レブナン島編 第四話 頼れる護衛達

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  トルポを丸呑みにして、小さめの尻尾カプセルを展開したダインは通信魔術でラフォリアと連絡を取る、自身の安否証明とトルポ隠れ家周辺の警戒を頼むためだ。

  そして展開したカプセルの中のトルポの姿を眺めていると、二つの遊魔の魔力が感じられて、その内一つが隠れ家へと入ってくる。

  ダイン 「早かったですね、まさか二人とも来てくれるとは」

  リレッタ 「私達も一度は別れたんですけど結局合流しました、一人で居るとクズ達が黙っていませんからね」

  ダイン 「それ程に退廃的な街だったとは・・・」

  リレッタ 「人類法の偉大さを実感しました、人類大陸じゃあんな事起こりませんから、人を不快にさせるのも罪ですからね」

  ダイン 「なら私は罪多き存在というわけですか、この状況はリレッタを不快にさせてますよね」

  リレッタ 「まぁ不快と愉快が入り混じってますね、でも不快よりも殆ど愉快です、なんで岩喰いの女性を捕まえているんですか?」

  ダイン 「このトルポが私の股座に飛び込んで来たんですよ、おまけに匂いにやられてしまいまして」

  リレッタは品定めする様にトルポを吟味すると、感想を漏らす。

  リレッタ 「本当に人間の子供の様ですね、男の岩喰いは今日何度も見ましたが女性を見たのは初めてです、ラフォリアも坑道でしか見た事無いと言ってましたよ」

  ダイン 「このトルポは私と同じ岩喰いの常識から外れている様です、岩喰いの風習が嫌で人間の街に隠れていた様ですし」

  リレッタ 「それでこの隠れ家なんですね、とても良い隠れ家だと思います、街外れで人目に付き難いですし、廃屋の外見ですから人が居るとは思えませんよ」

  ダイン 「この隠れ家は改造して使わせて貰いましょう、その意味でもトルポは有益な存在ですね」

  リレッタ 「不思議な感じがする娘ですね、あの耳長よりも更に幼いなんて」

  ダイン 「ですがとても頑強です、私のそのままの肉槍を咥え込んで喜んでましたから、人間だと裂けてしまうでしょうね」

  リレッタ 「この身体を得ただけでも、遊魔に大きな利益をもたらしてくれるんでしょうね」

  ダイン 「創造力を掻き立てられる存在ですよ、良い遊魔へと変わってくれる事は間違い有りませんが、この素材を活かすのはなかなか難しいですね」

  リレッタ 「その為に私達をお呼びになったんですね」

  ダイン 「はい、遊魔が近くにいる事が一番安心出来ますから」

  ダインの言葉にリレッタは満面の笑みを浮かべる、ダインに必要とされる事が遊魔にはとても満たされる瞬間でも有る。

  リレッタ 「必ずやお護りします、ラフォリアと交代で中に詰めますね、同じ者がうろうろしていては不審に思われるかもしれません」

  ダイン 「お任せします、私は暫く休みますので後は頼みますよ」

  ダインは休むと言ったもののトルポの隠れ家が狭く十分なスペースが確保出来ていない、そこでダインは尻尾カプセルの形を変化させて上部に平な空間を作ると、そこに這い上がって仰向けに寝転ぶ。

  リレッタ 「さすがダイン様は面白い事を考えますね、変化を楽しみながらも身体を休めるとは」

  ダイン 「リレッタも好きに寝転んで下さい、流石にここは一人用ですが」

  ダインは自分用に作ったベッドの出来に満足している、中に液体の詰まった尻尾カプセルのベッドは正にウォーターベッドで沈む感じがとても心地良いのだ。

  リレッタ 「なら、私も尻尾を下に敷いてみます、液体を多めの方が良さそうですね」

  ダイン 「尻尾で寝るなら、ケモノ形態が有った方が良かったですね、ケモノ遊魔の尻尾はどれもが良い毛並みですから」

  リレッタ 「私、このツルツルした感触も好きですよ」

  ダイン 「この島は結構温いですからね、表皮の調整をすれば寝心地もいいでしょう、ラフォリアと交代するまでは十分に休んで下さい」

  リレッタ 「同衾は出来なくとも近くで眠れるだけで幸せです」

  ダイン 「では休みましょうか、私は時が来れば目覚めますので放って置いて下さい、ちゃんとトルポの様子も記録してますから」

  リレッタ 「解りました、ラフォリアは信頼出来る娘ですから私も休みます」

  そう言ってリレッタはダインを目を向けるが既に寝入っている様だ、身体の操作に長けた遊魔は眠りさえも自在にコントロールする事が可能で、ダインはリレッタと過ごす時よりも休息を選んだ様だ。

  リレッタとしては少し寂しさを感じてしまうが、ダインの魔力がかなり減少している以上は休んで貰った方が有難い、ここは敵地でダインの代わりなどいない以上、常に万全の状態でいて欲しいのだ。

  結果リレッタもダインの言葉通りに休む事にする、実際リレッタも飛行での潜入から今まで休んでいないのだ、遊魔はある程度の覚醒の維持を可能として無茶が出来るが、肉体的な疲労などは睡眠で解消した方が遥かに効率的でも有る。

  それから数時間が経過してリレッタは意識を覚醒させる、肉体的な疲労は消え去っており、体調は万全ともいえる、ダインはまだ睡眠状態に有る様だが、外で見張るラフォリアと交代する必要が有る。

  隠れ家を出たリレッタを朝日が照らし出す、付近の魔力を探知したリレッタ少し離れた茂みからラフォリアの魔力を感じると、周囲を警戒してから近付いて行く。

  茂みの中には人一人が潜む空間が整備されており、無闇に移動するよりもここに張り込んだ方が人目に留まる事は無いだろう。

  リレッタ 「流石玄人ですね、私なら周りをウロウロしてましたよ」

  リレッタの言葉に茂みを抜け出したラフォリアが応える。

  ラフォリア 「重要なのは存在を悟られない事です、まぁ遊魔に見抜かれてしまったラフォリアが言っても説得力無いですけど」

  リレッタ 「乳魔も遊魔も人を完全に取り込んじゃいますからね、情報知ってる人間を取り込んだ時点でこちらの勝ちです、ラフォリアもリスト作ってくれたじゃ無いですか」

  ラフォリア 「なるほどラフォリアもああいうリストの一人だったんですか」

  リレッタ 「もっと苦労しましたけど、怪しい人物の裏を探して割り出しました、遊魔と違って人を送り込む必要があるでしょうから」

  遊魔の恐ろしい所は人間そのものを引き込んでしまう事だ、人の移動が無ければ間者を忍ばせる事は難しい、それなりに人間関係を培っている組織に対しては至難の技だが遊魔は条件さえ満たしていればどの様な立場の人間でも引き込めてしまうのだ、その結果、ククジアやエゴナといった大国が容易に遊魔色に染まりつつあるのだ。

  ラフォリア 「遊魔は遊魔を絶対に裏切らないですからね、マギクランもユーマを敵視してラフォリアもそう思ってましたけど、今は遊魔と共存しないのは愚かな事だと思います、だから希望の有る娘を教えるのは善意からの行動です、この幸福に勝る事なんて人間じゃ無理ですから」

  ラフォリアは既に立派な遊魔の一員だ、今のラフォリアは共に鍛え合い長い時を過ごしたマギクランの構成員としての絆などより、遊魔の絆を絶対的に信奉している、そしてマギクランのメンバーを遊魔に導く事を使命として捉えている。

  リレッタ 「ラフォリアの思いは十分に理解してますよ、だから私と交代です、島に来てから休息してませんよね、そんな事じゃ敵に遅れを取るかもしれません」

  ラフォリア 「解りました、ダイン様の元に参ります、朝方は人の動きが少ないと思いますが油断なさらないで下さいね」

  リレッタ 「もちろんです、ダイン様の休息を邪魔させるわけには行きませんから」

  リレッタの意気込みにラフォリアも安心してその場から離れる、だが、朝日に照らされた今の時間は視界が通っているので、隠れ家への侵入は細心の注意が必要だろう。

  ラフォリアは全神経を集中して、気配を探るが判明しているリレッタのモノ以外は感じる事は無い、ならば素早く侵入してダインの警護を行わ無ければならない。

  間者として培った音を立てない動作で隠れ家に侵入したラフォリアであったが、ダインは既に覚醒していてラフォリアを迎える。

  ダイン 「ご苦労様でした、ラフォリアもちゃんと休んで下さいね、私もまた寝ます、岩喰いの魔進化は慎重に進めますので」

  ラフォリア 「本当に岩喰いの女性ですね、島の暮らしが長いラフォリアでも街で見た事なんてありませんよ」

  ダイン 「変わり者同士が惹き合ったという事でしょう」

  ラフォリアはダインの下で眠るトルポの姿から目が離せない様だ、島出身のラフォリアでも珍しがるという事は岩喰いの女性とは本当に貴重な存在なのだろう。

  ラフォリア 「裸の岩喰いってこういうモノなんですね、人の子供とは肉付きが違います、この娘凄く強いですね」

  ダイン 「強いですか、強いとは戦う意志と肉体が絡み合うモノですよ、ですから岩喰いの社会から逃げたトルポに強さは無いと思います」

  ラフォリア 「そういう考え方があるんですか、確かに意志が無ければ強く無いかも」

  ダイン 「私は遊魔に強く生きろとは言いませんから、無理ならば逃げて下さい、私の故郷には“逃げるが勝ち”という言葉も有りますからね」

  ラフォリア 「しっかりと胸に刻みます、遊魔一人の損失は遊魔全体の悲しみになりますよね」

  ダイン 「その通りです、ラフォリアの命はもうラフォリアの為だけじゃ無いですから、気を付けて下さいね」

  ラフォリア 「ですがダイン様が遊魔を増やすと、その分危険も増えますよね?」

  ダイン 「そうなりますが創造への情熱を消し去る事は不可能ですからね」

  ラフォリア 「意地悪言ってすみません、ラフォリアもこの至上の幸福をもっと大勢と分かち合いたいですから、あと、女性を見る目が変わっちゃいますよね」

  遊魔の牝に同性に対する嫌悪感は全く無い、むしろ女性同士でも男性が女性を品定めする様な事が普通となっている、そしてダインの男性嫌いはある種極まっており、アーグルに来てから男性に触れた事すら無い。

  ダイン 「さて、私ももう一休みしますのでラフォリアも休んで下さい、トルポの魔進化には万全な状態で望みましょう」

  ダインはまたうつ伏せになって寝息を立て始める、ラフォリアにはリレッタの経験が共有されているので、隠れ家で休む方法も習得済みで尻尾を展開したラフォリアはベッドに変形させて寝る事にする。

  それからまた暫く静かな時が続く、遊魔側は警戒しているがマギクランは未だ遊魔の潜入になど全く気付いておらず、そもそも遊魔の存在自体にまで辿り着けていない。

  マギクランの認識ではユーマの力は異世界の技術の波及が原因で、その裏に人間を凌駕した存在が関与していると思っていないのだ。

  当然ダインの次の目覚めも平穏に訪れる、ダインと違って一度目の休養で有るラフォリアはまだ覚醒には至っていないが、トルポによって岩喰いをちゃんと理解したダインは次に進む事にする。

  尻尾の動きにより後ろに下がり、トルポのベッドに座り込んだダインは、正面に捉えたトルポの姿を観察する。

  堕液で膨らんでいた腹部は元の大きさに戻っているが下腹部には淫紋が発現しており、岩喰いという初めて会する種族でも、ダインの魔進化が有効で有る事が伺える。

  ダイン思考 『耳長もそうでしたが、岩喰いも人類から意図的に産まれた種族の様ですね、頑強さや不老が不自然に付与されている様に思えます、岩喰いが過程で耳長が完成形に思えます、まぁ岩喰いは過程に見えますが十分に完成された種族ですけどね、特に日光を必要としない生態は驚きですね、食物も含めて予めデザインされている様です』

  トルポを解析して得られた情報の中でダインを特に驚かせたのは岩喰いの主食で有る、岩茸という岩にそっくりなキノコで、これを食べる姿が岩喰いという種族名が名付けられた理由なのかも知れない。

  ダイン思考 『この岩茸というキノコは使えそうですね、地下での栽培が可能ならば多くの耕地を必要とせずに安定した食料になりそうです』

  遊魔社会の安定を目指すダインにとって、岩茸の存在は大きな利益となった様だ、そして、地下空間を生み出せる岩喰い、魔龍という超戦力を生み出す事が出来る耳長という両種族はまるで遊魔の為に用意されたモノの様に感じていたのだ。

  おまけ

  岩喰い巨人魔導具 岩喰いの間ではマギマイナーは道具でマギメイルは作品と言われている。

  この言葉の意味としてはマギマイナーは図面に定められた寸法を忠実に守った部品が使われ部品規格が存在するのに対して、マギメイルは部品規格から外れても機体性能を追求している為である。

  マギマイナーは汎用掘削機という立ち位置で、岩喰いが必要とする鉱物採掘が主な用途だ、対してマギメイルは純粋な戦闘用で一族に女性が産まれた時に作られるのが一般的だ。

  岩喰いの男女比率は三対一ぐらいで女性が圧倒的に不足している社会で、その為産まれた娘にマギメイルを送る習慣が生まれ、その中でより芸術的な方向に進歩して行った、これがマギメイルが作品と言われる由縁でもあり、見た目だけで無く機体性能も求められる様になった。

  純粋魔力の存在は岩喰いでも知られており、女性の乗り手の方がより高い性能を引き出す事が出来る、そして時の経過とともに女性を伴侶とするには巨人魔導具戦(男性はマギマイナー)で勝利するという習わしが生まれ、過保護な父親達により高性能なマギメイルが求められる様になっていった。

  だが、この風習はザキトス戦役時を境に廃れたとされ、特にレブナン島岩喰いは魔鋼ストックもない為にマギマイナーの生産すら長らく行われていない。