展開編 第二十話 細工された勝負

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  ダインはヒューリとの対戦の為に用意されていた会場の上空にビグ・ユーマを移動させると、格納庫に移動して一体の見慣れないマギガントに乗り込む。

  この見慣れないマギガントは新型では無く、ダインがよく乗っていたテガスのゾッフォをフィセーリアがクフィカールのフレームを参考にして改修した物だ。

  その名をダイオーンと名付けられ、全体的にゾッフォより細身でフーティアの様な見た目なのだが、全高は頭一つ分ぐらい小さい。

  波乱のお披露目式が終わり、今から本当の王位の決定が行われる段階だ、既に王位を争うヒューリとエリリナのマギガントは会場入りしており、今はダインが派手な登場を決まる時だ。

  ビグ・ユーマの格納庫が開かれると、ダインのダイオーンが降下装置も使わずに飛び出す、その背後に天翔る処女の姿は無いが、代わりに大きなバックパックが搭載されている。

  そして自由落下を行なっていたダイオーンが地上から10メートルぐらいの位置でピタリと止まると、そのままゆっくりと降下して着地する。

  その未知の技術に会場は響めき改めてユーマへの警戒感を高めている様でもあるが、ヒューリの駆るゾッフォが歩み出てダイオーンの手を取る。

  ヒューリ 「全くダイン王のなさる事は何時も凄いです、あの高さから飛び降りて無事に着地出来る新型のマギガントなんて」

  ダイン 「耳長の技術を応用してみました、それにこのダイオーンは新型では無くゾッフォの改修機です、ゾゥティ、ゾッフォ、フーティアはクフィカールを元に作られており、言わば先祖返りさせた機体です」

  ヒューリ 「元がゾッフォなのですか、同じゾッフォを使う私には信じられません、ですがダイン王が仰るからには事実なのでしょう」

  エリリナ 「あの、お話のところ申し訳ありませんが、紹介させて頂きたいと思います、私はエリリナ、ヒューリと同じくエゴナ王位を目指す者です」

  ダイン 「どちらもお若いですね、エゴナ王の事はフェカトから教わりましたが美しく強い女性を王位にするのですか、実に面白い国ですね」

  エリリナ 「ダイン王にそう言って貰えるとありがたいで、ご迷惑にも私達の争いに巻き込んでしまって・・・」

  ダイン 「こういう面白い事ならばむしろ大歓迎です、しかし、ゾッフォとウウル・ジーですか、エゴナとは解らない国ですね」

  エリリナの駆る機体はエディケス製のウウル・ジーだ、瞬発力に定評の有る決闘機でゾッフォよりも上位機種なのだが、今回の的を射抜く勝負では余り利点を活かせ無いだろう。

  ヒューリ 「私の機体もエリリナの機体も国家騎士団の物では有りませんから、それぞれの後ろ盾の貴族が用意した機体です」

  ダイン 「なるほど、エリリナ様の後ろにはエディケスと繋がりの有る方がいるのですね」

  エリリナ 「そうなりますね、ですが急に決まった決着なので慣れた機体を使うしか有りません」

  ヒューリ 「本来なら事前にお知らせすべきだったんですが」

  ダイン 「私に気を使う必要は有りませんよ、二人はお互いの勝負を優先して下さい、私は私でこのダイオーンの宣伝が出来れば良いので」

  ヒューリ 「ダイオーンですか、正にダイン王の為の機体の様です」

  ダイン 「普通を磨いて至高に至るのは理想ですからね、資材を投じて強い事は当たり前なんですよ」

  ヒューリ 「市の食材で絶品の料理を作る様な事ですね、確かに贅を尽くした食材で作った料理が美味しいのは当たり前ですからね、ダイン王は工夫する事の意義を重視しているわけですね」

  ダイン 「ヒューリ様はユーマの根幹を理解してくれている様です、自ら手を尽くして特別を産み出す事に大きな意味が有るんですよ」

  ヒューリの言葉を聞いてエリリナは驚きを見せている、血筋に流されて担ぎ上げられたヒューリの言葉とは思えなかったからだ、だが、それは同時にヒューリが本気を出すという意味にも感じ取られ、強引に決戦としての勝負を通したエリリナにとって願ったり叶ったりでもあった。

  実力と策略でこの場にいるエリリナにとって、敵を打ち倒して王位を得る事が望みだったのだ、その意味ではダインに感謝はしているのだが、同時に恐怖も覚えていた、これはエリリナが十分にダイン達ユーマを調べた結果で、ダインの持つ得体の知れない何かの存在に気付き始めているからでもある。

  裁定員 「お話よろしいでしょうか、私が今回の裁定を行わせて貰う物です」

  ダイン 「これは失礼しました、そろそろ勝負を始めるわけですね」

  裁定員 「はい、とは言ってもルール自体は簡単な物で、あちらに並べられた弩弓を使って三人同時に的を狙って貰います、一番多くの的を射抜いた者が勝者となります、なお同じ数を打ち抜けば引き分けとなります」

  ダイン 「私は引き分けでも構いませんが、王権を争う二人は決着が必要なのでは」

  ヒューリ 「同点の場合は私の勝利となります、そもそも私の騎士としての資質が問題とされていましたので、二人が同じ成績ならば私の勝利が確定します」

  ダイン 「了解しました、ところで同じ弩弓を再度使用しても問題は有りませんか、同じ癖の弩弓を使った方がやり易いと思うので」

  ダインの要求は予想外のモノだった、余り器用に指を使えないマギガントで弓弦を引く事はかなりの技量が要求される行為だからだ、実際にゾッフォではほぼ不可能な芸当であるからこそ、五十張程ある弦の引かれた弩弓をその都度選んで使う方式で勝負が行われるのだ。

  ヒューリ 「ダイン王の言い分はよく解りますので私に異論は有りません」

  エリリナ 「私もです、そもそも勝負に割って入った私に文句をいう権利なんて有りません」

  裁定員 「なら、ダイン王のお好きな様にして下さい、私も弓弦を引くマギガントには興味が有りますので、あと暫くすれば狼煙が上がると思いますので、それを開始の合図とします」

  ユーマ共栄国とエゴナ王国の協定戦三戦は全て同じ時刻に開催される事になっていた、情報が伝わって手心を加えられるのを防ぐ為の処置でもあった。

  対戦する三名達は更に細かいルールの説明を受けたあと、弩弓が納められた棚に訪れて、各々がこれだと思う人張を選んで行く、特別ルールが認められたダインは予備の太矢も受け取って、状態を確認していたのだがどうも納得が行かない様で新しい要求を口に出す。

  ダイン 「どうも感覚が掴み難いので、試し打ちをしてもよろしいでしょうか、実はダイオーンで弩弓を使うのも初めてなんですよ」

  ヒューリ 「それで勝負をするつもりだったのですか、私は問題有りません」

  エリリナ 「ならば私も、エゴナの処女騎士なら訓練する事ですから」

  裁定員 「対戦者の了承があるなら問題有りません、ですが時間も迫っていますのでお早くお願いします」

  了承を得たダインは、弩弓を的に向けて狙いを定めると引金を引くと、打ち出された太矢は微妙に的を外して地に落ちる。

  ダインとしては失敗を悔やんだが、会場からは別の意味を持つ響めきが起こる、マギガントによる弩弓の射撃は余程の熟練者でなければ当たる事などほとんど無く、今の一射でもかなり上出来な射撃なのだ。

  ヒューリ 「本当に初めてなのですか、一射目であれが放てるなんて」

  ダイン 「まぁ、大体の感覚は解りました、次は当てれるかも知れません」

  ダインは言葉を返しつつも弩弓の弓弦を引いて次の準備に入る、その流れる様に行われる動きにヒューリとエリリナはこの勝負に勝つ事が如何に難しいかを理解する。

  そして、狼煙が上がると遂にエゴナ新王を決める為の勝負が始まりを告げる。

  横一列に並んだ三機が銅鑼の合図で一斉に矢を放つのを五度繰り返して、一番的を射抜いた者が勝者となるのが、この勝負のルールで、既に矢を番てあったダイン以外は的に対して狙いを定める。

  ダインのダイオーンも直ぐに矢を番えて狙いを定めると、銅鑼が鳴らされて一斉に一射目が放たれる。

  三本の矢は各々自分の的へと飛来するのだが、上手く命中したのはエリリナな一本のみで、ダインとヒューリは的を外してしまう。

  ダイオーンの通信盤には対照的な二人の姿が映し出されて、ダインも親交を深めたヒューリの失敗に胸を痛めた。

  予めのルールで試合中の会話は禁じられており、三人は次の準備に入るのだが、弓弦を引いて矢を番るだけのダインは二人よりも余裕があった、そこで今の一射について状況を整理してみるが、どうやらこの競技は弩弓の質の差が大きく出る様だ。

  ダインの見たところ、ヒューリの射撃姿勢は完璧な物でその射撃は当たる筈だったのだ、だが、ヒューリの放った太矢は妙な軌道を描いて的を外したのだ。

  そこでダインはヒューリが撃ち終わって置いた弩弓に注目して、ダイオーンの視線を拡大すると弩弓自体に違和感を感じる、次にエリリナの使った弩弓を確認すると今度は自分の弩弓を確認して、違和感の正体に気付く。

  ダインとエリリナの弩弓には同じ所に刻印が記されているのだが、ヒューリの物には無かった、これが何を意味するのかは憶測で判断するしか無いのだが、十中八九仕込みで有る可能性が高い。

  それに気付いたダインは、ヒューリとエリリナが二射目の為に選んだ弩弓に注目する、今度は二人とも刻印の記された弩弓を持って来ており、次の射撃が刻印付きの弩弓の正体を見極めるのに参考になりそうだ。

  三人の準備が整い、鳴らされる二射目の銅鑼、今度は三人の太矢は一直線に的に向かって飛来すると全てが的を射抜く。

  ダインは横に並んだヒューリの動きが一射目と殆ど狂いが無かった事を、ダイオーンが記録した映像で確認すると、この勝負の仕組みに確証を抱いた。

  そして始まった三射目の弩弓選び、二度連続で当たりを選んだエリリナは今度も当たりの弩弓を引き当てていたが、ヒューリが選んだ物には刻印が無い、どうやら刻印の仕組みはエリリナ側の工作の様でヒューリは知らない様だ。

  ダインはイカサマをするエリリナに嫌悪感を覚えて、ヒューリを応援する事にする、とはいうものの如何にダインといえどもズレたヒューリの矢の軌道など修正する事など不可能であは有るが、エリリナの妨害をする手段は存在していたのだ。

  クフィカールを参考にして改修されたダイオーンには、人類圏では全く知られていない魔導具を組み込んで有った、それは細身のクフィカールに見えない障壁を展開して防御力を高める為の魔道具で、上手く障壁をコントロールすればエリリナの放つ矢の軌道を逸らす事も可能で有ろう。

  ダインは勝負への介入を決意し次の三射目に備える、二射目は三人が全て的に集中しているが、一本のアドバンテージを持つエリリナの表情は少し緩んでいる。

  そして、鳴らされる三射目の合図、ダインは密かに変形させた障壁をエリリナの前へと伸ばして自らも的へと集中する。

  放たれた三本の矢は的に向かって飛んで行くのだが、途中に障壁に干渉されたエリリナの矢は微妙に軌道をずらす、結果、三射目はダインの矢のみが的に命中して、ダインとエリリナが二度、ヒューリが一度という結果となる。

  ダイン思考 『このままエリリナの妨害をすれば私の勝利は容易いでしょうが、ヒューリを勝たせるのは難しいですね、何か良い手はないでしょうか』

  ダインは策略を持ち込んだエリリナでは無く、ヒューリを勝たせると心に決めた、ダインは戦争ではあらゆる手段を容認しているが、試合では公正なルールを重んじるのだ、一見矛盾の有る思考にも思えるが、命の危険の無いゲームには公正さを求めるのがダインの思考であるのだ。

  弩弓選びの時点で仕組みを知らないヒューリは大きなハンデを背負っており、最悪後二回の弩弓選びでちゃんと正解を選んで貰うしか無い。

  始まる四度目でヒューリが選んだ弩弓には刻印がない、対するエリリナはちゃんと刻印付きを選んで来ておりダインの心が益々乱される、ゲームのルールは順守するのがダインの信念でエリリナの行為はダインの流儀に反している。

  おまけ

  エゴナの豊作祈願 農業大国のエゴナでは豊作を祈願する祭事が数多く行われている、中でも的を射抜く祭事は特に多く行われており、女王の勤めの中には国の各地に在る的を順次に射抜いて周る物もある。

  その為にエゴナ女王は弓術の腕が特に重視されている、ただマギガントで行われている物はちゃんとした祭事では無く、娯楽的意味合いが強く公然とした賭けの対象にもなっている。

  ユーマとの賭け試合で射抜き勝負が行われる背景には、通常の勝負では明らかにエゴナ側が不利だという状況があったからで、余り一般的でないマギガントの射撃戦ではエゴナ側に優位があると判断が大きい、だが、ダインはその事を想定しており、新戦力のダイオーンの披露の場に選んだのだ。