絶望的な人生を送るお姉さんは最期にあなたへ想いを伝える
【足音が近づいてきて】
あれ?にゃん助くん、だよね?
やっぱりそうだ〜!
最後に会ってから1ヶ月くらい経つけど、私のこと覚えてる?
……覚えてるの?
えへへ〜嬉しい〜♡
そうだ、君にご飯持ってきたよ。
(優しく)
ほら、お食べ。
んふふふっ、可愛いね。美味しそうに食べてくれて嬉しいよ。
お姉さんね、最近話す人が誰もいないの。だから私の話、聞いてくれない?
猫の君に話すの、なんか変な感じだけど……んふふふっ
あのね、にゃん助くん。
お姉さんね、持ってたもの全部なくなっちゃったんだ。お家も、家族も、友達も、彼氏も。
(ため息)
なんだか元カレのこと思い出してきたなぁ。もう吹っ切れたと思ったのに。
うん、この際だもん、言いたいこと吐きまくってやろっと。
お姉さん、今から独り言大会します!
……ふふっ、なーんてね。
(ため息)
居酒屋で唐揚げを頼むと、いっつも先に君がレモンをかけちゃうの……あれすごく嫌だったな。
でも君が紳士的に振る舞いたがってたの知ってたから、私言わなかったんだよ。
直らなくても別によかったのに、なんで直っちゃったの?
……誰に直されちゃったの?
私、タバコの匂いがすっごく嫌いだったの。でも君は絶対にタバコをやめてくれないと思っていたし、そもそも君の体に着いたタバコの匂いは、香水の匂いと混じってて大好きだった。
そんな君も、いつからか別人みたくなって、残ったのは香水の香りだけ。
……私が先にタバコ嫌いって言えばよかった?
君が唐揚げにレモンをかけなくなったのも、タバコをやめたのも、スマホのパスワードを変えたのも、トイレの時間が長くなったのも、デートの行先を前々から決めてくれるようになったのも
……私の誕生日に帰ってきてくれなかったのも
私、一言も理由聞かなかったのに。
……いや、聞けなかったんだよ……。
怖くて何も聞けなかった。
(声を震わせて)
結局逃げられちゃうんだから、ざまぁないや。
(乾いたように笑う感じで)
はっ、あはははっ。
家賃払えなくて家から追い出されるし、唯一の家族だったお父さんはあんなに大きな借金残して死んじゃうし……借金返済するために風俗始めたら、みんな私のこと軽蔑してどっか行っちゃうし……。
誰も私のことなんて助けてくれなかった。
……君だけが私の支えだったのに。
※ここからは聞き手(にゃん助)に話すように
(半笑いな感じで)
ごめんね?にゃん助くん。
愚痴ずっと聞いてくれてありがとう。おかげで今まで心の中に溜めてた気持ち、吐き出せてスッキリしたよ。
(明るく)
あのね、お姉さん、夢があるの。
知ってる人が誰もいないどこかの国で、小さくていいから素敵な家に住んで、畑で野菜を育てたりお花畑で花を育てたりして、それをお店で売って生活するの。のどかに、ひっそりと。
どう?素敵でしょう?
んふふふっ、今から死のうとしてるのに、まだこんなバカみたいな夢語ってるの、ほんと笑っちゃうよね。
へぇ……猫もそんな驚いた顔できるんだ。
……驚くのも無理ないか。
この際だから言っちゃうけど、今日自殺するつもりなの、私。
だから、君に会えてほんとによかったよ。
人間の言葉なんて分からないはずなのに、必死に、にゃんにゃん、って鳴いてくれてありがとう。もしかして止めようとしてくれてるのかな?
でも、止めないで欲しいの。
私にはちょっと……この人生は辛すぎるからさ。
(困ってるように)
あ〜もう~、服噛まないで~。
ほら、ご飯全部あげるから、これ向こうで食べてて?ね?
ご飯でも揺るがない……か。
(驚いたように)
あっ!あそこにネズミがいる!
……んふふふっ、引っかかったね。
ぽかーん、て顔しちゃって、可愛い。
……ね。もうこれ以上、私に近づかないで。私のこと好きでしょ?なら私の言うこと聞けるよね?
……うん、いい子。
もし君が来世で人間になったら、私の夢を一緒に叶えてくれない?
(ため息)
(小声で)
私ったら、どうかしてるわ。
じゃあね、にゃん助くん。最後に話せたのが君で、本当によかったよ。
さようなら。大好きだよ。
【遠ざかる足音】
(少し間を空けて)
にゃん助くん、不思議な子だったなぁ。猫なのに、まるで私の言ってることがわかってたみたいで。
【布の擦れる音(後ろからハグ)】
(焦ったように)
きゃっ!誰!?
……その髪の色にその目の色、もしかしてにゃん助くん!?
(困惑したように)
ほ、ほんとににゃん助くんなの?なんで人間になってるの?
え、ほんとにどういうこと?
ゼロから僕と一緒に暮らさないか、って……
……ぷっ、あははははっ!
(半笑いな感じで)
にゃん助くんったら、急に何言ってるの~。
人はね、猫みたいにはのんびり生きていけないのよ?
……私の現状は、所詮あなたには分からないだろうし、もう今更変えられないよ。
夢を実現させよう、って……。
真に受けてくれたの?あんなバカみたいな夢を。
……私を、助けてくれるの?
そんな……
(子供のように泣く)
うっ、うぅっ、うわぁぁぁん!
うえぇぇぇん、うぅぅっ……。
(泣きながら話すように)
もう何が何だかわかんないよっ……
家は追い出されるし、貯めたお金は全部持ってかれちゃうし、家族にはもう会えないし、友達には軽蔑されちゃったし……。
([[rb:嗚咽 > おえつ]]&鼻をすする)
にゃん助くん、私と一緒に生きてくれる?
ほんと?
……ありがとうっ。
(ため息)
私たち、何も無い同士だけど、これから生きていけるのかな。
え?僕が養う?
どういうこと?
たしかにただの野良猫には見えないけど……。
……じゅ、獣人族?にゃん助くんが?
何それ……めちゃくちゃファンタジーじゃん……。
え、獣人族っていつでも人間になれるの?
……強い想いがないとできない?
じゃあ、私を助けたいっていうにゃん助くんの気持ちが、にゃん助くんを人間にしたってこと?
……そっか。
えへへ……なんか嬉しいなぁ。
でもまさか、君がこんなにイケメンな猫くんだとは思わなかったなぁ。
んふふふっ、人間になると表情がころころ変わって、見ててすごく面白いよ?
人の姿になっても、にゃん助くんは可愛いね。
【布の擦れる音(ハグ)】
ありがとう。
君に出会えて、本当に良かった。
こんな私だけど、これからもよろしくね。
大好きだよ。
[完]
あとがき
彼氏の愚痴を言うセリフ、結構お気に入りです。
最初はお姉さんが死ぬエンドにして、止めたいのに猫だから喋られなくて結局止められない、というもどかしさを皆さんに味わせようと思ったのですが、悩みに悩んで後味のいい終わらせ方に落ち着きました。