地固め編 第三十六話 王の象徴

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  選定戦の一方の当事者が自ら参戦する第一会場ではあったが、会場の盛り上がりは今一つで有った。

  他の会場では、新興勢力のユーマ共栄国と伝説のマギガントの戦いという、予期出来なかった戦いが繰り広げられようとしているのに、第一会場はある意味で見慣れたアーグルの戦いなのだ。

  王のマギガントと言われるムゥディ・フーティアを駆るリボルトは観客の反応に不満が有った、本来ならムゥディを操る自分こそが王に相応しい事を証明している筈なのに、観客には讃える素振りも無い。

  そして、リボルトと対峙するラファメ・ラルクルクは流行りのエポポ・ゾッフォでは無く、以前より愛用していたジーカで戦いに臨む様だ。

  出場するマギガントの機種を見るならば、この第一会場こそクガトとポロルグの本来の対決といえる戦いで、観客としても注目の一戦な筈なのだが今一盛り上がっていないのは残念だ。

  クガト工房の全勢力を注ぎ込んで生まれ変わった、ムゥディ・フーティアは観客の予想とは外れた軽やかな動きを見せて、一部のマギガント好きを唸らせてはいたが、ユーマの披露した数々の新技術の前には些か華が無かった。

  リボルトも予想とは違う観客の反応に落胆していたが、王のマギガントでの勝利を見せれば、誰もが時期国王と認めてくれる筈なのだ、そして勝利の為の仕込みも万全で有るのだ。

  試合開始の銅鑼が打ち鳴らされると同時に、リボルトもムゥディを前に出す、仕込みは有るといっても、演出は必要でちゃんと戦う必要はある、そう、勝者がリボルトで有れば多少の苦戦さえも演出に過ぎない。

  ほぼ闘技場の中心で二体のマギガントはお互いを捉える、リボルトは基本形の右手に長剣、左手に盾のスタイルで、対するラファメのジーカは得意の細身剣を左右の手に持っている。

  ラファメのジーカが小手調べと言わんばかりに剣を突き出す、リボルトは基本に忠実に盾で受けると、そのまま盾を押し出してムゥディの力強さを見せ付ける。

  確かにムゥディ・フーティアはクガト工房の新技術で、恐るべきマギガントへと生まれ変わっている、上級機の軽やかさと既存マギガントで一番の腕力は、第二第三で戦っているフーティアの完成形として設計された物なのだ。

  余りにも力強いムゥディの押しに、ラファメのジーカは素早く折れない様に剣を引く、変に突っぱねてしまえば剣が易々と折れてしまう程の腕力をムゥディから感じ取ったのだ。

  ラファメ 「まさかとは思いましたが、本当にムゥディを仕上げているんですね、ククジア最高のマギガントと戦えるとは騎士冥利に尽きますね」

  リボルト 「最近はユーマに話題を奪われてばかりですから、クガトの工房も力を尽くしてくれました」

  ラファメ 「まさか、伝説の騎士達の助力が有ったのでは」

  リボルト 「そこはご想像にお任せします、今はただ一人の騎士として全力を尽くす迄です」

  リボルトの仕込みを知るラファメは、その演出に半ば呆れていたが付き合って上げる事にする、自己を持ち上げられて悪い気はしない筈なのだ。

  凡庸と言われていたリボルトの腕はかなり良い、力任せな攻め方とムゥディとの相性がかなり良い様で、並の騎士を軽く陵駕するほどだ、だが、ユーマの騎士達と訓練を重ねたラファメに比べると明らかに劣っており、同じく訓練に勤しんでいたティアス程の実力もない、ただ、ラファメとしても会場の盛り上がりは欲しいので一計を案じて見る。

  双剣の一本を鞘に収めてスタイルを変えて見る、これはラファメ本来の戦い方では無く、ティアスの物を真似る為だ、敢えてティアスの戦い方を模倣する事で、レボルトの実力を観客に披露する意味合いも有るのだ。

  ラファメ 『まぁ本物のティアス様はこの程度じゃ有りませんけどね』

  実際のところ、ラファメの戦いは速さに優れたジーカ向きで、ティアスの戦い方はパワーも持ち合わせているポナリア・ジーカに向いた物なのだが、マギガントの特性までちゃんと理解している通な観客など殆どいないだろう。

  速さは有るが重みの無い突きは、ムウディ本体に当たっても鎧の表面を傷付けるだけだった、ティアスの一撃なら抜いていただろうが、このあたりが機体差の現れともいえる。

  だが、ティアス風の一撃にダメージを受けなかったリボルトはご満悦の様で、暫く同じ事を続けてもらいたい様だ、そしてラファメも戦いを演出する事には異論無く、なるべく観客の心に残る様に奮闘する。

  決めてを欠いた戦いは、その後も続いて行くのだが、ラファメの器用な手加減で見る物には中々の好勝負に見えている様だ、会場は確かに盛り上がって来た様で、リボルトもコレならば文句はないだろう。

  そして、隣の会場から歓声が起こる、通信盤で大体の流れを掴んでいるラファメはアーキアの勝利を知って嬉しくなるが、リエルの相手は中々の強者らしく、あのリエルが弄ばれている感すら有る。

  リボルトはアーキアの勝利に苛立ちを覚えている様で、涼しい表情に焦りが浮かんでいる様にも見える。

  リボルト 「勇者アーキアが勝利した様ですね、そろそろこちらも決着が付く頃でしょうか」

  焦りからか、リボルトは申し合わせていた合図を送って来る、ラファメの実家ラルクルク家はリボルト側に重大な不正の証拠を握られており、それを盾にラファメは試合の不正を強要させているのだ。

  一方的な宣言から、見るからに隙だらけの上段からの強撃が降り下りされる、リボルトからすれば決着の為の一撃のつもりなのだろうが、これに当たる事は騎士としては恥ずかしい一撃だ。

  リボルトの意図を無視してラファメはジーカを華麗に回避されると、思い通りの行動を行なわなかったラファメに対して、リボルトは不満気な顔をしている、対してラファメはそろそろ本性を晒しても良い頃合いだと思って笑顔で微笑み掛ける。

  ラファメは試合前にリボルト陣営から脅されて、勝負の工作を命じられていたが、家よりもティアスを取ったのだ、この事はラファメに取っては当たり前の事で、裏工作の接触が有った時からティアスに相談しており、例えラルクルクの家が取り潰しになっても、ラファメを当主とした新しいラルクルクの設立が既に約束されているのだ、結果的にラファメは現当主の父親を裏切る事にはなるが、絶対的なティアスへの忠誠を示す事が出来るのだ。

  ラファメ 「どうしたのですか、先程の攻撃程度では私の敗北は有りませんよ」

  リボルト 「貴様、自分の立場が解っていないのか」

  怒気を孕んだリボルトに対して、ラファメは涼しい顔で言葉を返す。

  ラファメ 「私はティアス様に信頼されて、選定戦に選ばれた騎士です、親兄弟を裏切ろうともティアス様と共に有る事を誓いました」

  正直、ラファメの言葉はククジア貴族の常識から大きく逸脱している、ククジア貴族はザキトス戦役で功績の有った者達の末裔が殆どで、家格が人類圏国家の中で一番重視されているのだ、特にリボルトの後ろ盾のクガト家にはその気風が強く、ラファメの行動はリボルトには理解出来ない。

  リボルト 「私に刃向かおうというのか」

  ラファメ 「変な事を仰いますね、相手が王族でも私はティアス様を勝たせる為に出場しているんですよ」

  ラファメは既にティアスの真似事も止めて本来の戦い方で決着を付けるつもりだ、ジーカは再び収めた剣を抜き放って、リボルトのムゥディに襲い掛かる。

  本気を出したラファメの前にリボルトは敵では無かった、更に勢いを増した刺突の連続によって、ムゥディ・フーティアの誇る防業も文字通り削り取られて、豪華に飾り立てられた姿は最早見る影もない。

  ラファメはワザとムゥディを破損させて行き、リボルトの権威を貶めているのだ。

  だが、不安は不意に訪れる、第二会場の決着が着いて、ティアス派のリエルが敗北してしまったのだ。

  リボルト 「流石は東方騎士です、古のマギガントが負けるなど偶然だったのですよ、きっと他の会場でも勝利を収めているに違い有りません」

  これはラファメに対する最後通知の様な物なのだが、ラファメの決意は揺るがない、万が一ティアス側が敗北したとしても、ユーマ共栄国での仕官も既に約束されているのだ、ならばリボルトに付いた方が当然リスクは大きい。

  それにラファメは直感的にもうリボルトが自分を赦す事は無いと感じ取っている、だからこそ、その攻め手は衰える事無く増して行く、今ならティアス派が負けても勇者リエルよりも役立ったとティアスに褒めて貰えるからだ。

  双剣の連続刺突でムゥディの盾を飛ばしたラファメは、容赦無くムゥディを調理して行く、両脚の膝関節を潰して跪かせると、横に回って腹を蹴り上げて背を地に着けさせる、些か過激過ぎる演出では有るが、ティアスに身を捧げた事を証明するのならこれぐらい思い切った方が良い。

  そして、最後まで続いていた第一会場の戦いがティアス側の勝利に終わった事で、ククジア王国次期国王選定戦はティアス・ククジアの勝利が確定したので有った。

  アーキア 「やったじゃんラファメ、ダイン様も勝った様だから、ティアス派の勝利だよ」

  ラファメ 「え、そんな事が分かるんですか?」

  リエル 「はい、ユーマでフーティアの通信盤を交換したんですよ、スカイベアー級の通信盤とならばかなり距離が有っても繋がる様になってます」

  アーキア 「ファナとマナは負けたみたいだから、ラファメの勝利は特に価値があるよ」

  リエル 「ダイン様も東方騎士相手に負けたのは仕方ないって、言ってくれてます、経験の強さというモノをちゃんと理解してくれてますからね」

  アーキア 「マギガントも凄いよね、軽いのに力も有ったから、ダイン様はゾッフォだらけでよく勝てたよね」

  リエル 「詳細は聞いてませんけど、多分、アレを使ったんだと思います、強敵相手でも遊んじゃう人ですから」

  アーキア 「でも、それでリィも赦されてるのかも、自分が楽しければとやかく言わないからね」

  フィリッカ 「おおらかな人だとは聞いていますが、本当に咎められない様ですね」

  ティアス陣営の話を聞いていた耳長のフィリッカがつい尋ねてしまう。

  リエル 「ダイン様自体が人から咎められる様な事してますから、政務は他人に任せっきりで、自分の好きな事ばかりしてます、でも、それがユーマの最大の強みになってるんですよ、このフーティアだってダイン様が弄ってからかなり使い易くなってます、そちらの機体には敵わないみたいですが」

  アーキア 「うん、個々に合った調整してくれてるよね、アキのフーティアはアキピッタリだけど、リィのヤツは全然駄目になってるよ」

  リエル 「見た目も変わってますからね」

  フィリッカ 「面白い話しですね、東方では乗り手が自分で合わせるモノですが、今回派遣された九機も基本は同じ性能です、兜や武器は違いますけど」

  アーキア 「へぇ、あの大きな斧は全部の機体で使えるのかぁ、細身なのに凄い力だよね」

  リーリエッテ 「長く乗るとバランスは変わってきますけど、一定期間で乗り換しているんですよ、その上整備で細かく調整しますのでどの機体でも大斧が使えます」

  ラファメ 「東方って凄いところの様ですね、ですが何故、今になって人類圏に現れたのですか?」

  フィリッカ 「それはユーマ共栄国の出現が大きな意味を持っています、ユーマの力を使えば失った故国を取り戻す事が可能かも知れませんので」

  アーキア 「何それ、面白そうな話だよね、多分ダイン様の乗って来ると思うよ、自分も相手も楽しいが好きな方だから」

  リエル 「そうですね、今日の戦勝会に東方騎士の皆さんも招かれるでしょうから、その時に機会を設けて貰いましょう」

  リーリエッテ 「負けた私も招かれるのですか?」

  東方感覚では、敗者は招く側で招かれる側では無いのだ。

  リエル 「勿論ですよ、どうせ余った料理は民に振る舞う様に大量に用意しているんですよ、騎士が九人増えたぐらいで無くなる量じゃ有りませんよ、リボルト様も参加しますか」

  リエルは何気なくまだ通信盤で呆然としているリボルトに問い掛けてみる。

  リボルト 「流石に遠慮させて貰います、ですが日を改めてティアスとは話をしたい物ですね」

  ラファメ 「そのお話は私が必ずティアス様にお伝えしたいと思います」

  リボルト 「よろしくお願いします、こうなった以上ティアスの機嫌を損ねる事はしたく有りませんので、ラファメ殿も存分にティアスを支えてやって下さい」

  リボルトはなるべく意図が伝わる様な言い回しで言葉を紡いだが、この言い方ではまだラファメの弱みに付け入る可能性をティアスは捨てきれないだろう。

  ククジア次期国王の選定戦はティアスの勝利で幕を閉じ、今後は新体制への移行期間に入る、この期間にティアスに取り入ろうとする者が多く現るであろう、ライバルであったリボルトもその中の一人であるのだ。

  おまけ

  改修型ムゥディ・フーティア ククジア王都に展示されていたムゥディは、ティアス側との取引で製造元のクガト工房に戻されてリボルト専用機として改修されている。

  クガト単独ではムゥディを実用レベルに押し上げる事は不可能であったが、秘密裏に耳長の協力を受けてより頑丈な上級機として完成した。

  主な改修点は脚部強化と魔動力をクフィカールの物と交換したぐらいでは有るが、人類技術より遥かに進んだ耳長の魔動力はムゥディを強力なマギガントとして再生させた。

  マギガントの魔動力は知性の無いスライムの様な魔法生物で、魔力の増減で収縮を行う、これを魔鋼のシリンダーに詰め込んで筋肉の様に使う事によってマギガントは稼働している。

  耳長の魔動力は低魔力、瞬時高膨張を実現させており、重量過多であったムゥディですら、上級機と同程度の運動性を与える事に成功している。

  改修型ムゥディ・フーティアは人類マギガント史に残るほど優れた機体では有るが、同日に姿を見せたビグ・ユーマの人型形態にインパクトで大きく劣っていた為に余り語られる事の無い不遇なマギガントとなってしまった。