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【142】貴族からの依頼。

  自然体で壁の上に立ち、広げた魔力感知を頼りに只々魔物を穿って行く。

  魔物も元はそこらにいる普通の生き物。

  効率よく仕留めるには、頭を潰すのが一番手っ取り早い。

  頭蓋に包まれた脳を壊す。

  それだけに意識を集中して、魔法を行使した。

  視界に入る魔物の頭に、瞬時に魔力の線を通す。

  後は打ち出すだけで、鏃は線を辿り魔物の頭を壊した。

  魔法を打ち始めて1時間ほど経っただろうか・・

  ふと気付けば、その一連の流れを殆ど意識せず行えるようになっていた。

  頭を捉え、線を通し、鏃を放つ。

  いつの間にか有り余る魔力で無意識に身体機能を強化していたらしく、遠くの小さな魔物まで視認出来る。

  自分を支点に、前方に半円を描く形でかなりの広範囲を魔力感知にて把握。

  感知領域内で捉えた魔物を眼で認識した瞬間、音を置き去りにして鏃が飛ぶ。

  もう少し慣れれば、視認せずとも魔力感知だけで鏃を飛ばせるようになりそうだ。

  鏃の制御に割く意識の割合が減り、思考に余裕が出来てふと気付く。

  この水操魔法による鏃の誘導は、褐色肌が見せた「軌道を変える矢」に酷似していると。

  あの時魔力の線は感知出来なかったが、隠蔽したか・・いや違う。

  恐らく、魔力以外の何かしらを用いて矢を引き寄せたのだろう。

  『次に手合わせする時には要観察だ』

  自然と口元を緩ませ、楽しかった手合わせの次回を思う。

  目の前の惨状とは不釣り合いなそわりと逸る気持ちに蓋をして、鏃を作り放った。

  と、一際大きな魔力の流れを察知。

  咄嗟に鏃の誘導を中断して視線を向けると、こちらと同じく壁の上に立つ者が数名・・

  その中に今回の遺跡調査の主任である「ケイオニクス・ストークス」の姿を見つけ、うっかり吹き出しそうになる。

  あの貴族は何をしているのだ!?

  思わずじっと観察していると、彼らは両端を長い棒に通した布状の物を必死に掲げ、魔物に向け広げている。

  どうやらそれには攻撃魔法の魔術陣が書き込まれていたらしく、注がれた魔力に反応して大きな火球が生み出され、少し離れたところにひょろりと着弾した。

  結果、当然の如く燃える魔物。

  しかし目を見張ったのはここからで、身に広がる熱に驚き暴れる魔物が他の魔物に接触すると瞬く間に炎が燃え移り、瞬時に火力が上がって魔物を黒焦げの姿へと変えていった。

  「やりました!成功です!」

  「魔力の消費量は?」

  「魔石が3つ空になりました!」

  「・・魔術回路の状態は?」

  「変化、ありません!」

  「閣下!威力成果は着弾15!延焼62ですぞ!」

  「引き続き記録しろ。次だ。試作55番用意」

  「了解しました!」

  風に乗って、そんなやりとりが聞こえて来る。

  どうやら安全な場所でじっとしていられなくなったらしく、部下と護衛を引き連れて参戦したようだ。

  そうして魔物を攻撃するついでに、研究中である魔術陣の実験記録を取っている、らしい。

  しかし・・魔物が蠢くこのような現場へ、よくまぁ出て来れたものだ。

  普通なら護衛の者達に止められる筈なのだが・・

  そのように考えたところで、案の定傍に居た見覚えのある護衛騎士が研究員らを安全な場所へ移動させようと説得を試み始める。

  「これで満足されましたでしょう?早く宿泊箱へお戻りください」

  「断る!まだ試していない陣が5つも残っているのだぞ?!」

  「そのように申されましても、ここは危険すぎます。いつ飛翔する魔物がやってくるかわからないのですよ?」

  騎士の言い分は尤もだが、眼鏡貴族の補佐である小太りの貴族はその意見を封殺する材料を用意していたようだ。

  「なんだ、そんな事か!」と言い放って袖を捲り、キラリと光る腕輪を見せつける。

  「ここにいる者らはこの「防御の腕輪」でしっかりと守られておる!魔物どもは我らに触れることなど不可能!その上、貴様ら護衛騎士が居るのだ!なんの問題がある?」

  「仰る通り。私たちは護衛騎士です。護衛対象である皆様にはどんな危険からも遠ざける責務があります」

  「なんだ貴様ら、我らを魔物どもから守り切る自信がないのか?!」

  「守る、守れないではありませぬ。皆様が害される可能性を看過できないと申し上げているのです」

  「ぬぅ・・だが実戦に触れる機会を逃すなど・・」

  あちらの会話を広いつつ攻撃を再開していたが、不穏な流れにちらりと視線を向けると・・こちらを見つめる小太り貴族と視線がかち合った。

  「おい。そこの冒険者!」

  しっかりと目が合い、更に指まで刺されてしまえば無視する訳にもいかず「・・なんだ?」と仕方なしに返事をする。

  「む。態度がなっておらぬな・・まぁ良い。お前、精霊を連れておるな。我らの護衛を直接依頼してやる。何、依頼料は弾んでやる故、有難く思え。」

  そう一方的に告げ、説得していた護衛騎士に「精霊が護衛に加わるならば危険は皆無であろう?」と勝手に依頼が受諾された体で伝えた。

  態度についてはお互い様だと思うが・・まぁ、今こちらは身分を偽っているからな、致し方ない。

  とは言え、唯々諾々と従うのは業腹だ。

  『ここは拒否するか』と考えていたところで、自分の背後・・

  かなり下の方が騒がしいのに気が付いた。

  見れば、「不屈の砦」のメンバーであるボサ髪の魔法使いが、同じくメンバーの赤髪と壁の近くで暴れているではないか。

  何事か?と意識を向けると、何やら不穏な様子で言い争っている。

  「離して」「ダメに決まってるでしょ!」「あそこにまだ見ぬ魔術陣が」「貴族に絡みに行くなんてあなた死ぬ気?!」「魔術の為ならば本望」「いい加減にしなさいっ!」

  どうやらこちらは魔術狂いのボサ髪が、仲間が必死に止めるのも聞かずに魔術院が試作した魔術陣を一目見ようと足掻いているらしい。

  既に護衛騎士たちは彼女らを警戒している。

  放置するには危うい状況に、貴族らが気付く前に対処が必要だと判断。

  ボサ髪たちから意識を逸らす為、咄嗟に「分かった。その依頼受けよう」と頷く。

  「ふん!当然だ!」

  「近い方が守りやすいが、そちらに行っても?」

  「む?それは―「構わない」」

  小太り貴族との会話に割り込む形で、こちらに視線を向ける事無く眼鏡貴族が言い放った。

  「閣下がそうおっしゃるなら」と、小太り貴族が護衛騎士らに顎をしゃくる。

  指示に従った騎士らが道を空けるのに合わせ、こちらを見ていた赤髪に後ろ手で『離れろ』と合図を送った。

  その直前に鳩尾へ一撃を貰い、くたりと動かなくなったボサ髪を小脇に抱えた赤髪は、深々と頭を下げ急ぎ足で離れていく。

  気配でその動きを確認して、内心安堵しつつ眼鏡貴族の近くまで足を進めた。

  「そこで止まれ」

  「分かった」

  護衛騎士に制止され立ち止まると、小太りの貴族が「前金だ」と別の騎士に合図して金を出させる。

  騎士が手の平に乗せて来たのは金貨10枚。

  確かに、冒険者にとってはまぁまぁ大金・・なのだろうが、自分では少々ピンとこない。

  「仕事が済んだらまた同じ分だけくれてやる。しっかり熟せ」

  「・・分かった」

  簡潔に答えて頷き、背後に浮かぶ「B」に『良いように動け』と目配せした。

  数時間共にいた「B」は心得た様子で頷き、少しばかり高度を上げる。

  その後気を許す気配の無い騎士たちに囲まれたまま、『こんな近距離で魔法を使う訳にも行くまい』と魔法も使わず、口も開かずに眼下の魔物どもを眺め続けた。

  その間、研究員たちは上司である2人の貴族の指示の元、次々と丸められた布を開いては攻撃魔術を放って行く。

  やがて試作の魔術陣も尽き、取れるだけの記録を取った研究員らに満足気な空気が満ちた。

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