ドラゴンがいる生活~今日のお惣菜~

  1

  「肉じゃが!」

  「筑前煮!」

  「揚げ出し豆腐!」

  ここはスーパーの食品売り場。総菜コーナーには多くの人々が屯している。人々がおしているカートの中にいるのは少し大きめの犬ぐらいの大きさの生き物。頭には二本の角が生えて背中には翼、そしてお尻からは大きな尻尾が生えている。そして全身を取り巻く様々な色の鱗。人々からドラゴンと呼ばれている生き物だ。好きな惣菜を口々に言うので皆が惣菜発表ドラゴンと呼んでいるのだ。

  「プリン、何が欲しい?」

  24時間スーパーという事で多くの惣菜が並んでいる。そして店員が割引のシールをペタペタと器用に貼っていくのを見て多くの人々が惣菜を手に取っている。今、ここにいる男性も会社から帰ってきてペットのドラゴンを連れて、このスーパーを訪れているのであった。

  「茄子の揚げびたし!里芋の煮物!ポテトサラダ!」

  「おいおい、1日1個の約束だろ。あまり食べさせるとお前の健康に良くないからな!」

  若い男性の名は健太という。田舎から上京してきて都会で一人暮らしをしながら会社勤めしている。彼のカートにもドラゴンがいた。

  赤い鱗をしたドラゴンがカートの中でパタパタと翼を動かしている。そして惣菜をキラキラとした瞳で見つめている。牝ドラゴンのプリンだ。

  「茄子の揚げびたし!茄子の揚げびたし!」

  そう鳴き声を挙げながら尻尾をブンブンと振っている。健太が一つカートの中に入れると嬉しさの余りカートの中で暴れ始めた。

  「こら、大人しくしろ!これでも読んで落ち着け!」

  ドラゴンを飼っている人が常に持ち歩いている物。興奮したドラゴンを静かにさせるのに一番手軽で金がかからないのは料理の本だ。

  「風呂吹き大根!きんぴらごぼう!」

  器用に両手で本を持って食い入るように見つめているプリン。ドラゴンと言っても四つ足でなく二足歩行できるので一緒に家に戻った。

  「いただきます」

  「いただきます!」

  家に戻って一緒に夕食を取る。と言ってもプリンにとっては今日、初めての食事だ。今日の食事も炊いたご飯とレトルトの味噌汁、そしてスーパーで買ってきた惣菜。プリンのリクエスト通り、茄子の揚げびたしである。

  「♪~」

  鼻歌交じりで器用にフォークを使い口の中に放り込むプリン。あっという間に自分の分を食べてしまい健太の皿を見つめている。

  「しょうがないなあ、1個だけだぞ。」

  健太が自分の分を分けてやると喜んで食べ始めるプリン。その様子を眺めながら健太はプリンとの出会いの事を思い出していた。

  2

  (あっ、ドラゴンが1匹いる)

  健太が田舎から街に出て来て間もないある日、ショッピングモールにあるペット売り場を何気なく訪れると犬や猫をはじめとする様々なペットがガラスで仕切られた小さなスペースに展示されていた。そこで小さなドラゴンが熱心に本を読んでいる姿があった。

  (あ、この子ですか?いやー、色々な料理の本を読む賢い子なんですが良く食べるんですよ。皆さん、少食のドラゴンをお求めで

  この子だと食費が掛かるって言って皆さん、興味を示されないんですよ。・・・あっ、お客さんの買った総菜に興味示してますね?)

  ガラス越しに、こちらにヨチヨチと歩いて来る子犬程の大きさの赤いドラゴン。尻尾と翼を振っている姿が実に愛らしく見える。

  「ギョウザ!ハッポウサイ!シュウマイ!」

  舌足らずな発音だがハッキリと料理の名を口にするドラゴン。値段を聞いてみると今の健太には少しばかり値が張った金額だ。

  (一家に一匹飼われても損はないと思います。飼い主には従順で番犬にもなりますし留守番もトイレの躾けも出来ますので)

  「すいません、俺、まだ独身なので・・・」

  立ち去ろうとする健太の後ろから大きな声で叫ぶ声が聞こえる。悲鳴にも似たような鳴き声で惣菜の名前を繰り返すドラゴン。

  振り返るとドラゴンの目からポロポロと涙が零れ落ちるのを見てしまった。もう駄目だった。結局、ローンで支払い飼う事にした。

  「本当にお前、良く食べるなあ・・・」

  健太の夕食の半分、餃子、八宝菜、焼売を、あっという間に食べたドラゴン。小さなお腹がパンパンに膨らんでいる姿がおかしい。

  何か匂いを嗅いでいると思ったらフラフラと冷蔵庫に近づいていく。そして可愛らしい声で(プリン!プリン!)と鳴き声を挙げる。

  「凄いなあ。匂いだけで分かるのか!・・・そうだ、お前の名前はプリンにしよう。雄でも雌でも、その名前なら大丈夫だろう。」

  冷蔵庫の中にあった2つのプリン。スプーンで掬って食べさせてやると本当に幸せそうな顔をして食べている。そして健太とプリンの一緒の生活が幕を上げたのだった。

  店員が言った通り、全く手のかからないプリン。食費だけは余計にかかるが、あっという間に四つ足歩行から二足歩行が出来るまで成長していた。惣菜の名前を次々に覚えていくプリン。そして、いただきます、御馳走様など食事に関する言葉も喋り始めた。

  3

  「あちゃあ・・・これは困ったなあ。」

  何も知らずに今日もスーパーにやってきた健太とプリン。店の扉には貼り紙が貼ってあると共に工事の準備が行われている最中だ。

  (店内改装工事の為、暫く休業します。期間は~)

  自分と同じ様に何も知らずに、やってきた人達が諦めの表情を浮かべて次々に去っていく。結局、家に戻る羽目になってしまった。

  (うーん、冷蔵庫の中の物で何か作るしかないなあ)

  家に戻って早速、物色する健太。その様子をパタパタと翼を羽ばたかせながらプリンが見守っている。あまり自炊はしないが、家の冷蔵庫の中には色々な物が入っていた。手料理を未だプリンに食べさせた事はない。自分の料理で何かあったら困るからだ。

  (しかし、そんな事言ってられないよなあ)

  目の前には人参、ジャガイモ、玉ねぎ、そしてツナ缶とカレーのルーがある。カレーなら自分でも作れるし何と言っても大量に作れる。

  「プリン、カレーを作るぞ!」

  健太の言葉をキョトンとした表情で聞いていたプリン。すると何かを思い出したように自分の寝床から1冊の本を取り出してきた。

  「カレーライス!カレーライス!」

  カレーの写真が写っているページを開いて持ってきたプリン。鼻息も荒く鼻の穴から赤い炎が見え隠れしている。余程、興奮しているのだろう。早速、カレーを作り始める健太。先ずは米を研いで炊飯器のスイッチを入れて野菜を洗って小さくカットしていく。

  カレールーを取り出してパッケージを開ける。辛口のカレーだ。大人の自分でも結構、辛いと思うカレーだ。ルーを入れようとして少し

  その手が止まる。

  (プリン、辛い物はどうなんだ?)

  今まで色々な惣菜を食べさせてきた。好き嫌いもせずに何でも食べてくれるプリン。健太自身も特に何も考えずに食べさせていた。

  「カレーライス、カレーライス!」

  プリンは自分がカレーを作ってくれることを疑う事もなく待っている。今更、辞めるという事も出来ない。

  (まあ、プリンなら何でも食べるだろう)

  そう思いルーを鍋の中に入れてコトコトと煮込んでいく。やがて炊飯器から電子音が鳴って御飯が炊けた。そしてカレーも完成した。

  「さあ、出来たぞ!」

  目の前の皿にカレーをよそってプリンの前に置く。既に椅子に座って待ち構えているプリンの首に汚れない様にエプロンをつける。

  そして、いただきますの挨拶をして2人でカレーを口に運ぶ。相変わらず上手いが辛いカレーだ。健太はプリンに視線を向けてみた。

  4

  「美味い!辛い!」

  ポロポロと涙を流し鼻からは鼻水の様な物を垂らしている。それでも食事を辞める気配はない。あっという間に一皿たいらげると

  「お代わり!」

  両手で皿を健太の目の前に突き出して催促している。そして長い舌でペロペロと自分の口周りを丹念にカレーを舐めとっている。

  「おいおい、早いなあ・・・お代わりかあ。」

  惣菜を食べさせていた時も、お代わりを要求する事は度々あった。それでも1日1つだけというルールを守って我慢させていた。

  (まあ、1日ぐらい腹一杯食べさせてもいいか。まだ沢山残っているし)

  「仕方ないなあ、1杯だけだぞ。」

  カレーを机に置くと言った事が分かったのだろう。今度は時間をかけて味わっている。プリンの様子を見ながら健太も食べ続ける。

  そして気が付くとカレーを全て食べ尽くしていたのだった。

  「お腹一杯・・・御馳走様・・・」

  「俺も食いすぎたな。やっぱりルー全部使ったのは拙かったよなあ。半分にしておけばよかった。御馳走様・・・」

  仰向けになって膨らんだお腹を丸出しにしたプリンがひっくり返っている。洗い物をしている健太自身も食いすぎて気持ちが悪い。

  食後、普段ならプリンが甘えてくるのだが流石に食べすぎたのだろう。自分の寝床に戻って、じっと大人しくしている様だ。

  (明日も仕事かあ。そろそろ寝るか)

  部屋の電気を消して寝る前にプリンの様子を見に行くと何か妙な鳴き声がする。今まで聞いた事が無い様な弱弱しい鳴き声だ。

  「プリン!」

  キューキューと弱弱しく鳴く声。呼吸もハアハアと荒く鱗が生え揃った肌を触ると汗でベットリしている。そして体が燃える様に熱い。

  「お腹・・・痛い・・・吐きそう・・・」

  既に夜遅く動物病院は閉まっている。そして初めて見る光景、普段は鼻からチロチロ見える炎が赤色でなく青色に変わっていた。

  (ど、どうすればいいんだ?)

  取り合えず水が張った洗面器を用意して背中をさすってやる。するとバキバキとプリンの身体から何かがひび割れる音が聞こえる。

  「ああ!あああ!」

  呻き声をあげて床に倒れこんだプリンの身体が赤く光り始めたと思ったら部屋中が光に包まれる。

  「うわあああ!」

  光に包まれた健太も意識が遠のいていった。

  5

  (起きて下さい、起きて下さい、ご主人様!)

  誰かが自分を呼んでいる声がする。そして体を揺り動かされる感触に、だんだん意識がハッキリしてくる。

  「うーん、・・・・!?」

  「あ、気が付かれましたね。良かったあ、このまま目覚めなかったら、どうしようかと思っていたんですよ。」

  自分の目の前にいるのは可愛らしい女の子だ。しかし、その姿、普通の人間とは何かが違う。頭には角があるし尻尾もある様だ。

  「君、誰?」

  自分には、こんな女の子の知り合いはいない。何かコスプレでもしているのだろうか?健太の言葉に女の子が膨れっ面をしている。

  「もう、酷いですね!私ですよ、ドラゴンのプリンです!」

  気が付くと背中には小さな翼迄生えている様だ。彼女の足元には脱皮でもしたのだろうか。蛇の抜け殻の様な物や鱗の様な物が散らばっていた。脱皮したのに裸ではなく服の様な物を着ていて大事な所は、しっかり隠れている。どういう原理か分からない。

  「お前、雌・・・いや女の子だったんだなあ。」

  「そうですよ。紅いドラゴンは皆、女の子なんです。青いドラゴンは男の子だと決まっているんです。他の色は、どうだったかなあ?」

  人間にすれば小学生と中学生の間位の外見だろう。僅かばかりに胸が膨らんで体型も丸くなっている感じが何とも言えない。

  「で、何でドラゴンだったプリンが、そんな姿になっている訳?」

  「そこなんですよ、ご主人様!」

  健太の目の前にプリンが座り込んで説明を始めた。どうも大きなショックを与えると本来の姿、竜人の姿になってしまうらしい。

  「という事はプリンの場合は辛い物を食べた事と食べすぎた事が引き金になったという事かあ・・・で、元に戻る事は出来るのか?」

  「そうですねえ。恐らく同じショックを与えると元に戻る事が出来ると思います。」

  「じゃあ、もう1回カレーを作るしかないのか・・・」

  そう言って健太が冷蔵庫の扉を開けようとするのをプリンが阻止する。そして上目遣いに健太を見つめて必死に訴えてきた。

  「ご主人様、折角、この姿になれたので元に戻るのは少し待ってください。私、どうしても、やりたい事があるんです。駄目ですか?」

  「何だよ、やりたい事って?」

  「それはですね・・・」

  健太の耳元にプリンが何かを囁く。

  「まあ、いいけど・・・お前、本当にそれでいいのか?」

  「はい、お願いします!」

  ブンブンと尻尾を振っている姿は、まるで本当に子犬の様だ。こうして健太とプリン。一つ屋根の下での奇妙な生活が始まった。

  6

  「ただいまあ!」

  「お帰りなさい、ご主人様!」

  アパートのドアを開けるとプリンが飛んでくる。文字通り、その翼を羽ばたかせて健太の胸めがけて飛び込んでくるのだ。

  「いい子にしてたか?」

  「はい、今日は近くにある料理屋さんのホームページを色々、見ていました!後はですね。冷蔵庫の中を掃除しておきました!」

  冷蔵庫の中を見ると綺麗に整理整頓が出来ている。プリンの赤く長い髪が生えた頭を撫でてやると目を細めて喜んでいる。

  「ご主人様、例の物は?」

  「おう、ちゃんと買って来たぞ・・・どうだ!」

  スーパーで買ってきた物をプリンの目の前に差し出す。色々な種類のカップラーメンと袋入りラーメン。プリンの目が輝き出した。

  「有難うございます!」

  「1日1個な。美味しいけど食べすぎは体に良くないから。じゃあ、俺も食べるか。」

  湯を沸かしてカップラーメンに注ぐプリン。健太も袋入りラーメンを丼の中に入れて湯を注ぎ、その中に生卵を入れて暫く待つ。

  「さあ、出来たぞ!」

  目の前には美味しそうな匂いと共に湯気が立ち上るラーメンが出来上がっている。早速、食事を始める2人。

  「熱いです、でも美味しいです!」

  「偶には、こういうのもいいもんだな。」

  フーフー息を吹きかけながらプリンが麺を啜って汁を飲んでいる。ドラゴンなのに猫舌なのかと思うと何故か笑いが込み上げてくる。

  「御馳走様でした!」

  汁も全て飲み干したプリンが満面の笑みを浮かべている。と思ったら大きな口をあけて欠伸をしている。

  「ご主人様、お腹一杯で眠いです・・・」

  既に目がトロンとし始めているプリン。ここで漸く健太も事の重大さに気が付いた。外見は年頃の女の子だという事がややこしい。

  「うわー!まだ寝るな、ちょっと、こっちに来い。」

  取り合えず歯を磨かせる健太。自分の真似をしろと言うと器用に歯ブラシで自分の歯を磨いている。ドラゴンの時は牙だったのに

  今は少しギザギザだが人の歯にしか見えない。歯を磨き終わったプリンに自分の寝間着に着替える様に命じベッドの用意をする。

  「そんなあ、ご主人様、私、床で横になるだけでいいのに・・・」

  申し訳なさそうな顔をしているプリンをベッドに寝かせ上から布団をかけてやると、直ぐに目を閉じて静かな寝息を立て始めていた。

  (可愛いけど・・・大変だなあ)

  健太は頭を抱えて、これからの事を考えていた。

  7

  暫くたった、ある休日の朝の事だった。

  「ご主人様、私、外食がしたいんです。」

  「うーん、それはちょっと無理だなあ。前のドラゴンの姿よりは人間に近いけど角も翼も尻尾もある、その姿だと皆、驚いちゃうぞ。」

  朝食を食べながらの会話である。竜人の姿になってからのプリンは3食食べる様になって驚くべき速さで成長を続けていた。

  今の姿は高校生の女子ぐらいにまで成長している。子供っぽい顔こそしているが凹凸のあるスタイルで目のやり場に困る状況だ。

  「私、大人になったんで色々な事が出来る様になったんです。例えば、ご主人様と私の身体を入れ替える事も出来るんですよ。」

  「へっ?そんな事も出来るのか!」

  思わず飲んでいた味噌汁を吹き出しそうになる健太。既に朝食を食べ終わたプリンは自分の食器を洗いながら話しかけてくる。

  「ねっ、ご主人様、見て下さいよ。食べ放題ですよ!本当は自分の身体で行きたいんですけど、ご主人様の体、貸して下さい!」

  手を合わせて真剣な顔で見つめてくる。今では自分の背丈と変わらない程のプリン。頼まれると何か妙な気持ちが湧いて来る。

  「体、貸すのはいいけどさ。ちゃんと返してくれよ。あと、お前、俺以外の人と会話出来るのか?それが出来ないと無理だぞ?」

  大食漢という問題はあるがプリンは本当に、いい子だ。しかし彼女にとっては、この部屋の中と自分だけが全てなので心配なのだ。

  「大丈夫ですよ。小さかった時にスーパーのカートの中で、ご主人様を見てきましたから。ご主人様の出来る事は私も出来ますよ。」

  確かに自分が会社で留守の時は色々な事をネットで調べて、その知識を吸収しているらしい。自分よりも余程、賢いだろう。

  「よし、思い切ってやってくれ!」

  「有難うございます。じゃあ、私の目を見ていてくださいね・・・」

  プリンの瞳の中に自分の顔が映っている。スーッと気が遠のくような感じがしたと思ったら目の前には何故か、自分の姿があった。

  「うわっ!本当に入れ替わっている!」

  頭と背中とお尻の妙な感覚。そして今の自分の声、目の前にかざした手も白く小さな可愛らしい声だ。

  「じゃあ、ご主人様、行って来ますね。暗くなる前に帰って来ますから!」

  そう言い残し本来の自分がドアの外に消えていく。呆気に取られながらプリンの姿のまま、見送る事しか出来ない健太であった。

  8

  (それにしても…匂うな)

  一緒に長い間、生活しているがプリン自身が風呂に入っている所は一度も見た事無い。現にプリンの体の匂いを嗅いでみても

  若い女性特有の甘ったるい匂いもするが不快な感じの匂いもする。匂いの元は彼女が何時も着ている服から漂っていた。

  (仕方ない、洗ってやるか)

  服を脱いで洗濯機に放り込んで、その間に自分自身も、ゆっくりと風呂に入る事にした。脱衣場の鏡にプリンの裸が映っている。

  角と翼と尻尾が生えている以外は若い可愛い女の子と全く変わらない。正直、彼女だったらと思うぐらい魅力的な体だ。

  (決して不純な動機じゃないぞ。服を洗う為に裸になった→裸じゃ寒いから風呂に入る→服が乾燥するまでだから問題なし!)

  自分に言い聞かせて湯舟にお湯を溜めながら体を洗う。柔らかな自分の身体にも驚くが、それ以上に翼や尻尾を洗う時は体が敏感に反応してしまう。角をスポンジタオルで優しく洗っていると体が妙に火照って来る。気持ちが高ぶり慌てて頭から水をかける。

  (そうか、プリンは角が弱点か・・・まあ、元はドラゴンだしな)

  湯舟に入って膝を抱えて肩まで湯に浸かる。胸の大きな2つの膨らみ、その上半分が谷間を作って水面から顔を出している。

  尻尾があるので普段の健太なら余裕で入れる大きさなのに窮屈に感じてしまう。プリンが風呂に入らない理由が分かる気がした。

  (えーと、角は丁寧に拭かないと)

  湯舟から上がると洗濯機の中の洗濯物は乾燥機モードに移行していた。まだ乾燥機が終わる迄暫く、時間がある。冷蔵庫の中に買っておいた惣菜。煮豆とソーセージとキムチが入っていた。ソーセージを茹でて御飯を炊いて昼食の用意をする事にした。

  (プリンも今頃、何か食べているんだろうなあ)

  時計を見ると丁度、お昼時。久しぶりに食べる一人での食事。何となく味気ない物だ。部屋の中も静かで何かが物足りない。

  そんな事を考えている最中だった。急にドアがガチャガチャ音を立て始めた。開けようとするが今は裸という事に思わず愕然とする。

  「私です、プリンです!」

  低い男の声で呼びかける声。本来なら直ぐ開ける所だが迷ってしまう。しかし開けない訳にはいかない。覚悟を決めドアを開けた。

  「只今、帰りました!・・・ちょっと、ご主人様!」

  プリンの呆れた様な声と何とも言えない表情。これから、どう言い訳をしようか?嫌な汗が体から出てくるのを健太は感じていた。

  9

  「しかし、早かったな・・・食べ放題行ったんじゃなかったのか?」

  結局、元の体に戻った健太とプリン。勝手に服を洗濯した事、そして裸を見てしまった事を謝ると元の体に戻る事で許してくれた。

  「うーん、確かに初めは嬉しかったんですけどね・・・やっぱり私はスーパーの総菜や、ご主人様の手料理を食べる方が好きです。」

  脱衣場からドライヤーの音と共にプリンの声が聞こえてくる。暫くするとプリンが出てきたが深刻そうな顔をしている事に気づいた。

  「ご主人様、私、もう、この姿でいる時間はあと僅かしかありません。最後に一つだけ心残りがあるんです。聞いて下さいますか?」

  「えっ、それって!?」

  ドラゴンが竜人の姿をとれるのは一生でも決まった時間しかないらしい。それをプリンは言い出せずに今まで一緒にいた訳だ。

  「分かった・・・何でも言ってみろ。」

  2人は今、台所に立っている。健太が後ろで見守る中、プリンが料理を作っている。包丁を使って野菜の皮を剥き切っている。

  皮は少し残って不格好な大きさ。プリンが怪我をしないかヒヤヒヤしながら健太も見守っている。そして鍋に入れて煮込んでいく。

  「出来ました。私が作った最初で・・・最後の料理です!」鍋から立ち上るスパイシーな匂い。カレーが見事に出来上がっていた。

  「甘口のカレーもいいもんだな。美味しいよ。」

  「だって、ご主人様の作ったカレー、辛すぎました。でも、あれが切っ掛けで、この姿になれました。あれから随分経ちましたね。」

  黙々とカレーを食べていく2人。健太も一杯言いたい事があるが、どう伝えていいか分からない。そして食事の時間が過ぎていく。

  「御馳走様。」

  「御馳走様でした。」

  2人で洗い物をしてリビングのソファで寛ぐ。健太の膝に頭を乗せて寝転んでいたプリンの姿が人からドラゴンへと変化し始めた。

  「くうう・・・」

  背が縮んで白かった肌が鱗で覆われていく。顔も変化するのを見ていると健太の心の中に何とも言えない感情が込み上げる。

  「プリン、俺も最後に一つだけ御願いしていいか?」

  「はい・・・何でしょう、ご主人様?」

  プリンが健太を見上げる。いかにも辛そうな表情だ。

  「ご主人様なんて呼ぶな。健太でいい。」

  「け、健太さん・・・」

  「さんも余計だ。」

  そしてプリンはドラゴンの姿に戻り静かに寝息を立て始める。毛布の敷き詰められた寝床にプリンの身体を横たえる健太であった。

  10

  「ナポリタンスパゲティー!」

  「おでん!」

  「焼き豚!」

  今日もスーパーの惣菜売り場には多くの人、そしてカートの中には惣菜発表ドラゴンが乗って惣菜の名を呼んでいる。ドラゴンの求める惣菜を手に取る飼い主の笑顔。その横を健太、そしてプリンが通り過ぎる。そんな2人に人々は好奇な視線を向けていた。

  「ううー、やっぱり恥ずかしいです。二足歩行しているのって私だけじゃないですか・・・」

  もうカートに乗れるような小さな体ではない。ドラゴンに戻ったプリンは健太よりは頭2つ分ぐらい小さいが小柄な女性位はある。

  大きな尻尾を振りながら恥ずかしそうに歩くプリン。健太も一緒に歩きながら2人は野菜と肉・魚の売り場に立ち寄っていた。

  「惣菜だと、やっぱり高いからな。それに自炊したいと言ったのはプリンだろ?料理覚えて俺の為に頑張りたいって言うのは嘘か?」

  「ううう・・・嘘じゃないですけど私が、あの姿に戻れるのは少なくても5年はかかるんですよ。健太さん30歳超えちゃいますよ!」

  魚売り場で魚をじっくりチェックしてカートの中に入れるプリン。今では買い物で品物を選ぶのもプリンの役目に変わっていた。

  「今日は煮魚と里芋の煮っころがしと豚汁かあ・・・本当に凄いよ。5年位待てるさ。プリンの料理があれば生きて行ける。」

  「もう、そんなに褒めたって何も出ませんよ・・・あ、御飯お代わりですね。豚汁もどうですか?」

  健太の突き出した茶碗にご飯をよそうプリン。ハッキリ言って人間じゃないというだけで、やっていることは普通の夫婦と変わりない。

  「あ、そういえばドラゴンの世界に里帰りしていた土産があるんですよ、ちょっと待っててくださいね・・・」

  食事を食べ終わった2人。プリンが目の前に広げた土産は健太が見た事もないような奇妙な品物ばかりだった。

  「えーと、これは父からですね。手紙もあります・・・もう!さっさと健太さんをドラゴンにしろってドラゴン化の薬を入れるなんて酷い!」

  困った様な顔をして健太の方をチラリと見るプリン。その目には(健太さん、ドラゴンになりませんか?)と書いてある様に見える。

  「お前の父さん、恐ろしいなあ・・・」

  「私には優しい父なんですけどね・・・あ、これは母からです。これも薬ですね・・・竜人の姿で飲んだら、そのまま固定する様です。」

  手紙も一緒に入っている。中にはプリンに頑張る様にと、そして健太宛には娘を宜しくお願いしますと丁寧な字で書かれてあった。

  「・・・・」

  「・・・・」

  2人の間に暫く沈黙が訪れる。そして沈黙に耐え切れなくなった健太がポツリと呟いた。

  「プリン、お前は、もうペットじゃない。大切なパートナーだ。お前専用の部屋も作ってやる。これからも俺の為に料理を作ってくれ。」

  頭を下げてプリンの両手を掴む。ゴツゴツとして鱗も生えている手をしっかりと握りしめる。

  「も、勿論です。私、一杯覚えます。料理だけじゃなくて家の事を全部、出来る様に勉強します。私からも宜しく御願いします!」

  どちらからともなく唇を寄せ合う。健太の暖かい唇とプリンの冷たい口吻とが重なる。すると台所からピーっと警告音が鳴り響く。

  「あっ!豚汁、コンロにかけたままでした!」

  慌てて2人が台所に駆けていきコンロの火を消す。顔を見合わせると自然と笑みが零れてくる。2人が結ばれるまで、あと5年。