混沌探索編 第二十七話 超存在の影

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  遊魔として変容を遂げたディーティルとディーティエはもう水中での呼吸の心配も無かった、付与された遊魔部位の酸素供給能力は順調に機能しており、触手酸素吸入機は外されている。

  その事でカプセル内の二人はダインの求める美をちゃんと表現する形になり、観賞するダインも十分に納得出来る姿であった。

  ダイン 「昇天という感じの演出で二人を覚醒させましょう、まぁ繋ぎ止めている触手から開放すると浮くんですがね」

  ダインの言葉通り触手から開放されたディーティルとディーティエは徐々に浮かび上がって来る、上部でベッドを形成していた部分は変形して上が開いた水槽構造へと変わっており、浮かび上がったディーティルとディーティエは上半身を上にして入浴している様にぷかぷかと浮いている。

  レ・ミュウ 「ここからじゃ上の様子が解り難いですね、耳の形が気になるんですけど」

  ダイン 「それは間近で見てみるといいでしょう、どうやら二人とも目を覚ました様ですね」

  ダインの言葉の正しさを示す様に上で水飛沫が上がっている、覚醒して不安定な水に浸かっていた二人が状況を理解出来ずに慌てているせいだ。

  ディーティル 「えっ、なんですかここ、身体が浮いて変な感じで」

  ディーティエ 「水の中ですね、足が着かなくて不安ですけど、沈む感じもしませんよ」

  ダイン 「魔法生物で作られた遊魔部位は軽く出来ていますからね、水を吸うイメージで上手く浮力の調整も出来ますよ」

  ダインの声を聴いて二人は冷静さを得た様だ、直ぐにダインの指示を実行してみると、首だけ液体から出した状態で身体を安定させてみせる。

  ディーティエ 「なるほど、これなら水の中でも怖くありません、私は水が苦手だったんですけど気持ちの良いものですね」

  ディーティル 「本当ですよ、ティーが気持ち良さそうにしてます、水浴び嫌いなのに・・・」

  ディーティエ 「昔、クフィカールで湖に落ちましたから、操宮に水が満ちて来る恐怖は実際体験しないと恐ろしさが解らないと思います」

  ダイン 「それは怖そうですね、よく生き残りましたね」

  ディーティエ 「ディセルトがクフィカールで助けてくれたんですよ、ティーの機体は沈んじゃいましたけど・・・」

  ダイン 「それは朗報ですね、飛んでいたから湖に落ちたという事ですよね」

  ディーティエ 「はい、マギガマイナーの攻撃で損傷していた部分が機能停止したんですよ、湖の上で無ければ地上に激突して死んでいたと思います」

  ディーティル 「幸運か不運か難しい出来事ですね」

  ディーティエ 「生き残った事は幸運ですよ、こうして遊魔に成る事も出来ましたし、あの時死んでいたなら今この幸福を得る事が出来ませんでした」

  ディーティル 「本当に新しい世界が開けちゃってますよ、世の中がこんなにも楽しい事で満ちていたなんて・・・」

  ダイン 「世の中、楽しもうと思えば幾らでも楽しい事が有ります、まぁ遊魔思考なら色んな事に楽しみを見出せますが・・・」

  ディーティエ 「北部なんてつまらないと思ってましたけど、今は知りたい事ばかりですね」

  ダイン 「私は二人がちゃんと遊魔として飛べるのか知りたいですけど、浮遊を使えばそこから出て来れますよね」

  ディーティル 「これで羽ばたかないんですか、せっかく付いてるのに・・・」

  ディーティルは翼を軽く羽ばたかせてみると、水飛沫が巻き上がってダイン達の元まで飛び散って行く。

  レ・ミュウ 「濡れちゃったじゃないですか、そうならない為の浮遊魔術の使用だったんですよ」

  ダイン 「まぁ仕方有りませんよ、翼が有れば飛ぶのに使うのは当たり前ですからね、でも遊魔が宙に浮く方法は色々と有りますから」

  ディーティエ 「そういう事ですよね」

  ディーティエは上手く魔術を発動して浮かび上がると、水槽の縁を飛び越えてダインの横へと降り立つ。

  ダイン 「上出来です、それが出来るならもう長距離だって飛べますね」

  ディーティエが褒められた事が悔しかったのか、ディーティルも魔術で浮遊して水槽の縁を飛び越えるが、ダインの両脇はレ・ミュウとディーティエで埋まっており、前には水槽が鎮座している、そこでディーティルはくるりと半回転してダインの背中に抱き付いた。

  レ・ミュウ 「あ、この娘、油断出来ないタイプです、行きなり大胆過ぎますよ」

  ダイン 「いや、遊魔として好ましい思考です、無駄に遠慮なんかするよりも自分で考えて利益を追求しましたから、欲望に貪欲な方が新しい道を発見出来るんですよ」

  ディーティル 「遊魔の才能が有るってダイン様に褒められちゃいましたよ、もしかするとディセルトにも勝てちゃうかも?」

  ダイン 「遊魔に身分の上下は有りませんよ、有るのは私の好感度ですが自尊心の強い者を私は好みません」

  レ・ミュウ 「それが主の難しいところ、主は遊魔の太陽の様な存在だけど、日の届かない所が大好き」

  ダイン 「確かにその通りかも知れませんね、私は日陰が大好きですから遊魔で己の功を喧伝するのは私の印象を悪くさせます、解る者には解ってしまいますからね、流行るという事は価値の解らない者を引きつけているという事なんですよ」

  レ・ミュウ 「主の考えは難しいです、多くの者に支持されるのは良い事ですよね」

  ダイン 「そうでは有りませんよ、皆んな居心地の良い言葉に騙されますから、何を活かして何を殺すのかの判断は大抵の事に付き纏います」

  ディーティエ 「今のディセルトは殺されているという事ですね、自ら身体を投げ出したのに・・・」

  ダイン 「その判断も私の疑念の一端にもなっています、私に都合の良い事は罠の疑念を抱かせますから」

  ディーティル 「気の抜けない考え方で疲れちゃいますよ」

  ダイン 「私には遊魔の未来が掛かってますから、そしてディセルトをなんとかする方法も思い付きました、遊魔生体認証を行いましょう」

  ダインの言葉に一同は呆然としている、ネットワーク概念など存在しないアーグル住人達にダインの言葉は理解不能なのだ。

  ディーティエ 「どういう事かは解りませんけど、ディセルトにもこの喜びは知って欲しいですから、ティーに出来る事があるならば何でも言って下さい」

  ディーティル 「ティルも頑張ります、何をしていいのか解りませんけど」

  ダイン 「先ずちょっとした実験に付き合って貰いますよ、電気の流れのパターンや抵抗を解析して遊魔個人を特定してから、共通意識とリンクする様にします、現状この地域での共通意識の要は私の空間レイヤーに格納されてますので、遊魔中枢とも言えますからね」

  人間形態ダインの遊魔部位は、ダイン本体と同座標に有る空間レイヤーに格納されている、ダインは空間レイヤーを具現化させる事で、様々の遊魔部位を瞬時に展開させており、尻尾、翼、角などは個々の空間レイヤーに存在するモノを現実世界に具現化させる事で遊魔形態へと姿を変えているのだ。

  遊魔の共通認識を司る生体データサーバーの本体は具現化させる事なく運用されており、この生体データサーバーが遊魔の繋がりの根幹でも有る、ただ心配性のダインはバックアップを複数用意しており、現在人類圏に居る遊魔達はそのバックアップと繋がる事で遊魔社会を維持している。

  そしてダインが持つオリジナルと繋がっているのは、同じ世界から来た者と人類大陸で産み出して来た遊魔達のみで、ダインが北部の守護者と関係を持つディセルトを迎える事に慎重なのはオリジナルの変質を恐れているからでもある。

  レ・ミュウ 「要は主の心への接触に検問を設けるという事ですね、主の心と繋がるのにミュウだと証明するという仕掛けを作るんですよね」

  ダイン 「ミュウもなかなか解って来ましたね」

  レ・ミュウ 「ここでの一番のお姉さんですから、主と語らう事で確実に進歩してます、魔龍から先があったなんて考えもしませんでしたけど」

  ディーティエ 「進歩ですか・・・確かに・・・やはりディセルトも魔進化させてあげないと・・・」

  ダイン 「ちょうど今解決したところですよ、私の生体データサーバーは個別認証が可能になりました、取り敢えずディセルトからのアップロードを不可能にすれば私の生体データサーバーが書き換えられる事は有りません」

  レ・ミュウ 「また誰も解らない事言ってます、でも問題が解決した様で何よりです、ディセルトも犯っちゃいますよね」

  ダイン 「既に合意済みですからね、二人よりも一対翼を増やしてみましょうか?」

  ディーティエ 「ティー達より格上って表現ですよね、遊魔に上下は無いって話でしたけど・・・」

  ダイン 「いや、同格なのは変わりませんが同じデザインでは面白味に掛けてしまうじゃ無いですか、後発の者は先人の結果を反映しないと・・・」

  レ・ミュウ 「翼増えて何か変わるんですか?」

  ダイン 「少し推力が上がって早く飛べると思います、まぁ二割ぐらい最高速度が上がるぐらいです、ここの耳長は既に私より早く飛べるので些細な事ですよ」

  ディーティル 「確かにダイン様に付いて行けないのは大問題ですけど、ダイン様より早いのは申し訳ない様な・・・」

  ディーティエ 「そうですか、先行して安全を確保するのは重要な仕事です、殿を勤める時も早い事に越した事有りません」

  ダイン 「兵は拙速を尊ぶと言って、速いという事はとても重要なんですよ、私の世界の兵器には燃料という足枷が有りましたが、遊魔の魔力回復は速いので二時間も休めば万全の状態になりますからね」

  ディーティエ 「二時間でこの魔力ですか・・・クフィカールの魔力消費なら延々と飛べるんじゃ有りませんか?」

  ダイン 「確かに純粋魔力を維持している処女の遊魔ならそうなりますね、ですが二人はもう無理ですよ、ですがユーマ本国では魔力に頼らない飛行技術を確立していますし、純粋魔力を持ちいない魔導飛行の方法も実用化していました、魔力消費は格段に多いのですが軽減の為の模索も行われていました、ユーマに残した者は創造力が豊かでしたので既に完成しているかも知れませんね」

  レ・ミュウ 「ミュウも人類大陸の姉様達にあってみたいです」

  ダイン 「ミュウは何人かに会っていますよね」

  レ・ミュウ 「あの時は敵でしたから・・・」

  ダイン 「そうですね、あれから三週間近く経ってしまいました、そろそろ一度戻るべきでしょう」

  ディーティエ 「その前に奇妙な山を調査するんですよね、あ、ディセルトの飛行能力を高めるのは人類大陸へのお供という事ですか?」

  ダイン 「そこまで先を意図してるわけでは有りませんよ単に興味の問題です、それに二人も翼の機能を磨いて行けばより早く飛べる様になりますから・・・自分の望む方向に変わって行けるのが遊魔です、ところで水槽の水を流すのはどうすればいいでしょうか?」

  ディーティル 「そこの排水溝に流して下さい、地下の下水道から街に流れる様になってます」

  ダイン 「中世の街に近いのに下水道完備ですか、街の構造物より地下の方が進んでますね」

  ディーティエ 「そうなんですか、言われてみると耳長の集落には下水道なんて有りませんでしたから、洗い物とかは川で済ませてましたし」

  ダイン 「今まで耳長三人に意識が向いていましたけど、北部人類自体に守護者の影響があるのかも知れません、リリルカをここに呼び寄せて詳しく話を聞いてみましょうか?」

  ディーティル 「お望みと有れば使いを送る様に連絡します、もうこの屋敷はダイン様の物ですからご自由にお使いください」

  ダイン 「なら、メファティよリリルカを遣す様に連絡をお願いします、北部を知るのはリリルカは有用な人材です」

  ディーティエ 「その娘、妹にするのですね、話し合って理解するより遊魔に加えた方が早いですからね」

  ダイン 「二人の知識を私の世界の知識で補完するのも重要ですから、何せ相手は私の力を超えている様ですから」

  レ・ミュウ 「それが信じられません、主は何でも出来ると思えますけど・・・」

  ダイン 「この世界の構造物は小さめですからね、大きな物が動くというだけで破壊力があるんですよ、実際に奇妙な山を調べればその凄さが解る筈です、私でも数十メートルの浮遊母艦の建造がやっとなんですが、アレの規模は数十倍以上でしょうから」

  ディーティエ 「実物を間近で見たのはディセルトだけですから、ティーにはよく解りません詳しくも教えてくれませんでしたから・・・ただ関わらない方がいいとだけ言ってました」

  ダイン 「ディセルトが何を見たのか確認した方が対策出来ますね、ですから魔進化を進めましょうか」

  既に水槽からはチューブが排水溝まで延びて排水が始まっている、水槽の水位は徐々に下がって、ディセルトの口に装着された呼吸器の動きから覚醒の為の準備が進んでいる事が予想される。

  ダインの北方の探索も佳境に向かっている様で、ディセルトの存在は古代文明の産物とも思える奇妙な山を探索する上で、重要な情報をもたらしてくれるだろう。

  おまけ

  空間レイヤー ダインがいつの間にか開発して、遊魔の基本として組み込んでいたシステムで、ペイントソフトのレイヤーの様な使い方をするので空間レイヤーと呼んでいる。

  運用方法は遊魔個体に複数の空間を重ねて、必要に応じて展開と閉鎖を行う事が可能である。

  具体例を上げるなら、初回魔進化後の尻尾などが、人間形態時には空間レイヤーに格納されており、今の遊魔は瞬時に人間形態と遊魔形態を行き来する事が可能となっている。

  空間レイヤーは複数を重ね掛けしており、魔進化によって生じた遊魔部位は個々に空間レイヤーへと格納されて、個別の遊魔部位の展開なども可能であり、かなり容量の有る物も格納可能で、レ・ミュウの魔龍体なども空間レイヤーで格納状態にある。

  また、ダインはこの能力をより進歩させており、遊魔の基本知識を司るダインの補助脳などもこの空間レイヤー内に存在しており、遊魔個体全てにこの補助脳空間が重なっている、これは物体として現実空間に存在していない為に可能な事で、遊魔に統一された知識を持たせる事を可能としている。