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「イケメン達に囲まれてドスケベエロボクシングがしたかったな……」
薄れゆく意識の中で、俺は後悔していた。
窮屈な田舎から飛び出して都会へと移り住み、貧乏な大学生としての生活を始めた。新天地での生活に浮かれきっていたが、現実は厳しく、待っていたのはバイトを詰め込んでようやく成り立つ綱渡りの生活だった。
恋愛どころか性交渉なんてもってのほか。とにかく余裕がない。
『ボクサー姿の男性とエッチなことがしたい。』
そんな性癖を抱えたまま鬱屈した日々を過ごしていた。
そうして今日も今日とてバイトから帰る途中、歩道に突っ込んできた車に跳ねられご臨終。夜の繁華街で起きた悲惨な事故によって、俺の人生は呆気なく幕を閉じることになった。
こんなことなら地元で肩身狭く生きていた方がマシだったかもな……。そうして俺は暗く冷たいアスファルトの上で、遠くで響く人々の悲鳴や喧騒を聴きながら、完全に意識を手放した___。
「…………ん?」
風になびく木々の音が煩わしい。
背中に張り付く土の感触に目を覚ます。
「…………なんだここ」
起き上がって辺りを見回すと、明るい日差しに照らされた森の中にいた。
さっきまで固いアスファルトの上で冷たくなっていたはず……。それなのに辺りは明るく、不気味なほど静まりかえっていた。
……もしかしたら、ここは天国ってやつなのかもしれない。
死んだらどうなるんだっけ、閻魔大王に裁かれて三途の川を渡るのか?それとも親より先に死んじゃったから賽の河原で石を積むのが先?
そんなことを考えながらあたりを見回すと、うつ伏せに倒れている人影が視界に飛び込んできた。
喉奥に冷たい空気が一気に流れ込む。
辺りを見回しても彼以外に人は見つからない。
恐る恐る近づくと、全身が傷だらけで頭から血を流している男がいた。足はあらぬ方向に曲がっており、呼吸は浅く、今にも死んでしまいそうだった。
(え、は?なんで?なんで死にかけの人がいんの!?)
激しく心臓が跳ね上がる。こういう時どうすればいいのか全くわからない。とにかく止血か?いや、無闇に触っていいのか?躊躇いながらも意識があるか確認しないといけないと気づく。ゆっくりと肩に手を触れて呼びかける。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「…………ぅ」
かろうじて意識はあるようだ。
どうにかしないと。
そう思った瞬間、俺の手から閃光が溢れ出した。
突然の眩しさに思わず目を瞑る。慌てて目を開くとそこにはさっきまで血まみれだったはずの男が呆然としたままこっちを見ていた。先ほどまでの無惨な傷は一切なくなっていた。
「……驚いたな、転移者か」
男は俺を見て聞きなれない言葉を口にした。そして自分の体を見回し、確かめるように指を軽く動かす。その後、俺に向き直って声をかけてくる。
「…………とにかく助かったよ。ありがとう。」
「えっと、どういたしまして?」
男は穏やかな笑みをこちらに投げかけてくる。
「何も分かってないようだけど、君のおかげで死なずに済んだ。ただ、ちょっとごめん。楽な格好にさせてもらうね」
そう言うと男は全身が淡く発光したかと思うと、いつの間にか黒豹の獣人に変わっていた。さっきまでの青年の姿とは見る影もない。
「驚かせて悪いね、こっちの姿の方が楽で」
「え、何?どういうこと?」
「はは、簡単な変身魔法だよ。やっぱり何にもわかんないって感じだね」
黒豹の獣人は俺のことを見透かしたように笑いながら続ける。
「俺はデルングって言うんだ。君は?」
「レン……」
「レン、ね。本当に助かったよ、ありがとう」
目の前の獣人は深々と礼をする。あまりにもファンタジーすぎる光景に俺は呆気に取られてしまう。呆然とする俺をよそにデルングは話しかけてくる。
「さて、命の恩人であるレンにお礼がしたい。俺にできることならなんでもするからさ」
「なんでも……?」
「あぁ。って言っても自分の身に何が起きてるか全くわからないんだろ?まずはそこら辺から話そうか」
デルングは姿勢を崩しながら話し出す。
この時の俺は、事態が前に進むのだと気が緩んでいた。
だから、あらぬ考えが浮かんでしまった。
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『でもなぁ、なんでもって言うなら俺とドスケベエロボクシングしてくれないかなぁ』
ふと、そんなことを考えてしまった。
その瞬間、デルングの背後の景色が一変していた。
彼の背にはボクシングリングのリングロープが張られている。
その奥には誰もいない観客席と眩しくこちらを照らしてくるスポットライトたち。
「え!?は!?」
慌てて見回すと俺とデルングは、ドーム状の広い会場のど真ん中にあるボクシングリングに立っていた。自分の声が情けなく響くが、会場は不気味なほど静まり返っている。
「はは、まじか……」
デルングは口元を抑えながら辺りを見回していた。
「レン、今なんか別のこと考えてたでしょ」
「え、えぇ、いや、別にそんなことは……」
「格闘技好きなの?プロレスとか?」
「あぁ、いやぁ……」
軽く笑いながら問い詰められるが、気まずくて答えられない。デルングは少し呆れた顔をしながら話を続ける。
「ここはね、レンの願望を基にレンが作った世界だよ。無意識だろうけどね。まぁそんなわけだから、君が何を考えていたのか教えて欲しい。多分だけど、君の願望が満たされないと出られなくなってるから」
「そ、そうなのか?」
「うん、ここを閉じようとしてもやり方がわかんないでしょ?」
「閉じる……?」
その言葉を聞いて、脳内で必死に閉じろと何度も強く念じてみる。流石に初対面の人間に対して、性的な目で見てました、だなんて言えない。だが、そう念じるほどエロボクシングについて欲望が膨らんでいく。しかもここはリングの上だ。邪念を振り払おうにもどうしようもない。
ふと見ると、いつの間にかデルングの両手に深い青色のボクシンググローブが身に付けられていた。また衣服も光沢のあるサテン地のボクシングトランクスと、ボクシングブーツに変わっており、全て青と白のカラーに統一されていた。
「おっ、なるほど、ボクシングか」
デルングは面白そうに自分の手にはめられたボクシンググローブを眺めている。ふと自分の手に違和感を感じると、自分の手にもボクシンググローブが身に付けられていた。デルングと同じようにボクシングトランクスとボクシングブーツを着用しており、全てが濃いピンクと黒に統一され、デルングが身に付けているものより光沢感が強くなっている。
突然現れたボクシングリングの上で、唐突にボクサー姿になってしまった。普通なら困惑するはずなのだが、望んでもいなかったシチュエーションに興奮が抑えられない。目の前の黒豹の獣人は細身ながらも筋肉質で、柔らかそうな黒の毛並みの上からでも張りのある筋肉が見て取れる。そんな彼がボクサー姿になっており、スマートながらも野生的な印象を覚え………非常にエロく感じてしまう。
「ということは、ボクシングしたいの?意外だな」
デルングは多少警戒したようにグローブを腹部に寄せて軽く構えるようなポーズをとる。
「あぁ、いや、そういうわけではなくて……」
「うん?なら、どういうこと?」
「えっと、それはですね……」
この状況をどう誤魔化そうかしばらく逡巡していると、デルングはニヤニヤ笑いながら顔を近づけてきた。そして耳元に口を寄せて低く優しい声で呟く。
「もしかしてさ、エロいこと考えてた?」
甘く蕩けそうな声が鼓膜を震わせ、脳が溶けそうに感じられた。
「はは、図星?今のレン、凄い赤くなってるよ」
デルングはそう笑いながらゆっくりと抱きしめてきた。固くなった俺のブツがデルングの股間に当たってしまう。俺は身動きできず、必死に羞恥心を抑えることしかできなかった。そんな俺をよそにデルングはさらに強く抱きついてきて囁く。
「いいよ、お礼にレンがやりたいことなんでもするから、何がしたいか言ってごらん?」
その言葉で、俺の中の何かが弾けた。急展開の連続の末に今から行おうとしていることは、果たして本当にしていいのだろうか。そんな猜疑心がデルングの甘い言葉に解かされていく。
「あ、え、……シングが……たい」
喉から絞り出した声は自分でも驚くほど小さかった。
「何?もっとはっきり言って」
デルングから指示が飛んでくる。俺は否応になく口を開いてしまう。
「デルングとドスケベエロボクシングがしたい」
続く
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