ディーラル侵蝕編 第二十四話 ヒーソフの保険

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  花園に本拠地を移したダインが色々と満喫していたのと対照的に、王都ディグランに残った三天人達は色々な難題が山積していた。

  中でもザオルの襲撃者達の問題はいくら被害者側の三天人が許しても、ちゃんとした罰を与え無ければ示しがつかないと国王ヒーソフは譲らなかった、これは襲撃の背後にいる王妹ラールカまで炙り出して、その勢力を弱体化させる事を狙っていた為である。

  王城の会談室には三天人代表としてディセルトが登城して、国王ヒーソフと落とし所を探っていた。

  ディセルト 「ならば罪人として、天人領での労働を課すという事で良いと思いますけど・・・」

  ヒーソフ 「それでは普通の領民と変わりませんね、むしろ痩せた土地のザオルの民にとっては逆に褒美とも言えますよ」

  ディセルト 「こちらが抱え込んだという状況提示が重要なんですよ、その上でラールカ嬢に誘いを掛ければそこから口実も生まれるでしょう」

  ヒーソフ 「それだと天人様方をまた危険な目に遭わせてしまうでしょう、ラールカも単身では乗り込んで来ませんよ」

  ディセルト 「一連の出来事で理解出来たと思いますけど、私達とても強いんですよ、元々ディーティルなんかこの国で最も強いって言われてますよね、それに私とディーティエも魔術が使えますから、ザオルの襲撃者達を昏倒させたのは私の魔術ですし」

  ディセルトは自分の力を強調する事で三天人の安全を強調する、実際はダインの仕業だが遊魔と化したディセルトにも既に可能な事なので、些細な事はこの際どうでもいいだろう。

  ヒーソフ 「天人様の魔術ですか、言い伝えは有りましたがまさか使わせてしまうとは面目無い」

  ディセルト 「今は色々と時代が変わりつつある様ですからね、ヒーソフ王も何かあれば天人屋敷へお逃げ下さい、人間の襲撃者程度には遅れは取りませんから」

  ヒーソフ 「ザオルの里の人間が敵わぬと直ぐに悟ったぐらいですからね、もしもの時はお便りするかも知れません、ですが不意を突かれれば誰でも危いですね」

  ディセルト 「事が露見したとラールカ嬢が思えば強行策もあり得るでしょうね、耳長屋敷は周囲が森ですので近付く者の魔力を察知出来るのですが・・・」

  ヒーソフ 「ならばザオルの者達で折れる代わりに、こちらの願いを聞き届けて貰いたいのですが・・・」

  ディセルト 「願いというのを聞いてからですね、事の発端は私達に有りますので出来る限りは応えたいと思います」

  ヒーソフ 「なら無理を承知でお願いします、我が娘ペーテを天人様の屋敷で預かって貰えないでしょうか、万が一我が身に何か有ってもペーテが王杖を持っていればラールカも好きには出来ない筈です」

  この話はディセルトとすれば願ったり叶ったりの話だ、ペーテを遊魔に取り込んでしまえばディーラル王国での遊魔活動が更に活発化されるだろう、それに先にペーテが耳長屋敷で暮らせばラールカを呼び出しても違和感は無くなる筈だ。

  だが、それとなく難色を示して恩を売る様に見せかけるのが、交渉というものだ。

  ディセルト 「賢人ダイン様がどう思うかですね、それに身の安全は保障しても貞操の安全迄は保障出来ませんよ、何せダイン様は一日で私達三人を虜にした方ですから」

  ヒーソフは聞いていた賢人の名前が違う事を変だと思ったが、ここはディセルトに合わせるのが得策と判断する。

  ヒーソフ 「親としては許容したくは無いですが、王としてはそれを望む所もあります、賢人ダイン様がペーテの後見役となって下されば民衆のペーテに対する不安も幾分か解消されるでしょうから」

  ヒーソフは私情よりも公を重視する人間だ、その事で国民からの人気は低いが、同時に不満を口にする者も少ないのも事実だ。

  ディセルト 「解りました、部屋は幾らでもあるのでペーテを受け入れましょう、ですがあくまで同居人としての受け入れで客人でない事は理解して下さい、あと誤解のない様に言っておきますが、私達三人は自ら望んでダイン様の元へと嫁ぐと決めました、ダイン様が強引に迫ったわけじゃ有りません、それはペーテに対しても同じでしょうね、案外ラールカ共々受け入れて国が安定するかも知れませんね」

  ディセルトの最後の言葉はヒーソフにとってにわかに信じられない言葉ではあったが、現にダインは百五十年変わらなかった三天人を受け入れてしまったのだ、そして、ペーテとラールカが共に手を取る状況は現状願っても叶わぬ事ではあるが、常識外れの賢人ダインならばやり遂げてしまうかも知れない。

  その後、ディセルトとヒーソフはザオルの者達の移送やら、ペーテの耳長屋敷での受け入れに対して話を詰めて、ザオルの者達の移送については何名かを残して即開始される事となった、そしてペーテも明日には耳長屋敷へ受け入れられる事が決まって、その状況を知らしめた後にラールカへの招待状を届ける事となった。

  ディセルト 「ヒーソフ王が話が分かる方で助かります、あと、この事は内密にして頂きたいのですが、地の王の侵攻の兆候がある様です、ダイン様などはラールカ嬢が加担しているのではと危惧しています」

  何時も冷静なヒーソフもこの話には明らかに動揺している、確かに王妹ラールカの行き過ぎた行動の裏に地の王も侵攻があるならば、十分に理解出来る行いだと思えたからだ。

  ヒーソフ 「その話が本当だとすれば、ラールカが天人様に対して不敬なのも理解出来ます、現状で天人様達に勝目はあるのでしょうか?」

  ディセルト 「もし私達に勝算が無いのなら、この様な事を打ち明けると思いますか・・・確かに現状だと初戦は厳しいですが、ダイン様はちゃんと打開策を見出しています、何せあの方は人類大陸の国の王ですからね、勿論この事も内密にお願いしますね」

  ヒーソフ 「王たる者が妻を伴って、他国を旅しているというのですか、何とも羨ましい話です」

  ディーラル国王のヒーソフからすれば、ダインの行動は信じられない事だが、常識の範疇の外に居るダインならば、何をしてもおかしく無いという認識がこの時既に生まれていた、そして娘ペーテをダインの元に送るという判断が現状での最善手段だという認識も生まれていた。

  最悪ディーラル王国が滅びたとしても、娘ペーテがダインの国で大切にされるであろうという期待を懐く事も出来るのだ。

  会談を終えたヒーソフは、そのまま娘ペーテの元に赴くと、会談で決まった事に対して告げた。

  ペーテ 「私が天人屋敷で暮らすんですか、確かに興味が無いと言えば嘘になりますけど、突然過ぎます」

  ヒーソフ 「済まぬがこれは既に決まった事なのだ、それにここでは口外出来ぬ事が色々と起こっておるので、王家の事を考えれば我等は同じ所に居らぬ方が良いのだよ」

  その父の真剣な表情に勘の良いペーテは、現状何が起こってもおかしく無い状況である事を察した、確かに叔母ラールカの横暴は目に余るものが有り、ペーテとしても自身の状況に不安を感じないわけでは無かった。

  ペーテ 「状況はそんなにも悪いのですか、父上は上手く国を収めていらっしゃると思います」

  ヒーソフ 「いや、私ではこの国は駄目なんだ、過去の賢王達は善政を敷いたが、時には異物を容赦無く排除している、ラールカを放置している私にディーラル王としての器は無い」

  この言葉はヒーソフの本心だ、従わぬ者を排斥して絶対権力をか確立する程の強引さが無ければ、このディーラルという国家真の王は務まらないだろう。

  ペーテ 「ですが・・・」

  ヒーソフ 「いいのだよ、私もお前もディーラルの王となるには優し過ぎる、だが、お前ならば真なる王を選ぶ事が出来る」

  これはペーテの選ぶ者が新たなるディーラル王で有るという意味の言葉だ、ディーラルの歴史上では未婚の女王が存在した事は有るが、未婚の女王が婚姻を行うとその王位は婚姻相手に委譲されるのだ。

  ペーテ 「賢人ダインを私の目で見極めろという事ですね、些か癖の強い人物で有る様に思えますが、その足跡は賢人の名に恥じません」

  王都ディグランの変化に気を配っていたペーテの耳には、ダインの情報も多く寄せられていた、その上で天人屋敷に迎えられた事も知っていたのだ。

  ヒーソフ 「お前が興味を持っているならば父も何も言うまい、ただ屋敷で色々と知る事になろう」

  現状でペーテは三天人全てがダインに嫁いだ事を知らない為に、ダインをただ尊敬出来る人物として捉えているが、その裏の側面を知るヒーソフには全てを容認し難く意味深な事を言ってしまったのだ。

  ペーテ 「何だか意味有り気ですけど、外の世界から来たと言うのも興味有りますので従います」

  ペーテは何だかんだで納得した様で、すでに嫌がってはいない、突然の事で反発してしまったが、本来のペーテは王城の外で暮らしてみたいとも思っていたのだ。

  ヒーソフ 「天人様達には無礼のない様に、もっともお前には不要な忠告かも知れんが」

  ペーテ 「父上に恥を欠かせない様に気を付けます」

  ヒーソフ 「それは良い心掛けだ、実は天人様達はラールカも後々呼び寄せるつもりらしい、詳しい意図は言えぬが心する様に」

  ペーテ 「叔母様をですか・・・何やら複雑な思惑がある様ですね」

  ヒーソフ 「まぁディセルト様とお前は仲良くなれると父は思っている、何か有ればディセルト様に相談すれば良く取り計らってくれよう」

  ペーテ 「解りました、すぐさま準備に掛かりましょう、侍女は何名まで連れて行けるのですか?」

  ヒーソフ 「侍女などは連れて行けぬよ、お前も客人では無く屋敷の住人として置いて貰う事になっている、この事はこちらから懇願した事なのでしっかりと肝に銘じる様に」

  ペーテ 「困りましたね、私は侍女がいなければ身だしなみ一つ整える事も出来ませんよ」

  ヒーソフ 「それはディセルト様に頼むしかあるまいな、お前は覚えて居らぬだろうが、幼子の時にディセルト様にあやして貰った事もあるのだぞ」

  ペーテ 「そんな事も有ったのですか、まぁ天人の皆様は着飾る事を好みませんから大丈夫だとは思いますが・・・」

  ヒーソフ 「そうよの、香水の類いはもっとも嫌っておるからな、その点ではラールカよりもお前の方が好まれるであろう」

  ペーテ 「香水の事は叔母様には内緒になさるんですね、父上もお人が悪い」

  ヒーソフ 「あの者が私に何かを尋ねる事も無いだろう、だから教えられずとも仕方ない」

  細かなところでヒーソフは娘の価値を高めようとしているが、それは無用の気遣いでもあった、そもそも非処女のラールカが遊魔達に受け入れられる筈も無いのだ。

  一方、話は遡って、ディセルト以外の二人は朝からザオルの者達への対応を行っていた。

  イファタという内部協力者が居るものの、その他の者達は内心何を考えているか分からない、人の心情を見抜く事に長けたディセルトはより重要なヒーソフ王との会談を行っている以上、この場は三人の遊魔で何とかするしかない。

  ディーティエ 「今、ディセルトが皆さんを天人領へと送り届ける交渉をしています、女性以外は森に留めるわけには行かないですから」

  ゼゼト 「我等の為に手を尽くして頂いて有り難く思います、天人の翼なども直接拝める事が出来て、天人様のご厚意には本当に感謝しております」

  ディーティエからすれば、単に出入り口が一つで監視しやすい所に押し込んだだけだが、そこにクフィカールが有ったお陰でザオルの者達には特別な待遇だと感じてしまった様だ。

  ディーティエ 「翼と言っても今は飛べませんけどね、あ、そうです、貴方達に行って貰う天人領のススナ山にはクフィカールの秘密基地が有ったんですよ、正確な場所をいずれ教えますから、そこを守って貰うのもいいですね」

  ゼゼト 「天人の翼の守護を任せて貰えるのですか、それは実に誇らしい事ですね」

  ディーティル 「護というより後片付けですね、何せ百年以上放置してますから、でもクフィカールは頑丈ですので使える部品は多いと思います、何せ魔鋼は錆びませんから」

  ゼゼト 「どの様な事でも役目を与えれるのが嬉しいんですよ、我等は働きで天人様方に報いないと行けませんので」

  ディーティエ 「無理はしないで下さいね、民の喜びが私達の喜びでも有りますから」

  ディーティエはダインっぽい事を言ってご満悦だ、ディーティルはそんなディーティエの姿を見て内心で笑っているが、馬鹿をやって笑われる事もダイン流の生き方でもあるのだ。

  おまけ

  天人領 元々三天人はディグラン内壁の森だけを領地としていたが、百年以上前の王が天人の崇拝を利用して争いを治める手段を思い付いた、その結果生まれたのが天人領である。

  具体的な方法は係争地自体を天人領としてしまう事である、天人領となってしまえばその土地の領有権の主張など不可能で、もし主張しようものなら国民の反感を買ってしまう為に自ずと争いが収まるという方法だ。

  この制度の発足のお陰でディーラルでは土地を巡る争いが激減している。

  一方、この制度は天人達に多くの収入をもたらす事となり、天人達は暮らすのに十分過ぎる富を得る事となった。

  そしてその富を利用する形で発足したのが天人銀行である、この銀行はほぼ無利子で金銭を貸し出しているが、公共事業の提案とそれに伴う資金を提供する事で、ディーラルの発展を支えている。

  個人への貸付けなどは一切行っておらず、長い寿命を持つ耳長ならではの融資提案が日々行われている。