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【69】空回る気遣いと、呪具の発動。

  滅多に出回らない[[rb:迷宮 > ダンジョン]]産の[[rb:逃走樹木 > エスケープツリー]]。

  以前に振る舞ったその透き通った青い果実水を「きれい」と気に入った様子だったので、青色が好みの色なのかと思い今日の料理を用意させたのだが・・

  思っていたような、嬉しそうな反応を目にする事は出来なかった。

  傍仕えのジャスに街中の屋台から調達させた、こちらではありふれた料理。

  青い果実は見かけないと言っていたが、まさかあちら側では食べ物全体で珍しい物だとは思いもしなかった。

  世界が違うという事を、つくづく思い知らされる・・

  今回は「驚かせたい」という思いもあって何の確認もせず、急に持ち込んだのだが・・次は彼女の好みも聞いた上で用意するとしよう。

  一方、自分の分として交換したあちらの食事は、やはり素晴らしく美味だった・・

  甘辛く味付けされた肉と一緒に「こめ」を口に含むと、ずっと咀嚼していたい程の幸せで満たされる・・

  また赤い「べにしょうが」?とやらは、サクサクとした食感でひりひりする辛味が面白かった。

  味に慣れた舌の感覚を真っさらに戻し、再度口にした肉の味が初めて食べた時と同じくらいの衝撃をもたらしてくれる・・

  食べる者の事を、よくよく考えて作っている事が窺える素晴らしい料理だった。

  ただ、量が少なかったので少々物足りなく、見かねた彼女が追加で保存食を出してくれた。

  保存食?と、疑問を抱かざるを得ない代物だったが、例の魔法の箱で温めて出してくれたその「ぴざ」と「えびぴらふ」?がこれまた絶品で、結果満腹となり素晴らしい食事であった。

  ・・完食後、名残惜しそうに見えたのだろう「常備しておく」と気遣われてしまい、嬉しさと恥ずかしさで小さく礼を言うにとどめてしまったのは失態だ。

  なんと不甲斐ない。

  こうなれば余計に『次こそは失敗したくない』という思いが強くなる。

  彼女が珍しさに驚き、かつ楽しく美味しく食べられる物を是非とも用意しなければな。

  「むぎちゃ」を片手に食事についての思考をまとめ終えると、大事な要件を済ませる為に背筋を伸ばした。

  「時にアヤ、何か生き物を飼うとしたら、どんな姿が好みだ?」

  「ん?どしたの唐突に」

  突然の質問に小首を傾げた彼女に「実はな」と質問の理由を説明する。

  「依頼していた呪具が完成したので持って来たのだが・・」

  「あぁ、前に言ってたヤツね!」

  ぽんっ!と、握った拳の底を反対の手の平に打ち付けて「はいはいはい」としきりに頷く彼女に、鏡の横に置いておいた包みを手元に引き寄せて見せた。

  「この呪具はアヤを害する呪いや呪術から守り、また攻撃された時に限り反撃も行うものになる」

  「ふぅん。すっげ!それってかーなーり高性能なのでは?」

  「あぁ。割とな」

  本当は「割と」どころか、王都で広い屋敷を買える程の価値がある。

  だがまぁ、わざわざ伝える必要は無いだろう。

  「それでだな。この呪具は呪術的な疑似生命を生み出す品で、その生み出された疑似生命体がアヤを守る訳だ」

  「おぉう。予想以上に「ふぁんたじー」な代物だったでござるっ!」

  「うん?「ふぁんたじー」が何かは分らんが・・まぁその疑似生命体の姿は使用者が決める事が出来るそうでな。先の質問になる」

  彼女は「なるほどぉ」と言って腕を組み、遠くを見る様にして唸った。

  そうして少しの間悩んだ様子を見せた後、口を開く。

  「疑似生命体の姿・・外見?は何でもいいの?何か「こうした方が良い」って選択があったりする?」

  「いや。特には無いな。だが馴染みがあり、かつ思い浮かべやすい物の方が安定しやすいとは聞いている」

  「ほぅほぅ・・不安定だと不味い?」

  「僅かだが、諸々の精度が落ちるそうだ」

  「おっけー了解!そんならもう「アレ」しかないね!」

  どうやら当てがあるらしい。

  にっこり笑った彼女は、元気よくその生物の名をあげた。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  「ペットを飼うなら何にする?」とか聞かれたら、爬虫類と哺乳類とかで迷わない?

  「つるすべ」か「もふもふ」か・・

  あ。鳥類も格好良いよなぁ。

  でもね、リアルに生き物を飼うって本当、大変じゃん?

  最後まで面倒見れるとはとても思えなくて、1人暮らしになってから飼った事ないんだよね。

  あ、勝手に住み着いてるアシダカ軍曹とGなんかの虫は省きます。

  で、だよ。自分ずぼらだし。己の世話も儘ならないのにさ・・

  「他の命にまで責任持てるか!」って感じだったんよ。

  人並に見たり触れたりはしたいと思う事はあるけど、無責任な事はしたくなかったしね。

  と、まぁ今の今まで思っていましたさ!

  聞けば呪具で生み出された疑似生命体とやらは、ご飯の世話も何も要らないらしい。

  呪具に魔力を充填するだけで半永久的に活動するんだと。

  ・・それなんて[[rb:VR > 仮想現実]]?

  可愛がるだけで良いとか、まるっと夢のペットじゃんっ!

  凄ぇな異世界っ!!

  んで、決めましたともさ!これからお世話になる相棒の姿を!

  「そんで、そんで?!どうしたらMYペット様に会えますか?!」

  「う、うむ。少し待ってくれ」

  ハス!ハス!と鼻息荒く詰め寄ると、ちょっと引かれた。

  ショボンヌ・・

  青年の反応で正気に返り(´・ω・`)←て顔になりつつ、前のめりになっていた体勢を元に戻して大人しく待機する。

  こちらが落ち着いた様子を見せた事で気を取り直した青年は、小さく咳払いをして手元の真っ黒な布の包みを開いて見せてくれた。

  そこにあったのは、歪な薄い金属板を重ねて出来たピラミッドのような物体。

  禍々しくも、どこか美しいと思わせる不思議な造形をしている。

  「おぉ。なんか凄い」

  「既に魔力は充填してある。後はアヤがこの端の紋様に触れながら「生まれてこい」と念じるだけで疑似生命体が生まれる、筈だ。あぁ、念じる時はその姿を頭の中で思い描きながら、だな」

  「了解でっす!」

  説明を聞いて再び上がったテンションのままにビシッ!と背筋を伸ばし、敬礼で理解を示す。

  「では早速頼む」と呪具をこちらに差し出されたので、黒い布ごと受け取って手前に置いた。

  呪具を真上から見ると、曲線でやや細長い形状をしている。

  少し厚めの、つるりとした素材不明の板の上に薄型のピラミッドがある形で、その滑らかな手触りの一番下の板の両端に、凄く細かな字が円形に彫られていた。

  「ここに触ったら良いの?」

  「そうだ。小さな針があって、そこで血を採るから少しちくっとするぞ。回復薬は用意してあるから安心して触れるといい」

  『うぇい後出し~』と思いつつ、別に少し血を出すくらい構わなかったので「分かった」と頷き、それぞれの円に親指を乗せた。

  確かにちょっとピリッときたけど、そのまま目を閉じて理想のペット様の姿を脳裏で思い描く。

  イメージが固まったら。強く、強く念じた。

  『こっちにおいで・・生まれておいで!』

  途端。自分の中から何か得体の知れないモノがスルッと抜け出て行った気がした。

  慌てて目を開け、周りを確認するが特に何も変化が見当たらない。

  手元の呪具、周りの状況や雰囲気すら、何も変わっていないように感じる。

  ん?もしかして・・何か失敗した?

  世界を越えての呪術に、何か不具合でも起こったのだろうか?と不安になり、恐る恐る青年に視線を向けた。

  だが、予想に反し青年は目を見開いて固まっている。

  そしてぽつりと一言。

  「なんと、美しい・・」

  何かに心動かされた様子で、感動に目を細める青年・・

  「えっと。もしかしなくても、アド君には何か視えてる?」

  「・・・あぁ。とても白く、美しい生き物がアヤの後ろに・・」

  「えっ?!どこどこっ?!!」

  だがやはり、周りを見回しても何もいない。

  『これは、もしや・・』

  ショックを受け、手元の呪具を避けた隣にパタリ上半身を伏せて叫んだ。

  「まさかの私には視えないパターンですかっ?!」

  折角理想のペット様をお呼びしたというのに見たり触れたり出来ないのっ?!

  なんっだそのバグ!責任者呼んでこいっ!

  悔しさからバン!バン!と台パンしていると、青年の冷静な声が聞こえて来た。

  「成程・・魔力は有っても、アヤには視認できないのか・・」

  「うぅ・・私も見たい、触れたい・・出来る事ならもふもふしたいぃぃ~・・」

  シクシクと。いい大人がマジ泣きである。

  だってそうでしょ?!

  思い描いたのはふわっふわ、もっふもふの真っ白大っきなお狐様なんだからっ!

  口惜しいにも程があるわっ!

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