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【93】冒険者組合 王都支部にて

  冒険者。

  世界中の国々の、ある程度大きな町には必ずと言って良いほど支部が設置されている世界最大の互助組織に所属し、主に[[rb:迷宮 > ダンジョン]]に潜って生計を立てている者たちをそう呼ぶ。

  彼、彼女らは冒険者組合にて獲物を換金する際、支部の置かれた国にて定められた分を引かれる形で税を納めており、迷宮から魔物が溢れる[[rb:迷宮暴走 > スタンピード]]などの災害時には、鎮圧に参加する事が義務付けられている。

  代わりに、国家間の移動に制限は無く、関所や町への通行料、入場料は免除されている。

  冒険者には等級があり、一番下は6歳から登録できる仮札と呼ばれる見習い。

  10歳になったら冒険者試験を受ける事が出来、受かれば晴れて正式な冒険者となる。

  最初は6等級から始まり、5等級までは初心者、ある程度の経験者といった認識だ。

  4等級、3等級は中堅、熟練者となり、冒険者の殆どがこの4、3等級だ。

  2等級、1等級からはぐっと数が減り、上級者となる。

  その更に上である特等級は極々一部の人の理から外れた者達で、世界中にほんの片手ほどしか存在しない。

  それぞれが国の軍隊と個人で渡り合えるほど、人の枠から外れた力を持つ。

  一定以上の力を持つ冒険者には国も配慮せざるを得ない一面があり、何よりも自由で、ある意味、何よりも不自由なのが冒険者という者達であった。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  オレグラント王国の王都にも冒険者組合支部は存在する。

  王都支部というだけあって所属する冒険者は多く、依頼も町中の掃除から護衛、納品等多岐にわたっていた。

  年中無休。

  非常時以外決して休むことなく開かれている支部の入り口に、長い銀髪を後頭部から垂らし、顔を紺布で覆い隠した小柄な人物が足を踏み入れた。

  途端、早朝から依頼を受けようと多くの冒険者がたむろする支部内が騒めく。

  「お、おい。あれ・・」

  「「[[rb:面布 > めんふ]]のカルセ」だ・・」

  「本人か?使役してる半精霊じゃね?」

  「後ろの兄ちゃんは何者だ?」

  「足元見なさいよ。影があるわ。たぶん本人よ」

  「殆ど1等級の3等止まりだろ?何で上に行かねぇ?」

  「やっぱりちっせぇなぁ・・」

  「何でも、掛けられた呪いの解呪方法を探す為にどっかの貴族の専属になってるって噂だぜ」

  「あぁ、2等からは強制依頼があるからな・・」

  「とても強そうにはみえないわね・・」

  「馬鹿。そう思うなら吹っ掛けてみろよ。瞬殺されっからよ」

  さわさわ、さわさわと小声で話す冒険者たちが「面布のカルセ」と呼んだ者を避けるように動き、入り口から受付まで一直線に空間が出来る。

  その人垣で出来た道を、面布はくすんだ金髪の青年を伴って受付へと進んだ。

  衆目が集まる中、周囲を気にする様子も無く淡々と受付に話しかける。

  「おはようございます。この方の登録をお願いします。あ、こちら紹介状になります」

  「かしこまりました。では上の部屋にて承りますので、こちらへどうぞ」

  「どうも」

  大勢の視線に晒されつつ受付係に促された2人が階段を上って行き、姿が見えなくなるとすぐに「面布は何をしにきたのか?」と聞き耳を立てた事で止まっていた騒めきが戻って来た。

  「新人登録?とっくに成人したナリで?」

  「面布が「この方」って呼んでたろ。ワケあり貴族のボンボンとかじゃねぇの?」

  「結構イイ男だったわね」

  「装備も中々のモンだったぞ」

  「貴族だろ?使えんのか?」

  「おい、あんま憶測で物言うなよ。とばっちりは勘弁だぜ」

  「悪い。でもお前もそう思うだろ?」

  「まぁなぁ・・」

  暫くの間、さわさわと話す冒険者たちの話題は面布と連れの男に集まっていたが、次第に話題も移っていき、組合内はすぐに落ち着きを取り戻していった。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  2人が二階で案内されたのは豪華な調度品が並ぶ部屋・・

  冒険者組合王都支部、支部長の執務室。

  案内した受付係が下がると、執務机の前に置かれたソファーセットの片側に座った女性が話しかける。

  「ようこそ。冒険者組合王都支部へ。片っぽは新顔だね・・アタシはここの支部長をやってる[[rb:竜人 > ドラゴニュート]]のギータってんだ。今後ともよろしく頼むよ」

  頭部から一対の枝分かれした角と、鱗で覆われた尾を腰の後ろから生やした女性は整った顔を勇ましい笑みに歪めた。

  対する2人は落ち着いた様子で答える。

  「お久しぶりです支部長。今日はこの方の登録に参りました」

  「アドという。初めまして支部長殿」

  「あぁ、話は聞いてるよ。まぁ座りな」

  「では、失礼して」

  面布に続き、青年も軽く会釈をして向かいのソファーへ座った。

  そこへ先ほど案内してくれた受付係がお茶を運んできて、3人の前にカップが置かれる。

  受付係が退出すると、支部長は上着の中から徐に煙管を取り出し火皿に葉を詰め始めた。

  そのまま、無言で待つ2人を気に掛ける様子も無くふっと息を吹きかけて火を点ける。

  然程広くはない執務室に、白く細い煙がゆっくりと立ち上った。

  そうして漸く支部長は手元の紹介状を開き、読み終えると元の形に折りたたんでテーブルへ置く。

  「事前に話は聞いていたし、こうして紹介状も拝見したよ。でもねぇ・・」

  「何か問題が?」

  煙管片手に勿体ぶった様子の支部長へ、面布は淡々と訊ねる。

  「アンタも一応冒険者やってんだろ?なら「試験を免除しろ」だなんて要求に、こっちが「ハイハイ」頷くワケないって理解出来るだろ?」

  「紹介状があっても?」

  「「あっても」だよ。例外なんか作っちまったら、他の冒険者に示しがつかないんだ。諦めな」

  ふぅー。と煙を吐き出して取り付く島もない支部長に、面布は尚も言い募ろうとしたが、隣に座る青年がそれを止めた。

  「カルセ。私は試験の免除など、元より望んではいない。ここは支部長殿の言に従おう」

  「アド様。ですが・・」

  「何、問題ない。大丈夫だ」

  「解りました・・」

  説得される形で面布が正面に向き直ると、支部長は「話は済んだかい?」と面倒そうな様子を隠しもせずに言った。

  青年が「ああ」と短く答えると、支部長は長方形に切り抜かれた何かの葉を取り出しテーブルへ置く。

  「ならこれに名前と歳を書きな。登録申込用だよ。茶を飲み終わったらそれを下の受付に出すんだね。試験は30分後だ」

  「すまない。手数を掛けた」

  「ホントだよ。カルセ。アンタもあんまりご主人様を過保護に扱うんじゃないよ。そんな有様だと直ぐに[[rb:面 > ・]][[rb:倒 > ・]][[rb:に > ・]][[rb:嗅 > ・]][[rb:ぎ > ・]][[rb:付 > ・]][[rb:け > ・]][[rb:ら > ・]][[rb:れ > ・]][[rb:て > ・]]、あっと言う間に大立ち回りさ。そんなのはこっちも御免だからね、しっかりヤりな」

  「・・余計なお世話です」

  「はっ!拗ねちまって。こりゃ珍しいもん見たね!」

  カっ!カっ!カっ!と軽快に笑う支部長に、面布は無言でもって答えた。

  そのようなやり取りの間に、青年は先の尖った鉄棒で渡された葉へと記入を済ませる。

  そうして、やや冷めた茶を口にした後に席を立った2人は扉へと足を向けた。

  面布に続き退室しようとした青年だったが、その直前で足を止めると振り返り、支部長へ向かって「面倒をかける」と口にして軽く頭を下げる。

  青年の行動に驚いた様子で目を見開いた支部長だったが、すぐに肩をすくめて「いいよ、これも仕事さ」と気さくな調子で答えた。

  軽く頷きを返した青年の背が扉で遮られると、支部長は煙管を燻らせながら考えを巡らせる。

  『あれが噂に聞く「第二王弟殿下」ね・・良い子そうじゃないか』

  王家から連絡が来た時はどんな無理難題を突き付けられるのかと思ったが、蓋を開けてみれば想定していたどの状況よりもマシだった。

  だが・・

  『どうせ騒ぎになるんだろうさ・・時間になったら下に降りるか』

  「・・それまでもう一服しようかね」

  「どっこいせ」と立ち上がった支部長は、執務机に移動して石製の灰皿へ煙管の雁首を打ち付け、灰を落とした。

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