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【134】計算の糸口と対価の提示。

  こちらの戯言に「ふぅ」と息を吐き、腕で額の汗を拭った褐色肌は手の中でくるりとナイフを回すと、作業を再開しつつ笑って言った。

  「んじゃ、早速教えてくれよ。その糸口ってヤツをさ!」

  「あぁ、分かった」

  そうして解体の補助をする中、普段どのようにして計算しているのかを訊ねたのだが・・

  なんとも非効率的なその方法に、どうしたものかと頭を抱えそうになる。

  自分の発言内容を気にする素振りもない褐色肌に頷きだけを返し、暫し思案した後に基本的な計算方法を伝えようとした。

  が、どうにも理解できないらしく右に左に首が傾くばかりで、一向に教えが進まない。

  『これは、何かの合間にするべき事ではないな』と今更ながらに思い至り、ひとまずは解体を終える事にした。

  集中して作業すれば[[rb:角猪 > ホーンボア]]はあっという間に部位ごとに切り分けられ、既視感のある肉塊へと姿を変える。

  周囲の警戒ついでに採集へ出ている三つ編みはまだ戻らない。

  そこで、彼女が戻るまでの時間を有効活用しようと、落ちていた適当な枝に針の付いた糸を結び、川中に沈めた内臓に集まっている魚を狙う事になった。

  2人並んで岩の上に座ると、枝先の動きを注視しつつ先程の続きを話す。

  「それで、計算の時に混乱するとは?」

  「どーしても数字を足して引いてってやってくと、ごちゃごちゃしてワケ解んなくなるんだよ・・」

  「ふむ・・」

  褐色肌はとにかく数字で物を考えるのが苦手だと言う・・

  だが、それだと疑問点が一つ。

  「・・少し気になったのだが、狩りの時に矢の残数は把握しているのか?」

  「あん?そんなん当たり前だろ?それが出来ないやつは半人前にもならねぇぜ!」

  「そうか。では、それを計算に当てはめて考えてみれば良いのでは?」

  「ん?」

  『よく解らない』と首を傾げる褐色肌に、出来るだけ丁寧に説明する。

  「つまり、先程の問題であった財布を矢筒に、金を矢に見立てる」

  「おぉ・・なる、ほど?」

  「で、買い物をすると矢が減る。追加で金を貰うと矢が増える」

  こちらの話に耳を傾ける褐色肌は視線を枝先から虚空へと移し、立てた人差し指の先で円を描くようにしてくるくると回した。

  その指が止まると同時に、何か素晴らしい物を発見した時の様にぱっ!と表情を明るくする。

  「おぉー!!解った!アタイ解った!」

  「よし。では先程の問題の答えは?」

  「おうっ!手元にこんだけあって、引いて、引いて、足して、そっからこの分引く。んで、ここと、ここにこんだけあって・・答えは金貨5枚と銀貨3枚!」

  器用に足裏で枝を挟み支え、両手でそれぞれ5と3を表し指を立てる褐色肌。

  にっ!と自信に満ちた笑顔へ、微笑みと共に言葉を返す。

  「惜しい。不正解だ」

  ぴしゃりと言い渡すと褐色肌は「げっ?!」と呻き、顔を歪ませた。

  「だが、計算方法は合っているようだ。もう一度落ち着いて考えれば、正しく導き出せるのではないか?」

  「・・分かった!それじゃあもっかい計算してみるぜ!」

  「あーして、こーして」と小さく呟く褐色肌は再計算に集中している。

  それならばと手を伸ばし、放置された枝を回収して両手持ちで魚が食いつくのを待った。

  結局、褐色肌が正解を導き出しても獲物は掛からず。

  そこから三つ編みが戻るまでに褐色肌は3匹釣り上げ、残念な事に私は1匹も釣れなかった。

  釣りとは難しいものなのだなと思っていたが、後になって『水操魔法で直接魚を捕らえれば良かったのでは?』と思い至り、次に機会があれば大量に捕えてやろうと決める。

  戻った三つ編みは肉を包む為の葉と、他にも色々採集して来たようだ。

  「は~い。大型の包葉、採って来たわよ~」

  「おぅ!ありがとなフラウ!」

  「弾け草の実と、唸り茸もあったわ~。今夜は角猪の石焼にしましょうね~!」

  どうやら良い食材が手に入ったらしい。「やったぜ!」と拳を握る褐色肌の様子につられ、こちらも心が弾む。

  「よっし!じゃ、さっさと休憩場に戻るとすっか!」

  「そうね~。大物だからちょ~っと大変だけど、交代しながら運びましょう~」

  「警戒役は誰からにする?」

  手際よく巨大な葉で肉を包んでいく2人を手伝いつつ話に耳を傾けていたが、この大量の肉を2人で運び、残る1人は周囲の警戒に当たって戻るという内容に待ったをかけた。

  「相談中にすまない。提案があるのだが」

  「おぅ。どした?」

  「何かしら~?」

  「2人で分けて運ぶとはいえ、これだけの量は少々骨が折れる。そこでだ、私の[[rb:魔法鞄 > マジックバック]]で運んではどうだろうか?」

  手を止めずに言葉だけ返した2人にそう伝えると、同時に動きが止まり鏡合わせの如く全く同じ動きでこちらに顔を向ける。

  「魔法鞄、持ってんのか?!」

  「あらあらまぁ~」

  そう、いくら内臓や皮を捨てたといっても、まだかなりの重さがあるのだ。

  川に来るまでは失念していたが、私の魔法鞄の容量はそこそこ大きく、まだ余裕がある。

  ならば、ここから休憩場まで荷物の運搬くらいは手伝おうという腹積もりだ。

  狩りで全く役に立てなかった身であるしな。

  「あぁ。これらを収納する余裕はある。手が空いていれば、戻りつつ採集も出来ると思うのだが、どうだろうか?」

  「いいのか?!それなら帰りながら弾け草の実を沢山集められるし、良いと思うぜ!」

  満面の笑みで喜ぶ褐色肌だったが、すぐさま三つ編みに窘められる。

  「こらこら~。勝手に決めないの~」

  「でもフラウ!何かあった時に全員が直ぐ動けるのはデカいと思うぜ?」

  「それはそうだけど~。使わせてもらえるなら、まずは対価を決めましょう~?貴重な魔道具をタダでっていう訳にはいかないのよ~?」

  頬に手を当て、首を傾げて注意する三つ編みに「え~?!」と不服そうな声を出した褐色肌だったが、すかさず「ダ、メ、よ~?」と圧をかけられ、渋々頷いた。

  「アドさんも~。気軽に魔法鞄の事を明かすのはどうかと思うわ~。わたしたち、パーティーを組んでいる訳ではないのだし~」

  「それは・・そうだな。以後、気を付けよう」

  「一応、わたしたちもこの事は他の人には話さないようにするけど~。そちらでも注意してくれると助かるわ~。それじゃあ、対価はどうしましょうか~?」

  こちらの本音としては不要なのだが・・今の先でこの解答は怒りを買うだろう。

  となれば・・

  「そう、だな・・では、今晩の夕食を提供してもらう。という事で良いか?」

  「そんなのでいいのか?!」

  こちらの返事に気色ばんで喜ぶ褐色肌だが、またしても三つ編みに「こら」と注意を受ける。

  「もうちょっと考えてから話しましょうね~。それと、アドさ~ん?」

  静かな怒りを湛えた圧を伴い、視線を向けて来る三つ編みに努めて平然と答えた。

  「いや、この対価にしたのにはちゃんとした理由があるのだ」

  「そうなの~?」

  「あぁ。狩りの手伝いで同行したのに、教えて貰うばかりで何の役にも立てていないからな。せめて荷運びくらいは負担しようと考えた次第だ」

  「あら~。アドさんが警戒を引き受けてくれたから、安心して狩りが出来たのよ~?貢献というなら十分だと思うけど~」

  「そうだぜ!川まで運ぶのも、解体も手ぇ貸してくれたじゃねーか!」

  「そのように言ってくれるのは有難いが、それでは私の気持ちが収まらないのだ。対価は夕食で頼む」

  そう言い切り2人に向けて軽く頭を下げれば、褐色肌は頭を掻きつつ困ったような目を三つ編みに向け、それを受けた三つ編みは暫し悩んだ後に折れ、溜め息を吐きつつ「仕方ないわね~」と苦笑する。

  「それじゃあ、今回はアドさんの好意に甘えるとするわ~。この子と2人で頑張るから、夕食、楽しみにしててね~?」

  「分かった。感謝する」

  「礼を言うのはこっちだっての!」

  「うふふ!そうよね~?」

  一時、場は賑やかな笑いに満ちたが、のんびり出来る程時に余裕がある訳ではない。

  直ぐに肉を包む作業へと戻り、釣り上げた魚と大量の肉を魔法鞄に収めると足早に川辺を後にした。

  身軽になった3人で川縁を進み、有用な葉や実などを集めながら移動する。

  結構な量を魔法鞄に仕舞い、手ぶらのまま森の縁近くまで来た時、他の冒険者と遭遇した。

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