第5章:エルフの魔力大暴走と、新たなる(厄介な)日常の幕開け

  (おかしい。魔力が吸い尽くされてレッドゾーンだってのに、なぜアラートが鳴り止まないんだ……!?)

  宙吊りにされ、ローブを溶かされたあられもない姿のまま、スライム・ガーゴイルの無数の触手に弄ばれているフィーナ。

  俺は固有スキル【バックエンド・アイ】をフル稼働させて、魔人のシステムを解析し続けていた。

  「ひゃんんっ! ぁ、ああっ……や、やめ、そこ、ウネウネしないでぇっ!」

  涙目で甲高い声を上げ、空中で身をよじるエルフの魔法使い。

  石像の内部から伸びるスライムの触手は、まるで高度な知識を持っているかのように、いやらしく彼女の弱点や敏感な場所ばかりを責め立てていた。

  完全に露わになった白い肌に吸盤状に変形した触手が吸い付き、ヂュプッ、チュルルルッ! とスライム特有の水音を立てて魔力を吸引していく。

  「あっ、あぁぁっ……そ、そこ、だめぇ……! そんなに、這い回られたら、おかしくなっ……ひぐぅっ!?」

  エルフ特有のとがった耳やうなじ、さらには内股といった敏感な急所を容赦なく撫で回され、極限の羞恥と快感のフィードバックによって、フィーナはあられもない声を上げ続けていた。

  なのに。

  フィーナの体内マナ生成量が、グラフのエラー限界を突き破って右肩急上昇の異常値(スパイク)を描いているのだ。

  【WARNING:対象(フィーナ)の体内マナ生成量が、外部からのドレイン量を300%上回りました】

  【魔力回路が暴走状態(オーバーフロー)へ完全移行中】

  (……はぁ!? 吸い取られる魔力よりも、発生している魔力の方が上回っているだと!?)

  理由は明確だった。

  フィーナの敏感すぎる体質。そして、持病である【魔力酔い】。

  スライム・ガーゴイルによる執拗な愛撫と、大勢の前で服を溶かされるという極限の羞恥。

  プライドが高く、長年男性との接触を避けてきた彼女にとって、それがもたらす規格外の「強烈すぎる刺激」は起爆剤となり、彼女の魔力生成システムを完全に暴走(メモリリーク)させていたのだ。

  「あ、あぁぁぁぁっ……んんぅっ! だ、だめぇっ、私……っ! 変、変になっちゃう……やだ、もっと、ああっ、やめてぇぇっ!」

  「ああっ、くそっ! とりあえずスライム・ガーゴイルの生態記録(ログ)だけ取って、すぐに助け——」

  俺は焦りながらも、敵の弱点を後でギルドで解析するため、懐から【フィクスド・メモリア】の石板を取り出し、魔力を流し込んだ。

  カシャッ、と石板が眩く光る。

  (……あ、しまった)

  シャッターを切った瞬間、俺は血の気が引くのを感じた。

  このカメラは、術者が見ている『記憶』を、メモリアと呼ばれる特殊な石板に固定する魔法なのだが、厄介なのは『記憶』だけでなく『願望(思い)』を反映して画像を出力してしまうことだ。

  俺の視線(フォーカス)は、敵の生態構造なんかではなく……触手に絡めとられ、涙目で喘ぐフィーナの『圧倒的なEカップ』と『艶めかしい太もも』に、強烈にロックオンされてしまっていたのだ。

  手元の石板には、超高画質・超お色気満載の『触手凌辱エルフ(R-18)』の画像がバッチリと焼き付けられていた。

  (や、やべえええええっ!? こんな情報漏洩(インシデント)、絶対に見せられない!!)

  俺が慌てて石板を隠した、その時だった。

  「わあ……。フィーナさん、なんだかすごく気持ちよさそうですねぇ」

  「えっ」

  隣を見ると、セリアが剣を下ろし、頬に手を当てていた。

  その口元には、ふんわりとした優雅な笑みが浮かんでいる。だが、その瞳の奥には絶対零度の冷酷な光が宿っていた。

  「タイチさん、あんなお下品な「もの」、あまり見ちゃダメですよ? ……でも、エルフの方って随分と『おおらか』なんですね。魔物相手にあんな大声で鳴き声をあげるなんて、私にはとても真似できませんわ」

  「お、おいセリア……?」

  「あら、事実ですもの。私みたいな未熟者には、あんな風に醜いスライムに身を委ねて感じるなんて……。やっぱり、100年以上も生きていらっしゃると、ああいう特殊な『刺激』が欲しくなるのでしょうね。ふふっ」

  (……こ、怖い!! このポンコツお嬢様、笑顔でえげつない精神攻撃(デバフ)かけてる!!)

  直接的な暴言ではなく、あくまで「純真な令嬢が感心しているふり」を装いながら、フィーナの『プライド』と『年齢』、そして『性癖』を的確にえぐりに行く、貴族特有の恐ろしい嫌味スキル。

  女のドロドロのバックグラウンド処理の恐ろしさに俺が震え上がっている間にも、事態は致命的な領域へと達しようとしていた。

  (……ヤバい。今のフィーナは、完全に安全装置が外れた時限爆弾だ!)

  このままマナが無限増殖を続ければ、特大の爆発を起こす。山を一つ消し飛ばしかねない莫大な熱量だ。

  「セリア! 走れ!!」

  「へっ? タ、タイチさん!?」

  俺はセリアの華奢な腕を掴み、全速力でこの場から離脱するために駆け出した。

  「タ、タイチさんっ! フィーナさんを見捨てちゃうんですかっ!!」

  「ちげぇ!! あいつは今、自爆一歩手前の超巨大なマナタンクだ! あの化け物ごと、この辺一帯が吹き飛ぶぞ!!」

  『ああんっ! ぁぁあっ、んんぅっ! だめぇ、もっと、もっとぉっ!』

  背後からは、触手に弄ばれるフィーナの、羞恥心を完全に置き忘れたようなあられもない嬌声が響き続けている。俺たちは飛んでくる粘液を躱しながら、少し離れた巨大な岩の陰へと滑り込み、頭を抱えて伏せた。

  「あ、あぁぁぁああっ! も、もう、限界ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」

  限界を突破した叫びとともに。

  カッ!!!!

  彼女の体から、すべてを白く染め上げる閃光が解き放たれ、すべてを飲み込む純白の極大爆発へと変貌した。

  ドズガァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!

  「きゃあああああっ!」

  「くそっ、どんだけ溜め込んでたんだあのエルフ!!」

  凄まじい熱波と衝撃が、俺たちの隠れる岩を削るような勢いで通り過ぎていく。

  どれほどの時間が経っただろうか。俺たちは恐る恐る顔を上げ、岩陰から顔を出した。

  元々険しい岩場だったはずの谷底が、美しいすり鉢状の巨大なクレーターに変わっていた。

  スライム・ガーゴイルの姿は……欠片すら残っていない。

  そして、クレーターの中心。

  魔法のローブはほとんど布地を残していない——あられもない姿のフィーナがへたり込んでいた。

  「はぁ……はぁ……ふぅ……」

  どこか憑き物が落ちたような清々しい顔で、ぼーっと空を仰いでいる。

  俺は、致命的な不具合を起こしたサーバーが何食わぬ顔で再起動したのを見た時と同じような気分で、ジト目でツンデレエルフを見下ろし、尋ねた。

  「お前さ……これまでも『魔力酔い』で暴走するたびに、こんな事(自爆)してたのか?」

  ビクッ!!!

  顔が瞬く間に茹でダコのように真っ赤に染まったフィーナは、バチッと目を見開き——。

  「なっ!? ば、ばっ、ばかじゃないの!? 違うわよ! ち、ちが、違うからね!?」

  両手で慌てて破れた衣服の隙間——Eカップの胸と、晒された足——を隠しながら、涙目で必死に否定し始めた。

  「こ、これは不可抗力よ! 敵のスライムがたまたま変なところをくすぐってきちゃっただけで、じ、自分ではこんな恥ずかしいことして大爆発なんてさせてないわよっ!!」

  「誰もそんなこと言ってないだろ……」

  だが、そこへ一番厄介な追撃が入った。

  「本当に、見苦しいものを見せつけられましたわ……」

  セリアだった。

  先ほどまでのふんわりとした口調から一転、少し低く、冷淡な響きを帯びた声。

  口元には優雅な微笑みを浮かべつつ、その目は汚物でも見るような絶対零度の視線を、粘液まみれのエルフに向けていた。

  「先ほどから拝見してましたけど……フィーナさんって、ずいぶんと『情熱的』なんですね。あんな醜いモンスターの触手相手に、自分を大爆発させるほど興奮なさるなんて。エルフの方々の長寿の秘訣は、そういったアブノーマルな趣味にあるのでしょうか?」

  「な、なによあんたっ!! 違うって言ってるでしょ! 私は純潔の高貴なエルフよ! だいたい、あんたみたいな下品な露出狂のビキニアーマー女に言われたくないわよ!」

  「下品? ふふっ。魔物に大切なところを弄られて、だらしないお顔と声を晒していたフィーナさんに比べれば、私なんて慎ましいものですわ。それに……100歳を超えられたおばあちゃまのそんな過激なお姿、タイチさんも目のやり場に困ってらっしゃいましたよ? ご自分の年齢と需要を、少しはわきまえられたらいかがです?」

  「はあぁあああああ!?」

  セリアはズバッと扇子を開くように優雅に手を口元に当て、勝利宣言のように言い放った。

  「あなたのような殿方の気を引くことばかり考えている方は、清らかなタイチさんにはふさわしくありませんわ。これからは、年齢相応に大人しく森の奥で隠居なさることをお勧めしますわ」

  「きーっ!! 若いだけが取り柄のガキが! 笑顔で人を抉るようなこと言ってんじゃないわよ!!」

  フィーナの堪忍袋の緒が、完全な音を立ててブチ切れた。

  「こちとら100年以上も生きてんだからね! その間に蓄積した人生経験があるのよ!! 最終的にタイチを夢中にさせるのは、ねんねのあんたじゃなくて大人の魅力たっぷりの私なんだから!!」

  「まあ。ご自分の口から筋金入りのド変態だと証明なさいましたね。いやらしい経験をたっぷりお持ちのエルフさんは、今すぐタイチさんの隣から排斥して差し上げますわ!」

  「なによ! やれるものならやってみなさいよ!」

  「やぁっ! なによ胸掴まないでくださいますっ! そのとんがり耳引っ張りますわよ!」

  布地がほとんど残っていないエルフと、ビキニアーマーの美少女が、クレーターの底で取っ組み合いのキャットファイトを繰り広げ始めた。

  豊かな胸が揺れ、真っ白な太ももや腕が絡み合う。

  (……俺は前世のエンジニア時代には、『こんな単調じゃない、刺激的な仕事がしたい』と嘆いていたけどさ……)

  目の前で繰り広げられる、情報量と露出度が多すぎる美少女たちの取っ組み合い。

  さらに俺の懐には、先ほど【フィクスド・メモリア】でうっかり記録してしまった『触手に弄ばれる高画質・全裸エルフ(俺のスケベな願望フィルター付き)』という、絶対にバレてはいけない超弩級の爆弾データが眠っている。

  (……この世界、刺激が強すぎるわ。本当に、この先こいつらと一緒にやっていけるんだろうか……)

  絶対に働かない、と心に固く誓った俺だが、どうやら「彼女たちの制御(デバッグ)」という、世界で一番厄介で、世界で一番甘い重労働からは、当分逃れられそうになかった。