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[戦場のフーガ if]想い、溢れるのなら

  注意!

  この作品は戦場のフーガの二次創作です。

  原作、公式、その他関係者様とは一切関係がありません。

  ネタバレはありませんが、妊婦表現等がありますので、苦手な方はお読みになられないことを推奨致します。

  この作品はあくまでもif、もしもの出来事であり、有り得た可能性の一つとして展開しています。

  それでもよろしければ、どうぞ。

  [newpage]

  「よぉ、ハンナ…」

  「あらカイル、お元気?」

  晴れ渡ったプチ・モナ村の噴水広場。

  本当は家に籠ってたいが、天気も良いのになんとなく家に居続けるのもダメだよなと思い、散歩をした帰り。

  フラッと立ち寄ると、噴水から少し離れた所にあるベンチで、ハンナが休んでいた。

  「あぁ……隣、座ってもいいか?」

  「ええ、もちろんよ」

  了承を受け、ハンナが少し横にズレて出来たスペースに腰を下ろす。

  木製の簡素なベンチとはいえ、ハンナが座っていた温もりを僅かに感じて、なんとなく胸の鼓動が早まる。

  「それにしても、カイルが外を出歩くなんて珍しいわね?お散歩?」

  「あ、ああ…まぁ、そんなところ…」

  にこやかに疑問を投げかけるハンナに、オレは前屈みの姿勢で顔を地面に向けたまま、やや歯切れの悪い返事を返す。

  「ふふ…確かに今日はお天気が良いものね。私もたまには外に出ないと、って思ったし…」

  そう言いながら、ハンナは自身の大きくなったお腹を優しく摩る。

  その様子を横目で見ながら、オレは自分でもよく分からない複雑な気持ちで、彼女のお腹を見つめた。

  「…レディにこんな事を言うのもなんだが…お腹、だいぶ大きくなったな」

  「えぇ…たまにお腹を蹴ってくるぐらいだから、とっても元気に育ってくれてると思うわ」

  「…そっか」

  その返答に、笑えば良いのか悲しめば良いのかよく分からないまま視線を地面へと向けると、ハンナがこちらの顔を覗き込むようにしながら口を開いた。

  「カイル、大丈夫…?なんだか顔色が悪いわ…」

  「…そんな事、ないよ」

  ハンナの問い掛けに適当な返しをしながら表情を悟られまいと、少し顔を背ける。

  だがハンナの事だ。こう言っても、より心配するだけだろう。

  なら…

  「…そういえば、あいつは?」

  「え…?」

  「…アイツだよ、その…ハンナの…相手の…」

  「あいつ…?……あぁ!あの人の事ね!あの人がどうかしたの?」

  ハンナは、突然尋ねられてキョトンとして少し頭を捻ったあと閃いたように、ぱんっ、と両手を合わせた。

  「いや、別にどうしたって訳じゃないんだけどさ…その……えっと、その人が普段何してるのか、全然知らなくてさ」

  「そういえば確かに、あの人が普段カイルやマルト達のところに姿を見せる事って、あまり無いものね」

  「ああ…だから気になって、さ」

  ウソだ。そう思いながら両手を組み合わせて、前髪に出来るだけ隠れるように目を伏せる。

  本当は惚気話なんて聴きたくもない。

  とつぜん現れて、ハンナの心を奪っていった上に、もうすぐ結婚しよう、なんて言ってる奴の事なんか。

  そんなオレの気持ちはつゆ知らず、ハンナは空を見上げる様に顔を上げながら、やや声のトーンを上げて話し始める。

  「そうねぇ…あの人は普段、シェットランドのジンの工場で働いているわ。なんでも、力仕事が得意だし昔からそういうのをやってみたかったから、って」

  興味なんて無い。

  「そう、なんだ…でもシェットランドって遠いだろ?…家には、帰ってるのか?」

  ハンナを置いて、仕事に行ってる奴のことなんか。

  「ええ、毎日ちゃんと帰ってくるわ。…なんでも、"ハンナさんが迎えてくれるから僕は絶対帰るんだって思えるし、どんなに大変でも頑張れるんだよ"、って言ってくれるの…ふふ、なんだか照れちゃうわよね」

  「……あぁ」

  …どうして

  チラッと横目でハンナを見ると、ハンナはやや顔を赤らめながらも、まるでそこに当の本人がいるかのように嬉しそうな、それでいて恥ずかしそうな顔で笑っていた。

  その様子に、思わず歯をギュッと噛み締め、組んだままの手に力を込めながら目を閉じる。

  どうして、アイツなんだ。

  いきなりフラッと村に現れたかと思ったら、急にハンナと親しくなって。

  住む家がないからって、一緒に住み始めて。

  「…?カイル?」

  オレが先に居たはずなのに。

  もう少ししたら、ハンナの傍にはオレが居たかもしれないのに。

  マルト達の方が一緒に居た時間が長いとはいえ、ハンナの事はマルトにも、誰にも負けないくらい想って、考えて、ずっと一緒に居たはずなのに。

  どうして。

  今居ないアイツにその笑顔が向けられて。

  「…その顔が、俺に向けられることは無いんだ…!」

  「えっ?」

  「…なんでもない」

  瞼をゆっくり開く。

  力み過ぎて強ばった身体を休める様に、フゥ…と聞こえないように小さくため息を吐くと、ベンチから立ち上がった。

  「あら、もう行ってしまうの?」

  「…あぁ、ちょっと用事を思い出してさ」

  適当な口実で取り繕いながら、オレは立ち去ろうとする。

  「そうなのね…なら、私も帰ろうかしら?よいしょっ、と…」

  そう言ってゆっくりと立ち上がろうとするハンナ。

  だが、身重な事もあってか、動きがやや不安定だ。

  もし、そのまま倒れたりなんかしたら。

  もし、それでハンナに何かあったら。

  「あっ……ありがとう、カイル。妊婦さんになると、立ち上がるのも大変ね」

  気が付くと、ハンナの身体を支えるように手が伸びていた。

  「…仕方ないさ。大切な命なんだ、重くて当たり前だよ」

  「ふふ…それもそうね」

  思わず出てしまったクサい台詞にやっちまった、と思ったが、その言葉にハンナは優しい微笑みを浮かべた。

  まるで慈母のようなその表情にドキッ、とすると同時に胸が締め付けられる想いがして、思わず背を向けながら胸を抑える。

  「…ズリィよ、その顔…」

  「えっ?」

  「なんでもねぇっ…!」

  思わず言葉が出たのと同時に視界が歪むと、頬に何かが伝う。

  それが涙だと気付くと、オレはポケットのハンカチよりも、袖で目元を覆い涙を拭った。

  やや涙声になりながら呟いた言葉が聞こえなかったのか聞き返すハンナに、オレは泣きそうで歪みそうな口角を上げ、精一杯の笑みを浮かべて振り返る。

  「それより、家まで送るよ。ハンナ…と、お腹の子に何かあったらいけないし」

  「本当?…じゃあ、お願いしちゃおうかしら♪」

  「ああ、任せとけ」

  ハンナの言葉に力強く頷くと、ハンナは嬉しそうに微笑んだ。

  正直、まだ色々割り切れないし、納得もいかない事だって沢山ある。

  あいつとハンナの間に、一体何があったのか。

  誰か特定の人を好いていた訳では無いであろうハンナに、どうしてここまで惚れられたのか。

  分からない事だらけだけど。

  でも。

  この目で、ハンナの嬉しそうな笑顔が沢山見られるのなら。

  オレの何かが、ハンナを少しでも助けることが出来るのなら。

  そんな事、全部些細な事だ。

  「パレシア流の"紳士"のエスコートってヤツを、見せてやるよ」

  完

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