004-012
スカイベアーを闘技場に着陸させた遊魔達は急遽決定されたツェーリア王都ゼアム攻略の為三機のエポポ・ゾッフォの積み込みを始める。
腹を地につけた熊の様な姿のスカイベアーの胴体は格納スペースとなっており、エポポ・ゾッフォは頑丈な上部フレームを利用したクレーンに吊るす形で運搬される、前から一機、後ろから二機のエポポ・ゾッフォを搭載したスカイベアーは、森に行ったニアが連絡用の花火で戻って来る前に全ての作業を終わらせていよいよ出撃の準備が整っていた。
フェカト 「ツェリもそろそろ合流出来るそうです、同志には既に伝えたそうなのでもう後には引けませんね」
ダイン 「望むところです、私は時間を空けると負の側面に囚われてしまいますから、ユーマの戦力を投入すればツェーリアごときに遅れは取らない筈です」
真夏 「たかが五戦の協定戦ですからね、聞くところによるとゼアム守備戦力にはまだゾゥティすら加わっているそうですよ」
ダイン 「進歩を放棄した国とは聞いていましたが、物持ちいいですね」
フェカト 「いや、加わっているだけでちゃんと整備されてるのかも怪しいですよ、ですが決闘騎士を雇ったとの話も有るんですよ」
ダイン 「決闘騎士ですか、名前からどういった者かは解りますけど、マギガントは持ち込み何ですか?」
フェカト 「ツェーリアは運河が発達してませんから難しいですね、ゾッフォの複製機が主な戦力です」
ダイン 「複製機ですか、それも興味深いですね」
フェカト 「ポロルグがジーカ作る前に製造していた機体です、ポグレンって名前でしたけど、改名されてツィグルって呼ばれてますね、ゾッフォよりも軽くてジーカ寄りなんですけど、ただ魔鋼を節約した機体ですよ」
七実 「でも、そういう積み重ねでジーカが産まれたんですね」
フェカト 「いや、ジーカは一人の天才工員が作り出した物ですよ、どちらかと言うとポナリアの祖先です、ツェーリアは進歩して無いので珍しいのがまだ現役なんですよ」
七実 「なんだか可哀想になって来ますね、ユーマは高級機や新鋭機なのに」
ダイン 「普通は国防にお金使わないと攻められるものなんですよ、勝てるのなら攻めますよね、そこが解らなくて話せば解ると言う人が日本には多過ぎですよ、そもそも話し合いでは時間が掛かって妥協する必要が有りますが勝てば強要出来るんです、今の私達が良い例です」
フェカト 「そういうのを抑止する為に人類法が作られて、移動が難しいマギガントでの協定戦が一般的になったんですよ、ツェーリアに関しては根回ししてますから大丈夫ですけど、他の国を攻めるのは止めてくださいね」
ダイン 「スカイベアーはあくまで移動手段です、それにスカイベアーの登場で各国へのエポポの供給は更に加速しますよ」
七実 「ユーマはゾッフォ入手出来て、ウハウハですけどね、それに供給しているエポポって何か仕込んでますよね?」
ダイン 「ははは、マギガントに何か仕込めるほど熟知していませんよ」
ダインは笑って誤魔化しているが、ダインを知る遊魔達はそれが嘘である事など十分に理解している、確かにマギガントの機体には手を加えていないがそれをコントロールする魔法生物は遊魔細胞と融合する事で並外れた機動性を獲得しているからだ。
誤魔化しつつも不適な笑みを浮かべるダインの元へ、息を切らせながらニアがやって来る、その腰には絞めた野鳥が三羽もぶら下がっており、森から休みなく駆けつけて来た様だ。
ニア 「急な呼び出し、何か有ったのにゃ」
元アスリートで肺の丈夫なニアは直ぐに息を整えてダインに尋ねる。
ダイン 「今からツェーリア王都ゼアムに進攻します、ツェリが到着すれば出陣ですよ」
ニア 「え、この鳥はどうすればいいにゃ」
ニアには戦争よりも夕食が大事な様だ。
ダイン 「まぁ出陣前にアイヤかプルルが訪ねて来るでしょう、鳥はその時に引き渡して下さい」
フェカト 「ダイン様が急遽決定されたんですよ、確かに味方にもいきなりの事なのでツェーリア王家は慌てふためくでしょうね」
フェカトは作戦の利を認めた様で、その言葉に棘が無くなった。
ニア 「となるとニャアにも出番が有るのにゃ」
ダイン 「それは解りません、私とツェリは確定していますが残りの人選は未定なんですよ、ですが、いざという時の備えは必要ですから」
七実 「いざという時にニアが居れば兵士の百人ぐらいは片付けちゃいますからね」
ダイン 「今はリィとアキがテガスを離れていますから、ニアも来て下さい」
フェカト 「まぁティアスのお願いじゃ仕方ないですよね、ユーマとククジアの友好も示しておかないと行けませんし、それにあの二人がティアスとの交友を示してくれるお陰で選定戦も有利に働いてます」
ダイン 「その分帰って来た時に私が搾り取られるんですがね」
七実 「そこは耐えて貰うしか、ティアスも無理してユーマの独立を後押ししてくれましたから、絶対に王位に就いて貰わないと」
フェカト 「リィやアキ以上にティアスの方が溜まってますけどね、やっぱり影武者ティアスが必要だと思います」
ダイン 「偽者の用途で新しい遊魔を産み出すのは、気が乗らないんですよ、私は個の遊魔を重視してますから」
七実 「結局、ツェリ以来遊魔は増えてませんからね、波が激しいですよ」
ダイン 「その甲斐あってスカイベアーが早期に完成したんですよ、遊魔を増やす事は確かに戦力アップになりますが、私の時間も減ってしまうんですよ」
七実 「それだけいい思いもしてるじゃ無いですか」
ダイン 「私には一人で過ごす時間も重要なんですよ、陽キャと一緒にしないで下さい」
真夏 「本来ならマナ達がもっとダイン様をお手伝いしないと行けないのにすみません」
ダイン 「いや、遊魔の皆はよくやってくれてますよ、新しい娘を増やす必要も無いくらいに」
ダインとしてもこれは本心だ、その上、遊魔達がダインの負担にならない様、各々で交わって欲求を処理している事も知っている、ダインも構ってあげたい気持ちはあるが、ユーマの安全保障を整えなければ落ち着かないのだ。
七実 「ダイン様も変に抱え込んでますからね、けどダイン様の悩みの解決はナナには無理そうですから」
ダイン 「ナナは今でも十分な働きをしてくれてますよ、スカイベアー級浮遊母艦の開発には大きく役立ってくれましたから」
フェカト 「ダイン様の考えるユーマの安定については、ツェーリアの耕作地を獲る事で達成可能な筈です、テガスは工房都市でしたので食糧生産に難が有りましたから、貨幣についてはククジア貨幣の使用で解決してますし、獲得の為の産業も幾つか立ち上げてます、問題は凄い速さで片付いてますから、そろそろ混沌大陸への遠征費も捻出しないと行けませんしね」
ダイン 「それは実質防衛予算ですから、獲得したゾッフォを改修して売って稼げばいいと思います、その為にもスカイベアーは使えますから」
七実 「今日のゼアム襲撃は良いデモンストレーションになりそうですね」
ダイン 「金さえ払えば直ぐにでもエポポをお届け出来る事を見せつけてやりましょう、それではスカイベアーは頼みましたよ、私はウィディで出撃しますので」
フェカト 「ウィディも初陣ですので気を付けて下さいね」
真夏 「実戦レベルのテストは行っていますので大丈夫ですよ」
そうして、ダインは真夏を引き連れてウィディ・ゾッフォ格納庫へと向かって行く、フェカト達もスカイベアーの最終確認を行ってから離陸の準備を始めると、艦橋の通信盤にはダインと真夏の姿が映し出される。
フェカト 「スカイベアーもマギガントなんですね、ちゃんと通信盤が作動してます」
ダイン 「本来は格納庫の機体との意思疎通の為ですが、私達のウィディが接近してますからね、先にスカイベアーを離陸させて下さい、ウィディの離陸スペースを確保しないと行けません」
フェカトは状況見て、異常が無い事を確認するとダインの指示通りにスカイベアーを離陸させ、テガス郊外の上空に待機させる。
ウィディの離陸には若干の変型が必要で飛行形態に移行する為には、ウィディ自体の手を使って背中の翼を展開する必要がある。
七実 「なんかこうイメージの変型と違いますよね、勝手に変型していく物なんですけど」
上空からウィディを視認した七実が感想を口にする、既に距離が離れた為に通信盤は機能しておらず、意味を理解出来るダインや真夏がいない為に、半ば独り言となってしまう。
そうして、ダインと真夏のウィディ・ゾッフォは飛行形態へと移行すると順々に飛び立って行く。
フェカトはその様子を確認すると艦首をツェーリアに向けてスカイベアーの移動を開始すると、ウィディが左右に展開して、通信盤の交信範囲に入る。
ダイン 「ツェリはまだ来ていませんが進軍を開始しましょう、七実は連絡を頼みます」
七実 「はい、まだツェーリアに居るそうです、ゼアムでの合流を希望してますがどうしますか?」
ダイン 「解りました、王都ゼアム上空で旋回して威圧しておいて下さい、王都の領民の多くにスカイベアーの勇姿を見せ付ければ、ユーマに組み込まれる事を喜ばしく思うでしょう」
七実 「魔導エンジンの轟音は注目されますからね、ユーマの誇る最新技術に恐れ慄けば良いんですよ」
真夏 「まるで悪役のセリフですね、一応ユーマは圧政からの開放者なんですけど」
ダイン 「轟音立ててるのは確かですから、慣れた筈のテガスの住人ですらこの編隊に驚いていますよ」
フェカト 「え、変態だ何て解るんですか、確かにユーマの紋章は掲げてますけど」
七実 「その変態じゃ無くて、隊列を組んで飛ぶ事を編隊飛行っていうんですよ、ウィディ二機ではやった事有りますけど、スカイベアーは飛ぶ事自体が今日初めてですし」
ダイン 「それにスカイベアーの巨大さはアーグルでは前例が無いでしょうから、人は本能的に大きな物を強いと感じてしまうんですよ」
真夏 「現状じゃ唯の輸送船ですけどね、まぁ見た目は熊っぽいですけど」
七実 「ダイン様のネーミングセンスは安直過ぎますよ」
ダイン 「いや、見た目も有りますがシーベアーとの対比も考えているんですよ」
七実 「なら大元は熊造ですね」
真夏 「マナは似合ってると思ってますけど、色を白く塗って白熊にするのが可愛いと思います」
ダイン 「白は形的に辞めておきましょう、マギガントベースなので手脚が必要だっただけで、アレのデザインをパクったわけじゃありませんし」
七実 「確かにホワイトベアーはやばそうですね、キャノンとタンクも作りましょうか」
ダイン 「キャノンはまだしもタンクは必要無いでしょう、不整地に履帯は効果的ですが、マギガントは歩行移動してますし」
真夏 「ナナの言葉にちゃんと返答する必要は無いと思いますけど」
ダイン 「オタクの性ってヤツですね、振って返して貰えなければ可哀想じゃ無いですか」
真夏 「ナナは可哀想な娘ですけどね」
ダイン 「世間から可哀想と思われても、私にとっては理想的な女の子です、ナナのお陰で自信も付きましたし、何か足りない感が創作意欲を高めてくれたんですよ」
七実 「流石ダイン様、上げてくれている様でちゃっかり落としてくれますね」
ダイン 「完璧な理想像なんて現実には存在しませんよ、好みだって変化して行きますから」
談笑を営む遊魔達は全く緊張感の無いまま、戦いが始まる地ツェーリア王国の王都ゼアムへと近付きつつも有った。
魔導エンジンの上げる轟音は、それを見聞きしたツェーリア領民に言い様の無い不安を与えていたのだが、当の遊魔達は領民の事など余り気に留めていなかった。
おまけ
ユーマ共栄国 ポロルグ領の都市テガス一帯を国土とする、異世界人ダインを王とする新興国家である。
余りにも異質に進歩したテガスを危惧した各国の思惑が産んだ国家、ダイン勢力を独立国家とする事でククジアの技術独占は不可能となり、各国が独自に交渉してユーマ技術の恩恵を受ける事が可能となっている。
ユーマの名は単純に誰かが遊魔と口を滑らせても国名だと誤認させる意図や、単に存在が怪しい遊魔の存在をUMA(未確認動物)だという洒落っ気から命名された物で、それ程深い意味は無い。
ユーマ共栄国は既に各国との交渉も行っており、秘密裏に隣国ツェーリア王国の併合を認めさせている、ユーマ共栄国のツェーリア反体制派の支援は各国に黙認されている。