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【140】脅威への対処。

  向かってくる多数の魔物の存在が突然判明した訳だが、皆慌てる事無く戦闘の用意を整えた。

  離れている2人、褐色肌と[[rb:戦棍 > メイス]]使いの気配はこちらへと移動して来ているものの、まだ少し遠い・・しかも、既に多くの魔物に囲まれつつある。

  「B」が向かわせた半精霊が魔物を減らしてはいるが、これでは直ぐに動けなくなってしまうだろう。

  「まずい!2人が囲まれてしまう!迎えに行った方が良さそうだ!」

  「解ったわ~。先導をお願い~」

  三つ編みの言葉に「了解した!」と返し、2人の居る方へ向かって駆け出した。

  すぐ後ろに三つ編み。続いて黒髪、そして[[rb:殿 > しんがり]]を鬼人の順で走る。

  だが、煩わしい事に少し移動しただけで魔物に遭遇した。

  まず現れたのは「[[rb:汚泥鼠 > スラッジラット]]」

  1匹1匹は大した脅威ではないが、魔物は基本攻撃的で己の魔力を強化すべく本能に導かれるまま魔力の豊富な生き物・・つまり、人種やそれに近い種族に群がって来る。

  「足を止めるな!魔物は「B」に任せて走り抜けろ!」

  後方に聞こえる様に大声で伝え、脚に魔力を集中・・更に速度を上げた。

  泥水の様な体液を撒き散らしながら木々の間を縫い走り、次々と飛び掛かって来る「汚泥鼠」

  だが、視界に入った瞬間。真っ二つに切り裂かれ、地面の落ち葉を黒く斑に染めていく。

  次に出て来たのは「[[rb:槍蛙 > スピアートード]]」

  その名の通り、長い舌を槍のように伸ばして攻撃してくる厄介な蛙だ。

  動きは鈍いが、油断していると素早い舌の攻撃に対応出来ずにやられてしまう。

  他にも鳥系や蛇系、虫系の魔物が現れては「B」の攻撃魔法で地面の染みと化す。

  お陰で止まることなく森の中を走り抜け、2人の元まであと少しの所まで来た。

  「近い!もうすぐだ!」

  声を上げるのとほぼ同時に、耳障りな鳴き声が聞こえて来る。

  視界が開けた瞬間。視認した汚らしい肌色目掛け、水操魔法で氷の鏃を飛ばした。

  2人を囲み、ギャアギャアと騒いでいたのは「[[rb:小鬼 > ゴブリン]]」

  その内1匹の頭が射線上にあった棍棒ごと爆ぜたのを皮切りに、次々とどす黒い血飛沫が上がる。

  「アド!?」

  「皆!来てくれたっスか?!」

  魔物の死体に囲まれるようにして戦っていた褐色肌と戦棍使い。

  汗だくで息こそ荒いものの、一見して怪我がない事に胸を撫で下ろす。

  「待たせた!すまないが話している余裕はない!走れるか?!」

  「おうよ!」

  「平気っス!」

  短い問答の間に周囲の魔物は後ろから追いついた3人の手によって一掃されていたが、森の奥の方から次の魔物の気配が迫っている。

  「よし!「B」が先導と露払いをする!皆止まらず休憩場まで駆け抜けろ!」

  場の全員が口を開く事無く頷き、先行した「B」を追って駆け出した。

  私は小さな半精霊たちに援護されつつ、最後尾を走る。

  遠く広げた魔力感知により、多くの魔物が森を抜け始めた事を察知した。

  あちらには傍使えと冒険者の他、護衛の騎士が居る。

  戦力に不安はないが、早く合流して安心させた方が良いだろう。

  そう思い、移動速度を上げるべく背後から追い縋ろうとする魔物に氷の鏃をばら撒きつつ、脚を動かした。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  休憩場に弛緩した空気が流れている。

  周囲を警戒する者と休む者とで分かれ、途中交代しながら一時の休息を各々好きなようにして過ごしていた。

  そんな休憩もそろそろ終わりになろうかという頃、各護衛集団の代表たちが護衛騎士隊長に呼ばれ集まる。

  「皆、お疲れさん!しっかり休めたかい?呼んだのはこっから先の行程を打ち合わせ―・・する前に。皇国側から嫌~な情報が入ったら共有するよ」

  不穏な事を言う騎士隊長に「栄光への導き手」リーダーである虎獣人の特徴を持つバーグは顔を顰め、同じく「不屈の砦」のリーダで女戦士のミリアーナは「嫌な情報」とやらの伝達の鈍さに対する苦情を飲み込んで頷き、続きを促した。

  その2人の隣に並ぶ面布は体こそ騎士隊長へと向いているものの、首から上を森に向け注視したまま動かない。

  「最近、この近くの森に異変が起きてるらしいんだよね。外縁近くで「普段見ることのない高位の魔物を見た」って目撃情報が多数寄せられてるそうだよ。深部で魔物の縄張り争いがあったのか、はたまた別の要因か・・原因は不明だけれど、主要街道にまで魔物の影響が出て来る可能性が・・」

  騎士隊長がそこまで話したところで、突然バッ!と面布が上空を仰ぎ見た。

  その視線の先でぽぽんっ!と気の抜ける音とともに「D」と書かれた面布を付けた半妖精が現れる。

  全員が注目する中、面布は口を開こうとした騎士隊長へ手の平を向けて言葉を遮り、「D」が耳元で報告する内容に意識を集中した。

  緊急の様子に周囲が無言で見守る中、「分かりました」と落ち着いた声で頷いた面布は指を銜えて甲高い音を吹き鳴らす。

  途端、新しく現れたのは面布と同じ姿をした8体の半精霊と、その数十倍の透けた体の大小さまざまな半精霊たち。

  「「A」「C」「D」は引き続き隊の護衛を!「E」から「J」は中位と低位の子たちを連れて大物の数を減らしてきなさい!」

  鋭い声で指示した面布は、腰につけたポーチから小粒の魔石を掴み出し空中に放った。

  バラ撒かれた魔石は天の光を反射する間もなく我先にと伸ばされた半透明な手に回収され、一粒も残さず消える。

  スっと目を細めた騎士隊長が静かな声で「状況は?」と面布へ問うた。

  「そこそこ面倒な感じです」

  「数は?」

  状況を察した虎獣人の冒険者も、武器の固定具を外しながら訊ねる。

  そこで、遠目にも森の木々が奥の方からざわざわと揺れ始めるのが全員の目で確認出来た。

  異常に気付いた隊の者たちが声を上げ始める中、面布が苦々しい声音で答える。

  「まるで大波ですよ」

  その言葉を合図にしたかのように、森から魔物が溢れ始めた。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  文字通り「B」が切り開いた道を走り、全員無事に森を抜ける。

  天の光に直接照らされ、一瞬白に染められた視界が回復すると、そこに在ったのはこの世の物とは思えない光景。

  見渡す限りを埋め尽くす魔物、魔物、魔物。

  本来ここにあったのは草原の筈だが、蠢く魔物の所為で緑の大地は僅かにしか見えない。

  「こんなに?!どうしろってんだよ・・」

  思わず零れ出た褐色肌の言葉が、立ち尽くす全員の心の内を言い表していた。

  勿論、私以外の。

  「・・大丈夫だ」

  絶対の信頼に裏打ちされた自分の言葉に、振り返った皆の視線が集まる。

  そう。何も問題はない。

  元暗部である私の専属傍仕えは、成人前の見た目からは想像しにくい能力を有している・・

  対魔物という一点において、非常に有用な手段を。

  向ける視線の先・・皆の背後。

  圧倒的絶望そのものである風景に、大きく鮮やかな朱色が走った。

  「あそこにいるのは精霊使い・・「面布のカルセ」だぞ?」

  瞬間、爆音が大気を揺るがして響き、冒険者たちの心身を震わせた。

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