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フォティーヌが東方大陸から戻って三日後、予定より一日遅く耳長の定期交流団が十機のクフィカールと共に来訪していた、遅延の原因は急遽まだ若い騎士が二名組み込まれた事と、その騎士達の能力が他に比べて劣っていた為で有る。
ダイン 「遠路はるばるご苦労様でした、宴を開いて持て成す事は出来ませんが、ユーマ自慢の料理は数多く用意しましたので存分に楽しんで下さい」
実利優先のユーマ共和国にはちゃんとした王宮など存在せず、テガス魔導学院の学舎の一つを接収して使用している、今、交流団の面々が通されているのは元の学舎の食堂で、他国の王宮と違ってかなり質素であった、だが、人類圏文化に初めて触れる耳長達にとっては目新しい様で、皆が何処か落ち着かない様子で会食が始まるのを待っていた。
交流団団長ミューティ 「お招き有難う御座います、先ず初めに予定の期日より遅れた事をお詫びします、昨日は歓迎式の準備が無駄となったとの事でしたが・・・」
ダイン 「気にしないで下さい、一部の学生達の夕食が豪華になっただけですから」
ミューティ 「それにしても今日の晩餐の食事も凄いですね、二日に渡ってこの様な持て成しの準備をなさってくれるとは」
フィセーリア 「耳を疑うかも知れませんが、ユーマではこれが普通の事何ですよ、ユーマはとても商売上手で西方大陸中の食べ物が集まって来てるんです」
フェカト 「ユーマの調理で美味しい料理が産まれれば、国の特産にも成り得ますから、浮遊母艦が訪れた国では食料のおみあげが多いんですよ、腐りやすい品物でも浮遊母艦なら直ぐに運べますから、今日の料理には海の魚も沢山使われてます」
ミューティ 「魚料理ですか、全く嫌な匂いがしませんが、食べれば美味しいが匂いが悪いのが魚だと思ってました」
フィセーリア 「耳長料理ではそうですよね、特に魚は苦難の象徴の様な料理で戒めで食べてますから」
ダイン 「苦難の象徴ですか、それは勿体無い事をしてますね、アーグルの魚も調理法で劇的に変わりますよ、まぁ、実際食べて貰うのが一番なので、どれが魚とは言いません」
フィセーリア 「いい考えです、最近の騎士は美食に慣れすぎですよ、私なんて三食魚の干物を食べてましたから」
フォティーヌ 「でもフォティーヌはあの当時から騎士だったのでマシでしたよ、脱出者達は毎日干物でしたから」
ミューティ 「二人の争いは気にしないで頂きましょう、折角の料理が冷えてしまいます」
ダイン 「その通りです、皆さん遠慮せずに」
ダインは耳長達が遠慮しない様に先に料理に手を付ける、皿に盛られたフライの中身は衣で隠されている為にダインでも何かは解らない、だが、魚介とよく合うタルタルソースが添えられているからには海産物なのだろう。
そして、ダインの一口が呼び水となって耳長達も食事を始めるのだが、訝しむ顔が喜びに変わる様は見ていて気持ちの良いものだった。
ミューティ 「信じられません、この弾力は十本腕でしょうか、あの異界の化け物の様な生き物がこんなに美味しいなんて」
耳長の言う十本脚とは蛸の事で有る、見た目が奇妙な蛸は耳長の間ではある種苦行の証でも有るのだ。
耳長団員セジア 「私が食べた物はプリプリしてました、この酸味の効いたソースとの相性が絶品です」
ダイン 「喜んで貰えて光栄です、奥にまだまだ控えも有りますので沢山召し上がって下さい」
耳長達はその可憐な容姿に似合わず食に対して貪欲だった、足りない事が無いように多めに作った料理も全て平らげられてダインを驚かせたが、ユーマ流の食事の恐ろしさは食後のデザートに有る。
ワゴンに積まれて持ち込まれたデザートを耳長は何だか解っていなかった、耳長の感覚では甘い物とは果物しか無いのだ。
そして美味しそうに頬張るダイン達を見た時に、耳長達も居ても立っても居られない状況になっていた、留め具を十分に緩めてはち切れそうお腹だったが、ユーマデザートの誘惑の前にはまさに別腹で、満腹でもがいていた全員が口にしたのだ。
ミューティ 「何ですかコレは、凄く甘いです果物は使って無いのに」
予めフィセーリアに耳長文化を聞いていたダインは、サプライズを兼ねて果物を使わないデザートを出した、そしてその目論見は十分に機能して耳長達をユーマの食文化の虜にしてしまっている。
自身の目論見が成功した事を理解してしたダインは、席を外してそのまま新工房での作業に戻る。
一方、耳長達は魔動力学院の寮だった一棟を宿舎として与えられて、個々に割り振られた部屋へと案内されて行く、だが、その部屋割りは遊魔側が何か仕掛け易い様に配置されているのだ。
自室でひと段落した耳長交流団は宿舎の食堂に集まって今日の反省会を行っていた、この反省会には位の高い騎士でもあるフィセーリアとフォティーヌが呼ばれて、意見や指導を受ける手筈になっている。
フィセーリア 「つまり今回の遅延の理由はセジアに責任が有るという事ですか、ですが個人の力量を測り間違えて交流団を編成した事自体が問題ですよね、幸いダイン王は人の失敗に対して寛容なお方ですから咎はありませんが、貴重なダイン王の時間を無駄に使わせた事はユーマ側にとって不愉快でしょうね」
ミューティ 「責任は私に有ります、セジアは頑張れたのに私が大事にし過ぎました」
フォティーヌ 「そこは寧ろ高評価ですけど、交流団に何かの事故が有れば、両国の関係に暗雲が立ち込めるかも知れません、特にセジアは難しい立場ですからね」
フィセーリア 「で、幹母様からは何を言われているんでしょうか?」
セジアは現耳長の社会面での長で有る幹母の次女でも有る、幹母が今回の交流団に技量の劣るセジアを送り込んだ事は明白で、フィセーリアとしては無駄だと解っても尋ねないわけには行かない、それにフィセーリア程の年長者になれば、返される言葉で何かを掴む事も十分に可能なのだ。
セジア 「それが、母はただ見てきなさいと言っただけです、この言葉だけでは疑われるのは当然だと思いますが、本当にそれだけでした」
フォティーヌ 「いや、十分に解る言葉ですね、変に勘ぐる者よりも見たモノを自分なりに解釈しようとする年頃の方が信用出来るんでしょう、私やフィセーリアはユーマに近付き過ぎましたから」
ミューティ 「私は耳長の事を考えての行いだと理解してますが」
フィセーリア 「そもそも幹母様は中央大陸の奪還には消極的でしたから、騎士は見せ場を作りたくて推進してますけど」
セジア 「母は騎士達の言い分も十分に理解してます、ですが、耳長の力だけでは到底無理だとも、だからこそ母も私をユーマに送り出したんだと思います」
フィセーリア 「確かにユーマの元で日々を過ごすと、耳長の悲願の実現が現実に近付いたと実感出来ます、その意味でセジアが来てくれた事は有難いですね、何せ幹母ともっとも親しい騎士なわけですから」
セジア 「その言葉で救われました、私ははっきり言ってお荷物でしたから」
フォティーヌ 「そんなに卑下するものじゃ有りませんよ、自分の立場も力の一つですから、幹母もセジアの人物観察眼に期待しているのでしょうから、だったら私も協力しましょう、次のダイン王との面会時に補佐として同伴して下さい、ですが訝しむのは止めてくださいね、そもそも私達が全てを理解出来る人じゃ有りませんから」
フィセーリア 「そうですよね、あんな人は耳長にはいませんから、でも頭が鍛えられて理解出来る様になるとその凄さが解るんです、初め感想はただの変人ですけどね」
ミューティ 「変人なんて言って大丈夫何ですか?」
フィセーリア 「ダイン王にとって変人は褒め言葉ですからね、自分の好きな事にのめり込む人なんですよ、その結果が浮遊母艦や皆が堪能した美食というわけです」
ミューティ 「果実以外の甘い食べ物は衝撃的でした、まさかあんな美味しい物が存在しているなんて」
フィセーリア 「耳長文化では作れない料理ですね、白くてふわりとした物はクリームと言って家畜の乳から作られているそうです、耳長文化では家畜という物が存在していませんからね」
ミューティ 「獣の乳を使うんですか、そもそも獣の乳を食するなんて・・・」
フォティーヌ 「何を今更、あれだけ美味しそうに食べていたのに、でも、あのケーキが食べられるのも人類圏でもこのテガスぐらいらしいです」
ミューティ 「ユーマとの交流は更に強化すべきですね、フォティーヌが言っていた意味が解りました、こんなの騎士だけで独占するのは耳長の民に対する裏切りです」
フォティーヌ 「だから言ったじゃ無いですか、私は耳長にとっての最良の選択をしてるって、何も中央の奪還だけが目的では有りませんよ」
東方大陸でユーマの凄さを説いたフォティーヌは、余りにも現実味の無い話をしていると疑われていたのだ、東方耳長には人類圏国家との交流は無いが、クガトの様に情報を得る程度には交流している勢力も存在しているのだ。
それらの情報で得られた結論は、ユーマによって急激な変化は起こっているモノのまだ
耳長には及ばないという、自尊心に溢れる予測だったのだ。
それ故にフォティーヌの話は都合が悪過ぎて、虚言であるという意見が主流となっていたのだ、だが、現実を目の当たりにしてしまったミューティは、素直に受け入れて親ユーマ側へとあっさりと転向してしまった。
だが、この変化はミューティだけでは無く、交流団全ての耳長の総意になっていた、こうも簡単に耳長達がユーマを認めた背景には耳長最大の楽しみが美食に有った為だ。
ダインが結果が明瞭な創作として重視していた美食はアーグル世界においてかなり有効的な交流手段でも有り、実のところ、ダイン自慢の魔導技術よりも耳長達の評価が高かったりもする。
こうして、反省会という名で始まった集まりは、何時しかユーマ賛美の場になって、既にユーマ側であるフィセーリアとフォティーヌを喜ばせていた。
そして、遊魔が今回の交流団でもっとも注視しているセジアは、逃れる事が出来ない魔の手に完全に捕えられてしまっていた。
その日の夜遅く、セジアは急なフォティーヌの来訪を受けていた、何でもダインに会える機会を得られたので、セジアの事を誘いに来たらしい。
フォティーヌ 「ほんの些細な事なんですが、森の研究所に材料を届けて欲しいとのダイン王からの依頼があった様です、正直、取るに足らない雑用の類いですが、人の本質とは普段の行いから垣間見えるモノですよね」
フォティーヌの意味深な誘いに、何時も通りの思考のセジアなら怪しんでいただろう、だが、ダインに会えるという言葉は何故かとても抗い難い魅力を放って、セジアも快く了承してしまう。
セジア 「この時間からですか、まだ仕事を行っているとはユーマの急発展の秘密が解った気がします」
フォティーヌ 「ユーマの発展の原動力で有る事は確かですが、ダイン王が好きでやっている事なんですよ、特に森の研究所は周囲に集落など無いので夜に音を出してもいい様に作られた様です」
セジア 「領民にちゃんと気を使って王の方が森に行くんですか、そういう感覚も凄いですね」
フォティーヌ 「ダイン王の居た世界ではそういう事が当たり前だった様です、ですから移動にはクフィカールを使いますよ、なるべくダイン王を待たせたくは有りませんから」
セジア 「解りました、でも、クフィカールで荷物を届けるってユーマは考える事が違いますね」
フォティーヌ 「中央脱出の時は食料運んでましたよ、それで同胞の命が繋がれましたから、何でも活用するべきなのかも知れません」
セジア 「私もそう聞いてます、母は騎士に特権を与え過ぎてるとの考えですし」
フォティーヌ 「その点はダイン王と近い考えですよね、何をしたかが人の価値と公言してますから」
セジア 「人の価値ですか、何も成していない私には重い言葉です」
フォティーヌ 「いえ、騎士に成って経験の浅いセジアが大陸間を飛行したのは素直に誇って下さい、騎士とクフィカールは共に成長して行きますから」
セジア 「フォティーヌさんにそう言って貰えると少し安心しました」
フォティーヌ 「セジアはその出自で苦労してますからね、私はその努力をちゃんと認めてますよ」
フォティーヌはセジアに不信感を抱かれない様に極力優しく接している、セジアもセジアで誰かに褒めて貰いたい思いを秘めていたのでその言葉はとても心地良く、フォティーヌに信頼感を抱いていた。
そして、セジアは二度と戻れない道へと踏み入れる事となってしまうのだ。
おまけ
耳長社会 内政を幹母と言われる多産耳長を頂点とする評議会、外交と軍事を騎士団が担っている。
外交とはいっても国交をちゃんと交わしている国家は無く、主に東方大陸の先住民との争いが主な役目だ、だが、情報の収集自体は積極的に行っており、人類大陸への諜報活動や中央大陸への飛行偵察活動は活発に行われている。
内政に関しても耳長は自給自足生活を行なっている者が多く、余剰物資の取引などの調停が評議会の主な仕事である。
苦難の歴史を持つ東方耳長は騎士団の地位が高く、主戦力でもあるクフィカールは騎士の人数以上を保有している、これは東方大陸に良質な魔鋼鉱山が存在している為でも有り、魔鋼がユーマに対する有力な交渉材料である事も理解している。
苦難の航海生活を送った経験から耳長は特に食事に比重を置いている、その為に食材交易には非常に神経質で有り公正さを求めた結果、評議会が設立された。
幹母という多産耳長が頂点に君臨する理由には、次世代を担う子供達を優遇する意図が強いからで、その為に母親の地位がとても高い。