野望編 第四十七話 ダインが仕掛ける戦い

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  ラフェメは結局ティアスの利益を考えて我慢する事にした、一時期絶望的だった次期国王選定戦はダイン一党の登場によりティアス側に傾いているのは確かであり、国王の座さえ手に入れてしまえばダインなど領地を与えて地方に隠遁させればいい事なのだ、そしてラフェメにはティアスを説得させるだけの自信も有った。

  結果、ラフェメは渋々認める形でダインの入室を許す事にする、ここで渋る事は後で生きて来る布石となる筈だ、ティアスがラフェメの意思を蔑ろにしないという自信をラフェメは抱いていたが、既にティアスはラフェメの理解するティアスから大きく変わってしまっていたのだ。

  ティアス 「お呼びしておいて、申し訳ありません、ラフェメも私の立場を考えての言葉なので大目に見て下さい」

  ダイン 「別に怒ってはいませんよ、むしろティアス様は良い臣下をお持ちになっていると感心していました、それに綺麗な方から怒られるとゾクっと来るモノが有りますね」

  そのダインの言葉にラフェメは顔をしかめるが、そこはすかさずティアスが諭した。

  ティアス 「ダイン様は冗談を言って、ラフェメが悩まない様に気を使ってくれているんですよ、それを間に受けちゃ駄目じゃ無いですか」

  ティアスの言葉をラフェメは信じられない顔をして聞いている、そしてあれだけ悪態を付いた自分を気遣う大きさにティアスの判断の正しさと自らの未熟さを痛感していた。

  プルル 「気を落とさないで下さい、この国の基準で測れる人じゃ有りませんから、でも、プルルみたいに一晩抱かれてみると解るかも知れません」

  そう言って微笑むプルルの顔は、見慣れたラフェメでも初めて見る顔だった、ラフェメより五つは若いプルルには一晩の経験では得られない様な妖艶さが感じられ、その変化にラフェメだけが取り残された感じがしてしまう、そう、ティアスの様子から見てダインに気を許している事は間違いない様なのだ。

  ティアス 「ラフェメは男嫌いですから無理ですよ、ですがダインさんで慣れてみるのも良いかも知れませんね、ラルクルクの家も異存は無いでしょうし」

  ティアスの提案はククジアの貴族娘なら多くが夢見る程の好条件だ、だが、ラフェメは生理的にダインとの行為など考えられずに不快な表情をしている。

  プルル 「駄目ですよ、王都に居る間はプルルがダイン様をお世話するんですから、褒美は得る者が少ない程、価値が出るって言ったじゃ無いですか」

  ティアス 「まぁラフェメも気が変わったのなら言って下さい、それに見合うだけ功績は頂いていますので、では入り口は頼みますね、中で話す事はどんな事でもクガト派の人間には喉から手の出る様な状況でしょうから」

  ティアスはダインとプルルを迎え入れて扉を閉ざしてしまう、プルルまで中に通されたのは意外ではあったが、今やダインと関係を持ったプルルは王都でもっとも時の人で下手をすれば命を狙われる可能性すら有るかも知れないのだ。

  ラフェメ思考 『それにしてもプルルの変わり様は驚きでしたね、まるで屋敷の寵姫の様な振る舞いでした』

  ラフェメは有力貴族ラルクルクの当主の娘で、当主であるラフェメの父には正室であるラフェメの母親より愛する寵姫が存在していた、貴族出身では無く父に取り入る事で今の地位を得たその寵姫の見せる女の表情と今のプルルの顔は何処か重なって見えて、ラフェメは言いようの無い不快を感じるのであった。

  一方、中に通されたダインは大きなテーブルに席を与えられて、一面に広げられた資料を眺めていた。

  ティアス 「これが今日の協定戦の大まかな資料です、持ち込まれたウウル・ジーは五機で協定戦は三戦の予定です」

  ダイン 「一対一が二戦と三対三ですか、こちらの騎士は私以外はどうするんです」

  ティアス 「ティアスが出てもいいんですけど、無理ですから一人はリレッタにお願いしてます、クガトのゾッフォの売込みですから当然出るべきですし、ダイン様のお供となれば絶対断れませんよ、でも、後一人は決まっていません、まぁ二人がいればいなくても大丈夫でしょうけど、一対一の二戦で勝負が決まりますよね」

  ダイン 「なら表のラフェメにお願いしてはどうですか、一戦目に私がお手本を見せますので二戦目を任せてみては、ちゃんとした騎士の力で相手しないと不公平ですから、それに普通の騎士に試して貰いたい事も有りますし」

  ティアス 「ダイン様は桁外れに障壁強いから大丈夫だと思いますけど、ラフェメは普通ですよ、まぁ優秀な騎士では有りますけど、ゾッフォよりもジーカが得意なんですよ」

  ダイン 「まぁ負けても三戦目で何とかしますよ、ゾッフォでもちゃんと戦えるところを見せるべきですから」

  ティアス 「でもそれってほぼ不可能ですよね」

  ダイン 「ここの人間は立ち合いが正直過ぎるんですよ、取り敢えず前に出て行きますから、前提がそうなると確かにジーカやウウル・ジーが有利になるんですが、初めに全力で横に躱せば普通の騎士でも良い勝負が出来る筈なんですよ」

  プルル 「けど、そういう戦い方って騎士は嫌がるんじゃ無いですか」

  ティアス 「そうですね、ラフェメの様な高潔なタイプには難しいと思います」

  ダイン 「そこは上手く言いくるめて下さい、ラフェメを試すんですよ」

  プルル 「ダイン様って、そういうところ有りますね、でもプルルもラフェメさんの忠誠心って気になります」

  ティアス 「解りましたよ、ラフェメにはちゃんと命じておきます、ティアスの命令なら断れませんし」

  ダイン 「お願いします試合は午後三時からですね、それまでに私は扱うゾッフォを慣らしておきたいんですが」

  ティアス 「そうですね、ジノ・ゾッフォを使って貰いますけど、ダイン様はジノは初めてですよね、まぁポナリア使えるダイン様には問題無いと思いますけど、ジノはゾッフォよりも軽くなってます、魔鋼の質が上がって魔動力も強化されているんですよ」

  ダイン 「なら、ウウル・ジーとの性能差は縮んでますね」

  ティアス 「そうなんですけど、ジーカとウウルは特別ですから普通に戦うと勝てませんね」

  ダイン 「あの二体のフレームは正面から戦いを想定して作られてますから、反面側面からの攻撃には弱くて、側面からの攻撃だとひしゃげる筈です、まぁ私の戦いをご覧になって下さい」

  ティアス 「解りました、ラフェメが騎士の誇りとティアスへの忠誠心のどちらを選ぶのか楽しみです」

  プルル 「ダイン様と関わると皆んな性格が悪くなりますよね」

  ダイン 「人を試すのは重要な事ですよ、特に味方となる人物には、それとラフェメにはこの後ジーカで私と対戦して貰います、身を持って覚えた方が呑み込みも早いと思います」

  ティアス 「ああ、それラフェメは喜ぶでしょうね障壁が有るとはいえ、ダイン様を好きに攻撃出来ますから」

  そのティアスの言葉にダインは不愉快そうな表情を浮かべて応える。

  ダイン 「ティアスはマギガントの個体差をちゃんと把握すべきですね、まぁ今日私がちゃんと証明して見せてあげますよ」

  ティアス 「偉く自信あり気ですね、ダイン様の実力は十分に理解してますけど、ゾッフォでジーカに対して攻勢には出れませんよ」

  ダイン 「それはここの騎士が前のめりなだけですよ、戦いとは本来駆け引きを楽しむものですよ」

  ティアス 「正直よくわかりませんね、ラフェメとの戦いでダイン様の言う駆け引きを見せて頂けるんですよね」

  ダイン 「私はそのつもりです、ですからラフェメをちゃんと引き摺り出して下さいね、私は先に下に降りて扱うゾッフォの慣らしを行います」

  ティアス 「ダイン様の自信が楽しみですね、ツィーカを読んで下さい、ツィーカに今回の協定戦の準備は任せてますから、ツィーカが来るまでは朝食を楽しんで下さい」

  ツィーカが何者で何処からやって来るのかは解らないが、ダインと取る朝食はティアスの中で折り込み済みだった様だ、ティアスが呼び鈴を鳴らして呼んだメイドに幾つか指示を与えると、直ぐに別室からワゴンが運びこまれて、散らばった書類は全て片付けられて豪華な朝食が準備される。

  プルル 「あの、三人分用意されてますけど、もしかしてプルルも食べていいんですか?」

  ティアス 「今のプルルはティアスの従者ではなく、ダイン様の家臣という立場ですからもう身分を気にする必要は有りませんよ、立場的には下級貴族よりも上ですからね」

  プルル 「いつの間にそんな立場に」

  ティアス 「これでも不十分なぐらいですよ、何せプルルはティアスの姉に当たる立場ですから、姉に惨めな思いをさせるのはティアスも心苦しいんですよ」

  メイドが退散した事でティアスは遊魔の本音を口に出来ている。

  ダイン 「私も眷属は平等に愛していますから、ティアスの計らいは大変嬉しく思います」

  ティアス 「ダイン様にお褒め頂いてティアスもとても満足です」

  プルル 「もしかして本当の目的って、ダイン様に褒めて貰う事だったんですか?」

  ティアス 「どちらもです、プルルをもう従者として見てない事も本当なんですけど、妹が姉になる感覚は今でも違和感が有りますね」

  プルル 「それはプルルも同じです、よりティアスを親しく感じてますけど、人間の時の感覚で何処か躊躇ってしまうんです」

  ダイン 「まぁ、今まで培った人間関係はなかなか変えられるませんよ、ですが、二人は等しく私の愛すべき作品なんですよ」

  ティアス 「その人間とは異なる愛情が逆に安心出来ます、ダイン様の作品に対する愛情は確かに人間同士の愛とは違いますが、人の愛と違って絶対に終わりが無い事が理解出来ていますから」

  プルル 「はい、注がれる愛はそれだけで十分です、埋められないところは眷属同士の絆で補えばいいだけですし」

  ダイン 「二人共ちゃんと遊魔を理解してくれて有り難く思いますます、まぁ私の意思を理解すれば結論は同じモノに行き着く訳ですが」

  こうして、遊魔三人が仲良く朝食を進めて行く、以前ならティアスの世話を焼いていたプルルに対して、逆にティアスが世話をするなど二人に関係性にも大きな変化が現れている様だ、その眷属が仲良く戯れる様子はダインをより上機嫌にさせ楽しいひと時は、呼び寄せたツィーカが到着する迄続いた。

  ドアがノックされて上級工員ツィーカが来訪を告げると、ティアスは自ら扉を開けて中に招き入れる、その行動は本来ならプルルが扉を開けて招く筈なのだがプルルはダインと触れ合っている。

  その様子を外から覗き見たラフェメはプルルの態度に激怒した様で、中に踏み込もうとしている。

  だが、ティアスは素早い動きでラフェメの腕を掴み押さえ込むと冷たく言い放つ。

  ティアス 「既にプルルはダインさんの臣下です、主人に無礼で無ければ裁かれる理由なんて有りません」

  ラフェメ 「ですが、ティアス様に対して余りにも無礼です、本来ならプルルが扉を開くべきです、この様な事は部屋の主人たるティアス様のなさる事では有りません」

  ティアス 「相変わらずお堅いですね、プルルはプルルで外せない御用なんですよ、だからティアスが招いただけです、それにツィーカが腰を抜かしてますよ」

  ティアスの言葉通りにツィーカは床に腰を落として狼狽している、そして、唯ならぬ雰囲気に人が集まり始めている。

  ティアスはラフェメと待機していたもう一人の女騎士に表を任せると、当事者全てを室内に連れ込んでしまう、ティアスとしてもこれ以上騒ぎを大きくしたくないのだ。

  ティアスは自分の隣にラフェメを座らせるとその対面にプルル、ダイン、ツィーカの三人が席に着く、ラフェメはまだプルルへの怒りが収まらない様で睨み付けているが、当のプルルは涼しい顔でダインを気遣っている、そしてその仕草がラフェメの怒りを掻き立て行く。

  ティアス 「困りましたね、プルルはもうダインさんの家臣でティアスのメイドじゃ無いんですよ」

  ラフェメ 「立場が変わったのは理解出来ますが、ティアス様への不敬は見過ごせません」

  ティアス 「ティアスは別に気にしてませんけど」

  ダイン 「なら、臣下の罪は私の責任ですね、ちょうど私もゾッフォの慣らしを考えていましたので、謝罪を賭けて協定戦を行いましょう、それなら異論は有りませんよね」

  ラフェメは主人に責任を取らせるプルルの行いに益々腹を立てていたが、同様にダインも何処か好きにはなれていない、ならここは協定戦での決着も悪くない、ダインはゾッフォを使うと公言したのだから、自分が慣れたジーカを使えば明らかに有利に戦えるのだ。

  ラフェメ 「解りました、私は自分のジーカしか自由に使えるマギガントが有りませんので、それで良ければお受けします」

  ダイン 「異論は有りませんよ、ウウル・ジーと同質のジーカとの対戦は私も望んでましたから」

  ティアス 「なら決まりですね、ツィーカは準備を進めて下さい」

  ツィーカ 「話は解りましたけど、王宮騎士団から借り受けたジノ・ゾッフォは五機なんですよ、エディケスと戦う前に壊されるのは勘弁して欲しいです」

  ティアス 「まぁ壊れれば別機体を借りればいいだけです、それに直す工員達もこの勝負に興味が有りますよね」

  ツィーカ 「それはもちろんです、出向しているジノ・ゾッフォの担当工員はダイン様の戦いを心待ちにしてましたから」

  ティアス 「なら壊しても文句は無いでしょう、むしろティアスは何処までダインさんがジノ・ゾッフォで戦えるか興味が有ります」

  正直ティアスでさえもダインが楽に勝てるとは思っていなかった、マギガントが展開出来る障壁の強度は魔鋼の品質に大きく左右されるので、いくらダインが強大な魔力を持っていたとしても、ジノ・ゾッフォではダインの魔力が活かされる事無い筈なのだ。

  エディケスとの協定戦にも口ではダインを褒め称えていたが、流石に性能の劣るジノ・ゾッフォでは難しいとも判断していた、あくまでダインを持ち上げていたのは遊魔としての本能の様なモノで、人間ティアスの考えていた策謀はダインの敗北を見せる事でその真価を隠す意図が有ったのだ。

  だが、直ぐにティアスは自分の考えの間違いを思い知る事になる、既にダインの持つマギガントへの理解度は数年乗りこなして得たティアスの理解どよりも、遥かに高いレベルに有ったのだ。

  おまけ

  魔鋼と障壁 マギガントが展開する障壁の強度は操縦する騎士の魔力とマギガントの持つ魔鋼量とその練度に関係する。

  ゾッフォ系は魔鋼量こそ多いものの五十練魔鋼がフレームに使われている為に展開出来る障壁の強度は低い、ジーカはゾッフォよりも練度が高い魔鋼を使用しているがフレームに使われている魔鋼量が少ない為に高い強度の障壁の展開は不可能だ。

  それに比べるとフーティアとポナリア・ジーカは高い練度の魔鋼を十分な量の確保出来ている為に強力な障壁の展開が可能である。

  だが、この事自体最近判明した事実で有り、リエルのフーティアの運用実績によって知られる事となった。