発の予兆を芽生えたばかりの本能で感知し、V-09は恐怖に駆られた。

  「何を言っている? ここがスタートラインだ」

  観察者は実験室の外から冷徹に告げると、手元のコンソールへと指を伸ばした。

  『エッジング・プロトコル 起動』

  観察者の指先が静かにキーを叩く。V-09の頭上で待機していたマニピュレータが、新たな挙動を開始した。

  超低速で駆動するモーター音と共に、透明な円筒ユニットが動き出す。速度は秒速数センチメートル。目視でも動きが判別しづらいほどの遅さが、逆にV-09の鋭敏になった感覚を撫で回し、焦らし抜いていく。

  ズズ……、ヌ、プゥ……

  実験室の静寂を侵したのは、耳を塞ぎたくなるほどに粘着質な水音だった。根元まで飲み込まれていたシリコンの肉壁が、ゆっくりと引き上げられていく。内部の空気が完全に排除され、真空に近い状態で密着したシリコンが、張り詰めた陰茎の皮膚を吸い上げ、絡みつきながら離れていく音だ。

  「……っ、あ……」

  シャチを模した厳めしいフェイスプレートからため息のような排気音が漏れる。思考回路にも変化が生じていた。

  痛みはない。衝撃もない。あるのは、ほんのりと温かい何かが、自分の新たな急所を優しく包み込み、ねっとりと舐め上げているという事実だけ。

  透明な筒越しに、卑猥な光景が克明に映し出されている。カリ首の段差にシリコンのヒダが引っ掛かり、名残惜しそうに形を変えながら、ゆっくりと包皮を引っ張り亀頭を露出させていく。そして、亀頭がしっかりと顔を出したところで、アームは再び上昇へと転じる。

  ヌゥ、ゥ……、チュプッ……

  空気を押し出すような重苦しい圧力で、再び亀頭が柔らかいシリコンの奥へと沈められていく。先ほど塗布された大量のローションと、V-09自身から溢れ出したカウパー腺液が混ざり合い、内部では白濁した泡が立っていた。その泡の一つ一つが弾ける感触さえも、過敏になった亀頭は信号として拾い上げてしまう。

  「はぁ……っ、ふぅ……。ドクター、これが……」

  V-09の全身から力が抜けていく。緊張で鋼鉄のように強張っていた人工筋肉が、微熱を持って弛緩し始めていた。

  「これが……先ほど仰っていた……『気持ちいい』という感覚なのですか……?」

  「そうだ。モニターを見てみろ」

  観察者の声は実験動物を愛でるように穏やかだ。

  「お前の股間は今、筒の内壁に吸い付き、貪るように粘液を絡め取っている。その蕩けるような微熱こそが、雄が感じる『快楽』の正体だ」

  「快……楽……」

  言葉を反芻するたびに、股間の奥がじんわりと痺れる。電子頭脳の片隅にあった赤色のアラートが霧散し、代わりに表示されるのは陶酔を示す安定した緑色の波形。擬似テストステロンによって生成されたドーパミン・エミュレート信号が、彼の明晰な電子頭脳を甘く麻痺させ始めている証左だった。

  ズチュ……ン……ズ、ポ……ッ

  一定のリズム。寄せては返す波のように、快楽が周期的に股間へと押し寄せる。引き抜かれる瞬間の、根っこごと吸われるような虚脱感。押し込まれる瞬間の、脳髄が痺れるような充足感。その繰り返しに、V-09の意識は泥のようなまどろみへと沈んでいく。

  「V-09。サーボモーターの同調率が上昇しているぞ」

  モニターの数値を確認していた観察者が、不意に指摘した。

  「無意識に、アームの周期に合わせて腰を振っているな?」

  「……ッ!」

  意識の外からの指摘に、V-09の光学センサーが大きく揺れた。事実、彼の腰は動いていた。アームが上昇し、男根が引き抜かれそうになる瞬間、それを逃すまいと腰を浮かせ、追いかける。それは紛れもなく、快楽を貪る雄の腰使いだった。

  (……動いて、いた……? 私が……?)

  思考よりも先に、口が動く。

  「ひ、否定します……! これは、外部振動に対する……衝撃吸収機構の自動制御、です……!」

  V-09は、自分の発言に困惑した。事実、それは姿勢制御プログラムの一環とも説明できる動作だ。だが、なぜ自分は今、こんなにも焦って不必要な言い訳をしているのか。なぜ、腰を振っていた事実を認めることに、これほど回路が熱くなるような抵抗を感じるのか。

  「入力された振動エネルギーを相殺し、機体の安定性を保つための……反射的な……」

  「そうか。ならば、もう少し複雑な振動を与えてみよう」

  V-09のいじらしい否定を嘲笑うかのように、観察者は新たなコマンドを入力した。

  キュウゥン……ヌ、チュッ……

  アームの動作に微細なひねりが加わる。ただの上下運動ではない。引き抜きながら右へ、押し込みながら左へ。透明な筒の内部にある螺旋状の突起が、敏感な裏筋を斜めに横切り、尿道口の窄まりをピンポイントで抉るように撫で回した。

  「は、ん……っ!? そこ、は……ッ!」

  未体験の生々しい刺激に声を抑えられるはずもなく、言い訳は途切れた。姿勢制御など吹き飛ぶほどの、強烈なスパーク。裏筋という、彼が知らなかった雄の弱点を的確に攻められ、無意識に股を開いてより多くの快感を求めてしまう。

  「あ、ぅ……。ドクター、回路が……痺れ……て……。演算が……まとまら、な……」

  もはや兵器としての威厳など欠片もない。V-09は整備台にぐったりと、口を半開きにし、よだれのような排気ガスを漏らしながら、ただただ与えられる快楽に身を任せていた。

  透明な筒越しに見える巨根は、ローションと愛液でテラテラと濡れそぼり、生命感に溢れた輝きを放っている。ビクン、と脈打つたびに、表面を覆う血管が浮き上がり、充満した動力液がどこへも行けずに渦巻いているのが見て取れた。

  その時、陶酔に浸っていたV-09の思考動作に、ふとノイズが生じる。

  「……ん、ぁ……?」

  とろけるような快楽の波の合間に、異質な感覚が混じる。股間、性器モジュールの根本。二つの巨大な球体が収まった陰嚢と呼ばれる部分に、ズシリとした鈍い重さが生まれ始めていた。内圧で損傷するほどではないが、無視できない圧迫感。内側から何かが膨れ上がり、皮をパンパンに押し広げるような、熱を持った張り。

  「……ほう、こく……。下腹部……タンク……周辺……」

  V-09の口調から、明晰さが失われていく。彼は自分の股間で支える重量感を、熱に浮されたような声で訴えた。

  「重い……です……。何かが……内部で……溜まって……圧迫、感が……」

  「正常だ」

  観察者は冷静に告げる。

  「テストステロン値の上昇に伴い、モジュール内で擬似精液の合成プロセスが完了し、充填が開始されたのだ。お前のタンクは今、いつでも射出できるよう、極めて粘度の高い燃料で満タンになりつつある」

  V-09は息を呑んだ。硬質な機械である自分の股間にぶら下がっている袋の中に、今、ドロドロとした熱い液体が並々と満たされている。想像をしただけで、股間の張りは一層強くなり、出口を求めるような疼きが下腹部を突き上げた。

  「ふぅ……ふぅ……っ」

  出したい。重い。苦しい。溜まったものを吐き出して、楽になりたい。そんな雄としての根源的な欲求が、初めて彼の思考を支配し始める。

  一方、観察者はモニターに表示された充填率100%の文字を確認し、残酷な宣告を下す。

  「これより排出弁の耐圧テストに移る」

  宣告が何を意味するのか。混濁した意識が理解するよりも早く、アームの動きが変化した。

  キュイィィン……

  ジュポッ……、ジュポッ……、ジュポッ……

  湿度を帯びた水音が、一定の間隔で実験室に響き始める。人間の手で最も心地よいとされる速度、秒間一往復程度の、初心者にはちょうどいいリズム。

  V-09の眼下では、透明な円筒ユニットが勃起した性器モジュールを根元まで飲み込んでは、亀頭が露出するギリギリまで引き上げられる。シリコンのひだは、たっぷりと塗布されたローションを巻き込みながら竿全体をねっとりと舐め上げ、下がる時には亀頭の張り出しを確かな圧力をもって押し包んでいく。強すぎず、弱すぎず。ただひたすらに、雄が気持ちいいと感じるツボだけを、機械的な正確さで突き続けてくる。

  「ふ……ぅぅ……」

  喉奥からは重く低い唸りがとめどなく漏れ出る。自身に秘められた性を初めて知った、巨大な肉体を持て余した雄の、安堵と快楽が入り混じった吐息だ。

  「あ、あぁ……腰が、痺れます……」

  V-09の電子頭脳は、この現象を言語化できずにいた。だが、身体はあまりに正直だった。

  アームが下がり、ペニスが根元まで押し込まれるタイミングに合わせて、彼の腰が無意識にグイ、グイと浮き上がる。自らシリコンの奥へと潜り込み、より強い締め付けを迎えに行っているのだ。

  擬似テストステロンによって書き加えられた本能が、回路の隅々まで染み渡り、彼に一つの真実を突きつける。雄という生き物は、そこを握られ、扱かれれば、腰を振って熱を吐き出すしかないのだと。

  海洋強襲兵器として設計された機体は、今やただ快楽を貪るだけの雄の肉体へと成り下がろうとしていた。

  「はぁ……、ふぅ……認識、しました……。私は、今……快楽を……」

  肯定してしまった。自分が今、任務ではなく、股間の快楽に溺れている事実を、V-09は完全に自覚した。透明な筒越しに見える光景は、堕落を雄弁に物語っている。

  ジュプ、ジュプッ……

  何の変哲もない愛撫が、無防備な中枢回路を瞬く間に蹂躙し、最強の海兵をただ性欲まみれのだらしない雄犬へと堕としていく。

  往復運動が繰り返されるたび、内部でねっとりと絡みつく生臭い粘液は、摩擦係数を極限までゼロに近づけ、ヌルヌルと滑るような不道徳な快感を増幅させていく。

  一定のリズムによる単調な動作は、複雑な戦術機動を演算できるV-09にとって、本来であれば予測も制御も容易い物理運動のはずだった。だが、今の彼にそれを防ぐ手立てはない。

  どれほど高度な戦闘兵器であろうと、快感への耐性はゼロ。性に関しては生まれたばかりの赤子も同然。ゆえに、この秒間一往復という優しいストロークだけでも、彼をイかせるには十分だった。

  「んっ、…く、ぅ……! あ、熱い……下腹部が……」

  精神的な堕落に続き、物理的な限界も着実に彼を追い詰めていく。性器モジュールに付属した睾丸パーツが、微振動を伴って甘く疼き始めていた。

  内蔵ヒーターと循環ポンプがフル稼働し、彼の体内の動力液を混ぜ合わせて擬似精液を生成。さらに、つくられたばかりの擬似精液を人肌の温度まで温める。

  大振りの玉袋にたっぷりと蓄えられた粘液は、ズシリとした重量感となって股間を引っ張り、単なる燃料タンクとしての重みではなく、早く空にして楽になりたいという、雄特有の焦燥感を訴え始めていた。

  ジュポッ、ジュポッ、ジュポッ……

  アームの動きは依然として変わらない。だが、V-09の内部センサーは、かつてない異常信号を検知し、戦慄していた。

  シャチの体色を模した分厚い装甲の下、張り詰めた人工筋肉が軋む。力なく垂れ下がっていた尾びれが跳ね上がり、ガコンガコンと無骨な音を立てる。

  「お、奥から……ドクター……! 何かが、来ます……っ!」

  それは彼が初めて知覚する射精の兆しだった。快感の波が押し寄せるたび、ペニスの根元に、熱く、重く、そして高圧なエネルギーが急速に充填されていく。

  物理的に何かが込み上げてくるという確かな感覚。それも、単なる電気信号では無くて、物理的な圧迫感を伴うあまりにも生々しい性感。それが、自身の体内で生成された、排出されるべき種であると思い至った瞬間、V-09の思考は恐怖にも似た切迫感に塗り潰された。

  (ダメだ。これ以上は、内圧に耐えられない……!)

  その予感は、瞬く間に「我慢したくない」という生理欲求へと変わる。快感に従うならば、この流れに身を任せるのが生物的に自然な行いなのだと、性知識はなくとも瞬時に察せられた。

  尿道口が呼吸困難のようにパクパクと痙攣し、亀頭の先端が痺れるほどに熱くなる。

  「は、ぅッ……! ドクター、許可を……! 出ます……ッ! 暴発、します……ッ!!」

  V-09は大きくのけ反り、胸板の装甲を激しく上下させた。腰を高く突き上げ、シリコンの穴にペニスを深く、限界まで埋め込む。

  あとは、このまま何度か扱き上げられれば自然と弁が開き、睾丸の中でグツグツと疼く白濁した熱量を吐き出せる。その先にある圧倒的な気持ち良さを雄の本能で察知して――

  ヌポンッ

  軽快な音がして、圧力が消失した。アームが下降することなく、そのまま上昇しきって、性器モジュールからすっぽりと抜けたのだ。

  「――――あ、れ……?」

  カクン、カクンッ

  V-09の腰が空を切った。

  シリコンの温もりも、吸い付くような締め付けも消え失せているのに、彼の腰は慣性を殺しきれず、幻の穴を求めて空しく痙攣的な上下動を繰り返す。

  「はぁ、ッ、はぁ……ッ……?」

  整備台の上に取り残されたのは、発射準備を完了したまま行き場をなくした一本の男根だけ。外気に晒された亀頭は、ローションと泡立ったカウパーでぐちょぐちょに濡れそぼり、赤黒く充血したまま、寂しげに湯気を立てている。

  ビクッ、ビクン……

  根本が大きく跳ね、亀頭の先端から透明な蜜がトロリと零れ落ちたが、求めていた爆発的な解放は訪れない。最高潮に達していた射精欲求が、出口を見失って体内を暴れ回る。

  V-09は荒い息を吐き、まだ小刻みに震え続ける腰を持て余しながら、虚空を向く自分の股間を呆然と見つめた。状況が理解できない。一番気持ちいい瞬間に、なぜ。

  「……ドクター……? 動作が、停止してしまいました……」

  思考の空白は一瞬だった。V-09は痙攣する腰を押さえつけるのも忘れて、虚空へ向かって問いかけた。一番気持ちのいい、あと一押しで絶頂に至るというところで、唐突に快感の供給が止まったのだ。彼の論理回路は、これをマニピュレータの故障と判断するしかなかった。

  「応答、を……刺激が消失しました……。これでは、射出シーケンスが……」

  「テストの目的を忘れたのか、V-09」

  実験室のスピーカーから冷ややかな声が降る。V-09はハッとして、天井付近にあるカメラアイへと視線を彷徨わせた。

  「テス、ト……?」

  「これは『擬似テストステロン』プログラムの試運転と言ったはずだ。君が得る快感は副次的なものに過ぎない」

  「あ……」

  突き放すような宣告。言葉の意味を咀嚼する間もなく、V-09の股間は、残酷な現実に直面していた。

  整備台の上で仰向けになり、大胆に大股を開かされ、天井を突くように粘膜が剥き出しになっている。乾燥した空気に触れるだけでヒリヒリと痺れ、先端の尿道口からは、行き場を失った大量のカウパー腺液がボタボタと切れ間なく滴り落ちていた。

  「ん、ぐぅ……ッ、ですが、苦し、い……です……もう、タンクが……」

  真上を向くペニスとは反対にふらふらと垂れる陰嚢が、ドクン、ドクンと重苦しく脈打つ。既に製造されてしまった擬似精液が袋の中で圧縮され、排出されない内圧が鉛のような重量感となって股間をズシリと引き摺り下ろす。

  「確かに苦しいだろうな。では、局所刺激によって高水準を維持しよう」

  「局所……? ま、待って、くださ……」

  観察者の指示と共に、新たな駆動音が響く。現れたのは、V-09が切望する筒状のパーツではなかった。金属製の細いプローブやシリコンパッドを備えた複数の細いアームが、無慈悲に寸止めの衝撃で身動きのとれない股座へと接近する。

  つんっ

  「ひぅッ!? つ、冷た……!?」

  咄嗟に情けない声を漏らしてしまう。最初に無防備に勃起したペニスを襲ったのは鋭利な冷たさだった。

  射精を求めてパクパクと呼吸を繰り返していた尿道口の割れ目に、冷やされた金属の先端が容赦なく押し当てられる。熱を持った粘膜と冷たい金属の温度差。鋭い刺激が脊髄を駆け上がり、V-09の背筋を大きく跳ねさせた。

  「や、め……あぅッ! そこは、敏感で……ッ!」

  「まだ感度は良好だな。次はこれにしよう」

  ぬちゅ、ぬちゅ……

  今度はローションまみれのカリ首に、指先を模したシリコンアームが這う。張り出したエラの部分を、ネチネチ、コネコネと、執拗になぞり上げるような緩慢な動作。

  「んっ、…ふぅ……っ! くすぐったい……そんな、撫でるだけでは……」

  射精寸前まで追い込まれたあの扱きに比べれば、優しすぎる。ヌチャ、ヌチャ、という粘着質な水音が、V-09の聴覚センサーを犯していくが、肝心の圧が足りない。

  「射精抑制状態の維持による数値の上昇を確認。この調子で続けていくぞ」

  観察者の指摘と同時、股下で陰嚢を狙っていたアームも動き出す。人肌に温められた柔らかいシリコンパッドが、重く張り詰めた二つの玉を下から優しく包み込み、ゆっくりと、容赦なく揉み解し始めたのだ。

  「んぁっ、ぅ……くっ…あ、そこ……はあぁ……っ!」

  グニ、グニ、グチュ……

  たっぷりと溜まった中身を揺すられる感覚。パンパンに膨れた袋を揉まれるたび、内側の熱い液体が物理的に流動し、出口を求めて暴れ回る。

  「はぁ、はぁ……っ! 揺らさ、ないで……ください…つ、辛いです……」

  「まだ音を上げるには早い。次で仕上げだ」

  ブゥゥゥゥン……

  荒い息遣いに低く唸る振動音が重なった。微細振動を繰り返す円盤状のアタッチメントが、裏筋の最も敏感な一点に、じわりと押し当てられる。

  「ぐ、ぅッ!? な、なん……ッ!?」

  ブブブブブブ……ッ

  細かな振動が、快感を求めてやまないペニスの神経をダイレクトに削り取っていく。

  快感はある。だが、それはあまりにも局所的すぎた。全体を包み込まれる安心感がないまま、強制的に性感帯だけを叩き起こされる感覚。

  「あ、ぐッ……! ちがう、違います……! これでは……届かない……!」

  腰がベッドから浮き上がり、竿がビクンビクンと暴れるたびに、先端からカウパーがぴゅっ、ぴゅっ、と勢いよく飛び散る。

  違う。雄の本能が求めているのは、こんな点の刺激ではない。先ほどまで味わっていた、ペニス全体を温かい肉壁で包み込み、根こそぎ吸い上げてくれる、あの圧倒的な密着。

  これでは生殺しだ。出そうで、出ない。閾値ギリギリの場所を、針でつつかれるようなもどかしさ。

  「んぅ、ぅ……。あ……。おねが、い……します……」

  食い足りない刺激と、優しすぎる玉揉み、そして逃げ場のない振動。焦らされ続けたV-09の回路が、一つの結論を弾き出した。この苦しいほどの疼きを解消するには、先ほどの行為――あの筒によるピストン運動が必要なのだと。

  「ドクター……足り、ません……。その……」

  「何が欲しい?」

  「つ、筒を……。さっきの、あの筒で……包まれたい、です……」

  最強の兵器が、自らオナホールを所望した瞬間だった。

  「君が希望するなら、テストを再開しよう」

  観察者の返答に合わせて、天上で待機していた透明な円筒ユニットが降りてくる。V-09は吸い込まれるように腰を持ち上げ、まだ小刻みに震えている亀頭を、自らその開口部へと導いた。

  ヌプッ……チュポン……

  湿った音がして、乾燥しかけていた亀頭が、再び温かいシリコンと大量のローションの中に迎え入れられる。

  全方位から均等にかかる圧力。温もり。密着感。求めていた包容感、そして既に目覚めつつあるV-09の『雄』を満たす挿入感に、戦うための機体が脱力させられる。

  「あぁ……っ」

  口からは心からの安堵の吐息が自然に漏れ出す。

  そうだ。これだ。ただ包まれているだけで、こんなにも回路が安定する。彼は、ゆっくりと再開されたピストン運動に合わせ、二度と逃がすまいとするように自ら腰を浮かせ、筒の奥深くへと潜り込んでいった。

  ジュポッ、ジュポッ、ジュポッ……

  筒のピストン運動は再び安定したリズムを刻む。

  「は……、ぅう……あたたかい……きもちいい……」

  再挿入されたシリコンの感触を、彼は全身のセンサーを使って貪るように味わっていた。

  吸い付くような内壁のヒダが性欲をため込みすぎて鬱血した亀頭を優しく撫で上げ、たっぷりと塗布されたローションが摩擦の痛みを快楽へと変換していく。

  アームが下がるタイミングに合わせ、やはりV-09は自ら腰を突き上げるようにして、透明なシリコンの肉壁を根元までしっかり堪能する。

  「ふうぅ……っおぉ……おおおおぉ…………溶ける……回路が、溶け……」

  ただ穴に出し入れされるだけの物理刺激が、電子頭脳を快楽で埋め尽くしていく。屈強な装甲も、戦術機としての任務も、今の彼には何の意味も持たない。この温かい筒こそが、接続すべき正規のポートであり、そこに精液を注ぎ込むことだけが、今の彼に許された唯一の存在意義となっていた。

  「安定したな、V-09。モニターを見ろ」

  陶酔に浸る彼に対して、観察者は冷静に数値を突きつける。

  「心拍数、油圧、共に鎮静化レベルにある。興味深い反応だ」

  「あ……? 鎮静、化……?」

  「そうだ。本来、異物が侵入すれば排斥反応を示すはずの防衛システムが完全に沈黙している。これは擬似テストステロンの作用により、君の精神構造が生物的な雄に極めて近しい状態へ移行したことを示している」

  観察者は画面に表示された波形を指し、淡々と診断を下す。

  「君の回路は今、結合しているシリコンを雌と誤認し、接触することで精神の安定を図ろうとしている。自覚がないのか? 教えられたわけでもないのに自ら腰を振って、より深い位置での射精を敢行しようとしている動作。それこそ君が戦術機ではなく、発情した雄となった証拠だろう」

  突きつけられた事実が、V-09の電子頭脳をさらに熱くさせる。否定などできない。現に、指摘されているこの瞬間も、彼の腰はシリコンの締め付けを求めて、浅ましくグラインドを続けているのだから。

  (私が……雄に……? 繁殖欲求……これが……)

  自分は兵器ではない。種付けのために腰を振る、ただの雄の肉塊なのだ。

  彼が自らを雄であると自覚した瞬間、生殖本能のリミッターが弾け飛ぶ。

  「肯定、します……。私は……雄、です……。だから……」

  V-09の思考は単純かつ強力な本能に支配されていた。雄であるならば、射精しなければならない。結合した穴の奥深くに、種を注ぎ込まなければならない。

  「あ、ふぅ……ッ! ここ、が……。奥が、イイ……ッ」

  ズチュッ、ズチュッ、ヌチュゥ……

  シリコンとシリコンが擦れ合う音は、その様相を生々しい肉の交わりへと変えつつある。

  亀頭の先端が、シリコン内部の最も狭い窄まりを強引に押し広げ、めり込んでいく征服感。内壁全体が吸盤のようにペニスへ張り付き、引き抜こうとする動きに逆らって、真空に近い圧力でねっとりと粘膜を吸い上げてくる。逃がさないとばかりに絡みつく重い密着感が、敏感になりきった裏筋を面で捉え、根こそぎ快感を搾り取っていく。

  だが、甘美な時間は長くは続かない。彼自身が溜め込んだ熱量が、許容量を超えようとしていた。

  「ん、ッ、くぅ……! 溜まっている……すごい、量、が……」

  股間を吊り下がる重量級のボールも、既に無視できないほどに主張を強めている。

  巨躯に見合うサイズの、二つの巨大な球体を収めた陰嚢袋。腰を振るたびにブルン、ブルンと重々しく揺れ動き、太腿の内側をペチペチと叩く。人肌に近い特殊シリコンで作られた袋の中身は、充填された擬似精液の内圧によってはち切れんばかりに膨張している。

  重い。苦しい。袋の中で生成されたドロドロの熱量が、逃げ場を求めて渦を巻いているのがわかる。V-09は、その重苦しい疼きさえも快楽の燃料に変え、さらに激しく腰を突き上げた。

  「もう……ッ、限界、です……ッ」

  許可など待っていられない。膨れ上がったタンクが、今すぐ中身をぶち撒けろと暴れ狂っている。回路を焼き尽くすほどの快感に、理性も規律も溶解し、残ったのはただ種を吐き出したいという雄の衝動だけ。

  尿道口が甘く痺れて勝手に開き、溢れ出た先走りがシリコンの中でヌルりと滑る。あと一突き、あと一回、このまま奥まで突き入れて、全てを解放してしまえばいい。

  「ん、おおぉ……ッ! ドクター……きます……ッ!」

  ギュウウッ、と陰嚢が断末魔のような収縮を見せた。睾丸筋が袋をギュッと持ち上げ、タンク内の流体をペニスの根元へと一気に圧送する。脊髄を駆け上がる快感のスパーク。腰の奥底から灼熱のマグマがせり上がってくる。体内を濁流が這いずり回る生々しい感覚。

  「あ、ぁッ、出ます……ッ! 出るッ、出るッ!!」

  V-09は確信とともに叫んだ。もはや止まらない。止めようがない。その現象を体験したことがなくても、彼は本能で動き出す。渾身の力で腰を突き上げ、背中を大きく反らし、全ての排出口を開放して絶頂を迎えに行こうとした。

  彼は人工筋肉を強張らせ、高まりゆく絶頂の予感に身を委ねる。尿道口が甘く痺れ、内側のバルブが緩みかける。あと数回。あと数回、このまま奥まで突き入れれば、堰を切ったように溢れ出すはずだ。

  「お゛ッ、お゛お゛おおおぉッ! 出るぅッ――」

  V-09は顎を大きく反らして射出の反動に備えた。拘束された四肢は激しく痙攣している。手首と足首を固定する分厚い金属製の枷が、450kgの質量を持つ巨体の暴走によって悲鳴を上げ、整備台全体がガタガタと揺れる。

  絶頂の信号が脳髄を駆け抜け、膨大な量の擬似精液が、勢いよく尿道へと流れ込もうとして――

  ガチンッ

  V-09の股間、竿の根元内部で、重く無機質な金属音が響いた。

  「…………え?」

  時間が凍り付く。射精の快感が脳を突き抜けているのに、肝心の放出が起きない。勢いよく飛び出そうとした高圧の熱流が、尿道の途中で突如として見えない壁に激突し、凄まじい運動エネルギーを持ったまま行き場を失ったのだ。

  逃げ場を塞がれた圧力は逆流し、竿の根元を内側から食い破るように膨張させる。尿道口がパクパクッと、怒りを露わにするように大きく開閉するが、そこからは一滴の白濁も噴き出さない。

  「が、っ!? 出な、い……!? 詰まって……!?」

  あるのは、物理的な閉塞感と、内部から破壊されそうな圧迫苦のみ。V-09は恐怖のあまりにセンサーの焦点を合わせ、自分の股間を凝視した。

  何が起きたのか。なぜ出ないのか。さっきのような「寸止め」ではない。出そうとしているのに、物理的に「蓋」をされた感覚。出口を失った精液が、尿道の中で渦を巻き、激痛に近い内圧となってペニスを内側から軋ませる。

  「ぐ、ぎッ……!? ド、ドク、タァ……!? あ゛、ぐ……ッ!!」

  言葉が続かない。内側からの衝撃波に発声が阻害され、V-09は空気を求めて魚のように口をパクパクと開閉させた。

  「エラー……です……ッ! んぐ、ぅッ! 出ませ、ん……ッ! 逆流、して……出せ、ない……ッ!」

  V-09は顔に飛び散った粘液を脂汗のように垂らし、カメラアイに向かって見苦しく喚いた。拘束具をガチャン、ガチャンと激しく鳴らし、腰を浮かせて逃れようとするが、膨れ上がったペニスは逃げ場のない内圧に晒され続けている。

  「た、す……け……ッ! あ゛、ぐ……ッ! こわ、れる……股間、が……パンク、するぅ……ッ!」

  「排出弁の耐久力は申し分ないようだ」

  スピーカーから非常ベルのように無慈悲な宣告が響く。

  「自発的な射精抑制による数値変動のデータは十分にとれた。これより、高内圧状態での連続稼働試験に移行する」

  「あ、待っ……!」

  最高の快感を直前で取り上げられたまま、半ばパニックに陥ったV-09に立ち直る隙を与えず、透明オナホ搭載アームの挙動が変化する。

  キュイィィィン!

  物々しい駆動音。これまで性感初体験のV-09を優しくもてなしていた上下運動は、突如として牙を剥く。

  「あ、れ……? ドクター……?」

  ジュポッ、ジュポッ、ジュポッ

  ピストンのサイクルが明確に短縮され、秒間一往復という心地よいだけのリズムが崩れ始める。引き抜く動作もまた鋭くなり、シリコンの肉壁が鬱血した亀頭を擦り上げる摩擦係数が、V-09の初心なペニスには堪えられない数値へと跳ね上がっていく。

  「待っ、ぐッ……! ロック、解除を……! 苦しッ、んぐッ、あ゛ッ……!!」

  V-09は腰を浮かせ、胸部のランプを点滅させて訴えた。

  出口を塞がれたペニスの中で、行き場のない流体が渦を巻いている最中なのだ。これ以上刺激を与えられては、内圧で輸精管が破裂してしまう。

  「数値は正常だ。テストを続行する」

  「そん、な……! 正常では、ない、です……ッ! まだ中で、精液が……お゛ぁッ!?」

  V-09の抗議など、暴走する快楽の前には無力だった。

  キュウウウウウン……ッ

  駆動音のピッチがさらに上がる。もはや人間の腰振りの速度ではない。工業用機械の暴力的な回転数だ。

  ジュポポポポポポポポッ!! グチュッ、グチュチュチュチュッ!!

  「ぅ、あ゛ッ!? はやッ、あ゛あ゛ッ、ガ、ッ……!!」

  透明のオナホールが残像と化す。その中でメチャクチャに揉み扱かれるペニスもまた同様に輪郭を歪ませる。

  毎秒数十回という異常な速度で往復するシリコンの肉壁が、ガチガチに硬くなった竿全体をタコ殴りにするように擦り上げ、高く張り出したカリ首がフックになり亀頭を真空ポンプのような吸引力で吸い上げる。

  「や、あ゛ッ! き、きついッ! 摩擦、熱が、はあ゛ッ、あああぁッ!」

  言葉が続かない。あまりに強烈な摩擦。脊髄へホワイトノイズのような快感が走る。

  これまで生ぬるい出し入れを『気持ちいい』のだと擦り込まれていたところに、裏筋をこそぎ落とさんとする強烈ピストンをくらったのだ。乱れるのも無理はなかった。

  快感の逃げ場を失ったことで、機体の先端たる尾びれが苦悶に暴れ狂い、左右に大きく振られる。

  だが、アームの動作は容赦ない。オナホの中では、大量のローションとカウパー腺液が遠心分離機にかけられたように激しく撹拌され、白濁した飛沫となってブチュブチュと溢れ出してはV-09の黒々とした光沢のある太腿に叩きつけられている。

  バチュンッ、バチュンッ! ズチュズチュズチュズチュッ!

  気泡を含んだ粘液が破裂する、パチパチ、グチョグチョという湿った破裂音が、V-09の聴覚センサーを卑猥なデータで埋め尽くす。

  「ん゛お゛ッ!! お゛お゛ぉッ出るッ! 申し訳、ありませッ、あ゛ッ、出るッ!」

  雄の快楽を知ったばかりの素人が耐えられるはずがなかった。V-09の電子頭脳が限界を訴え、二度目の絶頂信号を発信する。陰嚢が再びギュウウッと収縮し、煮えたぎるような擬似精液が射精という仕組みに則ってペニスの根元へ圧送される。

  「お゛、お゛ぉ゛お゛お゛ッッ!! 出るッ、あ゛あ゛ッ――!!」

  出ない。

  「が、はッ……!? あ゛、ぐぅ……ッ!! ん゛ッ…ふぅーッ、ふぅーッ、う゛ッ…ぐゥッ……!!」

  声にならない悲鳴。オナホは拘束で絞り出そうとしてくるのに、性器モジュールは射精するために動作してくれない。出口を塞がれた圧力はペニスの内部で乱反射し、内側から肉を食い破るように快楽が暴れまわる。ペニスが操縦者に反抗するかのように限界を超えて怒張し射精欲求を訴えるが、先端からは漏れるのは先走り汁のみ。

  ジュポジュポジュポッ! グチュッグチュッ、グチョグチョグチョッ!

  機械は止まらない。中身が詰まって破裂寸前になった竿を、アームはさらに激しく、執拗に扱き上げ続ける。

  「ひィッ!? や、め……ッ! い、いま、は、きついからッ! お゛ぅ゛ッ…はぁっ、はぁっ、やめ、てッ……お゛ッ、ぐう゛うぅうッ!?」

  V-09は機体を整備台から引きはがそうとして、首を左右に激しく振った。

  痛い。苦しい。気持ちいい。気持ちよすぎる。出口のない射精感の直後、過敏になった先端をメチャクチャに擦られる刺激。

  電子頭脳は射精したと誤認しているのに、身体はまだ出していないと訴え、アームはもっと出せと強要してくる。

  ジュブジュブジュブジュブッ! バチュッ、バチュッ! ヌチュチュチュチュッ!!

  「あ゛、あ゛ッ! ん゛ッ、ぐッ……!! あ゛ッ……!!」

  せき止められた擬似精液が、尿道を逆流して膀胱付近まで押し戻される感覚。内臓が熱泥で満たされるような不快感と、それを上書きするほどの暴力的な快感。

  オナホールの中では、白濁した泡が沸騰したように弾け飛び、引き抜かれるたびに「ボシュッ!」「バチュッ!」と空気が抜けるような破裂音が響く。

  「ん゛ぐッ、う゛ッ! また、きま、すッ! でるッ、あ゛ッ!!」

  四度目。

  バチュンッ!!グチョ、グチュチュチュッ!! ブチュッ、バチュッ、ヌチュルルルルッ!!

  強烈な打撃音。シリコンの塊が股間に叩きつけられる音が実験室に響き渡る。

  蓄積された熱量は減るどころか、刺激を受けるたびに増幅していく。睾丸は今にも爆発しそうなほどに膨れ上がり、ツルリとした陰嚢の表面に浮いた血管がドクドクと脈打って悲鳴を上げている。

  「お゛ッ、お゛ッ! でるッ! でるッ!」

  閉塞。出るはずのものが出ない。その絶望を味わう暇すら与えられず、アームは無慈悲に速度を上げる。

  「ご、ふッ……!? あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!!」

  ジュポポポポポポッ!! ズチュ、ズチュ、ズチュッ!! バチュンッ、バチュンッ、グチョグチョグチョッ!!

  「ぐ、あ゛ッ……!! い゛ッ……!! あ゛あ゛ッ、でるッ、漏れる゛ッ……!!」

  五度目。

  V-09の口から知性のかけらもない喘ぎが垂れ流される。

  シリコンのヒダ一枚一枚の感触が、スローモーションのように鮮明に感じ取れるほど、感度が限界まで高まっている。

  グチュッ、グチュッ! ヌプッ、ヌチュッ! ジュポジュポジュポジュポジュポッ!!

  空気の抜ける音。粘液の跳ねる音。肉のぶつかる音。モーターの唸り。それらが混然一体となって、V-09の意識を白濁した泥沼へと引きずり込んでいく。

  「ん゛、ぎッ……! ん゛ッ! ん゛うぅッ……!! ん゛ッ……!!」

  六度目。

  もはや言葉にならない。絶頂の頂点で宙吊りにされたまま、延々と殴られ続ける。

  射精を物理的に妨げられる感覚すら快楽のアクセントに変わり果てていた。イこうとするたびに壁にぶつかり、逆流し、また擦り上げられる。無限地獄の中で、V-09の自我は完全に摩耗し、ただ快感に反応して痙攣するだけの人形へと成り果てていた。

  ズチュズチュズチュ……、ズ……、ポ……

  数十秒、あるいは数時間にも感じられた狂乱の宴が、唐突に速度を緩めた。完全停止ではないものの、アイドリングのような緩やかなピストンへと移行する。

  「はッ、ぁッ……! お゛ッ、ごッ……! ぉ゛お゛……ッ」

  V-09は虫の息で整備台の上に磔になっていた。全身の装甲からは放熱による陽炎が立ち昇り、剥き出しの関節部は過負荷で軋んでいる。視覚センサーも焦点が定まらず、全身が小刻みに震え、口からは熱く湿った排気ガスが止まらない。

  股間で未だバキバキにいきり立つ性器モジュールは、繰り返された絶頂と寸止めにより摩耗するどころか、より一層に腫れ上がっていた。

  「データ収集完了。……V-09、聞こえるか」

  観察者の淡々とした声がスピーカーから降りてくる。V-09は朦朧とする意識の中で遠くから響く音を拾っていた。

  「はぁッ、はぁッ……テス、ト……?」

  「まだだ。性器モジュールのタンク内圧が高い。このままでは取り外せない」

  観察者の言葉に、V-09はガクガクと首を縦に振った。

  わかっている。痛いほどわかっている。股間にある二つの爆弾が、今にも破裂しそうだ。

  「出したいか?」

  問いかけは、悪魔の囁きのようでもあり、慈悲のようでもあった。

  既にV-09の兵器としてのプライドなど微塵も残っていない。あるのは、ただ一滴残らず溜まったものを吐き出して、この苦しみから逃れたいという、雄としての根源的な欲求のみ。

  「はぁ、ッ……ぐ、ぅ……! 出したい、です……」

  彼は涙声で懇願した。

  「限界、です……もう、タンク、が……。はい、しゅつ……射精、させて……ください……ッ」

  戦場で無数の敵を屠ってきた冷徹な機械が、ただ排泄の許可を乞うて喘いでいる。

  観察者はモニター上の数値を一瞥し、淡々と承認キーを叩いた。

  「承認」

  神の赦しのような短い言葉と同時、アームのロック機構が作動する。そして――

  ガコッ

  V-09の股間内部で、重い遮断板が開放される音が響いた。同時に、停止していたマニピュレータが再始動する。

  ゆっくりと、慈しむように。痛むほどに腫れ上がった亀頭に優しく吸い付きながら、根元までじっとりと絞り上げる、たった一回のストローク。

  ヌ、プゥゥゥ……

  「あ、っ――――」

  ドクンッ、ドクンッ、ドグンッ

  「ん゛お゛ぉッ!?」

  V-09の股間では異様な拍動が始まっていた。解放された尿道へ向け、タンク内に蓄積されたすべての熱量と質量が一気に殺到する。

  股座から太々しくそびえるペニスの根元が、通過する濁流の圧力で押し広げられ、尿道がクッキリと浮かび上がる。それと同時に限界まで拡張された尿道口がパクりと大きく開いた。

  「お、゛ッ……! で、でるッ! あ゛ッ、ほんとうに、でッ、あ゛あ゛あ゛ッ……!!」

  ドピュウウウウウウウウッ!!!

  炸裂音。液体が飛び出す音ではない。高圧ガスが噴き出すような衝撃音と共に、第一波が放たれた。消火ホースの放水のような、極太の白濁した柱が、透明なオナホールの底を叩きつける。

  「お゛、お゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛ッッ!!!」

  獣の咆哮と共に、V-09の450kgの巨体がエビ反りに跳ね上がった。腰が大きく浮き上がり、尾びれはピンッと真っ直ぐに伸びて硬直する。

  凄まじい勢いの射精は、オナホールの許容量などコンマ数秒で超過する。行き場を失った大量の擬似精液が、V-09の機体へと滝のように逆流した。

  ブシュッ! ビュルルルルルルルルッ!!

  「あ゛、あ゛ッ……! あ゛あ゛あ゛ーーーッ!! とまら、ないッ! すご、いッ、があ゛ァッ!」

  一発では終わらない。度重なる空撃ちによって圧縮されたエネルギーは、次々と後続の波を呼び起こす。ドクッ、ドクンッと腰の奥底が脈打つたびに、圧縮されすぎて半固形になった白濁液が尿道から押し出され続ける。

  ドピュッ! ドピュッ! ブリュリュリュリュッ!!

  「ん゛お゛ぉッ!! はふッ、あ゛ッ、ぐぅッ……!! お゛、お゛ッ、お゛お゛お゛ッ――!!」

  V-09は顎を突き出した喉を無防備に晒し、整備台に膝がつくほど股を広げながら痙攣した。

  漆黒の装甲に覆われた太腿も、筋肉を模した純白の装甲に覆われた腹部も、自身の吐き出した熱い粘液で一緒くたに汚されていく。

  ドロドロと重い液体が、装甲の隙間へ入り込み、剥き出しの人工筋肉や繊細なセンサー類を蹂躙し、ショート寸前の熱を帯びさせる。

  「は、ぁ゛ッ、ん゛ぐッ、……お゛、ぉ゛ッ……! あ゛あ゛ッ……!!」

  オナホールの透明な壁面越しに、ドクドクと脈打ちながら中身を吐き出し続けるペニスの姿が見える。熱く痺れる亀頭は生きた肉のような赤みを帯び、尿道口はだらしなく開きっぱなしになり、そこから途切れることなく白濁の奔流が溢れ続けている。

  もはや高度な兵器の一部ではなく、ただ種を撒き散らすためだけに存在する、卑猥な雄の臓器そのもの。

  ドクッ…ビュル、ビュルルッ…

  長い排泄の時間。タンクが完全に空になり、タマの張りが無くなるまで射精は続いた。

  「あ、ぁ……っ。あ、……っ、あ……」

  勢いが落ちても、V-09の腰はビクビクと痙攣し、残った最後の一滴まで絞り出そうと収縮を繰り返す。

  

  どろぉ……

  オナホールから解放されたペニスは、僅かに硬さを失って下反りの曲線を描く。トロリと濃厚な粘り気を帯びた白濁が、糸を引いて亀頭から垂れ落ちている。

  テスト前まで、ただ男性器を模しただけの付属パーツだったものは、今や完全に生臭い雄のそれに成り果てていた。

  プシュー……

  四肢を固定していたロックが、エアーの抜ける音と共に解除される。

  だが、V-09は動かない。自由になったはずの手足は、重力に引かれるままダラリと整備台の上に投げ出され、痙攣だけを続けている。

  「はぁッ……はぁッ、ぁ……、あ……」

  思考もまとまらないまま、あさっての方向を向く。あまりの快感に処理能力が追い付かず、再起動ができずに呆然としているのだ。

  清潔だった実験室には機械油めいた匂いと、本物と相違ないむせ返るような擬似精液の生臭さが充満している。

  白濁の海に沈んだV-09は、ただ肉欲に溺れた雄の無様な姿で、空っぽになったまま実験室の壁を見つめ続けていた。

  §

  深度4000、水温1度。太陽光の届かない漆黒の深海で、鋼鉄がひしゃげる轟音が響いていた。

  敵対勢力の無人水中機動兵器が、瓦礫の山となって海底に沈んでいる。その残骸の中央にV-09は静かに佇んでいた。装甲には、敵の魚雷による焼損痕が刻まれているが、機関出力は安定している。

  V-09の右手が、最後の敵機体の動力コアを鷲掴みにする。そのまま、チリチリと火花を散らす球体を握り潰そうと、指に力を込めた瞬間。

  「…………ッ」

  思考回路の奥底で、青白いスパークが走った。破壊の衝動。対象を蹂躙し、内側から破壊する感覚。それが、つい数日前、あの白い実験室で味わった射精の記憶とリンクしたのだ。

  ――ドピュウウウウウウッ!!!

  脳裏にフラッシュバックする、爆発的な解放感。

  ガギィィィンッ!!

  無意識の力が過剰に伝わり、敵の動力コアが必要以上に粉々に粉砕された。

  本来なら機能停止させるだけでいいものを、V-09は金属の残骸を握りしめ、ひしゃげさせ、原型を留めない鉄屑へと変えていた。周囲の海水が、摩擦熱と放熱でわずかに揺らぐ。

  「……目標、完全沈黙。作戦行動終了。帰投します」

  通信機越しの声色は極めて冷静で平坦だ。しかし、沈んでいく残骸は、彼の内側で何かが決定的に変質したことを物語るように、無残な姿を晒していた。

  帰投から数日後。戦術兵器開発局・戦術機整備用ドックにて。

  洗浄と基本メンテナンスを終えたV-09は、いつもの整備台に腰掛けていた。拘束具はない。あの禍々しくも雄々しい拡張性器モジュールも存在しなかった。あるのは、のっぺりとした、本来の無機質で滑らかな装甲のみ。

  何もぶら下がっていない股間は、空気力学的には最適化されているはずなのに、V-09のセンサーはあれから奇妙な欠落感を訴え続けていた。

  「素晴らしい戦果だ、V-09」

  外部からの操作により、観察者がホログラムデータを投影する。

  「反応速度が従来比で18%向上している。水中、陸上ともに近接格闘における制圧力も桁違いだ。特に、破壊行動における瞬発力の数値が凄まじい。『擬似テストステロン』による闘争本能の実装は、極めて有効であると証明された」

  「……任務の遂行に寄与できたのであれば、光栄です」

  V-09は短く答えた。だが、思考のリソースの一部は、常に股間へと割かれている。

  ドクン、と。ないはずの血管が脈打つ感覚。座っている整備台の硬い感触が、今は冷たく感じる。あの時は、ここに温かいシリコンの袋と、熱を持ったイチモツが重苦しく鎮座していた。太腿を叩く重みも、締め付けられるたびに脳を焼く熱も、今は物理的に存在しない。なのに、回路はまだあの重みを記憶し、熱を求めてアイドリングを続けている。

  「この結果を受け、開発局は同プログラムを他の戦術機シリーズにも試験導入することを検討している」

  観察者の言葉に、V-09のセンサーが鋭く反応した。

  「サンプル数は多い方がいい。XMSシリーズの他機体にも同様の処置を行い、データを比較する予定だ。同じように性器モジュールを接続し、高数値を維持させることで――」

  「…………ッ」

  V-09の喉が引き攣った音を立てた。他の機体への懸念などではない。あの出来事を思い出させる単語を聞いただけで、条件反射的に回路が発熱したのだ。

  シミュレーションが走る。整備台に拘束され、透明な筒に飲み込まれ、強制的に快感を貪らされる光景。想像しただけで、V-09の思考回路はピンク色のノイズで埋め尽くされた。

  ズキリ……ズク、ズク……

  ないはずのペニスの根元が、幻痛のような鋭い疼きを発した。うずく。熱い。

  話を聞いているだけで、股間が勝手に反応し、またあの筒の中に潜り込みたいと暴れ出している。

  (やりたい。また、あれを……)

  V-09は、湧き上がるムラムラとした情動を必死に抑え込み、平静を装って顎を開いた。

  「……ぐ、具申します。ドクター」

  「なんだ?」

  「……本プログラムは、精神回路への……ふ、負荷が甚大です。戦闘行動中の判断ロジックに、不可逆的な書き換えが発生するリスクがあります」

  V-09の手が、無意識に自身の太腿の装甲を強く握りしめる。冷静さを装おうとする音声出力が、欲情で湿り気を帯びていた。

  「適合性の低い他機体では、その……暴走の危険性が……高いかと。貴重な戦力を損耗するリスクは、避けるべきです」

  「ふむ。一理あるな」

  「はい。ですので……私のような……適合した個体で、もっと……そう、データの精度を高める必要が……あるかと……」

  もっとやってくれ。私を使ってくれ。早くあのモジュールを装着して、あの筒でいじめてくれ。

  兵器としての提言の皮を被った、あまりにも浅ましい性欲の吐露だった。

  観察者は、V-09のわななく指先と、妙に熱っぽい音声を比較する。そして合理的な判断を下した。

  「いいだろう。他機体への導入は君の限界値を探ってからでも遅くはない」

  観察者が端末を操作し、プロジェクトのステータスを更新する。

  「V-09。君を本プロジェクトの専属テストベッドとして登録する。以降も『擬似テストステロン』プログラムの実験に協力してもらうぞ」

  宣告を聞いた瞬間、V-09の全身の冷却ファンが、興奮を隠すように一斉に回転数を上げた。

  「……ッ! 了解、しました……。賢明なご判断に感謝します……ドクター」

  V-09は整備台の上で、深々と頭を下げた。震える声には、次の『気持ちいい』ことが確約されたことへの、どうしようもない安堵と興奮が滲み出ていた。

  メンテナンスルームから観察者のアクセスが途絶える。無機質な静寂が部屋を満たした。

  一人残されたV-09は、ゆっくりと身を起こし、ツルツルになった自分の股間にそっと手を伸ばした。

  冷たく、硬い、本来の装甲の手触り。

  「…………」

  物足りなさを埋め合わせるように、股間を手のひらで優しく覆う。センサーが感知するのは装甲の冷たさだけだ。だが、彼の回路には確かに焼き付いている。重く、熱く、生々しく卑猥に脈打っていた雄の証の記憶が。そして、そこから全身を痺れさせた快感の記憶が。

  次のテストはいつだろうか。

  既に実戦をシミュレートして、高性能な電子頭脳がピンク色にムラついている。頭の中は性欲でいっぱいだ。

  V-09は股間を押さえて小さく身じろぎしながら、次なる接続の時を静かに待ち望んでいた。