007-019
相手の力量が読めないディセルトではなかったが、抵抗が全くの無駄だとも思っていなかった、確かに魔族は耳長より強靭な身体を持っているが、隙を付けば何とかなるかも知れない。
そして、ディセルトが直ぐに実行に移す、自分の考える時間は相手にも考える時間を与えているのだ。
咄嗟に放った閃光魔術は、テーブルの上で発光してディーティエとディーティルには直に届かない筈だ、ディセルトは閃光が起こると同時に眼を瞑って後方に飛び退くと、背中が何かに当たって思う程逃げられていない。
そして、背中に当たった何かは粘着質の物体の様で、完全にディセルトの身体を捕らえてしまった、しかし、例え自分が捕らえられても二人が逃げられれば本望だ。
だが、事態はディセルトの希望を完全に打ち砕く、ディーティエもディーティルも座席から動いた気配を感じないのだ。
ダイン 「いい判断ですね、ですが遊魔を甘く見た様です、私の尻尾は既に貴女方を捕らえているんですよ」
ディーティル 「脚が何かに掴まれてる、凄い力で振り切れません」
ディーティエ 「こっちも同じです、軽く掴まれてるいるんですが、全く動けません」
レ・ミュウ 「主の話はまだ終わってませんからね、逃げようとするなんて愚かですよ、主が遊魔の姿を晒したのは三人を遊魔にするからです、そうじゃ無いと秘密にしますよ」
ダイン 「滅びを待つ貴女方を遊魔に誘うのは良い提案だと思いますがね、確かに遊魔の見た目は魔族の様ですが、無理強いはしたく有りません、ですからもっと私達を知って貰いたいと思うのです、知れば長寿不老の耳長であっても遊魔への魔進化を望むと思います、現に私は東方の耳長を何人も遊魔にしてますからね」
ディセルト 「既に同胞を手に掛けていると言うのですか」
レ・ミュウ 「それは違うと思いますね、主は耳長を完全な存在へと昇華されてくれる方です、ミュウの様に魔龍に成れない耳長にも魔龍の力を与えてくれるんですよ、ミュウも主の生み出した耳長の魔龍と邂逅した事があるので」
ディセルト 「魔龍に導く事が出来るとは・・・耳長という種族自体が魔龍を産むために作られたという話が本当みたいじゃ無いですか?」
ディセルトの言葉はダインが予測はしていたが初めて聞く言葉だった、だからこそその出所が知りたくなる。
ダイン 「東方耳長からは聞いた事も無い話ですね、東方に伝えていない事実なのでしょうか?」
ディーティエ 「それは、この北部で見つかった文献に記されていた話です、長い時間の有った私達は北部に眠る文献などを探して、ここが禁断と言われた理由を追い求めていたんです、地の王もここが禁断である理由を求めていた様ですから」
ダイン 「大陸に残った耳長と地の王と言われる岩喰いが争ったわけですね、南部の砂漠でその痕跡を発見しました」
ディセルト 「この北部は耳長と岩喰いにとって、不可侵の土地として認識されていました、だが、居残り耳長達は安住の地を得るのと引き換えに地の王との決戦を依頼されたのです、依頼して来た存在がどういったモノなのかは私達でさえ解っていませんが約束は護られて今この地に住む事が許されてます」
ダイン 「すると、混沌大陸に生き残っている耳長は貴女方三人だけという事ですか?」
ディセルト 「私が知っている限り三人しかいません、多くは戦いで死ぬか、地の王に連れ去られてどうなったのか解りませんから」
レ・ミュウ 「ミュウは魔龍でこの大陸に居たけど、そんな事が起きてるとは知りませんでした」
ディセルト 「推測でしか有りませんけど、地の王は岩喰いの魔族の様です、岩喰いは耳長と違って幾つもの部族が有りましたが、地の王によって統一され一つの国となっている様なんです、そして、ザキトス魔族とも同盟関係にある様です」
ダイン 「よく北部は侵攻されてませんね」
ディセルト 「私達と接触した意思は未だ未知の力を蓄えている様です、ですがディさん達がここに来れたという事は拒絶されていない証だとも思えます、アレに拒絶されれば生きてはいない筈ですから」
ダイン 「それ程の力のある存在がどうして耳長に助けを求めたんでしょうか?」
ディセルト 「私にも解りません、私がディから逃げようとした理由の一つに守護者の意思を確かめるという思惑が有りました、もし、ディを拒むのなら私達は逃げられた筈です」
ダイン 「北部の守護者ですか・・・耳長に戦いを任せたり、多分私をここに導いてますね、で、ディセルトさんはその声を直接聞いたんですか?」
ディセルト 「声が聞こえるんじゃ有りません、頭の中に響いて来る感じです」
ダイン 「遊魔である私には伝えられない能力なんでしょうか、私に伝えた方が早いと思いますが・・・」
レ・ミュウ 「多分、ディセルトを遊魔にするのが一番早いんじゃ無いですか?」
ディセルト 「あ、今、響いてます、ミュウの言葉が正しい様です、アドレスが解らないとか?」
ダイン 「アドレスですか、私の世界の通信技術の様ですね」
ディセルト 「そういう認識で正しいそうです、守護者の意向がある以上、私は遊魔へ加わる事を容認します」
ダイン 「自らの意思で望んで欲しいですが、時間は有限ですからね早速始めましょう、寝室はどこでしょうか?」
ディセルト 「遊魔にされるのと寝室って何か関係があるんですか?」
ダイン 「私が抱く事で、遊魔に魔進化するんですよ、私は遊魔以外では処女しか抱きませんから」
レ・ミュウ 「だから三人共処女なところが意図的に思えるんですよね」
ディーティエ 「男の耳長は直ぐに全滅しましたからね、あれも守護者の意思だったんでしょうか?」
ディセルト 「確かに不自然な感じはしました、あの時幹母は操られていたのかも」
ダイン 「百年以上前の話ですよね、一応東方の耳長の男は生き残っている様ですが・・・」
ディーティル 「そうじゃ無いと本当に耳長は絶滅してしまいますからね、東方大陸では新しい世代も生まれてますよね?」
ダイン 「既に東方で産まれた耳長も遊魔には加えてますよ、私の記憶を投影して東方の耳長の姿を見せる事も出来ますよ」
ディーティル 「ちょっと見てみたいですね」
ダイン 「ならやってみましょうか、この姿だと楽に投影出来ますからね」
ダインの両角から出た光線が交わると、そこに耳長の女性の姿が映し出される、居残りの三人に配慮して、当時から騎士として活動していたフィセーリアの姿が投影されると、三人は直ぐに誰だか分かった様である。
ディセルト 「フィセーリアですね、落ち着いた立派な騎士になってくれた様です」
ダイン 「やはり見覚えが有りましたか、耳長は騎士の集団とその他に別れると聞いていましたから、私の知る古参騎士を投影してみました」
ディーティエ 「フィセーリアが古参って変な感じです、あの娘筋は良いけど腕はまだまだでしたから」
ダイン 「なかなかの強敵でしたよ、戦い方に隙が無かったですが私の行動は測れなかった様です」
レ・ミュウ 「魔龍に呑まれて中のミュウを抱いちゃう様な人ですからね、何するか解りませんよ」
ディセルト 「一番やり難い相手ですね、型にハマらないって何するか解らないから怖いんですよ」
ダイン 「私は準備段階から相手の想定外を考えますから、フィセーリアと対峙した時は魔龍よりも大きな飛行マギガントで戦ったんですよ」
ディーティエ 「なんか変な事言ってますね」
ダイン 「百聞は意見に如かずと言いますからそれもお見せしましょう、ちょうどクフィカールと一緒の画像も有りますから」
角光線は今度はビグ・ユーマとクフィカールの映像に切り替わる、その映像にダイン以外は驚きの声を上げる、そしてディセルトは何かを呟く。
ディセルト 「マギフォート・・・」
ダイン 「魔導城塞ですか、確かにその通りですがこのビグ・ユーマは浮遊して移動する事が出来ます」
ディセルト 「いや、私は何のことか解りませんが、守護者がそう言ってます」
ダイン 「私が作る以前に同じ様な物が存在したという事ですか?」
ディーティエ 「でもこれ、クフィカールより遥かに大きいですよね、こんな巨大な物が本当に飛ぶんですか?」
ダイン 「遊魔の強大な魔力なら可能ですよ、貴女方も遊魔に魔進化さえ果たせば操る事も可能ですね」
ディーティル 「こんな巨大な魔導具を扱うなんて・・・でもディさんの魔力量なら可能なのかも知れません」
レ・ミュウ 「ミュウも実物が有れば使えるんだよね」
ダイン 「もちろんですよ、ところでマギフォートという物について詳しく知りたいんですが」
ディセルト 「私が与えられた情報は名前ぐらいです、でもこの映像の魔導具と近い物の様です」
ダイン 「なるほど、情報を手に入れるにはディセルトを堕とす必要があるわけですね、色々と横道に外れましたが本題に移りましょうか、遊魔は遊魔同士で知識を共有出来るので、人と話して理解する必要も有りません、そもそも話して理解出来るとは限りませんからね、その意味でも遊魔同士の相互理解は完璧と言っていいでしょう」
レ・ミュウ 「主の知識を探ると混乱しちゃいますけどね、解っても詰め込み過ぎると混ざっちゃいますし」
ダイン 「私が長年掛けて蓄えた知識ですから、そう簡単にモノには出来ないでしょう」
ディセルト 「確かに未知の知識との邂逅は興味をそそるものです、ですがそれは私を変えてしまう気も」
ダイン 「その辺りはミュウに聞くのが良いでしょうね」
ダインの言葉で一同の視線がミュウに集まると、少し考え込んでミュウが言葉を発する。
レ・ミュウ 「ミュウは魔龍だったから大きく変わったけど、耳長のままなら変わらないんじゃ無いかな、食事の時に魔龍は丸呑みだけど、耳長だと調理の選択が出来るでしょ、そして遊魔になるとそこに遊魔の調理技術の選択が産まれるわけ、でも、ミュウは美味しい物が食べられると満足だから、ミュウの本質は変わってないわけ」
ディセルト 「ある意味納得出来る解答ですね、知識で選択は広まりますが選ぶのは自分という事ですか」
レ・ミュウ 「でも、圧倒的に満たされるモノも有るよ、それは主に愛される実感かな、こればかりはミュウも遊魔になって知った感情だから凄く満足としかしか言えないね」
ディーティエ 「ディセルトが怖いのなら私が立候補しても良いですよね?」
ダイン 「私は問題有りませんが・・・」
ディセルト 「それは駄目です、妹分を先にする事は出来ません」
ディーティル 「何だかんだでルトは責任感有りますよね、守護者の加護を受けたルトはもっと自分を大事にしても良いと思いますが・・・」
ディセルト 「その守護者が望んでいるんですよ、守護者はダイン様との邂逅を求めてます」
ダイン 「偽名もバレていましたか、未知の存在に私も恐怖を感じますが興味が勝ってしまいますね」
ディセルト 「なら、私も覚悟を決めましょうか、湯浴みなどはしなくてもいいでしょうか?」
ダイン 「ディセルトが綺麗な身体で抱かれたいというなら時間を取りますよ、私は湯を沸かす魔術も修得してますので」
レ・ミュウ 「世の中には変な魔術も沢山存在してますよね」
ダイン 「湯を作るのは結構使える魔術ですよ、冷たい水に入るのは苦痛ですが、暖かい湯に浸かるのは幸福です、川で作ったお風呂は気持ち良かったでしょう」
レ・ミュウはダインと二人の時間で体験した川風呂を思い出して頷く、気持ちいい事は遊魔にとって最も重要視される事でもあり、それがダインとの性交だけでは無いという実例でもある、遊魔の本拠地ユーマ共栄国にはちゃんと浴場が設けられており、ダインに頼らない幸福の探究も貪欲に行われているのだ。
レ・ミュウ 「確かにあれは定期的に行いたいです、お湯に入るのがあんなに幸せになれるなんて」
ダイン 「心に幸福だけでなく、衛生面からみても優れた文化なんですよ、私なんてユーマでは毎日入浴してましたから」
レ・ミュウ 「流石、主が作った国ですね、あの至福を毎日体験出来るなんて」
ダイン 「水さえ有ればここでも尻尾で湯船を作る事も出来ますよ、体験してみますか?」
レ・ミュウ 「主は意地悪です、何でそんないい事を教えてくれなかったんですか」
ダイン 「いや、遊魔の身体は入浴しなくても清潔ですからね」
レ・ミュウ 「確かにそうですけど」
ディセルト 「尻尾のお風呂、よくは解りませんが折角、ダイン様が用意してくれるならば試してみましょうか、下に井戸が有りますがそれで大丈夫ですよね」
ダイン 「水の汲み上げから、湯沸かしまで直ぐに出来ますよ、何なら身体の乾燥もお手伝いしましょうか?」
ディーティエ 「何だかよく解らない人達です、凄いのは理解出来ますけど変なところに凄いです」
ダイン 「幸福とは何も大きな事ばかりじゃ有りませんから、入浴で幸福になれるなら遊魔は喜んで方法を編み出すんですよ」
遊魔は自身の幸福の為なら、貪欲に状況を変化させて行く、遊魔の身体はそれが可能な万能な尻尾を持っているが、直ぐに人じゃ無いと解る遊魔形態を曝す必要があるのが悩みの種でもある。
おまけ
ディセルト 三天人の中の最年長、年齢は八百歳ぐらいで、実はザキトス戦役時に人類大陸に何度か訪れた事が有り、戦役を記した書物の中にその名が刻まれている。
もっともディセルトは騎士ではあるが戦闘は余り得意では無く、主に交渉役として活動していた、交渉役の騎士だからこそ純潔を守る必要があり、未だに処女であった。
長年の経験から人の様子などからその意図を読み解く事が得意で、ダインに会う前から三天人の予言を利用しようとする意図に気付いていた、だが、三天人の代わり映えのない生活に失望しており、ダインの器次第で協力する意図はあった。
年長者と交渉役という立場から、三天人の実質のリーダーで有る、かつて北部の古代遺跡に訪れた後から、北部の守護者と言われる存在の声を聞く事が出来る様になった。
北部の守護者の声にもダインの来訪を伝えられており、自分なりに見極めた後は協力的になる。
趣味は香草茶の調合でディーラル国内にはディセルトが生み出したルト茶という飲み物が流通しており、収益の一部が三天人資産として蓄えられている。