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◇1日目
(にゃーっ!!)
トレジャーハンターのニコは、心で世界の無情を叫んでいた。
町中でも名の知れた空色のモフモフケモノ少女。いつもの快活で明朗とした彼女であれば、ショックなことがあれば子供のような素直さでそれを表現するはずなのだが、今はそれが出来ないでいる。
それは何故か、といえば。
「見事にカチコチに石像化したものですなあ」
と蓄えた顎髭を撫でる老人が、灰色に染まったニコをまじまじと見つめていた。
そう。彼女は今、全身を石にされている。
ダンジョンの罠にかかり石像化してしまったニコは、街の診療所に運び込まれていたのだった。
とは言え、彼女は別に石化してしまった事を嘆いているのではない。
(オタカラ……オタカラ……にゃぅー)
宝箱を開けるまであと少しの所で石化し、救助に来た冒険者は「罠だろ」の一蹴で触れようとすらしなかったお宝。もしかしたら本当にすごいお宝が隠されていたかもしれない! という可能性にチャレンジすることも出来なかった。その事を嘆いていた。
罠にかかったことなど欠片も気にしていない。同じ状況になったらまだ見ぬお宝を求めて手を伸ばすだろう。
懲りない少女である。
「ふむ」
(にゃひゃ……っ)
とそんなニコの心の中のことなど知る由もない治療師の老人は、ニコの身体を徐に撫でる。服越し、それも石化した状態であっても感触はある。
急に触られると驚いてしまうことには変わらない。だが、そんな事など一欠片も考えないような手付きで老人はニコの全身の硬さを確かめるように手のひらを動かしていく。
「あ、あの……一応女の子だからあまりベタベタ触るのは……」
と、少し経った後、後ろにいた若い男の治療師がおずおずと老人に語りかけていた。ニコとしても(そうにゃそうにゃ、擽ったいにゃ!)と少しずれた同意をするも、老人は呆れたように首を振った。
「どの程度の硬度かも見んと薬湯の濃度を決めれないですから。それに石化の状態では意識はありませんよ」
(意識あるにゃー! かゆかゆにゃ!!)
通例と違ってばっちり意識があるイレギュラーが叫ぶも、当然それに気づかれる事はなく話はニコを無視して進んでいく。
薬湯に浸けすぎるのも害があるとして一定の濃度の薬湯を浸した布で石像の表面を液拭し、日に数回風通しの良い場所に移すことで魔力の拡散を促して安全な解除法になるらしい。
(ふむふむにゃあー、……すんごく、擽ったそうにゃぁ……)
ニコは一日何度か拭き上げられる、という治療に対しての不安を募らせる。だが、その不安よりも考えなければいけない事があるということにニコはまだ気づいていないのだった。
◇2日目
「あれ、なにこれニコ姉ちゃんの石像?」
「こら、イタズラしないで」
街の子供に見上げられながら、ニコは遠慮なくベタベタと触ってくる少年が治療師の女性に怒られているのを横目に、次第に賑わってきた声を聞いて、うんうん、と心の中で頷いた。
こうして子供に纏わりつかれるのも既に4回目。時々子供達と遊ぶ(宝探しゲームとか)ニコは、割りと子供達からの好感度が高い。とはいえ、治療を受けているはずのニコにどうしてこんなに気づくのかと言えば。
(エントランスだなんて聞いてないにゃ!?)
風通しのいい場所、とは聞いていたもののまさかここまで開けっぴろげに展示されてしまう事など考えてもいなかった。
時折顔見知りの冒険者がニコを見に来たりするのがこの上なくうっとおしく、恥ずかしい。どうにも彼らもニコが本物ではなく何らかの石像だと思いこんでいるらしく、時折褒め言葉も降ってくるのが違う意味で擽ったい。
(にゃあ……それはそうと、退屈にゃ……)
のだが。
考えなければいけなかったことは、まだ訪れてはいない。
◇3日目
(……んにゃぁ……)
それが訪れたのは、3日目のことだった。
またしても悪ガキがやってきて、そして、顔を真赤に染めて押し黙ってしまった。
「あー石のニコ姉ちゃん、裸だ」
(にゃう……ッ!)
と少年の弟の無邪気な声が上がり、悪ガキは慌てて弟を抱えて踵を返していった。
何が起きたのか。それは、一目瞭然であった。単刀直入にいえば、ニコの服だけが石化から解放されたのだ。今のニコは服を来た石像。
「やはり、無生物は石化の解除も早いですね」
と老人治療師がうんうんと頷いて、他の治療師に出したのは。
「では、脱がしてあげて、拭き上げを続けてください」
(脱が……ッ!?)
「汚れたままですから、洗濯もしておいてくださいね」
そんな指示だった。
というわけで、ニコは今。裸体像となってエントランスに立たされている。
(流石に、恥ずかしいにゃ……っ)
幼さがあるとは言え、その胸の双丘は成人の中で比べても豊かに膨らんでいる。しかも下着に支えられていた形のままで瑞々しい柔らかさを視覚的に訴えかけてくるフォルムに様々な視線が飛んでくるのをニコは感じていた。さらに言えば、石化の際の痒みのせいで、その先端の芯はぷっくりと膨らんでいる。それが更に魅力的な形となって晒されてしまっていたのだ。
(にゃ……ぁ……)
それだけではない。ふっくらとした太ももや、お腹、そしてその間の秘部まで曝け出されている。しかも、濡れた布で全身を拭き上げられる時の擽ったさが直接肌を擦られる事で倍増していて、ニコはその度、心のなかで悶える事になっていたのだった。
◇4日目
その日は夜まで変化はなかった。宿直の数人だけが残る治療院。
(そろそろ薬湯の時間にゃ……?)
とニコが考えていた丁度その時、廊下の奥でカンテラの火が揺らいだ。そこに現れたのは若い青年の治療師だった。
彼が拭き上げの準備を進めるのを見ながる。ニコはこの時間を嫌いではなくなってきていた。
意識がないからと、人がいない時は、誰にも教えてない美味しいお店や恋の話など秘密の話を零してくれたりするのが、退屈きわまりない今の唯一といってもいい暇つぶしなのだ。
それに。
(ん、にゃ……ぅっ)
濡れた布がゆっくりと身体を沿う。柔らかいブラシで擦られているような擽ったさは、不思議と嫌じゃなかった。いや、少しずつ回復しているからか、気持ちよさすらあった。
少しずつ柔らかさを取り戻している石像。その腰の辺りをゆっくりと撫でる治療師の手付きに独特なもどかしさを感じる。好きとは言い切れないまでも癖になってしまいそうな感じがあって、無邪気なニコにとっては、それもちょっとした楽しみなのだった。
「挿れたら気持ちいいんだろうな……」
(んぅ……にゃ!? そこは何かを入れる所じゃないにゃ、そんな変なこと企むじゃないにゃ!?)
と不穏な言葉を聞いたりしながら、今日も夜は更けていくのだった。
◇5日目
その日は怪我人が多く、治療院は目まぐるしく動いていた。そんな中拭き上げに来た治療師が薬湯の入った器を手にエントランスに来たその時、またしても扉が勢いよく開け放たれる。
担ぎ込まれてきた男は、脚からダラダラと血を流して、治療師達が指示を元に動き出す。そんな中。
「手伝える!?」
とニコの拭き上げに来ていた治療師に声が飛び、彼は一瞬持ち場を離れるかどうかの迷いを見せた時。
「あ、あの俺……やっとこうか?」
と助け舟を出したのは、初日にいたあの少年だった。
「この石像の掃除だろ? それくらいなら俺だって出来るよ」
「ああー、うん、まあそうだけど」
(任せるのにゃ!? あ、でも怪我人も心配だから、そっち優先はお願いしたいにゃ!)
ニコも回復が早いから多少雑でも大丈夫。みたいな些か大雑把な回復具合を共有しているのを聞いていたので、それが原因だろうとも思いながら、今も運ばれてきた怪我人の傷の深さにむしろ心配になっていた。
「……なんかこの前より、石っぽくない気が……?」
(んー、少し弱めにゃけど、薬液が染みてきてる感じあるから大丈夫かにゃ?)
「ちょっと柔らかいし……本物のニコ姉ちゃんの裸、みたい……」
首を傾げながらも、任せられた任務を遂行しようとする少年の布がニコを擦る。そうこうしているうちに次第に少年の顔が赤らみ始めてくる。
少年の手がニコのお腹を拭いていた時。
「ぁ……っ、ぅ」
(ん、どうしたにゃ?)
小さくくぐもった声とともに、少年の手が止まった。と思えば、何故かスボンを握りしめる少年は、そこから急に拭き上げの速度を上げて、逃げるように治療院を出ていってしまうのだった。
(……なんだったんだにゃ?)
と残されたニコは、聞けるタイミングがあったら聞いてみようと、石化から解放された時には忘れ去っている事を思うのだった。
◇6日目
「全く、若いですね」
もう魔力の拡散も必要ないだろうとエントランスへ移動する事がなくなったニコを老人の治療師がじっと見ながら少し呆れた声を出した。
薬液の染みた布が、ニコの脚の付け根のその間に押し付けられる。ふに、と少し弾力を返すその感触は正しく生身のそれ。そして、ニコの胸へとその手が伸びる。そこも同じく生身の柔らかさを宿していた。
だが、他の部位はといえばまだまだ石化が残っている。拭き上げが何故か重点的に行われていた、ということだろう。老人はその理由に心当たりがあり、呆れた声を出したのだ。
「さて、まあ、この程度なら調整はできますか」
最終調整。そういって老人は濃度の違う薬液を使って治療を進めていく。そんな最中ニコはというと。
(ぅう……慣れちゃって忘れてたんにゃけど、私、裸で人前に立ってたにゃ……っ!)
すっかり忘れてしまっていた羞恥を、引っ込められて改めて思い出して、只管に悶絶していたのだった。
◇7日目
「爽快、完全復活にゃー! にゃはー、トレジャーハンター・ニコ、トレジャーハント復帰なのにゃー‼」
ニコを助け出した男達は、屋根の上から降ってきたニコにあっかんべー、とされた後聞こえてきた声に、思わず顔を見合わせていた。
彼女が石像になっていたことは、ごく少数の者にだけ共有している。
とはいえ、治療院が堂々とそれを飾ることまでは考えていなかったが、どうやら変なこじれ方はしないで済んだようだと、互いに安堵の表情を見せ。
騒がしいトレジャーハンターが返ってきたことに呆れた笑みを浮かべるのだった。
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