007-001
ダインを捉えたレ・ミュウは疲れた身体に鞭打って、ようやく自身の巣穴の一つへと辿り着いた、この巣穴は混沌大陸西部に位置する退避場所で入りくった地形が大型の魔龍の侵入を阻止してくれる、レ・ミュウのお気に入りの場所でも有る。
レ・ミュウは退避中に舌で巻き込んだ獲物が足掻く感覚を感じていたが、直ぐにそれは収まっていた、獲物はどうやら諦めのいい性格の様で抵抗の意思を捨てたのだろう、なら、今が絶好の機会でもある、心の折れた者は言いなりになり易いのだ。
魔龍の唾液に塗れたダインが舌に巻かれたまま口の外に出されると、その姿はレ・ミュウの想像よりも元気そうだった。
ダイン 「ようやく出して貰えましたか賢明な判断です、私を食べたらどうなるか分かりませんよ」
不思議とレ・ミュウには穢れ魔力の言葉が理解出来ていた、言語自体は解らないが穢れ魔力の言いたい事は解る、ならば今度は自分が意志を伝える順番だ、だが、魔龍のレ・ミュウには人の言葉の発音は不可能なので、知っている文字を空中投影してみる。
レ・ミュウ文字 「レ・ミュウも穢れは美味しく無いので食べたく無い、レ・ミュウが知りたいのは穢れが同胞を使役していた事だ」
穢れは空中の文字を何度か指でなぞって解読している様だ、そして、レ・ミュウの知る言葉で応えて来る。
ダイン 「驚きましたね、貴女の使った言語は私が定義する第二世界の言語です、私が知る限り、この第三世界と第二世界には接点が無いと思っていましたが・・・」
レ・ミュウ文字 「この文字は中央大陸の失われた文明の言葉、レ・ミュウが龍に成る前に使っていた言葉」
ダイン 「中央大陸の古代文明ですか、存在は耳長から聞いていましたが第二世界と通じていたとは、可能性は感じていましたが・・・」
レ・ミュウ文字 「穢れは劣等種を知っているのか?」
ダイン 「劣等種とは耳長の事ですか、私と共に居た二人がそうでしたよ」
レ・ミュウ文字 「嘘だ、あの二人は龍の魔力を持っていた、龍の魔力を劣等種が持つわけがない」
ダイン 「貴女と耳長は違うという事ですか、魔力を高めた耳長が魔龍化すると思ってましたが」
レ・ミュウ 「龍と劣等種は違う、ところで穢れは魔族では無いのか、魔族はもっと話が通じない」
ダイン 「まぁ、隠し事をしていてはちゃんとした意思疎通が計れませんからね、私は別世界から呼び出された者です、この世界に存在する魔族とは別種で遊魔と名乗っています」
レ・ミュウ文字 「ユウマか・・・確かに変な魔族だ、魔龍を全く恐れていない」
ダイン 「家族に魔龍が居るからですよ、魔龍は耳長が変容したモノだとも知ってますしね、話が通じるなら恐れる事も有りませんよ、それとも貴女は恐れられたいんですか」
レ・ミュウ文字 「恐れられる事が魔龍の宿命、でも真実を知る者が魔龍以外に居るとは思ってもみなかった」
ダイン 「一つ伺いたいんですが、耳長の姿で過ごした事はあるんですか、魔龍がどうして産まれるのか疑問が有りまして、私の魔龍は耳長が大きな魔力を持った時に誕生してましたから、何らかの修練によって変化すると推測してます」
レ・ミュウ文字 「魔龍に成れる耳長は歳を取る毎に魔力が上がって行く、耳長の中でも選ばれた者達」
ダイン 「突然変異的な存在なんですね、ですから純潔を保っていたと」
レ・ミュウ文字 「ただ、ここ数百年は新しい魔龍は産まれていなかった、耳長達も国を捨ててしまった」
ダイン 「その国を捨てた耳長達と交流を結んだんですよ、ですが特別な耳長が魔龍に成るという話は初めて聞きましたね、魔力で魔龍化する事は解っていましたけど」
レ・ミュウ文字 「お前はおかしい、劣等種は長く生きても魔力が上がらない」
ダイン 「私は魔力を制御する術を持っているんですよ、つまり私と居た耳長は耳長の姿と魔龍の姿を行き来する事が出来るんですよ、貴女には無理そうですけど」
レ・ミュウ文字 「そんな事が、でも確かに小さな穴の奥から龍の魔力を感じた」
ダイン 「龍の魔力ですか私には違いが解りませんが、魔龍にだけ解る能力ですかね」
レ・ミュウ文字 「レ・ミュウの力だ、他の魔龍には無い、魔龍は個々に違った力を得る」
ダイン 「リノールとシノールは双子なのに魔龍時の能力が違うのは、そういう存在だったからですね、遺伝的な特性ではなく、精神に関係していると思ってましたが」
レ・ミュウ文字 「お前は不思議な存在だ、話を聞く限り本当だと思える」
ダイン 「貴女に興味がありますから、出来れば家族に加えたいですよ」
レ・ミュウ文字 「レ・ミュウとお前がか・・・レ・ミュウはこの世で最も優れた存在」
ダイン 「どうでしょう、魔龍の生き方は楽しいとは思えませんが、私の魔龍は食事も美味しく食べれないと言ってますよ、生を謳歌するには美味しい食事は不可欠ですよね、それに男女の交わりも無理でしょう」
レ・ミュウ 「女を捨てる事で魔龍の道が開ける」
ダイン 「私の魔龍は愛を知ってますけど、貴女は可哀想な存在ですね」
ダインはレ・ミュウを恐れていないので挑発を繰り返す、これは意図的にレ・ミュウを怒らせる為で、その行き着く先を読んだ行動だ。
そして、怒ったレ・ミュウはダインを舌で巻き取って問答無用で呑み込んでしまう、実はレ・ミュウは空腹を感じており、ダインはちょうどいい食事だったのだ。
だが、このレ・ミュウの行動はダインの予想通りでもあった、初めに呑まれた段階でダインはレ・ミュウを解析しており、正面からでは勝ち目がない事を理解していた、レ・ミュウの外皮は硬くダインの爪では太刀打ち出来ず、その攻撃が当たると致命傷を負ってしまう事は間違いない、なら攻撃が届かずに攻撃が通るところを狙おうと考えたのだ、そして、ダインの攻撃とはレ・ミュウを殺傷するモノでは無く、取り込む為の行為だ。
ダインは魔龍化した耳長で得られたデータから魔龍の弱点を突き止めている、それは言うまでも無く耳長本体の身体で、その本体は魔龍の体内に存在している。
そしてその場所は外からの攻撃では到底到達出来ないところに位置しているが、消化器官からの位置は意外と近い。
大人しく呑まれたダインは食道を降り、本体が存在する場所の近くで止まる、そこに尻尾を突き立てて麻酔を注入すると、内壁はダインを迎え入れる様に入り口を作り出す、実はダインは目覚めて抵抗した時に堕液の注入も行っており、その効果が現れて来たのだ。
魔龍の身体自体はダインのよく知る魔法生物で構成されており、ダインの能力を使えば操る事も可能で有る、つまりダインはレ・ミュウの体内からその身体を乗っ取っているのだ。
ダイン思考 『ちょうど逆鱗というやつの裏側にレ・ミュウの本体が存在している筈です、胸骨と龍鱗に護られた一番防御の硬いところですよ』
ダインに操作されたレ・ミュウ魔法生物細胞はダインの意思に従って最重要部への経路を開く、そこには球体の肉繭に包まれたレ・ミュウ本体が存在しており、魔龍を構成する魔法生物を操ったところでレ・ミュウを堕とした事にはならないのだ。
レ・ミュウ思考 『身体がおかしい、胸の感覚が無くなっている、これは穢れを呑み込んだせいか・・・』
レ・ミュウも身体の異変に気付いたが体内で起こっている事に対処方法が思い付かない、それに痛みを感じていない事が恐怖心を弱めている。
レ・ミュウ思考 『何かやってる、胸の奥がムズムズする』
レ・ミュウは魔龍といっても、自身の体内の構造など知らない、魔龍化してからは魔龍の身体こそがレ・ミュウであり、元の身体が未だに核として存在している事を知らない、それ故にダインの行動の意味が理解出来ないのだ。
レ・ミュウ思考 『きっと食べられない様に足掻いてるだけ、放っておけば直ぐに死ぬ筈』
レブナン島で十分暴れて、僅かな休息の後の飛行でレ・ミュウは披露を感じていた、そして何故か物凄く眠いのだ、ダインが身体の中でまだ蠢いているのは不安ではあるが、本当に危なければ痛みを感じる筈なので、レ・ミュウは取り敢えず眠る事にする。
だがレ・ミュウが急激な睡魔に襲われた原因はダインが注入した麻酔にある、ダインは半ば食べられかけながらもレ・ミュウの組織を採取して、より効果的な麻酔を作り出していたのだ。
そして、うつ伏せで眠りに落ちたレ・ミュウの中を進むと目的地に到着する、丁度逆鱗の裏にあたるこの場所には魔龍の心臓と共に、元のレ・ミュウを収めた核である肉繭が存在し、ダインは慎重に肉繭に爪を突き立てる。
ダインでも魔龍の体内に潜入して、その核を確認するのは初めての行為で有るが、焦りはない、核さえ堕としてしまえば魔龍などどうとでもなるという自信があるのだ。
爪で開けた穴から尻尾の先端を潜り込ませると中の様子を探る、肉繭内部には液体が存在し中央には予想通り耳長の裸体が膝を曲げてうずくまる様にして存在している、だが、ダインが知る耳長とは異なるところもある、レ・ミュウの本体はダインが見た事の無い褐色の肌と銀髪を持っていたのだ。
ダイン思考 『耳長の変異体だという話でしたが、俗に言うダークエルフの様ですね、あのイメージも創作から作られた物だと思っていましたがまさか実在しているとは』
ダインはレ・ミュウ本体の容姿から、二次元のダークエルフを連想して胸を躍らせている、実際ダインは耳長の魔進化の系統としてダークエルフ化も考えていたのだが、実物が存在していた事に対する喜びは筆舌に尽くし難い、もっとも見た目が似ているだけの別物ではあるが。
そして、尻尾から分裂した触手を使っての調査が開始される、触手それぞれに備えられた眼の情報を統合して、レ・ミュウ本体の詳細な立体図がダイン脳内で構築されて行き、レ・ミュウの容姿がダインが抱くに値するモノだと判明する。
ダイン思考 『外見から年齢の推測は難しいですが、耳が垂れ下がっている状況から推測すると私が抱いた耳長の中でも最高齢なのは間違い無いですね、正に最高のロリババァという事ですね、おまけに自分を私より上に見ていますので堕とした後にどう媚びて来るか見ものですよ』
堕とすという行為に最大の悦びを感じるダインにとって、自身を蔑むレ・ミュウの存在は正にご褒美だ、堕とした時の感情の落差が大きい程にダインが得る達成感もまた大きいのだ、最近は人類圏の殆どの魔進化対象者がダインに対して好意的な感情を抱いている為に少し物足りなく感じていたのだ。
ダイン思考 『この肉繭は剥いでしまっても問題なさそうですね、魔龍体と肉体的に繋がっている所は有りませんが精神的に繋がっているでしょうから』
肉繭内部の調査を終えたダインは行動を開始する、魔龍レ・ミュウがうつ伏せの状態では、レ・ミュウ本体も身体を前倒した形で存在している、その状況に対してダインは仰向けに寝転がった状態で手を伸ばして、肉繭表面を切ると切り口から液体が降り掛かり、同時にレ・ミュウ本体も落下してダインの腹部に両膝が直撃する。
ダイン思考 『意外とあっさり出て来ましたね、しかし膝蹴りを喰らっても全く痛く有りませんね、この身体は痩せすぎです』
ダインは翼の剛腕でレ・ミュウを持ち上げるとその身体を解して延ばした状態にする。
レ・ミュウの身長は耳長の平均より少し小さいぐらいで、髪は長く持ち上げた状態だとダインを覆う様に垂れて来る。
ダイン思考 『本人の同意無しで切るのは可哀想ですからね、ちょっと纏めてみましょうか』
ダインは両手を使ってレ・ミュウの髪を纏めて始めて、かなりの時間を掛けて独創的な髪型を作り上げる、その間レ・ミュウに変化は無かったが、ダインの肉槍は熱りたってレ・ミュウを犯す準備は万全の様だ。
おまけ
ダインが認識している各世界 ダインは現在四つの世界の存在を認識している、第一世界として自分が産まれた世界、第二世界がファービがやって来た世界、第三世界が現在居るアーグル世界、第四世界がリエル達が産まれた世界だ。
第一世界は現代の地球の様な世界で地理歴史も殆ど変わらないが、ある時から第二世界からの接触が始まりそれが公になっている。
具体的には異形の発生や魔術を使う来訪者などで、第一世界では第二世界の存在がちゃんと認識されている、ただ来訪者は訪れているが、訪問者は居ないとされている。
第二世界は魔術に秀でた世界という認識だ、魔王という存在によって統治された世界で侵略の為に第一世界に異形を発生されていると来訪者から伝わっている。
ただ第二世界の情報は来訪者(魔王に対する抵抗勢力でイレイサー組織の創設者)からの一方的な情報で真偽が確認されていない、ただ、ダインはファービからの偽りの無い情報を得ていて概ね真実だと理解している。
第三世界はアーグル世界でまだ情報を収集している段階だが、異形と魔族が同質の存在でアーグルが起源だと推測している。
第四世界はリエル達やザキトスの出身世界、遊魔能力で存在は確認しているが、第一世界より五十年ぐらい遅れた科学文明と魔術文明が共存しているという認識だ、ただ、リエルは第四世界に居た頃より異形化に近い症状を発症しており、ダインの推論に違和感を与えている。