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【89】わくわくドキドキ☆精霊さん召喚!

  「・・すまない、アヤ・・契約の破棄は、難しいかもしれない・・」

  「ふへっ? 」

  予想もしなかった青年の言葉に驚いて変な声が出た。

  その意味も理解が出来ずに「え?どゆこと?」と素直に疑問をぶつける。

  「その・・完全に失念していたのだが、通常「精霊契約」の破棄の際には双方の宣誓と同時に手を握り合う・・のだ・・」

  大変言い辛そうに打ち明けられた内容に、たっぷり10秒は沈黙してどうにか口を開いた。

  「・・私とアド君。触れ合えませんけども?・・」

  「そうなのだ・・」

  「どうしたものか・・」と腕を組んで唸る青年に、こちらも若干パニックを起こす。

  え。マジで?

  破棄って宣誓だけじゃないの?

  だって契約する時そう言ってたよ?

  をいをいをい!どうすんだコレ!

  『どうする?どうしよう?』となんの役にも立たない単語が頭の中をぐるぐると駆け回っている間に、青年は一応の解決策を思いついたらしく「よし」と顔を上げた。

  「今の私なら可能だと思うが・・「魔術契約の精霊」を呼び出して直接交渉してみよう」

  「へ?呼び出す?精霊を?」

  「あぁ。何を対価に請われるか少し不安ではあるが、試すだけなら危険は無い筈だ」

  「えぇ・・全然安心出来ない感じなんですけどぉ・・」

  「大丈夫だ。多分」と言う青年に「だから全く安心出来ないってーの・・」と不安と呆れを半々に言葉を返す。

  「兎に角やってみるとしよう」

  「・・・それしかないよねぇ・・」

  乗り気はしないが、状況を動かすには青年に任せるしかなさそうだ。

  ここは大人しく見守るとしよう。

  「あ、なんか手伝う事とかある?」

  「いや、今のところは無い。だが、呼び出した精霊次第では頼む事があるかもしれない」

  「おっけー了解でーす」

  頭の上で大きく丸を作って答えると、青年は頷き腰を上げる。

  「よし。では契約書を取って来る」

  「ほいほーい・・」

  もう殆ど投げ遣りに返事をして、台に顎をのせぺしょっと潰れた。

  結局アド君にまるっとお任せか・・

  仕方がないのは分かってるけど、2人の契約なんだから私にも何か手伝う事ないかなぁ・・

  『・・お菓子でも用意しますか』

  青年が居ない間に電気ケトルでお湯を沸かして紅茶を淹れ、幾つか常備しているお菓子の中から自分のお勧めを皿に盛る。

  『B〇URB〇N好きなんだよねー』

  まずはくるりとドーナッツ状に絞り焼かれたバタークッキー。

  次にミルフィーユ状のクレープ生地にココアクリームでコーティングされたやつを開け、最後に柔らかいクッキーにラムレーズンとクリームを挟んだのを皿に乗せた。

  小袋ってホント使い勝手良くて助かりますわぁ・・

  紅茶がいい塩梅な頃に青年が戻って来たので、「呼び出す前にどうですか?」と、お菓子と共に勧める。

  「頂こう。どれも美味そうだな・・」

  「でしょ?どうぞどうぞ」

  紅茶は傍仕えさんが淹れた方が美味しいとは思うけど、このお菓子は「企業努力」という苦労の集大成なので是非楽しんで欲しい。

  青年は少し迷ってから細長いお菓子を選択。

  指で摘まんで一口齧ると、その不思議な触感に目を見開いて驚きを顕わにした。

  残りの半分も口に入れて目を閉じ、じっくりと味わってから紅茶を一口。

  ふう、と小さく息を吐いて「美味い」と一言感想を述べる。

  余韻を噛みしめるようにした後、ふわふわとした笑顔を浮かべた青年にこちらもほっこり。

  その後、ラムレーズンをサンドしたやつを口にして眉間を抑え「美味すぎる」と唸り。

  バタークッキーを食べた時には『ヤバい薬でも入ってるんか?』と疑うくらいに陶然とした表情を見せてくれた。

  ・・その顔、致してる時以外に見せて大丈夫なヤツなん?

  ちょっと心配・・

  何はともあれ、どれも気に入ってくれたようで何よりです。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  気付けば皿から菓子が消えていた・・

  おかしいな。まだ残っていると思ったが・・

  しかし美味い菓子だった・・

  「そんなに気に入った?」

  小さく笑った彼女に訊かれ、感動のあまりついそれぞれの菓子について熱く語ってしまった・・

  はっと気付いた時には出された茶が冷めていたので、自分で思っている以上に長く話していたらしい。

  「す、すまん・・夢中になってしまった・・」

  「ははっ!いいよぅ、気にしてないから!「こうちゃ」の追加は如何ですか?」

  「・・頂こう・・」

  「はいはーい」

  ばつが悪く、言葉短に応じると笑いをこらえた様子でカップを回収した彼女は調理場へと移動した。

  何をやっているんだ私は・・

  彼女が茶の支度をする間、用意した契約書を取り出して眺める。

  この契約を結んだ時はまだ魔法が使えず、凝り固まりそうな程に溢れた魔力の所為で空の魔石を使わなければならなかった。

  今なら最適な状態で魔力を流せる筈だが・・

  契約書の縁を囲う魔術文字を指の腹で撫でていると「はい、お待たせ~」と彼女がカップを片手に戻って来る。

  「あ、それ契約書?いよいよ精霊さん呼び出すの?」

  「あぁ」

  受け取った茶を一口啜り、ほぅと息を吐き出して体の力を抜く。

  精霊召喚など初めてだが・・まぁ、悪いようにはならないだろう。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  カップや皿を退かし、手前のスペースを確保した青年はそこに契約書を置いた。

  そして縁の模様の一部を、人差し指ですぅーとなぞる。

  それだけで、部屋の空気が変わった。

  何がどう変わったのか説明するのは難しいが、明らかに先ほどとは取り巻く雰囲気が違う。

  ピンと張りつめた清廉な空気というか気配というか・・何となく背筋が伸びる感覚だ。

  戸惑い、ぱちぱちと瞬きをして青年を見ると、その手元にある変化が訪れる。

  じっと注視していると、青年が撫でた文字がじわりと溶け出し煙のようになって空中に細く伸びていく・・・

  普通ではあり得ない光景に、つい食い入るように鏡に顔を近づけて観察を続けた。

  やがて、赤銅色の線で輪切り状に形作られた人らしい影がきゅっと収束すると、ぽんっ!と軽い音を立てて20センチくらいの女の子が現れる。

  女の子とは言っても、雰囲気から『女性かな?』と感じただけで、本当の性別は不明だ。

  本をずらして重ねたような段に覆われた生成り色のドレス?の下半身と、長い袖を水に落としたインクのように棚引かせる袖口。

  そこから覗く小さな手から、何となく判断した。顔も可愛らしいし。

  その顔で目立つのは何と言ってもクリっとした深緑色の瞳だろう。

  白目部分が見当たらないが、長い睫毛の下で知的に光っていて、掛けてる[[rb:片眼鏡 > モノクル]]がこれまた良く似合っている。

  よくよく見れば頭部の髪は本に挟むスピンが何本も集まったような感じで、後頭部でくるりとお団子状に纏められており、髪留めとしてだろう羽ペンが挿されていた。

  端的に言って可愛いですっ!!

  けど、少し気になるのは・・

  『すっげぇ隈・・』

  そう。この妖精さん。見た目可愛いのに目の下にでっかい隈をこさえていて、全体的に荒んだ雰囲気を纏っているのだ。

  さながら締め切り直前の作家といった感じだ。

  『なんという残念臭・・』と、大変失礼な感想を抱いていると、地を這うような[[rb:低 > ひっく]]い声が空間に響いて、あまりのタイミングに飛び上がって驚く。

  《何用か?》

  「魔術契約の精霊よ。良くぞ召喚に応じてくれた。どうか質問に答えてほしい」

  《一つなら答えよう。言え》

  「助かる。では、契約の破棄をする場合、直接触れ合わずに宣誓を完了させる方法はあるか?」

  問われた精霊さんは青年を見上げたまま、クイッと片眼鏡の位置を調整して答えた。

  《ある。破棄に必要なのは「破棄する」という意思表示と契約者同士の魔力の接触だ。必ずしも肉体の接触が要る訳ではない》

  「成程。回答感謝する。対価は何を」

  静かに状況を見守っていると解決策があっさり提示され、ほっとする間もなく対価の話へと移る。

  《・・そこから良い香りがする・・菓子?菓子だろ?ここにあった菓子を所望する》

  青年が脇に退けた皿を指さしてそう言う精霊さんに、『精霊って飲食出来るんだ・・』と少し場違いな事を考えていると、青年に「さっきの菓子はまだあるか?」と訊ねられた。

  「あ、あるある!ちょっと待ってね!」

  急ぎ立ち上がり、お菓子をストックしてある棚に向かうと、背後から《早く》と急かす精霊さんの声が聞こえ、それを落ち着かせるように「少し待て、今用意する」と話す青年の言葉が後に続いた。

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