A bargain is a bargain(約束は約束)

  何が起きた?

  

  

  「―――っさ―」

  

  ちくしょ、思考が追いつかねえ。

  

  「―ーてーーさんっ」

  

  思考だけじゃない。

  体も…動かねえなんて…!

  

  「こてつ、さんっ」

  

  ……

  

  

  …バニー……

  

  

  「虎徹さんっ!どうしたんですか!?」

  

  

  そんなの……俺が、聞きてぇ……よ………

  

  

  「何、何が起きてるのっ?タイガー!?ねえ、タイガーってば!」

  

  

  悪い、2人……とも……

  

  

  

  なんか

  

  

  ねむい、わ………

  

  [newpage]

  

  遡ること、わずか十数分前。

  

  この日、虎徹とバーナビー、そしてカリーナの3人で行動していた。

  何故かと言えば、虎と兎のコンビが映画に行くという話をしていたときに偶然通りかかったのがカリーナで、貰いもののチケットが3人分だったことがきっかけだった。

  

  カリーナにしてみればこれは神がくれたチャンス同然で、たとえ可愛げのない兎が一緒であろうと虎徹が一緒なら何もいらない。そんな勢いで「行っても良いわよ」と返事をしたのが二日前。

  

  そして当日の今日は、映画も見て、その後の時間も(カリーナ的には少々不本意な心境で)3人で行動していたわけなのだが。

  

  

  スーツを着た怪しいことこの上ない集団に何故か囲まれ

  

  まるで何かの漫画にあるような流れで、人気のない場所へ移動させられた。

  

  そしてさらにNEXTのボスが3人の前に立ったことで状況は一変する。

  

  このNEXTはどういうわけか、真っ先に虎徹を狙ってきたのだ。

  かろうじて攻撃は避けたものの、体勢を立て直そうと顔を挙げた虎徹は数秒だけその動きを止め、直後に倒れた。

  

  つまりはこれが、冒頭に至るまでの出来事。

  

  

  「さーて。実は私たち、そこにお休みになっていただいた彼にだけ用事がございますので、申し訳ありませんがお2人は引き返していただけないでしょうか?」

  「馬鹿なこと言わないで。そんなことより彼に何したのよ!」

  「……僕の事は、知らないわけないですよね?これ以上何かするのであれば、遠慮なく能力を僕も使わせてもらいますが」

  

  バーナビーからすれば掛け替えのない相棒、カリーナからすれば片思いの相手。

  2人とも、その心中はかなり荒れ狂っていた。

  

  そして虎徹を真っ先に狙った理由を当然説明するはずもない彼は、倒れ伏し完全に意識を飛ばした虎徹に視線を向けている。その視線がバーナビーとカリーナに向いたと同時に、3人はほぼ同時に能力を発動した。

  

  [newpage]

  

  バーナビーが男との間合いを一気に詰める。能力が能力なので、生身の人間相手には加減を考えなければならないが、相手をNEXTであると知ったかせいか手加減なしに攻撃を仕掛けていた。

  ちなみに今の彼は、一見すれば冷静さは欠いていないように見受けられるが、実際はとにかく生かして男を捕えることで頭が一杯。冷静とは言い難かった。

  

  一方カリーナも、バーナビーと違いヒーローとプライベートを分けているにも関わらず、そんなことはお構いなしに能力を利用して相手の動きを止めようとしていた。

  今の彼女の中には、自分がヒーローであることがバレてもいいという気持ちと、目の前で虎徹が倒れたことで湧きあがった怒りと悔しさが入り乱れている。

  

  とにかく2人は、目の前の男に一泡吹かしてやりたくてしょうがなかった。

  

  しかしそんな2人の動きを見切っているのか、男はひょいひょいと軽く避けていく。

  まるで小さな子どもを相手しているように感じられるほど、相手の動きは余裕がある。なんとなく馬鹿にされているような気がして、バーナビーもカリーナも今より勢いをつけた攻撃をしていくことにした。

  

  しかしそれが、思わぬ事態を招くことになる。

  

  

  

  

  ――――――――――――――――――――――――――――――――

  

  

  

  「ねえ、まーだー?」

  「もう間もなくです。思いのほか手間取っているようですが」

  

  豪華な屋敷の一室。

  ゴールドステージに並ぶ建物の中でも、その豪華さは一際目立つものだ。

  

  そんな屋敷に、とても有名な1人娘がいた。

  

  「そっか。ならそろそろ着替えてこようかなっ」

  

  現在身につけている衣類は、どうやら彼女にとって単なる部屋着のようなものらしい。

  おとぎ話でヒロインが身につけるかのようなドレスをそのように認識している辺り、かなりのお嬢様であることがわかる。

  

  間もなく、という言葉が嬉しかったらしい彼女は、鼻歌交じりで部屋を後にした。

  

  彼女の名前はエリー・クラーク。

  先に述べたとおり、ゴールドステージで生活する者たちの間ではかなりの有名人だ。

  

  ―――――それも、悪い意味で。

  

  エリーは現在、19歳。

  大学には飛び級で入学し、そして昨年卒業した優秀な頭脳をもつ。

  在学中、人当たりも良くて、容姿も整ったエリーはまさに高嶺の花として評判が良かった。

  

  だがどうしたことか、大学を卒業して半年ほどたった頃から彼女は豹変したと言われるようになったのだ。

  

  もともとエリーがゴールドステージで有名なのも、父親が大企業の社長であり、その顔を立てるためによく夜会に出席をしていたから。その場でも品行方正な人物として認識されていたはずの彼女が、なぜ豹変したのか。

  

  理由は、謎のままだ。

  

  

  「10年ぶりの再会か…早く、会いたいな」