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案内人の卑屈な態度で語られる説明が、時折頭上の岩から滴り落ちる水音と共に洞窟内で反響する。
「今は姿が見えませんが、[[rb:人魚 > マーメイド]]どもが言うには年若い水竜がこの地底湖に住み着いていると。無論、討伐するだけならば問題ありませんが、遺跡を壊さずにとなると私ども皇国の力だけでは難しく・・お越しいただいた王国の皆さまには是非知恵とお力をお貸し頂ければと思う次第であります。はい」
後退した生え際をしきりにハンカチで拭きながら、こちらの責任者である眼鏡貴族をちらちらと気にする案内人。
一方で、眼鏡貴族は凪いだ表情のまま静かに湖面を見つめていた。
暫く待っても反応がない事に不安を覚えたらしい案内人が、こちらの面々に視線をウロウロさせ始めた頃、漸く眼鏡貴族が小太り貴族へと視線を動かす。
敬愛する上司の意図をすぐさま察した小太り貴族が近くに寄ると、眼鏡貴族はその耳元に何やら小声で伝えた。
「仰せの通りに」と頷いた小太り貴族は案内人に向き直ると、「水竜が現れたら直ぐに討伐に入るぞ!」と言い放つ。
「その為に先ず、人魚のまとめ役と話をしたい!」
「は、はい!ありがとうございます!まとめ役は入り口の方ですので、今すぐ戻り場所をご用意致します!」
「構わん!このまま戻り話す!」
「か、畏まりました!」
「で、では馬車へ!」と案内人が慌てて先導する中、不意に〈殿下〉と思念が届いた。
〈我らが離れた隙に人魚から情報を。今から我が確認する話と相違が無いか確かめたい〉
〈分かった。護衛の精霊は必要か?〉
〈頼む〉
〈分かった〉
短く、視線を交わさずに眼鏡貴族とやり取りを終え、皆と一緒に歩きながら傍仕えに小声で伝える。
「私たちは残るぞ。あちらに半精霊の護衛を不可視で頼む」
「畏まりました」
現れた半精霊は一瞬だけその姿を晒し、すぐさま消えた。姿を消した状態で貴族らの護衛に付いたのだろう。
歩みを緩めた私たちを振り返った案内人が「お早く!」と声を掛けて来るが、そこへ小太り貴族が「彼らは残る。独自に地底湖を調査させたい」と許可を求めた。
「は、はぁ。それは構いませんが、こちらからの護衛を受け入れて頂けるのでしたら・・」
「支障ない」
「か、畏まりました。では兵を1人お付けします」
小太り貴族に頭を下げた案内人が傍に居た兵に「おい!」と声を掛け、護衛を手配させる。
まぁ、護衛とは建前で、本質は監視の為だろうが。
完全に足を止めた私たち2人に対し、虎耳の冒険者は興味深げに目を細めたが、雇い主である貴族の意向に逆らうことなく馬車へと足を向けた。
盾役も『仕方ないね』と言いたげに肩をすくめ、一言「後で情報共有頼んだよ」と言い残し馬車へと姿を消す。
馭者が手綱を握ると馬車はすぐさま走り出し、あっという間に小さくなった。
馬車を見送り、さて。と動き出そうとしたところで、見計らっていたのかここの責任者らしき兵と、もう1人の兵が歩み寄る。
「王国の冒険者の方とお見受けする。私はここの監視責任者である「ガロム」と申す。遺跡調査の責任者であるレヒト殿より護衛をつけるようにとの指示を受けた。「不要」などと言わずに、素直に受け入れられよ」
丁寧だが、有無を言わせぬ圧をもって伝えてきた監視責任者。
魔力結晶の青光が、重そうな鎧の表面で鈍く光る。
随分と分りやすく牽制されたものだ。
だがまぁ、問題はない。こちらには精霊使いである傍仕えが居るからな。
監視の目や耳も、簡単に誤魔化せる。
「勿論だ。よろしく頼む」
「賢明な判断だ。ではこの「リーク」をつける」
そう言って隣に居た若い兵に目配せすると、若い兵はやや緊張した面持ちで一歩前に進み出た。
「「リーク」です!お2人の護衛を任されました!よろしくお願いいたします!」
勢い良く頭を下げる若兵にそれぞれ「あぁ。よろしく」「よろしくお願いいたします」と軽く言葉を返す。
「色々と調査されるのは結構だが、最低限。この者の指示には従って頂く。よろしいな?」
「分かった。貴殿の配慮に感謝する」
僅かに顎を引いて礼を伝えると、監視責任者は不服そうに鼻息を漏らし、踵を返して行った。
尊大な態度だが他国の、しかも冒険者に対するものとしては優しい部類だろう。
『よし。では早速、先程の人魚に声を掛け・・』と、背の高さ故目立つ筈の人魚を探して視線を巡らせる。
どこへ行ったのだろう・・怪我を負わされていたし、治療して休むなら簡易宿泊所だろうか?
ちら、と通路の方へ目を向けたところで、監視責任者の背中へ敬礼していた若兵がこちらへと向き直り声を掛ける。
「ではお2人とも!まずはどこからご覧になられますか?!」
ハキハキとそう元気よく告げた若兵はニッコリと笑い、「どこでもお供します!」と言って革製の簡易鎧で包まれた胸元をドン!と叩いて見せるのだった。
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