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巨龍戦線終結-そして『ハルコロ』へ....

  巨龍戦線の真の終結から二週間....四体の巨龍は、各騎士団とジークランド有志達の共同戦線の前に敗れ去り、その裏で四龍を操っていた真の敵『(魔の)世界樹』は、その存在をいち早く察知していた騎士長ヴィクトルと氏族長カイナバルの命をかけた行動により、その禍々しい本性で周囲に被害を与える前に葬り去られた。

  国境の内側への侵入を許してしまった為、決して被害は軽くない。しかし....あれほどの脅威が群れをなしてジークランドを襲った事を考えれば、驚くほどに被害は少なかった。

  しかしまあ、現在は、首都ジークリアでも、瓦礫の撤去作業と、負傷者の手当など、後始末に騎士団達と、建築スキルや、治療スキルのある有志達が奔走していたが....

  茶毛商会も、顧客達の所を回って、見舞金を出したり、大きな被害が出た顧客には低金利の融資を約束したりと、復興に向けて忙しく駆けずり回っていた。無論だが、その間も会頭である趙は陣頭指揮を取り続けていた。

  しかし、そんな日々も少しづつではあるが落ち着きを取り戻しつつあった。大口の対処すべき案件は、既に大まかな援助方針が決まり、後は各部署で細かい詰めの作業に入りつつあった。民間関連に関しては....

  そう、騎士団との話し合いがまだ残っているのであった....

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  翌日、第2騎士団所属のエラセドが、「装備の開発、戦技研究」の第5騎士団の長であるグラウスを伴って、茶毛商会の本部を訪れた。早速、会議室へと通される二人。其処には趙と、開発部長の壮年の狸のブレム、社内魔導ネットワーク統括部長の30代の狐のフィルサムが待ち構えていた。挨拶もそこそこに、本題に入る。

  「で....そっち(茶毛商会)の魔導通信ネットワークを巨龍対応時に使わせてもらう代わりに、約束した(騎士団から茶毛商会への)優遇措置は、国王陛下からちゃんと了承をもらってきた。ほい」

  エラセドが寄越した書類には、確かに数々の優遇措置を記した文章と、其れを承認する国王直筆のサインが認められていた。趙が書類に抜けが無いか、自ら確認する。

  「確かに受け取った」

  満足そうに微笑む趙に、エラセドが

  「ただ、其れが有効になるのは、そっちのアレを渡してもらってからだ」

  趙が頷けば、開発部長のブレムが一抱えもある書類を、第5騎士団・団長の龍人のグラウスに渡す。ブレムが口を開く

  「こちらが、ウチの開発科の試作魔導飛翔体・烏1(レイブン・ワン)の仕様と、取扱説明書、運用に必要な魔力供給ネットワークの運用方法になります」

  受け取ったグラウスが感嘆の声を上げながら、興味深げに資料に目を通していく。

  「ほう....これはまた....大した物ですな」

  「試作機の方は既に分解・梱包して、いつでも運び出せる準備が出来ております」

  グラウスの反応に満足気に微笑みながら、ブレムが応える。

  エラセドが

  「しかし....随分とあっさり渡してくれるもんだな。一朝一夕で出来た物でも無いだろう?」

  「試験機という意味では、もう既に役割を終えておるしな。寧ろ、今後も可動可能な状態を保つ事を考えれば、そちらで管理してもらった方がな.....」

  「成る程.....で、他には?」

  「どうせ、そっちでも、運用試験をするつもりじゃろう? 全部とは言わんが、試験データをこちらにも見せてもらってもバチは当たらんと思うんじゃが....」

  「相変わらずちゃっかりしているなぁ....チョーさんは」

  エラセドがニヤリと笑いながら、趙(チャオ)を普段呼ぶ時の敬称で呼んだ。チャオでは言い難いのだそうだ。

  「まあ、儂も商人じゃからなぁ」

  趙もニヤリと笑みを返す。エラセドが

  「まあ、問題無いでしょう。ねえ、グラウス団長?」

  「ああ、寧ろ見てもらった方が良いだろうね。何せ、これに関しては彼らの方が知り尽くしているんだから」

  グラウスが書類を興味深げにめくりながら、頭も上げずに応える。

  巨龍来襲時、当初設置していた観測網と通信ネットワークは、巨龍・瑠璃の翼によってズタズタに引き裂かれた。復旧までの間、騎士団の目となったのが、烏1(レイブン・ワン)からの観測データだった。上空一万メートルを飛翔する烏1に搭乗していたエドワードの「魔導の目」を通して観測された魔法現象のデータは、厳重な秘匿回線によって途絶える事なく商会本部を経由して第2騎士団本部へと伝送され続けた。これにより、大きな混乱をきたす事なく、騎士団達への指揮が継続する事が出来たのだった。商会の切り札であった。

  しかし、役に立ったからと言って、其れで万々歳とはならない。ともすれば、強力な兵器へと転用可能な代物である。そんな物を一民間企業である茶毛商会が所有している事が問題視されるのは時間の問題であった。それ故に、趙は予め巨龍対処後に、騎士団に譲渡する準備を進めていたのだった。

  そして、役に立ったと言えば.....

  エラセドがぶっきらぼうな口調で

  「そういやあ、チョーさん。アレって、今、どうしているの?」

  「アレとは、何の事じゃ?」

  アレが何なのか知っていながら、趙がそらとぼけた返事を返した。

  「ゴトラスだよ。命の恩人だろ?」

  エラセドの問いに

  「さてのう......何処に居るのやら? 大方、復旧作業の手伝いでもしているんでないかのう? ジークリアから出たという話も聞いておらんし.....」

  「なんだか、随分素っ気なく無い? 人の縁を大切にする事で有名な趙(ちゃお)さんが?」

  表情は変えて無いが、目は笑っていない。趙の細かな仕草一つ見逃すまいと目が細く引き絞られる。

  「確かに感謝しておるがな....しかし、アヤツにしてやれる事は精々が仕事を紹介してやる事ぐらいじゃろう? 他に何か?」

  趙が、何気ない口調で応える。エラセドが

  「ふーん....」

  と趙の顔を見つめていた.....

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  その後、特に何事も無く会話は進み、やがてエラセド達は帰っていった。

  趙がそっと溜息を漏らしながら、先程の会話に思いを馳せる。

  『ま、確かに、災害指定級討伐者(アーチスレイヤー)以上の戦力。アヤツが放置しておける訳も無かろうな.....』

  趙も些か心苦しい所が無くも無かった。命の恩人を、仕事を紹介する代わりに、追い出すように商会本部から引き払ってもらったのだから.....

  『じゃが....アヤツには、こちらの近くに居てもらう訳にはいかんのじゃ』

  賊に捕まっていた一週間、精神的にも肉体的にも過酷な扱いを受け続け、生き延びる希望さえ見いだせない中、ボロボロになりながらも一縷の望みを掛けてなんとかゴトラスの起動に成功した。その直後のゴトラスの力は圧倒的だった。

  エドワードを赤子扱いするほどの手練の賊の、飼育していた魔獣達を瞬く間に全て粉砕し、強力な防護結界を紙切れの様に破りさって、趙達の眼の前で、文字通り賊を「粉々に粉砕した」のだった。三人は、最初は呆気に取られ、やがて歓喜に湧いた。無論趙も同様である。だが....

  ゴトラスに駆け寄った時、確かに『あの臭い』がしたのだ。賊が趙達を連れ去った時と全く同じ臭いが....それは救出され、ジークリアに戻った後も同じだった。いや、寧ろ強くなっていた。間違いなく賊は、趙達の眼の前で『粉々に粉砕された』のに。何かトリックを使って生き延びてないか、エドワードが「魔導の目」によって精査したが、やはり「死んだとしか考えられない」との事だった。

  にもかかわらず、ゴトラスから『あの臭い』が消えない....

  今回の一件、趙は『幸運に恵まれた』だけと考えていた。自分以外の三人が一緒に拐われなければ、ゴトラスという規格外の戦力がなければ、自分達はこうして生き延びていなかっただろう。それ程の相手だった。この相手に関して「二度目の幸運」はありえない。そう考えていた。賊が関わる『何か』は未だ健在であり、自分達の安全を脅かしている。そう考えるしか、説明が付かなかった。だから、命の恩人であるにも関わらず、ゴトラスを遠ざけるしかなかった。危険の原因がハッキリしているならば、まだ対処のしようもある。しかし危険の『臭い』だけがしている現状では、手の打ち様が無い。

  そして、趙の現在の状態....あの時に受けた『傷』が癒えたとは、とても言えない状態だった。魔物の正体不明の体液に漬けられ、過酷な扱いを受けた躰は未だ変調をきたしており、薬でどうにか症状を抑えている。精神に至っては、口外してないが未だに度々悪夢を見ていた。前回と同様の扱いを受ければ、脱出の機会を待てるかも怪しい....

  「堪忍じゃ....」

  同室している二人に聞こえない様にそっと呟いた。

  その日、就業時間に迎えに来た秘書のハッサムが、会頭室で机に伏したまま気を失っている趙を見つけたのだった....

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  「長期間の休養、それしかありませんな....」

  屋敷の寝台にて目を覚ました趙に、侍医が告げる。最低でも二週間以上....魔物の体液の成分がはっきりとは判明しない以上、どの薬が有効なのか断定出来ない今は、趙自身の回復力に頼るしかないのだという。魔物に関して、今はエドワードがアジトの残骸から解析を行っているが、色々と改造されており、詳細がはっきりするまで時間がかかるとの事である。

  ちょうど同じ頃、ジークランド国王が、巨龍戦線で戦い傷ついた者達の慰労の為に、ジークリア近郊に温泉施設を整備・開放していた。

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  さて、出立の日。同行するのは、執事長の雪芹(ゥエクィン).....長い付き合いの四八歳の牛獣人と、

  「ふー.....」

  「何を溜息ついているんだよ、趙の旦那よぉ」

  悪友のゴードフである。正直言えば、ついてきてもらってこれ程頼もしい事は無い。雪芹を除けば、最も趙の事を知っている人物である。ただ....

  「お前さんだって、やらなくちゃならん事があるだろうに....」

  ゴードフが、ジークランドの国王に惚れている事は、趙以外には知られていない。そして....そのゴードフの想い人は、療養先の温泉施設にいるのだ。趙が本調子なら、悪友の恋の成就の手助けをしてやりたい所なのだが、正直、今は自分の事だけで手一杯である。それが情けない気持ちにさせられるのだ。

  「全く....ちったあ、自分の事に気を回せっての....」

  ゴードフがぼやく。そうして三人は、転移ゲートの先....温泉宿へと歩を進めるのだった。

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