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腰の後ろの[[rb:魔法鞄 > マジックバック]]から取り回しの効く短剣を出し、鞘から抜かずに振るう。
短弓で飛ばすのに丁度よい長さなのだろう、腕の先で弾いた矢は短い。
落ち行く矢をちらりと確認すれば鏃部分は丸い布状のもので覆われており、怪我に配慮されている事がわかった。
これなら目に当たらない限り酷い事にはならないだろう。
『弓相手ならば距離を詰めねば』
遠距離武器から離れたままなのはまずい。
こちらの攻撃は届かず、一方的に翻弄されて終わりだ。
地面に落ちている手頃な大きさの石を幾つか拾い、相手に向かい走りながら次々に投げる。
だが、この投擲での牽制も、[[rb:旨鳥 > うまどり]]を狩る褐色肌には効かない。
軌道を読み、僅かな動きだけで石を避けると短弓の弦を引く。
ぴゅんぴゅん!と、ほんの僅かな時間差で矢が2本、こちら目掛けて飛ぶ。
狙いは頭と胴体か。この軌道だと左に大きく避けるしかない・・
視線を褐色肌に向けると、既に次の矢を構えている。
ならばと頭に向かう矢は避け、胴体の矢は短剣で弾き、走る勢いを殺す事無く褐色肌へと向かい駆けた。
だがそれも読まれており、左を指していた指先はすっと向きを修正。
落ち着き払った視線と共にこちらに向けて、真っすぐ矢を射る。
左右どちらに避けても駆ける勢いが落ちる。
だから、目の前に矢が来たタイミングで上体を前に倒し、同時に踏み出す足で地を強く蹴った。
すると腹の辺りを中心に、体が縦に1回転。
体があった位置を矢が通り過ぎた後でくるりと着地、回転の勢いのままに褐色肌に肉薄する。
手を伸ばせば触れる位置で、下から救い上げるようにして向けた剣先が届く直前、丸い塊が視界に広がった。
咄嗟に首を傾けると頬を掠めながら矢が通り過ぎる。
崩れた体勢を利用して地面に片手を着き、地を這うような低い位置から足払いを繰り出した。
避けようと跳躍した褐色肌の靴先に、ヂっ!とこちらの靴が掠る。
内心で舌打ちして、ととん!と軽快な足捌きで距離を取る褐色肌を見送った。
開始直後から数々の攻防・・この間、ほんの数秒しか経っていない。
体を起こし、靴裏でしっかりと大地を踏みしめる。
僅かに乱れた呼吸を整えるべく、意識して深く吸い、吐いた。
そしてもう一度深く息を吸い込み、全身に力を巡らせる。
仕切り直しだ。
やはり褐色肌は弓の手練れ。
牽制が上手く、迫り来る相手にも冷静に対処出来る。
また、小柄な体は俊敏で、回避能力が高い。
なにより、素早い矢継ぎによる高い連射能力。
厄介だが、相手にとって不足なし。
体格などは傍仕えと近いのもあって、近接に持ち込めばやり易くなりそうだ。
空気を十分に摂り込み終えた瞬間、最小限の予備動作で地を蹴る。
巡らせた魔力で足の力を強化。先程とは比べ物にならない速度で褐色肌に迫った。
矢を放とうとした腕を払い上げ、鞘に包まれた短剣で無防備に開いた横っ腹を撫でる。
『よし、一撃入れ―』
「いち」
『え』と思う間もなく、後頭部にぽこんっ!と何かが当たる感触。
驚き振り返ると、ぽろり落ちる矢が・・
しまった!
腕を払った時の矢か?!だがどうやっ―
「に」
動揺から一瞬、動きを止めてしまった。
その隙を突く形で、わき腹に木製の短剣が当てられる。
ドンっ!と、肩を無理矢理押して離れると、更に距離を稼ぐべく後ろ向きのまま飛び退いた。
あまりの不甲斐なさで、自分自身に凄まじい怒りが湧く。
情けない。情けない。
鍛えてくれた傍仕えに申し訳が立たない。
「こんなものか」と褐色肌を呆れさせたくない。
それよりなにより、この程度で躓いていては、[[rb:彼女 > アヤ]]を守れる筈がない。
褐色肌を睨みつけたまま、ぐんっ!と魔力を放出。
辺り一帯の空間に行き渡らせ、掌握した領域から水分を集める。
ぴゅん!ぴゅん!と、風切り音と共に矢が飛来するが、集めた水分で作り出した水玉で受け止めた。
勢いを失くした矢は、そのままポトリと地に落ちる。
「なっ!水?!一体どこから!?」
じぃ、と褐色肌に視線を注いだまま、中腰だった姿勢を真っすぐにして、すぃと右手を顔の横に上げ・・
矢を防いだ水玉を次々に分裂させ、硬貨程の大きさで数十の水玉を作り出す。
私の周囲に浮かぶそれを見て、褐色肌の顔が引き攣った。
「やっべ・・」
その言葉を契機に、上げていた手を褐色肌に向かってふぃと振り下ろす。
1、2、5、10と、私の意志に従い次々に水玉が飛び出して行った。
絶え間なく飛来する水玉を俊敏な動きで避けていた褐色肌だが、待機する水玉の数が減らない事に気付くと焦りからか次第に回避が雑になっていく。
「よっ!ちょっ!ほっ!」
ぱしゃしゃしゃ!と足元で連続して水が弾け飛び、褐色肌はもうなりふり構わずそこらを全力で駆ける。
それなりの時間を休む間もなく動き続けていたが、ついに体力が尽きたらしい。
足をもつれさせ、よろけたところでとうとうその背に水玉が当たる。
そのまま地面を転がり、止まるとこちらに振り向く褐色肌。
地に尻を着けた状態で私を指さすと、息も絶え絶えに言い放った。
「こ、こんな事出来んなら、最初からや、ぶべっ!!」
まだ2回しか当てていなかったので、問答無用で水玉を顔面にぶつける。
これにて、褐色肌との手合わせによる勝負は決した。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
手合わせには勝利したものの、なんとも後味の悪い結果となった。
弓との戦闘を経験したいからと最初は魔法を使わず、魔力による空間把握もおざなりだった・・
これでは「手を抜いていた」と思われても仕方が無い。
事実、冒険者組合で試験官を相手にした時には、最初から全力で挑んでいたのだから。
それに比べて、今回の手合わせはというと「舐めるにも程がある」と叱られて当然な有様だ。
無意識とはいえ、「負けはしない」と褐色肌を格下に見ていた事をさまざまと突き付けられて、そんな己の思考に嫌気が差す。
挙句の果て、苛立ちに任せて水魔法を使った・・
私はなんと未熟なのか・・
『反省しなければ』等と殊勝な事を思っても、結果が伴わなければ唯の虚言ではないか。
考えれば考える程気分が落ち込む・・
「その・・悪かった」
濡れてしまった褐色肌の服から水分を抜き取って乾かしながら、鬱々とした気持ちで罪悪感と共に謝罪すると「謝んな」と、鋭い視線で言われた。
「アタイが弱かった。それだけの話だ。それに、全力でやった相手にその態度は侮辱以外のなにもんでもねぇぞ?気ぃつけろ」
「そうだな。すまな・・いや、以後気を付ける」
「よしっ!それで良いんだよそれで!」
ばんばん!と私の背中を叩いた褐色肌は「服、ありがとな!じゃ、さっきの手合わせについて話しながら戻ろうぜ!」と促す。
そのカラリとした態度に鬱屈とした気分が少し上向き、僅かに気持ちが楽になった。
「ありがとう」と感謝を伝えると、褐色肌は「なんの礼だよ!」と笑って半精霊の「C」が拾い集めていた矢を受け取る。
その「C」に礼を言って腰の後ろに固定された矢筒に矢を戻した褐色肌は、木製の短剣も腰のベルトに差すと「行くか!」と天幕に向かい歩き出した。
並び歩きつつ互いの視点からの助言と、良かった所や改善すべき点などを指摘していく。
そんな会話の中で、どうしても気になっていた事を訊ねた。
「一つ訊いても良いか?答えられたらで良いのだが・・」
「おぅ。何だよ?」
「一手目・・私の後頭部に当てた矢は、どうやって・・」
「あぁ。あれはな、こう―」
言いながら、腰の矢筒に固定していた短弓を手に構えると、ぴゅうと空に向かって矢を放った。
矢は放物線を描いて飛び、一番高い所でくるりと縦に半回転する。
鏃と弦をつがえる「[[rb:筈 > はず]]」の位置を入れ替える形で、矢は地に向かい落ちて行く・・
が、真っすぐに落ちる筈の矢は空中で不自然に軌道を変えると、なんと待ち構える褐色肌の手に戻って来たではないか!
曲芸の如く不可思議な矢の軌道に驚きを隠せないでいると、褐色肌は得意げに顎を反らして言った。
「とまぁ、こんな感じだな!」
「凄いものを見た・・一体どういう理屈でそのような動きが?」
「秘密に決まってんだろ?!冒険者は簡単に手の打ちを明かさねぇもんだぜ?命に係わる事もあるからな!」
「そうか・・」
答えながら、色々な可能性を思い浮かべては打ち消す。
暫し無言で思案していると「アドこそ、あの水はどっから出したんだ?」と逆に質問されたのだった。
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