004-031
一旦離れた、ジノ・ジーカとクフィカールの距離は徐々に狭まりつつあった、お互いの近接レンジはほぼ変わらず、双方とも冷静に相手に詰め寄って行く。
戦闘スタイル自体を変化させたファービの戦い方は未知数で、リノールの中には若干の不安もよぎるが、シノールとの絆を壊して奪った事に対する怒りが勝る。
後一歩の踏み込みで剣撃を見舞える距離に近付くとリノールが先に踏み込む、攻めるリノールの構図は変わらないが、ファービの防御が躱すから受けるへと変化した、そして、新たな変化が起こる。
剣撃を受けた盾の死角から攻撃を放ったのだ、元々のファービの戦闘スタイルは双剣による攻撃特化のモノで守勢を苦手としていたのだが、シノールとリノールの二人を相手にしていては本来の戦い方など出来ずに実力を発揮出来ずにいた、だが、機体の損傷とそれを補う為の盾の使用、それと対峙する敵が減った事で本来のファービよりも防御に長けた戦闘スタイルを短期間に修得しつつあった。
これは遊魔の共有知識に有るポーカの戦闘スタイルを参考にした物だが、パワーの有るジノ・ジーカは盾を使いこなすのにより適した機体でもあった、結果、ファービ自身ですら予測出来なかった程の戦闘力を発揮する。
リノール思考 『これ、さっきより手強い、この人間短時間に騎士として成長してる』
リノールは戦いの中でファービの進化を明確に感じ取っていた、ファービの今までの戦いとは常に真夏と組んでの戦いで、真夏の強力な火力支援は戦い自体を安易な物へとさせていたのだ、だが、今、リノールとの戦いは純粋な一対一の戦いで、真夏の支援よってファービに有利な局面が与えられる事は無い、故にファービの基本は守りに比重を置いてカウンターで隙を狙う戦いへと変わって来たのだ。
だが、技量ではまだリノールの方が断然に優れている、ファービが守勢からのカンウター狙いならば、リノールも守りに入ればいいのだ。
激しかった応酬は徐々に也を潜めて、戦いは膠着状態へと変化して行く、ファービの戦い方が変化した以上、攻め続ける事には危険性が増しているのだ、だが、このままでは決着が付かないのも事実だ。
リノールにもうファービへの怒りの感情は無い、むしろファービという騎士が自分を糧にして何処まで成長するのか興味すら湧いて来た、だが、選定戦という勝負の一環である以上は早急に結果を出す必要がある。
バックステップで一旦距離を取ったリノールは攻め口を変える事にする、クフィカールには標準的な武装の他にも幾つかの武器を携帯する余裕があったのだ。
リノールの選んだ装備は投げナイフで、籠手のスリットに差し込む事でクローやソードブレイカーとして使う事も出来る多用途装備でもあった。
リノール思考 『右手の剣と左のクローで火力を高める、剣一本ではあの防御は抜き難い』
リノールのファービとは対極で攻勢を増す方向で戦う事に決めた、元来シノールとの連帯を取る上での手数を増やす装備だが、相手が守りを高めるなら、防御を抜けるチャンスを増やすべきだろう。
結果、攻防は更に洗練さを増して行く、リノールの攻撃に対するファービのカウンター、それをリノールがカウンター攻撃するか、剣を捕えるという選択肢が産まれたからだ。
そして、ソードブレイカーと初対峙したファービはまんまと刀身を絡め取られたが、シールドを使っての突き上げでその状態を解除してしまう。
リノール 「やり、もうリノールの戦いに順応してる」
ファービ 「今のは危なかったです、なるほど武器を封じる為の装備なのですね」
リノール 「知らないのに咄嗟に対応出来たのは凄い、そして強敵との戦いは楽しい」
ファービ 「ファナも楽しいです、でもそろそろ終わりにしないと」
リノールもそれは同意なのだが、互いの実力から言って、そう容易には終わりそうにない、もしかしてファービには何か決め手があるのかも知れないが。
誘導する攻撃とそれに導かれたカウンター、そういった応酬が何度も続いて、ある種のパターンが産まれた用途していた時にそれは起こった、剣の形状とソードブレイカーが上手く嵌り込んで、完全にファービの剣が捕らわれたのだ。
リノールは先ほどのシールドバッシュを警戒したが、ファービはあっさりと剣を手放して不可解な行動を取る、だが、リノールにとって好機である事に違い無く、思い切った突きを放つと、ファービは大きくしゃがみ込んで盾すら手放すと機体を横にずらして突き出したクフィカールの腕を取ると、起き上がる反動を加えてクフィカールを投げ飛ばしたのだ。
この攻撃は、武器での戦いを基本とする騎士には全く予想外の行動で、歴戦の騎士で有るリノールにも対処出来なかった。
だが、ファービとしてもマギガント格闘術など初の試みでリノールのクフィカールの背中が地に着く事は無かった。
次の攻撃を警戒したリノールは直ぐに機体をうつ伏せにして立ち上がろうとするが、先に大地に落ちたクフィカールの脚は変に力が入らずちゃんと立つ事が出来ない、よろけ状態でようやく立ち上がったが、この状態では最早ファービのジノ・ジーカを倒せる様な一撃は望め無いだろう。
リノールは半ば諦めの感情で戦いを継続しようとしたが、最後の一手がまだ残されている事を思い出した、例えジノ・ジーカを倒す一撃が振るえ無くても、まだ手はあるのだ。
先程の投げ技が決まった事で状況はファービに傾いていた、だが、素手の状態で有る事には変わり無く、何らかの攻撃手段を得る事が重要だ、幸いソードブレイカーに捕らわれていた剣は投げの衝撃で拘束が解けて、地面に転がっている。
ファービは慎重にクフィカールに注意を向けながら剣を拾い上げると二、三度振ってその感触を確かめる、無茶をさせたジノ・ジーカの腕には別段問題も無い様で、クフィカールに止めの一撃を加える事など容易い。
ジリジリとにじり寄って距離を詰めるファービ、リノールは最早諦めた様で、クフィカールを立たせるだけで精一杯の様で有る、そして、ファービが近付いた所で体勢を崩して前のめりに倒れそうになる。
これまで戦った相手に敬意が有るのだろう、ファービは無様に倒れようとするクフィカールを支える様に近付いたのだが、そこに油断があった。
前に出されたクフィカールの左腕を正面で受け止めようとした時に、鋭い一撃がジノ・ジーカの胸を直撃した、モーションの無かったその一撃に対する備えは全く無く、直撃した反動で機体は後方に倒れ込んで、敗北となる、背中が大地に付いてしまう。
ファービ 「え、何が」
ファービが状況を理解出来ずに声を上げる、だが、その瞬間に満身創痍のクフィカールもジノ・ジーカに倒れ込んで大きな衝撃を与える。
真夏 「手甲の刃が打ち出された様です、ナナが好きなパイルバンカーってヤツですよ、でも魔導具は仕込まれて無かったと思いますが・・・」
シノール 「柔魔鋼の復元を利用した攻撃です、柔らかくした状態で形を加工すれば魔力を込めた時に元の形に戻す事が可能です、使用は一度だけですが不意を突くには効果的な武器です」
リノール 「卑怯なので使うつもりは無かった、でも、リノールは負けたく無かった」
ファービ 「勝利への執念ですか、それを見せられたらファナも納得です、この戦いは楽しくてファナも騎士として得るモノが多かったと思います、それにファナとマナが負けても楽しんでいれば許してくれるのがダイン様なんです」
真夏 「確かにダイン様は許してくれるでしょうけど、ティアス様は怒ると思いますよ、まぁ高い地位から落ちるのは好都合なんですけどね」
ファービ 「マナ性格悪いです」
真夏 「でも、ダイン様にとって変わったタグが付いてるって強みですからね、ファナは結構色々付いてるから安心でしょうけど、マナは日本から来た仲間の中で弱いですから」
シノール 「貴女方が噂の異世界人という人ですか、異世界の料理はとても美味しいって聞いてますけど、人類圏では勝者に食事を振舞う事はしないんですか?」
真夏 「負けて勝者に食事を振舞うって東方大陸の文化ってそういうものなんですか、ダイン様は祝勝会の準備をしてましたから二、三十人が増えても大丈夫だと思いますけど」
リノール 「なら是非食べてみたい、食事に良さは自分で食べないと解らない」
リノールの言葉は長耳族の格言だ、食には個人の好みが大きく反映されるので、自分で食べて判断するという意味だ。
真夏 「でも良いんですか、勝手にそんな事決めちゃって」
シノール 「食事の要求は勝者の権利ですから、問題有りません、皆んなそれでやる気出してますから」
真夏 「なんだかファンタジーのエルフとは全然違う種族ですね、見た目はエルフのイメージなのに」
シノール 「エルフですか、異世界にはそういう種族もいるんですね」
真夏 「いや、想像の種族です、それに耳が長いというのは耳が尖っているというの誤解から生じたそうです」
シノール 「耳が尖るですか、長耳で合ってません?」
真夏 「実物は今お見せ出来ませんけど、その内見せれる時が来るかも知れません、確かに別ですよ」
真夏はこの時、シノールとリノールの可能性を見出して胸を躍らせていた、美形で処女で異種族という属性は確実にダイン好みな事は間違い無く、その上この二人には双子という強みまで持っている。
そんな二人が自ら望んで遊魔の狩場へと足を踏み入れてくれる様で、真夏としては内心笑いが止まらない、勝負には負けてしまったが、遊魔として重要な使命を果たせそうな事に真夏は満足して天を仰いでいたジノ・ジーカの上体を起こすと、その視界に凄い物が映っている。
それはダインが多分苦戦しているだろう思われる状況を示しているのだが、ダインの性格なら単に見せびらかせて遊んでいるだけかも知れないので、難しいところだ。
シノール 「え、なんなんですかアレは、ユーマって国はやる事が桁外れですよ」
リノール 「うん、あっちで戦わなくて良かった、あんなのどう倒すのか解らない」
シノールとリノールも第五会場の異変に驚愕している、二人の驚き様から見ても第五会場はティアス側優位の状況の様だが、個人戦三戦の状況は不透明だ。
真夏の分析では、東方のクフィカールの性能はユーマで運用しているマギガントを凌駕しており、実戦経験に長けたリエルとアーキアですら、容易に勝てる相手でも無さそうだ。
真夏は敗北してしまった事を心の中で詫びるが、勝敗よりも楽しむ事を優先してしまうのが遊魔である、その意味では今回の選定戦の勝敗は容易に予測する事は出来ないだろうが、耳長は遊魔にとって想定された以上に楽しませてくれる相手の様だ。
おまけ
ファイディ・ゾッフォ 射撃戦用マギガントの試作型では有るが、機体自体はエポポ・ゾッフォと大差が無い、最大の違いは兵装でファイディには六連装ガドリングガンと魔導レーダーが搭載されている。
六連装ガトリングガンは銃器から発展したというより、魔導ジェットエンジンを改良して生まれた兵器である、圧縮空気に燃料を噴射して爆発させて銃弾を撃ち出しており、原理的にはティーゼルエンジンに近いがガス圧を増やす比率で調整されている燃料を使っている、だが、初速は火薬を使った地球製の火器に比べて劣っており、火力よりも生産性を重視した武器でも有る。
ファイディ・ゾッフォはあくまでも兵装試験用の繋ぎでもあり、完成系としてユーマ騎士団の正式採用機のロゥディ・ゾッフォがある、だが、ロゥディはあくまで汎用機で射撃戦能力ではファイディの方が上回っている。
真夏は選定戦出場に当たって、自身の戦闘スタイルを再現し易いファイディを選び、実戦でも上手く使い熟したが、単体戦闘力で勝るクフィカールの相手をするには些か荷が重かった様だ。