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「……くわぁーーーーーーっ」
静かでホコリ臭い事務所に、わざとらしいほど大きくて気の抜けたあくびが響く。鈍感なお前でも気付くだろ、とでも言いたげなそれは、この事務所で僕と生活を共にしてくれている用心棒──カルノーのものだ。
「カルノー、退屈かい?」
机上に散らばったエレメントの資料から一旦目を離し、彼女の方に目をやる。案の定、その筋肉質で立派な脚を本の山に投げ出し、ずいぶん不満そうな顔でこちらを睨んでいた。
「当たり前だろ? アタシはどっかのお坊ちゃんメガネと違って、本を読むのは好きじゃねーんだから」
「ああ確かに……ごめんね、最近護衛やバトルの依頼がなくて」
現在、カルノーは僕に雇われる形で用心棒をやっている。この”ノウル研究所”では、エレメントの研究以外に個人や街から来る討伐依頼、護衛依頼なども受けているのだ。俗に言う研究費用稼ぎというやつだ。
そこにカルノーを派遣してひと暴れしてもらうことで研究費用も賄えて、カルノーもストレスを発散できるという仕組みになっているのだけど……。
「このボロ事務所もそろそろ終わりか?」
「そっ、そんなこと言うなよ! エレメントの解析依頼もこんなに来てるし……大丈夫だよ」
「ケッ、ただアタシが暇なだけか」
彼女はそう言うが……どういう訳か、今の状況について僕は少し嬉しさを感じていた。
普段は彼女の要望で危険な依頼に送り出しているけど、あれも内心不安で仕方ないのだ。痛い思いをしていないだろうか、倒れているところを一匹で放置されていないだろうか、いつものように、ニヒヒと笑顔で帰ってきてくれるだろうか────。
こうして並べるとさながら家族に向けるような感情に見えるが……それにしては少し違和感があった。
例えば「彼女が依頼先でカッコいい同族ドラゴンを見つけて一目惚れしたら」とか「僕よりいい環境の雇い主が現れて引き抜かれたら」なんかを考えても、さっきのモヤモヤに胸が支配されてしまうのだ。一度そういう考えが巡ったら、思わず研究の手が止まってしまう。
……だから、今の状況は僕にとって伸び伸び研究できるよい状況なのだった。
「なあアマル、冷蔵庫にあったハム食っていいか?」
「ああ、構わないよ」
願わくば、ずっと僕のそばにいて欲しい。
他者にこのような気持ちを抱いたのは初めてだと、ご機嫌そうにしっぽを振ってキッチンに向かう彼女の後ろ姿を眺めながらぼんやり考えていたのだった。
「……ち、ちょっとカルノー!? なんで”丸ごと”持ってきてんのさ!?」
「あーむっ……そう騒ぐなよ。たかが10kg程度だろ?」
ごっくん、と豪快にハムの塊を飲み込む音がした。
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