004-026
王都で二日間過ごしたユーマ一行は三日目の朝にテガスへと帰る事になった、以前とは違い他国の王となったダインをそう止めておく事も出来ないのだ。
来た時に比べて、五人の選抜工員を加えた一行は朝食後直ぐにスカイベアーに乗り込むと一路テガスへの帰路についた。
そしてティアスも修理の終わった自身のポナリア・ジーカで同行する事になり、広い通信範囲を持つスカイベアーの通信盤にはティアスの顔も映し出されている。
ティアス 「しかし、空から見ると改めて驚きますよね、こんなに大きい物が飛んでいるなんて」
ダイン 「飛ぶ仕組み自体が天翔る処女とは違いますからね、動力さえ上手く使えば飛ぶ事自体はそれほど難しいわけじゃ無いんですよ、それにスカイベアーはこだわり過ぎて失敗したとも思ってます、推進力として使うならプロペラで良かったんですよね、あれなら燃料も要りませんし、魔力だけで回せます」
真夏 「折角苦労してジェットエンジン作ったんですけど」
ダイン 「まぁアーグル人の理解の範疇を超えてましたから、結局のところウィディの方が喰いつかれてましたよね」
確かに昨日の工員達の見学では、ウィディ・ゾッフォの方に注目が集まっていた、アーグル人にとってスカイベアーは余りにも未知数過ぎたのだ、だが、大量輸送の可能性を見出した識者達からは熱い眼差しを向けられていたのも確かだ。
ティアス 「処女じゃ無くても飛べるマギガントですからね、非処女のユーマ王族が空を飛んだ事はかなり驚かれていた様です」
ダイン 「まぁウィディとスカイベアーは普及型を生産するべきですね、油の確保が思った以上に手間取ってますから、燃料油の供給網で資金調達も企んでましたが、アーグルには燃料という概念自体が存在していませんから、それにプロペラの方が現行よりも静かになりますし」
七実 「普及技術より高い技術をユーマだけで持つのは有用だと思います、まぁアーグルは時間概念もゆったりとしてますから高速で飛行する意味も薄いですし」
ティアス 「そうですよね、魔導通信は有りますけど、物流は数ヶ月単位ですから、届く頃には忘れてますから」
ダイン 「行動の速さも重要な武器ですから、ゾッフォの改修で魔鋼の確保も容易になってますから、どんどん増産して行きますよ、まぁまだ設計を変更する余地も有りますが」
ティアス 「王都工房の屑魔鋼もテガスに送る手筈です、今集めさせてますので次のスカイベアー便で持ち帰れますね」
ダイン 「部品加工はテガスで行った方が早いですから、特に大きな魔鋼部品はテガス以外では作る事も無理でしょう」
真夏 「組み立てが一番場所を取りますからね、特にスカイベアーは殆ど空洞ですから」
七実 「そこはこれから色々仕込んで行きますから、長期滞在用の部屋とか食料倉庫、武器も追加したいですし」
ダイン 「まぁやる事は色々有りますよ、テガスに帰ればクラフト・ゾッフォの増産を始めます、王都工房にゾッフォフレーム加工用のクラフトを送れば、屑魔鋼の獲得が容易になりますしね」
七実 「しかし、余りにも早く進み過ぎてる気もします」
ダイン 「そこは専制国家利点というやつですよ、トップの意思決定だけで進んで行きますから、何事にも合意の民主国家では始めるだけでも一大事でしょうから」
ティアス 「ですが、ダイン王って物事を進める為の下地をちゃんと用意してますから、ティアスも始めスカイベアーを作る意味を理解出来ていませんでしたが、実物が運用されているのを見て、その重要性に驚いてますから」
ダイン 「この輸送力のお陰で過去の資産も有効活用出来てますから、一から魔鋼を生産していてはスカイベアーの建造に数年掛かってしまいます」
七実 「スカイベアーの建造は本当に早かったですよ、ナナの予想の十倍は早かったです」
ダイン 「ゾッフォの改造が上手く行ったんですよ、初めは個々に工作機械を作る予定でしたが、ほぼクラフト・ゾッフォだけで事足りましたから、腕が二本増えるだけでこうも役に立つとは」
真夏 「クガト製ゾッフォの規格が振れてなかったのも大きいですよね、同じ部品を他の機体にも使えましたし」
ダイン 「確かに驚く程精巧でしたね、後発のはずのポナリアやフーティアには個体差が大きかったのに」
ティアス 「決闘機からは個々の機体自体に擦り合わせを行っているんですよ、互換性より性能を重視しているのでばらつきが生じてます」
ダイン 「何にせよスカイベアーはゾッフォのスタイルを踏襲すべきですよ、性能よりも動く事が重要な魔導具ですから」
七実 「その点でも、クラフト・ゾッフォはますます重要になりますね、エポポ事業も有りますからもっと増やさないと」
ダイン 「何処の優先度を高くすればいいのかが問題ですよ、クラフトが多ければ作業は捗りますが、スカイベアーが無いとゾッフォを運べ無い、そしてスカイベアーを作るには多量の魔鋼を必要としますから、まぁ王都工房にゾッフォフレーム加工用のクラフトを送るのが上策でしょうが」
真夏 「ですが、クラフトを扱うにはユーマ王族を使った方が良いですよね、そうなると移動用のウィディも増やさないと」
ダイン 「まぁ暫くは工房作業の安定化を図りましょう、エポポの改修を優先してゾッフォに余裕が出来ればクラフトです、ウィディは優先しなくてもザガルバで代用出来ますが、エポポとクラフトはテガスでないと改修出来ませんから」
ダインの指針が示された事で、今後のユーマの優先事項が決定された、だが、ダインは自分に興味の有る事以外を他者に丸投げする傾向があるので、実質はユーマ財政を取り仕切るフェカトの判断の方が重要になってくる。
確かにマギガント事業は大きな利益を産んではいるが、ユーマ共栄国自体の国力の底上げが重要で、遅れていた旧ツェーリア地域の近代化はフェカトの中で最優先の課題となっているのだ。
そうして、テガスに到着したダインは早速フェカトに小言を言われる事になる。
ダインの性格上、直ぐに結果の出るマギガント事業は行っていて楽しいのでは有るが、国家としては下地となる産業の方が重要だ、特にツェーリア地域の主要産業でも有る農業は結果が出るまで少なくとも二シーズンは掛かってしまう。
フェカト 「ツェーリアの併合は種蒔きの時期には間に合いましたが、早急に進めるわけにも行きません、新しく植える作物がちゃんと育つかの見極めも有りますし」
ティアス 「全ての畑に新しい作物は危険という事ですね」
帰国後に早速開かれた会議の内容は、ツェーリア領の基盤強化の方策だった。
ダイン 「確かにフェカトの言う通りですね、私は単純に取れ高の多い作物の栽培を考えてましたが、環境に応じた栽培が重要なわけですか」
フェカト 「はい、一応ツェーリアに近い気候の国家から有用そうな作物の種子を入手する算段は立てますが、時期を考えればスカイベアーはそこに投入すべきです」
七実 「面白味は無いですけど、その方が現実的ですよね、穀物を買う事は可能ですけど、自国で栽培した方が何倍も良いです」
ダイン 「ユーマの国土が不毛ならば外貨獲得の手段はマギガントでしょうが、ツェーリアを併合したユーマは農業国ですからね、基盤の強化は私の趣味より重要ですよ、マギガントは冬でも弄れますから」
ダインは現実的な選択が出来る人物だ、スカイベアーの帰路では新しい試みに胸を躍らせていたが、突き付けられた課題の前に優先順位は直ぐに変更された。
ティアス 「なら王都工房の話は延期するんですか」
ダイン 「そうでは有りませんよ、今ストックしているゾッフォをクラフトに改修して準備を行います、スカイベアーを輸送に使うと言ってもツェーリア農地の作付けを全面的に変えるわけでは有りませんから」
フェカト 「はい、一週間もスカイベアーを使わせて貰えば、作付けには間に合います、新作物の栽培は耕地二割ぐらいが妥当だと思いますので」
ダイン 「その程度でいいんですか、一週間の作業ならば現状有る工房仕事ぐらいで凌げますね」
フェカト 「今年の作付けはあくまでも模索ですから、上手く育った作物からは種を取って来年に繋げます、後、ツェリの薬草栽培なども始めたいですし」
ダイン 「それも有りましたね、場合によっては森を開墾した方が良さそうですが」
フェカト 「ツェリは使用頻度の高い薬草の選定を行なっています、こればかりは薬草に詳しいツェリに任せるしか有りません」
ダイン 「そこは思う様にやって貰いましょう、食料よりは重要度は低いですから、ですが植物のサンプルはアイヤ渡る様に手配して下さい、薬と言っても料理に使う事も有るでしょうから」
ダインの言葉にフェカトは首を傾げている、薬は薬であって食べる事などはアーグルでは行われていないのだ。
七実 「食事とはチャレンジなんですよ、変わった味のする植物はスパイスと言われて味のアクセントになります、そしてそのスパイスの組み合わせで成立する料理もあって、アイヤはそれを模索しているんです、カレーはナナも恋しいですから」
ダイン 「私はインドカレー派ですけどね、ナンが大好きなんですよ」
七実 「アーグルのパンは形は似てますけどもっちり感が足りてませんからね」
ダイン 「多分グルテンの量ですね、穀物の品種も吟味して食のバリエーションも増やして行きましょう」
七実 「まだまだ道は遠そうですね」
フェカト 「ですがダイン様の好みに合う作物を探す為に、色々な種類の種を取り寄せてます、全ての種が芽吹くとは限りませんが取り敢えず植えてみますね」
ダイン 「そう言えば挿し木や接木といった方法もありましたよね、アレも試してみましょうか、この世界には植物の知的財産権とかは無いですよね」
フェカト 「そういう権利は聞いた事ありませんね、種の選別とかは行ってはいますが」
ダイン 「まぁどの植物で接木出来るとかはよく分かりませんが・・・柿は種から育つと渋柿とか言いますから、何かしらの参考になるかも知れません」
ティアス 「ツェーリア人民が増えた分ユーマには重荷になってますね、でも刈り入れの前には選定戦も終わってますので、不作ならククジアを頼って下さい」
ダイン 「その保険が有るだけでユーマの国家運営は随分と楽になってますよ」
ティアス 「妻が夫を支えるのは当然ですし、エポポで利益も与えて貰ってますから、それにスカイベアーの建造は国民の誇りとなる事業ですから」
フェカト 「一応選定戦の事も考えておかないといけませんね、相手の希望を奪う事が重要だと思いますが」
ダイン 「まぁルゥも上手くやってくれるでしょう、既にクガトの工房勢力はほぼ取り込みましたしね、レボト・クガトも最近は出て来ないと言う話でしたね」
ティアス 「油断は禁物です、狡賢くて油断出来ない男ですから」
ダイン 「確かにボケたフリして相手を欺いた策士もいますからね、その意味では油断出来ませんが、ククジアの国内勢力ではどうにも出来ないでしょうl
フェカト 「ダイン様は選定戦に他国勢力が介入すると仰りたいんですね」
ダイン 「いや、可能性の話です、それにアーグルなら何が起きても不思議じゃ有りませんから、また異世界人の召喚も有るかもしれません」
七実 「でもあれってルゥのやった事ですよね」
ダイン 「私達はそうですが、ルゥ達はザキトス思念がリレッタを介して召喚してますからね、それにクガトの魔術は王族のティアスでも知らない事が多いとか」
ティアス 「恥ずかしながらその通りです、そもそも消えたザキトス戦役時のマギガントとか未だに解らない事も有りますし」
ダイン 「まぁ私も奥の手を考えてますからね、いよいよとなれば私の怖さを思いしれせてあげますよ」
ダインの不敵な笑みは、この場の遊魔達に不安と希望の入り混じった奇妙な感覚を与えていた、基本的に遊魔はダインを全肯定する生き物なのだが、基本的な知識を与えられた遊魔でさえ予想外の事が多過ぎるのだ。
ダインの行いに慣れている七実などは楽しそうにしているが、アーグル人で権力層でも有るフェカトとティアスはその行いに常に目を見張る必要性を感じていた。
おまけ
ツェーリア領生産向上化計画 ユーマに置けるツェーリア領の扱いは今までと変わらず食糧生産に重点を置く事に決まっている、ただ、生産だけで無く加工も視野に入れており、異世界から持ち込まれた調味料の生産工場などが作られる予定だ。
だが、それはあくまで後の計画で当面の課題として民衆に飢えを感じさせない程充実した作物の栽培が主となる。
栽培品種が昔から変わっていないツェーリアの農産物は、耕作地辺りの収穫量が少ない事が課題だが、ユーマでは敢えて耕地での全面的な作物の切り替えを行わない方針でも有り、耕地全体の二割が作物切り替えの対象になっている。
それも単一品種への切り替えでは無く、入手した複数の栽培品種を小分けして各地で栽培し、土地に合った作物を見付け出す事を目的として今季の作付けが行われる予定だ。
他にもちょっとした荒地でも栽培可能な芋類の種芋も各村に配られており、万が一新品種の作付けが失敗しても、ユーマ国民が飢えに苦しまない様に配慮している。
実際のところ、技術関連で得た資金を使えば国民を飢えさせる事など全く心配は無いのだが、ダインは交易による食糧の確保を快く思っておらず、ツェーリアの農業改革はかなり重点的に行われる事となっている。
そしてゆくゆくは異世界食品の輸出を財源の一つとして予定しており、ユーマの食料増産計画は長期的視野を持って着実に実行される予定である。