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[[rb:暴食蟻 > ハンガーアント]]を食い止めている間に、依頼人らの乗った移動宿泊箱は無事皇国側の門前へと到着。
庶民側の門は通過しようとする人々でごった返して大変な状況らしいが、こちらは問題なく進み門を通過して、依頼人を守り切ることが出来た。
討伐の完了後、一応の安全が確保出来たとして「栄光への導き手」のリーダー、丸い虎耳と太く長い尾を持つバーグは事後処理に人手を割きたい旨を護衛騎士のワイズに説いている。
自分にも出来る事があるかと声が聞こえる範囲まで近づいたが、偶然にもそこに立っていたのはあの不躾な視線の男性冒険者だった。
つんつんと跳ねた黒髪を横目に立ち止まると、こちらを認識した黒髪の方はぎょっと体を強張らせ、一歩横にズレて距離を取る。
ふむ。
身長は私と同程度、しかし肩幅や体格はあちらの方が良い。
腰の位置はこちらの方が少しばかり高いようだ。
ならば互いに剣を使う以上、足使いが肝となる、か?
『確か「電撃の魔剣」使いだったか。出来れば手合わせ願いたいが・・』
気配で横の様子を探りつつ思考を巡らせていると、視線の先ではリーダーと話をしていた護衛騎士が依頼人である眼鏡を掛けた貴族へと判断を仰いでいる所だった。
地面より高い位置にある移動宿泊箱の出入り口の足場に立つ貴族は下から見上げる護衛騎士に「こちらでご休憩している間だけでも如何でしょう?」と提案され、興味なさそうな様子で頷き後を部下である小太りの貴族に任せて宿泊箱の中へと戻る。
「閣下からお許しが出た事、感謝するんだな!我らが休む30分間のみ少数での離脱を許可してやる。護衛任務を怠らぬなら事後処理でも剥ぎ取りでも、好きにするが良い!」
「感謝いたします」
深々と頭を下げたリーダーと、騎士の礼を取ったワイズの2人にふんっ!と荒い鼻息で返事して、小太りの貴族も中に戻って行った。
貴族の姿が見えなくなるまで頭を下げたままだったリーダーは、姿勢を戻してワイズに「口添え感謝する」と礼を伝える。
「なぁに。これが仕事だからね。気にしないでくれよ。それに、あんな態度だがあんたからの提案は拒否しなかったんだ。閣下たちも民を思う気持ちは持っておられるという事さ」
「そうか。そうだな」
「さて!聞いての通り30分しか時間が無い!さくさく頼むよ!」
「承知した」と頷いたところに、丁度救助を終えたらしい傍仕えが戻って来た。
状況を確認しようとこちらが声を掛けるより先に、リーダーが声を張り上げ問う。
「「面布のカルセ」!被害はどうだ?!」
「冒険者はかすり傷程度が数人。冒険者以外は軽傷多数。回復薬が必要な重傷者が5名居ましたが、死なない程度に回復済みです。それから、息の無い者が3名ですね」
即冷静に答えた傍仕えに「その程度で済んだか・・」とほっと息を吐くリーダー。
周囲の冒険者も幾分肩の力を抜いたようだ。
確かに、あの状況からすれば大した被害ではないのだろう・・
だが私は、人死にが出たという情報に胸が締め付けられたように痛み、固く目を閉じた。
そうして亡くなった者への安らぎと、その周囲の者たちの痛みが僅かずつでもやわらぐ事を願う・・
ほんの一時の祈りを終え、顔を上げて意識を非情な現実へと切り替えた。
目の前ではリーダーの言葉が続いている。
「あんたの素早い救助のお陰だ。感謝する」
「いえ。アド様のお言葉に従っただけですので、お気になさらず」
傍仕えの冷静な態度に「そうか」と首肯して、リーダーはこちらに視線を移した。
「アド。的確な判断、助かった。あの氷の魔法もお前だな?よくやってくれた」
「あぁ。犠牲は出てしまったようだが・・」
口を突いて出た悔しさの滲む言葉と共に視線を下げると、リーダーは私の肩を叩いて淡々と話す。
「俺たちは万能な精霊ではない。自分の能力の内で出来る事をするだけだ。己の手が届く範囲外の事を嘆くのは止めた方が身のためだぞ。それと、向けられた称賛や感謝は素直に受け取るのが、冒険者としての正しい姿だ」
「だが・・いや。そうだな。すまない。気遣い、感謝する」
否定の言葉を飲み込んで頷くと、リーダーはふっと口元を緩めた。
「なに、俺が勝手に世話を焼いただけだ。お前こそ気にするな。だが、そうだな。世話焼きついでだ。事後処理の手伝いをする気はないか?あの氷漬けの暴食蟻も出来れば解体して素材を回収したいのだが・・」
「分かった。氷から蟻を出せば良いか?」
「そうしてくれると助かる。皆!聞いたな?!1班は引き続き護衛に付き、2班は外に処理に向かえ!」
各所から「応!」と声が上がり、答えた者たちは直ぐに動き始める。
混乱が無いように状況を見守っていた「不屈の砦」のリーダーであるミリアーナも、「栄光への導き手」に続きパーティーメンバーへ指示を出した。
「護衛にはウチが付く!皆は外の始末を頼んだよ!」
メンバーはぱらぱらと返事をして、開いている門から外へ走って行く。
私も護衛で残る傍仕えに「行ってくる」と声をかけ、その後を追った。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
凍りついた大穴付近は先程より幾分落ち着きを取り戻していた。
だが、皇国側の門は固く閉ざされているようで未だ周囲に人々は溢れ、混乱は続いている。
聞こえて来る周囲の会話から察するに、安全の確認が出来るまで皇国側は庶民側の門を開けない事にしたらしい。
だからだろう。貴族側と庶民側を仕切る壁に空いた穴の近くで、足場の悪い氷の上を歩いてきた商人らしき風体の男性が「通らせろ」と例の黒髪の冒険者と押し問答を繰り広げていた。
「だから!こっち側は貴族専用で俺らじゃ通行許可なんか出せないんだよ!」
「何でだ!?誰も通ってないなら問題ないだろ?!こっち側は戻りたくても通路が凍りついてて歩けないんだ!見れば分かるだろ?!」
「そりゃ分かるけど!だからってここを通って良いって話にはならねーだろーがっ!!」
どうやら私が通路を凍らせた所為で通行出来なくなっているらしい。
これはマズいと急いで駆け寄り、黒髪の肩を叩いて会話に割り込む。
「げっ!お前はっ!」
「話しの途中にすまない。すぐに氷は解除しよう。新しい足場は「C」、頼めるか?」
背後に控える「C」が頷いたのを確認して、その「C」の姿に驚きに固まっている商人風の男性に話しかけた。
「商人殿。すぐに足場は作るので、少しの間だけで良い。離れていてくれないだろうか?出来れば他の人々にも氷から離れるよう伝えてもらえると作業が早く片付くのだが」
「は?・・あ、あぁ!分かった!伝える!」
パチリ、パチリと瞬きをして、遅れて私の言葉を理解したらしい男性は壁伝いに移動を始める。
『先ずはこれで良いだろう。後は氷から人々が離れてから・・』
「・・おい」
この後の動きを組み立てていた所に、放置する形となっていた黒髪が不機嫌さを滲ませる声音で呼びかけて来た。
氷を指さし「コレ、やったのお前か?」と問われ、内心で黒髪の態度の悪さに首を傾げながら「あぁ、そうだが」と答える。
黒髪は眉根をぎゅうと寄せ、顔を顰めて更に言葉を続けた。
「・・後ろのヤツは?あんたの精霊?」
「いや。仲間が使役している」
「なんだ。そうかよ」
はんっ。と人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて黒髪は言う。
「仲間の精霊頼みかよ。だっせ」
「・・?それはどういう―」
発言の意味を問い返そうとしたところで、黒髪を呼ぶ声に言葉が途切れた。
「リックー!こっち手伝って!」
「わかった!今行く!」
すぐさま仲間の所へと走って行く黒髪の背を目で追う。
・・私は思っていた以上に嫌われているのだ、な・・
理由は解らないものの、黒髪のあからさまな態度に概ね状況を理解して、やや気落ちする。
『まぁ、次話せた時に理由を聞くとしよう』
気になる問題を一先ず先送りにして、私は目の前の氷を処理するべく手をかざし己の魔力を放った。
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