灰色のむこうがわ 06 その一

  「誰かいますかぁ……? いませんよねぇ……」

  旧時代。かつてはビルが立ち並び、人々がひしめき合っていたであろう[[rb:廃墟> はいきょ]]群。

  「返事、できますかぁ……? できなかったら無理してやらなくていいですからねぇ……」

  しかし今では無人のホラースポットに等しい。通りには車が無造作に乗り捨てられていたり、植えられていた街路樹が根元から倒れていたり。道路は長年[[rb:舗装 > ほそう]]されることなく放置され、[[rb:地盤 > じばん]]沈下の影響だろうか、穴が開き地面が[[rb:露出 > ろしゅつ]]している。

  こんなひどい有様なのに、さらにはクリーチャーが[[rb:徘徊 > はいかい]]しているとなればなおのこと。そんな場所を一人で探索してこいとは、やはりあの狼は人でなしなのではないか。そうだ、こんなに恐ろしい体験をさせて内心ほくそえんでいるに違いない──

  「っぎゃぁあ゛あ!!!」

  からん。フリッドの背後で物音がなる。加減なしの絶叫が、人気のない街並みに[[rb:木霊 > こだま]]する。

  恐怖でおもわずフリッドはしゃがみこみ、恐る恐る背後を振り返る。けれどそこには誰もおらず、代わりにカサカサ音を鳴らしながらゴミ袋が宙を舞っていった。おそらくは中に入っていた缶でも転がったのだろう。

  「ふ、ふふ、ビビってないし。俺の冒険はまだ始まったばかりだし」

  そう言い訳しながらフリッドは立ち上がるが、その[[rb:膝 > ひざ]]は今にも崩れ落ちそうなくらいガタガタと震えている。誰も見聞きしていないとはいえ、その姿では説得力皆無だ。

  そうだ、これは偉大なる旅路の最中なのだ。あてのない放浪ではなく、目的のある探索。こんなところで出鼻をくじかれている場合ではない。フリッドはそう思い直すと、ギッと歯を噛み締め、決意を固めた。

  なぜフリッドが一人で廃墟探索をしているのか。狼はどうしたのかと問われれば、一応は訳がある。

  それはほんの少し前、食後の出来事だ。

  ###

  「お前暇だな? そうだな? そうと言え」

  「え、なんだよいきなり迫ってきて。圧が強い」

  「ひ ま だ な ?」

  「あっハイ」

  問答無用で頷くことを強要され、フリッドはそれに従ってしまう。また外の見回りだろうか。奴隷のように扱われるのも[[rb:癪 > しゃく]]だが、聞かないというわけにもいかない。毛布越しからでも感じ取れる狼の眼光に恐れをなしながら、フリッドは次に告げられるであろう指示を待つ。

  「お前、ちょっと物資漁りにいってこい」

  「物資漁り?」

  「そ。復興都市に行くだけじゃ生憎とたりねーし、食っちゃ寝のお前の生活にメス入れてやる。ありがたくおもえ」

  「えー? ありがためいわくぅ。食えるモンさえあれば十分じゃねーの?」

  「お前の口、二度と開けないよう[[rb:縫 > ぬ]]い付けてやろうか……?」

  「なんで!?」

  そんなことになってしまったら食事ができないではないか。腹から地響きのように鳴る空腹の訴えを、これから先どのように止めろというのか。

  この世の終わりだ。生き地獄だ。そんな苦しめを受けさせようとは、極悪非道にもほどがある。

  「例えば。お前なんで安全に寝られると思う?」

  「A.それが普通だから」

  「よーし次から野宿なお前」

  「まって流石に屋根ある方がいいです野ざらし[[rb:勘弁 > かんべん]]してくださいおねがいします」

  別に野宿をしたところで死ぬというわけではない。ただその場合、長時間雨に晒され続ければいけないわけで。どうやって眠りにつけというのか。身体中[[rb:容赦 > ようしゃ]]なく打ち付けてくる雨粒をどう耐え抜けというのか。安眠妨害はさすがに御免こうむる。

  「正解はバリケードを作ってあるからです」

  「ああ、もしかしてあの邪魔くさいやつ?」

  「ごめんなさいごめんなさい!! わざとじゃないんです邪魔とか言ってごめんなっだあああ?!?!」

  間髪入れずに放たれた狼のストレートが見事フリッドに命中。容赦のないその一撃にフリッドの顔は苦痛に歪む。

  「だるいから殴らせんなっての」そう言って殴った手をひらひらさせている狼は何とも涼しげだ。罪悪感というものを感じさせない。

  「殴ってから言うことじゃ絶対ねぇ……あっ、やめて二撃目やめて」

  「詰まる所、アレの侵入を防ぐために資材が必要になる。そんなの流石にアッチで揃えられねーからな」

  「ふーん……?」

  アレ。つまりはクリーチャー。フリッドは一度、アレに襲われたことがある。狼にお世話になる前のことだ。この廃墟群に足を踏み込み、初めてヒトらしきものに[[rb:遭遇 > そうぐう]]し、そのまま脇腹を[[rb:穿 > うが]]たれた。

  分かり合えると思った。話の通じるものだと思っていた。その時その瞬間が訪れるまでは。フリッドがあったソレは、遠目から見れば間違いなくヒトの姿を保っていた。それがまさか自身に害を与えてこようとは。さすがに想定すらしていなかった。

  あんなものをよそでは──少なくともフリッドが巡った場所では見たことがない。無知が故に知らなかっただけ、ということもあるだろうが。

  「ま、バリケード自体はそこいらのモンかき集めてどうにかすっけど。それ以外でも復興都市じゃどーにもならねーモンがあんだよ」

  「はい」

  「で、だ。お前に仕事を与えようって訳だ」

  「なるほどわからん」

  「お前うわの空で俺の話聞いてんじゃねえよ。ただ飯にありつけるだらしねえ豚っ腹がよぉ」

  「わー! わかった、分かったからグーはなし! な?!」

  ###

  「脅しとかあり得ねぇ。あんなの反則だろ、なんで普通にグーで殴って来るんだ……」

  そういう手段を取らせたのは他でもないフリッドだ。狼の[[rb:逆鱗 > げきりん]]を無自覚にも逆なでし続け、雷を落とされたというだけ。

  怒りの沸点が低すぎる狼も悪いといえば悪いだろう。虎の性格がどうであるか分かり切っているだろうに、一々真面目に受け取ってしまう彼も大概だ。どっちにしろそういった意味では彼らの相性はいいものではない。

  そんな暴力任せの暴君と化した狼を鎮めるべく、フリッドは旅立った。なけなしの勇気と、ほんの少しの[[rb:携帯食料 > レーション]]を携えて。

  かの[[rb:狼王 > ランウァン]]は言う。「とりま使えそうなモン探してこい。収穫ゼロだったらその無駄に長い尻尾掴みながら尻蹴り上げてやるから」と。

  「無駄に長いとかひでぇこと言っちゃってくれてさぁ。見る目全くねーっての。

  ほらあれだ、チャームポイントってやつだよ、俺の尻尾。……いや、チャームはどうだろ」

  「そうですネェ。魅力とハ人それゾレ、計り知れないものデスからして」

  「いやどうかなって思うのさ、だって俺男じゃん? しかも割とがっちりした」

  「そうですネ?」

  「だからどうかなって。チャーミング、とはかけ離れてるってかさ? どうも俺に似合わないっつーか」

  自称チャームポイントの尾をくねらせフリッドがぼやく。不死者である以前に彼はネコ科、虎の獣人である。どう見積もったところで可愛いとは遠くかけ離れた存在だろう。

  狼と比べてもかなり大柄、押し倒したら必ず勝てるであろう体格差。体力もそこそこ、一日中休まずに歩き続けるなどわけもない。更には顔。これがまたなんというべきか、垢抜けないというべきか[[rb:腑抜 > ふぬ]]けているというべきか。

  結論。こんな[[rb:虎 > おれ]]が可愛いわけがない。

  「マァ落ち込まないで下さいヨ。ワタクシはお前サンのコト、いい線いってると思いマスし」

  「うぅ……ありがどぅ。なんかすげえ嬉し……ん?」

  いつぶりだろうか、こんな風に会話をするのは。言葉の端々にトゲが散見する狼とは別格。片言なのが気になるものの、とても普通の会話だ。普通ってなんて素晴らしいのだろう。ああそうだ、会話とは本来楽しいものだ。普通の会話最高!

  ただ少し待ってほしい。ここは人気のない廃墟群。

  「いやぁそう言って下サルとワタクシ、とってもうれシイ。うれシイついでに自信がもてないアナタさまにとっておきのお話がアリましてネ?」

  先ほども確認したが、人っ子一人いないはずだ。返事はしなくてもいいと、そう付け足したはず。

  だとしたら今誰とこうして会話をしているのだろう? 先ほどから自然と会話に入ってくる、この声の正体はいったい何者なのだろうか。

  「あ……あぁ……」

  「この場限りなんでゴザいますガ……どうなサイましタ?」

  「で」

  「で?」

  「でおりよったでございまっっっでえぇぇい??!!」

  :::

  お化け、ゴースト、心霊現象。それらは基本、想像の産物である。

  見えないもの、分からないもの、そういった想像の空白を埋める際にできあがる何か。何もないからあるかもしれない、何があってもおかしくない。だからこそそこに恐怖が生まれる。

  そういう経緯でできた産物である以上、存在などしない。ようは勘違いである。

  「ごめんなさい……。急に大声出しちまって、ホント、ごめんなさい……」

  「ホホ、構いまセンよ。怖いのはダレだって堪えられないモノですカら」

  フリッドの精一杯の謝罪に真っ黒な影が片言で答える。

  影、というよりは塊というべきか。黒く長い毛は顔の[[rb:輪郭 > りんかく]]すら覆い隠し、不気味な雰囲気を醸し出している。こんなものが物陰から現れようものなら悲鳴は必然、驚かないものなどそうそういないだろう。

  頭頂部には立派な角が二本。枝分かれしていないところから察するに、きっと[[rb:山羊 > やぎ]]獣人なのだろう。

  「はぁー、びっくりしたぁ。それにしたって一体いつから隣に」

  「エ? それはソレ、お前サン返事してくレと頼みこんできましたカラ、ネ?」

  「うわ……めちゃくちゃいいヒトじゃん。ありがとうツノのヒト」

  「脅かす気はアリましたガ」

  「最低じゃんツノのヒト」

  伸びきった黒い毛から赤い口を覗かせ、黒山羊はホホホと笑う。見た目の薄気味悪さとは裏腹に、随分と茶目っ気のある人格のようだ。フリッドも申し訳なさから一転、タメ口で突っ込んでしまう。

  「デハ改めテ。ワタクシ、ゴードンと申しまス」

  「わっ、名前もヤギっぽい」

  「っぽいではなく本物デスがね。エー、お前サンは……」

  山羊獣人、ゴードンの指がフリッドのドッグタグに触れる。その所作にドキリとしたフリッドは、ゴードンがドッグタグを改める前に振り払い、大事そうに握りしめた。

  「おヤ?」

  「あ、えっと、その……フリッド! 俺はフリッドって、いいます」

  「ンンン? でもお前サン、そのタグだとフリードリヒ」

  「フリッドといいます」

  「……そうですカ、それは失礼」

  フリッドが口調を強めて己の名前を主張する。

  ドッグタグ──またの名を、認識票。軍人が亡くなったとき、その肉体が誰のものだったのかを特定するために用いられるのが主な用途である。一枚の金属板に名前、血液型などのパーソナルデータが刻まれており、一目でわかりやすくできている。

  また、これらは遺体が片足しか残っていなくとも特定できるよう、二枚一組になっていることが多い。一枚は身体の方に、もう一枚は死亡報告用に。

  「いや、うん。俺もさ、大げさだったし。ゴメン」

  フリッドの手元にあるのはたった一枚。それがどういった意味を持つのかは、いわなくとも明確だ。黒山羊もそれを察したのだろう、ゴホンと咳払いをしてその場の空気を紛らわせた。

  「アー、そうダ。チョイと失礼をバ」

  「?」

  「えート、ドコにしまったか……。オっ? あったアッタ。ほれ、暫しお手ヲ拝借」

  ゴードンがおもむろに己のバックパックを漁り、何かを探る。目的のそれを取り出してニッタリとほほ笑むと、フリッドに手を差し出すように促した。

  フリッドはなんだろうと疑問に思いながらも、言われるがまま片手を差し出す。

  「コレ、ささやかデスがワタクシの気持ちデス」

  そうして手に乗せられたのは小さな小瓶。コルクで栓をされた、ごく普通の瓶だ。

  中には薄水色の錠剤のようなもの。表面にな何かのデザインだろうか、小さく鳥の[[rb:意匠 > いしょう]]が施されている。

  「……これ、なんだ?」眉を[[rb:顰 > ひそ]]め、フリッドが問う。

  気持ちといって渡されたはいいが、用途が不明だ。食べ物とかなら素直に喜べたが、これに関しては一切、どう使うべきなのかも分からない。しかしこの形には見覚えがあるような。これは、いったい。

  「これですカ? ホホホ……気になりマス?」

  「なんか腹立つから捨ててもいい?」

  「ソレを捨てるだなんてトンデモナイ!」

  ゴードンの口元がニタリと釣り上がる。長い毛から覗く黄色い眼も相まって、その様相は[[rb:不審者 > ふしんしゃ]]そのもの。本人にその意図がなくとも怪しさ満載だ。もう少し身なりを整えるべきではないか、フリッドは身を引きながらも思う。普段己の容姿など気にも留めない男が言うべきことでもないが。

  「これはデスね……。なんと、幸せを呼ぶクスリなのデス!」

  そう聞いた瞬間のフリッドの行動は早かった。地面へと力任せに叩き付け、近くにあった物陰──ちょうど近くにある倒木に素早く身を滑り込ませる。

  クスリ。ゴードンは確かにそういった。幸せにするクスリだと、はっきりと。

  クスリと聞いていい思い出などフリッドには一つもない。監禁時代に無理やり口に押し込まれたのはいまだ記憶に新しい。時には注射、点滴などありとあらゆる手段で身体に流し込まれた。不死者の再生能力でも限度があるのか、いまだ腕には針の痕が刻まれている。

  身体に得体のしれない異物を流し込まれるなど、想像するだけでもぞっとする。なのにそれを笑顔で渡してくるときた。

  「な、ななな、何渡してくれてんだ! 脳みそ腐ってんじゃねーの! アホ! あほ!」

  「アナタこそ何をシテくれてるんデスか! ああ、ワタクシの最高傑作……」

  地面へと叩きつけられた小瓶をさも大事そうにゴードンが拾う。

  わからない。あんなものを大事そうに扱う、黒山羊の神経が。あれは駄目なものだ。フリッドの経験が、あれは危険なものだと警笛を鳴らしている。取りこんだら最後、身体に害しか及ぼさない。あれはそういう劇物だ。

  「割れては……いませんネ。ヒドイじゃありませんカ、ワタシの気持ちをこうも踏み躙るナンテ」

  「踏んでないよ、投げ捨ててんだよ」

  「……そうデスね、失敬」

  ゴードンは小瓶の底を指先で撫でながら言葉を続ける。

  「コレはですね、先ほども申し上げたトオリ、幸せを呼ぶクスリなのデス」

  曰く、これを一口内服すればすっと気が楽になる。ストレスを軽減する安定剤のようなものらしい。先の見えない不安だらけの世の中、どうにかできないものかと思案の末、このクスリは完成された。

  ゴードンはこのクスリの製造、[[rb:頒布 > はんぷ]]するため、わざわざこの廃墟群をうろついているそうだ。

  「たった一錠で人々を救えル。ソレって素晴らしいコトではありませんカ?」

  恍惚の表情を浮かべながらゴードンはそう語る。どこか満たされているかのような、狂信的な口ぶりだ。あたかも己が救世主だと信じ込んでいるような、そんな印象すら与えてくる。

  おとなしく話を聞いていたフリッドもこれにはどん引き。あいた口が塞がらない。むしろ口をはさむ気にすらならない。

  そもそもゴードンが何を語っているのかもちんぷんかんぷんだ。

  クスリで世界を救う? そんなことできるはずないじゃないか。現に俺は救われることなど一切なかった。苦痛を与える事しかしなかったじゃないか。

  「いわばワタクシは青い鳥。皆に救いト幸福を授けるタメ舞い降りた使者なのデス」

  「う、嘘はけこの! 大体お前真っ黒だし羽も生えてねーだろが」

  「……そうデスね」

  「認めやがったな[[rb:詐欺 > さぎ]]野郎! あっぶな、危うく[[rb:騙 > だま]]されるとこだった」

  「サギは白いんデスけどネ」

  「それ関係なくね?」

  「……」

  一瞬返答に迷ったゴードンに調子を取り戻したのか、フリッドがいつもの調子を取り戻す。最初に抱いた恐怖感も、初対面の気まずさも完全に吹っ飛んでしまった。

  そもフリッドが口喧嘩で優勢をとれる機会などめったにない。もしかしたらこれが人生で初なのではないだろうか。狼に[[rb:完膚 > かんぷ]]なきまで打ちのめされるのが日常茶飯事と化した現状、こうしてマウントをとれるというのはなんだろう、気分がいい。ここでは絶対にしないが、場が場なら思い切りガッツポーズを決めているところだ。

  「つまりはワタクシの好意、受け取ってクダさらない、ト」

  「あったぼうよ! 何されたとこで絶対欲しがったりしねぇからな」

  「……ワタシの顔ヲ指差して大層驚いたクセに」

  「うっ」

  「知ってマスか? 指を指すトいう行為、相手を呪うコトでもあるんですヨ」

  「そ、そんな怖がらせようったってな、そう簡単に」

  「そうでナクとも、ヒトを[[rb:嘲笑 > あざわら]]う行為でもアルんですヨ? ああ、ヒドイ」

  「う、うぐぐ」

  そこを突かれてしまってはフリッドも強くは出れない。初対面に向かって絶叫、指差し、更には謝罪の品を投げ捨てる。こうして並べただけでもひどい有様。[[rb:不躾 > ぶしつけ]]のオンパレードだ。嘲笑っているといわれてもこれは仕方ない。ヒトでないと自傷する以前にヒトの心というものがないのだろうか。

  たとえこれらすべてに理由があったとしても、だ。第三者がこれらを客観的に見たらどうだろうか。フリッドが悪くないと、庇うものは果たして現れるか。

  まあ、ゴードンも大概酷いが。

  「受け取って、下さいマスね?」

  「……はい」

  結果。フリッドはしぶしぶと小瓶を受け取るしかなかった。優位に立てたのも束の間、彼の優勢は崩れ去った。三日天下とすらいかなかった。

  「ところデ」

  「……まだなんかあんのかよ」

  「アナタはどうしてこんな辺鄙なトコに?」

  「え」

  話につまる。まさか、そんなことを聞かれるなんて。

  「随分と怖がりナガラ歩いていルみたいデスし、不思議だナと思いましテ」

  「ん、んー、まあ」

  「差支えなけれバ、教えて下さりまセンかねェ」

  「あー、そのう……」

  「ハイ」

  「ちょっとセカイを救いに」

  「……ホウ?」

  つい、出まかせをいってしまった。

  一から十まで赤裸々に述べてしまえば、恥ずかしいことこの上ない。大の大男が怒鳴られて資材集めに追われているなど。それこそ初対面相手にするべき話ではない。

  「だからその……過去のものに触れる事で今を変えるきっかけというか、そういうな?」

  「なるホド。つまりはワタクシと一緒ですネ」

  「いや嘘つきと一緒にしないで?」

  「アふン」

  フリッドも嘘をついているのはこの際深く突き詰めてはならない。嘘とは相手にばれなければいいのだ。ましてや相手だって相当食えない性格をしている。こちらが偽ったところで罪悪感など微塵も感じない。感じてはいけない。

  「しかしマア、そうですカ。ご同輩トなるとワタクシ自身は是非トモ仲良くさせていただきタイのですガ」

  「うーーーん」

  「イヤそうですネ?」

  「だってすげえやばそうじゃん、あんた」

  「ソレは誤解。ワタシ、いいヒト」

  「どうかなぁ……」

  ヒトを見抜くことなどフリッドには全くできない。観察眼というものが養われていない。けれど今までの会話で、ゴードンが真っ当な善人だとは言い難いことくらいは察することができる。

  善人というには彼はあまりにも怪しすぎる。それも典型的で、隠す気ゼロの。ただそのせいか、完全に悪人だとも、また言いづらい。

  「でハこうしまショウ。ワタシ、タダで役立つことお教えシマしょう」

  「それは悪い……いやいや、教えられても信じられっかよ」

  「結構。アナタ、ワタシに何をするも自由。どうでス?」

  「はぁ? どうですって聞かれても……。ゴードン、は……それでいいのかよ」

  「ホホ。ノープログレム、ですよ」

  正直フリッドにとってこの申し出は悪い話でもない。右も左も分からない廃墟群、いつ如何なる脅威が待ち受けていたとしてもおかしくはない。そのうえで情報を頂けるというならば願ったり叶ったりだ。

  その代わり、対価を貰わないという部分に引っかかる。普通そこならなにかしらの対価を要求すべきだ。狼だって、労働を強要する形で支払わせている。

  志は断じて違うが、助けあえるのなら迷わずそうすべきだろう。……けれど、どうしてか。この先とんでもない目に合わされる気がする。このまま付き纏われれば損しか生まれない。そんな気がしてならない。

  「……わかった。それでいいぞ」

  「ワァ! 助かりマス。それではシェイクユアハンド」

  苦渋の末に出したフリッドの決断に、ゴードンは嬉々として右手を差し出す。

  たっぷり時間を置いてゴードンの手を睨み続けたフリッドだったが、頭を一つフルリと横に振り、渋々といった表情で彼の手を握り返した。