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「[[rb:音宮 > おとみや]]くんは、猫、好き?」
「猫…ですか?」
普段、システムエンジニアとしてオフィスで業務をこなしている自分に、
広報部の部長の[[rb:広田 > ひろた]]さんから呼び出しがあった。
他の部署から名指しで連絡を受ける事はめったに無く、呼び出しの理由も不明。
何かをやらかしたのかと考えてみたが、思い当たることもなく、
狭い防音のミーティングルームに連れられ、今に至る。
「…特に、好きとか嫌いとかは無いです。」
「そうかそうか。なるほどね。」
広田さん、常にニコニコしているな。
社内広報誌や社内のイベントで見かけた時も笑ってた気がする。
「変な話の入り方をしてしまい申し訳ないね、実は重要な話があって呼んだんだ。」
「はぁ…。」
広田さんが組んだ手を、自分たちが挟むデスクの上に置きながら話す。
「きみ、この会社のアイドルになってくれないかな?」
「ゴホッ!ゴフッ…ん?……どういう意味…でしょうか?」
思わず咽せてしまい、ずれたメガネを押し上げる。
ニコニコしながらとんでも無い爆弾を落とすものだ。
「ハハハ、まぁそういう反応をするよね。」
「えーっと…あの、自分でも言うのもアレですが、アラサーで根が暗めの男ですよ?」
隠せない動揺が目の動きと口の渇きに現れる。
「ゴメンゴメン!結論から言ってしまったから勘違いさせてしまったね!」
「…勘違い…ですか?」
飲みかけのお茶のペットボトルで口を潤し、とりあえず話を聞く事に集中する。
「実はウチと仲良くさせてもらっている製薬会社と共同プロジェクトがあってね。」
そう言うと、広田さんはカバンから1枚の書類を出し、デスクの上に滑らせた。
自分はそれを手に取り、大きく書かれたタイトルを読み上げる。
「ネコ化アピールプロジェクト…?」
「そう!ネコ化アピールプロジェクト!」
書類にはデフォルメされた人間と二足歩行の猫が描かれている。
「実はね、その製薬会社さんがネコになれる薬の開発に成功したんだよ。」
「えっ、猫になれる薬?」
「まぁ、まだサンプルデータが足りないってことで公表までには行かないんだって。」
とてもだが信じる事ができない話だ。
「疑う気持ちも分かるよ。僕もこの話聞いた時、めちゃくちゃ怪しんだもの。」
「でもね、実際に相手さんの会社に行ってネコになった方に会ったんだよ。
ほら、これがその時の写真なんだけど。」
広田さんが社用スマホを操作し、写真を見せてくれた。
そこに写っていたのは、広田さんと二本の足で立ち、人と同じように服を着たネコが写っていた。
背丈は1メートル位、普通の猫と比べると指が長い。
ファンタジーモノに出てくる獣人という表現が近いのかもしれない。
「いやー可愛かったねー。
握手させてもらったけど、フワフワのプニプニだったよ。」
そう言いながら、広田さんはスマホをしまう。
一方、自分は開いた口が塞がらないままでいた。
「それで話は戻るんだけどね、より正確に言おう。
君にネコになってもらって我が社の広告塔になってもらいたい。」
「このプロジェクトはね、ネコになる薬のモニタリングと、ネコになった従業員をマスコットとして会社をアピールをするwin-winの計画なんだ。」
「もちろん、無理にとは言わないさ。イヤならイヤと言ってもらって大丈夫だからね。」
「あの…自分以外にも適役の人間がいそうな気がするのですが。」
なぜ自分なのかと言う所で疑問が止まない。
無愛想で目つきも悪いほうだ。
「それがね、色々考えたらきみが適役だったんだよ。
きみ、アンケートによるとタバコ吸わないし、酒も週に一回か二回程でしょ?」
「あぁ、あのアンケート、健康診断関係のだと思ってました。」
「モニタリング対象として健康体な人が良いんだって。」
健康な人間なら他にもいそうだが…
「あと、一人暮らしなのも、経過確認の都合で良いんだって。」
「なる…ほど…」
「それとさっきの質問の答え、猫が好きでも嫌いでも無いって言ってくれた事だね。」
はて?むしろ猫が好きな人間の方が都合良さそうな気がするが。
「モチロン嫌いな人をネコにするわけにはいかないけど。
好きな人間だとね、下手すると会社辞めて独立しかねないかも知れないって話なんだ。」
ニコニコしてる広田さんも、この話は少し眉をしかめ困った様子を見せた。
「きみぐらいの無関心さが丁度良いんだ。」
数々の理由を並べられ、少しだが納得してしまった。
「さっきも言ったけど、イヤならイヤと言ってくれて構わないよ。」
「………。」
少し、[[rb:俯 > うつむ]]いて考える。
「…もし、なった場合、なんの仕事をするんですか?」
「ホームページやSNS用の写真とか動画を撮らせてもらうよ。でも、普段は今までの仕事を続けてもらう予定さ。」
「システムエンジニアは続けられるんですか?」
「うん。続けられるよ。さっきの写真で見てもらった通り、完全な猫になるわけじゃ無いんだ。
“人間の生活を捨てないままネコになる”っていうのがモットーなんだって。写真の人も、あの姿で仕事を続けてるらしいよ。」
「そうなんですか…。」
仕事に対して誇りを持っていた自覚は無かったが、意外と執着心があるモノなのだと自分に驚かされる。
そうか、今の生活を捨てるわけでは無いのか。
一度、深呼吸をして答えた。
「分かりました。その話、受けます。」
「おぉ!本当かい!ありがとう!」
8割り増しでニコニコした広田さんが感謝を告げる。
「じゃあ明後日の業務後に、製薬会社さんの所でネコになってもらうね!」
そう言って、るんるん気分な広田さんは部屋を出て行った。
…思ったより展開が早いな。
人間の姿の内に一度自撮りでもしておいた方が良いかもしれない。
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2日後、18:00
広田さんと自分の二人で、どこか近未来感を感じさせる真っ白なビルの入り口にいる。
もうすぐで今の姿とお別れをすると考えると緊張する。
「いやぁ、ワクワクするねー。」
相変わらずニコニコした広田さんと共に、入ってすぐ隣の待合スペースに向かう。
[[rb:この人 > 広田さん]]、営業部とかも相性良さそうだ。
「お待たしました〜。」
声のする方に顔を向けると、明らかにサイズの合っていない白衣を着たネコが駆け寄ってきた。
写真に写っていたネコとは違う柄をしている。別人なんだろうか。
「広田さん、この前ぶりです〜。えっと、こちらの方が?」
「そうそう、ウチで働いてる音宮くん。」
「音宮 [[rb:胡太郎 > こたろう]]と申します。よろしくお願いします。」
[[rb:懐 > ふところ]]から名刺入れを取り出し、名刺を渡す。
「丁寧にありがとうございます〜。こちらもどうぞ〜。」
「ありがたく頂戴いたします。」
受け取った名刺にはネコ化研究部主任、[[rb:木天 > きてん]]と書かれていた。
「じゃあ、早速ですが〜、行きましょうか〜。」
「はい。」
「僕はここで待ってるよ。」
広田さんと別れ、木天さんの後ろをついて行く。
白い尻尾をゆらゆらと揺らしながら歩く様を眺めながら歩くと、白いドアの前で立ち止まった。
「それでは〜、こちらに入って頂いてですね〜。この薬を飲んでくださ〜い。」
「変化が現れるまで5分くらいかかりますので〜、ソファに座りながら待ってくださ〜い。」
「あの、中には他の人とかは?」
「いないですよ〜。変化の結果、着替える必要があるので〜プライバシーの為、お[[rb:一人 > ひとり]]で入ってもらいます〜。」
その後、細かい説明を受け、部屋に足を踏み入れた。
「何かあったら緊急用のボタンを押してもらうか、叫んでくださいね〜。」
「分かりました。」
ドアが閉じられたのを確認し、手渡されたカプセル状の薬をジッと見る。
心の中で勢いをつけてから口に入れ、水で流し込んだ。
あとは待つだけ。ソファに腰掛け壁にかけられた時計を眺める。
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5分が経った…
だんだんと体が熱くなって行くのを感じる。次第に汗が吹き出す。
体の節々が痛み、思わずソファに横たわる。
事前に変化について聞いていたが、思っていたよりダルくて[[rb:辛 > つら]]い。
次第に足の先からゆっくりとむず痒さが体を登って行く。
息が荒くなり悶えて、ただただ耐えていると変化が終わったのか、熱や痒みが引いてきた。
ソファから起き上がる。
視線が低い、子供の頃に戻ったようだ。
備え付けの全身鏡の前に立つ。
そこにはぶかぶかのスーツを[[rb:纏 > まと]]った黒白の毛のネコが琥珀色の瞳でこちらを見ていた。
鏡に向かい右手を伸ばすと、鏡に映ったネコが同様に手を伸ばし冷たい鏡面に手のひらをつけた。
どうやら、このネコが自分の新しい姿のようだ。
自分のサイズに合わなくなった服を脱ぎ、全身を確認した。
耳の先から足の先まで細く柔らかな毛で覆われ、足裏や手のひらにピンク色の肉球が出来ていた。
とりあえず、用意されていた貫頭衣を着る。
元々着ていたスーツを畳み、いつの間にか落ちていたメガネを拾う。
扉をノックして開ける。
「おぉ〜!黒白のイエネコになりましたか〜!いいですね〜!」
「そう…なんですか?」
ドアの前で待っていた木天さんが興奮しながら自分の体を上から下までじっくり観察している。
何がいいのかは分からない。
「体調は問題ないですか〜?無いなら新しい体での身体測定を行いますね〜。」
「特に問題は無いです。」
木天さんの後に続いて移動する。歩く動きで尻尾と細長いヒゲが揺れるのを感じる。
なんとも妙な感覚に大きくなった耳がピクピクと動いた。
「それではこちらの部屋に入ってくださいね〜。」
そこからは木天さんの指示に従い、身長や体重など色々測っていく。小さくなったのは分かるが、体重もそこそこ軽くなって驚いた。
視力もメガネ無しで問題無いレベルになっていた。
「お疲れ様でした〜。ネコ用の服や生活用品はこちらで準備してますので、今日はそれを渡す所で終わりです〜。」
「ありがとうございます。」
用意してもらった服に着替え、広田さんの元に戻る。
「おっ!もしかして音宮くんかい?」
「はい、音宮です。」
広田さんはこちらに近づき、ネコとなった自分の顔をしゃがみ込んで覗き込む。
少し気まずく感じた為、視線を逸らしてしまった。
「はは!可愛くなったねぇ!」
「そうですか。」
言われなれない言葉にどう反応していいか分からず、困る。
「さて、今日はこれくらいにして帰るとしようか。家の近くまでタクシーで送るよ。」
「いや、悪いですよ。自分で帰れます。」
「新しい体にまだ慣れないだろう。ここは甘えておきなさい。」
「…ありがとうございます。」
その後、問題なく家に着いた。受け取った荷物を居間に置き、一緒に渡してもらった夕飯をいただく。
ネコ化の影響で食事には若干の制限がかかると言われた。
カフェインの含まれるコーヒーや、ネギ類など、若干は大丈夫だが人間の時に接種していた量では中毒症状が出るらしい。
専門の栄養管理の方が用意した食事をこれからも送ってもらえるとのこと。
若干薄味な弁当を平らげて、シャワーを浴びた。
全身を乾かすのに四苦八苦して、明日の準備を済ます。
一通りやることを済ませて、ベッドに背中から倒れ込み天井に向けて腕を伸ばす。
視界に入るネコの腕を眺めながら、今日の振り返りと明日からの事を考える。
…まぁいいか。成るようになるだろう。
少しスマホをいじり、眠りについた。
[newpage]
翌日 06:30
スマホのアラームを止めて、伸ばした白い手を見る。
そういえばネコになったのだった。
ベッドから起き上がり、洗面台で顔を濡らしたタオルで拭き、鏡を見る。
目つきの悪さと少しクセのある髪の毛が、人間の自分の姿を彷彿とさせる。
朝食を軽く済ませ、新しいスーツに着替える。
カバンを持ち、家を出て、鍵をかける…が身長が下がったことで少し苦戦した。
最寄りの駅に歩いて向かう。
いつもより一つ早い電車に乗り、会社に向かう。
吊り革に手が届かなくなったので、出入り口付近の手すりに掴まる。
こちらに向けられた視線を感じるが気づかないフリをしておく。
まぁ、自分も同じ立場ならジッと見ていたかもしれない。
08:30
会社に到着。
業務開始時間は9時からだが、入館証の写真を撮り直す為早めに来た。
警備員の人も事前に話は聞いていたのだろう。
一度こちらを驚いた表情で見た後、普通に通してくれた。
この前使ったミーティングルームに再び入る。
「おはよう音宮くん!」
「あっ、おはようございまーす!」
「おはようございます。」
広田さんと、誰だろうかキラキラした目をした女性社員が既にいた。
「ふわぁ〜!ほんっとにネコなんですね!すごい!」
「あの、こちらの方は?」
「うちの部署の[[rb:鈴原 > すずはら]]だよ。
きみの写真撮影担当をしてもらう予定なんだ。」
「あっ、そうだ!初めまして!鈴原と言います!」
「音宮です…。」
鈴原さんの元気の良さに[[rb:気圧 > けお]]される。
「早めに撮っちゃおっかね。時間も限られてるし。」
「はい!じゃあ、音宮さん!そっちの壁を背景にしますんで、」
鈴原さんの指示に従い、撮影してもらった。
「音宮くん、この写真、ホームページとSNSに乗っけていいかい?」
「大丈夫です。元からそういう話でしたので。」
「ありがとうね、とりあえずこれで戻ってもらって大丈夫だよ。」
「分かりました。お先に失礼します。」
自分用のデスクに向かう。
なにか違和感を感じる。椅子が変わってる?
座高の変化に合わせていつの間にか用意されてたのだろう。
おそらく広田さんが手を回したのだと思う。
既に出社していた所長がこちらに気付き、目を丸くさせ驚いてる所で目が合った。
一応、ネコになった事を報告しよう。
既に連絡がいっているだろうが、報連相は大事だ。
荷物を置き、所長のデスクに近づく。
「ミー子!ミー子じゃないか!!」
「音宮です。」
何か知らないが勘違いされている。
「そうか!なるほど!音宮くんはミー子の生まれ変わりだったのか!」
「違います。」
所長が壊れてしまった。
バリバリのキャリアウーマンな所しか見てこなかったが、よっぽどの愛猫家のようだ。
こんな所長は初めて見た。
…なんとか説明して、正気を取り戻してもらった。
「そうか、広報部から聞いてたが、音宮くんがそうだったのか。」
「はい。仕事の方は今まで通りに行えるという話になってます。
偶に撮影の協力で抜ける事があるかも知れませんが。」
「分かった。朝礼の時にその事を他のみんなにも伝えておこう。」
時刻は朝の9時になり、業務開始のチャイムが鳴る。
ウチの会社では事業所ごとでそれぞれ朝礼を行ってから業務に移る。
「今日は大事な連絡があります。
昨日、広報部からメールで通知があった通りプロジェクトの一環でネコになった社員がいます。
それが、ミ…音宮くんです。音宮くん一言お願い。」
まだミー子を引きづっていたか。
「音宮です。
企業合同のプロジェクトに参加させていただき、この度ネコになりました。
仕事に関しましては今まで通り行えますので、
変わらず対応していただけると幸いです。」
軽くお辞儀をすると、何人か鼻を押さえている。
大丈夫だろうか?
「偶に撮影の為、業務を一時的に抜ける事があるそうなので、
その時は協力してあげてください。
あと、連絡がある方いますか?いないようなら、朝礼を終えます。」
各々がそれぞれの席に戻る。
自分も座面の高くなった椅子に座り、パソコンを立ち上げてメールの確認を始める。
「先輩、先輩。」
「ん?どうした[[rb:後谷 > うしろだに]]?」
隣の席の後輩が声をかけてきた。
「先輩、マジで先輩なんですか?」
「あぁ、俺だぞ。」
「えぇ〜、いやマジかー。確かに昨日メールでそんな話ありましたけど、あんなんスパムメールだと思ってましたよ。」
まぁ、“プロジェクトの一環でネコになる社員がいる”なんて書かれたメールは怪しい事この上ないだろう。
「さっき言ってた通り、やる事は変わらないからあまり気にするな。」
「いやー、気にするなと言われても、気が気じゃないっすよー。」
「いいから、早く仕事しろ。」
「ういっす。」
気が気じゃないのは後谷だけではないようだ。
他の社員からもチラチラと視線を感じる。
いつか慣れてくれるだろう。
そう思い、自分の仕事に集中する。
12:00
お昼休憩を知らせるチャイムが鳴る。
「音宮くーん、お弁当届いてるよー。」
「ありがとうございます。」
「音宮さん!食事中の写真を撮らせていただいてもいいですか!?」
広田さんから紙袋を受け取る。
鈴原さんも来ていたのか。
「いいですよ。」
了承しながら、受け取った紙袋から弁当を出す。
ん?このお弁当…
「おぉー!カワイイ!サカナの形してますね!」
「はっはっは、ホントだ。ファンシーだねー。」
広報部の二人にはウケているが、慣れないファンシーさに自分は若干気後れしてしまった。
「じゃあ、僕はこれで失礼するよ。」
広田さんが去って行くのを見送り、弁当の蓋を開ける。
中身は一面サカナ!ではなく、米、野菜、お肉等で彩られていた。
「おぉー!思ってたより普通なんですね。」
「鈴原さんはどんなのだと思ってました?」
「煮干しがいっぱい入ってると思いました!」
そんなお弁当は嫌だ。
紙袋の中には他に、ノンカフェインのお茶のペットボトルとお弁当の中身について書かれた用紙が入っていた。
なんとも至れり尽くせりである。
「あの!食べる前に、お弁当を中身が見える角度で持ってもらって、カメラに視線を向けてもらっていいですか!?」
「あっハイ。えっと…こうですか?」
「…オッケーです!あとは食事している所をこちらで何枚か撮影するので、食べ始めていただいて大丈夫です!」
その後、カメラを向けられたまま弁当を平らげる。
味付けはヘルシーだが、満足感は得られた。
「ありがとうございました!いい写真いっぱい撮れました!」
お礼を告げて鈴原さんは足早に去っていった。
「アグレッシブな子でしたね。あの子。」
「朝からあのテンションだったぞ。」
「そうなんすか。あの元気は[[rb:素 > もと]]からなのか、ネコが好きだからなのか、どっちなんすかね?」
「さあな?」
後谷と他愛のない話を軽く交わす。
ご飯を食べた事で眠気を感じた為、残りの休憩時間を昼寝に費やす事にした。
13:00
昼休憩が終わり、業務再開のチャイムが鳴る。
寝起きの[[rb:滲 > にじ]]んだ視界で、メガネを探す。
「あれ?メガネ…?」
デスクの上を、手を伸ばして探るが見つからない。
「先輩、今日メガネかけてなかったっすよね?」
「あっ、そうか。不要になったんだった。」
軽く目を[[rb:擦 > こす]]ると視界がくっきりしてきた。
「やっぱアレなんすか?ネコ化の影響ってやつ?」
「ああ。メガネ無くても見えるようになったが、今まで体の一部だった物だから、無いって事に慣れないな。」
軽く伸びをして、業務を再開する。
途中、コーヒーを買おうと席を立った所でカフェインが制限されている事を思い出してがっかりする。
15:00
「先輩、書類のチェックお願いしまーす。」
「ん。」
後谷から受け取った資料を読む時、クセでメガネを触ろうとしてメガネが無い事に再び気付く。
伊達メガネで良いからネコ専用のを注文しておこうかな。
「……よし、問題ないぞ。8部印刷しといてくれ。」
「了解でーす。」
書類を持ってコピー機に向かう後谷を[[rb:一瞥 > いちべつ]]する。
自分の場合、今の身長だとコピー機に届かなさそうだ。
仕方がない、その時は誰かに頼むとしよう。
16:30
案の定、眠気が再び襲ってくる。
いつもならコーヒーで乗り越えていたが、今は頼ることができない。
仕方ないので、社内を軽く歩いて眠気を飛ばす事にしよう。
廊下や階段を移動していたら広田さんに出会った。
「おっ!音宮くん。どうしたの?」
「少し、眠気覚ましに歩いてました。」
「なるほどね。…もしかしてだけど、この音、[[rb:喉 > のど]]鳴らしてる?」
喉?なんのことかと思い、ふと喉からゴロゴロと音が鳴っている事に気づいた。
無意識だ。微睡みを感じながら無意識に喉を鳴らしていた事に気づいてしまった。
恥ずかしさで一気に眠気が吹っ飛んだ。
「すみません、無意識で鳴ってました。」
「はっはっは。無意識だったか。それは悪いこと聞いちゃったね。」
一体いつから鳴らしていたのだろうか。
恥ずかしくて後谷にも聞く勇気が出ない。
「あの、今の忘れていただけると嬉しいです。」
「ふふ、分かった。善処するよ。」
自分のデスクに戻り、モヤモヤを仕事にぶつける。
ネコの生活にも、早く慣れたいものだ。
18:00
定時のチャイムがなる。
やはり新しい体に慣れないためか、効率が落ちているように感じた。
現在の進捗は余裕がある状態なので、残業の必要は無い。
軽くため息を吐きつつ、パソコンの電源を落とす。
帰り支度をして席を立ち、挨拶をして会社を出る。
「しっかし意外でしたよ。」
「何がだ?」
同じく電車通勤の後谷と途中まで一緒に帰る。
「いや、先輩がそのプロジェクトの話に参加したのがですよ。
興味無いって断りそうだなって思ったんで。」
「まぁ、そうだな。断ってた可能性もある。
でも、ウチの会社、ホワイトだろ?」
「そうっすね。残業は月に一度あるかどうかで、給料も悪く無いっすね。」
一度、残業だらけの職場で働いていた経験がある身としては、今の環境はだいぶ優遇されていると感じる。
駅に着き、電車に乗る。
今日は少し空いてるようで、座ることができた。
「人間関係の問題も全然無いしな。
そんな会社の為になれるならって思って受けたんだよ。」
「恩返しってやつっすか?」
「まぁ、そうなるな。」
自宅の最寄駅の一つ前の駅を過ぎる。
「ネコになって恩返しだなんて変な話っすね。」
「はは、確かにな。
じゃあ、次で俺は降りるから、お疲れ。」
「はい!お疲れ様でしたー。」
電車を降り、駅を出て自宅に向かう途中、マンションの窓辺から子供がこちらに手を振っていた。
手を振り返すと子供は嬉しそうに飛び跳ねていた。
無邪気な姿を見て、ふと笑みが溢れる。
自宅の扉を開き、中に入る。
ネコの生活には未だ慣れないが、どうにかなりそうだ。
自分の決断で会社の人たちが喜んでくれてたら…そう思いながら、扉を閉めた。
尚、会社のSNSが大バズりしてるの見て全身の毛を逆立たせて驚くまで、あと2時間。
[newpage]
□その他設定
⚪︎音宮 胡太郎 (男)
苗字と名前の頭を揃えて読むと”ねこ“になるよう命名。
一人称は、自分/俺。
冷たいように見られがちだが、感情表現の幅が狭いだけ。
信頼してる相手は、放って置いても大丈夫と思ってる。
逆に信頼してない場合、付きっきりで面倒を見るタイプ。
後日、専用の伊達メガネを注文した。
⚪︎広報部部長 (男)
苗字は“広田“広報部の広をとって命名。
ニコニコスマイルで人の懐に入り込むのが上手いおじさん。
「対面した時から、音宮くんだったら頷いてくれると思ってたからね。」
⚪︎広報部職員 (女)
苗字は”鈴原”猫の連想として鈴から命名。
入社したての新人ちゃん。
テンションが高いのは常時だが、猫も好きなので実はテンションブーストされてる。
「こんな美味しい仕事いいんですか!?」
⚪︎後輩 (男)
苗字は“後谷”後輩の後をとって命名。
喋り方がザ・後輩。彼女がいて同棲している為、プロジェクトの条件から外れていた。
「先輩、ネコになってから分かりやすくなりましたよね。表情動いてないけど、耳とか尻尾に出るようになりましたもん。」
⚪︎所長 (女)
名前は未定。
ネコ化した音宮が死別した猫にソックリだった為暴走した。
「あの塩対応な感じ、やはり似ている。」
⚪︎ネコ化研究部主任 (女)
苗字は“木天”[[rb:木天蓼 > マタタビ]]から命名。
自分の手で夢を叶えた人。
白のイエネコ、目は翡翠色。
「この白衣ですか〜?かわいいですよね〜。」
⚪︎ネコ化薬
そう願った者たちが集まり、生み出された奇跡の産物。
ネコ化する際の熱や痛み等について、一部の開発担当者が「変化している感がいいんですよ!!」と熱く語っている。
⚪︎ネコ化アピールプロジェクト
実は主人公の会社以外とも行っており、同時に実施されていた。
スポーツ用品開発の会社では、身長は変わらず、チーター型に変化した社員がいた。
⚪︎オトミヤくん人形
SNSに公開されてから1週間で作られた人形。
「あの、自分に渡されても困ります。」
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