野望編 第五十二話 剣舞ロベリエ

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  危惧は有ったものの予想外の一戦目の敗北を喫したエディケス側の控え室では、次戦の為のミーティングが行われていた、嫌疑よって時間は稼げたが実際戦ったエルルリーカはこの場に居らず、外部から見た意見だけであったが、多方面の見解を集める事には意味が有った。

  上級工員ラグテ 「確かに紛れも無くゾッフォのフレームでした、ですがあの変わった障壁の展開を考えると公表されている六十練の魔鋼よりも上質の物が使われている様ですね」

  男性上級騎士ソルベルク 「まぁそれに関しては我々も強くは言え無いですね、上質な機体を選りすぐった訳ですから、ですが王宮騎士団の機体なのですよね?」

  情報分析官ゾアガン 「それは間違い有りません、内部の情報提供者の供述が有りますから、そして同じ者の話しではあのゾッフォは今日異世界人が慣らしを行ったという話が有ります」

  ラグテ 「慣らしを一日でですか信じ難い話ですね、でもあの奇妙な動きの説明としては筋が通ってます」

  女騎士ロベリエ 「まぁ解ったところで変わらないですが、それに油断しなければ大丈夫だとも思います、エルルリーカ様は初手の対応を失敗しましたから」

  ソルベルク 「勝って下さいよロベリエ、負けると本国で肩身が狭くなります、私はもう手遅れでしょうけど」

  ラグテ 「詳細を纏めた上申書は必ず提出します、エルルリーカ様にも落度は有りませんし、全ては想定外のゾッフォが存在した事が原因です」

  ソルベルク 「そうですね、願わくば私だけで済ませたいものです、エルルリーカは良い騎士ですから」

  ロベリエ 「責任重大ですね、ですが次の試合は異世界人のダインが出て来ますよね、私としては不満は有りませんが、一筋縄では行きませんよね」

  ゾアガン 「それは間違い無いかと」

  ラグテ 「なら状況はなお悪いね、ゾッフォの魔鋼が高ければそれだけ障壁が強くなる、噂では異世界人ダインの魔力は十二万なんだろ」

  ゾアガン 「事実ですね、ロベリエは昨日の試合をご覧になったのですよね」

  ロベリエ 「はい、実はあの後あのダインと戦えると聞いて楽しみにしてたんです、障壁が弱いゾッフォで楽勝かと思ったんですけど、楽しい試合になりそうです」

  ソルベルク 「なら大丈夫ですね、剣舞ロベリエが楽しんで勝てない相手など想像出来ません」

  ゾアガン 「確かに、ロベリエ殿が楽しんで舞って頂ければ負ける道理は有りませんね」

  ラグテ 「だが油断は禁物だよ、ダインは騎士の常識など通用しないからね」

  エディケスの一同の士気が上昇したところで控室に伝言が伝えられる、試合の準備が整ったので次戦の騎士の搭乗を願いたいという要請だ。

  ロベリエ 「なら行って参ります、エルルリーカの仇も取らないと行けませんから」

  そう言って控室を後にしたロベリエの背中を皆が心強く思った、剣舞ロベリエに刻まれた背中の戦技紋が光り輝いて、ロベリエの意気込みを全員が垣間見たお陰だ。

  入場門の奥の広間には、エルルリーカのウウル・ジーが下げられて、エディケスの工員達が作業をしていた。

  ラフェメの想定外の手甲による攻撃はウウル・ジーの鎧を変形させて、未だエルルリーカは降りる事が出来なかったのだ。

  そこでロベリエは愛機に乗り込んで起動させると、通信盤に消沈したエルルリーカの顔が映る。

  エルルリーカ 「申し訳ありません、大事な初戦を落としてしまうなんて」

  ロベリエ 「仕方有りませんよ、あれはゾッフォで有って、私達の知るゾッフォでは有りませんでしたし」

  エルルリーカ 「慰めの言葉ありがとうございます、お役に立つかどうか解りませんが気付いた事を申しますが、あのエポポ・ゾッフォは前後左右の動きは凄いんですが、上下には殆ど動きません、私の最後の突きが当たったのはその為なのですが、今思うとあの攻撃は打たされた物に思えます」

  ロベリエ 「確かに、機体がゾッフォに近寄らなければ最後の手甲は難しい攻撃でしたね、で、エポポ・ゾッフォって何ですか」

  エルルリーカ 「鈍重なゾッフォなのに速いって事で例えてみたんです、亀なのに速いエポポがピッタリかと、あと、事前の突きも寄せる為の攻撃だと思います」

  ロベリエ 「確かにエポポでしたね、今までのゾッフォだと思っていると痛いめに遭いそうです」

  エルルリーカ 「私の失敗を生かしてくれるとありがたいです、それと気付いた事は足が殆ど地面から離れないという事です、その点も含めて本当にエポポなんですよ」

  ロベリエ 「それと噛みつきの様な鋭い一撃もありましたよね」

  エルルリーカ 「はい、全身の動きを連動させて放つ様です、ロベリエも気を付けて下さい」

  ロベリエ 「私は自分の戦いをするだけですから、でも敵が楽しいと私も楽しめると思います」

  エルルリーカ 「私が一戦目落とした状況で楽しめるんですか、私には無理ですね」

  ロベリエ 「正直言うと勝敗よりも勝負の質なんです、昨日のダインの戦い方は私を満足させてくれる人だと感じれましたね」

  エルルリーカ 「ならロベリエは思う存分勝負を楽しんで下さい、そしてその先の勝利を期待しています」

  ロベリエ 「はい、勝って三戦目も楽しみですから、負けられませんね」

  そう言ったロベリエの表情にエルルリーカは嘘を感じなかった、それは心強いモノでは有ったが同時に自分との違いを意識して惨めに感じてしまう、だが、エルルリーカにはもう見守る事しか出来ないのだ。

  一通りの状況を確認するとロベリエは闘技場への門を潜る、通信盤には対戦相手のダインも映されていたが、主審の紹介無くして言葉を交わす事は禁じられているので、ロベリエにはもどかしい一時でも有った。

  そうして、ロベリエのウウル・ジーとダインのジノ・ゾッフォは対峙するのだが、ダインが手に持つ武器がゾッフォとして余りに普通の武器なのでロベリエは面喰らってしまう。

  ロベリエ思考 『あれは普通に大槌だよね、ザラン木の槌を鋼鉄で補強した物に見えるけど、ゾッフォとしては普通だよ、あっ、でも槌の柄と腕が綱で繋がってるよ、あれは軟魔鋼の綱かな』

  ロベリエはジノ・ゾッフォを観察して見た目から推測してみる、肉眼より多くの情報を得られるマギガントの操縦席ではあるが、見た目ではそれ程特別には思えない、まぁ見た目で得られる情報は大概あてにならないモノだという事をロベリエは経験から悟っている。

  主審 「そろそろ良い頃合いだと思いますので双方前に出て下さい、何か気になる事が有れば事前に申し出て下さい」

  先程の嫌疑を受けて主審も言葉を足した様だ、勝負の前にわだかまりを解消した方が存分に戦えるとの配慮だ。

  ロベリエ 「そうですね、大槌と腕を繋ぐ綱は武器と思っていいのですね」

  主審 「ダイン殿返答をお願いします」

  ダイン 「全て武器だと思って下さい、それはゾッフォの機体も同じですね」

  ロベリエ 「昨日の試合は拝見しました、確かに変わった技を用いて勝ってましたよね」

  ダイン 「はい、例えば武器を失ってもゾッフォの拳が武器だと思って下さい、当然、綱も使える時には使いますよ」

  ロベリエ 「良いですね、型など関係無く楽しそうです、私はこの双剣しか使いませんよ、殴れる程ウウルの腕は丈夫じゃ有りませんし」

  ダイン 「丈夫さと軽さを両立させるのは難しいですからね、最もこの世界は魔鋼で何とか出来ますけど」

  ロベリエ 「そう言う事が言えるって、やっぱりダインさんは異世界人なんですね」

  ダイン 「はい、噂通りですよ」

  主審 「戦いから外れる話は止めてください、双方準備はよろしいですね」

  ダインとロベリエの会話が別方向に向かっていたので、流石に主審が静止する、だが、対戦中の相手とのお喋りは自由なので、一時の静止に過ぎないだろう。

  ラフェメとエルルリーカはお互いに真面目な性格で有った為に会話らしい会話など無かったが、ダインとロベリエは基本お喋りなのだ。

  双方が武器を構えて戦う姿勢を見せたところで主審は準備が整ったと理解して、合図を送る、そして一呼吸ついた後に銅鑼が鳴らされて試合が始まる。

  ロベリエ 「ダインさんのゾッフォも速いんですよね、私も油断しませんよ」

  ロベリエはエルルリーカと違って、ダインの動きを見るべくその場に留まる、ダインも相手の出方を伺う性格なので、二戦目の最初はマギガントの試合らしく無い動きの少ない形で開始される、むしろ通常の試合を想定している主審のゾッフォが大きく後ろに下がって、対戦者達よりも妙に目立ってしまっている。

  しばらく対峙した両者であったが、先ずダインが右回りに回転し始めてロベリエも習って右に回転し始める。

  利き手が右手なダインは左側面を前にする事で、攻撃のモーションを隠す意図があるのだが、ロベリエは明らかにダインの攻撃の隙を狙う作戦だ。

  ダイン 「仕掛けてくれないのなら私から行きますよ、私的には女性から迫られる方が好きなんですけどね」

  ロベリエ 「はい、私も殿方から迫られるのは嫌いじゃ無いですけど、私が認めた殿方はまだいないんですよ」

  ダイン 「それは私好みという事ですね、ロベリエさんなら大歓迎ですよ」

  ロベリエ 「噂は本当だったんですね、でも、女性を囲うという話ですけど」

  ダイン 「女性が私から離れられなくなるんですよ、私も離す気は有りませんけど」

  ロベリエ 「相手の女性がそれで良いなら、私も何も言いませんけど私は男性を独占したいです」

  ダイン 「過去そう言った娘もいましたけど、私の家族は心地良いですから、考えを改めてくれてますね」

  ロベリエ 「そういうモノですかね、どの道ダインさんは私に勝たないと私は手に入りませんよ、それには攻撃して貰わないと」

  ロベリエはカウンターの体勢を崩すつもりは無い様だ、そうなるとダインから動くしか無い。

  ダインは大きく踏み込むと横に薙ぎ払う形で大槌を振るう、ロベリエはバックステップでその攻撃を躱すと大槌を振り切った後の隙を狙うのだが、ダインは大槌の勢いを殺す事無く投げ捨てて攻撃の隙を最小限に留める。

  ロベリエ 「なるほど、確かに隙は殆ど無いですね、でも丸腰ですよ」

  ロベリエのウウル・ジーは一気に距離を詰めると双剣による攻撃を開始する、重魔鋼で作られた小剣はウウルの攻撃に重さを与えて、受け流したダインの手甲を大きく変形させ、直ぐ次を打ち込んで来る。

  ダイン 「速さに重さを加えた良い攻撃です、これを手甲で何度凌げる事か」

  ダインは手甲での受け流しに限界を感じて大きく後ろに飛び退く、その動きは従来のゾッフォには不可能な動きで、ロベリエの猛攻は途切れてしまう。

  ロベリエ 「やはり、エポポゾッフォですね」

  ダイン 「いや、ジノ・ゾッフォですよ、確かに私流の調整はしてますが」

  ロベリエ 「その動きが速い亀のエポポに似ているので、エルルリーカがエポポと言ってたんですよ、私もピッタリだと思います」

  ダイン 「速い亀ですか、この世界でも亀の動きは緩やかな物なのですね」

  ロベリエ 「普通はそうでゾッフォも亀って言われてますよ、でもエポポは全く違うんですよ」

  ダイン 「褒め言葉何でしょうか?」

  ロベリエ 「私はそう思いますけど、エポポって速いので捕まえるのが大変で美味しいんですよ」

  ダイン 「倒すと見返りが多いという事ですか、それは私も同じですね、ティアス様からご褒美が貰えるんですよ」

  ロベリエ 「私と楽しんでる時に、他の女の名前を出すのは怒りますよ」

  ロベリエは感情を機体に乗せて距離を詰めると双剣による打撃をダインに見舞って行く、そしてその攻撃をいなすダインの左手甲は原型を留めない程にボロボロになっている、そう、ダインは攻撃の防御に左しか使っていないのだ。

  ダインのゾッフォの右腕が大きく後ろに振られた瞬間、直感的に危険を感じたロベリエのウウルがあろう事かダインのゾッフォに抱き付いた、そして直後、ロベリエのウウルの居た位置の後ろから綱に引かれた大槌が襲い掛かり、ロベリエは奇策でその攻撃を見事に躱してみせる。

  その一連のやり取りに会場から大歓声が起こる、最初は退屈だと思われていたダインとロベリエの戦いは技量と奇策が混じり合う高度な戦いだと、観客も理解し始めていたのだ。

  おまけ

  マギガント決闘機 整備後の一戦のみに高性能を発揮出来る機体の事、ジーカ、ウウル・ジーがこの種別に分類される。

  限定的な高性能を発揮出来る理由として魔動力をゼンマイ動力で補助している為で、大体一戦ぐらい戦うとゼンマイが切れてしまうからだ。

  だが、決闘機の運動性は上級機すら上回っており、一戦だけなら互角以上の戦いが可能で有る。

  複雑な機構を有する機体ではあるが、上級の魔鋼を必要としない為に通常の工員でも製造可能で上級機よりも製造難易度は低い。

  高い技術力を持つエディケスはそのマギガント製造能力の全てをウウル・ジーに費やしており、ウウル・ジーは最も出回っている決闘機でもある。

  エディケスは金さえ払えれば誰にでもウウル・ジーを供給しており、何かと意見の対立が多いククジアの貴族でさえウウル・ジーを保有している家がある。

  そして、エディケスの販売戦略を支える為に人類圏最大のマギガント騎士の育成機関を持っており、人類圏の各所から留学生が集まっている。

  また、ウウル・ジーを扱える傭兵も養っており、ウウル・ジー購入国への仕官の斡旋なども行なっている。