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【103】冒険者と手合わせの約束を。

  褐色肌の冒険者自ら狩ったという|旨鳥《うまどり》は、獣の中でも仕留めるのが難しい部類の獲物だ。

  この鳥は自身が他の肉食獣に狙われるのを利用して、自らを囮に危険な地形等に誘い罠に嵌め、狩りをする程知能が高い。

  飛ぶ速度も速く、旋回などの機動力もある。

  仕留めるには止まっている所を気付かれないように射るか、動きを予測して魔法で捕らえるしかない。

  見れば、褐色肌の冒険者が所持している武器は短弓。

  という事は、この者はかなりの弓の名手なのだろう。

  『弓を相手にした事は無かったな・・』

  様々な戦闘経験を積み、能力の底上げを図りたいとは常日頃から思っていた。

  これは良い機会なのではないだろうか?

  「・・カルセ、良いか?」

  「えぇ。アド様のお望みのままに」

  こちらの意図を察して頷く傍仕えと共に向けた視線に、会話から置き去りにされていた褐色肌の冒険者は首を傾げる。

  「一つ、私と手合わせを頼む」

  唐突な言葉に腕を組み、気乗りし無さそうに息を吐く冒険者。

  「えぇ~・・アタイ、弱い者イジメとか嫌なんだけど?」

  完全に下に見られている事を少しばかり不満に思ったものの、顔には出さずに「受けてもらえるなら、これを」と腰のバック内の小物袋から飴を一つ取り出した。

  「何それ?」

  「とても珍しく貴重な飴だ。まずは一つ試すといい」

  そう言って包みを開き、他の箇所より薄い肌色をした手の平へと、丸みを帯びた三角の粒を落とす。

  「ふぅん?」と首を傾げつつ口に放り込んだ褐色肌の冒険者は、直後にふにゃりと相好を崩した。

  「あ、|甘《あんめ》ぇ~・・何だこの飴、すっげぇうまいぃぃ・・」

  そうだろう、そうだろうと、内心で深く頷く。

  この飴は自分も気に入っている品の一つだ。

  いや、まぁ。彼女が用意してくれた品で気に入らない物などまず無い。

  それ故、この薄い赤色をした三角の飴を対価として手放すには少々惜しい気持ちはある。

  が、他の品より幾らか多く入っていた分マシだろう。

  「アンタと手合わせしたらこの飴、もっとくれるのかっ?!」

  先程までの興味のない様子から一転、食いつくようにして問いかけて来る褐色肌の冒険者を、手の平を向けて押し止めながら頷く。

  「あぁ、受けてくれるならこの飴を10粒渡そう。だが、これは本当に希少な飴だ。追加で欲しいと言われても、これ以上は出せない」

  「それだけは心得てくれ」と最後に一言注意した。

  あまり数が出せないのは本当だからな・・

  それに、噂が出回って「我も我も」と集られては今後の行動に支障を来たす。

  「うん!わかった!アンタとの手合わせ、その飴10個で請け負ってやるよ!」

  「よし。ではそちらの手が空いた時に声を掛けてくれ」

  「報酬は手合わせの後だ」と続けると、「わかった!」と元気に答えた褐色肌の冒険者は青年に向かって手を差し出した。

  「もう知ってると思うけど、アタイは「キーラ」だ!アンタは?」

  「これは失礼。私は「アド」という」

  「よし、アド!そしたら手合わせヨロシクな!手加減してもらえると思うなよ~?アタイはいつだって全力だかんな!」

  「それはこちらとて望むところ」

  差し出された手を握り、挑発的に見上げる視線を静かに見つめ返す。

  相手の指関節の内側にある弓だこの硬さを感じながら、一瞬力を込めてすぐに放した。

  「新人の癖にナマイキなー!見てろよ!思いっきりヘコましてやっかんな!」

  「出来るものならな?」

  「ナニおぅ~?!」

  やや子ども染みた挑発の応酬に、呆れた様子でリーダーの冒険者が間に入る。

  「いい加減にしな。ヤるんなら口でなく手合わせでヤるんだね」

  「わかってるよリーダー!でもこの新人がっ!」

  反論した褐色肌の脳天に、ゴッ!とリーダーの拳骨が落ちた。

  「はぁ・・ごめんよ。世話をかけたね」

  「いや、問題ない」

  「そうかい?そう言ってもらえると助かるよ・・」

  小さく息を吐き出したリーダーは痛みで蹲っている褐色肌の襟首を掴むと、そのまま引きずり歩き出す。

  「ほら行くよ!」

  「う゛~っ!アド!待ってろよ明日にでもやるからな!逃げんなよ!」

  引っ張られ、後ろ向きで器用に進む姿に一応手を上げて応えた。

  褐色肌は「飴!ちゃんと用意しとけよ~!!」と言い残し、その後ろ歩きのまま遠ざかって行くのだった。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  「大変な醜態をお見せしてしまい、本当に申し訳ありません・・あまりの|衝撃《美味しさ》に取り乱してしまいましたわ・・」

  恥ずかしそうに頬を染め、広げた扇で口元を隠す金髪美女。

  その手前にある皿には中身の無くなった包装紙がこんもりと山になっている。

  いやね?食べる様子があまりに面白くてさ。渡す手が止まんなかったんだよね!

  だって一々リアクションが特殊なんだもの・・美女さんどんだけ表現に幅があるんだよと。

  あぁ。もう、すんごい面白かった!

  「いえいえ、そのように喜んで頂けて私も嬉しいです」

  美女さんはたっぷりチョコが食べれて幸せ。

  私は面白いものが見れてハッピー!

  これぞまさしくwin-winの関係だね!

  んでも、食べ過ぎのリスクは伝えておかないとだよね・・

  満足気に紅茶のカップを傾ける美女さんに、残念なお知らせを告げるべく口を開く。

  「クリスさん。お幸せそうなところ、誠に申し訳ありませんが野暮なお話があります」

  「あら?何かしら?」

  「そちらのチョコレート。少量なら問題ないのですが・・食べ過ぎると体重が増えます」

  「え・・」

  引きつり、強張らせた顔のままで固まる美女さん。

  その背後に「ピシャーン!」と真っ黒な|稲光《ベタフラ》が見えるかのようだ。

  「それだけではありません。病気になりやすくなり、胃がもたれたり、気分がイライラしたりといった症状が出ることがあります・・」

  「そ、そんな・・それは誠ですか?!」

  「えぇ・・残念ながら・・」

  「あ、あぁ・・まさか・・なんてこと・・」

  最初に見せていた凛々しい姿は何処へやら。

  美女さんはガックリと項垂れて肩を落とし、すっかり意気消沈してしまった・・

  どうやらチョコの過剰摂取リスクにかなりのショックを受けたようだ。

  「ですがご安心を。一日に2、3個なら何の問題もありません」

  パサついたように見える髪を口の端に付けたまま、美女の顔がのろりと上がる。

  そして一筋の希望を見出したかのように、瞳に輝きが戻り始めた。

  「それどころか、チョコレートの原料である「カカオ」の量が多い物を継続して召し上がると、お肌のシミ、シワ、たるみの予防。お腹の調子を整えたり精神を安定させたりといった効果があります」

  「そ、それでは・・あたくしは「ちょこれいと」を食べて、も?」

  「勿論です!節度を守って召し上がるなら、寧ろ良い効果が得られるかと」

  ぱぁぁ!と、花開くように美女の顔に赤みが戻り、潤んだ瞳でキラキラとした笑顔がこちらに向けられる。

  「あぁ!ありがとうございます魔女さん・・いいえ、使徒様っ!あたくし、生涯「ちょこれいと」を崇拝し、民衆に広めていく事を誓いますわっ!」

  いや、それはヤメれ。

  面倒臭い事この上ないわ!

  「早速絵師を呼んで「ちょこれいと」を授けてくださる使徒様の祝福画の制作依頼を・・」

  『|狂信者《モンスター》っぷりが加速度的に進むお姉さまを止められるのは、今は私しかっ!』なんてモノローグで|現実逃避して《遊んで》いる場合じゃないねこりゃ。

  「クリスさん、落ち着いてください」

  「暗闇の中、雲の隙間から差し込む光に照らされし「ちょこれいと」とそれを授ける使徒様・・これですわっ!」

  ギラギラと光る危ない目と挙動を続ける美女さんに一声掛けるも、こちらの声には一切反応せずに絵画の構図を妄想するその姿に、流石に気持ちがスンっと凪ぐ。

  「・・いいんですか?「チョコレート」が衆目に晒され、人々に知れ渡ると・・クリスさんの取り分が減りますよ?」

  「と、大変素晴らしい考えだとは思いますが祝福画については一旦保留にしまして、ここはやはり少量ずつ、最初は身内だけ。そして十二分に研究した後で徐々に周りへ浸透させていくべきかと存じます!」

  「それが良いと思いますよ」

  うん。チョコレートを異世界で広めたりなんかしたら、用意する私の部屋がチョコレート工場みたくなること請け合いだからね。

  そんなのは勘弁なので、私が対応できる範囲で頼んます!

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