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我が家にヴィランがやってきた! 第一話

  プロローグ

  昔から、親の仕事の関係で家には様々な人が訪れた。

  「コノハおじちゃんいらっしゃい!」

  「おお、ジュンくん。こんばんは」

  その人たちは、いつも体に強化繊維を使って作られた『コスチューム』を纏っていた。太陽を思わせる赤々としたタイツを身に着け、バイザーで顔を隠した獅子獣人の腕が、駆け足で近づく自分の体を抱き上げる。

  盾と呼ばれた子供――幼き日の自分は――、抱き上げられるとそれ自体が楽しいことのようにきゃっきゃと笑った。コスチュームを着たの人型の獣は、その様子をみて、牙を覗かせずに唇だけを歪めて微笑んだ。

  「コノハおじちゃん、きょうはとまっていくの?」

  「今日は悪い人を捕まえたから、祝勝会をすることになったんだ。泊まるわけではないが、きみの期待に応えようじゃないか。――何がしたい? 考えているんだろう?」

  盾にとって、目の前の屈強な獅子は憧れの存在でありながら、とても大切な人だった。たとえ自分より二倍も三倍も大きい、骨太な体格をしていても。常軌を逸するほど鍛え上げられ、化物の如く盛り上がった肉体でも。

  盾にとって彼の腕に抱かれた瞬間から、世界は何にも代えがたい楽園へとすがたを変える。顔を上げると、いつもそこには慈悲深い黄金色の瞳があった。盾は彼のことを恐ろしいと思ったことはなかった。獅子の持つ愛情と、優しさを知っていたから。

  盾は自らの理想を、この世界で家族よりも――最も愛おしい存在をみつめる。分厚い胸板から伝わってくる正義の鼓動に、自らの魂を同調させながら。そうするとき、彼と自分は一つになっているような気がした。願いの守り手のうつくしい魂が、たしかにその肉体の内側に存在していた。彼の鼓動を体で感じるたび、盾は胸の奥が熱くなるのを感じた。そして、いつかこの人の隣に立って、同じ景色を見るのだという決意を燃え上がらせた。

  盾は喜びに表情をほころばせながら口を開いた。いつもどおりの返答だったが、声に出すたび、言葉は鞠のように弾み、相手の耳に響いた。

  「じゃあ、きょうのおしごとおしえて!」

  それはいつも盾が獅子に頼んでいたことだった。彼の、英雄の成し遂げたことを聞き、記憶する。将来、自分が彼の側につくために知識が必要なことは、幼くても自然に理解していたのだ。

  すると獅子は、その力強さで盾を抱きかかえ直すと、静かに言った。

  「まったく……私の仕事など聞いてどうするつもりなのだ……リョウスケも大変だな」

  でも、コスチュームに包まれた尻尾は、上機嫌そうにゆらゆらと揺れていた。視界にそれを捉えた盾は、一層胸を高鳴らせる。そして、お姫様抱っこの状態から獅子の首に手を回し、獣毛に覆われた横顔に頬ずりした。

  「いつか、ぼくもおじちゃんみたいなヒーローになる!」

  すると獅子は苦笑いした。

  「そこはお父さんやお母さんのような、と言うべきなんじゃないのか?」

  盾は頬を合わせた状態で首を横に振ってから、獅子と正面から向き合い、言った。

  「ぼく、コノハおじちゃんのことだいすきだもん。だからぼくがヒーローになるまで、おしごとやめないでね!」

  そして一層強く抱きつくと、獅子は今度こそ根負けしたように、盾の背中を擦りながら言った。

  「わかった。頑張るとしよう。――仰せのままに」

  それが、羽佐間盾の最も愛おしく、同時に身を裂くほど苦しい、過去の記憶だった。

  一話 出会い。

  一

  「盾、お前にちょっと話がある」

  「え? うん」

  一六歳の少年、羽佐間盾は超人の家系に生まれた。両親二人が物理法則を超えた力を操る事ができる存在であり、その力を使って日々の糧を得る生活を過ごしていた。ソファに座っていた盾は耳に届いた声を認識して、本を置いて立ち上がる。背丈は平均的、服装は白いシャツにジーンズを身に着けている。体つきは細かったが、その流麗な所作から格闘技の経験が読み取れる。邪魔にならない程度に整えられた、ストンと落ちるような、柔らかな黒髪、顔は小さく、まだ幼さが残っているが、大きな黒い眼には強靭な意志を示す光が宿っていた。恵まれた環境で育まれた繊細な美貌をもつ少年は、いきなりの呼びかけに驚きつつも、柔和な表情を浮かべながらテーブルについた。そして両親と――メガネをかけた、几帳面そうな壮年の男性と、一児の母と言われなければ気づかないほど若々しく、美しい女性――正面から向き合う。

  「父さん、どうしたの?」

  盾の父はまっすぐ席に座って、何時になく真剣に自分のほうをみつめていた。メタルフレームの眼鏡が照明に光り、その真意を覆い隠す。父は、額に汗をにじませながら、隣の母に視線をやった。まるで、言い出すための勇気をもらっているようだった。

  母がそっと頷くと、父はとても重苦しそうに、まるで関節が錆びついてしまったかのようにゆっくりと、口を開いた。

  「うちに……ヴィランが来ることになったんだ」

  それを聞いた瞬間、盾の表情が一瞬こわばる。大きな瞳が見開かれ、柔らかな表情筋に緊張が走るが、それはすぐに平常化された。

  「え……?」

  感情のまま母をみると、母は父と同じ、いや、それよりは多少なめらかに言葉を紡ぐ。

  「驚くかもしれないけど、本当なの。ここに、ヴィランが泊まりにくる。正確には、元……だけど」

  息子である自分が言うのも何だが、母は父と並ぶと会社の部長とその部下である新人OLにしか見えないと言われるほど若く見られる。でも今はその近所で評判の美貌に靄がかかり、見た者の目を曇らせる。

  二人の表情が、何よりの証明だった。

  この世界には異能の力を持つ『超人』と呼ばれる部類の人間がいる。その中でも特に強い力を持ち、かつ悪事を働く人間は『ヴィラン』と呼ばれ恐れられ、それに相対する守護者のことは『ヒーロー』と呼ばれ人々に敬われている。盾の両親は『ヒーロー』であり、盾もそのことを誇りに思っている。

  そんな二人が告げる事実に対し、盾は怪訝そうに尋ねた。

  「二人がいるなら、別にそんな深刻そうな顔する必要ないと思うけど。俺は大丈夫だよ。

  取り乱したりなんかしない」

  どんな理由かは知らないが、偉大な両親の背中を追いかけてきた者の挟持が盾の背中を支えていた。背筋を伸ばしてそう答える盾に両親は少し安心したようだったが、それだけで済むならこんなに改まって話す必要は無いだろう。夏休み初日でだらけそうな息子に一喝を入れる目的があるのなら納得できるが、冗談にならない脅しをする両親ではない。何か他にも問題点があるのだ。自分の想像を超えるような。

  そんな盾の予想は、見事に的中する。

  父がメタルフレームの眼鏡のブリッジを左手の人差し指で押さえた。それは彼が言いたくないことを告げるときによくする癖だった。天井の照明に照らされて、レンズが白く光り、父の瞳を盾から隠す。だが無機質そうな見た目に反して明らかに不安げな気持ちが体から漏れていた。仕事人間のサラリーマンみたいな容姿をしているのに、驚くほど感情豊かだ。

  父は、まるで失敗を上司に報告するような重苦しさで告げる。

  「その期間、私たちは東南アジアで行われる作戦に協力するため、家を空けることになる」

  「どれくらいの間?」

  「夏休みの間、ずっとだな。一ヶ月程度と考えてくれればいい。ヴィランが家にいる期間もそれくらいだ」

  別に驚きはしなかった。大規模な犯罪組織の摘発など、作戦に従事する両親が長期間家に帰ってこないのには慣れている。それよりも、一ヶ月近く家に泊まる人間が居ることのほうが驚きだ。親の仕事の同僚が一日二日家にいることはあったが、それは仕事上やむを得ないことだったり、家族のイベントに参加してくれるときだけだった。元ヴィラン、その言葉が鍵なのかもしれない。

  盾は疑問を口にした。

  「……なにかの仕事で、その元ヴィランって人が家に来るの?」

  すると、両親は顔を見合わせてから、盾に向き直る。

  そして、父は言った。

  「それは――」

  答えを聞いた盾は、それに協力することを決めた。

  二

  「フラウ、時間だってよ。準備」

  収容施設の白い壁を見飽きた頃に、その男はやってきた。つるつるした白黒のまだらな体色をした鯱獣人だった。全身は大きく肥え太っていて、仁王立ちした足の間からは大きな尾びれが覗いている。着ている服は強化繊維製のヒーローコスチュームで、沈み込むような深い青さのマスクから見える黒瞳は鋭かった。表情も獰猛な肉食獣のそれだ。顔立ちは決して悪くなく、パーツの一つ一つは刃物のような鋭さを備えていた。だが脂肪で顔面が膨れているせいで本来持っていたであろう精悍さや怜悧さ、男らしさがすべて下衆さに変換されている。強欲そうな顔と相まって、傲慢な本性が読み取れた。首から下の服装はマスクと同色のマントとグローブとブーツ、そして股間を隠す際どいキレ込みのビキニパンツのみ。ビキニの柄は海賊みたいな白と青の縞々。痴漢まがいの服装だった。勃ってしまえば一瞬でわかる。と言うか締め付けが強すぎるのか盛り上がった股間部分を完全には隠せておらず、はみ出している上縦割れの形がはっきりと浮かび上がっている。自らの肉欲を満たすためだけのような、ヒーローらしくない扇情的で卑猥な格好。おちょくられているように最初は感じたが、今はもう諦めて受け入れていた。突っ込んだら負けだ。

  シャチは下卑た笑みを惜しげもなく自らの豊満な肉体を外界に晒しながら、牢獄に踏み込んできた。ビキニのゴムの上にどっさりと乗るぷよぷよした白い腹肉が、膨れた影を部屋に落とす。

  そこに収容されていたヴィランであるフラウは億劫な心に反抗心で活を入れ、ゆっくりと立ち上がった。目の前に居る相手の身長はだいたい同じ――フラウの方が少しだけ高いが――で、自然と視線が交錯する。男は筋肉の上に脂肪をでっぷり蓄えた、お世辞にも引き締まっているとは言い難い体型をしている。下半身の衣装に、だらしなく脂肪が乗っかっている。この世の悪徳を固めたような姿だが、立ち姿は自信に満ち溢れ、見上げられているのに見下ろされている錯覚を覚えた。

  自分を監督するヒーローは、自身の権威を示すように胸を反らした。ぶるんっと全身の肉が揺れ、桜色のパフィーニップルが視界に一瞬だけ自己主張する。

  「車が来てる。早く着替えて行くぞ」

  そう言うと、相手は手に持っていたシャツとジーンズをこちらに押し付け、壁際まで下がる。決して狭くはないが広くもない貴重な生活空間を侵されながら、窮屈そうに着替える。数カ月ぶりに着る普通の服は、盛り上がった肉体にピッタリとフィットした。

  そして、胸を張って前に進むヒーローの後ろに続き、監獄を抜け出す。出るときに手錠をはめられた。

  施設内を移動する途中、窓ガラスに反射した自分の姿をみた。虎獣人特有のクロと黄色の体毛。見たものを射殺すような鋭さのタイガーアイ。無表情な、ともすれば彫刻と勘違いされそうなほど恐ろしい、彫りが深く硬質な獣面にそれを支える丸太のように太い首、二メートル超えの恵まれた体格は筋肉の鎧に守られている。長い収容生活の中でもトレーニングは欠かしていなかったので、肉体の衰えは必要最小限に抑えることができた。シャツ越しに浮き出た上腕二頭筋のラインは、その証明のひとつだ。超人は自然治癒力や成長力が普通の人間より桁外れに高い。だから鍛えれば鍛えるほど肉体は際限なく成長し、身体能力が向上する。その中でも特に体に恵まれていたフラウは、重戦車のごとき肉体を得ることができた。

  このシャツも、ジーンズも、力を入れていない状態でフィットしている。この状態から少しでも力めば、簡単に破裂させることができるだろう。無遠慮に呼吸をするだけでも、肥大化した筋肉が布地を突き破ろうとするミチミチという音が聞こえた。でも、果たすべき目的のため、慎重に呼吸を分割し、被害を抑える。

  歩いていると、目の前のシャチ――雫沢織渦が――わざと歩く速度を落とし、横に並んで口を寄せてきた。

  「なぁ……どうやったんだ?」

  それに何も答えないでいると、楽しそうに織渦は続けた。

  「とぼけんなって。事情聴取で何も答えなかったくせして『更生プログラム』対象者に選ばれるなんてよぉ。模範囚は沢山いるのになァ? お前みたいな筋金入りのクズが、どうやったのやら……」

  その顔には、悪辣な笑みが浮かんでいた。『冥界の魔物』と言われるシャチ族の名に恥じない狡猾さが滲み出している。体の白い部分より黒い部分のほうが大きいから、もしかしたらもう既に悪に落ちかけているのかもしれない。影の一族と呼ばれ、あらゆる手段を用いて権力を手にしてきた雫沢の一族、その跡取りにふさわしいふるまいだった。

  ある意味可愛らしい外見をしていても、滲み出る捕食者の気配に全く気を抜けない。若くしてヒーロー『ブルー・メイルストロム』として数多くの成果を上げているが、そこには幾つもの闇があるのだろう。

  無視していると、織渦は退屈そうに顔を背け、歩を進めた。だが、不機嫌そうに見えても、マントからちらりとのぞく尾ビレは上機嫌そうに空を泳いでいた。

  自らの裡にある思考に決して気づかれてはいけない。精神を張り詰めながら施設を出て、移動用のバンに乗り込む。腕にはめた手錠は外され、代わりに四足に新しく金属製の無骨なリングを付けられた。発信機といざという時に鎮静剤を注射するためのものだ。

  久々に直接太陽に照らされたというのに、シャバの実感などかけらも湧いてこなかった。目的地に向かう際、車窓から外の景色を眺める。海沿いの街だから、かもめが飛んでいた。同時に海上に浮かぶ巨大な施設も見える。ヒーローを要請する学校。ヴィラン収容施設が近くにあるのは、決して偶然ではない。

  そしてこれから、おれはこの街で自分の使命を全うするための戦いに身を投じるのだ。フラウは目的地に近づくたび、使命を実感する。

  そして車は移動を続け。最終的に閑静な住宅街の中にある、二階建ての一軒家の前に停まった。

  「おら。ついたぞ」

  織渦についていくようにして車を降りる。周りに人はいない。ヒーローがいるからか、過度な警戒は必要ないと思われているようだった。

  「少しでも能力を使ってみろ。一生独房にぶち込んでやるからなァ?」

  詰りのあと、織渦が玄関前のインターホンを押す。軽く響く電子音。それを聞いた瞬間、脳裏を過去の記憶がよぎった。

  ――これからきみを、『更生プログラム』に送ることになる。そこでは、きみが見たことも感じたこともない、平和な世界が広がっているだろう。

  取調室で会った、賢者のような獅子の言葉を思い出す。耳朶を打つその声は、誰よりも優しく、そして恐ろしかった。揺るぎない意志力が、言葉から滲み出していた。

  ――その世界を実感したあときみが選ぶのは、銃か? それとも平和か?

  しばらくして、パタパタという音が鋭敏な聴覚に届く。そしてそれが止まったかと思うと、ゆっくりと扉が開かれた。

  「いらっしゃい! 話は聞いています! どうぞ!」

  そこから出てきたのは、まるで夜を切り出したみたいな黒髪の、美しい少年だった。

  『英雄のなりそこない』がそこにいた。

  

  『更生プログラム』それはヴィランとして活躍していた人間を、社会復帰させる活動のことだ。装備を取り上げ、然るべき場所で平和に順応させる。悪の世界に生きてきた影の者たちを、光のもとに連れて行く行為。

  「いやぁありがとうございます。お茶、頂きます」

  挨拶を済ませたあと、フラウたちは広々としたリビングに通された。織渦が普段欠片も見せない満面の、人好きのする笑顔で用意された麦茶を飲んでいる。監督官としてともに共同生活を送ることになったことは百歩譲って納得できるとしても、ここまで気持ちの良い猫かぶりをされると決意も揺らぎかける。ここまでの猫かぶりをフラウは見たことがなかった、

  自分も目の前に出されたグラスに口をつけた。香ばしい風味で飲み慣れない。組織では味も栄養も完璧に調整された食物しか出てこなかったので、こういった「遊び」のあるものを口にしたことはなかった。知識としては知っていた。毒物を入れたことはあっても味わうのは初めてだ。

  茶を入れた人物は自分たちの対面に座って、様子を伺っている。さらさらとした黒髪に、柔らかな光を灯した大きく丸い黒瞳、まだ幼さが残る顔立ちは驚くほど整っている。同年代の裕福な親を持つ子供を身代金目的で誘拐したことがあった。彼らはこの世におけるあらゆる恩恵を受けた美しい容姿をしていたが、盾はそれらをすべて凌駕していた。ここまでの上玉はみたことがない。

  エプロン姿で席に座るその姿は、ありふれているはずなのに絵画に描かれていそうなほど出来すぎている。眺めていると、脇を小突かれる感触があった。顔を横にやると、織渦からの咎めるような視線と表情。

  「あの、僕の顔に何かついていますか?」

  自分の視線に対してのものだったようだ。その性格を表すような素直な黒髪を指で除け、額を触ったり頬をなでたりしている。大きな黒い眼が、不思議そうにこちらを眺めていた。黒い闇の中に意志の光が星のようにきらめいていて、先ほどとは別の意味で言葉を失った。

  「はは! 無口でしょうコイツ! 俺が話しかけても何もしゃべらないんですよ。こんな調子で、どうやって逃げ出すかでも考えていたんでしょう! でも安心してください! 自分が命をかけてあなたを守りますんで!」

  織渦が自分の代わりに口を開いた。どこか馴れ馴れしい、本性の滲んだ声。媚を売るような響きすら感じるのは、決して気のせいではないだろう。羽佐間の家は、それほどまでにビッグネームだ。なにせ生ける伝説として国内外にその名前は広く轟いているのだから。盾の両親は過去の正義と悪の戦いにおいて激烈な戦果をあげた英雄であり、夫婦揃って国内最高クラスの戦闘力を誇る。当然、織渦の所属する組織の上層部に所属している。彼に失礼を働くと言うのは、自らのヒーロー人生を棒に振るに等しい。

  そんな空気を感じ取ったのか、盾はその整った美貌に困ったような色を浮かべながら、両手を顔の前に持っていって抑えるような仕草をした。

  「そんな……両親はどうであれ、僕はただの一般人ですから。あの有名な『ブルー・メイルストロム』と直接会話できるなんて、正直今とても緊張しているんです。 ……あとでサインを頂いてもよろしいでしょうか?」

  「……い! いやぁ! よろこんで!」

  織渦の泥みたいにぐちゃぐちゃした意地汚い笑みがどうにも気に食わない。気付けばフラウは口を挟んでいた。

  「第一、お前みたいな悪人一歩手前のヤツが多少猫を被ったところで、すぐに見抜かれてしまうだろうよ。その気持ちの悪い仮面を取ったらどうだ」

  立派なヒーローかどうかは甚だ疑問だが、この調子で居られても困るだけだ。織渦はなれない表情をしているせいか、表情筋が引きつり始めている。そのことを指摘すると、彼は一瞬でいつもの欲望に塗れた表情を取り戻す。もともと男らしい顔立ちをしているせいで、余計醜悪に見える。

  「てめぇみてぇなクズに言われる筋合いはねぇよ。四肢縛り上げてやろうかぁ……? あぁ゛ッ!?」

  幼稚な恫喝を行ったあと、織渦は自分が失敗をしたことに気づいた。表情を一瞬だけ固まらせたあと、ゼンマイ仕掛けのロボットのように顔を動かして盾のほうを見た。だが、視線の先にいた少年は驚くわけでも固まるわけでもなく、変わることなく大きな黒い眼でこちらを見つめていた。彼はこちらの視線に気づくと、ゆったりとした動作で手を合わせる。

  「あ゛ー……これはですね、あの、囚人とのちょっとしたスキンシップってやつで……」

  「羨ましいな……」

  「へ?」

  「あ、いいえ。なんでもありません。そういえばお二人が泊まる部屋の紹介がまだでした。案内するのでついてきてもらえますか?」

  盾は強引に話題を切り替えると、立ち上がってリビングを抜け、廊下を挟んだ先にある二つ並んだドアの前に立った。左側が織渦、右側がフラウの部屋だと、盾は告げてから、まず右側の扉を開けた。

  「この二つの部屋は、お客さんが来たときのためのものなんです。荷物は部屋の中に既に運び込んでありますので、それぞれ自由に使っていただいて構いません。ちなみにここからみて反対側には、僕たち家族の部屋があります」

  部屋は二つとも広々としていて、フラウが十分くつろげるレベルだ。上質そうな無地のカーペットが敷かれ、クローゼットとベッド、本棚と机が設置されていた。部屋の隅には、フラウの服が入ったトランクが見える。室内は掃除やベッドメイクも行き届いており、まるでホテルの一室のようだ。きっと、ヒーローをもてなしたこともあるのだろう。隣で織渦が息を呑む音が聞こえた。盾は左の部屋も見せてくれたが、内装はほぼ同じで、カーペットやトランクの色が違う程度だった。

  「あと、地下室もあるんですよ」

  そう言うと、玄関入ってすぐの左側の壁に設置された階段の先へ案内される。階段を降りきった先には無骨な金属製の扉。その隣に設置されたタッチ式の認証装置に、盾は腕につけたブレスレットを近づける。ID認証によって施錠が解除され、三人並んで中に入った。

  扉を通った先には、シガーケースのように細長いコンクリート製の廊下が続いていた。通路の左右の壁にはそれぞれ等間隔に四つの扉が設置されている。突き当りには更なる地下階に続く階段が見えた。

  「ここは何なんですかい?」

  「合宿所のようなものです。地下二階はトレーニングジム、大浴場、備蓄倉庫になってます」

  盾は先ほどと同じように扉を開け、天井の丸型蛍光灯の電源を入れた。フラウが覗き込むと視線の先には一階のものとは違う、どこか殺風景な部屋が広がっていた。畳張りの床と、ダブルサイズのパイプベッド。空の本棚、コンクリートの壁を隠すように、クリーム色の壁紙が貼られている。部屋の広さは一階のものとそう変わらない。

  「やけに殺風景というか、冷たい部屋だなァ」

  デリカシーの欠片もない織渦の発言。案の定彼は悪手というかのように表情を歪める。すると盾はその美貌を粉砂糖みたいな笑みで彩った。

  「ええ。上を生活空間とするなら、ここは実践的なトレーニングを行うための訓練施設のようなものですから。見た目より実用性を取っているんです。超人が暴れても耐えられる特別な建築法でこの階は建造されているんですよ」

  解説をする盾の顔は、年相応の少年のものだった。どこか誇らしげで、口調も弾んでいる。

  「この階の部屋はすべて内装が同じなので、次は下の階を案内しますね」

  そう言って盾は身を翻す。その時だった。盾は体を回転させるときにバランスを崩し、後ろに立つフラウの体に倒れ込む。

  「あっ……!」

  「――大丈夫か?」

  密着する肉体と鼻腔をくすぐる甘い匂い。少年の体は服越しからでもわかるくらい柔らかかった。衝撃を和らげるためフラウの腹筋と大胸筋の間に当てられた手は、自分からするとぶつかった衝撃で砕けてしまいそうなくらい細く繊細に見える。

  「大胆なことするねぇ。へえ……!」

  下品な声が聞こえたが、無視する。

  細身の少年の体を受け止めることは、フラウにとって造作も無いことだ。鋼鉄の肉体が微振動とともに、余裕を持って盾を受け止める。体と体がぶつかる際、微かに上半身を反らすと共に腕を曲げて包み込むように迎え入れることも忘れない。

  腹筋のあたりに顔を埋めた盾が反動で後ろに動くのをフラウが曲げた腕で静止する。

  盾は何が起こったか一瞬理解できないようだったが、すぐに自体を把握し、顔を羞恥に染めた。白い頬がほんのり色づき、鼓動にせっつかれるように言葉が溢れ出した。

  「ご……ごめんなさい! ぶつかってしまって! すぐ離れますから!」

  「いや、焦らず、ゆっくりでいい。どこか痛いところはないか? 受け止め方が荒かったかもしれない」

  添えた腕で肩をつかむとき、自然と花に触れるときのような手つきになっていた。獣の爪の有無すら気にしていた。普段はしない繊細な力のコントロール。だが、どれだけ精緻な制御を行っても、この少年を傷つけてしまうような感覚に陥る。触れて少し力を入れるだけでもその肌は削げ、肉は抉れ、白い骨を覗かせてしまいそうだ。

  そんな気持ちを知らない盾は、上目遣いに淡く微笑むと、しなやかな動作で体勢を立て直す。武術経験者特有の流麗な動き。その美しさに一瞬目を奪われる。

  「いえ。とても優しくって……ありがとうございます。もう大丈夫です」

  「そ……そうか……ならいい」

  盾は音もなく獣の籠から抜け出す。すべてが終わったあと、そこにはニコニコと笑う少年と、どこかぎこちない表情で彼を見つめる虎獣人の姿があった。盾は花のような笑みを浮かべたまま俯き、羞恥を滲ませながら言う。

  「やっぱり、鍛えてらっしゃるんですね。逞しくって、すごいなぁって思っちゃいました」

  口調は少しだけ砕けていて、彼の地が垣間見える。年相応の言葉を使う少年の姿は素朴で愛らしい。だがフラウはその感情をゴミ箱に捨て平常化し、無機質に言い放つ。

  「……おれはヴィランだ、分かりきった事を言うな。さっさと案内してくれ」

  「あ……そう……ですね。ごめんなさい フラウさん、織渦さん、どうぞこちらに」

  そして、盾に続いてこの階を後にし、地下二階へと向かった。自分と比べれば、吹けば飛んでしまいそうなほど華奢な背中を無感情に眺めながら、フラウはただ自分に必要な情報を取り入れるために思考を殺す。

  だから気付かなかった。最後尾にいる織渦が加虐的な笑みを浮かべ、自らの獲物を見定めたことに。

  

  地下二階の大部分を占拠する広大なジムエリアには、超人がトレーニングに使用できる機器が十分すぎるほど揃っていた。

  「これは……! 重力負荷ベルト!」

  エリアに足を踏み入れ、無遠慮に室内を物色していた織渦が、その充実ぶりに珍しく興奮した声を上げた。かくいうフラウも、内心驚愕している。個人が設置できる設備の範疇を大幅に超越していたからだ。超人は常人と比べて肉体の成長速度が桁外れであり、それゆえに超人は戦闘訓練や筋力トレーニングに専用の設備を必要とする。通常のトレーニング機器やメニューはあっという間に使い物にならなくなるからだ。

  「限定重力発生装置付きのマシンやダンベルは一通り揃えてあります。左の壁際の棚には超加圧ベルトもありますよ」

  「すげぇ! すげぇすげぇすげぇ! うちの組織のトレーニングジムにもないやつがたくさんある! どんだけ力入れてんだよ! 奥の扉ってまさか重力操作室のやつか!?」

  普通のダンベルやマシンが超人には使えない上、道具の重さにも限りがある。ならどうするか? 超人が超人のために作った特殊な設備を使用する以外ない。科学に関係した能力と豊富な知識を持った超人が作り出す道具は、常人には決して解析することのできない能力を付加されている。それの一端が、重り部分に超重力を発生させ負荷を増加させる限定重力発生装置付きのトレーニング設備や、通常ありえないほどの吸収率を誇るハイプロテインの存在だ。特に重力発生装置は莫大な導入金額と膨大な維持費がかかり、扱うためには専門の正しい知識が必要なため、実質ヒーロー訓練施設専用と言える。個人の家ではありえない。ましてこれほどの十全な環境は、フラウが所属していた組織の基地でも見たことがない。

  加圧ベルトの鎮座する棚の隣にあるハイプロテインバーカウンターに目を輝かせている織渦を、盾は柔和な表情で眺めている。

  「両親が、同僚のヒーローを集めて集会を行ったり、出勤の関係で泊めたりしていたんです。だから設備に関しては本気なんです。若手のヒーローを連れてきて特訓したりしてるんですよ」

  「その親御さんは今……」

  「国外からの救援要請を受けて、海の向こうで犯罪組織と戦っています。当分は帰ってこないみたいです」

  「寂しく……ないのか?」

  尋ねると、盾はこちらに振り向く。

  「昔から家を開けることは多かったので……。海外に行くことが多くなったのは、国内が安全になったからでもあります。だから、どちらかと言えば寂しいより誇らしい気持ちのほうが強いんです。家族が、世界に平和を広げていっているんですから」

  その返答と視線に、フラウは唖然とする。振り向いた盾の瞳には、今までと違う強い意志の光が灯っていた。彼は平和な世界でただのほほんと生きているだけではない。胸の裡に、たしかに英雄の炎を宿していた。

  言い終わると盾は淡く微笑み、言葉を繋げる。

  「僕にできるのは、この家を守ることだけですから。心配してくれてありがとうございます。フラウさんって優しいんですね」

  付け足された一言に絶句していると、盾は織渦を呼び戻し、大浴場に案内した。銭湯顔負けの浴場設備は、今すぐにでも使えるほど丁寧に掃除が行き届いていた。次に案内された備蓄倉庫は、災害時に備えた非常食と防災グッズ、補充用のプロテインなど大量の物資が保管されていた。家族全員がここに閉じ込められた場合、一週間は生き残れる計算になっているらしい。緻密な計算に基づく、合理的な判断が伺えた。

  家の中を紹介し終えた盾はリビングに戻り冷蔵庫を開けると、エプロンを解いてせわしなく動き出した。

  「どうしたんで?」

  最早揉み手する下衆な三下と化した織渦が尋ねると、盾はその腐りきった気配すら一掃する爽やかさで答える。

  「少し食材が足りないかもしれないので、買ってきます」

  「いや、そんなに気を使わなくても……」

  「せっかくこれから一緒に暮らすのですから。毎日とは言えませんが、今日くらい豪勢にさせてください。留守の間、家をお願いします。あ……あと、織渦さんのIDはこの家に登録してあるので、ジムとか自由にしていただいてかまいませんから!」

  既に夕方の四時を回っていた。盾はがま口とトートバッグを持って玄関へと進み、駆け足に家を飛び出す。

  そして、オートロックの電子音を最後に部屋に静寂が訪れてからおよそ一〇分後、織渦の太い腕に巻きつけられた情報端末がアラームを鳴らした。織渦は億劫そうに端末からエアーディスプレイを投影すると、次の瞬間、リビングのソファに行儀よく座って盾の帰還を待っていたフラウを連続して軽く叩く。

  「なんだ……!」

  「行くぞ。出動だ」

  その声は、敵の出現を意味している。ヒーローである以上、直近で起きた事件には対処しなくてはならない。だが、顔を上げたフラウをの瞳に映ったのは、人々を守る正義の味方とは思えない、醜悪な表情だった。

  視線の先にいる雫沢織渦――ブルー・メイルストロムは、これから起こることが待ちきれないと暗に言うような、悪そのものの表情でエアーディスプレイを見つめていた。

  三

  湧き上がる悲鳴に、盾は険しい表情を浮かべる。近所のスーパーに足を運んだ帰り、思いもよらぬ自体に遭遇した。盾の視線の先には、無機質に歩みを進め、暴力を振りかざす機械でできた兵士の姿があった。

  「――・――・・――!」

  「なんでここに……っ」

  機械兵士は、超人が巻き起こす犯罪においてよく使われる人型兵器の総称だ。サイズは二mほど。頭部は球状で、ぎこちなく動くボディは漆黒の装甲に包まれている。四肢のうち右腕は機関銃になっており、機械兵士は時折、それを威嚇するように掲げ、頭上に発泡している。数は三体。一体程度なら対処できるだろうが、この数では不可能だ。いや、それ以前に、

  「うぅっ……! ぐすっ……」

  「大丈夫だからね。ヒーローが助けに来てくれるから……」

  盾は背後にいる幼い男の子をカバーするように動く。できるだけ、彼を覆い隠すように。この状態では、どうやっても問題の解決は不可能だ。超人ではない自分ができることは、男の子を安心させるための笑顔を投げかけることくらいだ。

  状況は最悪に近い。機械兵士は国内で活躍する、ある犯罪組織が製造する兵器であり、その誕生には超人が関わっている。起動するまでは小型のカプセルに保存され、あらゆる場所に設置可能かつ探知は極めて困難。だが同時に高額であり、使用できるとすれば個人は考えづらい。よってこれらを使用するものたちは基本的に組織的な力を有していることになる。そして犯人たちが一般道を占拠するためだけに使用したなんて楽観はできない。

  (何か、大規模な犯罪を成そうとしている?)

  冷静に周りを観察しながらも、反対側で腰が抜けてへたり込んでいる男の子の母親に、柔らかな表情と、「動かないで」という意志を込めた視線を送る。若い母親は、微かに頷いて盾の警告を受け入れた。

  これで、不確定要素を一つ減らすことができた。周りにはまだ数人の一般人。たとえ超人が居たとしても、人を守りながら戦うのには専門の訓練が必要になる。おとなしくじっとしているうちに、ヒーローがやってくるのを待つしかない。

  幸い、この異常事態はすでにヒーロー側に知られているだろう。彼らの所属する組織の監視は、この街の隅々に行き届いているし、この現場近くの盾の自宅にはヒーローがいる。彼なら、『ブルー・メイルストロム』なら、すぐに駆けつけてくれる。

  盾は、強い確信を持って、後ろで震えている男の子の手を握った。顔を上げた涙目の男の子に、盾はそっと頷く。

  だが、その次の瞬間、緩慢に動いていた機械兵士が一斉に動きを止めたかと思うと、俊敏な動きでこちらを向き、銃碗を向けてきた。

  「なっ!?」

  素早く盾は男の子を抱え、彼の視界から兵士を消し、自らも背を向けた。害意の足音が近づいてくる。若い女性の叫び声が響いてくる。

  確信を持ちながらも、自らの最期を想像仕掛けたその時、今まで聞いたどんな音とも違う、異質な音が耳朶を打った。

  そして訪れる静寂。異変を感じ取り振り向くと、盾は大きな影の中に居た。影の主は最も盾に近い機械兵士の頭部を握りつぶし、その体をもう一体の機械兵士へ投げつける。ぶつけられた機械兵士は対処できずに倒れ、天を向いた銃口から弾を乱射し、やがて致命的な障害を引き起こし停止する。

  その様子を呆然と見つめる盾は、現れた救いの手の主をみて、静かながらも驚いた声を上げた。

  「フラウさん……!」

  「怪我はないか」

  ピンチに現れたのはヒーローではなく、元ヴィランの虎獣人。彼はその彫刻のように硬質な表情をピクリとも変えずに、盾を見下ろしている。そして、返答を待たずに付け加えた。

  「あの……!」

  「すぐに終わらせる」

  フラウが最後の一体になった機械兵士の方を向くと、相手はこちらに向かって引き金を引く。反射的に男の子を守るように身をかがめた盾を守るように、フラウは堂々と機械兵士の正面に体をスライドさせた。彼は銃火のなかに堂々と体を晒しながら深呼吸し、全身に力を入れるかのように踏ん張った。次の瞬間訪れた変化に、盾は眼を剥く。

  フラウの少しくすんだ黄色の毛並みがみるみるうちに黒に染まり、もともと黒かった部分は赤紫色に変わっていく。正常な色から、穢れた色へ。変化が全身に広がるに従い、異常なまでに発達した肉体が、更に肥大化していく。その力強さを示すように、上半身の着衣は消し飛び、下半身を覆っていたジーンズは最低限の布地を残すのみとなる。そして、変化が完了したときには、盾の目の前には三mもあろうかという、常軌を逸した筋肉の鎧を纏う凶獣が現れていた。

  黒く染まったフラウは前傾姿勢を取り威嚇するように喉を鳴らす。それだけで空気がビリビリと振動する。巨大化した肉体は銃弾を完璧に無効化しており、後ろにいる二人を完全に防護する壁となっていた。

  「……ッ! フラウさん!」

  「グォアァアッ!」

  だめッ! そう言おうとしたが、それよりも先に彼は駆けた。瞬きするより早く巨獣は敵のもとに到達し、胴体を完全に分断する。

  その姿を見ているだけだった盾は、静まり返った現場の中、早鐘のように打つ鼓動を制御しようと、荒い呼吸を繰り返した。目の前で完遂された暴力の嵐。その執行者の戦いぶりは、間違いなくヒーローのものではなかった。漆黒の獣の蹂躙に、そこにいるすべての人間が潜在的な恐怖の掻き立てられていた。額に滲む玉のような汗を拭いもせず、盾は少年から体を離し、地面に両手をついた。

  そこに、体格だけほぼ元に戻ったフラウが近づいてくる。彼はしゃがみ込むと、盾の体に怪我がないか、慎重な手つきで探り始めた。ぶつかってしまったときと同じ、繊細な力で。

  「済まない。助けるのが遅れた」

  「ひっ!」

  そう言って、獣皮に包まれた指が自分の頬に触れた瞬間、盾は情けない声を上げて張っじけるように仰け反った。だが、視界に入ったフラウの顔を見て、盾の心に影が落ちる。

  黄金に鋭く輝くタイガーアイの中に、純粋に相手を慮る感情が読み取れたからだ。その色彩は盾の対応を受けて一瞬で消え、次に現れたのは頑なな、目的達成を至上とする兵士の光だった。盾は、彼を理解する上で重要なピースを自らの手で手放したことを自覚するとともに、相手を傷つけてしまった情けなさに拳を握る。背後では親子が断絶を乗り越えた、感動の再開を果たしていた。その結果も、追い打ちをかける。彼らを守ったのは、自分ではなくフラウなのだ。

  「怖いだろうが、我慢してくれ。完全に戻るまで、時間がかかるんだ」

  「ふ……フラウさんッ!」

  無機質な手つきでボディチェックを行っていたフラウの手をつかむ。すると彼は、注意深く聞かないとわからないくらい小さく息を呑む。盾はそれを好機と捉え、一気に思いを伝えようとした。

  「あ、ありが……」

  だが、言い終わるより先にフラウが手を振り払う――いや、フラウの四肢が、弾けるような素早さで動き、まるで縄で縛られたときのような格好で固定されてしまった。

  「グゥッ!」

  「えっ!?」

  いきなりの衝撃的な光景に絶句する周囲の面々。だが、答えはすぐに訪れた。

  「いやーすいませんねぇ。『監視しているヴィランが逃げ出してしまって』」

  上空から降ってきた、脳天気とも受け取れるほど明るい声。盾が見上げると、黄昏時の空に、一つ大きなシルエットが浮かんでいた。その正体は、声を聞いた瞬間から察している。

  「ブルー・メイルストロム……」

  「お……織渦……ッ!」

  雫沢織渦――ブルー・メイルストロムは呆然と見上げる盾の元、フラウの直ぐ側に降り立つと、彼を足蹴にして転がした。興奮した息を吐くフラウをを助ける声をあげようと息を吸った時、それに被せるように織渦は言った。。

  「ブルー・メイルストロムただ今参上! 言ったでしょう? あんたのことは俺が守るって」

  歪んだ笑みとともに盾に向けられた瞳には、冥界の魔物にふさわしい、深淵の闇が宿っていた。

  「どうして、フラウさんが隔離されなければならないんですか?」

  「そりゃあ、ルールを破ったからですよ」

  場所は変わって盾の自宅。和やかな夕食が始まるはずだった場所には、今や緊迫した雰囲気が流れている。事後処理を後からやってきた警察に任せ、一旦帰宅した盾と織渦、そしてフラウはそれぞれの戦いの時を迎えていた。盾は表面上の態度こそ冷静だが、内心穏やかではない。自分と周りの人たちを助けてくれたフラウがあろうことか更生プログラム規則違反で、収容所に強制送還されそうになっているのだ。現在、彼はこの家の地下一階にある合宿所の一室に一時的な措置として隔離されている。

  「ですが彼は……」

  なおも食い下がる盾に、織渦は冷酷な一撃を加える。

  「盾さん。ここは単純に考えましょうや。俺は安全に救出する作戦を考えていた。だがアイツが勝手に突っ走った。今回は偶然上手く行ったが、肝心のこの事件の犯人はヤツを見て逃げてしまった。やり方だって杜撰だ。一歩間違えれば犠牲者が出ていてもおかしくない。妥当な判断だと思いますがねぇ」

  「……っ!」

  テーブルに肘をついて、卓上に指を当てる無作法な仕草は、ドラマで見る取り調べをする刑事のようだ。初めて会った時は人懐こそうに丸く見開かれていた眼も、今や獲物を見定めた肉食獣のように鋭い。その照準は間違いなくフラウの喉笛に定められている。海の狼と例えられることもある、猟犬の眼差し。

  反論を潰された盾は、肩を落とす。彼は自分を能力を使ってまで、ルールに背いてまで自分を、あそこにいた人たちを守ってくれたのに。

  織渦はつまらなさそうに突き立てていた手を見ると、立ち上がって伸びをした。

  「じゃあ俺はこれから警察署に行かないといけないんで。それまでフラウの監視をお願いできますかね? すぐ戻るんで」

  「え……?」

  「一応ポリの方に状況説明しろってせっつかれてんですよ。鬱陶しいが、行かなきゃ抗議が飛ぶんでね」

  その口調はとても正義の味方とは思えない乱暴なものだったが、ヒーローの中にはわざとこういった発言をする人がいるのを盾は知っていた。今まで出会ったヒーローの中にも、彼のような、むしろ彼よりもアウトローな発言を繰り返す者もいた。だが、彼らは決して本当の意味で荒々しいわけではなく、悪を憎むがゆえに態度から思考に至るまでを善悪の境界線に近づけるのだと両親から教えられたことがある。未だ織渦の全容は見えないが、今までの立ち振舞いを考えるにそれは当てはまっているように思えた。

  「じゃ、そういうことなんで。くれぐれも、部屋の中には入らないでくださいね」

  そして、一人取り残された盾は、先の発言を噛み締めながら、ある決意を固めた。

  四

  盾は電子ロックを解除し、慎重に地下一階へと運ぶ。部屋の並ぶ通路にたどり着くと、地の底から響いてくるような唸り声が聞こえてきた。それは一番奥、右側の壁に設置された扉から漏れ出している。

  (フラウさん……!)

  もしかして拘束している最中に怪我でもしたのかもしれない。組織の人員を用いた移送は少々乱暴に盾の眼には写った。出来得る限りの最速の動きで扉まで近づく。ノブに手をかけたところで頭の中を織渦の言葉がよぎった。彼の言葉に従うべきだ。けれども、

  「ぐ……グァアアァアッ!」

  「……ッ! すみません、織渦さん……!」

  扉越しに聞こえてくる絶叫に、反射的に扉を開けていた。そして、扉の隙間から見えた景色に盾は驚愕する。

  四肢を腕輪の効果で強固に接着され縛り上げられたような格好で、黒く染まったままのフラウが床に転がっていた。両腕が後ろ手に拘束されているせいで体勢をもとに戻すこともできず、胸を無理矢理張った姿勢で苦しそうに呻いている。彼は常人の基準ではありえないほど大量に発汗しながら、床の上でのたうち回っていて、意識が混濁しているのか虚ろな瞳をしていた。あまりの壮絶な光景にただ眺めていることしかできないでいると、フラウが突然呻き、先程よりも重い苦しみの声を上げた。体の熱が増し、体から立ち上る湯気に体毛が逆立つ。い硬直している盾を尻目に、事態はどんどん進行していく。やがて苦しみ続けたフラウは、自らの獣性を開放するかのような雄叫びを上げた。

  「ぐ……グォオオォオオォッ!!!」

  そして「バチンッ!」という硬いものが弾け飛ぶ音が響き、盾は顔を反射的に背けた。音が響いてから数秒後、うめき声しか聞こえなくなった室内に向けて視線を戻すと、盾はもともと大きな眼を、裂かんばかりに大きく見開いた。

  それは決して、恐怖から来る反応ではなかった。どちらかと言えば、圧倒から来る驚愕だった。

  なぜなら、下半身を唯一守る布切れが破壊され、天井に向かって五〇〇mlのペットボトルはあろうかという極太のち×ぼが屹立していたのだから。長さ太さ、そして硬さ、全てにおいて常人を凌駕する、超人の雄竿が。思わず盾は、自身の下半身を確認する。比べるまでもない。そそり勃つ肉棒は理路整然とした腹筋に勢いよく叩きつけられ、透明で粘ついた液体を弾けさせた。

  (あんなに大きなの……見たこと無い。今まで見たどんなヒーローのより……って何考えてるんだ俺!?)

  もちろん盾に男性との性交経験はない。幼いころヒーローと一緒に風呂に入ったりはしたが、記憶はもう朧気だ。卑猥なことを考えてしまったせいで顔を真っ赤にしながらも、盾の視線は獣の男根に釘付けになっていた。

  そして、虚ろに呻く黒い獣を見ている内に、盾は自らの心のなかに未知の感情が生まれていることに気づく。それは、胸をきゅんと締め付ける感覚。とても幸せで、同時に愛おしい。どこか熱に浮かされたような状態で、前のめりに彼を観察した。虎獣人特有の鮮やかな縞模様を構成する黄色と白の毛並みは漆黒に染まり、本来黒かったはずの部分が赤紫色に変色しているのは変わらない。ただ、赤紫色の模様がフラウの頑強な体の上で、ハートマークのような形に変わっていた。大量のハートマークを纏った黒い虎は、苦痛の表情で股間を天に突き出している。

  (フラウさんすごい苦しそうだ。楽にしてあげられないのかな)

  あの剛直ぶり、相当溜め込んでいるはず。それにこの尋常でない狂乱は、能力を使用したことに対する何らかのデメリットであると十分考えられる。少しでも彼に楽になってほしい。その気持ちは止められなかった。

  盾は、音もなく扉を大きく開け、フラウのもとに慎重にに歩み寄る。濁りきった瞳は視界に入ってきた人影を完全に認識するには至らず、それが盾の大胆な行動を手助けする。

  盾は朦朧としたフラウを助け起こすと、その剛直に手をかけた。強大な熱を孕んだ肉刀は、爆発寸前と言いたげに時折痙攣し、盾が触れた瞬間、歓喜の涙を流した。

  脈動する灼熱の棒の形はあの時のフラウのように凶悪そのもので、獣皮に包まれていないずる剥けの表面は赤黒く、全体に太い血管が走っている。エラの張った雁高な亀頭、その頂点にある鈴口からは、絶え間なくカウパーが流れ出し、ローションのように竿全体を濡らしていた。

  彼の雄に触れた瞬間、フラウの表情が少しだけ和らいだのを見て、盾は柔和な笑顔を浮かべる。そして、彼の上半身をベッドの縁に凭れさせ安定させると、肉棒に、息がかかるまで顔を近づけた。

  「大丈夫ですよ。今から、僕がお手伝いしますから……はぁっ……ちゅ……んっ」

  「ガッ……グゥウッ!?」

  そして、爆発しそうなほど膨れ上がった亀頭に、そっと口付けた。瞬間、口の中いっぱいに広がり脳天まで突き抜ける雄の風味に、盾は全身が痺れるほどの喜びを覚える。

  太く、先端を咥えるだけで精一杯だったが、彼の苦しみを思えば、限界以上に頑張れる気がした。亀頭全体をお掃除するように舐め尽くしていると、舌先にザラリとした感触を覚えた。そして口腔内に広がる、熟成されたチーズのような癖のある風味に、それがなんなのか、盾は即座に理解する。

  (これ……フラウさんの……そっか、そうだよね。なら、綺麗にしないと)

  亀頭と陰茎の段差に残った恥垢すら、恥も外聞もなく舐めとる。絶え間なく溢れてくる我慢汁も、まるで泉から溢れる清浄な水のごとく飲み干した。時折退屈させないよう、痛くない程度に犬歯を当てることや、竿の部分を擦ることも忘れない。

  「ガ……ガァアゥ……」

  「ん……ちゅ……もうちょっとだけ待ってください、フラウさん」

  そして、亀頭を掃除し終えた後、目標はまだ奉仕していない雄の竿部分に狙いを定めた。肉棒全体を口腔内に納めることは不可能なので、その分丁寧に愛撫していくことを心がける。

  「じゅぶっ……はぁっ……!」

  陰茎部分に健康的なピンク色の舌を這わし、犬のように連続して舐める。その細かな刺激に鼻息荒く呻くフラウを視界に収めながら、盾は彼の強靭な雄らしさにうっとりする。

  「こんなに固くて……すごい……」

  血管をなぞる度にびくびくと痙攣する雄に、盾は恍惚とした視線を向ける。フラウを味わえば味わう程、彼と自分の強さの違いが理解できるようで、もはや奉仕の手は止まらなくなっていた。自身のそこも屹立していたが、自分が満足するより、目の前の雄を満足させることのほうが重要だった。

  (フラウさん……こんなチ×ポ見せられて、耐えられる人居るわけないよ……っ! フラウさん……フラウさんっ!)

  一番獣臭いふぐりまで舐めて綺麗にしてあげたかったが、足を縛られた姿勢的に不可能に近かった。なので、別の方向の奉仕をする。盾は右手をフラウの肉刀に添え、手持ち無沙汰な左手で子種をたっぷりと溜め込んだ、大ぶりの茄子程の大きさの睾丸を優しく揉みしだく。コリコリした触感のそれをクルミのように回して擦り付けてやると、フラウは、

  「あ……アァアアッ!」

  どこか今までとは違う、獣性の中に快楽が滲んだ声を上げた。

  (フラウさん、ここ……気持ちいいのかな?)

  自分の感じたことのない未知の快楽を想像しながら、奉仕の動きは止まらない一生懸命奉仕したおかげで、彼の呼吸もどこか落ち着いてきた気がする。もう少しだという実感を手に、盾は股間の黒い茂みに顔を埋めた。

  「ふむ……ッ! んんぅ!」

  今度は、盾が悶絶する番だった。汗をかきやすい部分に生える体毛に溜まった汗から来る、今までに一番濃い獣臭。特に今フラウは汗を大量にかいている為、その臭いが最高潮に達していた。鼻がひん曲がりそうなほど強烈な、雄の香りに、盾は瞳を白黒させる。だが不思議と不快感はなかった。むしろ、嗅げば嗅ぐほど彼をよく知ることができて、胸に抱く愛おしさが大きくなっていく。

  (フラウさん、こんなになるまで一生懸命に……)

  その事実に罪悪感を刺激されるとともに、使命感も強く生まれる。盾は、自身のすることがもう少しで終了することを感じ取りながら、決意を新たに抱き直す。そして、屹立する肉竿の根本から雁首までを、頭を横にし、咥えるようにして舐め上げた。陰茎を雑巾掛けするように縦横無尽に舌が動き、刺激を与えていく。時に体勢を変えながら、竿を余すところなく舐めあげていく盾の瞳には、ただ相手を思いやる純粋な感情と、恋慕のような感情の色が浮かんでいた。

  そして、終わりの足音が聞こえはじめる。

  「お……俺は……」

  今まで混濁していた意識が快楽によって取り戻されたのか、フラウの虚ろな瞳に正常な光が灯る。そして、この状況に悲鳴のような声を上げた。音程は低いが、紛れもない悲鳴だった。

  「お前!?」

  「ふぁ……! ふゅらうひゃん……ぷはっ。目が覚めたんですね。ちゅ……ん……待っててください。もうすぐ終わりますから……っ」

  そう言って、盾は奉仕を再開する。この怒張がもうすぐ限界を迎えるのは、火を見るより明らかだった。自分の危機を察知したフラウは体を捩ろうとするが、大切なところを人質に取られているせいで、思ったような行動ができない。その隙に、盾は一気にスパートをかける。再び亀頭を口に含むと、エラが張って最初の頃より肥大化したそこを、舌のざらついた部分で満遍なく磨き上げる。両手を動かすことも忘れていない。右手の素早いストロークで、握り込むことすらできない極太の怒張をしごき上げ、反対の左手では優しく、だが先程までよりは確実に強い力で、中にたっぷり溜め込んだ雄汁を絞るように睾丸を揉みしだいた。

  ずっしりとしたふぐりが緊張したように窄まり、同時に亀頭が口内をこじ開けかけるほど巨大に膨張する。鈴口からイカ臭い匂いが混じった我慢汁が溢れ、盾に限界が近いことを教えてくれた。同時に、彼がとても我慢をしているということも。

  「ふぅっ! ふぅっ゛!」

  一滴も種を溢さぬようにと、必死に肉棒にむしゃぶりついていた盾は、全身の筋肉を呼吸で膨張させながら快楽との綱引きを続けるフラウをどうにか開放してやりたいと考える。

  (こんなになってまで耐えるなんて、遠慮しなくていいのに……)

  その気持ちを視線に込めて見つめていると、フラウはそれに気づき、汗を飛ばしながら首を振る。だが、それは出来ない相談だった。あんなにも辛そうに呻いていたのに、今更止めるなど、そのほうが酷な結果だろう。

  盾は彼の気持ちを無駄にすることに罪悪感をにじませながら目を伏せる。それを見たフラウは一瞬顔に安堵を浮かべるが、すぐにそれは裏切られることとなる。

  盾は自分の我慢できる限界まで肉竿を飲み込んだ。だが実際にはフラウの雄竿を三分の一も呑み込めていなかった。馴れていないのもあるが、彼の雄があまりにも逞しすぎるのだ。それが喉に差し掛かるだけでギチギチと音を立て、顎が悲鳴を上げる。更に恐ろしいことに、この赤黒い怪物は未だ膨張を続けていた。

  「っん゛んん゛ぅうっ!?」

  「おい……早く口から出せ……! 死んじまうぞ……ぐっ!?」

  フラウの声に、貴方の受けた苦しみに比べればこんなもの、と叫びたかったが、出来ない。この瞬間を、逃すわけにはいかなかった。今にも噴火しそうなほど熱い活火山は際限なく膨張を続け、盾に痛みを与えるが、不思議とそれに満たされる。勇敢な戦士を癒やすことができるのは、自分だけ。その事実が、盾に圧倒的な幸福感をもたらしていた。

  「だからやめ……ひぁ゛っ!」

  「んんっ! ……ふーっ……ふーっ……!」

  今度こそ理性のタガが外れた盾は、一心不乱に頭を前後させた。肉棒は進行するたび口腔内を無理やり押し広げようとしたが、驚くべきことに、盾の肉体はそれに適応し、行動を反復する度、深度深くまで相手の雄を至上の肉感と共に迎え入れた。

  「だ……駄目だっ!? これ以上はやめ゛てくれぇ゛っ!」

  四肢を拘束されているフラウは、為す術もなく蹂躙されていた。自分より小さな年下の少年の、相手を思いやる心によって。最早逃れることは出来ない。盾は完全にフラウの雄を呑み込み、その快楽を完全に支配した。ねっとりとしたフェラチオは一往復を完了するまでかなりの時間を要し、その分、快感は長く彼を苦しめる。太さ、硬さ共に人間を超越した超人の、思わぬ弱点だった。情けなく懇願するフラウを見ても、盾は愛撫を止めない。むしろイラマチオの最中、頭の前後する動作に捻りを加え、精液を絞り出そうとする。フラウの周囲にだけ立ち込めていた雄臭は既に部屋中に広がり、その中にいる二人は一心不乱に粘膜をぶつけ合っていた。部屋に粘液をかき混ぜる卑猥な音が木霊する。

  ――ぐっちゃっ! ぐっちゃっ!

  「や……やめあっ!? ああ゛……あ……あ゛っあ゛あ゛ぁ゛ーっ……!」

  最早粘膜地獄に堕ちたフラウはどうする事もできず、険しかったはずの顔を今度は別の意味で虚ろにする。それを見てついに素直になってくれたのだと理解した盾は、最後の一手を指す。

  ――ばちゅんっ!

  「……ひ!? ぎぃあぁあっ!!!???!」

  完全にフラウに適応した盾の咽頭部は、極上の揺り籠となって雄を迎え入れ、竿全体に万遍ない刺激を与える、快楽のツボを掌握された赤黒い雄の象徴は、赤子のように泣き叫ぶことしか出来ない。更に竿を支える必要の無くなった右手はフラウの発達した胸の茂みの中から、桜色のコリコリした抵抗を探し出す。

  「っそ! それだけはっ! 頼むからそれだけは勘弁してくれ……っ!」

  盾の使用としていることを直感したフラウは恥も外聞もかなぐり捨てて懇願するが、懇願されている本人は、そんなこと聞いてもいなかった。

  結果、乳首を捻られ、ふぐりを揉まれ、さらに肉棒も愛撫される三点責めの脅威にフラウは晒されることになった。怒涛の快感に遂に彼は、硬い仮面を脱ぎ捨て、快楽に酔った雄の表情を曝け出した。

  「あ゛……あ゛ぁああァッ! ちくびだめぇっ! ち×ぽイッちまうッ! おれ気持ちよすぎてイッぐうぅうううぅ゛ッ!!! ガキのフェラでち×ぽから情けなくオス汁ぶっ放して、情けねぇアクメ面しちまうぅうぅうっ!!!」

  その様子を見た盾は、三点攻めのスピードを上げ、今まで自分が実行したことのない程の性急さで彼を責め立てる。

  びっちゃびっちゃと飛び散る我慢汁と汗、立ち込める淫臭、響く獣喘ぎ。フラウは腰を浮かせ、拒否の言葉とは裏腹に獣欲の開放を求めていた。盾はそれに応えるべく、愛撫の手を休めない。

  すると、喉の中で、一際大きく獣槍が跳ねる。その動きを感じ取り、盾が動きを止めた瞬間、彼の睾丸が今日感じた中で最も固く凝り固まり、中の精液を尿道に一気に送り出した。

  「あ゛……あ゛ァあ゛あァッ! イッ……グアァゥゥううっ!!!」

  ――ビュルルルルルッッ!!!

  フラウはついに、極太の怒張から大量の雄汁を放出する。口腔内で亀頭を舐め、愛撫していた盾は、口の中に溢れ出した獣精を、恍惚とした表情で受け止めた。射精は六回に分けて遂行され、形の良い口から溢れ出したドロドロの種汁は、ぽたぽたとフラウの敗れた下半身の衣服や、赤黒い雄の象徴を白濁に染める。

  「……っんく……すご……い……こんなに……!」

  尋常ではない量のザーメンに驚愕しながらも、その殆どをその若い肉体に取り込んだ盾は、力が抜けて多少やわ硬になった男根の尿道に残った精液をちゅるると吸い上げる、お掃除フェラを敢行した。予想外の快楽に、フラウはその逞しすぎる見た目に似合わない、雌の声を上げる。

  「にゃ……あぁんッ!」

  「あむ……んんっ……フラウさん、かわいい……」

  「な……なに言って……ひぅっ!?」

  次にフラウの体に落ち凝固し始めた白濁を、盾は器用に舌で絡め取る。皮毛の汚れた部分をしゃぶることすら厭わずに念入りに綺麗にしていくのを、虎獣人は呆然とした表情で見つめる。

  「お前……!」

  汚れは股間部分、竿に集中していた。ふぐりの部分は手で覆われていたため、守られていたが、その代わり盾の手にべったりとゼリー状になった獣の精がこびりついている。本来なら忌避されてしかるべきであるそれを、悦楽の表情で舐めとる少年から、フラウは顔を背けた。

  そして、盾の奉仕が終了し、ほんのり朱に染まった頬の少年が顔を上げたとき、フラウは落とすように呟き、諦めたように全身を弛緩させた。すると、彼の皮毛に訪れていた変化が終了し、肉体の肥大化も止まる。そして、出会ったときとほぼ同じ姿になった彼を見た瞬間、盾の体に決定的な変化が訪れた。

  「僕は……一体……」

  体を突き動かしていた甘い衝動が消え、平常化された心が戻ってくる。彼の方を見ると、元の虎柄の獣毛に戻ったフラウは今までとは違い、誰が見てもはっきりと分かる、心配そうな眼差しを盾に投げかけていた。

  「おれの能力のせいだ。すまない……!」

  彼の声には本物の後悔が滲んでおり、それは暗に、盾がとんでもない間違いを犯したことを告げていた。

  「おれの力は、一時的に強くなる代わりに……その、なんだ……発情しちまうんだ。それも、発情してる時のおれを見たやつも同じようにおかしくなっちまう」

  「じゃあ、これも?」

  フラウはこくりと頷いて続ける。

  「今回はマシだったがな。力をあまり使わなかったから」

  あまり使わない状態でこれなら、本気を出せばどうなってしまうのだろうか。盾は背中を走る悪寒に顔を青くした。

  「体の模様が……変な形になってるときにおれを見ると、今日みたいなことになる。だから……おれにはあまり近づくな」

  「でも……せっかく一緒に暮らすのにそれは不可能ですよ」

  「それももう無理かもしれない。きっと織渦は気づくぞ。いや、それを狙っていたのかもしれないな。これも、あいつの差し金だろう? 彼はおれのことを嫌っているから、理解できる」

  「いくら織渦さんでもそんなこと……」

  「ひでぇなぁ。心配になってとんぼ返りしてきてやったのによぉ」

  「そうですよ……ってえ!?」

  第三者の声に相づちを打ってから、盾は驚いて振り向く。すると背後に、いつの間にか織渦が立っていた。彼は顔を悪意に歪めながら、肥え太った体を揺らし、まるで狩りを楽しんでいるかのようにぶくぶくと笑った。背筋が凍るような、恐ろしい笑顔だった。

  五

  「まさかこんなことになっているなんてなぁ? びっくりしたぜ?」

  たぷん、と腹を揺らしながら近づいてくる織渦に、盾は揺れる瞳を向けた。

  「お……織渦さん、これはその……僕の落ち度です。ですからフラウさんは何も――」

  「そんなに動揺しなくても大丈夫ですって! 自分わかってますから!」

  先ほどとは一転して爽やかな声でそう言った織渦に、盾の表情は和らぐ。だが、次に彼の言った言葉を聞いて、盾はかつてないほど表情を強張らせた。

  「まあ、フラウの豚箱行きは確定みたいなもんですがね!」

  「なっ!?」

  「お……織渦ァッ!!!」

  受け止め方は三者三様だった。にまにま笑う織渦、声を詰まらせる盾、怒りに震えるフラウ。盾は縋る気持ちで織渦に懇願した。

  「フラウさんに勝手に近づいた僕が悪いんです! この事態の責任は僕にあります! ですからどうか、彼を収容所に返すことだけは……!」

  だが、そんな少年の嘆願を弄ぶように、冥界の獣が嗤う。

  彼は口角を釣り上げ、口元を半月状の笑みで彩る。工場地帯の濁りきった水を思わせる暗い瞳にみつめられて、盾は金縛りにあったかのように体を強張らせた。

  まるで溺れているかのように呼吸がうまくできない。言葉が泡になって宙を舞った。

  「……ぁ……っ!」

  目の前の英雄の空気に完全に呑み込まれた盾は青ざめた顔で、呼吸すら忘れて目の前を見つめ続けた。

  交錯する二人の視線。織渦は少年から視線を外さないまま、ゆっくりとした口調で言った。

  「安心してください。あんたは不幸な被害者だ。俺から上層部には『フラウがあんたを誘惑して、獣欲を発散させようとした』って言っときます」

  「そ、それは……!」

  だが、反論をプレスするように上から言葉が降ってくる。

  「それともォ? ご両親と、柊学園長の期待を裏切るつもりですかァ?」

  それを聞いた瞬間、盾は今度こそ本当に呼吸困難に陥るほどのプレッシャーを感じ取る。目の前が見えなくなって両手を床につくと、苦しげに息を吐く。

  蘇るのは過去の記憶。自身の魂に刻まれた傷跡。周囲の落胆した視線、落ち込む自分に声をかける両親、憧れの人の前で泣き崩れる自分。

  「お、おい……っ! 盾!? どうした……っ!」

  「ハハハ! 言い過ぎたかァ?」

  「お、俺は……っ! 僕は……っ!」

  苦しげな声で心配してくる虎獣人の声、だがそれは少年の耳朶を打つだけで魂にまでは入ってこない。

  が――そんな少年に、畳み掛けるように鯱が囁いてくる。

  「大丈夫ですかい? すみませんね。これも仕事なんで」

  「織渦さん……っ! ぼ、僕は……! フラウさんはそんな、そんなことしてないんです……! 信じてください!」

  だから彼に与えられたチャンスを、どうか奪わないで――!

  それしか言えない、信じてと願うことしかできない自分に吐き気を覚える。自分の不甲斐なさに泣きそうな顔の盾に、織渦は困ったような視線を向けた。

  そして、何かを考え続けたあと、結論を出した。

  「一つだけ、方法があるにはあるんですがねぇ……」

  それを聞いた瞬間、盾はしがみつくような勢いで織渦の肩に触れた。

  「それは……!」

  続きの言葉を言おうとして顔を上げた瞬間、織渦に服の襟を掴んで持ち上げられる。

  その勢いで抱きすくめられた盾は、彼の雄肉に思い切りサンドされて胸と腹から息を吐き出した。

  「かは……っ!」

  焦りの浮かんだ表情で虎が吠える。

  「織渦……! 盾を巻き込むな! どう見てもおれの独断専行だろう! そもそもお前があれを――!」

  「あぁん!? 知らねぇなぁ!? ――盾さん、俺の要求を呑んでくれるなら、この一件は見なかったことにしてやってもいい。」

  織渦に抱きすくめられた盾は、耳元で囁かれたその言葉に泣きそうになる。

  盾は悲しくて、やりきれなくて顔をくしゃくしゃにする。目尻に涙が滲んだ。使命を果たせなかった哀れな残骸の姿がそこにはあった。

  そんな盾の頬を流れた涙を、生暖かいものが拭った。視界が晴れるとそこには、舌なめずりをする織渦がいた。端正なはずなのに膨れ上がり醜悪に歪んだ彼の顔を眺め、盾は覚悟を決める。

  「なにを……すればいいんですか?」

  重苦しく尋ねると、目の前の織渦が満足気にうなずいた。彼は欲望に濁りきった表情を隠すこともせず、下卑た笑いとともに告げる。

  金か? それとも、コネか? どちらも盾にはない。けれどどうにかするしかない。織渦がどう出てくるのか、祈るような気持ちで待った。

  ――が、彼が要求してきたことは、思いも寄らないものだった。

  織渦が悪魔のような笑みを浮かべて言う

  「「アンタには、俺のオンナになってもらいます」

  絶句する盾の耳朶を売ったその声には、待ちきれないといったうきうきした感情と情欲が多分に含まれていた。

  六

  盾は羞恥に顔を赤らめながら浴場の縁に腰掛ける織渦に向かってひざまずく。

  その様子を見た鯱が満足げににやりと笑った。

  「いい眺めだなァ……? そうでしょう? 盾さん?」

  「あまり……こちらを見ないでください」

  「それは無理でしょうよ。だって目の前にいるんですから、ねぇ?」

  白い湯けむりが視界を埋める中でも、二人はお互いの姿をしっかりと確認している。白と黒のまだらな体をした鯱はどっしりと大理石の段差に腰を落ち着け、股を開いている。

  がっしりした骨太な骨格の上に筋肉と脂肪が乗ったむっちりした太もも。ゴムにも似た質感のそこは、今は湯気と汗で怪しく湿っている。そして、その奥に存在するビキニパンツの布地。

  湿気で肌にピッタリと張り付き、盛り上がった雄穴の形をくっきりと浮かび上がらせたそれをみて、盾は自身の心の中にある獣が鎌首を擡げる音を聞いた。

  盾は織渦の両足に手を添える。ふかふかすべすべの剛脚は盾の意思を後押しするかのようにその手を柔らかく肉で包み込む。常軌を逸したごん太のそれは、見た目の割に驚くほど掴みやすい。力を込めて左右に開く。

  すると――

  「おっとぉ? まだお預けだぜぇ?」

  「……ぁ」

  喉の奥を震わせながら告げる鯱の声で、盾は我に返った。気がつくと彼は、無意識のうちに股間に顔を埋めようとしていたようだ、見上げると、上気した顔色の織渦の顔が目に入った。濁った色の瞳は瞳孔が開いていて、明らかに興奮している。彼の顔下半分を埋め尽くしているぷるぷるした胸肉は、荒い呼吸とともに上下し、先端の桜色の蕾は開花のときが待ちきれないと言いたげに勃起し天を突いている。

  それを見た瞬間、盾の獣が雄叫びを上げ、肉体を突き動かす。だが、それは青い英雄にあっさりと制圧される。

  織渦が、イケないことを咎めるような口調で言った。

  「まだ何も言ってねぇんだけどなァ? 約束、覚えてますかァ?」

  盾はその問いかけに、あふれる涎を嚥下してから答える。

  「も、もちろん……」

  盾は、自分の背後で回っているビデオカメラに意識を重苦しくされつつ、脳内から記憶を引っ張り出す。

  彼と交わした条件、それは『雫沢織渦と肉体関係を結ぶ代わりに、今回の一件を隠蔽してもらう』というものだった。

  織渦は雫沢の力を使って事態を改変、隠蔽する見返りに、盾との肉体関係――それも織渦上位のものだ――を求めてきた。

  「セックス始めるなら、服くらい脱がせてくださいよォ?」

  織渦の格好はヒーローコスチュームそのままだ。深い青色のマスク、マント、ブーツ、グローブに――ビキニパンツ。盾が恥ずかしげに顔を上げると、彼は脱がせろと視線で支持してきた。羞恥の余り動きがぎこちなくなりつつ、盾はコスチュームを脱がしにかかる。

  グローブとブーツ、そしてマントをを恭しく脱がしたあと、肉に埋もれたビキニパンツに手を伸ばし、腹を締め付けているゴムに指をかけた。

  布と肉の間に指を滑り込ませた瞬間指先にまとわりつくヌルヌルした何かを感じ取って、盾は顔を破裂してしまいそうなほど真っ赤に染める。

  「わ、わあぁっ……!」

  「驚きましたかァ?」

  (すっごいネトネトしてる……それに――)

  盾は指にねっとりと絡んだ粘液を指で弄んでから視線を上げる。織渦は上気した表情でこちらを見下ろしていた。粘液の橋をこねながら、相手の瞳に隠された意思を探る。

  「盾さん、どうかしたんですかい?」

  「あ、いえ……」

  だが織渦は盾の返答になにか勘違いをしたようで、浴場の湯気にも負けない熱気を全身から放出し、盾の体を太ももで挟んだ。

  「なぁんだ。そういうことか」

  「え?」

  「分かりますよォ? ただ黙ってヤられるのが気に食わないんでしょう? それなら――」

  言うなり彼は足で盾の背中をホールドし、少年の顔を自分の股間になすりつけた。

  ねちょり、と粘液が弾ける音と同時に、盾の視界は青に染まる。

  「こうして欲しかったんだろッ! オラァッ!」

  「ひょ、ひょっとま……うあぁっ!」

  ヒーローの際どいビキニパンツからはみ出るくらい大きなモリマンに顔をうずめた盾は、粘液まみれになりながらキュンキュンこちらを求めてくる雄穴を顔面で感じる。

  「お、るかさん……っ!?」

  「オラッ! これがいいんだろッ! 望み通りそうしてやるぜぇっ!」

  ――ぱちんっ♥♥ ぱちゅんっ♥♥

  「は、はぁあああっ♥♥♥」

  鼻腔内から入り込み、脳をバカにする雄の香りに盾は翻弄される。織渦はそんな少年の様子が嬉しくてたまらないのか、嗜虐心たっぷりな口調でまくし立てた。

  「どうだ……ッ! フラウなんかより……ずっといいだろォッ!」

  「ふぐっ……ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ーッ!」

  鯱の股間で花開いた肉ビラは盾の顔面を正確に捉え、顔の形にフィットするかのように正確に密着してきていた。肉華からとめどなく溢れ出す雄蜜は浴室のタイルにボトボトと滴り、周りに雄の色香を撒き散らす。

  そして数秒間盾の顔面を股間に押し当てたあと、織渦は少年の肩に手を当てて自分から引き離す。

  織渦の視線の先には、完全に自分の雄香にヤられた少年の姿。

  「う……ああっ♥ あー……っ……あーっ……♥」

  満足気に笑った鯱は、もはや言葉を紡ぐ余裕すらない盾をコスチュームも気にせず抱きしめ、ねちゃりと口を開いた。

  耳元に聞こえた音の方向にに涙目の盾が顔を向けた。すると織渦が顔を近づけて盾の唇を押しつぶす。

  小さな口腔内に肉厚な鯱のタンが侵入し、ナカでくまなく暴れまわり、ナメクジのように舌どうしが絡み合う。

  「はむっ……ぅっ!」

  「ほりゃほりゃ……ちゅ……♥ んっ♥ じゅるっ♥」

  反射的に口を離すと、絡み合っていた舌が解け、唾液の橋ができた。

  じゅるるるるっ♥♥ という音とともに唾液を啜った織渦が見下すように笑う。

  「どうだぁ♥ ヴィランよりもヒーローとせっくすするほうがずっときもちいいだろぉ♥ フラウなんかほっといてぇ♥ 俺ともっとイイコトしようぜぇ゛……ぇっ♥♥♥」

  そして織渦は盾のバキバキになったひとちんぽをすべすべの手で撫でる。だがそれだけで盾の雄は敏感に反応し、射精してしまいそうになる。

  「うぐっ……! ふぅうううぅっ……!!♥♥♥!」

  「ありゃ♥ まだ足りなかったのかぁ♥♥ しょうがねぇなぁ……♥ じゃあ俺がハメ潰してやるよ♥♥♥」

  すると織渦は自分の指をパンツのゴムにかけると。そのまま少年の手を使ってパンツを力任せに引きちぎった。

  ――バツンッ!!!

  「ほぉら♥ ほぉら♥」

  「ひぐっ!?」

  そして織渦は盾のちんぽをぎゅむっと鷲掴み、自分の盛り上がったマンコにあてがう。彼はその状態で体を回転させ正面に浴槽がある状態にする、カメラに背を向ける格好だ。

  織渦は快感に揉まれて苦しそうにしている盾に向かってそっと囁いた。

  「ほれほれ♥ 俺のマ×コに種付けしてみろ♥」

  織渦は盾のちんぽをシャチマ×コのくぼみに沿ってぐりぐり動かす。それだけで敏感な亀頭は叫ぶようにその傘を広げ、竿全体がびくびく脈動した。

  盾の雄の高ぶりに織渦は鼻息をもっと荒くすると、盾を抱きしめた体勢から体を後ろに倒し、浴室の雄蜜にまみれたタイルの上に転がる。

  揮発した獣臭を纏いながら、織渦はさっきとは違い盾を求める姿勢――左右の足を広げ自身の雄マ×コをおっぴろげるまんぐりがえしの姿勢――になった。

  織渦は盾の雄竿を固定したまま器用にもう片方の手で自分のモリマンを拡げると、膣内に広がる肉びらを惜しげもなく盾の竿の前に晒した。

  それは間違いなく種付けOKのサイン。織渦は今なら行けるという確信を持って盾にささやく。

  「おれのシャチマ×コに、おまえのひとちんぽじゅぽじゅぽしてください♥♥♥ 子作りセックスしようぜぇっ♥♥♥」

  そして、器用にゆっくりと肉棒を自身の肉壺に触れさせた。

  「う……ああっ!」

  それだけで亀頭に届く極上の快感に、盾は叫び声を上げる。

  無意識にカクカク動きそうになる盾の下半身。少年は自身の雄竿に手をあてがい狙いを定めると、シャチのオス穴にそれを沈み込ませようとした。

  だが挿入の直前、織渦は再び盾の雄竿を固定し、挿入の権利を自分のものとする。

  舌なめずりをしながら織渦は言った。

  「おっとぉ♥ まだなにも言ってねぇよな♥ 俺のオスマ×コにお前の雄ミルクびゅーびゅーしたいって」

  「なに、を……!」

  快感に悶絶し、はぁはぁと粗い息を吐く盾の耳元で織渦は囁いた。

  「ほら♥ 言っちまえよ♥ ほらほらぁっ♥♥♥」

  ――くちゅっ♥ くちゅくちゅくちゅっ♥♥♥

  シャチのぷにぷにのハンドオナホが盾のチ×ポを絶妙な力加減で磨き上げる。竿全体を包んでいる大きな手のひらがねじれるように動く。それだけで盾の竿はカウパーをだらだら垂れ流し、鈴口をぱっくりと開かせた。

  「おら♥ ビデオの前で早く言わねぇと、ザーメン無駄撃ちしちまうぞぉっ♥♥♥」

  度重なる生殺しで盾の理性はもはや限界を突破しているに等しい。早く射精したい、シャチの雄マ×コにぶっ放したい。その一心で盾は口をパクパクと開いた。

  「あ……なたの……」

  「あんだぁ♥ 聞こえねぇなぁ?♥♥」

  織渦の命令を聞いて、盾は思い切り息を吸い込む。喉笛が立てたひゅうと言う鋭い音が刃となって盾の胸に突き刺さる。

  それは自らの意思で尊厳を投げ捨てるに等しい行為だった。だが、もう止まらない。

  盾は、挑発するように顔を傾けてくるシャチに叫び声を突き立てた。

  「……ください゛……貴方のオスマ×コに、な……膣内射精しさせてくださいぃいっ!」

  浴場に響き渡る大音量の告白を耳にした織渦の行動は早かった。

  「おほっ゛♥♥♥ それじゃあぁ♥♥ いただきまぁすっ♥♥♥ ぐへへっ゛♥♥♥」

  「……んむっ!?」

  彼は告白してすぐの盾に顔を近づけ押しつぶすような口づけをすると、同時に両腕を少年の背中と腰に回してくっつけた。

  ――ぱちゅんっ♥♥♥

  瞬間、与えられた極上の快楽に盾は全身を硬直させた。その様子を全身で感じ取った織渦は、三日月目になりながら喉の奥で笑う。

  「――ぅじゅるっ♥……っぷはぁ……っ♥ ぐひひっ♥♥♥ きもちいーだろぉ♥ おれのプルプルシャチマ×コ♥♥♥」

  「ひ……ひあぁっ!? おるかさんっ!? ちょ待っ――」

  「だぁ〜めっ♥♥」

  シャチの桃色の肉ビラは完全に盾の肉棒を包み込んでいて、逃れようと動くことすらも快感に繋がってしまう。

  盾はむちむちした肉の海がもたらす快感に悶え吠える。そんな少年の可愛らしい姿を目にしたヒーローは、自分が彼を支配している実感に打ち震えるかのように腰を微振動させながら言った。

  「ほらほら゛ぁ゛、はやくしてくれよぉ? おれのからだ、おまえの好きにしてくれていいんだぜぇ゛……♥」

  「ぁ゛あっ゛……!」

  そう言う間にも、シャチの接合部から迸るおびただしい量の愛液が二人の営みを加速させていく。結果行為は苛烈さを増していき、やがて二人の欲望の営みは浴場全体に響き渡るほどの音を出すようになっていた。

  ――ばちっ♥ ばちぃっ♥♥♥

  姿勢を維持することすら困難になった少年の肉体を真正面から受け止めた織渦は、恥ずかしさのあまり顔を赤く染めた彼に向かって対面位で容赦なく腰を降る。両足で盾の腰を確かにホールドしながら、力強いストロークで快楽を送り込み続ける。

  こわばっていく肉体とともに硬度を増していく肉棒の存在感を雄膣の中に感じ、織渦は悦びの声を上げた。

  「ほらぁっ゛♥ イけッ♥♥ イッちまえっ♥♥♥ おれのオスマ×コにお前のざこざこせーしぶっ放しちまぇっ♥♥♥」

  その言葉通り、盾の雄の昂りを開放させるかのように、一層強く叩きつけた次の瞬間、

  「う……ぅぁああああああぁあっ!!!」

  叫び声とともに盾は織渦の膣内で雄を噴出させた。

  ――びゅるるるるるるっ!!!

  盾の限界まで膨張した肉棒から、織渦のむちむちぷりぷりしたシャチマ×コへ大量の子種が注ぎ込まれる。二人はお互いに痙攣し合いながら、繋がった感覚愉しむ。

  びくっ! びくっ! と痙攣を繰り返す盾と織渦の視線が交錯した。二人は言葉を交わすことなく、ほぼ本能だけで動き口づけを交わした。

  「おる……かさん……!」

  潤んだ視界の中で、織渦が先程までの酷薄さとは違った、ねぎらうような言葉をかけてくる。

  「じゅん……よく、頑張ったな♥♥♥」

  そして織渦は盾にもう一度軽く口づけする。全身から力が抜けた二人はゆるく抱き合いながら余韻をに身を任せた。

  「今日からアンタはおれのオンナだ♥」

  柔らかな語調、だがその中に含まれた絶対的な支配宣言に、盾の潤んだ視界は更にぼやける。

  自然と口が動いていた。

  「ふ、らうさん――」

  何故か、彼を裏切った気持ちになったのだ。あって一日しかたっていないにもかかわらず、なぜかあの虎獣人のことを思わずにはいられない。ほぼ反射的にフラウとの記憶をたどっていた。今日一日しかない記憶。彼を知り、彼に助けられ、そして彼と交わった記憶。

  四肢を拘束され、苦しげに悶える彼の唸り声、変化する肉体、それらを思い出したとき

  (あれ……? 僕は――)

  彼の肉体にある変化が訪れる。

  虎獣人の全身でうごめいていた紫色の紋様。それが記憶の海から浮かび上がってきた次の瞬間、頭の中のそれがイメージの中で輝きを放ち始め、盾の肉体に負の活力を湧き上がらせようとする。

  (これって……もしかして……)

  青い英雄が巻き起こす渦に飲み込まれ翻弄された少年の肉体は、とっくの昔に限界を迎えていた。だが、怪しく光りだした紫の紋様を脳内に自覚した瞬間、彼の肉体は再び活力をみなぎらせようとする。

  ――自身の『雄』を中心として。

  そして、その雄に導かれるようにして、少年の肉体は再起を果たす。

  「おっほ♥ いっぱいでたなぁ゛っ♥♥♥」

  腕立て伏せの容量で体を持ち上げた盾に見せつけるようにして、織渦が自身の蜜壺を片手で開いてみせる。

  「うへへ……ぇっ♥ もっと……もっとしようぜ……ぇっ゛♥」

  ――ぐちゅっ゛♥ ぐちゅっ゛♥

  「……お゛っ♥♥♥」

  そして膣内にたっぷり注がれた種汁をぶくぶくと肥え太った長い指で掻き出して甘イキを繰り返しながら、次を誘うように矯正を上げた。

  そんなヒーローに向かって、盾は妖艶な視線を投げかける。

  紫色の光がちらつく瞳で。

  七

  雫沢織渦は魂の裡から湧き上がってくる悦楽にその大きな体をくねらせた。

  (うひひ……♥ こんなにも上手くいくなんてなぁ? ツイてるぜぇおれは?)

  事前準備は実に簡単だった。予め盾の生活圏を把握し、根回しを完全に済ませてから自分の都合のいい時に行動を開始するだけ。

  実際はもっと時間をかけて彼の心に入り込み信用を得てから動くつもりだったが、まあいいだろう。

  織渦は自分を上気した瞳で見下ろす少年の頬に手を添える。きめ細やかな肌の感触を楽しみながらも彼の肉体の内側に眠る獣欲の熱を感じ取った織渦は、顔をぐちゃりと下品な笑みで彩った。

  彼の熱を帯びた視線と、朱の差した頬、甘く浅い吐息、それらを感じ取るたびに織渦は体の芯を電流に貫かれ、汚濁した声を漏らす。盾の未成熟な美しさに魅了され、それを支配することに魂が燃える。

  織渦は欲望のままに自らの下腹部を弄る勢いを強くする。肉付きが良すぎて繊細な動きが不可能になってしまった織渦の指は、えぐるような勢いで雄膣の内壁を削っていく。

  もともと骨太な鯱獣人なこともあり、雫沢の一族は体格の大きな者が多い。だがその中でも織渦はよく食べた。そして欲望のままにすべてを支配してきた。この世のすべてを飲み込むが如き、底なしの欲望。物もヒトも、全て位のままに。

  それが織渦の英雄としての対価であり、そうすることが求められる地位に織渦はいる。

  そしてそんな彼が今一番欲しているのが盾だった。

  「っくうぅっ♥♥♥ じゅ……盾っ♥」

  注がれた雄汁の熱を感じ取るたびに、自分の大事な部分が目の前の雄に染められてしまったのだという事実に悶える。同時に、これが消えることのない楔になる事実にも快感を覚える。フラウが執着している存在を手中に納め、その色彩を思うがままに染め上げる。これ以上の悦楽はない。だから織渦は味方であるはずの盾に対し卑劣な手段に打って出た。

  二回戦に備えて膣内を満たす雄汁をぐちゃぐちゃ音を立てて掻き出していると、盾が顔を近づけてきて、唇を開いた。

  「は……あっ……♥」

  「なんだぁ? もっとして――」

  「織渦……織渦さんっ!」

  おねだりの一つでもさせてやろうと開いた織渦の口を、盾の可愛らしい唇が塞いだと同時に、激しく舌を滑り込ませてくる。

  織渦は胸の奥と下腹部をきゅんきゅんさせながらその求めに応じた。華奢な少年の肉体を自身に埋め込むかのように抱きしめ、体全体を使って彼を受け入れる。自らの肉厚なタンを盾のそれに絡め、海中で狩りをするかのように彼の口腔内を弄ぶ。自分より遥かに小さな人間の舌は織渦のそれが作り出す渦に巻き込まれ、織渦の口腔内を自分の唾液で染め上げるはずが逆に制圧されてしまう。味覚から伝わってくる、青春を感じさせる若々しい雄の酸味と、闇を背負ったものの苦悩を感じさせる苦味。その絶妙なハーモニーが、盾に自身は特別な雄に犯されているのだという自覚を促す。

  最上級の食事を前に唾液がとめどなく溢れてくるのと同じように、織渦は際限なく湧き上がる自身の唾液で盾の口腔内を満たした。だが小さな人間の口では、荒ぶる雄の濁流を受け止めきることができない。

  余裕そうな織渦とは対照的に、遥かに早く限界が訪れる。

  「んっ、んっ!?」

  「ぬちゃ……れろっ……んっ……。ふへへ、もう終わりかぁ?」

  幾人ものヒーローを満足させてきたシャチのキスに、今さっきまで童貞だった盾が敵うはずもない。ビクビクと体を痙攣させ陰茎を再び屹立させた彼に、織渦は愛おしさを禁じえない。

  (もうすぐこいつはおれのもんだ♥)

  初めて目にしたときから盾のことは気になっていた。傷一つない白い肌を持つ可愛らしい少年。理由はわからないが、フラウは明らかにこいつのことを意識している。つまり盾を支配すれば、あいつがなぜ更生プログラムに選ばれたのか、その理由がわかるかもしれない。

  織渦はそんなことを考えながらも、あまりの激しさからとっさに顔を離そうとする盾の頭部に腕を回し、逃げ道を塞ぐ。軍隊格闘顔負けの鮮やかさで体を制圧された盾はしばらくの間抵抗していたが、やがて織渦の支配を受け入れた。

  おずおずと脇下に通されていた盾の腕に掛かる力が強くなったとき、織渦は自分の勝利を確信する。実際――

  「んぷはっ……。ま、待って……っ!」

  「なんだぁ? 盾?」

  盾はその愛らしい顔立ちを、まるで初恋でもしているかのように赤らめている。織渦は内心笑い出しそうになるのをこらえながらも、可能な限り冷静さを装って応えた。

  すると、少年は快感に震えもじもじしながら予想外のことを口にした。

  「カメラ……止めてっ……!」

  彼はその可愛らしい顔立ちに悩ましげな表情を浮かべながら懇願する。腰はカクカク動き、もう待ちきれないといった様子だ。織渦は盾の申し出を受けて一瞬、もうやめてもいいかもなと思った。証拠映像は完全に撮れているし、これ以上はある意味バッテリーの無駄とも言える。だが、その可能性に至っても織渦は意地悪をやめない。

  「なんでだぁ? おれのオンナになるんじゃなかったのかぁ? フラウのことはどうするんだぁ?」

  「それは違――」

  「ほぉ? 何が違うのか言ってみろ?」

  すると盾は顔を爆発しそうなくらい真っ赤に染めて、数秒呼吸を止めてから言い放った。

  「もっとしたいから……だからカメラ止めてください……!」

  「おいおい、それって……」

  「織渦さんと……『個人的』に……」

  それ以降彼は黙りこくる。織渦はその申し出を聞いて内心ガッツポーズを決める。そして、懇願してくる盾に向かって優越感の滲み出した声で言った。

  「悪い子だなぁ♥ プログラム遂行よりセックスが好きだなんて、とんだヴィランだぜ♥」

  すると盾は、ためらうように顔を動かし、それから上目遣いになって言った。

  「駄目……ですか?」

  だが、織渦はそれに力強く応える。

  「悪い子はヒーローがお仕置きしなくちゃな♥」

  織渦はそう言いながら、腕につけたヒーロー専用の情報端末を操作し、カメラの電源を落とした。

  悪い子は嫌いではない。織渦は愛撫するように唇に向かって、わざと音が出るようにねっとりとした動きで吸い付いた。両者の間にかけられた唾液の橋は、ふたりの魂を繋いでいるようにも見えた。

  そしてカメラの停止を確認した盾が、織渦の胸元へと控えめに手をのばす。彼はその手が固く勃起した桜色のしこりに触れる前に、ためらうように静止した。

  その初々しい仕草に織渦は愛らしさを覚えると同時に、今度は相手の好きにさせるのもいいかもしれないと思い始める。

  (盾がどういう攻めをするのか、ちょっと興味あるしなぁ?)

  織渦は自身の裡からあふれる悪辣な感情にふひひと笑いながら、戸惑う盾に声をかけた。

  「遠慮しなくていいぜ♥ 今のおまえはおれのオンナなんだから、おれの体、好きに使ってくれ♥」

  それを聞いて驚きに目を見開いた彼に向かって、ダメ押しするかのように付け加えた。

  「おまえに気持ちよくしてほしいんだ。……駄目か?」

  まるで恋人に睦言をささやくような甘いトーンで告げる織渦に、盾は顔を赤らめる。そしてどうしたらいいか迷った末、彼は唸り声を上げる。

  「ん……うぅううぅうっ!」

  そして間髪入れずに、そのおっぱいにむしゃぶりついた。

  「お♥ そうきたかぁ♥」

  筋肉の上に大量の脂肪が乗った織渦の肉体は沈み込むような柔らかさと確かな筋肉の弾力を併せ持つ極上の抱き心地をしている。そんな彼の魅力がある意味最大限に詰まっているのが、胸である。

  ヒーローの怪物じみた筋肉をもちもちぷるんとしたシャチ肉が包む織渦のおっぱい。パイズリに使ったのならあらゆる雄を三こすり半ではてさせることも不可能ではない。そこ吸い付いた盾は、かぶりついた瞬間から脳を焼いたスパークにカウパーをほとばしらせ、出るはずのない雄乳を求めるかのようにピンと張った乳首をコリコリと歯で齧った。

  胸のあたりから生まれ、脳幹を刺激し雄のマ×コを湿らせる甘美な電流に、織渦は小刻みに嬌声を上げる。

  「あっ♥ あっ♥」

  ヒーローの底なしの体力から繰り出されるお互いを貪り尽くすような攻めとも違う、圧倒的に肉体が劣っているが故のただの人間の攻めに、織渦は今まで感じたことのない感覚を味わう。

  (こいつ……こんなに激し……)

  普段織渦の相手をしているのは、同業者のヒーローか、活動を通して個人的に協力関係を気づいた『葦』と呼ばれる一般人だ。ヒーローは基本的に超人であるため、際限なくお互いに快感を求め合う激しいプレイになりやすく、一般人は織渦を恐れながらもヒーローとして扱うため、どちらかというと織渦が相手を喰らい尽くすプレイになりやすい。

  そんな中で、英雄のなりそこないである盾の『自分を気持ちよくさせようとする姿』に、織渦は驚きを覚える。

  (でも、なんか感じたことねぇ感覚がする……!)

  それと同時に、胸の奥が甘く締め付けられた。

  気づけば織渦は、自然と甘えるように彼に話しかけていた。

  「どうだぁ♥ おれのぷるぷるのおっぱい♥ 女のよりいいだろぉ♥」

  その問いに、盾は胸肉から唇を離して応える。

  「ぷはぁっ……! おるかさんのおっぱい、やわらかくって……こりこりしてて……!」

  息も絶え絶えに告げる彼のことがどうしても愛おしくなって、織渦は彼の言葉を遮りその頭を再び胸に押し当てる。

  「わぁーったわぁーった♥ ほら、もっとおっぱい吸いな♥ 好きなだけおるかさんのおっぱい、飲んでいいんだからよ♥」

  「は、はぁ……っ! うぐっ!」

  自らのことを心の底から褒めていることが感じられて、織渦の心に多幸感が広がる。盾の姿は群れから離れまいと、必死についてくる小魚みたいに小さく儚い。だがそれ故に織渦の心を満たす。今この少年の世界には自分しかいない。自分こそが世界一のヒーローで、彼は自分の心を全力で悦ばせようとしている。

  自分の胸肉が吸われたり引っ張られたり噛まれたりするたびに、織渦の胸に切なさがこみ上げる。

  そして加えて

  「あ……♥ あんっ♥ もう片方もかぁ……っ♥」

  空いた手でもう片方の胸を揉みしだかれる。増す愛おしさ。

  恐ろしげに語られる雫沢相手にも決して引かず、最善を尽くそうとする彼の姿勢。彼の攻め手からそれを感じ取った織渦は自然と盾の勃起した雄に手を伸ばしていた。

  彼の超人のそれと比べると明らかにサイズの小さい雄を改めて手にした瞬間、織渦の頭は幸福感で真っ白になる。

  (こいつ……おれのおっぱいでこんなにおち×ちんでかくなってやがる――そんなに……♥)

  ただ一方的に貪るだけだった一回戦目とは違う、色眼鏡をかけず、真正面から織渦を雄として受け入れつつ繰り出された盾の奉仕に幸福を覚えてしまった織渦は、自身の精神面における敗北を感じ取った。

  織渦は今までと違い、まるで恋する乙女のように控えめな仕草で、その熱い雄をしごいた。

  ――しこっ♥ しこっ♥

  「――ッ!?」

  与えられる刺激に痙攣した盾の歯がふやけた雄乳を噛み締め、緊張した指先がもう片方の胸の突起をひねり上げた。そして、

  「――はぁっ!?♥♥♥!!!♥♥♥」」

  それによって生み出された電流によって、織渦の下半身はまさかの絶頂を迎える。

  「お、るかさんっ……!」

  「はぁ……あ゛ーっ♥♥ え? なんでも……ないぜぇ……♥」

  だが、これまでとは全く違った快感に織渦は頭の中を真っ白にしていた。

  (あ……やばい……♥ おれさっきおっぱいいじられてイッちゃった……のか)

  それは織渦にとって、雄としての敗北を意味していた。

  冥界の怪物として恐れられるヒーロー、ブルー・メイルストロムが、一人の雄として屈服したことを意味していた。

  シャチのモリマンは種付けを懇願するかのようにくぱくぱ開閉を繰り返し、入り口から蜜を垂らしている。織渦はうずく胸の高鳴りが導くままに胸元の盾へ切なげな視線を投げかけた。

  (なんだ……これ……? すっげぇ切なくて……! きゅんきゅんする……っ♥♥♥)

  自然と盾に触れる手つきがフラウのものと近づいてきている気がした。美しい少年を守るように。ささやかに咲いている花を手折らないように、自然と慎重になっていた。今までやったことのない力の使い方。支配ではなく守るための行動。

  織渦は搾精グローブと化したシャチの手のひらで痙攣する盾のチ×ポを暴発させないように細心の注意を払いながら刺激し続ける。その繊細な動きは今までの一方的なものではなく、共に快楽の頂きを目指そうという意思表示だ。

  視点が変われば、相手が替え難く愛おしい存在に思える。性行為で上気した頬に別種の紅色を加えながら、織渦は相手の反応を待った。

  「じゅん……じゅんっ♥♥♥」

  「うぎっ!? ふ、ふぁいっ!? な……なんで……あぐっ!?」

  意図せず始まった授乳手コキプレイに目を白黒させながら、盾が求めに応じる。その様子を見るだけで、織渦の胸の中に支配欲とは違った何かが生まれる。

  (ああ、こいつのオチ×ポ様で、おれのシャチマ×コまたかき混ぜられてぇ……♥)

  そのためには射精させず、ぎりぎりのところで手を離しておねだりをする必要がある。それを考えると盾のヒトチ×ポはもう爆発寸前だ。織渦は名残惜しいが、自らの欲望を満たすために盾のそれをそっと手放した。

  すると、

  ――ばちんっ!!!♥♥♥!

  ほぼほぼ本能と理解できるほど素早く、織渦の婬壺に盾が肉槍を突き立てた

  「お゛っ♥♥♥」

  未体験の衝撃。予期せぬ幸運。織渦は脳幹を快楽で破壊され、よだれを垂らしてのけぞりアクメした。

  そして次に襲いかかるのは――

  ――ぱんっ♥♥ ぱんっ♥♥

  他人から無造作に与えられる連続した快楽。

  「あ♥ あっあっあ゛♥ ……あぐぅううううぅうっ♥♥♥」

  相手のことなど考えていない獣のような腰つきでも、今の織渦を絶頂に導くのは容易い。

  もう完全に精神的には雌落ちしていたが、淫欲で埋め尽くされた織渦はそれに気づかない。織渦はついに燃え上がる雌の本能に従いまくしたてる。

  「じゅんっ♥ じゅんさまぁっ♥♥ このおっぱいちゅーちゅーされただけで屈服しちゃっただめだめヒーローのクソザコオマ×コをぉっ♥ じゅんさまのオチ×ボで耕してくださいぃっ♥♥♥」

  「ぐっ!? くぅうっ!!!」

  言い終わると同時に両足で再び盾の腰をホールドし、おねだりするかのように対面位で無理やり彼の肉棒を自らの即負けマ×コに挿入させる。

  「おれのこと好きなだけザー汁便器にしていいですからぁっ♥ じゅんさまのオチ×ポ、ほしくてたまらないんですぅっ♥♥♥」

  粘性の音とともに肉棒が何度も沈み込んでいく。その動きに停滞はなかった。雌の本能のままに削った肉壁が、一回戦目とはまた違った味を盾の肉棒に送り込んでいたからだ。

  (じゅんさまぁっ♥ しゅきっ♥♥ しゅきぃっ♥♥♥おれのからだっ♥ すきなだけめちゃくちゃにっ♥♥♥)

  「んひいぃいいいっ♥♥♥ くそざこヒーローの即負けオマ×コ♥ じゅんさまのヒトチ×ポでお仕置きされちゃってるぅっ゛♥♥♥」

  脳みそを真っ白にする雌悦に導かれるまま、織渦は口を開いて舌を伸ばす。胸から顔を上げた盾の朱の差した顔面をベロベロなめながらキスをおねだりする。

  いくら貪っても潰えることのない光。自らの闇を真正面から受け止め、諦めずに食らいついてくる彼の存在に、織渦はこれ以上ない幸福を感じていた。

  「んーっ♥ んーっ♥」

  「お、るかさんの膣内っ……! すごく気持ちいいっ!」

  ああ、これか。数多のヒーローがここを訪れる理由は。

  織渦は理解する。求めに応じ、唇を塞いできた彼の動きに魂を揺さぶられながら。その甘く小さな舌に口腔内を隅々までかき混ぜられながら。

  ヒーローたちが心の底から裸になれる相手が、この羽佐間盾なのだ。英雄の魂を持ちながらもそれになり得なかったもの。心があるが力のない哀れな小市民。織渦は彼を見くびっていた。盾は自覚なく数多のヒーローの魂を受け止めてきた。だからこそ織渦は今、盾に包まれている。

  身も心もすべて。織渦の顔につけたマスクが盾の発する衝撃で解けていく。それと同時に自分の心も裸になっていく。

  自身が養成中にも関わらず特例でヒーローとしてコスチュームをつけることを許されたあの日、ある人物にこう告げられたことを思い出した。

  ――いつかきみにも、魂を殉ずるに値するものが見つかる日がかならず来る。もしそれを見つけることができたなら、きみはヒーローとして一段の高みへ登ることができるだろう

  言われたときは理解ができなかった。その時の織渦は権力や、それに付随する地位にしか興味がなかったから。でも今なら彼の、柊木葉学園長の言葉の意味がわかる。

  織渦は生まれてはじめて心の底から満たされた状態で性行為を行っていた。盾の持つ底知れない魂の深淵に身を沈め、彼のためだけに生きる雌として魂を最適化させていった。

  そして自分の思いに応えるかのようにごりごり盾のヒトチ×ポで穿たれほぐされた雄膣内から、ヒーローの男根が顔を覗かせる。

  盾が何度も穿ち、突き解していた雄膣の内壁の肉は今やとろとろにふやけていて、それによってくびきから解き放たれた雄が、盾のそれとぶつかる。

  だが――

  「あひぃんっ♥♥♥」

  盾のそれと自らのそれがぶつかった瞬間から、織渦のそれは負けてしまう。スリットから解き放たれ、時には雄を雌に変えることすらあったシャチのペットボトルほどもある巨根が、感じたことのないスピードでチン負けし、雌のように柔らかくなる。

  「あんっ♥ だめっ♥ あっあっあっ♥♥♥」

  もう既に盾専用のメスマ×コと化していた織渦のそこは、正常な雄としての機能を失っていた。突かれるたびにメス負けし、硬直の代わりに雌悦に泣くケモチ×ポは、雄膣内部で蛇のようにのたうちまわり、それに対応するかのように織渦も身悶える。

  「はぁ゛っ♥ あ゛っ♥ だめッ♥ やっべぇ♥♥ チ×ポ♥ チ×ポ馬鹿に゛……バカになりゅっ♥♥♥ ヒトオスチ×ポ様に俺のバキバキチ×ポぉっ♥ まけてメスになっちゃってるうっ♥♥♥」

  「ごめんなさい! ごめんなさい! こしっ! とまらな――」

  ――ぐりぐりぐりぐりぃっ♥♥♥

  「んぎっ♥ ぎひぃいいいいいぃいっ♥♥♥」

  高速ピストンのあと、極めつけに腰を打ち付けてからぐりぐりと当て堀りされた織渦は汚濁した声を上げながら、この小さなヒトオスの精子を受け止められる幸福に震えていた。

  獣のように乱暴な前後運動と当て掘りを巧みに使い分け、ヒーローの胎内に自らの雄を塗りつけ、刻み込んでいく盾の初めてとは思えないテクニックに織渦はもうされるがままだ。

  自らの雄が塗りつぶされ、その魂の所有者が自分ではなく他者に成り代わる感覚。織渦が生まれてはじめて感じる、『支配』。目の前の少年はそんなこと全く意識にないだろう。熱に浮かされた視線と表情で一心不乱に腰を振るこいつには。だからこそ愛おしい。

  自らが守らなければ、そんな使命感が生まれる。この無邪気な支配者の信じる正義に殉ずるのが、今の自分の存在意義だ。

  (あああっ゛♥ アンタに命令されるならおれはっ♥ おれはっ♥)

  今まで感じたことのない、大きな正義。それはあらゆる形の善を包み込む。織渦は盾の魂に包み込まれながら、今の自分がやるべきことは、コイツのオス沈め、願いを叶えることだと再定義する。

  先程と同じく、うるさいくらいの音を響かせながら二人は粘膜を接触させ続ける。織渦は魂ごと屈服しながらも、態度だけは強気を維持しようとする。

  「なぁ゛……っ♥♥ おれのほうが……お゛っ♥♥ いいだろ……っぎひぃっ♥♥♥」

  だがイキながら言っているので、顔はもうだらしがないの一言で、態度も媚び媚びだ。でもそんなことに気づかない盾は、乱暴に腰を打ち付ける。

  可愛らしい顔立ちの中に確かな雄を感じ取って、織渦の気持ちは更に盛り上がってしまう。胸の奥からメスの悦びが生まれ、シャチマ×コをこれ以上ないくらい濡らしてしまう程に。

  (おれ……肉便器としてしか見られてないっ♥♥ こいつ♥ おれに種付けしたくてしょうがないんだ――♥ いぃいっ♥ これいぃいっ♥♥♥)

  コイツの望み、何でも叶えてあげたい。果てしないメスの愛が、織渦を満たしていた。

  そんな彼の高まりを押さえつけるように、盾が織渦の腕を掴んで床に貼り付けにする。

  まるでレイプされるメスみたいな格好。この時点で織渦のマゾメス度はマックスに達する。

  「あっ♥」

  そして始まる、性処理そのものな乱暴なピストン。

  ――ぱんっ♥ ぱんっ♥ ぱんっ♥

  「あっぎ♥ ひっぐ♥ ――イグゥっ♥ マゾメスマ×コに乱暴にオスチ×ポぶちこまれてぇ゛っ♥」

  言葉に応えるように、ピストンのスピードは増していく。絶頂の階段を駆け上がる。

  体も心も裸になりもはや盾のことしか考えていない一人の雌『雫沢織渦』と化した淫乱鯱は、圧倒的な存在に征服される快感に悶ながら、悲鳴の体でおねだりし続ける。

  「ヒーローなのにぃっ゛♥ 一般人のオチ×ポ様に屈するクソザコマ×コでごめんなさいぃいいっ♥♥♥ ぎっ゛♥ ひいいぃいいいいっ♥♥♥」

  敗北を決定づけるような勢いのある当て堀りに、織渦が今まで出したことのないような悲鳴を上げる。ぷるぷるの腹肉とおっぱい、丸太のような太い腕、男らしいが脂肪に包まれ悪辣さを強く感じさせる顔立ち。強いオスの権化のような見た目の織渦が、今は心の底から一匹のメスとして種付けを求めていた。抵抗もせず、一人のニンゲンに貪られることを望んでいた。

  「じゅんさまぁっ♥♥♥ ゆるしてくださいぃっ♥♥♥ どんな命令でも聞きますからぁっ♥♥♥ 膣内射精だけは、膣内射精だけは――お゛ッ♥♥♥」

  見え透いた嘘だったが、うるさいと思われたのか再び唇で自分のそれを塞がれる。痛いほど強い力で握られる手首。それによって手首の端末が起動し、意図せずビデオカメラの電源がオンになる。そしてもう一つ、決定的な変更が織渦のもとで行われた。

  「あ゛っ♥♥♥」

  それに気づいた織渦は事実を盾に伝えようとするが、もう遅い。

  ひときわ強い力で腰が打ち付けられ、内部の肉ひだを削る。それによって何度目かの快楽による初期化を味わった織渦は、冷静な言葉を紡ぐどころではなくなってしまう。

  「あっ゛……ぎぃいいいいいぃっ!!!♥♥♥!!!♥!イグッ♥ イッちゃうっ♥♥♥ マゾメスマ×コにニンゲンせーしキメてぇっ♥ マゾアクメしちゃうぅうううぅうっ♥♥♥」

  そして精子を塗りつけるようにぐりぐりと内壁とシャチチ×ポに自分のそれを打ち付けてきた盾に全力で抱きつく。それは自らが盾のメス――オンナであることを示す屈服宣言でもあった。

  「おるかさ……も無理……っ! イきっ゛――」

  もはや胎内を破壊するのではないかと思われるほど強く腰をぶつける盾を両手両足で抱きしめ自らの一部とした織渦は、彼からの限界を告げる言葉を文字通り全身で受け止めた。

  「いいぜえっ♥ おまえのあつあつのチ×ポ汁っ♥♥♥ このおれの膣内にぃっ♥ どくどくそそいでくださいぃいいいっ♥♥♥」

  そして、悲鳴とともにその時は訪れる。

  「は……はぁああああっ!!!」

  ――どぴゅるるるるるるるっ!!!!

  ドクドクと注がれる盾の雄汁を受け止めた織渦の蜜壺は、今まで感じたことのないしびれを全身に行き渡らせる。下腹部から広がったそれは織渦の肉体を肥大化し硬直させ、彼の意識を完全にメスにする。

  「ひ、ひいいぃいいいいいぃ!!!!♥♥♥!」

  瞬間、迸る白濁。織渦は自身のオマ×コに盾の雄種の熱を感じ取った瞬間、頭のつま先から尾びれまで、全身を快感でピンと硬直させた。

  自分の大切なところが他人のものになる。今まで幾人もの雄を絶頂に導いてきた鯱の名器。何度もやってきたことのはずなのに、今回は圧倒的なまでに違っていた。

  膣内で小刻みに痙攣し、絶頂を迎えながらも未だドクドクと白濁を垂れ流している盾の雄。自らが心の底から魅了された相手に染め上げられた蜜壺は、もはや他のオスでは満足できないように作り変えられていた。

  彼の子種を受け入れ、一匹のメスとして生きるように、織渦は作り変えられてしまった。

  彼の魂に魅了された鯱は、相手の赤くなった背中に大きな手を当てながらこんなことを考えた。

  (いま……おれの中で盾の精子がびちびち跳ねてるんだ……♥ 屈服しちまった……ぁ♥ おれ……コイツ専用のマゾメスになっちまった……♥)

  そして、悩ましげな表情で浅い呼吸を繰り返していた盾を愛情たっぷりに抱きしめるとともに、こうも思った。

  (おれのヒーロー人生――終わった――)

  全身を襲う心地いい疲労感に身を任せ、織渦は肉体を浴室に横たわらせる。

  (でも……まぁいいか)

  彼の耳には、盾の安否を確認しに走るフラウの足音が聞こえていた。

  眠りに落ちていく織渦は、それを聞きながら靴紐を結ぶかのように決意を新たにする。

  ――盾は、おれのもんだ。

  八

  大浴場につながる引き戸を開けた瞬間鼻腔に飛び込んできた淫臭に、フラウは顔をしかめる。

  「うぐっ……! この……臭いは……!」

  だが超人の嗅覚がここで行われていた行為を克明に伝えてきていた。察知した瞬間に思うのは、盾の安全。ヒーローの、それも雫沢の人間に狙われて普通の人間が無事でいられるとは思えない。

  視界を遮る湯気をかき分けながら浴室に入り込む。フラウの服装は見るも無残なものだった。服の上下共々下着に至るまで能力使用の反動で完膚なきまでに破壊されてしまったので、全裸に四肢に手錠と言ったマニアックな格好になってしまっていた。

  「じゅ……盾ッ!」

  自分でも思った以上にびっくりするくらいには焦っている。クソ、おれがついていながら。おれがこの手で守ると誓ったのに。

  纏わりつくような濃厚な臭いに脳幹を刺激されながらも、フラウは断固たる思いで盾を助けに進む。

  そして浴場の中心あたりで織渦に覆いかぶさるように気絶している盾を、フラウはみつける。思わず駆け寄ったフラウは、盾を織渦から引き剥がしながら声をかけた。

  「盾ッ! 大丈夫か!? 盾ッ!?」

  抱き上げるとき、ごぽりという音が耳に入る。聞こえてきた方向を見ると、セミの死骸みたいにひっくり返った織渦と白いもので満たされた彼の陰部が目に入ってきた。

  それを目にした瞬間、フラウの内心に黒い炎が燃え上がった。

  盾の疲弊の仕方を見ても見なくても、織渦がメチャクチャなことをしたのだということがわかる。

  気絶した盾を汚れるのも気にせずそっと抱きしめてから、改めて織渦に向き直る。

  この無垢な英雄を汚そうとする織渦に対し、冷ややかな怒りが湧いてくる。そして同時にその怒りは、自分にも向けられていることにも気づく。

  どうして助けてやれなかったのか。こいつが見るべき、いるべき世界は、俺が居る闇の世界でも、織渦が居るような黄昏の世界でもないはずなのに。織渦の反感を買っているのは気づいていた。自分の甘さに反吐が出る。

  組織の猟犬として、忠実なしもべとしてフラウは生きてきた。なのに組織から離れると何もできない。危険からこいつを守ってやれない。おれは駒で、プレイヤーがいなければ動くこともできないのか。

  眼を見張るほどきれいな盾の裸体を視界に入れていると、それに触れていると、フラウは自分の顔がぼっと熱くなるのを感じる。

  おれはお前を守りたいのに――!

  気づけばフラウはとても感情的に盾を抱きしめていた。すると――

  「げほ……っ!」

  「ッ!? 盾ッ!?」

  慌てて体を離す。盾はその可愛らしい顔立ちを苦しげに歪めながら何度か咳を繰り返したあと、目を凝らしてこちらを見かえした。

  「あれ……フラウさ……痛っ」

  「盾! 無事か? どこか痛いところはないか?」

  「僕は一体何を――」

  フラウはその瞳を一瞬みつめてから、目を伏せた。自分の険しさが。うちに秘めたる武器たる所以が、盾の美しい瞳を壊してしまう気がしたから。

  「なにがあっても、絶対に――」

  「フラウさん……どうしてそんな悲しそうな顔をしてるんですか……?」

  おまえこそ、どうしておれなんかにそんな悲しそうな顔を向けるんだ。悪であり闇であるこのおれに。おまえがそんな顔をする世界なんてあってはいけないんだ。

  そんなことは絶対に間違いなんだ。

  だからおれは正義からも、悪からもお前の魂を守る。たとえどんな手を使っても。

  《データが一杯です。メモリーを変えるか、整理してください。》

  「フラウさん……?」

  未だ意識の朦朧としている盾の表情が、悲壮なものをみるような表情へと変わっていく。

  悲壮な決意を固めた虎の先には、限界を迎え動作を停止したビデオカメラがあった。

  

  つづく。

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